【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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28: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/10(月) 22:08:30.42 ID:Wp4M41Qe0
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そうして、美城プロダクション、サマーフェスの当日がやってきた。
私はくるみちゃんを引率して、開演前に舞台裏でくるみちゃんに舞台の説明をする。
初めて見る舞台裏が珍しいのか、くるみちゃんは口をあけたまま、目を輝かせてあちこちを見ていた。
「舞台への入り口は、こっちが下手、あっちが上手っていうの。それから、今日のステージは階段をのぼったバルコニーも、アイドルの入場口になってるよ」
「ふぇえ……しゅごい……ひとの、こえ……?」
すでに開場時間は過ぎているから、舞台の向こう、客席からは、BGMとして会場に流れているアイドルの楽曲と、開演を待つ熱気が伝わってくる。
舞台に立たない私も、あてられてしまいそうなくらい、もう、熱い。
「お客さん、もうたくさん入ってるんだ。いつか、私たちも舞台に立てると……ううん、絶対立とうねっ!」
私が言うと、くるみちゃんは不安そうな顔をする。
「くるみ……だいじょうぶかなぁ……なれるかなぁ、アイドル……」
「なれるよ。美穂ちゃんが言ってたよね。私も、くるみちゃんならアイドルになれると思う」
「……がんばりゅ……」
くるみちゃんは唇をきゅっと結んで、頷いた。それから、あちらこちらにいるスーツやスタッフTシャツ姿の人たちを眺める。
「あのぅ……きょうは、ぷろでゅーしゃーは……?」
「プロデューサーさんは、今日はほかのお仕事があるみたいだから、みんなの活躍はあとでビデオで観るんだって」
私はプロデューサーさんから聞かされていたことをくるみちゃんに伝える。
プロデューサーさんは、私たちが仕事をする現場にはほとんど……いや、全くといっていいほど来てくれてはいなかった。ほかのユニットメンバーの皆から話を聞いても、地方のごくごく小さな、イベントコンパニオンみたいな仕事にちょっと顔を出してくれた程度。
もちろん、すべての仕事にプロデューサーが付いて行くわけじゃないけれど、こういう大きな社をあげてのお仕事には、マスコミ関係者も多く来るから、担当アイドルを売りこむためにも、プロデューサーさん自身の名を売りこむためにも、来ているのが普通。
「なんていうか……色々変わったプロデューサーさんだよね」
私はぽつりとつぶやいたけれど、くるみちゃんにとってはそもそも初めてのプロデューサーさんだから、変わっているかどうかわからないみたい。くるみちゃんは不思議そうに首をかしげていた。
「夕美ちゃん! くるみちゃん!」ステージ衣装姿の美穂ちゃんが楽屋口から舞台裏へと入って来た。「来てくれたんだ!」
「美穂ちゃん、今日はがんばってね!」
「あの、美穂さん、がんばってぇ……」
「ありがとう! えへへ。私、けっこう緊張しちゃってて……先に舞台裏でイメージトレーニングしようと思ってたんです。二人に会えてよかった!」
「初めてのライブだもん、仕方ないよ」
美穂ちゃんは、今日が初めてのライブのお仕事だった。でも、私もみんなも、美穂ちゃんは大丈夫だって知っている。
そう確信できるくらい、美穂ちゃんは今日のために頑張っていたから。
「美穂ちゃんは、どこから入場なの?」
「私はバルコニーからです。お客さんから見て右から二つ目のゲートで、城ヶ崎美嘉さんのバックとして、日野茜ちゃんと一緒に入場です」
「そっか、じゃあ、入場のときは美穂ちゃんを見てるね!」
「はい、うう……」美穂ちゃんは困り顔でもじもじする。「やっぱり、舞台裏に来ても、緊張しちゃいますね……」
それを聞いた私はくるみちゃんに目配せした。くるみちゃんははっとした様子で、ポケットからハンカチを取り出す。
「あ、あの……美穂さんに、プレゼントぉ……おまじない?」
くるみちゃんは、美穂ちゃんの前でハンカチをぱたぱたと振る。
「えっ……?」美穂ちゃんは不思議そうな顔をしていたけれど、すぐになにかに気づいたみたいに目を見開いた。「あっ、いい匂い! 香水かな?」
「えへへ、夕美さんに、やってもらったの……」
「くるみちゃんのハンカチに、カモミールの香水を振ったんだ。落ち着けるといいなって」
「ありがとう、くるみちゃん、夕美さん……うん、ちょっと落ち着けました!」
美穂ちゃんは胸に手をあてて、ほうっと息をついた。
「そろそろ、みんなも集合かな? 私たちは、関係者席から見てるね?」
「はいっ! 怖いけど、いっぱい練習した私を信じます!」
「あの、がんばってぇ……!」
私とくるみちゃんは、美穂ちゃんと固い握手を交わして、舞台裏を出て関係者席へと向かった。
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