新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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162: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:53:38.23 ID:5HbT9nK2O
十日後、雨がしつこく篠突いている中、今日も各報道局のレポーターがレインコートを羽織りカメラに向かって報道している。

この日はアメリカからオグラ・イクヤ博士が来日・視察のために研究所を訪れる日だった。生物物理学者であるオグラは九九年に渡米し、同地で亜人研究トップクラスの地位を得ていた。亜人研究は各国競争状態で、基本的に他国の亜人事情にはノータッチが原則なのだが、日米の一部の研究機関は協力関係を結んでおり、日本で新しい亜人が発見捕獲された場合オグラ博士が視察することになっている。

博士を乗せた車両が研究所のゲートを通り抜けるあいだ、レポーターたちはこれらの情報を説明していた。ゲート周辺は幾つもの光源が寄り集まり、ひとつの大きな光のドームを作っていた。そこでは雨筋が白い糸となり、垂直機織でもしているかのように上から下へと送られ続けている。ゲートのすぐ横には二メートル程の高さの植込みが光を遮る壁となっていて、黒い葉を雨で揺らしながら敷地の内と外を区切るフェンスを光から遠ざけていた。
以下略 AAS



163: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:54:58.04 ID:5HbT9nK2O
雨滴はフェンスの網目に沿ってしとしとと植込みの向こうに広がる草の上に流れていて、それを目で確認するのは暗闇のせいでかなわない。唯一その様子を見て取ることができるのは敷地内を巡回する警備員がライトでフェンスを照らしたときだけだ。ライトは防水式LEDタイプのマグライトで直線的な黄色の光線を遠くまで延ばして草の上に落ちていた。光線の長さにつられるように、光が当たっている草の影も長く延びている。光線はフェンスの方向を照らしていたが、地面には網目模様の影はうつっていなかった。フェンスは四角く切り取られていて、そのすぐ横に首から顎、そして顔面にかけて深い裂傷を負った警備員が倒れていた。警備員の眼に雨が当たる。その眼は光を失ったまま、雨滴に無反応で瞼が壊れたガレージのように開いたままだった。


佐藤「絶好の反逆日和とはいかないなあ。雨の中じゃ黒い幽霊の操作はしにくくなる」

以下略 AAS



164: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:57:06.02 ID:5HbT9nK2O
佐藤「田中君は作戦C、オグラ博士の誘拐担当! 私は作戦B、永井君の救出担当だ!」


オートマチックの拳銃を腿のホルスターとコンバットベストに収め、動作確認をしたショットガンを手に持った田中に向かって佐藤は言った。二人はズボンの裾を撫でる草むらから水たまりが光るアスファルトへと歩いていった。佐藤は躊躇いのない歩みで水たまりを平然と踏みしめたので、水跳ねの音が強い雨音の中でも耳に届いた。降りしきる雨はふたりのコンバットベストに染み込み、身体に引き寄せ持った銃器を黒く輝かせた。

以下略 AAS



165: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:59:35.23 ID:5HbT9nK2O
佐藤「単純! 敵の想定する火力を上回ればいいんだよ。いま私たちが持てる最大火力で、圧し潰す」


田中は自分達の重装備を見ながら、武器を調達したとき佐藤が言ったことを思い出していた。田中はトランクに積み込まれた銃器の量に、こんなリスクを冒してまでして永井圭を助ける価値があるんすか、と佐藤に尋ねた。永井圭を人間側に差し出したのは、佐藤が仕組んだことだった。人間への憎悪を育み、殺人へのハードルを下げさせたうえで恩を売り仲間にする。少なくとも田中はそのような目論見だと考えていた。佐藤はトランクを閉めながら田中の疑問に、ないよ、とあっさりした調子で答えた。

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166: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:00:34.64 ID:5HbT9nK2O
研究所内を警備する警備員の数は永井が移送された日から通常の倍に増員されていて、警備室の監視モニターにはいたるところに配置され、警戒を強めている警備員が映っている。永井圭が亜人と発覚してから、研究施設と契約している警備会社は社員に麻酔銃の訓練を受けさせた。

麻酔銃の使用には銃砲所持許可が必要で、麻酔薬として麻薬に指定されているケタミンも使用するので麻薬取扱者の許可も同時に必要になってくる。現在の日本の法律では、麻酔銃を取り扱えるのは獣医師くらいしかいないのだが、亜人管理委員会を擁する厚生労働省はこの違法を黙認していた。

警備室の近くにはガラス張りの喫煙室が設けられていて、そこでは連日の出勤に疲労する四人の警備員が一時のリラックスを求めて煙草を吸っていた。四人の中でいちばん若い警備員は入ったばかりで、いきなりの特別出勤と違法行為にまだ折り合いがつけられないようだった。
以下略 AAS



167: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:01:43.21 ID:5HbT9nK2O
警備室のモニター画面の一つがパッと明るくなった。研究所の東側の入口に設置されている人感センサーが反応し、ライトが灯ったためだった。そこには一人の男が黄色い色をした光の円の中心に立っていて、なにか筒状の物を肩に担いでいる姿が映っていた。警備室近く東入口の喫煙室でタバコを吸いながらたむろしていた四名の警備員は、雨の中にいる男の姿を正面から見た。男は帽子を被っていた。佐藤だった。

佐藤が肩に担いでいる無骨な筒はAT4と呼ばれるもので、直接の見覚えがなくても警備員たちはそれが携帯式の対戦車火器であることがわかった。発射音による空気の弾性波が津波のように轟き渡り、火器後方から塩水が噴き出すと成形炸薬弾が東入口で爆発した。火と金属片と衝撃波が警備員たちを襲った。黒い煙といっしょに吹き飛ばされたガラスが通路を満たし皮膚に突き刺さる、壁や床を這いまわる火が倒れて這いつくばって苦しんでいる警備員たちの背中や腹と床との隙間に流れ込み、オレンジ色をした火が流された赤い血と混じって強く発光した。火が彼らを苛む、皮膚と筋肉と血管を焼いて焦がす。



168: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:03:20.57 ID:5HbT9nK2O
佐藤は無反動砲を濡れた地面に投げ捨てると、M4アサルトカービンを火の中へ向けてフルオートで撃ち始めた。銃声が警備員たちの絶叫を打ち消した。銃弾は熱せられた空気の中を飛び回った。残っていたガラスを割り、穿った壁に埋まって粉塵を飛ばし、天井のライトを吹き飛ばし、床を削り取って火の中に飛び込み、警備員の身体を貫通し、爆発で穴が空いた壁の向こうの警備室まで到達した。銃弾は様々な物体とぶつかり、物体の素材ごとに異なるあらゆる音が警備室周辺の空間に乱れ鳴っていた。

佐藤は銃弾をばら撒きながら前進した。狙いはつけず、通路の左の壁から右の壁まで線をなぞるようにして銃口を動かした。帽子に当たる水滴が、空から落ちてくるものから天井に備え付けてあるスプリンクラーによって散水されたものに変わった。ガラス片を踏むぎしゃりという音がした。爆風で吹き飛んだ警備員たちに銃弾は容赦無く降り注いいだ。四人の警備員のうち二名はもう事切れていて、身体に空いた穴の数が増えていってもまったく気にしてなかった。水に浸された床にタバコが数本浮いていて、そのすぐ側に皮膚の焦げた死にかけた警備員が蹲って身をよじらせていた。佐藤は歩きながらその男の頭に弾を撃ち込んだ。水と煙と火の中を抜けると、通路の奥で片腕が千切れた警備員が炸薬弾からも銃弾による大数の法則からも奇跡的に生き延びて壁に寄りかかって懸命に息を吸っていたので、佐藤はいちばん若いその男の胸部と頭部に二発一発と銃弾を叩き込んだ。廊下を左に折れて警備室に入っていく。部屋の中は廊下の状況ほど酷くなく、煙と熱が苦しいくらいで、熱気のほうはスプリンクラーが冷まそうとしていた。軽傷の警備員がモニターの向こうに話しかけている。佐藤はその男の頭部に照準を合わせた。銃を持ち上げたときの気配と音でその警備員は自分に狙いをつける佐藤を見ることになった。佐藤は眉間を撃ち抜かれた死体を跨いでモニターに顔を寄せると、画面の向こうにいる戸崎に向かって、やあ、と話しかけた。


以下略 AAS



169: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:04:33.76 ID:5HbT9nK2O
佐藤はさの音節を濁らせ、冗談でも言うみたいにわざと読みを間違えた。


佐藤「私がなぜここに来たかまだわかるまい。だが、今夜日本の亜人事情は大きく覆る」

以下略 AAS



170: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:05:39.59 ID:5HbT9nK2O
コウマ陸佐「戸崎、どう対応する! 永井圭は初日以降、別種の力を見せず究明はまったく進んでいなんだぞ!?」

戸崎「警備を大幅に増やしてます」


以下略 AAS



171: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:06:26.57 ID:5HbT9nK2O
コウマ陸佐「麻酔の有効性は認めるが、そこまでして殺害を回避したい理由は何だ?」


コウマ陸佐は多少落ち着いて尋ねた。

以下略 AAS



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