川島瑞樹「ミュージック・アワー」
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30: ◆u2ReYOnfZaUs
2018/08/01(水) 01:10:17.57 ID:Ai+XpKnp0
「楓ちゃん、ワインを頂戴」

女があごを楓に向けた。
楓は左手でゆるく敬礼をして、新しいグラスにワインを注いだ。

「これぐらいですか」

「もっと、なみなみと」

表面張力がはたらくか、はたらかないかの位置で黒紅の液体がゆらぐ。
楓はグラスを器用に持ち上げ、女に手渡し、渡されたほうは、それをひといきに飲み干した。
顔色は変わらない。
瑞樹は会話の糸口をみつけた。

「あの、ワイン」

「なにかしら」

「ワイン、お好きなんですか?」

食い気より飲みっ気。女からはそういう印象を受けた。
はじめから料理はそこそこで、ずっとワインに口づけている。

「好きよ」

「家にワインセラーがあるんです」

駆け引きだ。だが、嘘ではない。
アクセサリィだ。誰が来て、誰と寝るわけでもないのに、高価なランジェリィを買うようなもの。
amazonか、ヨドバシで“価格順”。
入っているワインの銘柄も覚えていない。高いということのほかには。

「そう……」

女はまるで興味がなさそうに、またグラスをかたむける。
だが瑞樹は、女が飲むたびに下唇を2回ほど舐めることに気づいていた。
この店のワインに満足していないのだ。

「実は最近ワインに凝っていて、ピーターポイントとか……」

「パーカーポイントね」

女が訂正した。ふっと表情がゆるんでいた。
瑞樹はわざと言い間違えた。プライドの高い年上に気に入られるテクニックのひとつだ。




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