17: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:12:12.37 ID:fE64C4yw0
* * *
終了後に控え室へ行こうとすると音無さんとすれ違う。今はみんなとお話しているみたいですからもう少し後にした方がいいと思いますよとアドバイスをいただいたので少し時間を置いた。私服に着替え終えたエミリーが花束や紙袋を抱えながら控室から出てきたところで声をかける。
「エミリー、お疲れさま」
18: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:12:55.74 ID:fE64C4yw0
* * *
空港に来るのなんてあまりないからつい周りを見てしまう。エミリーから教えてもらった場所はこのあたりのはずなのだが……。
「仕掛け人さま」
19: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:14:00.37 ID:fE64C4yw0
「まだ搭乗しなくても大丈夫なんだっけ」
「はい。まだ時間はありますよ」
「………ちょっと、その辺歩こうか」
そう提案して空港内を歩き回る。近くにあったお土産屋さんを覗いていく。富士山の置物を見てエミリーが欲しそうな顔をしていたので買ってあげた。エミリーが手に提げていた紙袋を持つ。
20: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:14:40.48 ID:fE64C4yw0
ガラス張りになっているあたりのロビーで休もうと思ったが椅子が余っていなかったので、並んで手すりにもたれかかった。
「もうすぐ、ですね」
「そうだな……」
「あの、私、幸せでした」
21: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:16:32.40 ID:fE64C4yw0
「本当は……、不安だったんです。憧れていたけれど、全く知らない土地で大和撫子を目指すということが、最初は怖かったんです」
「大和撫子になるなんて、こんな私が言って笑われはしないかと。以前は、大和撫子とは艶やかな真っ直ぐな髪で立ち居振る舞いの美しい女性のことを指すのだと思っていました」
「だから山に修行に行くなんて言ったり、激しく踊ることがはしたないと思ったりして、仕掛け人さまの三歩後ろを歩いたりすることで何とか理想の大和撫子になろうとしていたんです」
22: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:17:24.95 ID:fE64C4yw0
「エミリー?」
声に違和感を覚えて顔を覗き込もうとしたが帽子を盾にして塞がれた。震えている肩と声は気のせいじゃない。
「み、見ないでください!」
23: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:19:27.00 ID:fE64C4yw0
帽子に一粒、染みこんだ涙。それをぎゅうと握って誤魔化そうとするエミリーはひどく愛おしかった。
「大和撫子、なれませんでしたね」
なんでこの子はこんなにも。
24: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:22:21.23 ID:fE64C4yw0
その夢を叶えるために今まで隣にいた。支えてきたつもりだった。それでも、叶えたと思わせてやれなかったのは完全に自分の不甲斐なさのせい。
だけど、エミリーがそう思えなかったとしても。
「仕掛け人さまはこんなに支えてくださったのに。ご贔屓さま方もたくん応援して下さったのに。私は、わたしは……!」
25: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:23:50.10 ID:fE64C4yw0
そう言って頭をくしゃっとする。エミリーは帽子を顔から外して顔を上げる。涙で濡れた顔と腫れた目。
「しかけ、にん、さま……?」
「エミリーは大和撫子だったよ」
26: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:26:04.98 ID:fE64C4yw0
「エミリーはそう思わないかもしれないけど、エミリーは自分にとって大和撫子だったよ」
山に修行へ行こうとした日のこと。三歩後ろを歩こうとした日のこと。横文字を使おうとしなかったこと。初めて出会った日のこと。全部大事な思い出で、宝物で。
そんな思い出を積み重ねていくうちに、エミリーが自分にとってかけがえのない存在になっていた。
気がついたときにはもう、エミリーは大和撫子になっていた。
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