1:名無しNIPPER[saga]
2017/08/14(月) 17:47:15.16 ID:O2qgAIKjO
昼下がりのシーカーキャンプ。食事を済ませ一息ついた時、手袋に染みが付いているのに気付く。汁物が跳ねたのだろう。
手袋を脱ぎーー自分の手が露わになる。
「…………」
千人楔ーー遺物が無数に埋め込まれた醜い手。手の甲の楔をゆっくりと撫ぜる。
最初に千人楔を打ち込んだのはいつだっただろうか。余りに遠い過去で、もうよく思い出せない。
ただ、最初の一本目はアビスへの探究心がそうさせたのは間違い無い。これがあれば、より深く潜れる。深淵に近づく事ができる。そしてーーーー傷ついた。
そうこれは傷跡。アビスからの消せない傷なんだ。我ながら異形だな、と思う。捻れた頭皮に醜い体。喪失した心の何か。白笛と引き換えに失ったーーーー。
ーーその傷は、心折れようと奈落に挑み続けた不屈の証だ。
「……フフフ」
そういえば可笑しな事を言う奴もいたな。思わず笑みが漏れる。
「お師様……?」
「…………」
気付けばマルルクが不安そうな顔で私を見ていた。そりゃ1人で笑っていたら不安にもなるか。
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2:名無しNIPPER[saga]
2017/08/14(月) 17:48:09.40 ID:O2qgAIKjO
「……マルルク、お茶を持って来てくれ」
「は、はい……」
マルルクの後ろ姿を追いながらふと思う……そういえばこんな風に昔の事を思い出すのは久しぶりだな、と。
3:名無しNIPPER[saga]
2017/08/14(月) 17:49:27.51 ID:O2qgAIKjO
頭皮は捻じ曲がり、心は人間性を失い……そして白笛を得る為にーー。
もう、戻れなかった。過去に戻る扉には無数の楔が打ち込まれでしまったんだ。
……そんな時だったな。アイツが来たのは。
4:名無しNIPPER[saga]
2017/08/14(月) 17:50:34.51 ID:O2qgAIKjO
「その傷は、心折れようと奈落に挑み続けた不屈の証だ!」
満面の笑みで小娘は言った。
思わず笑ってしまったのを覚えている。アビスの呪いを不屈の証だなんて言う奴は初めて見たからだ。
5:名無しNIPPER[saga]
2017/08/14(月) 17:51:13.92 ID:O2qgAIKjO
ライザはメキメキと成長して行き……彼女はあっと言う間に黒笛になっていく。
「どうだ、もう直ぐオーゼンに追い付くぞ!」
初めの頃と同じ笑顔でライザはそう言った。アビスに潜り体も心にも傷を負った筈。
6:名無しNIPPER[saga]
2017/08/14(月) 17:52:06.78 ID:O2qgAIKjO
そしてある日……彼女の瞳が陰ったのを初めて見た。
油断していたーーと言えば簡単だけど、それは絶望的な状況だった。深層で他国の探窟家に嵌めらたのだ。
7:名無しNIPPER[saga]
2017/08/14(月) 17:53:34.02 ID:O2qgAIKjO
「……ああ。平気……さ」
「……っ。オーゼン!」
まるで子供の様に私の胸で泣き?る。罠に嵌められ私と引き離されて、必死に探したのだろう。体中傷だらけだ。
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