33: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:23:23.57 ID:r5zFZECu0
「ここでは、祈ることができます」
最初に彼女はそう言った。
「祈らず、座るだけでも構いません」
34: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:24:06.23 ID:r5zFZECu0
拒む理由はなかった。
「Pと申します」
35: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:25:17.77 ID:r5zFZECu0
クラリス。頭の中で何度かたしかめるように繰り返す。
彼女に対して勝手ながら築いていたイメージにそぐう名前だった。
36: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:27:05.63 ID:r5zFZECu0
「ええと、本日はこちらに、どのような御用でいらっしゃいましたか?」
思い出したように、彼女がそう切り出した。
37: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:27:46.35 ID:r5zFZECu0
「クラリスさん」
小さな声でも、この教会の中では僅かに響く。
「アイドルに興味はありませんか」
38: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:29:42.51 ID:r5zFZECu0
アイドルには、二通りの生まれ方がある。
自分からそうなりたいと願い、オーディションを経て選ばれるものと、
スカウトによって、本人の意志とは遠いところから選ばれるものと。
39: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:30:45.58 ID:r5zFZECu0
スカウトした相手にも、それまでに送っていた人生がある。
学校、仕事、家族、恋人。
40: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:32:06.21 ID:r5zFZECu0
彼女と初めて会った晩に手渡されたコピー用紙には、経営の行き届かなくなった教会に対しての寄付を募る旨が書いてあった。
端正な文字で、迂遠に記されてこそいたけど、このままだと遠くない先に売り払わなければならなくなるとも。
41: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:32:49.34 ID:r5zFZECu0
それでも彼女の笑顔には、温かさがあった。
その歌声には、心を震わせる魅力があった。
なににも代えがたいひかりが宿っていた。
42: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:34:06.93 ID:r5zFZECu0
「私が、アイドルに、ですか?」
口をぽかんと開けて、彼女が尋ねてきた。
「はい」
43: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:35:18.11 ID:r5zFZECu0
下世話な話だけど、アイドルだって職業である以上、仕事ぶりに応じて給料を得ることができる。
彼女がトップアイドルとして活躍できるようになれば、時間をかければ教会を立て直すことも不可能じゃない。
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