26: ◆eF65jN7ybk[saga]
2017/07/02(日) 17:26:04.98 ID:fE64C4yw0
「エミリーはそう思わないかもしれないけど、エミリーは自分にとって大和撫子だったよ」
山に修行へ行こうとした日のこと。三歩後ろを歩こうとした日のこと。横文字を使おうとしなかったこと。初めて出会った日のこと。全部大事な思い出で、宝物で。
そんな思い出を積み重ねていくうちに、エミリーが自分にとってかけがえのない存在になっていた。
気がついたときにはもう、エミリーは大和撫子になっていた。
「でも、私には、そうは思えないです……!」
「引退のこと黙ってくれてたのとか、最後まで笑っていようとか、そうやって思うところが大和撫子みたいって思うけど」
思いやりの心を持つことがどれほど難しいことなのかエミリーは知っているのだろうか。それが意識的でも無意識でも、どちらだとしてもいい。
「それは、私が仕掛け人さまの悲しい顔を見たくないからで……! 結局私の、ためなんです。仕掛け人さまのためにやったことじゃなくて、私がそうしたかったからで」
「エミリー」
何度も呼んだその名を口にする。名前を呼ばれてはっと顔をあげた。
「それに、大和撫子っていうのは別に無理して泣かない人のことじゃない」
エミリーが帽子を落とした。それを拾いながら続ける。埃を払うとガラスからこもれた光が乱反射して輝いた。
「悲しいときは、いっぱい泣いていいんだ」
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