1: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 19:59:58.44 ID:zmYsrQkn0
うだるような暑さが続いていた。天気予報によれば、先週から途切れることなく今日で十日目。四国の方ではとうとう渇水による節水令が出たというし、随分とまぁ自然現象も頑張るものだ。
ここ一週間ほど深海棲艦の出没情報は出ていなかった。あちらさんもこの酷暑には随分と堪えているのかもしれない。勿論単なる偶然の可能性は大いにあったが、これ幸いとばかりに艦娘たちは避暑地――海中へ飛び込んでいる。
艤装が灼熱していて背負えない、持てない、使えない。果ては膨張による誤作動の可能性がある。そう力説してくれたのは遊びたい盛りの駆逐艦たち。ご丁寧に連名で署名まで頂いた。
そんなわけがあるか。
入れ知恵をしたのは川内か、北上か。大穴で龍驤か最上あたりも候補に挙がる。まぁどうでもいいことだった。艦娘が動けば提督である俺の仕事も増える。汗だくで書類と向き合うほど、俺は仕事が好きではない。
嘘にはいい嘘と悪い嘘がある。俺は時折ひどく鈍感なきらいがあるらしいので、駆逐艦の嘘でさえ気づかないのだ。これはまいった。
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2: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:00:57.24 ID:zmYsrQkn0
窓の外はすぐに海。全開にしているものの、目視できる木のそよぎほどには風が入ってくるように感じられなかった。首を振る扇風機も、こう室温が生ぬるくては、気休めにしかならない。
消波ブロックの上では麦藁帽を被った人物がのんびり釣竿から糸を垂らしている。顔はひさしに隠れて見えないが、シャツの背に「瑞雲」と書かれているので誰何は容易だ。
「……散歩にでも行くか」
3: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:02:22.61 ID:zmYsrQkn0
「あ、提督だ。なにやってんの」
七駆の四人。先頭を切るのはアイスの棒きれを咥えた曙。その後ろを、顔を火照らせながら小走りで潮、浮き輪を首からぶら下げ漣、ペットボトルのキャップを閉めながら朧と続く。
4: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:03:00.33 ID:zmYsrQkn0
「別にいいでしょ。じゃ、そういうことだから、行くから」
そっけない態度で曙が踵を返した。残る三人も、俺に適当に声をかけてその場を後にする。
なんの気なしに彼女らの後姿を見送っていたが、建物の角を曲がって消えていき、ついに見えなくなる。あの方向は宿舎だろうか。それともその先のコンビニまでいったろうか。
5: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:03:31.65 ID:zmYsrQkn0
近くには背もたれのついていない簡易ベンチがあった。これ幸いと、俺はそれに横になる。
汗が額を伝ってこめかみを流れ、肌から離れていく感覚があった。
何もない中空を人差し指で二度、とんとんと叩く。わざとらしい起動音、「ぶぅん」。そんな空気が震える音とともに、極めて二次元的でデジタルなバーチャルディスプレイが、空間に浮かんだ。
6: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:04:15.05 ID:zmYsrQkn0
ウィンドウをフリックして退かし、ピンチインで最小化。そのまま閉じる。
「所属艦娘のリスト」
7: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:06:11.55 ID:zmYsrQkn0
「毎日出撃だと疲れるだろう。強い奴ばかり出したら、練度の低いやつらだけで固まる時がいつか来る。駆逐艦だけが固まってもしょうがないし、戦艦だけでもだめだ。空母六隻でもな。それに艦娘同士の相性もある」
「いろいろ考えてんのね」
8: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:06:37.45 ID:zmYsrQkn0
曙は半分の端を口の中で噛み、シャーベット状になった中身を絞り出す。しゃりしゃりと聞くだけで涼しくなる音が曙の口内から響いてきた。
手渡された半分に対して俺は所在なさげだ。色々な疑問が脳内を駆け巡って、そしてそのすべてに対して回答できないでいる。ただひとつ、アイスと触れている肌の冷たさだけが厳然たる事実だった。
アイスを見て、曙を見る。
9: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:07:21.66 ID:zmYsrQkn0
「他の三人は?」
「宿題が終わってないって。あ、朧と漣が。潮は、見てあげるって」
10: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:07:58.55 ID:zmYsrQkn0
「……別に、俺に相談しろというわけではないけど、無理をする必要はないぞ」
「そういうわけじゃない。みんな大切な友達よ」
11: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:08:36.45 ID:zmYsrQkn0
「……」
「……」
12: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:09:20.59 ID:zmYsrQkn0
「出たか」
「うん。行く?」
13: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:09:48.44 ID:zmYsrQkn0
建造にも改造にもとかく逐一書類は必須だ。組織が巨大になればなるほど、仕方がないことではあるが、面倒くさいと思う時がないわけではない。大本営と連絡がつかなければ、いっそ好き勝手、やりたい放題できるのだが。
冗談だった。本土との通信途絶は殆ど敗戦みたいなものだ。そんな時が来ないことを切に願うばかりである。
14: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:10:35.82 ID:zmYsrQkn0
「よく食うな。腹、壊さんのか」
「は? 一人じゃ全部食べないけど?」
15: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:11:38.55 ID:zmYsrQkn0
「いいのっ! どうやってあんたと仲良くすればいいのかなんて、わかんないし!」
胸がぽかぽかしてきた。きっと俺も、耳が赤いはずだ。
それは誓って陽気のせいではなかった。
16: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:12:05.49 ID:zmYsrQkn0
おしまい
17: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2018/04/26(木) 20:13:57.82 ID:zmYsrQkn0
本編の息抜きに短編。
短編も年長者ばかりが続いたから駆逐。
本当は58といちゃいちゃする話だったのは内緒。
58の影も形もなくなってて草。
18:名無しNIPPER[sage]
2018/04/26(木) 20:31:36.87 ID:MiNHT2Lyo
おう58も書くんだよ
あくしろよ
19:名無しNIPPER[sage]
2018/04/26(木) 21:44:25.01 ID:7AftvdKLo
曙も58もかわいいからね、ちかたないね
20:名無しNIPPER[sage]
2018/04/26(木) 23:08:03.96 ID:cwW7MHQSO
曙太郎
21:名無しNIPPER[sage]
2018/04/28(土) 12:15:49.26 ID:K4tJ6VJNO
乙
58のSS待ってる
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