217: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/16(木) 21:49:23.67 ID:ao9AIwU40
マスターを問い詰めたつもりであるが、猿ぐつわを噛まされているため喉を鳴らすのがやっとだ。
「……」
マスターは、人声も発さずに俺の目をじっと見つめている。……どうも、マスターの様子がおかしい。マスターの目は、酷くくすんでいて生気がない。俺がバーで出会ったのは、綺麗な紅色の瞳を持ち、落ち着きこそあれど生気に満ち溢れた男であったはずだ。それだけではない。顔色も心なしか悪いように見える。それに、その背から立ち上るオーラは只ならぬ様相を呈している。
「将軍。彼と二人きりで話をさせてもらえますか?」
焦った炎魔将軍が、ソファーから立ち上がりマスターに詰め寄ってくる。
「し、しかし、こいつは魔王様の片腕すら斬りおとすほどの危険な男で……」
「よろしいですね?」
マスターの有無を言わさない態度に、炎魔将軍はゴクリと唾を呑んだ。しばしの沈黙が流れ、その強い意志に諦めたのであろう、炎魔将軍はすごすごと部屋を出て行った。
マスターの手で、猿ぐつわが話されるや否や俺は今度こそ声をあげた。
「どういうことだマスター! 魔王軍とはかかわり合いがないんじゃなかったのか!?い、いや、今はそんなことはどうでもいい! 聞きたいことが……」
「質問するのはこちらです」
俺の言葉を遮ったその声は、いかなる耐性を以てしても震えあがるほど冷たいものだった。また、声と同時に放たれたどす黒い殺気が俺を襲ってきた。俺は、歯を必死になって食いしばる。少しでも気を緩めれば、歯がガチガチとなってしまいそうだった。
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