【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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43: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:18:43.84 ID:/MDiOILR0
「そういえば、はぁとさんも報告があるって言ってましたよね?」
美穂ちゃんがはぁとさんにそう言うのと同時に、プロデューサーさんがはぁとさんを見た。私は部屋の中に緊張が走ったような気がした。
「そう、実はー、はぁと、自分でお仕事ゲットしたんだぞ☆ 褒めて褒めて? ほらぁ、プロデューサー☆」
「えっ?」
美穂ちゃんが驚きの声をあげる。マキノちゃんもはぁとさんの方に注目した。プロデューサーさんは、目を見開いてはぁとさんを見た。
「……佐藤さん、それは、どういうことですか?」
プロデューサーさんの、普段より少し低い声が響いた。
「やぁん、怖い顔すんな☆ いま言った通りだぞ、プロデューサー☆ はぁとが有能だからって☆」
そう言って、はぁとさんはホチキスで綴じられた書類を机の上に置いた。きっと、はぁとさんが取って来たお仕事の企画書だろうと私は思った。
プロデューサーさんははぁとさんの席の前までやってくると、書類を取る。それを読んで――プロデューサーさんの表情が一変した。
それは、今まで一度も見せたことがないくらい、険しい表情だった。
「――いけない」プロデューサーさんは机の上の帽子を取る。「すみませんが、すこし外します。大沼さんが間もなく到着されるでしょうが、皆さんはそのまま待機していてください!」
そう言って、プロデューサーさんははぁとさんの書類を片手に、そのまま事務室から飛び出して行ってしまった。
「……は? ちょっ、プロ……!」
はぁとさんの声は、閉じられた事務室の扉にぶつかり、遮られた。
「なんっなんだよ!?」
はぁとさんが困惑した声で吐き捨てるように言った。
「……わからないわね」マキノちゃんが閉じた扉を見て言う。「私たちの契約条項では、他のプロダクションとの重複所属は認められていないけれど、個人での活動は妨げられていない。あんなに焦る必要があるのかしら」
「そう、そーだろ、マキノちゃん! はぁと、おかしいことしてないっしょ!?」
はぁとさんは叫ぶような声で言う。
「でも、じゃあプロデューサーさんは、どうしてはぁとさんのお仕事の書類を見て、あんな表情を……?」
私が疑問を言うと、マキノちゃんは頷く。
「はぁとさん、そのお仕事の書類、まだあるかしら」
「えっ? うん、コピーなら」
はぁとさんはバッグから書類をもう一部取り出す。マキノちゃんはそれを受け取ると、時間をかけて真剣な目でそれを読んだ。
「……特に、問題のある内容には思えないわね。ユニット活動の面でも、プラスにこそなれ、マイナスにはならないと思うけれど」
マキノちゃんは書類を長机に戻す。私と美穂ちゃんもそれを読んだけれど、特におかしなところはないように思えた。
「あのぉ、おはようございましゅ……」
くるみちゃんが部屋に入ってくる。
「あ、おはよう、くるみちゃん!」
言いながら、私は立ち上がり――流し台のほうを見て、思い出す。
「いっけない、お茶!」
私はくるみちゃんに椅子を勧めてから、流し台に置いたままの急須の蓋をあける。急須の中のお茶は、時間が経ちすぎて渋そうな深緑色になってしまっていた。棄てたほうがいいか悩みながら、私はひとまずひと口だけ味見してみようと、自分の分の湯のみを取る。せっかくお湯で温めた湯のみは、すっかり冷えてしまっていた。
出過ぎたお茶は、やっぱりとっても渋くて、飲めないほどじゃないけれど、いつもプロデューサーさんが淹れてくれる美味しいお茶を知ってしまっては、飲もうとは思えなかった。
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