90: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:49:07.53 ID:eH8hmcZZo
このみは鳴り止まない鼓動を左手で感じながら、その印に自身の足を合わせた。
その場所は、何時でも背中を支えていてくれるような、不思議な心地良さがあった。
このみは目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。
物音一つ聞こえないほどの静けさの中で、このみの身体には自身の呼吸音と鼓動だけが響いていた。
91: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:49:45.92 ID:eH8hmcZZo
刹那、音のなかったこの世界は、耳を貫き肌を震わるほどの音と歓声とが飛び交うステージへと姿を変えた。
焦がれるほどに眩しいステージライトに包まれて、このみも、劇場の仲間たちも、ステージに立っていた。
たった一瞬、瞬きほどの間にこのみが垣間見た景色は、劇場の仲間たち越しに見えた虹色の光たちだった。
熱気は渦を巻いて、また新たな熱になってステージから飛び出していく。
92: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:50:11.63 ID:eH8hmcZZo
気がつくと、世界は元の姿に戻っていた。
先ほどと変わらず、ステージライトは今は点いていないし、客席には誰もいない。
この舞台に立っているのはやはりこのみだけであった。
93: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:51:48.33 ID:eH8hmcZZo
しかし、そうであったとしても、見えた景色は本物だったと、このみは確信していた。
あのダンスも、あのライティングも、あの歓声も。
あの景色は、数えきれないほど歌い続けてきた、『Thank You!』の景色なんだ、と。
94: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:52:24.42 ID:eH8hmcZZo
『ミリオンスターズ』の私も、『アイドル馬場このみ』の私も、始まりは虹色の景色からだった。
虹色から始まって、その中にあった『私の色』が、アイドル馬場このみの、暖かな桃色の景色なんだ。
「そっか……。」
95: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:52:53.37 ID:eH8hmcZZo
このみは胸が熱くなるのを感じながら、誰もいない客席を見ていた。
物音一つさえない、息を飲むような静けさの中で、一階席も二階席も、一番前から後ろまでを見回した。
公演では、前の曲が終わって舞台が暗転した後、その歓声がまだ残るうちから次曲の歌い手は立ち位置にスタンバイする。
96: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:53:20.79 ID:eH8hmcZZo
『きっと、この場所なら大丈夫。』
このみは、もう一度両腕を胸に抱き寄せた。
折れそうになった数だけ出会えた『これまで』を。
何よりも愛おしい、かけがえのない『今』を。
97: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/26(土) 19:32:36.71 ID:ZIFRcwBno
>>53 >>56 >>58
×すばるん
○昴くん
98: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/11/17(日) 22:32:31.20 ID:1EiPKTBf0
それから少しして、スポットライトを見上げていたこのみの耳に、
突然何かがぶつかった様な大きな物音が舞台袖の奥から聞こえてきた。
このみは咄嗟にその音のした方を向いたが、そこにいた人影を見つけて、
ようやくそれが出入口の扉が勢いよく開いた音だと気がついた。
99: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/11/17(日) 22:33:05.58 ID:1EiPKTBf0
そこには、亜美、真美、昴、環の4人がいた。
慌ててこのみは時間を確認したが、もう既にあれから随分と時間が経ってしまっていた。
このみは、ああ、しまった、と頭を抱えた。
成り行きで始まったとはいえ、隠れんぼの鬼を任されていたはずなのだ。
100: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/11/17(日) 22:34:27.82 ID:1EiPKTBf0
「え、えっと……。」
駆け寄ってくる4人に何を言うべきなのか分からず、このみは言葉が詰まってでてこなかった。
しかしそんなこのみの様子をよそにして、真美は大きな足音とともに舞台を駆け、このみの前に飛び込んできた。
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