17: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:30:52.94 ID:/ROXo52E0
高速を降りる。目的地は下道をしばらく走ったところにある、はずだ。
なにせ初めて来る。だがナビを使うほど複雑ではない。
ただ一本道が続くばかり。稲の刈り取られた匂いがほんのり香る。
時刻は昼過ぎ。少し遅くなったが、まぁ良いだろう。
その舗装された一本道から外れて、ガタガタの道をゆっくり走らせ、
18: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:31:32.13 ID:/ROXo52E0
両方の小指をくねくねさせて遊び始めるとすぐに、静香は起きた。
「……ん、寝ちゃってました」
「おはよう」
19: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:32:21.47 ID:/ROXo52E0
周囲の大木によってドーム状になったこの空間では、空が全然見えない。
大木にくっついた無数の葉を透過して、木漏れ日が射しているのだ。
それらは散らばって、地面に大小さまざまのモザイクを浮かび上がらせている。
ぽつりとある、暗い色合いをした木造二階建ての建物には、
至る所に蔓が伸びて、屋根の一部は、自然のドームから突き出してしまっている。
20: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:32:58.80 ID:/ROXo52E0
いらっしゃい、と案外若い男が出てきた。てっきりおばあさんか、
はたまたおじいさんが出てくるものかと思っていた。
「いま、イメージと違うって思いました? こんな若い男がって」
21: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:33:26.31 ID:/ROXo52E0
「わかりました! ……ところで、兄妹でご旅行ですか? ……いや、いとこ同士かな?」
「きょ、兄妹でもいとこでもありません! えと、私たちはその……」
「ちなみに、恋人同士でもありません」
「こ、恋人って……!」
「兄妹ではなし、いとこ同士でもなし。そしてカップルでもなし。なるほど、面白いですね。それじゃ、すぐにご用意しますんで」
22: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:34:00.13 ID:/ROXo52E0
若い店主は、悪びれた様子もなく去っていった。
出された水を一杯。冷たい。しかし森のうどんとは、直球だな。
「森のうどん、どんなだろうな」
返事はない。少し間が空いてから、静香は口を開いた。
23: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:34:53.01 ID:/ROXo52E0
「……あの、プロデューサー」
「なんだ」
「その、どうして私をここに?」
「そんなの決まってるだろ」
24: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:35:44.02 ID:/ROXo52E0
「誕生日プレゼント」
「え?」
「……誕生日プレゼント」
「……プレゼント、ですか?」
「ま、まぁ、そもそも物じゃ無いし、プレゼントではないし、そもそも? 私がうどんを出すわけじゃないし……。ありゃ、これってなんだ。……い、いや! これは誰が何と言おうとプレゼントだ!」
25: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:36:18.09 ID:/ROXo52E0
「ふふっ、わかってますよ。これはプレゼント。大切な、贈り物じゃないプレゼント」
「お待ちー! 森のうどんね」
「ありがとうございます。うまそうだ」
茸に山菜、薄めの出汁。素材の味がよく出ていそうだ。
「わぁ……これは美味しいですよ。絶対!」
26: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:37:08.23 ID:/ROXo52E0
うどんを啜る。あまり噛む必要のない麺類なのに、
あぁ食べている、という感じがする。
コシと言われて、その感じがピンとくる者は、案外少ないように思う。
私はピンとこない人間のはず。
しかし、このうどんには明らかに『コシ』なるものが存在する。
27: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:38:28.43 ID:/ROXo52E0
「毎度。また来てね」
「はい、また必ず」
「美味しかったです」
28: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:38:59.05 ID:/ROXo52E0
「はは」
「ふふっ」
「えっ、違うか……」
「違いますよ。残念、はずれです」
「じゃあ一体……」
29: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:39:32.07 ID:/ROXo52E0
「親子だってさ」
「あり得ませんね」
30: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:40:05.42 ID:/ROXo52E0
「え? ……まぁ。そうですね……。自信がなかったんです。アイドルですって言って、知らないなって顔をされることが、ちょっと怖くて」
「ん、自信がついて回るのはこれからだ。あの店主がホットスポーツドリンクの広告を見る頃には、もっと有名になっていればいい。『あぁ! これはあのときの! こんなに有名なアイドルだったなんて!』ってな。だから今はそれで良い」
31: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:40:39.27 ID:/ROXo52E0
「……あの、手伝ってくれますか? 私ひとりじゃまだ……」
「当たり前だ」
「ありがとうございます! 私頑張りますから!」
車は高速を走る。無機質な風景がいつまでも続くのだ。傾き始めた光が、徐々に空を茜色に染めていく。あぁ、秋だなと思う。
「あっ、ところで」
32: ◆qnzB3T3fLO3s[sage]
2017/09/14(木) 23:43:50.77 ID:/ROXo52E0
以上になります。ここまでありがとうございました。
誕生日おめでとう。
酉の文字列を忘れてしまい、酉は違いますが過去作です。こちらも宜しければ。
33:名無しNIPPER[sage]
2017/09/15(金) 01:26:48.66 ID:AZ9HR3aIo
グッド
34: ◆NdBxVzEDf6[sage]
2017/09/15(金) 03:06:11.54 ID:mycm79Yg0
おめでとうございました、乙です
>>2
最上静香(14) Vo/Fa
i.imgur.com
35:名無しNIPPER[sage]
2017/09/15(金) 09:06:34.15 ID:Q/cySJJD0
乙うどん!
36:名無しNIPPER[sage]
2017/09/15(金) 10:53:26.86 ID:lsh6nCT3O
ぬいぐるみは志保かと思ったが静香に渡すタイプじゃなかったわ
乙
37:名無しNIPPER[sage]
2017/09/16(土) 00:56:06.67 ID:vzZVfahs0
おつおつ
37Res/18.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20