33:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:13:39.41 ID:5FDHqpH0O
――五神島南部海域
「北上さんはこれが初出撃なの?」
「あー、そうだよー」
「すごいすごい! 私、初出撃のときは前にぐるぐる回転したり、他の子にぶつかっちゃったりしたから……」
34:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:15:05.84 ID:5FDHqpH0O
――十四センチ単装砲を構え対空戦闘用意。
「……きましたっ!」
「うっつよ〜!」
――十二.七センチ砲と十四センチ単装砲斉射。しかし、敵偵察機には当たらず。敵偵察機は北進し、直線方向に逃れようとした。
「逃がすものですかっ!」
35:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:15:37.81 ID:5FDHqpH0O
「分かってるよ。敵の思惑は私たちに偵察機を追いかけさせて背後から雷着観測雷撃をさせること。もうその手にはひっかかりませんっ!」
――五月雨、北上、雷撃を回避し、雷跡をすばやく溯る。
「なるほどね〜五月雨ちゃんかしこーい!」
「それじゃあ、爆雷投下しますよ!」
「りょーかいっ!」
36:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:16:08.58 ID:5FDHqpH0O
初陣は完璧な勝利か。ひとまず安心だ。柱島に報告したら報酬として艦娘一隻でも編入できればいいのだが……。
「ただいま帰還しましたっ!」
「帰ったよ〜」
司令室に二人が上機嫌に報告に来た。まったくかわいいものだ。
37:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:16:55.01 ID:5FDHqpH0O
この日の夕飯は、五月雨がスパゲティとピザを作ってくれた。もちろん、量は四人分にしては多いなと思える量であった。
「五月雨ちゃん、これ量多くない??」
妹も同じくして、その疑問を五月雨に投げかけた。
「明石さんが大食いだから〜」
38:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:17:32.63 ID:5FDHqpH0O
「私は普通かな。そもそもそんなに呑まない。司令官たる者は常に正常な判断が出来るような状態になければならないからね」
「ふーん、かっこいいこと言うじゃん」
「そういえば、北上は部屋どこに決まったんだ?」
「あー、私? 私は五月雨ちゃんの勧めで、三階の指揮所の隣の部屋になったよ〜。階段上がって左奥のとこ」
「そうそう、私が北上さんにすすめてあげたんです! 三階のあそこの部屋は広いですし、清潔感もあって眺めもいいですから!」
39:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:18:09.04 ID:5FDHqpH0O
今日のスパゲティはアラビアータでこれも程よい辛さでなっかなかにうまい味であった。ピザもトマトとバジルの酸味が絶妙でうまい、えっ、私は彼女らの会話の間に入れてない? 仕方が無い。就職浪人を二年続けるとコミュ力も落ちるのだ。しかし妹は、二年浪人してもコミュ力は落ちない。女というのは喋るのが生きがいだからどっかで毎日べらべら喋ってたんだろう。
「そいえば、五月雨ちゃんって前はどこにいたの??」
「…………前に着任してた司令部ということ?」
「うん、そだよ。聞けば五月雨ちゃんも最近ここに着任してきたばかりって聞いたよー」
「――私は、八島泊地にいたよ。それで最近この司令部に編入になったの」
40:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:18:44.67 ID:5FDHqpH0O
「あぁ、それはね……。だって、このくらいの距離なら単独航海できるし、私のために無駄な税金使われるの勿体無いもの……」
それを聞いていて、私は身が引き締まる思いがした。よくよく考えれば、この身の回りすべてが国民の血税で賄われているのだ。だから私たちはその見返りとして、国民を守らねばならないのである。
「なるほどー。だけど、艤装は整備費が凄く飛んでいくから、小船での移動の方が安上がりらしいよ。だからちゃんと命令通りに動けって、上官さんから伝言頼まれたよ」
「……そっか、私、また人に迷惑かけちゃった……」
「ううん、五月雨ちゃんはすごく優しいし、思いやりあるから、そんなに自分を責めることはないよ」
41:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:20:00.70 ID:5FDHqpH0O
夕食を終え、風呂を終えた私は、寝る前に今日一日の事を柱島の人事部に打電した。人事部から私あてに電報で次のような命令が下っていたからだ。
「一、司令官は、今日より毎日一度は柱島泊地人事部に貴泊池の状況を報告・打電すること。主観的に気になった事についても報告すること。なお、打電内容は司令部内外の者には秘密にすること」
いったい何の為なのかは分からないが、まぁ、命令なのだからしょうがない。
打電を終えると、私は席から立とうと椅子を半回転させる。……ん、なんだこれは?
42:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:20:48.10 ID:5FDHqpH0O
真夜中、扉をノックしたり開けようとしたりする音で吃驚して跳ね起きた。幽霊か。
おそるおそる寝室の内鍵を解除しドアノブをまわして開けると……。
――――出た。
「……おっ、お、お兄ちゃん?」
43:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:21:38.11 ID:5FDHqpH0O
いつもはあんなに楽観的で明るい目の前にいる妹が、背中を丸めて怯えている。それを見て私はどう声をかければよいのか戸惑った。
「私、けっこう軽い気持ちで、艦娘の適合者試験を受けたの。そしたら合格してラッキーなんて思ってた。入れば高待遇だし、福利厚生もしっかりしてるし、何より自分の秘められた力を活かしていける仕事ができるってことに魅力を感じたよ。けど、今日、初出撃して、そしてまたあの夢見て、とんでもないとこ来ちゃったんだなって……」
「……僕だって怖いさ。着任してから五月雨とお前の命を預かっているわけだが、人命を預かりながらその命を使って敵の脅威と対抗するという仕事にね」
司令官と言う仕事は敵が上陸もしくは空爆をしない限り命の危険は低い。それでも命を預かる身として、死の存在はとても怖いものである。預かる命を失うことは、自分もその瞬間いつか絶対そうなる事を直に認識させるだけでなく、相手をその究極の状態に追い込んだという罪が生まれるからだ。しかもそれは一生かけても消える事の無い事実として残る。
それでも軍隊と言うものは恐ろしいものだ。無意味な轟沈でなく、戦略上や防衛上発生した轟沈なら始末書一枚で形としては許されてしまうからだ。
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