藤原肇「外は雨の、こんな時」
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1: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:50:51.54 ID:/XOMflwr0


そばに貴方がいてくれたらなあ、って。




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2: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:51:46.24 ID:/XOMflwr0


モバマスSSです。
プロデューサーはP表記。
一応地の文形式。
以下略 AAS



3: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:52:31.24 ID:/XOMflwr0

 そんなことを思ったのは、雨降るお昼過ぎのことでした。

 今日は貴重にも丸一日のお休みを頂いたのですが、私は朝から寮の自室で過ごしています。前々からオフだと分かっていたので、あれをしよう、ここに出かけようかな、なんて色々と考えていたのですが、いざお休みがやって来ると、そんな計画はどこかへ消え去っていました。

以下略 AAS



4: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:54:38.28 ID:/XOMflwr0

 それならば、寮にいるお友達と一緒に過ごそうかな、と思っていたら、仲良しのお友達はみんな仕事やレッスンでお出掛けです。今日に限って。でも、しょんぼりしていても仕方がないので、部屋でゆっくり過ごしてみようかなと思い立ちました。
 
 外の雨は朝からずっと降っています。天気予報では、この雨は夕方から一層強くなるとのこと。部屋の窓からは寮の前の道がよく見え、その濡れた道には色とりどりの傘の花が行き交い、時たま自動車が滑るように走り去ります。窓を少し開けると、雨の降る音がかすかに聞こえます。雨音を聴きながら、ぼんやりと外の景色を見ながら、「こんな日もたまには良いのかも」なんて思っていました。

以下略 AAS



5: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:55:35.35 ID:/XOMflwr0

 でも、ひとり部屋で本を読み、ひとりでお昼ご飯を食べ、そして戻って部屋で雑誌を読んでいるうちに、そんな気持ちは少しずつ薄れていきました。最近は忙しく、目まぐるしく毎日が過ぎていきます。日々是好日、毎日が刺激的です。だからこそ、ゆっくりと時間を弄ぶような一日も良いのかな、なんて思っていたのですが、私の心は気まぐれ屋さんです。気まぐれというよりも、わがままなのかもしれません。しかし、何もしないで過ごすことに飽き飽きしてきたとか、お友達と遊べなくて寂しいとか、そういった気持ちとは違います。言うなれば、私の心が雲に覆われるような、そんな感覚です。




6: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:57:09.49 ID:/XOMflwr0


 今にも雨が降り出してきそうなこの気持ちに、日が差し込むにはどうしたらいいのだろう。ふと心に浮かんだのは、私のプロデューサーさんの顔でした。
 
 気晴らしに眺めていた雑誌のページを閉じ、これまた理由もなく点けていたテレビも消して、窓の方を見遣りました。窓枠はキャンバスのように、ねずみ色の空を切り取っています。少し開けていた窓を私は閉め切ったのですが、それでも部屋の中では雨が降り続けているかのような、そんな錯覚をしてしまいます。
以下略 AAS



7: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 21:58:18.07 ID:/XOMflwr0


 最近、私は気が付いてしまいました。

 私は彼のことが好きです。たぶん、おそらく、大好きだと言えるくらいに。
以下略 AAS



8: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:00:08.77 ID:/XOMflwr0


 最近、何気なく日常を過ごしていても、色んな出来事に対して彼と結びつけて考えるようになっています。雑貨屋さんでマグカップを見つけては、「これはPさんが好きそうだな」なんて思ったり、服屋さんで試着をする時も、「Pさんなら何と言ってくれるだろう」と思ったり。だから、こうして部屋でひとり寂しく過ごしていると、ふと気持ちが湧き上がってきたのでしょう。

 こんな時、彼がそばにいてくれたらなあ、って。
以下略 AAS



9: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:02:31.96 ID:/XOMflwr0


 でも、この気持ちを思い浮かべたとき、私は苦笑いしてしまいました。陶芸の新たな表現を見つける目的でアイドルになろうと、岡山の片田舎から東京の大都会へやって来た私は、今や恋煩いにかかっているのです。そのうえ、片思いの相手は私のアイドル活動を支えてくれるプロデューサーです。彼は様々な世界を私に見せてくれました。私の知らない、鮮やかな世界を教えてくれた彼に、私は大変感謝しました。しかし、感謝の気持ちは次第に親愛に、そして、いつの間にか恋い慕う気持ちへと変わっていったのです。

 私のおじいちゃんなら、今の私に何と言うでしょう。いくらおじいちゃんが彼のことを気に入っていたとしても、アイドルになった目的を私が果たしつつあるとしても、色恋に現を抜かすとは何事だと私に怒るかもしれません。それでも、好きになってしまいました。好きだと思うと、私の心は温かくなりますが、同時に私の心には雲が覆います。
以下略 AAS



10: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:05:31.69 ID:/XOMflwr0


 もやもやと私の心に立ちこむ雲は、ざあざあと雨を降らせています。こんな私の心に浮かんだのは彼の顔です。どうして、貴方のことを思い浮かべたのだろう? 貴方の優しさに触れたいと思ったからでしょうか。しかし、私がアイドルだから、彼が優しいのかもしれないのです。彼に好意を伝えたとしても、彼の優しさが、私への好意のためでなかったとすれば? そんな残酷な真実を突きつけられてしまうのではないかと、私は怖くなるのです。貴方は私の心に長雨を降らせる群雲なのでしょうか。それとも、貴方は心の雲を晴らしてくれるお日様なのでしょうか。私は湯呑を口に傾けました。冷え切ったお茶は苦くて渋く、思わず顔をしかめました。

 外の雨は止まず、ずっと降り続けています。
以下略 AAS



11: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:14:48.31 ID:/XOMflwr0

 ふいに、部屋のドアをトントンと叩く音がしました。ノックの音に、私は「はい」と応えます。一体誰だろう? 私は立ち上がり、ドアを開けようとしたとき、思わず手が止まりました。もしかしたら、彼かもしれない。いえ、そんなことはありません。何か急用がない限り、男性はこの寮に入ることができないのだから、来るはずがありません。分かりきった話です。でも、でも……私の想いが貴方に伝わって……。




12: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:18:27.76 ID:/XOMflwr0


 ふうと息を吐いて、私はドアを開きました。

「肇ちゃん、お届け物が来てたわよ」
以下略 AAS



13: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:18:54.10 ID:/XOMflwr0


 しばらく寮母さんとお話した後、私は窓際へと向かいました。見える風景は、朝よりも縦線が多く混じっています。

 万一の可能性に期待して、心を騒がせて、情けないやら悲しいやら。何だかとても滑稽で、私は部屋でひとりクスクスと笑ってしまいました。来るはずがないと分かっているからこそ、彼がいてくれたら、という気持ちがますます募ります。
以下略 AAS



14: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:19:28.05 ID:/XOMflwr0


 部屋着から着替え、おめかしをします。服もお気に入りのものを選びます。そして、髪の毛を櫛で整えようとしたとき、そばのカゴに入れてあった青色の髪留めが目に留まりました。以前、彼が私に買ってくれた代物です。「似合うと思うから」とプレゼントしてくれた、青いリボンのついた髪留めです。

 やっぱり、彼と結びつけてしまうなあ。でも、仕方ないのかも。だって、一番素敵な姿を見せたくなるんです。貴方は気付いてくれるかな。
以下略 AAS



15: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:20:41.16 ID:/XOMflwr0


・・・・・・


以下略 AAS



16: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:21:29.31 ID:/XOMflwr0



 雨は嫌いではありません。さっきのように、雨の音を聴きながら外を眺めるというのも、趣があって私は好きです。だからといって、こんな本降りの雨の中を好きこのんで出歩くなんてことは流石にありません。さらにはこの後もっと強く降るというのに、わざわざ外に出るなんて酔狂なことです。せっかくのお召し物も台無しになるかもしれないのだから。

以下略 AAS



17: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:22:50.87 ID:/XOMflwr0


 やっぱり、私、貴方のことが好きなんだろうな。だから私は会いに行くのです。

 心なしか、胸の中を覆う雲が薄れるような心地がしました。
以下略 AAS



18: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:24:00.09 ID:/XOMflwr0


 突然、私が事務所にやって来たら、びっくりするでしょうね。でも、理由を聞かれたら、何と答えよう。「部屋で過ごしてたけど暇になってしまって」というのは何だか味気ないでしょうか。いっそ、正直に「貴方に会いたくなりました」と言うのも……。これはちょっと恥ずかしいかな。


以下略 AAS



19: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:24:42.58 ID:/XOMflwr0


 事務所のある建物に入ると雨音は小さくなりましたが、よく見るとスカートの裾や上着の袖口が湿っていました。雨は強かったけれど、風が無かったためか、ひどく濡れるということはありませんでした。ほっと一安心です。服の色濃くなった部分を、持って来たタオルで丁寧にふき取ります。そして、髪の毛も少し乱れていたので、手鏡を見ながら整えます。……よし。準備万端です。
 
 この扉の向こうに、あの人がいる。急く気持ちが抑えられず、私は躊躇うことなくドアノブを回しました。
以下略 AAS



20: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:25:39.34 ID:/XOMflwr0


 事務所に入ると、ほとんど人が出払っていました。いつもは賑やかなのに、アイドル達のかしましいお喋りも聞こえません。彼のデスクの方を見遣ると、彼の姿もありません。出かけている? そんなことはありません。昨日、彼は「一日中事務所かなぁ」と今日の予定を言っていたのだから。


以下略 AAS



21: ◆kBqQfBrAQE[saga]
2018/07/04(水) 22:26:39.44 ID:/XOMflwr0


「あら、肇ちゃん?」

 ちひろさんがデスクから声をかけてきました。
以下略 AAS



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