127: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/10(日) 18:52:34.71 ID:AfpWDvGb0
「一ノ瀬さん、こちらへ」
プロデューサーさんが志希さんを控室に誘導する。
私は、すっかり安心しきって、油断していた。
意識が引き延ばされ、スローモーションの映像を見ているように感じた。
通路の端に積み上げられた機材が崩れ、志希さんに向かって倒れ込む。
誰かが発した警告の声に、志希さんが振り返る。
目前に迫っている危機に気付き、身を硬直させる。
一瞬で駆け寄った夕美さんが、志希さんを突き飛ばす。
轟音と悲鳴が上がる。
埃が舞い上がる。
ふたりの人影が倒れている。
通路の奥のほうの人影、志希さんがよろよろと起き上がる。
倒れたときに打ったのだろう、肘をさすっているけど、見てわかるようなケガはないようだった。
もうひとつの人影、夕美さんが身じろぎして、うめき声を上げた。
「動かないで!」
志希さんが叱責するように言った。
「医療スタッフ呼んで。夕美ちゃん痛む? どこ?」
「……左の、足首かな?」
「ちょっとごめんね」
志希さんが慎重な手つきで夕美さんの左足の靴を脱がす。夕美さんがわずかに顔をしかめた。
「……かなり腫れてるね」志希さんが苦々しくつぶやく。
「他に痛む個所は?」とプロデューサーさんが訊ねる。
夕美さんが首を横に振った。
医療スタッフが到着し、夕美さんを両側から支えて移動していった。
私は、一部始終を馬鹿みたいに呆けて眺めていた。
今更遅れて、震えが体を駆け上ってきた。
「ご、ごめんなさい……私のせいです……」
か細い声を絞り出す。志希さんがにらみつけるような視線を向けてきた。
「一ノ瀬さん、相葉さんのことはスタッフにまかせて、今はステージの準備をお願いできますか?」プロデューサーさんが言った。
「わかってるよ」
志希さんは今までに聞いたこともない刺々しい声で答え、控室に向かった。
私は動くこともできずに、その場に立ち尽くしていた。
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