11: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:25:36.46 ID:/ROXo52E0
「弊社としては、このまま彼女を広告に立てても良いと考えているのですが……いかがですか」
「それはありがたいお話です。でも、私どもだけがここに来たというわけではありませんよね」
「えぇ。実は昨日既に二つ。でもなんというか、こう……なんですかね、変な話、私の中の神様が目の前の方々にせよとささやいておりまして……。いかがです?」
彼は心に神様を飼っているのか。そういう感覚、私は第六感と呼ぶ。
静香の方を見た。静香もまた私を見ていた。どうやら、意見は一致しているようだ。
12: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:26:16.88 ID:/ROXo52E0
「なんか思ってたのと違ったな」
「そうですね」
「スポーツドリンクだって聞いたから、実はテニスをやってる静香にちょうど良いかなと思って選んだんだけどな。なんか悪い」
13: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:27:06.92 ID:/ROXo52E0
車のデジタル時計を見ると昼少し前だった。
こんなにスムーズに終わる営業というのも珍しいというか、あっけないというか。
いつもならお願いしますと頭頂部を見せることばかりだというのに。
ウインカーを出してハンドルを切る。高速道路の入り口へ。
信号に強制されない、ただひたすらに無機質な景色が高速で流れ、続く、せわしなくて、長くて、つまらない道。
14: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:27:47.55 ID:/ROXo52E0
「付き合ってくれないのか」
「別に。どうせすぐには高速を降りれないでしょうし、仕方ないから付き合いますけど。……ってなに笑ってるんですか!」
「いや別に。ただちょっと」
「何ですか? 言いたいことがあるならハッキリ言ってください!」
「あー車の運転に集中するから駄目だ」
15: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:28:59.78 ID:/ROXo52E0
しかし高速道路にだって、都市のドライブにはない良さがある。
その良さは無機質な退屈故に発生するのだ。
そしてその受容は起きている者だけの特権である。
クーラーを消して少し窓を開ける。
16: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:29:59.62 ID:/ROXo52E0
正解だろうが不正解だろうが、そのつもりだった。
静香、あれは徒労の嘘だぞ。
熊のぬいぐるみは間違いなく未来からのプレゼントだ。
それで正解。私の六感は見事に的中させたのだ。
17: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:30:52.94 ID:/ROXo52E0
高速を降りる。目的地は下道をしばらく走ったところにある、はずだ。
なにせ初めて来る。だがナビを使うほど複雑ではない。
ただ一本道が続くばかり。稲の刈り取られた匂いがほんのり香る。
時刻は昼過ぎ。少し遅くなったが、まぁ良いだろう。
その舗装された一本道から外れて、ガタガタの道をゆっくり走らせ、
18: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:31:32.13 ID:/ROXo52E0
両方の小指をくねくねさせて遊び始めるとすぐに、静香は起きた。
「……ん、寝ちゃってました」
「おはよう」
19: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:32:21.47 ID:/ROXo52E0
周囲の大木によってドーム状になったこの空間では、空が全然見えない。
大木にくっついた無数の葉を透過して、木漏れ日が射しているのだ。
それらは散らばって、地面に大小さまざまのモザイクを浮かび上がらせている。
ぽつりとある、暗い色合いをした木造二階建ての建物には、
至る所に蔓が伸びて、屋根の一部は、自然のドームから突き出してしまっている。
20: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:32:58.80 ID:/ROXo52E0
いらっしゃい、と案外若い男が出てきた。てっきりおばあさんか、
はたまたおじいさんが出てくるものかと思っていた。
「いま、イメージと違うって思いました? こんな若い男がって」
21: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:33:26.31 ID:/ROXo52E0
「わかりました! ……ところで、兄妹でご旅行ですか? ……いや、いとこ同士かな?」
「きょ、兄妹でもいとこでもありません! えと、私たちはその……」
「ちなみに、恋人同士でもありません」
「こ、恋人って……!」
「兄妹ではなし、いとこ同士でもなし。そしてカップルでもなし。なるほど、面白いですね。それじゃ、すぐにご用意しますんで」
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