10: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/01/04(木) 18:46:11.75 ID:R409ZOpN0
◇
「高森さんも、白菊さんにはあまり近寄らないほうがいいと思います」
白菊さんを避ける子の一人―――仮にA子さんとしておきます―――は、白菊さんと同時期にスカウトされた子です。
たしか以前、白菊さんの気づきによって資料棚から助けられたのも、この子です。
そのA子さんに面と向かってそう告げられたのは、更衣室で偶然その子と二人きりになった時の事でした。
多分、私と二人きりになれるときを、待っていたのでしょう。
誰かと親しくしない方が良い―――などと勧めるのは、正直関心しないことです。
だけど私は、それをたしなめようと思う前に、まず驚いて―――あっけに取られてしまいました。
彼女は、決してこういうことをするタイプの子では無かったからです。
とてもまっすぐで、頑固すぎるところがあるけれど、優しくて気遣いの出来る、そんな女の子―――
決して短くない期間レッスンを共にする中で、私はA子さんにそういう印象を抱いていました。
それに―――そう告げる彼女の顔はあまりにも深刻で、苦しげに見えました。
何が、彼女をそれほど苦しめているのでしょう。
簡単に否定したり、たしなめたりしてしまって良い話ではない。
その時私には、そう思えました。
「―――どうして?」
だから私はできるだけ穏やかに、静かな調子でそう問います。
「……高森さんは『不幸の子』の話を聞いたことがありますか」
そして、彼女から帰ってきたのは、そんな奇妙な言葉でした。
聞いたことはありました。
それは『芸能界の怪談』とでも言うような、不思議な噂です。
いわく、次から次に事務所を潰す、不幸の申し子がいる。
申し子は抜けるように色が白くて、少し紫がかった瞳をしていて。
もし自分の事務所にその子が来たら、様々な不幸な事が起きるようになって、事務所はつぶれ―――おしまいになってしまうんだ、って。
知ってはいましたが、無論本気で信じていたわけでもありません。
芸能界というのは、噂や伝説の多いところです。
そして噂には、すぐに面白おかしい尾ひれがつくものです。
私は『不幸の子』の噂も、小さな何かに尾ひれのついた、ただの噂に過ぎないと思っていました。
そんな噂は、信じていませんでした。
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