227: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/22(水) 21:55:36.07 ID:n2QIU6Th0
俺のもがき苦しむさまを、二人は一頻り笑ったのち、再び通路を歩きだした。しばらく進むと、倉庫の入り口付近、パイプの伸びた大樽のあたりにたどり着いた。
「この大樽の中には、先ほどの麦芽ジュースに酵母を加えたものが入っています」
「ほほう。つまり、この大樽の中で今まさにビールが作られているということですね」
「なんだ、大樽の中で魔物が作業しているのか? 酷い作業環境だ」
「いえいえ勇者様、働いているのは酵母。すなわち、菌達です。かれらが糖分をアルコールへと変えることでビールが出来上がるというわけです」
「菌が……?」
俺は、素直に感心していた。目に見えないほど小さい細菌が、糖分をアルコールに変える? その実、マクロな話なのだろうに俺の理解を大きく超えるそれは、とても雄大で力強く感じられた。いままで、何も考えずに酒を飲んでいたのが少し恥ずかしく思えてきたほどだ。遊び人は、酒は語らずに飲めと宣っていたが、知っていて語らないのと、ただ知らないだけで語ることができないのとでは大違いだと今更に気づく。
「飲んでみるか?」
俺は、寸秒もおかずにうなづく。マスターも、目を輝かせて「是非」と声をあげた。
「では、どうぞこちらへ。先ほどの応接室に出来上がったビールを用意させますので」
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