313: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 01:31:17.95 ID:Bg3Eqo0s0
手で陰を作ると、その玉はもとの色を取りもどした。
それは、何色にも染まっていない、どこまでも透明なガラス玉だった。
それから、このみはその何の変哲もないガラス玉にそっと指先で触れた。
指先の感覚は今までと変わらず同じままで、ただ愛おしかった。
このガラス玉は、このみがステージ衣装としてずっと昔から身につけていた、ブレスレットに付いていたものだ。
以前使っていたそのブレスレットは、装飾を固定する留め具の部分が内側で折れてしまっていたらしかった。
常にダンスで体を大きく動かすステージの上で、いつ装飾が外れてしまうか分からないアクセサリを着けるわけにはいかない。
詰まるところ、そのブレスレットとはもう、お別れだった。
このみは、先のセンター公演が終演した後、気づけばブレスレットを握って、駆けだしていた。
美咲とプロデューサーのもとへ、息を切らして走った。
手放してしまう事なんて、できなかった。
今このみが手にしているブローチは、そのブレスレットの装飾から、美咲が手作りしたものだった。
アクセサリのハンドメイドは不慣れだと美咲は言っていたが、実際に完成したものを見て本当に驚いたのを、このみは覚えている。
まるでずっと前から持っていたみたいに、手に良く馴染んだ。
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