253: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:11:42.70 ID:7K73HWKCO
小梅は口を開きかけたが、なにも言わないまま車に乗り込んだ。通りの向こうでは頭にタオルを巻いた男が電話している。その男はなにかにぶつかったようによろめいた。男はうしろを確認したがなにもいない。男からすこし離れた位置に半袖パーカーの少年がいてフードをかぶっている。彼は男が前に向き直ったあとも首をめぐらしてなにかを目線で追うようにしていた。
窓から通りの様子を見ていた小梅は、フードの少年は自分の乗っている車を眼で追ったのかと思った。そのときだった。いつもそばにいる「あの子」がなにかに反応を示している。
254: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:13:34.81 ID:7K73HWKCO
なぜなら、黒い幽霊は亜人にしか見えないからだ。
この黒い幽霊は手の代わりに翼を持っていて、翼を広げたときの全長は五メートルにもなる。頭部は首の断面がそのままになったかのようで、先にいくにしたがって太くなっている。
255: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:14:45.57 ID:7K73HWKCO
田中の幽霊が厚労省の正面に立ち、ぞくぞくと集会にやってくる黒い幽霊たちを待ち受けている。田中は佐藤の言葉を思い出す。
佐藤 (田中君、この作戦は人間を集めるためのものじゃない。亜人を集めるためのものだ)
256: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:16:27.84 ID:7K73HWKCO
田中の幽霊の周囲に集会参加者の幽霊たちが集まってくる。田中はかれらに話しかける。
IBM(田中)『よく来てくれた。これから本当の集合場所を教える』
257: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:18:33.09 ID:7K73HWKCO
食卓にあがったカレーライスは、いままで家で食べてきたものよりルーの色が濃かった。半分くらいは黒色といった感じのカレーは見た目の通り味も濃く、口に入れた瞬間、芳香な匂いがひろがる。具材のひき肉をごはんといっしょに口の中でかき混ぜると、ほんとうにおいしい。
山中「作りすぎちゃったねえ。こりゃ、夕飯もカレーだね」
258: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:20:02.91 ID:7K73HWKCO
昼食のあと、皿洗いや雑事をすませ、ふたりは居間でテレビを見て過ごした。BSのチャンネルではむかしのアメリカ映画(『男性の好きなスポーツ』というタイトルだった)が放送されていて、なんとなしに眺めていたが、スクーターを運転する男が突如出現してきたクマとぶつかると、なぜかクマが人間と入れ替わりスクーターを運転するというシーンを見て、永井はおもわず吹き出した。
映画がおわったあと、チャンネルを地上波にかえる。この時間帯はたいていワイドショーしかやってない。話題は厚生労働省前での集会。集会に参加する人間はまったくいなかった。永井は厚労省前の空いた空間を見ながら、亜人は集まっているのだろうな、と思う。黒い幽霊をつかえば、カメラに映る心配もない。佐藤は亜人の仲間を集め、研究所襲撃より大規模な事件を起こすだろう。おそらく、より多くの人間が死ぬことになるだろう。
259: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:21:30.49 ID:7K73HWKCO
永井はあくびをする。冷たい麦茶を一口のんで、手のひらで畳の感触を確かめる。永井は平和だなあ、とほっと一息つく。佐藤が何をしようが、何人殺そうがそんなことはどうでもよく、可能な限りこのセーブゾーンに長く留まりたいと思う。
研究所から脱出するため河に飛び込んだあの日から丸一日かけて、永井はいまいる山村のちかくまで流されてきた。山中のおばあちゃんと出会ったのは偶然であり、幸運な出来事だった。なぜならおばあちゃんは、永井の正体を知ったうえで自宅に招き食事と寝床を提供してくれたからだ。永井はおばあちゃんの善意と提供してくれるものに感謝の気持ちをおぼえた。このふたつはとても大事だ。
260: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:22:47.38 ID:7K73HWKCO
永井「あ」
永井は不意に研究所で遭遇した星十字の幽霊の正体に気がつく。テレビでは厚労省前の集会に関連して、新田美波についてコメンテーターやゲストがてきとうに持論や予想を展開している。画面にはシンデレラプロジェクトの一員としてライブしているときの映像が映っている。永井の眼は美波ではなく、その横で歌っているーーライブの音声は聞こえないーー別の少女を注視している。研究所で耳にした星十字の幽霊が発した声は、子音に強い訛りがあった。
261: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:25:12.45 ID:7K73HWKCO
翌日、山中のおばあちゃんは永井に頼まれたものを買ってくる。小腹をすかせた永井はちょうど煎餅を齧っているところだった。永井は煎餅を口の中に入れたまま、それーースマートフォンーーを操作して動画サイトで目的の動画を検索する。検索欄に名前を入力し、検索結果からインタビュー動画を探し再生する。十秒ほどで動画をとめ、キーパッドに死の前日ーー七月二十二日ーーに偶然見て記憶していた番号を打ちこむ。
呼び出し音を黙って聞いていると、聞き覚えのあるすこし訛った声が答える。
262:名無しNIPPER[saga]
2017/06/10(土) 22:25:55.51 ID:pzaYUQq+0
黒服のおじちゃん達の死は悲しかったな…
263: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 22:27:25.15 ID:7K73HWKCO
レッスンを終えたアナスタシアは膝に両手をあて、下を向いて息を整えようと努力する。床に汗が滴るにまかせておくと、そのうち呼吸が落ち着いてくるが、それともに身体を動かしていたあいだは感じないでいられた苛立ちと自己嫌悪が復活してきてしまう。
無力感も。
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