橘ありす「二人ぼっちのアリス」
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1: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/09(木) 12:01:51.38 ID:/E20kLoAo
 名前、それは燃える生命。

 ひとりぼっちでいた頃、私はアリスという自分の名前が嫌いだった。
 だいたい、私は典型的な日本女で、しょっちゅうからかわれた。

 私は目立たないよう目立たないよう、おっかなびっくり日々を過ごしていて、
気がつけば重荷を背負うような猫背が癖になっていた。

 ひとつの救いは、私の名前をからかうのはもっぱら教師や大人ばかりで、
同世代の人間はごく普通に接してくれたことだった。

 子供のうちは、いいけどね……――なんて言う人も、過去にはいた。

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2:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:03:12.79 ID:/E20kLoAo
 アリスという名前が、いまは好きだ。
 三十の坂を越えようかというところ。
 歳を重ねていくごとに、名前が自分自身に馴染んでいくような気持ちがしている。

 私は現在、小学校の教員として働いていて、
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:04:19.54 ID:/E20kLoAo
 橘ありす――。

 いまや押しも押されぬ人気アイドルとして、様々な業界から引っ張りだこという話だ。
 けれど、あの頃の彼女の夢は、歌手になることだった。
 芸能界で活躍しているとはいえ、必ずしも思い描いていたままの夢を叶えたわけではないのだと思う。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:05:14.73 ID:/E20kLoAo
「アリス」と名前を呼ばれるたび、私は、あの少女を思い出さずにいられない。

 ありす、同じ空の下のアリス。二人ぼっちのアリス。

 ずっと迷っていてほしい。迷って、傷ついて、それでも夢を忘れないでいてほしい。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:11:23.01 ID:/E20kLoAo
 ――――

 雨――、夏休み明けの一週間は雨が続き、暑い夏をゆっくりと冷やしていた。
 この雨に残暑の残り香がさらわれたら、きっと秋になるだろう。

以下略 AAS



6:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:14:52.23 ID:/E20kLoAo
 喧嘩らしい。いまは口論に留まっているが、一触即発の事態だという。
 私は焦った。どうも、長い休みのあとで、すっかり平和ボケしてしまったようだ。

「それで、誰が喧嘩を?」

以下略 AAS



7:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:20:01.27 ID:/E20kLoAo
 どうやら、すでに一触即発の状態は脱してしまったらしい。
 推察するに、ありすが男子を言い負かした、ということだろう。

 二人の衣服に乱れはなく、机がぶっ倒れていたり、なにかがひっくり返ったりしているわけでもない。
 とりあえず、掴み合いに発展しなかっただけよかった――私はホッとため息をついた。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:21:59.72 ID:/E20kLoAo
「喧嘩じゃありませんよ、先生」と、ありすは言った。

 それはあまりにきっぱりとした言い方で、私はついつい面食らってしまった。

「ちげーよ! こいつが泣かせたんだよ!」
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:23:24.95 ID:/E20kLoAo
「それで、なにがあって喧嘩したの?」

「喧嘩じゃありません」

 ありすはまたピシャリと言った。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:25:05.45 ID:/E20kLoAo
 ことの発端は橘ありすの持っているタブレット端末だった。
 放課後、タブレットを操作するありすを、彼が咎めた。
 規則上、タブレットは学校に持ってきてはいけないものだ。
 そうして、口論に発展したそうだ。

以下略 AAS



11:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:25:58.67 ID:/E20kLoAo
「え、ああ、……ごめんね。それで、橘さんは?」

「話に嘘はありません。だけど、先につっかかってきたのは向こうです」

 ありすの言い方に、私は思わず苦笑してしまった。
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:28:26.65 ID:/E20kLoAo
「きちんと話してくれてありがとう。先生も一生懸命、このことを考えるからね」

 そう言って、私は彼を先に帰してやったが、ありすはそれに不満を募らせている様子だった。

「決着がまだついてません」
以下略 AAS



13:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:29:34.87 ID:/E20kLoAo
「私が悪いんですか? 私が悪者だから、あの子を先に帰らせて、じっくりお説教っていうことなんですか?」

「ううん、そういうことじゃなくて、いろいろ聞きたいのね、先生。
 ……橘さんは、いつからタブレットを持ってきていたの?」

以下略 AAS



14:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:30:50.47 ID:/E20kLoAo
 私はそれを聞いて困った。
 確かに、連絡手段としてのスマホ、携帯電話は黙認に近い形で見逃されている。
 小学生とはいえ、いまどき珍しくない。が、タブレット端末となると、ちょっと微妙なラインだろうか。

 なにしろ、大きい。畢竟、目立ってしまうから、今日のように(良く言えば)正義感のある子を刺激してしまう。
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[sage]
2017/11/09(木) 12:32:47.80 ID:gx0aw+sAo
それスマホでも同じこといえますよね?


16:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:43:20.29 ID:/E20kLoAo
「今日は、すこし遅くなるからって連絡をしたんです。ただそれだけですよ」

「うん。ありすちゃんの使い方に悪いところはないって、先生も思う」

「そうですよね」と、ありすはホッとしたようだった。
以下略 AAS



17:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:52:38.08 ID:/E20kLoAo
「あっ、持ってきちゃダメって、先生言ってるわけじゃないんだ」

「じゃあ、どうすればいいんですか?」

「提案があるんだけど、……橘さんが朝、登校してくるじゃない?
以下略 AAS



18:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:56:00.73 ID:/E20kLoAo
「わかりました。それじゃあ、あの、そろそろ、いいですか?」

「うん、今日は遅くまでごめんね、さようなら」

「はい。さようなら」
以下略 AAS



19:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:58:03.39 ID:/E20kLoAo
 いま、私が受け持っているクラスは6年生。
 12歳――意外に大人びた部分と、まだまだ子供らしい部分とが入り混じる難しい年齢。
 けれど、みんないい子ばかりだ。「アリス先生」と私を慕ってくれている。

 思い返せば、ありすとまともに話をしたのは今日が初めてかもしれない。
以下略 AAS



20:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:02:45.80 ID:/E20kLoAo
 ――――

 あれから、毎朝、ありすは約束通り私にタブレットを預け、放課後に受け取って帰る。
 お願いします、ありがとうございました、といちいち丁寧な子である。
 しつけが行き届いているのだろう。
以下略 AAS



21:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:05:01.77 ID:/E20kLoAo
「ええ、構わないわよ。どうぞ、座って」

 私はパイプ椅子を取って、デスクの傍に置いた。

「あ、……すみません」
以下略 AAS



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