22: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:34:00.13 ID:/ROXo52E0
若い店主は、悪びれた様子もなく去っていった。
出された水を一杯。冷たい。しかし森のうどんとは、直球だな。
「森のうどん、どんなだろうな」
返事はない。少し間が空いてから、静香は口を開いた。
23: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:34:53.01 ID:/ROXo52E0
「……あの、プロデューサー」
「なんだ」
「その、どうして私をここに?」
「そんなの決まってるだろ」
24: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:35:44.02 ID:/ROXo52E0
「誕生日プレゼント」
「え?」
「……誕生日プレゼント」
「……プレゼント、ですか?」
「ま、まぁ、そもそも物じゃ無いし、プレゼントではないし、そもそも? 私がうどんを出すわけじゃないし……。ありゃ、これってなんだ。……い、いや! これは誰が何と言おうとプレゼントだ!」
25: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:36:18.09 ID:/ROXo52E0
「ふふっ、わかってますよ。これはプレゼント。大切な、贈り物じゃないプレゼント」
「お待ちー! 森のうどんね」
「ありがとうございます。うまそうだ」
茸に山菜、薄めの出汁。素材の味がよく出ていそうだ。
「わぁ……これは美味しいですよ。絶対!」
26: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:37:08.23 ID:/ROXo52E0
うどんを啜る。あまり噛む必要のない麺類なのに、
あぁ食べている、という感じがする。
コシと言われて、その感じがピンとくる者は、案外少ないように思う。
私はピンとこない人間のはず。
しかし、このうどんには明らかに『コシ』なるものが存在する。
27: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:38:28.43 ID:/ROXo52E0
「毎度。また来てね」
「はい、また必ず」
「美味しかったです」
28: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:38:59.05 ID:/ROXo52E0
「はは」
「ふふっ」
「えっ、違うか……」
「違いますよ。残念、はずれです」
「じゃあ一体……」
29: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:39:32.07 ID:/ROXo52E0
「親子だってさ」
「あり得ませんね」
30: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:40:05.42 ID:/ROXo52E0
「え? ……まぁ。そうですね……。自信がなかったんです。アイドルですって言って、知らないなって顔をされることが、ちょっと怖くて」
「ん、自信がついて回るのはこれからだ。あの店主がホットスポーツドリンクの広告を見る頃には、もっと有名になっていればいい。『あぁ! これはあのときの! こんなに有名なアイドルだったなんて!』ってな。だから今はそれで良い」
31: ◆qnzB3T3fLO3s
2017/09/14(木) 23:40:39.27 ID:/ROXo52E0
「……あの、手伝ってくれますか? 私ひとりじゃまだ……」
「当たり前だ」
「ありがとうございます! 私頑張りますから!」
車は高速を走る。無機質な風景がいつまでも続くのだ。傾き始めた光が、徐々に空を茜色に染めていく。あぁ、秋だなと思う。
「あっ、ところで」
32: ◆qnzB3T3fLO3s[sage]
2017/09/14(木) 23:43:50.77 ID:/ROXo52E0
以上になります。ここまでありがとうございました。
誕生日おめでとう。
酉の文字列を忘れてしまい、酉は違いますが過去作です。こちらも宜しければ。
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