171: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/15(日) 23:44:58.11 ID:1DFdeF0E0
12.
夕美さんの予定してた曲を終え、3人で歌うはずだったアンコールパートに入っても、志希さんは姿をあらわさなかった。残りのステージは全て、私に任せてくれたということなんだろう。
不思議と疲労は感じなかった。むしろ歌うほどに体が軽くなっていくようだった。
客席を眺める。
この人たちも不幸だ。周子さんを、夕美さんを、志希さんを見るためにここまでやってきたはずなのに、こうしてステージに立っているのは桜舞姫ではない、誰も目当てにはしていなかったはずの、この私なのだから。
なのに、お客さんたちはみんな、私が歌うたびに大きな拍手と歓声をくれた。それが、嬉しかった。
《次が、最後の曲です》
マイクに向けてささやく。
最後の曲のタイトルは『つぼみ』、これは元々が5人で歌う楽曲であり、桜舞姫の3人に、高垣楓さんと前川みくさんが加わったものがオリジナルメンバーだった。346プロの代表としてフェスで披露したこともあるという、夕美さんの好きな歌だ。
天井のライトが絞られ、代わりにステージ上の、足元を照らすライトが灯る。
前奏の、ピアノの音が流れ始める。
私はゆっくり、一歩、二歩と踏み出し、両足をそろえる。
息を吸い込み、声を響かせる。
体を舞わせる。
再び天井のライトが灯る。
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