51: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:50:18.12 ID:r5zFZECu0
彼女は俯いてしまって、それから暫く言葉を返さなくなった。
首元のブローチが揺れている。
その姿はどうしてだか、祈っているようにも見えた。
52: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:50:55.75 ID:r5zFZECu0
それから数日が経過した朝のことだった。
53: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:52:09.93 ID:r5zFZECu0
デスクで資料をまとめていると内線がかかってきて、繋ぐとプロダクションの受付からだった。
なんでも僕と連絡を取りたいと話す人がきているらしい。誰とアポイントがあるわけでもなかった。
誰なんだろうと訝しんでいると、受付が言葉を続けた。
54: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:53:23.82 ID:r5zFZECu0
空いていた会議スペースをおさえて、そこに彼女を通した。
彼女からチェスターコートを預かる。彼女は品の良い薄桃色のブラウスを身に着けていた。
雪のように白い肌によく映えている。
55: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:54:53.10 ID:r5zFZECu0
「一つだけ、確認させてください」
「私がアイドルになったとして、誰かを幸せにすることは本当にできるのでしょうか?」
56: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:55:45.39 ID:r5zFZECu0
「僕は、あなたが輝くためだったら、なんだって協力します」
当時は、彼女のためにどうしてこんなにも行動できるのかが、我ながらうまく説明できなかった。
でも少し考えてみれば、それは当然のことだと気付けた。
57: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:56:26.00 ID:r5zFZECu0
奮発して購入したワインは酸味と甘みのバランスが取れていて、とても飲みやすかった。
加え入れたジャムの果実感も味を濁すことなく、むしろ鼻に抜ける香りが良かった。
それを少しずつ飲みながら、ぼんやりと昔のことを思い出していた。
58: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:57:11.28 ID:r5zFZECu0
「無事、経営を立て直すことが叶い、平穏に年を越えることができるようになった、と」
えへへ、と彼女が笑う。
59: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:59:55.82 ID:r5zFZECu0
「P様がいなければ、今頃教会はどうなっていたともわかりません」
「本当に、ありがとうございます」
かしこまって深々と頭を下げる彼女を、ただ見つめる。
60: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:01:06.46 ID:r5zFZECu0
アイドルになって、彼女の生活は大きく様変わりした。
プロダクションの女子寮に引っ越し、他のアイドル達と寝食を共にするようになった。
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