73: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/05(金) 21:57:02.11 ID:c1/viYU+0
痕跡本、と言う。
そのまんま、痕跡のある本のこと。折り目に限らず、書いた本人にしか分からないメモ書き、栞に使ったノートの切れ端、果てはぺしゃんこになった羽虫等々。その本にしか無い痕跡に興味を持つという嗜好。
調べてみると痕跡本専門の古本屋もあるそうで、色んな世界があるなと感心する。
74: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/05(金) 21:58:08.20 ID:c1/viYU+0
丁重に扱えよ、と言って本を貸した。
あいつは痕跡を残すような本の扱いはしないと思うが、あいつの部屋に私の本があるというだけでも嬉しい。ああ、カレーの匂いでもついて返ってきたら面白いかもな。
75: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/05(金) 21:59:21.20 ID:c1/viYU+0
【夢魔】
痕跡本と言うらしい。
76: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/05(金) 22:00:24.54 ID:c1/viYU+0
正直、勉強以外での読書の習慣はほとんど無い。だが借りた以上は読まずに返す訳にも行かないので、寝る前の時間にちょびちょびと読んでいる。
これまで馴染みの無かった、恋愛小説というものを。
しかし、それによって少し困った事になった。
77: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/05(金) 22:02:04.29 ID:c1/viYU+0
顕著に開き癖のついているページは、彼女のお気に入りのシーンなのだろう。そのページには水滴のような皺がぽつぽつと付いていて、それは、たぶん、涙の跡だ。
彼女がお気に入りのシーンを読んで涙を流した証拠となる。
全てのページの端に付いている微かな曲線は、彼女の繰り方の癖のせいだと推察できる。
78: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/05(金) 22:03:19.19 ID:c1/viYU+0
つまり、これは、彼女の一番お気に入りの恋愛小説という事になるんじゃないのか。
その事に気が付いてしまってからは、どうにも妙な気持ちになってしまった。
彼女の事を考えながら恋愛小説を読む。そして、そのせいで甘ったるい夢を毎夜見る。困る。
79: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/05(金) 22:04:37.53 ID:c1/viYU+0
そんなことを考えていたせいでページを繰る手が止まり、うっかり開き癖を付けてしまった。彼女はこのページに開き癖が付いた理由を考えるだろうか。
むう。
80: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/05(金) 22:05:33.73 ID:c1/viYU+0
今度こそ終わり
またね
81: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/06(土) 17:48:13.88 ID:shJ2K7Y00
始めます
82: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/06(土) 17:49:44.14 ID:shJ2K7Y00
【漁鬼の鵯・まほ】
日曜日。
眩しい。揺れるカーテンの隙間から射し込む光が顔に当たり、目が覚めた。窓に目を遣ると、結露した水滴がきらきらと光っている。
83: ◆nvIvS/Qwrg[saga]
2018/01/06(土) 17:50:53.52 ID:shJ2K7Y00
「んー、どうしたー」
ため息にでも聞こえたか、千代美が目を覚まして声を掛けてきた。
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