白菊ほたる『災いの子』
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123: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/10(日) 18:46:35.75 ID:AfpWDvGb0
   *

「想定が甘かったな、こういうこともあるのか」

 プロデューサーさんがつぶやく。

「私も……こんなことは初めてで……」

 どうやらふたりは、それぞれのプロデューサーさんが運転する車で会場に向かっていたところを、渋滞に巻き込まれて立ち往生してしまったらしい。渋滞の原因はわかっていない。動き出しさえすれば30分ほどで着くような位置だけど、原因が不明だからいつ動き出すのかがわからない。

 すでに開場は始まって、開演時間は刻一刻と迫っている。

「少し前にふたりは車を降りて、別の方法でこっちに向かったそうだ」

「今はどのあたりに?」

「それが、連絡が付かない。車に残ったプロデューサーどもには繋がるんだけどな」

「その場所から電車ですと、どのくらいかかるんですか?」

「……調べてみたら、電車も止まっているらしい」

「それじゃあ……」

「渋滞も電車の運行停止も極一部でしか起きていないようで、今のところライブのお客さんが足止めをくらっているという情報はない。どうも相葉さんと一ノ瀬さんを狙ったように、ピンポイントで起きているみたいだな」

 それは、私が日頃遭っているアクシデントの特徴とぴったり一致していた。
 渋滞してるエリアを抜けて、タクシーでも捕まえればいいように思えるけど、私の経験では、そういったときに流しのタクシーを捕まえられることはまずない。電話で呼ぼうにも、こちらからの連絡が繋がらないということは、おそらくふたりの携帯電話は機能していない。故障か、謎の圏外にでもなっているんだろう。

「どうするんですか?」

「白菊はトップバッターだから、気にせず予定通りにやればいい」

「そのあとは……?」

「白菊の出番のあいだに、到着することを祈ろうか」

 祈る――私の祈りなんて、天に届くだろうか。

「他人の心配するより先に、自分の仕事をしろ」

「……はい」

 もし間に合わなかったら? と喉まで出かけた言葉を飲み込む。口に出してしまったら、本当になってしまいそうだと思ったからだ。

 開演時間になっても、ふたりは到着しなかった。相変わらず連絡もつかず、今どこでどうしているのかもわからない。

 私はひとり、ステージに向かった。


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