【ミリマス】馬場このみ『衣手にふる』
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80: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:39:03.90 ID:eH8hmcZZo

扉を開ける前から微かに感じていた予感も、そうであると告げていた。
このみは息を呑み、左手に持っていた資料の束を見つめ、ゆっくりとめくっていった。

あの子もまた、自分の住む世界とは違う世界に出会ってしまったんだった。
以下略 AAS



81: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:39:31.13 ID:eH8hmcZZo

『あの子は、深い雪が降り積もる山の奥深くで暮らしてた。もともと人間と出会うことさえなかったはずだった。』

それでも、あの時舞台裏から見た景色が暖かくて、背中を押されて。私はアイドルの世界へ飛び込んだのよね。

以下略 AAS



82: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:40:20.34 ID:eH8hmcZZo

初めて舞台に立ったときはまだ、お客さんたちは誰も新人の私のことを知らなくて。

『本当の姿を隠して、言えない言葉を抱えて押し掛けたあの子を、それでも青年は受け入れてくれた。』

以下略 AAS



83: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:40:47.31 ID:eH8hmcZZo

このみは手に持っていた資料を、ぎゅっと、胸に抱き寄せた。

「……この子は、私、なんだ……。」

以下略 AAS



84: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:41:59.68 ID:eH8hmcZZo

気づいてほしいけど、見つけてもらえているかなんて分からなくて。
誰かに届かないことは、消えてしまうよりも辛いことだ。
もしそうであるならば、例えもう会えなくなってしまうとしても、本当の自分を知ってほしい。見てほしい。
2度と会えなくなってしまったとしても、繋がりが消えてしまう訳ではないのだから。そう、信じたいから。
以下略 AAS



85: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:42:35.94 ID:eH8hmcZZo

資料が濡れてしまわないようにと、このみは目尻を指で拭った。
このみがしばらくしてゆっくりと目を開けた時には、その瞳は真っ直ぐ前を向いていた。

あの時出会わなければ、誰かを好きになる、こんな気持ちを貰うこともなかったんだ。
以下略 AAS



86: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:46:57.45 ID:eH8hmcZZo

「……私は、この子の願いを叶えてあげられるのかな。」

このみは、ひとり舞台の上でぽつりと呟いた。
しばらくの間腕の中に抱いた資料の表紙を見ていたこのみであったが、それからゆっくりと目の前の客席を見た。
以下略 AAS



87: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:47:27.26 ID:eH8hmcZZo

目の前の誰もいない客席たちは、残酷なほどに静まり返っていた。
このみの抱えた腕はいつの間にか震えていて、触れる手のひらは自然と腕を抱き寄せていた。
気が付けばこのみは図らずも目線を切っていて、自身のその縮こまる腕に目を向けてしまっていた。
はたと我に返った時には、その不甲斐なさに溜息さえ出てしまいそうだった。


88: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:48:06.16 ID:eH8hmcZZo

ところが、その時下を向いた目線の先、
舞台の床面に付けられた小さな印がこのみの目に映ったとき、このみの鼓動が確かに音を立てた。
それは、ステージ上で立ち位置を確認する為にT字に貼られた、なんの変哲も無いテープによる印でしかないはずだった。
裏腹に少しずつ早くなっていく鼓動は、緊張でも、焦りによるものでもないと、このみにははっきりと分かった。
以下略 AAS



89: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:48:34.41 ID:eH8hmcZZo

このみは、その鼓動に導かれるようにして、一歩、また一歩と、舞台上の段を登り、等間隔に並べられた印を辿っていった。
そして、ある一つの印の前でこのみの足が止まった。
先程より少し上手側の、一番後ろの列。

以下略 AAS



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