6:名無しNIPPER[sage saga]
2018/08/24(金) 01:13:18.99 ID:8pRhN5eX0
何回繰り返したろう。
隣に眠るのはキャンバスの束。
何度も描いてみるけれど、納得のいくできにならない。
頭に描きたいものは確かにあっても、表現する術を私は知らないんだ。だから、思い通りのものを作れない。
荒木さんは笑顔でじっと待っていてくれている。
ディレクターさんは足を揺らしている。
何とか、終わらせないと。
描ける。描けるはず。
私は逃げ出してアイドルになったんじゃない。
変わるためになったんだ。
アイドルになってまだ私は間もないけれど、たくさんのことを経験した。色んな人や仕事に関わって、私の狭かった世界を押し広げてくれた。
私なりの色はまだ見つからないけれど。
私なりの全力は出せるはず。
お祖父ちゃんに言った言葉。『私、変わってみせるから』。
変わらなきゃ。今、ここで!
アイドルとしての私、藤原肇の本気を!
「……できました」
何時間経ったのかわからない。
「どれどれ」
荒木さんはじっくり見てくれた。
「……素晴らしいっスよ、肇ちゃん」
「……! 本当ですか!?」
「嘘なんてつかないっスよ。完成された色合いで。水槽の世界を描ききってるっス。これには脱帽っスね」
「それでは……!」
「合格っス。肇ちゃんは絵を描ききったっスよ!」
「……!」
声にならない喜びだった。
おじいちゃん。私、変われたんだ。私は自分を、表現できたよ。
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