25:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:45:33.14 ID:PR8wYl2Go
「唯ちゃん、梓ちゃんと会えるのをすごく楽しみにしてたもの。久しぶりにあずにゃんに会える! って事あるごとに言ってたのよ」
「……どうせ、ひっつく相手がいなくて寂しがってただけですよ」
「うふふ、そうね」
そう言うと、雑踏の前から唯先輩の呼ぶ声が聞こえました。
26:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:47:40.71 ID:PR8wYl2Go
「あずにゃんムギちゃん、人で溢れちゃってるよー……」
唯先輩が退いてきた先では、隙間も無いほどの人の群れ。ちょうど近くで神輿の掛け声が聞こえるので、きっとそのせいでごった返してしまっているのでしょう。
「これを抜けるのは大変そうね……」
人混みを一目見て、ムギ先輩はそう呟きました。
「う……」
27:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:51:01.29 ID:PR8wYl2Go
あーずーにゃん」
ふわっと、手に温もりが重なったような気がして、見ると唯先輩が、私の右手をすっぽりと包んでいました。
「これならはぐれないかなぁ、って思って……。ダメだったかな」
そう言って唯先輩ははにかむように笑いました。さっきの不安なんて霞にしてしまうような、優しい、照れくさそうな笑顔。固まった身体が徐々にほぐれていく気がしました。
28:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:53:02.78 ID:PR8wYl2Go
「……私と会いたがってた、って聞きましたから。特別です」
そう言って、より一層手を握る力を強めました。
「えへへ、ありがとあずにゃん。あずにゃんは優しいね」
「……優しいもんですか」
「優しいよ〜っ」
29:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:53:39.03 ID:PR8wYl2Go
「ふぅ、どうにか抜け出せましたね」
「はぐれなくて良かったぁ……。でもムギちゃん、ごめんね、繋ぐ手の余りがなくって」
「大丈夫よ。私には百合の磁力があるもの。二人とは絶対に離れないわ」
「? 綺麗な磁力だねぇ」
人混みを脱した直後だと言うのに、ムギ先輩の呼吸も表情も、一切崩れていませんでした。
30:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:54:11.90 ID:PR8wYl2Go
「あっ、ムギ〜! 唯と梓も!」
一息ついた所で景色が開けると、偶然にも、眼前に律先輩が現れました。
「なんだ、結局放課後ティータイムは一つに集まる運命なんだな」
「運命だなんてっ……。りっちゃんロマンティック〜」
「はは、澪の癖があたしにも移っちゃったみたい……」
31:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:55:39.28 ID:PR8wYl2Go
「そういえば澪ちゃんは?」
「あぁ、澪なら……」
そこで言葉を切り、後ろの方を指さします。澪先輩は、屋台をじっと睨んだまま、何かを投げるようなポージングで固まっていました。実際何かを手に持っているようで、それは……
「あれ、輪投げですか?」
「そっ。だるま落としの方が簡単だって言ったのに、だるまが落ちんのは演技が悪いって聞かなくて」
32:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:56:46.99 ID:PR8wYl2Go
そう言ってる内に、澪先輩がさっと手首をスナップさせました。輪っかは手を離れ、屋台の陰に隠れその所在は知れぬ所となりましたが、澪先輩の強張った表情が解けたと思うと次にはがっくりとうなだれて、
「外したな」
「外したね」
「そんなに欲しい物があったのかしら」
「財布と電話を出さないでくださいムギ先輩」
33:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:58:01.42 ID:PR8wYl2Go
「律ぅ……輪っかは完全に入ってなくちゃダメだってぇ……」
「あー、私もそれで神のカード貰えなかったなぁ」
帰って来た澪先輩は、律先輩の肩にしがみついてそうぼやきます。一方の律先輩はそんな澪先輩の頭を優しく叩いてあげていて……あれ、あれ。
「あの二人、あんなに距離近かったですっけ……」
「……隠すつもりもないみたいだし、もう言った方がいいよね」
34:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:59:22.09 ID:PR8wYl2Go
「もうすぐ花火だって! 折角だから五人で見ようぜ!」
澪のお礼参りと行くか〜! という鶴の一声で始まった屋台巡りも一通り堪能した後、またまた律先輩の鶴の一声で、花火の見える場所まで移動することになりました。前列の唯先輩達の会話を手持ちぶさたに聞いていたら、
「ぶつ、ぶつ……」
「み、澪先輩……?」
一緒に後ろを歩いていた澪先輩が心なしか、いや明らかにどんよりした様相で歩いていました。
35:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:01:31.14 ID:PR8wYl2Go
「あぁ、梓。いや、皆とこうしてまた集まれたのは嬉しいんだけど、今年こそ律と二人で夏祭りに行こうって意気込んでたから、ちょっと複雑な気持ちで……」
苦笑いをする澪先輩の気持ちが何となく分かるような気がしました。それと同時に、とても意外な気がしました。
私の知る澪先輩は、こうやって心にひっかかるような、何となく分かる微妙な気持ちを、自然な会話の流れで口に出来るような人ではなかったはずです。
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