126: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/10(日) 18:51:08.31 ID:AfpWDvGb0
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「ありがとうございました」と言って客席に手を振り、ステージをあとにする。
舞台袖にいたプロデューサーさんに駆け寄り、「夕美さんたちは?」と訊ねる。
プロデューサーさんが首を横に振った。
「まだ到着していない。どこにいるのかもわからない」
それから10分が経過した。もともと演者の入れ替わりの際には5分から10分程度の休憩時間を予定していた。だけどこれ以上経つとお客さんも騒ぎ始めるだろう。
私とプロデューサーさんはいても立ってもいられず、スタッフ用の出入口の前で待っていた。
「……喋りでつなぐって、無理か?」
プロデューサーさんが言った。いつもは冷静に落ち着いている印象の彼にも、さすがに焦りの色が見える。
正直言って自信はない。私自身は知名度がほとんどなく、お客さんは今日初めて見たという人がほとんどだろう。なにを話せばいいのかもわからない。
それでも、この状況でできないとは言えない。
――と、そのとき、
バァンとドアが開け放たれ、夕美さんが息を切らせて駆け込んできた。
「あっ、ほたるちゃんおまたせっ! 遅れちゃってごめんね、今どうなってる?」
「夕美ちゃん待ってー」と、志希さんも後に続いてきた。
私はほっと胸をなでおろした。
「えっと……私の出番が終わって、休憩時間を少しオーバーしてるぐらいです。あの、どうやって来たんですか?」
「自転車を買って、走ってきたよ」
思いもよらない、力ずくな答えが返ってきた。
「じ、自転車ですか。すぐに出れるんですか? 疲れてるんじゃ……?」
「あー……買ったのは1台だよ。本当はいけないんだけどね、志希ちゃんを後ろに乗せて、私がこいできたの。私は志希ちゃんのステージのあいだ休めるから」
言われてみれば、夕美さんは汗をかいて息を切らせているけど、志希さんは平然としている。
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