十時愛梨「それが、愛でしょう」
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23:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:01:48.50 ID:n4MKx+790
 思い返す。
 誰かから誕生日に贈り物を貰うことに経験がなかったわけじゃない。ただ、正直にいってしまうと、あの頃の僕は精神的に参っていた。
 期待の裏返しとはいえ、入社一年目にしてさっそく大きなプロジェクトに組み込まれて、右も左もわからないままアイドルを担当することになって。
 いつ失敗してもおかしくなかった。僕も、僕に関わる全ての人も、案件も、もちろん、愛梨自身も。そしてその責任はいつも自分の両肩にのしかかっている。これで気が狂わなかったことをいっそ褒めてほしいぐらいだといつも思って仕事をしていた。

「愛梨のおかげで、随分助けられたから」

 正直なところ、愛梨とのファーストコンタクトは、決して印象の良いものじゃなかったことは覚えている。
 いきなり現場に放り出されてアイドルのスカウトを任されて、私はあなたのスカウトを受けられないけれど、あなたの望んでいるアイドルのことを知っている、なんてよくわからない理由で断られたことに悩み続けていた矢先に飛び込んできた、オーディションの審査員という大役。
 あの時、自分の中でちゃんとした判断が出来ていたかどうかはわからない。テンパって夜も眠れなかったし、事前に贈られてきた最終選考に残った女の子たちのプロフィールや自己アピールも、穴が空くほどに何度も読み返していたつもりだ。いや、だから眠れなかったのだけれど。
 そんな状態で迎えたオーディションで果たして、愛梨の自己アピールがどうだったかといえば、確かに極めて強烈なものだったかもしれない。まず間違いなく審査員の印象には残る、だけど人によってはその場で怒り出しかねない。
 それぐらいに絶妙な綱渡りを、愛梨は最初から、きっと無意識にこなしていたのだろう。

 でも、正直自分から応募したんじゃなくて、友達が勝手に応募したというケースは何度か聞いたことがあるけど、オーディションでいきなり服を脱ぎ出そうとするアイドル候補生なんて見たことも聞いたこともなかった。
 だから、そこに動揺して採用通知を早まったところがないとはいえない。
 だけど、その判断に決して間違いはなかった。それだけは、自信を持って今も言える。

 ああ、そうだ。
 いつだって、いや、初めから、ひょっとしたら、生まれたときからずっと、愛梨は完璧にアイドルだったのかもしれない。


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