30: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:15:12.21 ID:BHjCA0Mo0
プロデューサーさんの表情から柔らかさが消える。俺が今まで見たことのない、真面目な仕事の顔になって話を始めた。
「我々はね、スターを育て上げることが大事だけど、もっと大事なことがあるんだ。それは、スターの才能を持つ子をスカウトすること。」
31: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:17:00.79 ID:BHjCA0Mo0
そう言うと、プロデューサーさんは柔和な表情に戻った。理由を聴きたいというのは本当の真剣な話で、でも俺が話しやすいように、一旦仕事モードをオフにしたんだと思う。はぁ...これは話さないわけにはいかないみたいだ。
「姉はずっと俺と母さんを守ってくれました。多分、いろんなものを犠牲にしたと思うんです。だけど、俺はそれを知らなくて、甘えてました。」
32: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:18:32.55 ID:BHjCA0Mo0
そんな俺の話を静かに全部聞いてくれた後、今度はプロデューサーさんが話を始めた。
「昔さ、俺は野球部のキャプテンになったことがあったんだよね。」
33: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:20:09.79 ID:BHjCA0Mo0
そこまで話して、プロデューサーさんは改めて俺にアイコンタクトを送り、一息つく。なんとなくその意図を理解する。どうやらこれから本題に入るらしい。
「君は志保みたいに『強くなりたい』と言った。確かに北沢志保は男性だけじゃなくて、女性にも憧れられるような本当に芯のある強い人だ。」
34: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:20:58.78 ID:BHjCA0Mo0
頭をぐちゃぐちゃにこんがらがらせていると、プロデューサーさんは腕時計を一瞥し、荷物を整理し始めた。
「悪い、そろそろ時間だから行くね。アイドルの話は一旦保留。志保に許可が取れたら、改めて相談しにきて。」
35: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:23:38.92 ID:BHjCA0Mo0
「隅子さん、最近来なくなったけど喧嘩でもした?」
マスターが心から心配そうに俺に尋ねる。いや、だからなんで俺と隅子さんがめちゃくちゃ親しい前提で話してくるのこの人?転勤とか引っ越しとかあったのかもしれないじゃん?まぁ、その前提は間違ってるのに、導かれた結論は正しいので、何も言わないことにするけど。
36: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:25:11.17 ID:BHjCA0Mo0
「すみませーん。」
入り口からお客さんの呼ぶ声がしたので、助かったと言わんばかりに早足でそちらに向かう。女性1名のお客様ですね、かしこまりました。
37: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:26:34.74 ID:BHjCA0Mo0
「お待たせしました。ホットコーヒーとパンケーキです」
カップとお皿をお客さんの目の前に並べると、パァァァァっという擬音が浮かぶくらい満面の笑顔になり、俺の方にその笑顔を向けて言った。
38: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:27:36.27 ID:BHjCA0Mo0
可奈さんの笑顔は、俺の記憶の中の笑顔と同じだった。俺が小さい頃、姉さんに連れられて何度か765プロシアターに行ったことがある。記憶の中の可奈さんは、いつも楽しそうに歌ってて、いつも笑顔で幸せを振りまいていた。
俺が一人で留守番できるようになったくらいから、シアターには遊びに行っていない。だから可奈さんに会うのは、かれこれもう10年ぶりくらいになるのだろうか?テレビで見てるから俺は今の可奈さんのことをわかるけど、可奈さんが俺を見るのはめちゃくちゃ久しぶりなはずだ。
39: ◆uYNNmHkuwIgM[sage saga]
2020/06/12(金) 22:29:04.90 ID:BHjCA0Mo0
マスターから休憩を許可してもらい、可奈さんの目の前に座る。裁判の被告ってこんな気持ちで法廷に立つのかな、なんてちょっと気後れしてしまう。
「隠し事は得意じゃないから、先に言うね。今日私は、志保ちゃんのお願いで来ました。」
66Res/58.05 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20