1: ◆XUWJiU1Fxs[sage]
2018/02/09(金) 01:54:25.68 ID:vkN8lClMo
「この衣装を……私が?」
最初にプロデューサーさんから衣装のデザインを見せてもらったとき、初めに感じたことは私に似合うのかな? ということでした。これまで私が着てきた衣装は可愛らしいものが多く、今回のようなボーイッシュでフェミニンなパンツスタイル衣装は斬新でした。
「どうかな? 似合うと思うけど。ほら、美穂って結構ボーイッシュなところがあるし。この衣装だとオトナな印象も与えるかも」
そう言われたのは初めてです。
「バレンタインのお仕事でね。お菓子の洋館の女主人って設定なんだ」
言われてみると、全体的にゴシックでオトナなこの衣装はチョコレートを纏っているようにも見えます。視覚から味を判断するのもおかしな話ですが何だか苦そうな色合いです。
「コンセプトはビターアンドスイート、ってところかな。今までとはちょっと違った演技のお仕事だけど、うまくいけば既存ファンは美穂の新しい魅力に気付けるし新規のファンも増えるだろう。ビッグチャンスだと思うんだ」
駆け出しの頃から何となくではありましたが舞台や声優といった「演じる」お仕事に興味を持っていた私にとって、このお仕事は渡りに船。少しばかりの不安はありましたが引き受けることにしました。
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2: ◆XUWJiU1Fxs[sage]
2018/02/09(金) 01:55:44.56 ID:vkN8lClMo
「うーん、ボーイッシュか……」
手洗い場の鏡に映る自分の顔を改めて見つめ直す。よくみんなからは「可愛い」、「キュート」と言われることはあるけど、ボーイッシュという言葉を使われたのは17年間の人生で初めてのことです。
「お、オレの女に……うぅ、似合わないよぉ……」
3: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 01:56:27.95 ID:vkN8lClMo
「ではこれより小日向美穂脳内会議〜大人ってなんだ?〜を始めます! 皆さん、何をすればオトナになれるかをプレゼンしてください!」
「は、はい議事長!」
「どうぞ! 小日向美穂さん!」
4: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 01:57:37.25 ID:vkN8lClMo
小日向美穂オトナキャンペーン その1 違いが分かる女を目指そう!
「お、おはようございます!」
これからブラックコーヒーを飲む――というオトナの階段を登る儀式を前に、緊張してかぎこちない足取りでコーヒーマシンの前に立ちます。カップを取ってコーヒーを抽出。いつもならここでお砂糖とミルクも入れるのですが、今日の私は違いのわかるオトナ。ありのままの苦味を受け止めます。そう、それこそがオトナへの第一歩なのです。
5: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 01:58:39.65 ID:vkN8lClMo
「あれ? 飛鳥ちゃん、それ」
一人感心していると机の端に砂糖が入っていた袋のゴミがあることに気付きました。私は入れてませんし、これを使ったのは。
「苦味を受け入れたいのは山々なんだけどね。どうやらボクの味覚がそれを許さないらしい。別に逆らわなくても良いだろう?」
6: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 01:59:44.16 ID:vkN8lClMo
「ブラックコーヒーを飲み干せなかったため、この案は没となります。他の小日向さんは意見がありますか?」
「は、はい!」
「はい小日向さん!」
7: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:00:24.83 ID:vkN8lClMo
小日向美穂オトナキャンペーン その2 洋楽をレッツシンギン!
「美穂ちゃんとカラオケに行くのって久しぶりだなぁ」
「CDデビューした時以来になるのかな? Masque:Radeの時もそんな時間なかったし」
8: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:01:05.75 ID:vkN8lClMo
「ふぅー! やっぱ歌うのって楽しいや! 美穂ちゃんはドの曲を……」
「ソ、ソの曲です!」
「ど、ドレミの歌……?」
9: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:01:44.53 ID:vkN8lClMo
「な、中々ロックなアレンジのドレミの歌だったね……」
李衣菜ちゃんのフォローが却って私の心にグサリと刺さります。
「うぅ……もうドもレもミもファも当分見たくないです……」
10: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:02:26.58 ID:vkN8lClMo
「洋楽はまだ早かったようです。他にアイデアはありますか?」
「はい」
「小日向さん、どうぞ」
11: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:03:09.85 ID:vkN8lClMo
小日向美穂 オトナキャンペーン3 テディを抱いてオトナな美穂ちゃん!
「美穂ちゃん、どうしたのその荷物?」
「おはよう美由紀ちゃん。ちょっと通販で買ったんだ」
12: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:04:28.33 ID:vkN8lClMo
「またみゆきにも触らせてね!」
「うん、いいよ。じゃあね!」
お仕事に向かう美由紀ちゃんをくまさんと一緒に見送って自分の部屋へ。
13: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:05:12.37 ID:vkN8lClMo
「美穂ちゃーん! 晩ご飯の時間ですよー?」
「起きないとハンバーグ食べちゃうのにゃ!」
「美穂ちゃん、全然出てくる気配ないです」
14: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:05:40.36 ID:vkN8lClMo
「美穂ちゃん! 大丈夫か……にゃ?」
「すぅ、すぅ……」
「くまさんが……2匹?」
15: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:06:28.60 ID:vkN8lClMo
ダブルくまさん体制は心地良すぎる眠りを提供してくれました。それこそ響子ちゃんとみくちゃんが鍵を開けて入ってこなかったら私は翌日までぐっすりと眠っていたかもしれません。
「もう! 心配したんですよ!」
「インフルエンザだったらどうしようって怖かったにゃ!」
16: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:07:13.12 ID:vkN8lClMo
「はあ……」
あれからも色々と脳内会議をしてオトナな行動を取ってみようとしたのですが、根が子供なため中々うまくいかず、むしろ自分のひよっこっぷりを見せ付けられる結果となっていました。
「折角の衣装なのに、このままじゃ似合わないよ」
17: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:07:45.12 ID:vkN8lClMo
あいさんがおごってくれたコーヒー(勿論甘いやつ)を飲みながらこれまでの経緯を話します。背伸びしてオトナになろうとしても苦い結果ばかりだったこと、このままじゃ次のお仕事もうまくいくか不安だということ。あいさんは私の馬鹿げた失敗も笑うことなく真摯な瞳で向き合ってくれました。
「ということで、中々オトナになれないんです」
「なるほどね。背伸びしたくなるお年頃、ってところか。ふふっ、懐かしいな。私にもそんな時期はあったんだ」
18: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:08:40.01 ID:vkN8lClMo
いつかはそれが許されない時が来るだろう。願おうが願わまいが、私たちはオトナになってしまうのだ。
「少し、気が楽になりました」
だから今だけは、背伸びしたコドモのままでも悪くはない。甘くて苦くて目が回りそうな毎日を歩き続けて、オトナになれば良いんだ。
19: ◆XUWJiU1Fxs
2018/02/09(金) 02:10:04.07 ID:vkN8lClMo
以上になります。新しいSSRが可愛くて筆が進みました。HTML処理してまいります。お付き合いくださった方ありがとうございました。
20:名無しNIPPER[sage]
2018/02/09(金) 03:58:44.90 ID:rLR1uvQ9o
乙でした
ダブルくまさん可愛い
この事務所、「大人って何だっけ?」って感じのハタチ過ぎの人間が多いからなあ
21:名無しNIPPER[sage]
2018/02/09(金) 20:52:30.45 ID:iGOQt1Wgo
ユッキ「そうかなー?」
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