新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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99: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 21:50:54.52 ID:NJ9NkxEDO
専務のセリフで明後日の会見とありましたが、明日の会見の間違いでした。脳内訂正お願いします。


七月二十四日午後二時三十八分

以下略 AAS



100: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 21:52:08.03 ID:NJ9NkxEDO

昨日事情聴取にやって来た巡査部長が早朝から、美波たちがプロダクションに着くより先に待機していた。巡査部長は口を苦々しくきつく一文字に結び、顔の筋肉のこわばりが唇に続く筋を頬に作っていた。巡査部長の唇は鮮やかな桜のように血色の良い色をしていたが、こわばりのせいで見えなくなっていた。事件を説明した巡査部長は美波たちに気になる点や怪しい人物を見なかったか質問した。プロデューサーが真っ先に事実を報告した。佐藤が現れたとおぼしき時刻、美波とプロデューサーにむけて語った会話の内容、ちひろが異変を報告しにきた途端に会談の途中にかかわらす切り上げ去っていったこと、これらを簡潔に事実とそうでない部分を峻別しながら質問に答えた。巡査部長はちひろと美波にも同様の質問をした。ちひろはプロデューサーが言ったことに間違いはないと答えた。美波は答えるのにすこし迷っていたが、事実を曲げるようなことは言わなかった。

話を聞いた巡査部長は、帽子の男の正体を亜人狩りを生業とする密猟者の一味ではないかと推測し、プロデューサーらに警戒をより厳重にするよう忠告し去っていった。プロデューサーとちひろも巡査部長の推測、すくなくとも帽子の男は危険人物と見なすべきだという意見に賛成だった。美波も、状況証拠が匂わせる容疑の濃さを認めざるを得なかったし、実際プロデューサーやちひろにほぼ同意していた。しかし、美波にはもうひとつの可能性を検討する必要があった。佐藤が事実を語っていたという可能性。佐藤は亜人で、亜人管理委員会は亜人の虐待を行っていて、世間はそのことに無関心だという可能性のことだ。



101: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 21:53:11.77 ID:NJ9NkxEDO

この可能性は、佐藤が警官の失踪に関係があるという推測と矛盾しない。むしろ、上記の理由がそのまま動機となり得た。その場合、弟を佐藤に預けるのは安全といえるのだろうか。ある意味では、安全といえるのかもしれない。だがその安全とは、確保するために身分を偽ることや、ことによったら人を殺す必要性がある類いのものだ。社会的弱者が権利を拡大するのに、暴力が主張を訴える手段として選択されるのはどんな社会においても為されてきた。それはテロリズムとは別の文脈で検討されなければならない(しかし、家族がその運動に参加するとなると話は違ってくる)。

極端なこといえば、亜人管理委員会か佐藤のどちらかを選択することは、社会か周縁か、どちら側の味方になるのかを表明することだった。亜人管理委員会を選べば、弟は実験体にされる。佐藤が語ったような生体実験の事実がなかったとしても、亜人は貴重な生物であることにかわりはないから、呼吸や心拍音ですら研究のために計測され記録されるだろう。亜人と発覚した者は、研究対象されることによってはじめて社会の内側に存在することを許される。



102: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 21:55:24.76 ID:NJ9NkxEDO

佐藤の場合はどうなのだろう? 圭も監視カメラを破壊したり、人間の失踪に関わったりするようになるのだろうか? それとも佐藤はやっぱり亜人の味方で、圭に畳の上に蒲団を敷いた居心地の良い寝床を用意してくれるのだろうか(圭が安心できる部屋の風景のイメージが和風だったのは、おそらく研究施設に和室がないだろうと美波が想像していたからだった)?

いや、でもやっぱり、正直に言ってしまおう。わたしは不安を感じていたのだ。あの人の微笑みは穏やかでやわらかかった。ぎこちないところは少しもなくて、頬が上がると目尻の皺がいっしょになっていままさに線が描かれているかのように曲線が深くなった。でもあの表情は内面の感情から起こされたものではなかった。それはどこまでも顔筋の作用に還元できた。あの人は笑顔を操作していた。佐藤さんの笑顔は、空欄のある数式に正しい答えを書き込むことを思わせた。そうすれば、わたしから圭のことを聞き出せるから。なんでこんなことを考えているのだろう? 考えることと不安を感じることは頭の別々のはたらきで、考えてみると不安という感情には根拠がないとわかってくる。違和感だけでは、佐藤さんがほんとうはどんな人なのか判断できない。そう、わたしは佐藤さんのことが、全然わからない……

以下略 AAS



103: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 21:56:45.40 ID:NJ9NkxEDO


李衣菜「美波さん……大丈夫かな?」

みく「そんなの……」
以下略 AAS



104: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 21:58:56.87 ID:NJ9NkxEDO

部屋の中には千川ちひろと今西部長もいた。二人は立ったままで彼女を視野に収めるくらいのことはしていたが、それは眼の位置がそうさせているだけのことであってそこに見守るという大人らしい態度は希薄だった。亜人について、大人も子供もほとんどなにもわかっていなかったからだ。わかっていないということを自覚する以前の無関心さは、この部屋いるすべての人間が共有していた。

プロジェクトルーム入り口のドアが開いた。プロデューサーが会見場から帰ってきた。プロデューサーは無言状態が重くのしかかる部屋の様子を見て一瞬止まった。慎重にドアを閉め、部屋の中央、テレビのあるところまで歩いていく。プロデューサーは視線がまず歩いている自分に向けられ、それから後方の無人の空間に流れていくのを感じながら部屋を横切った。断りをいれてからテレビの電源を切り、 部屋のなかを見渡す。アイドルたちは、喉に言葉が詰まっているかのように自分を見ている。部長とちひろは聴く姿勢を整えていた。

以下略 AAS



105: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 22:00:31.19 ID:NJ9NkxEDO

武内P「今回発生した事態に対して、プロダクションから対応に関する指示がありましたので、皆さんに説明致します。すでに会見で発表された内容と重複する点もありますが、どうか訊いてください。まず新田さんに関してですが、事態が沈静化するまで活動はすべて休止となります。予定されていたライブやイベントはすべてキャンセルとなり、活動再開時期も不明です。これまで発売されたCDや写真集などは今まで通りで、予定されているアインフェリアの楽曲も発売時期は少し遅れますが、こちらも発売中止にはなりません。
続いて皆さんのスケジュールですが、多少の調整はありますが基本的に予定されていた通りに進めていくと考えてください。調整後のスケジュールは可能な限り早く皆さんにお伝えします。不明な点があれば、私か千川さんに質問してください。それとしばらくのあいだ、送迎はすべてプロダクションの人間が行うことになります。アポイントの無い記者との接触を避けるための措置でして、息苦しさはあるかもしれませんがどうかご了承ください。
最後に新田さんの女子寮への入居の件を説明します。現在の状況を鑑みるに彼女のプライバシーを保護するには、このような措置を取るのが最も良いと判断されました。実際に入居されるのは四日後になります。また、現在寮生活をされている方に新田さんについてなにかお願いすることもあるかもしれません。このような状況の只中で皆さんに負担をかけるようなことをお頼みするのは申し訳ないのですが……」

以下略 AAS



106: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 22:02:48.61 ID:NJ9NkxEDO

かな子「智絵里ちゃん……?」

智絵里「あっ……ごめんなさい……」

以下略 AAS



107: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 22:04:34.33 ID:NJ9NkxEDO

卯月「美波ちゃんの弟さん、どうなっちゃうでしょう?」


どうすればいいのかわからない気持ちのまま、島村卯月が不安げに言った。
以下略 AAS



108: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 22:08:47.89 ID:NJ9NkxEDO

こういうことは度々起こる。思考を一定の方向に進めていると、道を外れ溝に落ちるかのように思考は別の事柄に入り込む。でもそれが解決の糸口となったり思考を別の発展的な方向に導くかといえばそうことはなく、落ち込んでしまったことでそこから集中し直して態勢を立て直すと、前後方向に進んでいたときの限られた視界が運動にともなうブレが消えたことで風景を横方向、というか上下左右、眼球の丸みが光を受容できる範囲いっぱいまで視界が広がりそれまで見えていなかったことが見えるようになる。

アナスタシアは停止したままだった。アナスタシアの表情は垂れかかる銀髪に隠れて見えなかった。無言で固まっている姿は、まるで凍らせた水だった。唇も視線も固まったままで、ペットボトルに入れてあった水が凍らせたことによって体積が増えて飲み口から出てこれないように、アナスタシアは外界に内面を放っていなかった。どんな感情や考えが内面に渦巻いているのか外から伺い知ることできなかったし、それとも心の中は氷の張った湖面のようになっていて渦巻くことすら不可能なのかすら確認のしようがなかった。陽射しはどんどん強くなっていくなか、アナスタシアに向かって降り注ぐ光は当たるというより通り過ぎているといった感じで、このまま光を浴び続ければ、氷のように溶けてなくなってしまうように思えたが、アナスタシアは消去されていくのを受け入れているようにも見えた。

以下略 AAS



109: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 22:12:53.86 ID:NJ9NkxEDO

武内P「現在美城プロダクションでは、事態への対応に部署の内外を問わずにあたっている状況ですが、混乱を収める目処は立っていません。私や千川さんや部長のように個人的感情を伴って行動する者も、そうでない者も終わりの見えない作業に疲労しています。しかし、それは組織に属する者の義務であり、新田さんの力になることが私たちの責任であるのです。
今回のこの事態に対して、皆さんにはいかなる責任も義務もありません。皆さんはまだ未成年で、亜人が世界で初めて発見された十七年前といえば、皆さんはまだ生まれていなかった方がほとんどでしょう。なのに、このようなことに直面せざるをえなくなった。その不安や不条理に戸惑ったままでいるのは大変なことです。私たちもそうなのですから。
私は皆さんに、自分の心を見つめ直してくださいとしか言えません。私たちはあなたたち一人ひとりのあらゆる決断を全力で支持します。あなたたちがしたいと思っていることの中には、現状では困難なこともあるかもしれません。もしそのときは私や千川さんや部長、あるいは他の信頼できる方でも構いません、話してみてください。もしよければ困難なことは、私たちにまるごと託してくれてもかまいません。私はこの混乱の中にあなたたちまでが孤立し、飲み込まれたままなのはつらいのです」

以下略 AAS



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