29:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:49:37.00 ID:IXrGOWADO
ふと姿を見かければ、大抵何かを謝っている。被害を与えている。
一緒にレッスンすれば、トレーナーさんが遅れる、ラジカセが壊れる。
バックダンサーをさせれば、機材は不調、照明は落ちてスピーカーは故障、衣装は届かず出演者は急病でバタバタ倒れる。
正直侮ってたけど、ここまで来ると本物だった。
どれも私たちのプロダクションは乗りきってきた道だから対処は出来たけど、ほたるちゃんの泣きそうな顔は晴れなかった。
30:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:50:15.73 ID:IXrGOWADO
生憎放っておける夕美ちゃんではないのだ。
「幸福の木……?」
事務所に来てしばらくして、私はほたるちゃんにひとつの観葉植物の植木鉢を渡した。
31:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:51:06.05 ID:IXrGOWADO
「その……私が育てたら……枯れるんじゃないかと……」
案の定、ほたるちゃんは唐突な無理難題に目を白黒させて、ついでにキョロキョロさせて、逃げ道を探していた。
「大丈夫大丈夫、ほたるちゃんに毒があるわけじゃあないでしょ?」
32:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:51:46.99 ID:IXrGOWADO
言ってることは詩的だけど本人は真剣。
こりゃ重症だ。この先この子はどうアイドルしていくんだろう、
と、考えて。
ふと、疑問に感じた。
33:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:52:35.12 ID:IXrGOWADO
毒があるなんて自己申告しといて。
近づかないでと願っておいて。
アイドルって、中心で輝く存在じゃないの?
何故、自分から振り撒く立場を目指すんだろう?
嫌味な感じの質問だけれど、私自身のために断っておくと、別にほたるちゃんを虐めようという魂胆は全くない。ゼロだ。不憫な子に笑ってほしくて近づいた。その点、私はアイドルだ。
34:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:53:11.96 ID:IXrGOWADO
「…………憧れ、なので……」
迷った挙げ句、出た言葉はたったひとつ。何の説明も出来てない、単語ひとつきり。
それだけで全てを説明しきれると、その目は語っていた。
逸らしっぱなしだった目を、はじめてしっかり合わせて、言ったのだ。
35:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:54:02.10 ID:IXrGOWADO
「そっか」
夕美ちゃんはものわかりがいいのです。
「そっかそっか。じゃあさ、やっぱり」
36:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:54:43.81 ID:IXrGOWADO
白菊ほたるには毒がある。
13年、茨の道を歩いてきて、そうして醸成された毒だ。
それは確実に、白菊ほたるに触れた人々を虜にして放さない。
白菊ほたる自身も、その毒が歩みを止めさせない。
確実に、彼女は花開いていた。
37:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:55:09.49 ID:IXrGOWADO
でも毒は毒だ。
やっぱり、私としては、健康が一番だと思うわけです。
38:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:55:57.14 ID:IXrGOWADO
「ところでほたるちゃん、今日のお仕事は?」
「今日ですか……えっと、GBNSのみんなとファッションモデル、そのあとでバラエティー収録です」
水やりを終えたほたるちゃんに聞くと、そんな答えが返ってきた。
39:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:56:27.57 ID:IXrGOWADO
「そっかそっか。楽しんできてねっ」
「はい……えへへ」
白菊ほたるには毒がある。
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