31: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:10:44.92 ID:Ai+XpKnp0
「すいません、にわか知識で……」
「志乃さんにおしえてもらったほうがいいんじゃないの〜」
ようやく早苗が助け舟を出した。瑞樹は内心で、おそいっちゅーの、と思いながらも感謝した。
「ええと、しの、さん」
相手を苗字で呼ぶことができず、おずおずとした声になった。
「なにかしら」
「志に乃で、志乃さんですか?」
「そうよ」
「良い名前ですね!」
「“川島”には及ばないわ」
「あははは!」
瑞樹は笑った。苦笑ではない。相手の気持ちがやわらいでいるのが、声色からわかった。そしてなにより、彼女の言い回しが可笑しかったのだ。
そこに、楓が腕にまとわりついてきた。すでにできあがっている。
「ぷろりゅひゃ〜」
ほおがゆるみ、ついでに口元もゆるみ、楓は年齢よりずっと幼く見えた。
この子には、誰かがそばにいてあげなきゃいけない。
きっと、それは……。
瑞樹は楓の髪をやわと撫でた。
「ごめん楓ちゃん。
楓ちゃんのプロデューサー、ちょっとだけ借りるわ」
瑞樹がそう言うと、それが聞こえたのか、聞こえなかったのか、楓はすやすやと眠りについた。
「ちゃんと洗って返しなさいよ。弱酸性で」
様子を見ていた早苗が微笑みながらそう言った。
瑞樹がくつくつと笑いながら頷くと、志乃がワインをぐっとあおりながら、吐き捨てた。
「強酸で洗えばいいのよ」
瑞樹と早苗は顔を見合わせて苦笑した。
瑞樹は心の中のメモ帳に、「なんとか志乃さんじゅう1歳児」と書き込んだ。
どうやら、彼女のことを誤解していたらしい。
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