311: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:29:54.04 ID:Bg3Eqo0s0
このみの言葉を聞いて、桃子は照れくさそうにしながら、それを隠すみたいにタオルで頬の汗を拭いた。
「桃子も、このみさんと歌えて楽しかったよ。……これからもまた、沢山歌いたいな。」
312: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:30:28.22 ID:Bg3Eqo0s0
このみは、プロデューサーと共に、上手側の舞台袖に居た。
この場所からは、袖幕の向こう側に、ステージがよく見えた。
隣に居た彼が、このみの手を握って、そっとあるものを手渡した。
それは、一つのブローチだった。
313: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:31:17.95 ID:Bg3Eqo0s0
手で陰を作ると、その玉はもとの色を取りもどした。
それは、何色にも染まっていない、どこまでも透明なガラス玉だった。
それから、このみはその何の変哲もないガラス玉にそっと指先で触れた。
指先の感覚は今までと変わらず同じままで、ただ愛おしかった。
314: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:31:45.42 ID:Bg3Eqo0s0
「このみさん。ブローチを着けてみてくれますか?」
ブローチは、衣装に穴が開いたりしないように、クリップで着けられるようになっている。
このみは左胸に手をやって、衣装の生地の境目にある隙間に、そっと留めた。
315: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:32:11.65 ID:Bg3Eqo0s0
次のこのみの出番が、近づいていた。
このみは、また後でね、と彼に手を振って、待機場所へと向かった。
待機場所は、下手側と同じように、衝立と幕で簡単に区切られていて、長机と椅子が所狭しと並んでいた。
316: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:32:42.91 ID:Bg3Eqo0s0
辺りが暗転するとともに、このみはステージへと飛び出していった。
客席には、前の曲の余韻が残っていて、青いサイリウムの色が海みたいにきれいだった。
このみは、ステージの真ん中で足を止めた。
317: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:33:22.69 ID:Bg3Eqo0s0
『ねぇ、甘えてみてもいい?
この恋が本当だと伝えてみたいの』
たくさんの温かなステージライトが、このみを照らした。
318: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:34:07.78 ID:Bg3Eqo0s0
初めて触れたあの日から、冬を超えて、季節はまた一つ巡っていく。
袖に降り積もった雪はいつしか融けて、その雫はやがて、温かなこの場所で、ひとつの蕾となった。
『いつの日か、花芽吹く春の日を、待っている』
──春の足音が、聞こえた気がした。
319: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:49:16.35 ID:Bg3Eqo0s0
以上になります。
ここまで読んでくださった方の中には、このSSが「白き鶴の如く 馬場このみ」の物語だと気づいてくださった方もいるかもしれません。
作中では、カードが実装された2019年2月11日までの日々と、それから少し未来、2019年3月中旬が舞台となります。
320: ◆NdBxVzEDf6[sage]
2020/06/12(金) 02:35:39.47 ID:oyXVuVPy0
あのSSRのバックになる感じの話か。いいね
完結乙です
馬場このみ(24) Da/An
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