2: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:01:52.94 ID:iF9TJVEt0
たぶん、きっかけがなかったら、私はきっとずっと俯いたままだったでしょう。
――小学校四年の、秋のころだったと思います。
いつものように俯いて家に帰ると、玄関に見慣れない靴がありました。
3: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:02:24.79 ID:iF9TJVEt0
おばさんはにこにこ笑って喋り出しました。
自分が写真家をしていること。
今度、賞に出す写真のモデルを探していたこと。
4: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:02:53.42 ID:iF9TJVEt0
――冗談だと思いました。
私を『かわいい』って言ってくれるのは、肉親だけでしたから。
そういう人たちが言う『かわいい』は贔屓目で、必ずしも見た目の事を言ってるわけではないんだってことぐらい、私だって知っています。
5: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:03:38.32 ID:iF9TJVEt0
私を『かわいい』って言ってくれるのは、肉親だけです。
沢山の人たちが、私を陰気で嫌な感じの子だって言いました。
いつも鏡に映る自分の顔を見て、私もそう思っていました。
6: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:04:27.55 ID:iF9TJVEt0
次の日曜に、お父さんに連れられて、岡山にあるそのおばさんの写真館に連れて行ってもらいました。
到着したのは、夕方ごろです。
7: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:05:15.93 ID:iF9TJVEt0
甘い香りのパウダーを頬にはたいてくれながら、おばさんはおどけた話をたくさんしてくれました。
昔話、冗談、おとぎ話。
お話は楽しくて、おばさんはひょうきんにつぎつぎ表情を変えて。
8: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:05:57.41 ID:iF9TJVEt0
だって。
だって、鏡の中のその子が、可愛かったから。
髪の毛に菊の飾りをつけて、白いレースの服を着せてもらって。
9: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:07:33.04 ID:iF9TJVEt0
――暗い表情をしてない自分の顔を見るのが本当に久しぶりだったことに気がつくのに、すこし時間がかかりました。
おばさんのたくさんの面白い話や、楽しい表情が、気付かないうちに私のおどおどした表情を消してくれていて。
いつも俯いていた顔を、おばさんが上げてくれました。
10: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:08:01.63 ID:iF9TJVEt0
――おばさんは、白いレースの服を着た私をすすき野原に立たせて、満月を背にした写真を撮りました。
明るい満月を背にして淡く光るすすきの中でちいさく、照れたように笑う私。
11: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/07/21(土) 02:08:37.82 ID:iF9TJVEt0
――だけど、胸の奥の方に消えないものが残りました。
私がかわいいから、写真を撮りたいって。
それで賞に出してみたいと言ってくれた人がいたこと。
15Res/9.57 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20