【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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42: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/16(日) 22:16:40.89 ID:/MDiOILR0
5.Gloriosa
プロデューサーさんを通さずに、はぁとさんはお仕事を見つけてきたと言った。
「来週打ち合わせでー、ネット配信ラジオ番組のコーナーのアシスタント☆ はぁと、ぜーったいここでディレクターにイイとこ見せて、先のお仕事に繋げっぞ!」
そう言って、はぁとさんは机に置いたペットボトルのお茶を飲む。
「そう、なんですか」
私は曖昧な返事をして、椅子に座った。
春に私たちが集められてから、はぁとさんはずっとこの部屋で、アイドルの仕事とは言えないような事務仕事を続けていた。レッスンも毎回、最も厳しいと言われるトレーナーさんとのマンツーマンレッスンのみだった。
そんな状況だから、はぁとさんが『干されていない』と言えるのか、と問われると、それは私も自信をもってそうだとは答えられそうにない。
けれど――けれど、プロデューサーさんが、はぁとさんだけに冷たくするような人だとは思えない。プロデューサーさんの真意が見えないから、私は黙っているしかできなかった。
「そういや、夕美ちゃんもなんだか機嫌よさそうじゃなかった? なんかいいことあった? ほらほらぁ、はぁとに言ってみ? 言ってみ?」
「あ、そうなんです!」私は思い出し、胸の前で手を打つ。「この前のくるみちゃんの初仕事、くるみちゃんがとっても頑張ってて大成功だったので――」
それから私は、くるみちゃんの初めてのお仕事の様子を話した。
「なるほどなー、はぁあ、はぁとも負けてらんねーなー」
大きく伸びをしながら、ため息交じりにはぁとさんは言ったけれど、はぁとさんは私の話を聞いているあいだずっと嬉しそうにしてくれていたし、今の言葉の声色もとっても明るかった。
お仕事がもらえなくても、自分で前に進もうとするはぁとさんはすごい。
それは、私のシンプルな感想だった。
「おはようございまーす!」
「おはよう」
事務室の扉が開いて、学校の制服姿の美穂ちゃんとマキノちゃんが入って来た。
「おっつー☆ 今日もスウィーティー☆」
「あ、おはよう!」
私は立ち上がり、部屋の端の流し台で電気ケトルにお水を汲んで、電源を入れた。プロデューサーさんが来る前にお湯を沸かしておけば、プロデューサーさんが来たとき、すぐにお茶を淹れてくれて、スムーズに打ち合わせに入れる。
「夕美ちゃぁん、プロデューサーが来る前に、二人にもさっきの話、してやれしてやれー」
はぁとさんが私の背中に声をかける。
「えっ、でもはぁとさんには同じ話になっちゃいますよ?」
「スウィーティーな話は何度したっていいもんだぞ☆」
「なにか、いいことがあったんですか?」
美穂ちゃんがコートを壁のハンガーにかけながら尋ねる。
「あったあった、はぁとも報告あるけどー、夕美ちゃん、お先どうぞ☆」
はぁとさんは嬉しそうに笑う。きっと、はぁとさんも自分の話がしたいんだろう。
「それじゃあ……あのね、この前のくるみちゃんの初めてのお仕事で――」
私はもう一度、同じ話を始めた。
そうして、私の二度目の話が終わった直後、はぁとさんが自分の話を始める前のことだった。
「おはようございます……ああ、お湯を沸かしてくれていたんですね。ありがとうございます」
プロデューサーさんが入ってきた。いつものようにハットを取って机に置き、みんなの分のお茶の準備を始める。
「あれ?」
いつもとちょっと違う光景に、私は声をあげた。
いつもは私たち四人とプロデューサー、合わせて五つの湯のみがお盆に用意されるけれど、今日はひとつ多い、全部で六つの湯のみが置かれている。
「ああ、このあと、今日の打ち合わせには大沼さんも参加していただきます」
「くるみちゃんも?」
美穂ちゃんが意外そうな声をあげる。
「ええ、今日は皆さん五人全員にお伝えしておきたいことがありますので」
言いながら、プロデューサーは湯のみに注いだお湯を急須へ移す。
「そっかー、じゃあくるみちゃんが来るまでははぁとの話もお預けかなー」
はぁとさんはわざとプロデューサーさんに聞かせるみたいに言った。
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