185: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:01:55.24 ID:9DhA16vx0
以前の自分では気づかなかったことが沢山あって、今の自分だから分かったことがある。
『私はひとりじゃない』。
186: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:02:46.13 ID:9DhA16vx0
不安を抱えたままこの世界に飛び込んで、たった一筋の光に出会えた日のことを今でも鮮明に覚えている。
輝いた舞台に立てるのならば、あの景色をもう一度見れるのならばと、どれだけ苦しくても諦めずにいられた。
少しずつでも進んでこられたのは、あの抱いた憧れが胸の中にあったからだった。
187: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:05:29.73 ID:9DhA16vx0
「──私に色んなものをくれた、大切な人たちに。
あなたに出会えて良かった、って伝えたい。」
「私が、『アイドル』馬場このみとして最高に輝く姿を見てほしい。
188: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:07:04.45 ID:9DhA16vx0
彼は、このみの手を握っていた両手を、そっと離した。
その表情は、先ほどよりもずっと落ち着いていた。
「……俺なんかよりも、このみさんの方が人生経験はずっと多いと思います。
189: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:07:47.53 ID:9DhA16vx0
彼の言葉を咀嚼しながら、このみは考えていた。
このみは経験から分かっていた。
自身のそういう性質、この『悪い癖』は、一生付き合っていかなければならないものだと。
ある程度は変わることはできても、それ自体を無くすことは出来ないだろう、と。
190: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:09:15.88 ID:9DhA16vx0
「だから、このみさんがアイドルを辞めるときは、
きっとここじゃ叶えられない願いを見つけたときなんだと思います。
でも、その願いもきっと、みんな応援してくれます。
それは、大切な人の──あなたの夢だから。」
191: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:12:50.31 ID:9DhA16vx0
「──でも、いいの。」
アイドルを辞めた先を想像出来ないのは、
きっと『アイドル』として叶えたい夢が目の前にあるからなんだ、とこのみは思った。
192: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:13:55.06 ID:9DhA16vx0
息を吐いてから、このみはゆっくりと口を開いた。
「やっぱり、ファンのみんなに会えなくなっちゃう、っていうのは寂しいけど……。」
193: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:14:26.48 ID:9DhA16vx0
だからこのみは、笑ってこう言った。
「プロデューサー。けど、心配しないでね。
この演劇のお仕事は、私が自分でやると決めたことだから。
194: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:15:39.55 ID:9DhA16vx0
彼は、少しだけ逡巡した様子だった。
深く息をしてから、彼はつぶやくように言った。
「……やっぱりファン側も、寂しいんです。このみさんと会えなくなるのは。」
195: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/05/08(金) 22:16:08.52 ID:9DhA16vx0
「……でも。」
張りつめそうになった空気のなか、彼はそう言った。
その声を聞いて、このみは顔を上げた。
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