藤原肇「外は雨の、こんな時」
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5: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:55:35.35 ID:/XOMflwr0

 でも、ひとり部屋で本を読み、ひとりでお昼ご飯を食べ、そして戻って部屋で雑誌を読んでいるうちに、そんな気持ちは少しずつ薄れていきました。最近は忙しく、目まぐるしく毎日が過ぎていきます。日々是好日、毎日が刺激的です。だからこそ、ゆっくりと時間を弄ぶような一日も良いのかな、なんて思っていたのですが、私の心は気まぐれ屋さんです。気まぐれというよりも、わがままなのかもしれません。しかし、何もしないで過ごすことに飽き飽きしてきたとか、お友達と遊べなくて寂しいとか、そういった気持ちとは違います。言うなれば、私の心が雲に覆われるような、そんな感覚です。




6: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:57:09.49 ID:/XOMflwr0


 今にも雨が降り出してきそうなこの気持ちに、日が差し込むにはどうしたらいいのだろう。ふと心に浮かんだのは、私のプロデューサーさんの顔でした。
 
 気晴らしに眺めていた雑誌のページを閉じ、これまた理由もなく点けていたテレビも消して、窓の方を見遣りました。窓枠はキャンバスのように、ねずみ色の空を切り取っています。少し開けていた窓を私は閉め切ったのですが、それでも部屋の中では雨が降り続けているかのような、そんな錯覚をしてしまいます。
以下略 AAS



7: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:58:18.07 ID:/XOMflwr0


 最近、私は気が付いてしまいました。

 私は彼のことが好きです。たぶん、おそらく、大好きだと言えるくらいに。
以下略 AAS



8: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:00:08.77 ID:/XOMflwr0


 最近、何気なく日常を過ごしていても、色んな出来事に対して彼と結びつけて考えるようになっています。雑貨屋さんでマグカップを見つけては、「これはPさんが好きそうだな」なんて思ったり、服屋さんで試着をする時も、「Pさんなら何と言ってくれるだろう」と思ったり。だから、こうして部屋でひとり寂しく過ごしていると、ふと気持ちが湧き上がってきたのでしょう。

 こんな時、彼がそばにいてくれたらなあ、って。
以下略 AAS



9: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:02:31.96 ID:/XOMflwr0


 でも、この気持ちを思い浮かべたとき、私は苦笑いしてしまいました。陶芸の新たな表現を見つける目的でアイドルになろうと、岡山の片田舎から東京の大都会へやって来た私は、今や恋煩いにかかっているのです。そのうえ、片思いの相手は私のアイドル活動を支えてくれるプロデューサーです。彼は様々な世界を私に見せてくれました。私の知らない、鮮やかな世界を教えてくれた彼に、私は大変感謝しました。しかし、感謝の気持ちは次第に親愛に、そして、いつの間にか恋い慕う気持ちへと変わっていったのです。

 私のおじいちゃんなら、今の私に何と言うでしょう。いくらおじいちゃんが彼のことを気に入っていたとしても、アイドルになった目的を私が果たしつつあるとしても、色恋に現を抜かすとは何事だと私に怒るかもしれません。それでも、好きになってしまいました。好きだと思うと、私の心は温かくなりますが、同時に私の心には雲が覆います。
以下略 AAS



10: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:05:31.69 ID:/XOMflwr0


 もやもやと私の心に立ちこむ雲は、ざあざあと雨を降らせています。こんな私の心に浮かんだのは彼の顔です。どうして、貴方のことを思い浮かべたのだろう? 貴方の優しさに触れたいと思ったからでしょうか。しかし、私がアイドルだから、彼が優しいのかもしれないのです。彼に好意を伝えたとしても、彼の優しさが、私への好意のためでなかったとすれば? そんな残酷な真実を突きつけられてしまうのではないかと、私は怖くなるのです。貴方は私の心に長雨を降らせる群雲なのでしょうか。それとも、貴方は心の雲を晴らしてくれるお日様なのでしょうか。私は湯呑を口に傾けました。冷え切ったお茶は苦くて渋く、思わず顔をしかめました。

 外の雨は止まず、ずっと降り続けています。
以下略 AAS



11: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:14:48.31 ID:/XOMflwr0

 ふいに、部屋のドアをトントンと叩く音がしました。ノックの音に、私は「はい」と応えます。一体誰だろう? 私は立ち上がり、ドアを開けようとしたとき、思わず手が止まりました。もしかしたら、彼かもしれない。いえ、そんなことはありません。何か急用がない限り、男性はこの寮に入ることができないのだから、来るはずがありません。分かりきった話です。でも、でも……私の想いが貴方に伝わって……。




12: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:18:27.76 ID:/XOMflwr0


 ふうと息を吐いて、私はドアを開きました。

「肇ちゃん、お届け物が来てたわよ」
以下略 AAS



13: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:18:54.10 ID:/XOMflwr0


 しばらく寮母さんとお話した後、私は窓際へと向かいました。見える風景は、朝よりも縦線が多く混じっています。

 万一の可能性に期待して、心を騒がせて、情けないやら悲しいやら。何だかとても滑稽で、私は部屋でひとりクスクスと笑ってしまいました。来るはずがないと分かっているからこそ、彼がいてくれたら、という気持ちがますます募ります。
以下略 AAS



14: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:19:28.05 ID:/XOMflwr0


 部屋着から着替え、おめかしをします。服もお気に入りのものを選びます。そして、髪の毛を櫛で整えようとしたとき、そばのカゴに入れてあった青色の髪留めが目に留まりました。以前、彼が私に買ってくれた代物です。「似合うと思うから」とプレゼントしてくれた、青いリボンのついた髪留めです。

 やっぱり、彼と結びつけてしまうなあ。でも、仕方ないのかも。だって、一番素敵な姿を見せたくなるんです。貴方は気付いてくれるかな。
以下略 AAS



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