23: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:23:20.40 ID:LgMjPCNT0
『その世界は四方に壁があった』
語り部の声が響く。
ステージに用意された西洋風の街のセット。
右へ左へ、往来を賑やかに行き交う人々。
レンガ造りの建物が並んだ舞台の奥には、
スクリーンで表現された大きな壁が映っている。
語り部の声が、続く。
『唯一の街を囲むようにして壁があった。
岩壁は天高く雲をつかむようにそびえ立ち、人々は壁の中の世界で暮らしていた。
誰も疑問は持たなかった。なぜなら街が生まれるその前から、壁は変わらずそこにあったからだ。
何年も、何年も、人々は変わることの無い平穏の中で過ごしていた。
……だがある時、一人の少女がこう思った』
そうして、行き交う人々の流れに紛れて舞台の中央までやってきた少女が突然その場で立ち止まった。
左右へはけていく人波。少女だけが一人残される。
彼女は顔だけを向けてそびえる壁を一瞥すると、
今度は客席へと体ごと向いて喋り始める。
『あの壁の向こうには何があるんだろう? 大人たちは無駄なことだと言うけれど、私はそれを確かめたい。
こんな街に、こんな場所に、引きこもって終わる一生は嫌だ!』
まるで叫びかけるように言う彼女は私の知ってる人だった。
萩原雪歩。
同い年の、それでいて私よりも先にアイドルとして活動している少女が見せる、
まだ初々しさが残る時代の姿がそこにあった。
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