278: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/09/30(土) 10:32:21.10 ID:ktVirj9S0
加蓮は、離脱時間をもっと延長してもいいのではないか、と考えていた。
最近は体が半身浴に慣れてきたのか、自らが課したルールの30分いっぱいまで離れていても、それほどの疲労は感じなくなっていた。少なくとも前のように翌日のレッスンにまで影響が出るということはない。
不安があるとすれば、お湯の温度だ。30分離脱してから目覚めたとき、お湯はかなり冷めている。あれ以上温度が下がったお湯に浸かっていたら風邪を引いてしまうかもしれない。
だったらお湯を多めに、普通に入浴するときと同じくらいの量でやってみたらどうだろう? 多少は冷めにくくなるはず、だけど体力の消耗は大きくなるかな?
なにごともやってみなくちゃわからない、失敗したら失敗したで、今後の糧にすればいいんだ。だって人生は長いんだから。
そもそも、それで離脱はできるのだろうか? という疑問もあったが、実際にやってみると、あっさりと体から抜け出せた。どうやら離脱の条件にお湯の量は関係なく、温度が重要らしい。
その日、加蓮が肉体から離脱して10分ほど経ったころ、突然ぐらりと視界が揺れた。
めまい? と思いながら空中に静止する。違う、幽体にめまいなんて起こるはずがない。
揺れてるのは加蓮ではなかった、地面が揺れていた。
地震……けっこう大きいかな?
空中にいる加蓮は振動を感じることはない。だが自分自身が揺れに含まれることなく、景色だけが揺らいでいるというのは、どこかゾッとする光景だった。大地や建物がゆらゆらと揺れるさまは、なにか得体の知れない巨大な生き物が身をくねらせているようにも見える。
地震は、30秒もかからずにおさまった。道中で足を止め、様子をうかがっていた人々がわらわらと動き始める。遠くの方では、止まっていた電車も走り出した。
建物が倒壊するほどの規模ではなかったにしろ、まるで一時停止していた動画を再生したかのように、さっさと動き始める地上の人々の姿が、加蓮には、なんだか異様に映った。
加蓮は、はっと我に返って反転し、元来た道を全速力で飛んだ。
自宅から現在地まで、およそ10分の時間がかかっていた。当然、帰りにも同じくらいの時間がかかる。
体は! アタシの体は大丈夫!?
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