17: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:12:12.37 ID:fE64C4yw0
* * *
終了後に控え室へ行こうとすると音無さんとすれ違う。今はみんなとお話しているみたいですからもう少し後にした方がいいと思いますよとアドバイスをいただいたので少し時間を置いた。私服に着替え終えたエミリーが花束や紙袋を抱えながら控室から出てきたところで声をかける。
「エミリー、お疲れさま」
「仕掛け人さま! 来てくださったんですね!」
「あぁ、間に合ってよかった」
「そうですか。あの、それで……」
エミリーはもじもじと自分の顔を窺う。それで何が欲しいのかわかった。ただ一言だけが欲しいのだろう。
「最高だったよ。いいステージだった」
それを聞いてぱあっと顔を明るくするところが昔と全然変わらなくておかしかった。意外と表情が豊かなのだ。
「それ、そのまま持って帰るの大丈夫か?」
「はい! だって皆さんがくださったものですよ。お茶とかお菓子とか、お手紙とか……。ちゃんと自分の手で持って帰りたいんです」
「エミリーがいいならそれでいいけど……。あんまり無茶はするなよ?」
「大丈夫です! 車で父が迎えに来てくれることになっていますから」
「あぁ……、なるほど」
「それでは仕掛け人さま、失礼いたします」
「あ、エミリー!」
ぺこりと頭を下げて出口の方へ行こうとするエミリーに声をかける。エミリーは振り返って「どうしました?」と首を傾げた。
「ま、また明日。空港で!」
「はい。お待ちしておりますね」
もう一度頭を下げたエミリーは角を曲がって見えなくなる。
この「また」を言う日は今日限りなのだと思うとどうしようもなく胸が締め付けられた。
心に開いた穴に風が吹く。
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