白雪千夜「私の魔法使い」
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43: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 20:16:12.25 ID:ldlfMP+C0
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 いかに蝋で固めた鳥の羽が本当に空を飛べたとしても、太陽を目指す気なんてさらさら起きなくなるような熱射の中、エアコンで車内をガンガンに冷やしながら待ち人の到着を待ちわびる。

「お嬢さま、もう少しです。あまり冷えてはいませんが飲み物も用意してありますから、どうかあと少しだけ」

「はぁ〜、しんどい……。灰になる……私が死んだら、その灰で綺麗な花を……咲かせてね」

「お断りします。ほら、中の冷えた大きなつづらまでもうすぐですよ」

 吸血鬼らしく普段から棺桶の話題が多いちとせを決して眠りにつかせまい、と千夜が必死に細腕を駆使して主の背中を押している。

 それにしても大きなつづらとは、確かに2人の衣装も運びはするが百鬼夜行は入っていない。他に車の中にあるとすればプロデューサーのみだ。

 ……ついに千夜から魑魅魍魎の類と認識され始めているのだろうか。千夜との距離はなかなかつかめないままだ。

「えっと、大丈夫か? 足元気を付けて、よし」

 車を降りてちとせを後部座席に乗せるのを手伝い、運転席へと戻る。
 千夜はちとせに現場で用意されていただろう、ミネラルウォーターのペットボトルを持たせてから助手席へと乗り込んだ。

「……温度はこれぐらいで、出力を下げましょう。それよりお前、エアコンから流れる空気が埃っぽいぞ。あれほどメンテナンスしておけと……」

「う、ごめんなさい……窓開ける?」

「これぐらいなんてことないから、開けないで〜。溶けちゃうよ……」

 暑さの方が堪えるらしく、既にぬるくなっているだろう千夜から渡されたペットボトルを、それでも首筋に当てて涼もうとしていた。

 次の現場までには回復することを願い、シートベルトを締めてまだ感触の思い出せないハンドルを握る。事務所の車を借りるのはいつ以来だったか。

「安全運転で頼みますよ」

「わかってるって」

「……安全運転だぞ?」

「いや、久し振りなもので、ははは……」

 動作の手際が悪いのを察したのか、千夜に運転技術を不安がられてしまう。
 出来れば運転中は話しかけないでもらおう。何かあってからでは遅い。

 今日のスケジュールは2人には先に現地入りしてもらい、そこから次の現場へ車で送り迎える手筈となっていた。華々しいスタートを切った2人を売り込むため、世間が夏休みなのも相まって忙しい日々を送っている。

 体調がさらに上向き加減となっていたちとせも、さすがにバテてきていた。
 千夜も顔には出さないが家事や主人の世話もこなしており、負担はちとせ以上だ。どうにか休める時に休ませてやりたい。

「……」

「……」

「はぁ……」

 アクセルを踏みだしてから、無言になる。たまに漏れ聞こえるちとせの吐息が妙に車内で響き続けていた。



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