僕は今宵、悪役貴族に恋をする

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133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/18(月) 23:35:57.38 ID:VMJO2mNfO
スカトロくんのオシリアナルが駄目な点
B登場人物の魅力が全く無い
メンヘラ池沼な主人公と、男が1人なのに「悪役」にされる奴。
そもそも男装がバレていなかった頃は意にも介していなかった相手に向かって、仮にも付き合ってる相手がいる横でいきなり「愛してる」「キレイ」という言葉を投げる男と、散々男を悪役貴族と銘打ってまで避けていながらその言葉で即墜ちする主人公。
いや、どちらもガイジ極まりすぎていて開いた口が塞がらない。

その悪役貴族の「悪役」要素もここまで「主人公が悪そうだと感じたから、口調が悪いから」とかいう下らなすぎる理由しか無いのがもうね。というか「悪じゃない役」の貴族どこだよ。むしろ主人公からすれば当初の委員長も悪役だろうが。

主人公も男の許嫁で、一応学園に入学できる程度の能力がある以外の情報全く無いし、性格も詰まるところ男を崇拝するだけの尻軽なビッチになってるしで、こいつの方が余程脇役の悪役にふさわしいんだよなあ。男に対する呼び方が悪役貴族だったり婚約者だったりコロコロ変わる様も頭おかしいとしか思えない要素だし。

何よりどう見ても世界観のパワーバランスとして「委員長の婿養子に男、その許嫁だった主人公が妾」にならないと国際問題になる程国のレベルが違ってることを誰よりスカトロくんが理解していない無知っぷり。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/18(月) 23:40:13.07 ID:VMJO2mNfO
スカトロくんのオシリアナルが駄目な点
C不適切な内容を実力の無い奴が書こうとしている
意図的に延々不快なスカトロ要素を書き続けたような奴だし、根本的な目的として何か閲覧者に不快もしくは不適切な内容を意図的に書き続けるのが目的の可能性が高い。
そういう視点で考えた時、「VIPで書くには不適切な性的描写」を書こうとしているっぽいのが分かる。

ただまあ、ここまで一切そういう意見がないのも、「せいぜい地上波でも普通に流れることのあるような事後の様子」とかしか書かれていない(おまけに童貞感丸出しの薄っぺらさ)上、みんなが「こいつにまともなエロなんて書けるわけがない」って思われている点も大きなポイントかもしれない。

というか露骨に感じられるようなレベルの性的描写書いたところで、みんな文句言うどころか「あざーっす」ってなるだけなのをスカトロくんは理解しているのかな?




……じゃあこのカスみたいながまともな作品になる為に必要だったものは?
それを考えてみても多すぎて書ききれないけど、そもそもとしてスカトロくんが自分へのプライドを捨てて、作品へのプライドを持つことだよね。




あまりにも皆がけなすから、逆に良い部分もあるんじゃないか?と思って見てみたら、むしろ良い部分皆無で悪い部分ばかりが下痢便のように止まらない、想像以上のゴミでした。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/19(火) 08:02:34.61 ID:pXW717Yr0
ID:VMJO2mNfOも>>1と同レベルの頭おかしい奴だろ、自分はマシだと思ってる分悪質かも

面白くもないオシリアナルって造語を本人はウケてると勘違いしてるのか連呼したり、説得力ゼロの読む気になれない長文を垂れ流すとか>>1と共通してるわ
加えて他人が立てたスレでそれらを連投する恥知らず、厚かましさなら>>1を上回ってるだろうねぇ
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/12/19(火) 08:37:12.21 ID:18bm2MyQ0
駄文スカトロマンはマゾなだけだ
「ボクの垂れ流した怪文書がみんなに罵倒されてるぅ!」でビクンビクンしてるだけだから
真面目に相手にするだけ時間の無駄なんだよ

基本はシカトしときゃいい。去年のクリスマスのようにな
自己愛の強いコイツには無反応が一番堪える
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/12/19(火) 13:02:04.96 ID:uYghA4LsO
>>135はうんこマンの自演として>>136の言う通りよね
むしろ怪文書を読み込んだせいで気が狂った奴が現れてしまったか
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/19(火) 19:38:26.25 ID:pXW717Yr0
>>1にはhttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1701770306/を読んでどこを改善すべきかしっかり自己分析してもらいたい
他所のクソスレ読めば自分のスレもクソだと実感するだろう
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/19(火) 19:47:00.94 ID:pXW717Yr0
>>137
いや>>1の自演じゃないぞ
別のスレじゃ書き手が本文そっちのけで反論する場合もあるけどここは一気に書き溜め投下してトンズラする
多分誰が自演かって言い争う人狼ゲームもどきを高見の見物で眺めてるだろ
140 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/19(火) 21:00:57.59 ID:NWAuXqYUO
「委員長、なにしてんの?」
「見ての通り、耳かきをして貰っている!」

その日、悪役貴族の巣窟に帰宅して部屋着に着替えたら委員長がお姉ちゃんメイドに耳かきをされていた。当然のように膝枕である。
サラサラの白タイツに頭を乗せてご満悦だ。

「ふうん……気持ちいい?」
「ああ、最高だ! 私は不器用なので耳かきは下手くそなのだが、この子はとても上手い」
「だってさ。褒めて貰えて良かったね?」
「お、奥様、これは浮気などではなく……」

ちょっと嫌味っぽく囁くと、お姉ちゃんメイドが狼狽してかわいい。ああ、いけないな。そんなに僕の悪戯心を刺激しないでおくれ。
141 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/19(火) 21:02:07.67 ID:NWAuXqYUO

「君は誰のメイドなんだい?」
「わ、私はもちろん、奥様の忠実なメイドでございます。ですが……メイドとして、この方に対しても同様に忠義を尽くす所存です」
「うん……100点満点の答えだね。良い子」

僕の意地悪にもめげずに模範解答をしたお姉ちゃんメイドの頭をよしよしと撫でた。すると、なにやらウルウルと瞳を潤ませている。

「ん? なにか僕に言いたいことがあるの?」
「恐れながら……奥様の御手に口付けを……」
「ああ、いいとも……許そう」

僕が手の甲を口元に差し出すとおずおずとキスをするお姉ちゃんメイド。その触れ合いを頭上で見せつけられた委員長は不貞腐れて。

「許嫁殿はどんどん悪役貴族に染まってる」
「……僕のせいじゃないし」

これは全て婚約者である悪役貴族の影響だ。
142 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/19(火) 21:02:53.03 ID:NWAuXqYUO
「奥様も耳かきをしますか?」
「僕は昨日、自分でしたばかりだから……」
「なら、ちゃんと出来たか見てやるよォ」

妹メイドちゃんが耳かきを片手に訊ねてきたのでそう答えると、その耳かきを強奪して、悪役貴族が邪悪な笑みを浮かべて、ちゃんと耳掃除出来てるか確かめると抜かしてきた。

「やだよ。悪役貴族に膝枕されるなんて」
「たまにはいいだろォがァ」
「でも、恥ずかしいし……」
「あァン? そンなに耳ン中が汚ェのかァ?」
「き、汚くなんてないし! 見てみなよ!!」

失礼極まりない悪役貴族の膝に頭を乗せて、見せつける。奴はそっと僕の耳に触れ、中を覗きこんだ。妹メイドちゃんまで覗いてる。

「たしかに、キレイなもンだなァ」
「奥様はお耳もお美しいです……」
「耳が美しいってなんだよ……もぉ」

なんだこれ。めちゃくちゃ恥ずかしい。あとくすぐったい。声が出そうになる。女の子みたいな高い声なんて僕には似合わないのに。

「あっ……そ、そんなに奥まで挿れないで」
「まだ全然入り口だぞォ?」
「こ、これ以上は無理……もう入んない」
「なンだ、痛てェのかァ?」
「い、痛くはないよ……むしろ……はぅっ」
「奥様……えっちすぎます。ああ、鼻血が」

何故か鼻血を流す不思議な妹メイドちゃん。
143 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/19(火) 21:03:29.76 ID:NWAuXqYUO
「よォし、次は左耳だァ」
「もうやだ! 耳かきをよこせっ!」

あまりの羞恥に耐えきれなくなった僕は起き上がり、悪役貴族からいけない棒を奪い取った。この棒のせいで僕は女の子になるんだ。

「ほら、次は悪役貴族の番だよ」
「俺も昨日掃除したばかりなンだが……」
「ちゃんと耳掃除出来たか僕が見てあげる」
「チッ……しゃあねェなァ」

渋々僕の膝に頭を乗せる悪役貴族。復讐だ。

「おォい! どこまで突っ込むんだよ!?」
「ふん。まだまだ。僕の気持ちを思い知れ」
「痛ェっての! 全ッ然気持ちよくねェ!!」
「はい、次は左耳ねー」

文句を聞き流してコロンと首の向きを変えると奴の顔が僕のおへそを向いた。するとモゾモゾ顔を埋め、鼻先で器用に部屋着の裾をめくり、次の瞬間、僕のおへそに電撃が走る。

「ちょっと! 僕のおへそを舐めんな!」
「ちょうど良い位置にあったからなァ」
「やめろバカたれ! この変態悪役貴族!!」
「ハッハァー! 最ッ高の褒め言葉だぜェ!」
「はあー……おふたりのメイドで幸せです」

念の為、毎日おへその掃除をしといて良かった。僕らの喧嘩を眺めている妹メイドちゃんは鼻血を流しながら何故か幸せそうだった。


【僕は帰宅後、悪役貴族に女の子にされる】


FIN
144 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/20(水) 06:04:36.47 ID:7INkV0TsO
「あ、カフスのボタンが取れかけてるよ」
「え? あ……申し訳ございません。ご指摘されるまで、まったく気づきませんでした」

お姉ちゃんメイドの袖口のカフスのボタンが取れかけていた。慌てて恥じ入るようにそれを隠すと、委員長がこちらにやって来た。

「どれ、私が付け直してやろう」
「そんな、自分でやりますので……」
「へえ。委員長、お裁縫出来るの?」
「不器用ゆえ出来栄えは保証しかねるがな。妹ちゃん、裁縫道具を持って来てくれ」
「はい。かしこまりました」

妹メイドちゃんから裁縫道具を受け取り、外したカフスのボタンをチクチクと修繕する委員長。少々粗い仕上がりだけど付け終えた。

「すまないな。きっと君が自分で直したほうが、綺麗に付けられたかもしれないが……」
「いえ、そんな……ありがとうございます」
「なに、気にすることはないさ。裁縫もたまにやらないと更に下手くそになるからな!」

たまにどころか僕などやったことすらない。

「たいしたもんだよ、委員長は」
「許嫁殿は料理が得意ではないか」
「あれは、まあ……学園に来てからすることもなかったし、暇つぶしに覚えただけだよ」

従者もつけずに単身乗り込んだ僕は、当初は花嫁修行のつもりで料理を覚えた。しかし、婚約者に振る舞う機会はなかなか訪れることはなく、他にすることもなかったので、お城のシェフから貰ったレシピを片っ端から作っていたら、それなりに上達したに過ぎない。
145 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/20(水) 06:06:57.74 ID:C2HOFM9+O
「いいか、許嫁殿。将来、夫となる男の胃袋を掴むことは重要だ。帝国では昔から夫婦が結婚するにあたり、結婚式の場で人生における"3つの袋"について説く慣習があるのだ」
「人生における3つの袋? 何それ知りたい」

先進的な帝国の慣習ならきっと為になる筈。

「ならば教えよう。3つの袋とは、胃袋と、堪忍袋と、そして1番重要なのは玉袋だ!」

なるほど。僕は挙手して委員長に質問した。

「胃袋と堪忍袋はわかるけど、玉袋って?」
「ソレはだな、許嫁殿の婚約者の……」
「第二夫人様。ソレ以上は困ります」
「ソレは、奥様にはまだ早すぎます」

興味津々な僕に解説する委員長を何故か双子メイドたちが止めに入る。なんだろう、玉袋って。僕の婚約者に関することらしいけど。
146 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/20(水) 06:08:21.08 ID:C2HOFM9+O
「なにを今更。毎晩見ているではないか」
「奥様はアレが何かをご存知ないのです」
「奥様はアレを未だ直視出来ないのです」
「しかしアレこそがもっとも重要な……」
「アレに関しては第二夫人様の取り分です」
「奥様に代わって丁重に取り扱いください」
「ふむ……それは構わないが、私は許嫁殿と2人で力を合わせもっと気持ち良くだな……」

なにやら委員長とメイドが真剣な顔で話し合いを始めたら。僕は蚊帳の外だ。なんだよ皆して僕を除け者にしてさ。玉袋が気になる。

「ねえ、悪役貴族。玉袋ってなんのこと?」
「あァン? いきなり何言ってやがンだァ?」
「お、奥様! それを若様に訊くのは……!」
「わ、若様! どうか夢のある返答を……!」
「あっはっは! 許嫁殿は大胆不敵だなぁ!」

悪役貴族は騒ぐ僕らを見てため息を吐いて。

「玉袋ってのは玉のようなガキが生まれるために必要なもンで、俺が大切に保管してる」
「へえ! そっかなるほど! それは大切だね」
「さすがは若様……お見事です」
「奥様の夢が更に広がりました」
「うーむ……モノは言いようだな」

しかしそんな大切な物を預けるのは不安だ。
147 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/20(水) 06:09:54.54 ID:C2HOFM9+O
「悪役貴族、それは僕が預かっておくよ」
「てめェ……無茶を言うンじゃねェよ……」
「お城に保管しとけば、絶対に安全だよ」

なんなら幼い悪役貴族から貰った求婚のお手紙の隣に保管しておいてあげよう。そうすれば盗難の心配もなく、将来困ることはない。

「いいかァ、玉袋ってのはなァ……俺の手を離れたその瞬間に、効果がなくなンだよォ」
「そうなんだ……絶対に失くさないでね?」
「てめェ……俺をおちょくってんのかァ?」
「わ、若様、どうかお怒りをお鎮めに……」
「奥様には、まったく悪気はないのです!」
「メイドたち、君たちは許嫁殿を甘く見すぎだ。許嫁殿、そろそろ無知のふりはやめろ」

なんだ、バレてたか。委員長はさすが鋭い。

「僕と委員長以外に女作ったら没収だよ?」
「チッ。やっぱおちょくってやがったかァ」
「玉のような赤ちゃんは僕らのものだから」
「ハッハァ! 今すぐ産ませてやろォかァ?」
「ふん。お断りだよ。卒業までは我慢しな」

まんまと騙された婚約者とメイドを嘲笑う。

「バカたれども。僕を子供扱いしすぎだよ」
「お、恐れ入りました、奥様……お赦しを」
「奥様は大人の女性であらせられます……」
「うむ! さすがは私が憧れた許嫁殿だな!」

堪忍袋の緒が切れたら僕は玉袋を没収する。


【僕は無知のふりをして、悪役貴族を脅す】


FIN
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/20(水) 08:00:48.16 ID:azqcS2tu0
>>137こそ>>131-134の正体だろうな
渾身の評論が怪文書扱いされて顔真っ赤っ赤なの見え見え
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/20(水) 08:39:08.64 ID:yObSzFRmo
長門有希「言語だけが意思疎通のツールではない」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1692536812/

怪文書ってので↑のスレ思い出したわ
怪文書って言葉を使われて以降、フハッの人()の肩を持つキチガイが怪文書を連呼してたんだよな
本人の自演かもしれんがw
150 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/20(水) 22:53:33.42 ID:pXeTJs+IO
「うう……母様……」
「んぅ……どうしたの……?」
「嫌だ……死ぬな……くそっ……母様……」
「また怖い夢を見てるの……?」

悪役貴族はたまに悪夢にうなされる。いつも寝ぼけて僕を抱きしめるので、こうして夜中に起こされる。僕は抱き返して頭を撫でる。
夜中に起こされてもちっとも嫌じゃないのが自分でも不思議。僕にも母性があるらしい。

「お母様にはなれないけど僕が傍にいるよ」
「ああ……救えない……死んじまう……」
「大丈夫、大丈夫。死なないから安心して」
「母様……」

しばらく抱きしめてあげると、安心したように寝息を立て始めた。悪役貴族はお母様を病気で亡くしている。きっと、その時の記憶がフラッシュバックするのだろう。可哀想に。
151 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/20(水) 22:54:24.29 ID:pXeTJs+IO
「生きていたら、ご挨拶に伺えたのに……」

悪役貴族のお母様は有名だ。"悪役夫人"の異名を持ち、茶会よりも宴席でこそ、その猛威を振るったと聞いている。もちろん当時僕はまだお酒が飲めなかったため、人づてに耳に入る情報しか知り得ないが、にわかには信じられない伝説がいくつも残っている。曰く、酔った勢いで宰相の頭に酒をぶっかけたり、飲みすぎて宰相の靴の中に嘔吐したり、宰相の髪の毛を毟ったりと、やりたい放題だったらしい。現在、宰相の髪の毛が薄いのは悪役夫人のせいだとよく愚痴っていた。そんな宰相も、悪役夫人の葬儀の際には涙を流して悲しんだ。宰相の涙なんて、その時と、僕がお城を出奔した時しか見たことはない。きっとそれだけ、慕われていた人だったのだろう。

「僕の国も東の帝国と同じくらい医療が発達していれば……助かったかも知れないのに」
「……ああ。彼も、同じことを言っていた」
「あ、ごめん、委員長。起こしちゃった?」
「謝る必要はない。私も彼を支えたいのだ」

ひとりごちると委員長が目を覚まして語る。

「先代大帝の御尽力により、帝国は極短期間のうちに飛躍的に発展した。この国で暮らす者からすると、突如急成長した帝国は不気味で、脅威に感じるのだろう。そのせいで医療支援をはじめとした様々な援助、更には国交までもが滞ってしまうのも仕方ない話だと、私は帝国出身の者として理解している。無論、帝国に侵略や侵攻の意図や計画などは存在せず、それは先代大帝が退位した今でも変わらないのだが、それでも未だにこの国は帝国に対して積極的に関わろうとはしない。君の婚約者は母親を病で亡くした際、そんなこの国を変えたいと思ったらしい。その目的のために学園に入学してから勉学に励み、帝国からの留学生である私とも関係を……むぐ」

お喋りな優しい口をそっと手で塞いでおく。
152 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/20(水) 22:55:23.80 ID:pXeTJs+IO
「ストップ。さすがに喋りすぎだよ委員長」
「だがしかし許嫁殿には聞いて欲しいのだ」

口から手を離すと、反論されたので諭した。

「前にも言ったでしょ。どうしてこいつが委員長と付き合うことになったかなんて、僕は興味ない。僕が知る必要のないことだから」
「しかし君も彼の許嫁殿であるならば……」

そうとも。僕は許嫁だから知る必要はない。

「僕はこいつの許嫁だから、どんな理由であろうとこいつのすることを支える。委員長や双子メイドちゃんに手伝って貰いながらね」

どんな困難だろうと皆がいればきっと平気。

「やれやれ。やはり許嫁殿には敵わないな」
「一緒にこいつを支えていこうね、委員長」
「無論だ。きっとそのために私はこの国へ来たのだと、今ではそう信じて疑っていない」

力強く頷く第二夫人のおかげで僕は心強い。

「ありがと。そろそろ寝よう。おやすみね」
「ああ、おやすみ。優しくて素敵な許嫁殿」

優しくて素敵な第二夫人とともに僕は眠る。


【僕はたまに、夜泣きの悪役貴族をあやす】


FIN
153 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/21(木) 06:05:27.95 ID:DtppqBXBO
「むう……」
「どうした許嫁殿。まるで親の仇を見るように私の胸を凝視するなんて……興奮するぞ」

僕がお風呂に入ろうと服をポイポイ脱いでいると、委員長もおもむろに服を脱ぎ始めた。
どうやら一緒にお風呂に入るつもりらしく、下着姿となった委員長は現在、普段制服の下に隠された巨乳を白日のもとに晒している。
恥じらいがない癖に興奮してる彼女に問う。

「どうやったら、そんなにデカくなるの?」
「これは恐らく遺伝だ。母上もデカいのだ」
「そっか……本人の努力次第じゃないんだ」

現実に直面した僕を、メイドたちが励ます。

「お、奥様はまだまだ発展途上です!」
「膨らみかけの蕾こそが、正義です!」

いつまで膨らみかけの蕾なんだ。咲きたい。
154 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/21(木) 06:06:32.29 ID:DtppqBXBO
「ねえ、ちょっと触っていい? もしかしたら何かしらご利益があるかもしれないし……」
「ふむ……だがしかし、こちらだけ触って貰うのも忍びないので、僭越ながら私も、許嫁殿の膨らみかけのかわいい蕾ちゃんを……」
「蕾ちゃんって言うな、バカたれ」
「これは失敬。ならばその"シンデレラ・バスト"にこの私のハンドパワーを差し上げよう」

なにが蕾ちゃんだ。誰がシンデレラ・バストだ。なんだよハンドパワーって。そんな僕の憤りは、手のひらの感触により吹き飛んだ。

「ふぁ……なにこれ、すっごい。柔らかい」
「あっはっは! お気に召してくれたか?」
「これはいけない。思わず収穫したくなる」
「許嫁殿のも小さいながら美味しそうだぞ」

舌なめずりをする委員長。えっちすぎるよ。

「あ、こら! つまむな! 顔を近づけるな!」
「ふむ。どれひとつ、味見をしてみようか」
「やめろバカたれ! な、舐めるのもダメ!」

僕らがわーきゃー騒いでるとメイドたちが。

「奥様方! 私のもご賞味ください!」
「わ、私のも、もしよろしければ……」

なんて良い子たちだろう。献身に報いたい。
155 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/21(木) 06:07:19.81 ID:DtppqBXBO
「じゃあ、今日は皆でお風呂に入ろっか?」
「「「わあい!」」」

僕の提案に喜び勇んで浴室へと向かう女性陣たち。そして僕は、仲間はずれで部屋に1人だけ取り残された悪役貴族をせせら笑った。

「ふん。残念だったね、女に生まれなくて」
「ケッ。俺が女だったら、てめェらなンか比べモンになんねェくらい、良い女だっての」

つい想像してしまった。女の子の悪役貴族。
いや、それはもはや悪役令嬢である。乱暴な口調と粗雑な振る舞い。そして旺盛な性欲で片っ端から男どもを寝所に招き……あわわわ。

「あァ? なんだァてめェ。顔が赤ェぞォ?」
「き、気のせいだし! 別に悪役貴族が悪役令嬢になって毎日えっちなことしてる姿なんて妄想してないし! なに考えてんのさ!?」
「なに考えてんだって言いてェのは俺だァ」

僕の全否定に悪役貴族は溜息を吐いて呟く。
156 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/21(木) 06:08:04.80 ID:DtppqBXBO
「てめェがなに考えてんのか、わからねェ」
「あ、う……ご、ごめん」
「あァン? チッ……なンでそこで謝んだよ」
「だ、だって……悪役貴族が呆れるから」

悪役貴族からしたら、僕は理解不能で情緒不安定な奴に見えるのだろう。愛想を尽かされてもおかしくない。僕がしゅんとしてると。

「ハッ! なに考えてンのかわかんねェからこそ、俺ァてめェのことが気になンだよ。いつか洗いざらい全部、吐かせてやるからなァ」
「ふん……あんまり、僕を待たせないでよ」

ふわっと気持ちが軽くなる。嬉しくなった。

「ンなことより、てめェ……」
「え? なに? どうかした?」
「目に毒だから、さっさと風呂に行けェ」
「へ? ……あっ」

言われて気づく。僕は今、パンイチだった。

「きゃあ!? も、もっと早く言ってよ!?」
「ハッハァー! なるべくじっくりと、てめェの"蕾ちゃん"とやらを見たかったからなァ」
「つ、蕾ちゃんて言うなっ! バカたれ!!」

今更、僕の貧相なヌードなんて見飽きただろうに。なのに何故か突然発情するから困る。
悪役貴族が劣情を催すスイッチが知りたい。


【僕はいつの日か、蕾を花開かせたい】


FIN
157 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/21(木) 23:24:39.85 ID:X58/3olHO
「ちょっと。まだ足りない。やめないでよ」
「このままシてたら朝になっちまうっての」

言われて気づく。すっかり夜も更けていた。

「はあ……もぉ」
「あァン? どォかしたのかァ?」

その夜、僕はいつも通り、お互いに悪態を吐き合う儀式を終えたのちに、悪役貴族とキスをした。けれどこのままでいいのだろうか。
このキスはとても気持ちがいいけれど、心の距離は縮まらない。それが僕はもどかしい。

「なンだよ、やっぱりおかわりかァ?」
「そうじゃなくて……もっとこうさぁ」
「ハッキリ言わねェとわかンねェぞォ」

わかってる。だけど僕は、素直になれない。
158 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/21(木) 23:25:40.48 ID:X58/3olHO
「……もっと僕のことを煽って」
「はァ? どォいう意味だァ?」
「僕を罵って、もっと苛つかせて」

本能的にそんなおかしなことを口走ってしまった。羞恥と後悔が襲ってくる。こ、こんなのまるで僕が変態みたいじゃん。顔が熱い。
一応、ちゃんと理屈らしきものはある。素直になれない僕は、悪役貴族に反抗することで言いたいことを言える。しかし伝わらない。

「てめェはホント、わけわかんねェなァ」
「あ、う……き、嫌いにならないで……」
「なるわけねェだろォが。ンで、てめェは俺にどォして欲しいンだ? わかるように言え」

嫌われたくなくて、僕はわかるように言う。

「僕のダメなところを指摘して欲しい……」
「そりゃ無理だ。ダメなところなンざねェ」
「うう〜……だ、だったら、悪役貴族が自分自身のダメなところを、僕に言ってみてよ」

これもきっと本能だ。意味不明なお願いだ。
この提案に関しては僕自身もさっぱり意味がわからない。それでもなんとなく言いたいことが言える気がしていた。妻の直感である。
159 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/21(木) 23:26:45.46 ID:X58/3olHO
「そうだなァ……まず俺ァ、とにかく口が悪ぃ。それにてめぇという許嫁がいるのに他の女に手を出しちまうような最低な糞ヤローだ。あと酒癖もお袋に似て悪ぃな。自他共に認めるドスケベでいつもてめェをやらしい目で見ちまう。1番最悪なのは、てめェの気持ちをわかってやれねェところだ。だから、嫌わないで欲しいってのはこっちの台詞……」
「そんなことないっ!! ふざけんなっ!!」

気づくと僕は叫んでいた。全てを否定する。

「口が悪くても悪役貴族は優しい! 委員長に手を出したのも悪役貴族なりに考えがあってのことでしょ!? お酒を飲み過ぎるのを制御するのは僕の役目だし、やらしい目で見られるのは女として嬉しい! 悪役貴族はいつも僕のことを理解してくれる! だからっ……ぐすっ……それはダメなところじゃないっ!!」

ダメなのは僕だ。自分で言わせた癖に、全部否定するなんて。でもこうでもしないと肯定してやれない。そんな自分が情けなくて、卑怯な涙が出てきた。嫌だ。泣くな。止まれ。
160 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/21(木) 23:27:42.95 ID:X58/3olHO
「あァ……畜生……また泣かせちまったなァ」

悪役貴族はその涙を自分のせいだと捉える。

「俺が悪かった……だからもう泣くなァ」
「悪役貴族は悪くない……僕が全部悪い」

なにも悪くない。悪いのは僕で、ダメなのも全部僕だ。それなのに悪役貴族は紫水晶の瞳で見つめてそっと僕の涙を拭い、こう諭す。

「てめェは俺の許嫁で、俺のもンだ。だから、てめェの悪いところも全部、俺のもンで、俺のせいなンだよ。わかったかァ?」

わからない。言葉じゃ全然何も伝わらない。

「わからない……わからないからキスして」
「ハッハァー! その発想は俺と同じだなァ」

弱気な僕を鼓舞するように、卑怯な涙を笑い飛ばすように、邪悪に嘲笑った悪役貴族は僕の顎を持ち上げて、首を傾ける。早くしたいと急かす、逸る気持ちを抑えながら、囁く。
161 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/21(木) 23:28:36.31 ID:X58/3olHO
「僕から目を逸らさないで……見つめてて」
「あァン? 前は見るなって言ってたろォが」
「もういい……もうおかしくなってるから」
「おかしくなってんのは俺のほうなンだよ」
「僕に反論すんな……バカたれ……ぁむっ」

悪役貴族のキスは、僕がびっくりしないように、怯えて怖がらせないように、いつも優しい。それが物足りなく感じてしまうのはきっと僕に負い目があるからで、もっと乱暴に、血が出るくらいに唇を噛んで、僕を懲らしめて欲しいとさえ思うけれど、優しい悪役貴族は僕を傷つけたり、痛がることをしてくれない。だけどきっと僕らはそれでいい。それがいいんだ。キスをしながら確信する。誰がなんと言おうと、これが僕たちの在り方だと。

「はあ……まだ足りない。もっとしたい」
「ハッ……いつまで経っても寝れねェな」

その夜、少し悪役貴族との距離が縮まった。


【僕はその夜、悪役貴族と距離を縮めた】


FIN
162 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/22(金) 06:33:11.24 ID:E6WUPmW9O
「あー……恥ずい」

朝起きて、昨晩の自分の言動を思い返して悶えるのが日課になった。おかしい。こんな筈ではなかったのに。悪役貴族に僕が女で、しかも許嫁であるとバレたあの夜、教室にお弁当箱を忘れた僕は悪役貴族の体操服が椅子にかけてあるのをたまたま発見して、ちょっと着てみようと思い立ったのが大失敗だった。
どうして上着を脱いでワイシャツの上から着ただけで満足せずに、素肌に着てみようなんて愚かなことを思いついたのか。変装用のダサいデカメガネを外して、肌着を脱ぎ捨てたその時、体操服を取りに来た悪役貴族と鉢合わせて、女だということがバレてしまった。

「だって仕方ないじゃん……経験上、シャツの上からじゃ何の意味もないってわかるし」

それ以前もあいつが体操着を忘れた時に、たびたび拝借していたのは秘密だ。お弁当箱を忘れて取りに戻ったのは全くの偶然であり、断じて、体操服目当てだったわけではない。
僕は決して常習犯ではないったらないのだ。
163 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/22(金) 06:35:03.55 ID:E6WUPmW9O
「寝起きなら、素直になれるのになぁ……」

今朝もちゃんとジョギングに出かける悪役貴族に行ってらっしゃいを言えた。でも夜は全然ダメだ。昨晩は我ながら頑張ったほうだと思う。代わりにすごく恥ずかしかったけど。

「昨晩は随分とお盛んだったな、許嫁殿」
「ふぇっ!? ま、まさか聞いてたの!?」
「隣であんなに激しくされたら丸聞こえに決まっているだろう。妹メイドなんてその光景をガン見しながらモゾモゾしはじめて、姉メイドに口を押さえて貰って喘ぎ声を出さないようにしていたくらいだぞ。私も興奮した」

なんてこったい。僕は妹メイドちゃんのオカズにされていたらしい。キスに夢中で全然気づかなかった。恥ずかしくて赤面しながら絶句している僕を見て委員長は高笑いをして。

「あっはっは! 許嫁殿と知り合った当初はこんな素直じゃない天邪鬼が相手ならすぐに私が正妻になれると踏んでいたのだがな。今となっては私にも許嫁殿の良さがよくわかる。その奥ゆかしさは私には持ち得ない魅力だ」
「ふん……僕は奥ゆかしくなんかないやい」

気恥ずかしさを誤魔化すために口を尖らせて拗ねて、ふと気になった。あの夜、委員長はどうして教室を訪れたのか。訊いてみよう。
164 : ◆dudxOFJ8aA [sage ]:2023/12/22(金) 06:37:00.71 ID:E6WUPmW9O
「そう言えば今更だけど僕が女だってバレた夜、どうして委員長はあの教室に来たの?」
「あの晩、私は遅くまで図書室で勉強していてな。そろそろ帰ろうかと思ったその時、教室へ向かう彼を見かけた。そこで私は閃いたのだ。教室で致したら気持ち良さそうだと」
「訊いて損したよ! このバカたれ委員長!」

何が優等生だ。純白の制服を返上しておけ。

「我ながらバカな思いつきだったと思うが、そのおかげで今があるというなら感慨深い」
「美談みたいにまとめるなよ……バカたれ」

とは言いつつも感慨深いのは僕も同じだ。ただ単純に身バレしただけなら僕は悪役貴族の部屋に通うこともなく学園をやめていたかも知れない。委員長に対抗して、ノコノコと悪役貴族の巣窟に通った結果、今があるのだ。
165 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/22(金) 06:38:20.07 ID:E6WUPmW9O
「奥様方、朝食のご用意が出来ました」
「昨晩は大変、興奮させて頂きました」

朝から甲斐甲斐しく僕らの世話を焼いてくれるお姉ちゃんメイドも、ちょっぴりえっちで困り者の妹メイドちゃんも、あの夜があって今、こうして関わってくれている。感謝だ。

「ありがとう。君たちに出会えて、僕は嬉しいよ。でも、あいつとのキスを盗み見られるのは恥ずかしいから、今後は控えるように」
「奥様……いやらしい私を罵倒して下さい」
「はあ……何を言ってるんだか……バカたれ」
「ありがとうございます! 今夜も期待してますのでもっともっと乱れてくださいませ!」
「まったく……本当にどうしてこうなった」

怒られて嬉しがる妹ちゃんも可愛いけどね。

「委員長もありがとね。出会えて嬉しいよ」
「やれやれ。その素直さを彼に見せたまえ」
「今は無理だけど……そのうち、きっとね」

第二夫人の諫言をいつの日か聞き入れたい。


【僕は朝方、あの夜を回想し、感慨に浸る】


FIN
166 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/22(金) 20:18:09.86 ID:5JX+KFKHO
「奥様、奥様。私の告白を聞いてください」
「ん? どうしたの、妹ちゃん。顔赤いけど」
「実は本日、私は下着を穿いてないんです」

その日は休日で僕は委員長から貰ったお化粧道具でメイクに挑戦していた。すると妹メイドちゃんが僕の耳元で爆弾発言をしてきた。

「……ここにお座り」
「はい。かしこまりました」

ひとまずリップを塗り終えてから、僕は妹メイドちゃんを隣に座らせた。思わず彼女のスカートを凝視してしまいそうになるのをぐっと堪えながら、咳払いをしつつ、説教した。

「いいかい。君も女の子なんだからそんなはしたないことをしたらいけないよ。だいたいそんなことに一体なんの意味があるのさ?」
「スリルが味わえます。それと奥様の反応を伺うのが楽しみでした。あわよくば奥様にお叱りを頂けるかとワクワクしておりました」

ダメだこのメイド。早くなんとかしないと。
167 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/22(金) 20:21:26.87 ID:Frtkw9NJO
「あのね……僕の気を引きたいのはわかるけどそんなことしたらダメ。穿いてきなさい」
「それなら奥様に穿かせて欲しいです……」

何言ってんだこの子。でもそのくらいなら。

「はあ……わかったよ。パンツ持って来て」
「やったぁー! 今すぐにお持ちしますね!」

何やってるんだろう僕は。すぐ戻って来た。

「それでは、こちらをお願いします!」
「ちょ、なんだよこれ! 紐じゃん!?」
「はい! 帝国の下着を、第二夫人様に取り寄せて頂きました! まだ新品未使用品です!」

こ、こんなのおかしい。解けたら丸見えだ。

「まだ君には早いよ。別の下着にしなさい」
「ですが、せっかく穿かせて頂くのに……」
「僕はこんな下着を穿いたことないし穿かせたこともないんだから、無茶言わないでよ」
「ならば、この私の出番というわけだな!」

お手上げな僕を見かねて委員長が進言する。

「許嫁殿に代わり私が穿かせてしんぜよう」
「委員長はこの下着をつけたことあるの?」
「無論だ。なんなら奇遇なことに、実は今、私もパンツを穿いてない。ノーパンなのだ」
「バ、バカたれがここにもう1匹いた!?」
「帝国にはノーパン健康法という画期的な健康法があってだな……許嫁殿、そんなに疑わしい眼差しで睨むな。興奮する。わかったわかった。ひとまず穿かせるからそう怒るな。この紐パンは本格的でな。飾り紐ではなく本当に結んであるので解けると大惨事になる」
「えへへ。実は私もどうやってこれを穿くかわからなかったんですよね……助かります」

そんなもんを買うなよ。委員長は慣れた手つきでスカートの下から穿かせている。不器用なくせに、こうした作業だけは得意らしい。
168 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/22(金) 20:22:57.33 ID:xYY31mmVO
「よーし、出来た! うむ! とても可愛いぞ」
「ほんとですか!? 奥様、どうでしょう?」
「ああ……うん。たしかにかわいいけど……」
「けど、なんですか?」
「君には黒より白のほうが似合うと思うよ」

あまりにえっちすぎるので所感を述べると。

「でもほら、お姉ちゃんだって黒ですよ?」
「きゃあっ!? いきなりなにをするの!?」

マジかよ。てことはお子様は僕だけなの?

「そんな……お姉ちゃんメイドの裏切り者」
「わ、私は決して裏切るような真似は……」
「ふん……どうせ皆して僕の下着は子供っぽいって嘲笑ってたんでしょ。はいはい。どーせ僕はお子様だよ。化粧しても意味ないさ」

委員長に教わりながら、ちょっとでも大人っぽくなれるように努力しているのが馬鹿みたいだ。僕は下着なんてまったく無頓着だし。

「許嫁殿も上手に化粧出来てるではないか」
「テキトーだよこんなの。拘りもないしさ」
「ん? なんだァ、てめェ……そのツラはァ」

僕が拗ねていると読書していた悪役貴族が顔を上げて化粧に気づく。奴は席を立ってこちらに歩み寄り、値踏みするように見定めた。
169 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/22(金) 20:24:53.82 ID:fcTJrfECO
「わ、笑ったら僕はキレるぞ。そして泣く」
「笑わねェよ。ちょっと見惚れてただけだ」
「あ、う……そ、それで、どうなのさ……?」
「悪くねェ。てめェは元が良いから薄化粧程度で充分だなァ。そのリップも似合ってる」

めちゃくちゃ嬉しい。挑戦して良かったよ。

「ただし、キスをしづらいのが難点だなァ」
「せっかく化粧したのに我慢出来ないの?」
「ハッ! 俺は我慢なンざ大ッ嫌いなンだよ」

困った奴め。僕の苦労を少しは理解しろよ。

「気が向いたら、またお化粧してあげる」
「ンなことより、女らしい服を着やがれ」
「ふん……誰が悪役貴族のためなんかに」

チラリと委員長に目をやると何やら頷いた。

「ちょうど、帝国から取り寄せた衣装があるのだ。私にはどうしても似合わないので、許嫁殿に贈呈したいのだが……着てみるか?」
「先進的な帝国の衣装なら……着てみたい」
「あいわかった! メイドたち手伝ってくれ」
「はい、かしこまりました!」
「仰せのままに、第二夫人様」

委員長が用意した服は淡い青色のシフォンプリーツキュロットスカートというもので、構造上、僕の子供下着が見えることのない素晴らしい代物だった。パステルイエローのブラウスと合わせると、女の子感がマシマシだ。
170 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/22(金) 20:27:39.42 ID:aA4a3Ft/O
「ど、どうかな……?」

女の子の格好を悪役貴族に披露すると突然。

「おォい! メイドどもォ!!」
「はい! 若様!」
「なんなりとご下命を!」
「しばらくこいつと寝室にこもるから邪魔すんなよォ!! 優等生ェ、てめェも付き合え」
「はっ! かしこまりました。仰せのままに」
「やれやれ……巻き添えで役得をするとはな」

僕と委員長の肩を抱き、寝室へ向かう悪役貴族に深々と一礼するお姉ちゃんメイド。対照的に妹メイドちゃんは涙目で懇願してきた。

「そんなぁ……若様ぁ……見学だけでも……」
「あァ言ってるが、てめェらどうだ?」
「私は無論、構わないぞ! 興奮マシマシだ」
「ぼ、僕も……仲間はずれは可哀想だから」
「ハッハァー! なら全員、寝室に来ォい!」
「「わあい!」」

その後、僕らをめちゃくちゃにする様子をメイドたちに見せつけた悪役貴族は、やはり正真正銘の悪役貴族なのだと改めて実感した。


【僕は休日、女の子感をマシマシにする】


FIN
171 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 06:41:24.89 ID:8elE+t1NO
「いいかァクソども。この公式はなァ……」

悪役貴族は意外と人望がある。所謂、不良たちのまとめ役で番長として君臨していた。こうしてたまに教壇に立って学園中から集まったチンピラたちに勉強を教えてあげている。

「赤点取りやがったらぶっ飛ばすかンなァ」
「うす! ありがとうございやしたッ!!」
「閣下がお帰りだ! 道を開けやがれっ!」

ガラの悪い連中が作った花道を悪役貴族は肩で風を切って歩く。箔をつけるために僕が持たせたステッキがいかにも悪役貴族らしくて良い感じだ。杖材は強靭な樫で、純銀で杖頭にあしらわれた獅子と鴉の意匠はこの国の貴族であるなら誰でも知っているもので、僕の婚約者であることを示している。城下の杖職人を褒めてあげたい。

「あァン? なァに見てやがンだァ?」
「別に……さっさと帰って来てね」
「あァ……先に部屋で待ってろォ」

物陰からこっそり眺めていたら見つかってしまったので、そそくさと逃げる。僕みたいな善良な生徒が関わっていたらおかしいから。

「はあ〜……カッコ良すぎるよ」

あれが僕の婚約者だなんて。最高に素敵だ。
172 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 06:44:04.00 ID:1BvajdrNO
「おかえりなさいませ、若様」
「上着とステッキをお預かりいたします」

悪役貴族が帰ってきたのは日が沈んでからだった。何やら花束やら贈り物の箱を沢山抱えている。それを見て、僕はまたかと呆れた。

「今日も女の子たちに群がられたの?」
「あァ、そのせいで帰りが遅くなっちまった。いらねェって言っても、不要なら捨ててくれって色んなもンを持たせやがって……」

悪役貴族はモテる。学園のゴロツキが善良な生徒に迷惑をかけないように目を光らせているおかげで、助けられた女の子たちは多い。

「くんくん」
「あァン? なに匂い嗅いでンだァ?」
「浮気の匂いがしないかと思って……」

念の為にチェックするとシロ。ほっとする。
173 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 06:46:23.72 ID:1BvajdrNO
「そンなに心配なら、てめェが露払いしろ」
「へ? 僕が? なにそれ、どういう意味?」
「てめェが女の制服で隣にいれば解決だろ」

たしかに僕が女生徒として悪役貴族の隣に立てばこいつを慕う女の子たちは諦めるかもしれない。だけどそれは出来ない。何故なら。

「正体を明かしたらこの学園にいれないよ」

きっと大騒ぎになる。だって、ただでさえ。

「それに……悪役貴族の許嫁がこの学園にいたら、余計な敵が増えるかも知れないしさ」
「ハッ! ンな雑魚ども蹴散らしてやンよォ」

立場上、僕と結婚したい貴族は多い。悪役貴族と僕が婚約してることは知れ渡っているので、様々な嫌がらせを受けた結果、こいつは今のような振る舞いを身につけたのだろう。

「僕のせいで苦労をかけてごめんね」
「俺が望んだ結果だ。謝ンじゃねェ」

僕と悪役貴族の関係には、しがらみが多い。
174 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 06:47:56.60 ID:1BvajdrNO
「委員長が彼女として露払いしたらどう?」
「出来ることならばそうしたいが、一介の留学生にすぎない私如きが貴族の令嬢を追い払うことは難しい。力になれずに申し訳ない」

委員長は学年次席だし、きっとその美貌で周囲を威圧は出来ると踏んだが、それでも立場上、貴族令嬢を追い払うのは難しいようだ。

「まあ、僕は気にしてないから大丈夫だよ」
「ホントかァ? 無理してねェだろうなァ?」

そもそもこんなのこの学園に入学してからすっかり慣れた。許嫁としての自信を喪失した過去はあれども今は婚約者と同棲してるし。

「あっ……またこのようなモノを……」
「なんて、無礼な……許せませんっ!」

何やら贈り物の仕分けをしているメイドたちが騒がしい。まさか贈り物の中に小賢しい貴族が嫌がらせ目的で何か混ぜたのだろうか。

「どうしたの? 何が入ってたの?」
「これは奥様はご覧にならないほうが……」
「こんな穢らわしいもの早急に燃やします」

そう言われると気になる。覗き込んで後悔。
175 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 06:56:56.24 ID:DrA63C9kO
「なんで……女の子の下着が入ってんだよ」

丸めて小包に収められた下着。新品ではなく着用した痕跡が見て取れる。怒りが湧いた。
婚約者がモテるのは僕としても鼻が高いし、悪役貴族が慕われているのは嬉しい。妖しく輝く紫水晶の双眸の魔力に抗えず、あわよくば一夜限りでも悪役貴族に抱かれたいという劣情を抱く者もいるだろう。だけどこれはやりすぎだ。許嫁として、許せない。

「なに考えてんだよ! 頭おかしいでしょ!」
「お、奥様のお怒りはごもっともです……」
「一部の貴族の方の性癖は歪んでいるので時折こんなものも混ざってますが、我々がきちんと処分していますので、ご安心ください」

怒り心頭な僕をメイドたちが宥めるけれど。

「あーイライラする。学園取り潰そうかな」
「それは困る。本国に強制的に送還される」
「あ……ごめんね、委員長。軽率だったよ」

僕らしくない。基本的に権力を使うことはしたくなかった。物心がついてから何度もそれで失敗しているのだ。僕の顔色ひとつで奏上してくる大臣たちの首が飛ぶ。何か疑問を口にすると大問題に発展する。挙句の果てに、腹を切るだの馬鹿なことを言い始めるのだ。
せっかくそんな窮屈なお城から出奔したのに癇癪でこの学園生活を台無しにしたくない。
落ちつけ。クールにいこう。深呼吸すると。

「俺のせいで嫌な思いさせた悪かったなァ」
「悪役貴族は悪くない。これは僕の……あ」

僕の問題だと言いかけて僕は名案を閃いた。
176 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 07:01:17.57 ID:Pld9NjKLO
「ちょっと待ってて。委員長、ついて来て」
「何か考えがあるのだな? 無論、協力する」

僕は委員長を連れて寝室に入り、すぐ戻る。

「お待たせ。はい、これ」
「あァン? なんだァ、こりゃあ……?」
「それは我々の下着だ!」

脱ぎたての下着をあげると悪役貴族は一瞬ポカンとしたあと、まるで地の底を震わすように低い笑い声を喉の奥から鳴らし、吠えた。

「クックックッ……ハッハァー!てめェらはホント面白れェことを考えやがンなァ! おォいメイドどもォ! 酒を持ってこォい! 今日はとことん飲むぞォ! 最ッ高の気分だぜ!!」

目には目を。下着には下着を。貴族令嬢の下着には見向きもしなかった悪役貴族は僕らの下着を握りしめて、拳を突き上げ、大喜びではしゃいでいた。スースーする価値はある。

「見事な振る舞いだな、許嫁殿」
「ふん。このくらい朝飯前だよ」

獅子と鴉の僕らにかかれば、造作もないさ。


【僕は激怒して、悪役貴族に下着をあげる】


FIN
177 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 20:07:36.36 ID:j/w0avTiO
「おいで」
「あァン? なンのつもりだァ……てめェ」

あの下着事件で僕の独占欲が大きくなった。
僕と委員長だけでこの悪役貴族を独占する。
何されても平気なようにこいつを支配する。
僕は考えた。悪役貴族との接し方について。
いつも喜ぶのは僕だけ。それだと、ダメだ。
様々な方面からのアプローチを、脳内で山程シミュレーションしてみた。最終的に僕が導き出した結論はたまに甘やかすことだった。

「別に照れなくていいから……早くおいで」
「てめェ、いよいよイカレちまったかァ?」

ふん。とっくの昔に悪役貴族にイカレてる。
両手を広げて僕がおいでと繰り返すと悪役貴族は怪訝そうな顔で警戒している。野良犬並みの警戒心を解くために、僕は手を繋いだ。

「ほら、こっちにおいでってば」
「チッ……なんなんだっつーの」

繋いだ手を引き寄せると僕の胸に収まった。
178 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 20:08:39.57 ID:1NyLcZjLO
「よーしよーし……良い子、良い子」
「おォい……俺ァ、動物じゃねェぞ」

抱きしめて頭を撫でてあげる。僕の胸の中で悪役貴族はモゴモゴと文句を言う。口調とは裏腹に体温が上がっていて耳まで真っ赤だ。
思った通り、素直になれなくても大丈夫だ。
所有物のように扱うと支配欲は満たされた。
こちとら何度も夜泣きする悪役貴族をあやしているのだ。今更、照れる必要なんかない。

「これから僕がおいでって言ったら来てね」
「いちいちてめェの許可が必要なのかァ?」
「ぎゅっとして欲しい時はお願いしなさい」
「俺ァ、てめェのペットか何かなのかァ?」

まさしくこれは飼育というペットの扱いだ。

「良い子にしてたら、なんでもしてあげる」
「てめェに与えられるだけなンざ御免だァ」

まあ、そうだろう。僕には強い味方がいる。
179 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 20:09:35.25 ID:utrKMnQ3O
「はい。今度は委員長の番だよ」
「うむ。では、お預かりするぞ」
「あァ? 優等生まで何を……もがっ」

委員長とバトンタッチ。彼女の豊満な胸に顔を埋める悪役貴族にイラッとするけど、僕だけではこの駄犬は満足しない。僕の平らな胸では大して心地良くないからだ。僕に足りない巨乳成分を委員長から定期的に補給させる。不甲斐ない思いはすれども、それでも、他所の貴族令嬢なんかよりは100倍マシだ。

「ふふ。まるで授乳してる気分だ……」
「バカたれ。母乳なんか出ないでしょ」

アホなことを抜かす委員長を睨みながら、僕は両脇に双子メイドたちを侍らせる。お姉ちゃんメイドの脚を膝に乗せて白タイツに包まれた太ももを撫でながら、妹メイドちゃんの最近急成長している胸に、頬を擦りつける。
そうするとドロドロした気持ちが洗われる。

「協力してくれて助かるよ……ありがとね」
「はぅ……私も奥様に授乳したいです……」
「んっ……存分に、我々を愛でてください」

これこそが導き出した結論。桃源郷である。
180 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/23(土) 20:10:35.44 ID:V/xWR+hrO
「あ、どうやら委員長終わったみたいだね」
「はい。今宵はまた一段と……」
「あんなにお乱れになって……」
「君たち、委員長を浴室まで運んであげて」
「かしこまりました」
「仰せのままに」

事が終わった委員長をメイドたちに任せる。

「どうだった? 僕に管理されるのは」
「チッ……ムカつくが、悪くはねェな」
「これから僕がずっと飼ってあげるよ」

満足そうな悪役貴族に腕枕をさせて、囁く。
お前は僕のものだと。僕が全て支配すると。
それが悪役貴族のためになると、洗脳する。

「僕に支配されたらきっと幸せになれるよ」
「それでも俺ァてめェの想像を超えてやる」
「あ……なんでまだ元気なんだよバカたれ」

いま終わったばかりなのにもう回復してる。
こんなの想定外だ。結局、悪役貴族は僕の思い通りにはならない。その反抗的な眼差しにゾクゾクした。もっともっと、好きになる。
無意識に、小指の指輪を口元に引き寄せる。
僕はあの夜から悪役貴族に夢中で恋してる。
小指の指輪に口付ける僕を、奴は口説いた。

「てめェが俺を満たすつもりなら、俺もてめェを満たしてやるよ。それが夫婦だろォ?」
「ふん……余計なお世話だよ……でも、まあ」
「あァン? 今夜は自分で服を脱ぐのかァ?」
「僕を満たすのは悪役貴族の役目だからね」
「ハッハァー! 望みどォり満たしてやるよ」

終わったら今度は僕がメイドに運んで貰う。


【僕はついに、悪役貴族の洗脳を開始した】


FIN
181 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/24(日) 06:31:41.48 ID:7mgzoxbVO
「よーしよーし……良い子、良い子」
「ケッ……動物扱いすンじゃねェよ」

この前に洗脳してから、悪役貴族と僕の間でアイコンタクトが交わされるようになった。
勉強の合間や読んでる本から顔を上げた際に悪役貴族は紫水晶の瞳でこちらを見つめる。
それが合図で、僕はおいでと手招きをする。
こちらに来て膝立ちになった奴を僕は抱く。

「ん? あァ……すまん。今、気づいた」
「気づくのが遅いんだよ……バカたれ」

逆に僕が悪役貴族を見つめて、その視線に気づいた奴がこちらを呼ぶこともある。その際には、かなり根気よく見つめる必要がある。
僕は悪態を吐きながら奴の腕の中に収まる。

「もう僕がいないと生きていけないね」
「ハッ! たしかにそうかも知れねェな」

こいつには僕が必要で、僕にはこいつが必要だった。最近、僕は変に焦って、早く結婚したいとか、早く子供が欲しいなどと考えるようになっている。僕はたぶん、この幸せが突然壊れてしまうことを恐れているのだろう。
落ち着かない僕は委員長に相談をしてみた。
182 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/24(日) 06:32:21.31 ID:7mgzoxbVO
「委員長はさ、怖くなったりとかしない?」
「ん? もう少し具体的に言ってくれないか」
「たとえばある日突然、関係が壊れるとか」
「許嫁殿が彼を手放すとは思えないし彼もまた絶対に許嫁殿を手放すことはないだろう」
「いや、委員長だって、僕らには必要だよ」
「どうだろうな。私なんていなくても……」
「必要だよ。委員長が居てくれないと困る」

悪役貴族を失うことを恐れるのと同じく、委員長や双子メイドたちを失うのを僕は恐れている。この前の下着事件で僕は考えなしに学園を取り潰そうなんて口走った。その時に止めてくれたのは委員長だ。委員長は僕が誰でどんな立場であっても客観的に指摘してくれる貴重な存在だ。しかし、帝国からの留学生である委員長はいつ帰国してもおかしくない身の上だから余計に喪失するのが怖かった。

「嫌なことがあったら、いつでも言ってね」
「あっはっは! 心配はご無用だ! 双子メイドたちともすっかり打ち解けて、なにより正妻殿がこれほど気にかけてくれるのだから、何も不満はない。むしろ今、帝国に戻れと言われても戻りたくないくらい居心地がいいぞ」

委員長は着実に第二夫人としての立場を確立している。双子メイドちゃんたちも近頃は率先して委員長と関わろうとしてくれている。
183 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/24(日) 06:33:09.61 ID:7mgzoxbVO
「しかし、やはりというか、君と婚約者の絆には敵わないと痛感するな。よくもまあ、言葉も交わさずに、意思疎通が出来るものだ」
「僕と悪役貴族は喋ると喧嘩しちゃうから」
「だから互いに目で語り合う術を身につけたというのなら、私としては羨ましい限りだ」

ここまで洗脳するのに僕はかなり頑張った。

「僕と委員長の間にだって絆はあるよ。チョーカーとピンキーリングもお揃いだしさ。髪型も一緒で、同じ奴のことが好きじゃんか」
「私はバイク事件の際に、許嫁殿には生涯忘れぬ恩が出来たからな。それも絆と言える」
「そんな昔のこと……もう忘れちゃったよ」

過去を水に流すも、委員長は首を振りつつ。

「どうか忘れてくれるな。あの一件があったからこそ、今の私はここに在るのだからな」

そう頑なに言われてしまっては仕方ないな。
あの件で僕が委員長を責めたのは、在り方についてであって、それはたしかに、忘れるべきではないのだろう。僕も含めてだけどさ。
184 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/24(日) 06:35:08.93 ID:7mgzoxbVO
「もしも帝国に帰っても絶対連れ戻すから」
「あっはっはっは! 国際問題に発展するぞ」

構わない。きっと、宰相がなんとかするさ。
基本的に権力を使わない僕だけど、いざという時には思う存分使う。だって家族だから。
そのために僕が出来ることはなんでもする。

「今のところ帰国命令は出ていない。それに私には私の意思がある。心配せずともいい」
「さっきからすごく良い台詞なんだけどさ」
「ん? なんだ? どうかしたのか、許嫁殿?」
「目隠しされて縛られたままだと台無しなんだよね。最近どんどん過激になってない?」
「あっはっは! 許嫁殿には出来ないプレイをこなすのが第二夫人としての役目なのだ!」

目隠し緊縛委員長が、全裸で高笑いをする。
ガッカリだ。悪役貴族だってそんなにキツく縛ってないんだから自分でほどけるのにさ。
まあ、そんなところも委員長の良さだけど。

「ほんとに委員長が第二夫人で助かったよ」
「今度、許嫁殿も一緒に縛られてみたまえ」
「バカたれ。僕は普通に愛されたいんだよ」

このプレイをあの夜されていたら今はない。


【僕は時折、悪役貴族と視線で誘い合う】


FIN
185 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/24(日) 20:01:33.01 ID:faZCfFGaO
「てめェは俺に何も訊いてこねェよなァ?」
「はあ? そんな薮から棒に、なんのこと?」
「双子メイド共のことだ。気になンだろ?」

とある深夜。皆が寝静まったあとに、いつも通り悪役貴族と反省会をして、僕がパジャマの前のボタンを留め直していると、ふいにそんなことを悪役貴族が口にした。身構える。

「突然なに? この子たちがどうかしたの?」
「こいつらの過去や経緯に興味ねェのか?」
「この子たちは大好きだけど、過去や経緯については、詮索したくないと思っているよ」
「ケッ。てめェはホント、良い女だよなァ」

この子たちが昔、奴隷市場で悪役貴族に買われたらしいということは1番最初に聞いた。
訳ありだということは、なんとなくわかる。
ただ根掘り葉掘り訊く気にはなれない。きっとそれはこの双子にとって辛い記憶だから。

「俺の視点からすると、単純な話だァ。ただ泣き喚いてる双子の奴隷を両方まとめて買い取った。ただそれだけのシンプルな話だァ」
「ふうん。きっとその双子たちが泣き喚いていた理由は、それぞれ別の客に買われそうになってお互いに離れ離れになりたくなかったからみたいな、そんなところじゃないの?」
「まるであの場を見てたかのようだなァ?」

見なくてもわかる。双子をまとめて買うような金持ちは悪役貴族しかいなかったのだ。この子たちが今こうして、同じところで働いているのは、彼女たちの願いだったのだろう。
186 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/24(日) 20:04:07.85 ID:jIXHELGZO
「この国には奴隷が欠かせねェ。てめェなら当然、それがどうしてか知ってるよなァ?」
「誰に訊いてるのさ。僕の国の産業は農業が主体だからね。奴隷を働かせないと大陸の食糧庫としての生産力は確保出来ない。とはいえ一概に、必ずしも、この子たちがそんな農奴になっていたとは限らないけれどさ……」

なにせこの可愛らしさだ。農奴ではなく、愛玩用として買われていたかも知れない。もちろんそんなことは違法だが、可能性は高い。
努めて冷静に話したつもりだけど悪役貴族は見抜く。上機嫌でこちらの胸中を理解した。

「ハッハァー! やっぱりてめェも、そんなこの国のやり方が気に食わねェようだなァ?」
「当たり前じゃん……何が言いたいのさ?」
「俺ァいつか、この国の奴隷共を解放する」

それは悪役貴族の夢で絶対に叶えるという意思を感じた。この夜僕は、これまでのように委員長を通して断片的な情報を得るのではなく悪役貴族に直接、願望を打ち明けられた。

「じゃあ、僕は何をすればいいかを教えて」
「ハッ! てめェは何もすンな。俺の隣で見てろォ。てめェの国が変わっていく様をよォ」

思わず勇み足になった自分を恥じ入る。なんてはしたない。夫の前を先導しようとするなんて。悪役貴族に呆れられてしまったかも。
187 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/24(日) 20:05:58.24 ID:eWMJuH9dO
「ごめんなさい……余計なこと言って」
「あァン? 俺に遠慮すンじゃねェよ」

妻になる者として、行き過ぎた発言に関してはいかに僕であろうと素直に謝った。反省して、落ち込んでいる僕を悪役貴族は抱き寄せて、気にするなと頭を撫でながらこう諭す。

「てめェは立場上、直接あれこれ国政に口出し出来ねェだろォからなァ。てめェがやりたくても出来ねェことは俺がやってやる。てめェが叶えたくても叶えられねェ願いは、全部俺が叶えてやる。だから、よォく見てろォ」
「うん……わかった。この目に焼き付ける」

立場上、僕が奴隷制度に口を挟むと、国政が乱れてしまう。僕の望みを叶えるために、僕に気に入られたい連中が手段を問わずに、めちゃくちゃなことをやり始めるだろう。その結果、国民が飢えて、飢饉が発生する未来は想像に難くなかった。悪役貴族なら安心だ。

「悪役貴族なら何も心配ない。信用してる」
「ハッ! 俺がめちゃくちゃなやり方で、この国を大混乱に陥れるとは思わねェのかァ?」
「思わない。だって悪役貴族はこの子たちに一度も手を出してない。悪役貴族はこの子たちに奴隷の烙印を押していない。そんな悪役貴族なら、きっと、より良い未来を作れる」

この子たちの身体は清くて、生まれたままだった。焼きゴテや刺青で奴隷の烙印を押されていない。メイドとして、保護されている。
そんな優しい婚約者を僕は信じて疑わない。
188 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/24(日) 20:07:20.25 ID:QrvQlpyhO
「僕こそ、知らず知らずのうちにこの子たちを愛玩用にしてしまっていないか、不安になるよ。その時は悪役貴族に注意して欲しい」

思い当たる節は多い。僕なりに愛情をこめて可愛がってるつもりだけど、捉えようによってはセクハラかもしれない。もしそうなら僕のほうがよっぽど悪役貴族になってしまう。

「余計な心配してンじゃねェよ。俺ァこいつらを買った時に、てめェらは将来、俺の妻に仕えることになると言った。そン時は俺よりも妻のことを優先しろってなァ。だが、メイドの仕事を辞めたけりゃいつでも辞めていいとも言っている。離れ離れにすることなく、別な仕事を斡旋してやるとも言った。それでもこいつらは今、ここに居て、てめェに仕えている。それはこいつらの意思だから、邪推すンな。てめェに侮辱されたら悲しむぞォ」

僕が直接根掘り葉掘り訊かなくて良かった。
そうしていたらきっと、彼女たちの意思を侮辱してしまっていただろう。ただ優しいだけではダメなのだ。彼女たちにとって、尊敬されるような奥様にならないと。燃えてきた。

「僕はこの子たちや悪役貴族に相応しい妻になりたい。いや、絶対になってみせるから」
「俺もてめェに相応しい旦那になるぜ」
「ふん。格好良すぎだよ……バカたれ」

今宵は僕から悪役貴族に誓いのキスをする。


【僕は夜半、悪役貴族に誓いのキスをする】


FIN
189 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 06:34:52.60 ID:kEo40iKLO
「何か僕に直して欲しいところはある?」
「奥様……? 突然なにを仰るんですか?」
「私たちは奥様に不満なんてありません」

その日の朝。朝食を食べ終えてからのこと。
単刀直入に僕は双子メイドたちに問いかけてみた。本当は自分でダメなところに気づいて直すべきなんだろうけど、あらかた自分でもダメなところはわかっているのに直せないのが僕なので、双子たちにビシッと言って貰えれば変われるんじゃないかと期待していた。
しかし、困惑する双子から、僕への不満を引き出すのはなかなかに骨が折れそうだった。

「些細なことでもいいんだ。僕はもっともっと、君たちに相応しい奥様になりたいんだ」
「そんな……奥様は素晴らしいお方ですし」
「むしろ変わって欲しくなんてありません」

ちょっと堅苦しいな。砕けた調子でいこう。

「えーでも僕、最近君たちにセクハラしすぎじゃない? すこし控えたほうがいいかな?」
「いいえ。そんなことは断じてありません」
「奥様に毎晩愛でられるために我々は日々、仕事に励んでいるのです。お忘れなきよう」

どうも美化されすぎてる。現実の僕は違う。
190 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 06:36:01.27 ID:kEo40iKLO
「でも僕も人間だからね。自分自身でさえ、嫌なことを数えたらキリがないくらいだよ」
「全てを含めて私たちはお慕いしています」
「奥様のメイドとして日々尊敬しています」

うーむ。押してダメなら、引いてみようか。

「僕に尊敬できるようなところあるかな?」
「もちろんです。まずそのお美しさだけで、恥ずかしながら我々はひと目惚れしました」
「奥様の作るお料理は味もさることながら、愛情がこもっていてとっても美味しいです」
「奥様は若様の妻としての在り方を、私どもに示してくださいました。あの日のことを思い出すと我々は日々やる気が漲ってきます」
「奥様は奴隷だった私たちを、憐れんだり」
「変に気を遣うことなく、接してくれます」
「そんな奥様のお優しさに我々は尊敬して」
「その振る舞いに我々は憧れを抱いてます」

となると、これまでの僕の立ち居振る舞いや双子たちへの接し方は完璧だったということになる。そんなことありえるのか? 僕は自分に対して、自信を持てない。理由は明白だ。
191 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 06:37:33.56 ID:OfPwuVEcO
「いや、僕なんて全然だよ。1番直したいのは素直になれないところなんだけど、悪役貴族はそのままでいいって言うんだ。君たちはその点についてどう思う? 意見を聞かせて」
「若様がそうお望みなら、焦ることはないかと存じます。きっと一緒に過ごせば、無理なく素直になれる瞬間が訪れることでしょう」
「無理してご自分を変えてしまえば若様はきっとお悲しみになります。ご自愛ください」

この子たちもありのままの僕でいろと言う。
悪役貴族を悲しませるのは、たしかに嫌だ。
当初の目的とは違い恋愛相談になってきた。

「君たちには常に素直でいられるんだけど、なかなか難しいね。僕は恋をするのが初めてだから、感情が上手く制御出来ないんだよ」
「そうしたところも、奥様の魅力なのです」
「若様もきっとそこがお気に入りな筈です」

鵜呑みにするのは危うい。何せ悪役貴族だ。

「そうかなぁ。あいつはちょっと趣味が変わってるから単に面白がってるだけかもよ?」
「よろしいではありませんか。若様の変わったご趣味に合う女性は奥様と、あとは恐らく、第二夫人様以外存在しないでしょうし」
「そのほうが余計な虫がつかずに済みます」

なるほど。考えかた次第かもね。納得した。
192 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 06:38:42.46 ID:ib/AtpApO
「ありがとう。君たちと話すと元気が出る」
「勿体なきお言葉。感謝感激、感無量です」
「もしよろしければご褒美をくださいませ」
「ちょっと! 対価を望むなんてやめなさい」
「お姉ちゃんは真面目すぎ。きっと大丈夫」

喧嘩を始めた双子たちを宥めて望みを訊く。

「もちろんいいとも。何が望みなんだい?」
「やったー! じゃあじゃあ、いま履いてる靴下とそれからお使いの歯ブラシを……むぐ」
「こら! お黙り! 奥様、大変失礼しました」
「むー! むー!」

靴下と歯ブラシは、中毒性があるので却下。
あと単に恥ずかしいし。妹メイドちゃんがこれ以上、道を踏み外さないようにしてあげるのも奥様の勤めだ。僕は委員長に目配せをして、もともと用意していた贈り物を手渡す。

「じゃあ僕らから君たちに、これを贈ろう」
「奥様、これは……?」
「いったい、なんですか……?」

双子の手のひら乗る機械。不思議な形状だ。
知識のない僕では説明の出来ない魔法の品なので、あとは委員長に詳しく解説して貰う。
193 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 06:40:41.32 ID:u+YLF5ezO
「これは許嫁殿に頼まれて、帝国から取り寄せた"トランシーバー"だ。太陽光で発電出来る充電器もセットで用意した。この国では携帯電話は使えないが、トランシーバーならば問題なく使える。無論、電波が届く距離には限りはあるがこの寮周辺くらいならば何かあった時にすぐさま連絡を取り合えるだろう」
「はえ? とらん、しーばー……?」
「これで、奥様方とご連絡を……?」
「論より証拠だ。許嫁殿、話しかけてみろ」

促されて、僕は教わった手順で通話をする。

《あー、あー、どう? 聞こえるかな?》
「ふあっ!? す、すごいです、これ!」
「奥様のお声が手元で……興奮します!」

お姉ちゃんメイドまで飛び上がって驚くとは思わなかったけど、妹メイドちゃんは相変わらずだな。反応が良くてとても嬉しくなる。
194 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 06:43:30.95 ID:u+YLF5ezO
「これからこれを使って言いたいことや、報告したいことがあったらいつでも言ってね」
「りょ、了解しました! あ、それなら……」
「早速ですが、お耳に入れたいことが……」
「この距離で? なんだい? 言ってごらん?」

なんだろうと機械に耳を傾けると囁かれた。

《《これからもずっとお慕いしています》》

それは、どんな贈り物よりも嬉しい真心で。
思わず泣きそうになった。なんて良い子たちなんだろう。僕には勿体ないくらい、素晴らしいメイドたちだ。溢れ落ちそうになる涙を堪えて、僕は毅然と、奥様として振る舞う。
感謝を労いに変え、より尊敬されるように。

「了解。これからも慕われるように頑張る」
《どうぞ、ありのままで魅了してください》
《第二夫人様にも、一層の忠誠と、尊敬を》
「うむ! 大義である! これからも頼むぞ!」
「僕より奥様らしいじゃんか……バカたれ」

やたら偉そうな委員長に破顔して、憧れた。


【僕は朝食後、改めて双子たちに感謝する】


FIN
195 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 23:10:02.74 ID:A/fXjWa9O
「こちら僕、こちら僕。そろそろ帰るよー」
《かしこまりました。お待ちしております》

この"トランシーバー"はとても便利だ。寮に着く前に事前に帰宅を知らせられるので僕が帰ると紅茶やお菓子が既に用意されている。

「ただいまー」
「おかえりなさいませ、奥様」
「妹ちゃんは?」
《はいはーい、奥様。お風呂掃除中でーす》
「お疲れ様。いつもありがとね」
《いえいえー! ちゃちゃっと終わらせます》

身につけたトランシーバーから伸びるイヤホンによって直接耳に音声が伝わり、袖口に仕込んだマイクのおかげで仕事や作業に支障することなく意思疎通や確認が可能となった。

「すみません、奥様。妹がご無礼を……」
「いーよいーよ。なんかこの機械を使うと話しやすい気がするし。僕としても気楽だし」

メイドたちは僕の前だとやや緊張するのか、どうもかしこまってしまう。機械を通しての声だけのやり取りは僕としても楽しかった。
196 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 23:11:31.86 ID:A/fXjWa9O
「お姉ちゃんも、もう操作には慣れた?」
「はい、第二夫人様のおかげでなんとか。ですが私は奥様と直接お話しするほうが……」
「おかえりなさいませ奥様! お風呂掃除完了世界新記録です! 褒めて愛でてください!」
「あ! ちょっと!? お風呂掃除している間は、私と奥様の時間って決めたでしょ!?」
「もう終わったもんねー! 残念でしたー!」

妹ちゃんは今日も元気だな。あ、紅茶美味しい。茶葉変えたのかな。あーでも、ミルクとハチミツを垂らしたらもっと美味しいかも。

「奥様、その紅茶はお気に召しませんか?」
「ああ、いや。ミルクとハチミツをね……」
「わかりました! すぐにお持ちしますね!」

僕が自分で取って来ようかと腰を上げる前にびゅんっ!と妹ちゃんがキッチンへと向かうとすぐにトランシーバーから通信が入った。

《お姉ちゃん、ハチミツどこー?》
「この前買って戸棚に入れておいたでしょ」
《えー? 戸棚の何段目ー?》
「たしか3段目だったと思うけど……」
《あっ! あったあった! 持っていくねー》

このように仕事の面においても極めて実用的である。帝国のお屋敷の使用人や護衛官が、この機械を常用しているのも納得の性能だ。
197 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 23:13:30.75 ID:A/fXjWa9O
「まったく。この機械はとても便利ですが、どんどん妹が横着になるのではと不安です」
「便利なことはいいことだよ。わざわざ時間や手間暇をかけたい気持ちはわかるけど、君たちは忙しいし、僕との時間を作るためだと思って、お姉ちゃんにも活用して欲しいな」
「ああ、奥様……そのような隠されたご配慮にも気づかず、愚かなこの私をお赦し……」
《ちなみにお姉ちゃんは本日、紐パンです》
「よ、夜まで内緒って約束したでしょ!?」

紐パンかぁ。お姉ちゃんメイドがあれを穿いてるなんてえっちだなぁ。今度、僕も穿いてみようかな。よし、あいつに訊いてみるか。

「あーこちら僕。悪役貴族は紐パン好き?」
《帰って早々何言ってやがンだてめェ……》
「早く答えな。僕に紐パン穿いて欲しい?」
《そうだなァ……脱がせるのが楽しみだな》
「バカたれ。委員長に頼んどく。じゃあね」

メイドちゃんたちのついでに物欲しそうな顔をする悪役貴族にトランシーバーを恵んでやったら、奴は大はしゃぎで喜び、この頃は書斎にこもって予備機を分解して調べている。そんな機械オタクの悪役貴族に対しても気兼ねなく話せるのは便利だ。顔を突き合わせると喧嘩してしまう僕にとって非常に助かる。
さすが帝国の発明品だ。委員長によると、帝国ではこの機械が更に便利になったものを、国民のほとんどが日常で使ってるとのこと。
198 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 23:16:12.90 ID:A/fXjWa9O
「いやーほんと帝国ってすごいよね」

僕が帝国を誉めると委員長が得意げな顔で。

「それを言うなら"ぱない"だぞ、許嫁殿」
「へ? ぱない? なにそれ、帝国語?」
「半端ないの略だ。短縮して"ぱない"だ」
「へえー帝国は日常会話も先進的だね」

言葉すらも新しいなんて。若者である僕らの感受性とっては刺激になる。参考にしたい。
良い機会だし帝国の文化を勉強してみよう。

「他には変わった言い方みたいなのある?」
「うーん、そうだな……たとえば、エグすぎてレベルが違うことを"エグち"と言ったり、落ち着くことを"チル"と言ったり、ありがとうございますを"あざまる水産"とか言ってたりするかな。会話の中でその説があり得る場合は"説あるコアトル"で、見た目が良ければ"ビジュ完璧"とか。許嫁殿の"好きピ"などはまさにビジュ完璧なイケメンと言えるな」

なにそのワード集。めっちゃ気分アガるわ。
199 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/25(月) 23:18:16.70 ID:A/fXjWa9O
「共感した時はハイタッチでうぇーい!だ」
「う、うぇーい?」
「うむ! ほら、メイドたちも、うぇーい!」
「「うぇーいでございます」」
「ああ……尊いな! 私だけで独り占めするのは申し訳ないから、彼にも聞いて貰おう!」
「「「うぇーい!」」」
《うるッせェなァ……作業の邪魔だァ》
「この慈しみ、わかりみが深くないか?」
《わかるかァ! そンなもン!》

うは。なんか楽しい。委員長は勢いづいて。

「いいか? こうやって、Vサインを下に垂らせば、ほーら、"ギャルピース"の完成……」
《おォい、優等生ェ……地が出てンぞォ》
「君も書斎にこもってないで出てきたまえ」
《あとで行くから、ほどほどにしとけェ》
「あ、マズイそうだった。君たち、今のは忘れてくれ! 何事もやりすぎは禁物なのだ!」
「「「うぇーい!」」」
「ああ、私としたことが手遅れだった……」

帝国の先進的な日常会話は学園で流行った。


【僕は帰宅早々、ギャル語を覚えた】


FIN
200 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 03:49:15.10 ID:TH6yVTMkO
「うぇーい! 悪役貴族、チルしてる?」
「苛つくからやめろォ……その喋り方」
「じゃあ、息してる?」
「当たり前だろォがァ」

悪役貴族はこの頃、狭い書斎にこもり、予備のトランシーバーを分解しては組み直す作業を繰り返してる。何やら各部の寸法を測ったり、色んな検査記録を取ったりしていて、難しそうな作業なのに、なんだか楽しそうだ。

「それ、予備なんだから壊しちゃダメだよ」
「あァ……わかってる」
「わかりみ深い?」
「あァ……深ェ深ェ」

作業してる時は集中しているのか生返事ばありで僕はつまらない。別に相手にされないから拗ねてるわけじゃない。ただちょっとくらい構うべきだ。だって僕はこいつのお嫁さんになるんだから。別にわがままではない。僕はおもむろに背後から抱きつき耳を噛んだ。

「あむ」
「うォい!? 耳を噛むんじゃねェよ!?」
「耳も息してるかなって思って」
「てめェ……酔っ払ってンのかァ?」
「んー……ちょっとだけね」

たまには僕だってお酒を飲むさ。別に構って貰えない寂しさを紛らわせるためじゃない。ちょっとだけなら健康にも良いんだからね。
201 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 03:50:30.65 ID:TH6yVTMkO
「悪役貴族のぶんもあるよ! 飲む?」
「あァ……この作業が終わってからなァ」
「むー……僕のお酒が飲めないのかよぉ」
「チッ……わァッたよ。ほら、酒を注げ」
「ふん……素直に僕に従ってればいいのさ」

悪役貴族がお気に入りの帝国の透明なお酒を小さいカップに注いであげた。晩酌をしてあげるなんて亭主思いの奥さんだよ僕は。

「ほら! ぐっといって! ぐーっと!」
「あァ……美味ェ。次だァもっと寄越せェ」
「まったく、仕方ないなぁ……もぉ」

おかわりを注いであげて、とりあえず満足。
ようやく作業をやめた悪役貴族の膝の上に滑り込んで、バラバラになったトランシーバーの部品を手に取りながら、質問をしてみた。

「これ分解してどうすんの?」
「内部の構造を理解してンだよ」
「なんのために理解するの?」
「解放した奴隷たちが仕事に困ンねェように、工業製品の工場が沢山必要だからなァ」
「ふうん。理解できた? 趣き深い?」
「全部は無理だ。だが、一部だけなら俺でもわかる。たとえば、この音が鳴る仕組みは人体における鼓膜や声帯と同じ仕組みで……」

悪役貴族が説明を始めるが、僕にはちんぷんかんだ。ただ楽しそうに語る悪役貴族を眺めていると、僕まで楽しくなる。いつもの不機嫌そうな表情ではなく、子供みたいに機械に夢中になっている悪役貴族はかわいかった。
202 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 03:51:25.76 ID:TH6yVTMkO
「悪役貴族のその顔、嫌いじゃないよ」
「あァン? どんな顔してた?」
「まるで機械に恋してる顔」

すると悪役貴族は何故か赤面して、呟いた。

「俺が恋してンのはてめェだ、バカたれ」
「あー! 悪役貴族が僕の台詞取ったー!」

僕の決め台詞なのに。でも、こうして客観的に言われてみると、あんまり嫌じゃない。悪役貴族も同じだろうか。僕にバカたれって言われても、全然気にしてないし。変な感じ。

「悪役貴族はさ、僕がほんとは悪役貴族のことを嫌いじゃないってこと……知ってた?」
「そォなのか?」
「はあ〜……わかりみが浅すぎ。なんでわかんないかな。これだから、鈍感悪役貴族には困るんだよ。あのね、僕はほんとはね……」

今なら言える気がする。無理せず素直になれる気がする。お酒の勢いでなんて誠実ではないかもしれないけれど、それでもこの胸の高鳴りを飲み込んだままなのは、いい加減にしんどかった。僕は今宵、お酒の力を借りてでも、全て悪役貴族に言ってしまいたかった。
203 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 03:52:34.55 ID:TH6yVTMkO
「僕はほんとは、悪役貴族のこと……ぁむ」

キスされて邪魔された。僕の好きという気持ちが吸い出されて、代わりに悪役貴族の好きという気持ちが入ってきた。なにすんだとか、せっかく言えそうだったのにとか、そんな憤りが霧散していく。腕を背中に回して、足で腰を固定する。悪役貴族のいけない手が僕のパジャマのボタンを外したり、お尻や太ももをいやらしく触る。こっそり穿いてきた紐パンの紐がほどかれても気づかないふりをする。長いキスで息が苦しくなって、息継ぎをすると、悪役貴族の吐息が混ざって頭がクラクラした。そしてまたキスをされる。他にも色んなことをされている気がする。したければ好きにすればいいと思う。なんでも、好きにして欲しかった。だって大好きだから。

「んぅ……おはよ」
「ハッ! 二日酔いは平気そォだなァ?」

朝目が覚めるとベッドの上で、確かめるまでもなく僕は全裸で寝ていた。幸い、あの程度の飲酒で二日酔いにはならず、スッキリ爽快な目覚めである。昨夜のことをぼんやりと思い出すにつれ、羞恥と自分への失望に襲われた。もう少しで言えたのに、僕のバカたれ。
204 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 03:53:55.04 ID:TH6yVTMkO
「……僕に言ってよ」
「あァン? 言うって、何をだァ?」
「僕に、バカたれって……言って」
「なんだ、そのことか……お安い御用だァ」

鼻まで布団を引き上げて、赤面した顔を見られないよう隠しながら、僕がそうお願いすると、悪役貴族は何故か安心したようにほっと息を吐いてから、そんな意味深な様子に疑問を抱く間も無く、邪悪に嘲笑い、罵倒した。

「ハッハァー! なンだァ? 俺にバカたれって言われて気持ち良くなっちまったのかァ?」
「ちがっ……そんなんじゃないし……ていうかそもそも! バカたれって言うほうがバカたれだし! このっバカたれバカたれバカたれ!」
「ハッ! 支離滅裂だなァ……そろそろジョギングに行って来る。じゃあな……バカたれ」
「ふん……行ってらっしゃい。気をつけて」

やはりバカたれと言われても、嫌じゃない。


【僕はほろ酔い、悪役貴族に罵倒される】


FIN
205 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:23:41.41 ID:cKxG2gpcO
「あれ? 2人とも、なにその格好……?」

その日、いつものように僕は衣擦れの音で目をました。寝ぼけ眼を擦って、いつも通り、ジョギングに出かける悪役貴族を見送ろうとした僕の目に、見慣れたジャージ姿ではなく貴族としての正装をした婚約者と、同じく見慣れない軍服姿の委員長が飛び込んできた。

「あァ……ちょっと、出かけてくる」
「出かけるって、どこに……?」
「帝国だ」

質問に応じたのは委員長で、つまりその軍服は帝国軍のものだとわかった。どうしてそんな格好で悪役貴族と出かけるのか。何もわからない。それについて訊ねるべきかも判断出来ない。余計なことを言って、悪役貴族を困らせたくないと思う反面、何も説明せず僕を置き去りにしようとする2人に憤りを覚えてしまう。僕はどうするのが正解なのだろう。
考えてもわからない。無意識に僕は呟いた。

「……置いてかないで」
「……すぐ戻ってくる。てめェは待ってろ」
「安心してくれ。道中の安全は保証しよう」

僕を安心させるために頭に置いた悪役貴族の手が強張っているのがわかった。いつもの余裕ぶった表情もなく、緊張してる様子。帝国に行くというなら、留学生である委員長がなんとかしてくれるとは思うけど、それでも僕は心配だった。委員長を信用していないわけではなく、悪役貴族に対して不安だった。こんなに急に帝国を訪問するつもりではなかった筈だ。策を持たず、勝算もなく帝国に行って、果たして、成果を得られるのだろうか。
206 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:25:33.50 ID:cKxG2gpcO
「僕が……悪役貴族の代わりに行くよ」
「……あァン?」

部屋を出る間際、そう申し出ると、悪役貴族はゆっくりと振り返った。紫水晶の瞳に浮かぶのは、困惑と失望。奴は静かに怒ってる。

「てめェ……なァに言ってやがンだァ?」
「大事な用事なんでしょ? なら僕が行く」
「っ……出しゃばってンじゃねェッ!!」

思えば、初めて怒られたかもしれない。悲しくて、辛くて、泣きそうになった。ここで泣いたら、悪役貴族は帝国に行かないでくれるだろうか。それは否だろう。きっと嫌な思いを抱えさせたまま送り出すことになる。既に賽は投げられたのだ。真っ向から衝突した。

「メイドちゃんたちあいつを足止めして!」
「はい、奥様!」
「仰せのままに!」
「ハッ! こいつらに何が出来る? てめェらがまとめてかかって来ても、振り切って……」

ガシャンと、悪役貴族愛用の手錠とベッドの柵が繋がれた。なんて無様。こんな奴が僕の夫になるなんて。焦った様子の駄犬に囁く。

「すぐ帰って来るから良い子にしてなさい」
「てめェ! 邪魔すンな! 俺の仕事だ!!」
「ふん。そのザマで、何が出来るってのさ」

情けない。これでは帝国に行ったところで何も成せずに尻尾巻いて逃げ帰ってくるのがオチだ。パジャマを脱ぎ、メイドたちが用意したいつもの男子生徒用の学生服に袖を通す。
207 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:27:20.31 ID:cKxG2gpcO
「てなわけで、委員長、僕が一緒に行くね」
「本気なのか? きっと大問題になるぞ」
「なんとかなるよ。道中、よろしくね」
「奥様、ご武運を」
「若様のことは我々にお任せください」
「うん。任せたよ。うぇーい」
「「うぇーいでございます」」

先進的な挨拶をしてから部屋を出る間際に。

「ちょっと待てェ!! 話をさせろォ!!」
「うるさい。文句は帰ってから聞いたげる」

悪役貴族に引き留められたけどスルー。双子メイドに足止めされる男の言葉なんて聞く価値はない。というのは建前で、帝国へいく理由だの目的だの込み入った話をされたら、僕の決心が鈍るかも知れないと思ったからだ。

「それじゃあ、委員長。行こうか」
「よし。ひとまずバイクに乗ってくれ」

久しぶりに委員長のバイクの側車に乗り込んで、ヘルメットを被る。すると何やら改良されていて、中にスピーカーが仕込まれているようだ。トランシーバーを手渡されて、委員長はヘルメットから出ている線へと繋いだ。

《あーあー。聞こえるか、許嫁殿》
「うん。感度良好。どしたの、これ?」
《道中長いからな。目的と理由を説明する》

バイクが走り出して、簡単に概要だけを説明された。なんでも委員長の腹違いのお兄さんが結婚するらしく、その披露宴の会場に悪役貴族は潜り込もうとしていたらしい。つまりは密出国と密入国。どちらも大罪で、まして貴族の子息がそんなことをしたら怒られるだけでは済まないだろう。ほんと困った奴だ。
出しゃばって正解だ。悪役貴族が投獄されたら危うく幸せな生活が壊れるところだった。
208 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:29:16.16 ID:cKxG2gpcO
「彼のこと、怒っているか?」
「別に。きっとその披露宴の会場であいつは帝国のお偉いさんにこの国との国交について直談判するつもりだったんだろうってのは理解できるし、あいつなりにチャンスだと思ったんでしょ。まあ、僕とメイドちゃんに潰されるような浅はかな計画を立てたことは反省して次に活かすべきだと思うけど……ん?」

所感を述べると、学園から花火が上がった。

《よォ……聞こえてるかァ?》
「……この花火は悪役貴族の仕業?」
《そのバイクや、このトランシーバーとやらは、たしかに便利だがなァ……古くせェやり方も、なかなか捨てたもンじゃねェぞォ?》

何が言いたいのだろう。すると遥か前方で。

「あ……向こうでも花火が」
《ハッハァー! てめェらが次の町に辿り着く前にこの花火が上がったことは伝わンだよ》

なるほど。狼煙の伝達速度は僕らより速い。

「それで? 僕らを次の町で捕まえるの?」
《そうしてェのはやまやまだがなァ……ハッキリ言って、今の俺じゃ帝国に行っても無駄足だろうからなァ……今回はてめェに任す。狼煙が上がった他所の領地や町には事前に通過の許可を取ってある。捕まる心配はねェ》

任された。嬉しくなり、つい頬がゆるんだ。
209 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:30:19.68 ID:cKxG2gpcO
「ふん。僕なら悪役貴族より上手くやるし」
《あァ、てめェはこの国にとって外交上の切り札だからなァ。それでも最初からてめェを利用しようとしなかったのは、俺のつまらねェプライドと意地にすぎねェと理解しろォ》
「プライドを守って、意地を張り続けたいのなら、次からはもっと上手くやることだね」
《あァ……言われなくてもわァッてるよォ。だがなァ、これだけは言わせて貰うぜェ?》

通信限界が近づいてきた。ノイズ混じりで。

《結婚したら、そンな勝手は許さねェぞ》
「ふん……わかってるよ……僕の旦那様」

わかってる。結婚したら、僕はちゃんと家を守る。その覚悟はもう出来てる。だけど、結婚する前の今だからこそ出来ることがある。
だから悪役貴族にもわかって欲しい。待つことの辛さを。もう無謀な事をしないように。
応答の返事は返ってこない。声が聞きたい。

「引き返すか?」
「ううん。早く行こう。早く帰れるように」
「うむ! ならば安全運転でかっ飛ばそう!」

僕らはいくつもの町や領地を、何事もなく通過した。この国では珍しいバイクだけど、道中一度も止められることなく素通り出来た。どうやらこのルートの領地を治めているのは、悪役貴族が勉強を教えているチンピラ貴族の家系らしく、安全に国外に出るための算段はあいつなりに立てていたことが窺えた。
道すがら広大な畑で過酷な労働を強いられる奴隷たちをこの目で見て、必ずや成果を持ち帰ると決意し、国境に向かってひた走った。
210 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:32:12.95 ID:cKxG2gpcO
「そろそろ国境だ!」
「あ、委員長。ちょっと停まって」

国境の町までたどり着いて停車する。町の中心には悪役貴族の実家があった。立派なお屋敷の前で僕はヘルメットを脱ぎお辞儀した。

「よし、行こう」
「もういいのか?」
「事前に訪問を知らせてないからね」

きっとこの町の人たちは何も知らない。お屋敷の人たちは、狼煙によって悪役貴族が帰ってきたと思っているかもしれないけど、代わりに来たのは僕だ。一応、ヘルメットは脱いで挨拶したけど、髪の短い僕の正体に気づく者はいないだろう……などと、思っていたら。

「なんだ? 騎士たちがぞろぞろ出て来たぞ」
「へ? な、なんで……? 僕、なんかした?」
「若君の花嫁とお見受けする! 我ら騎士団が国境にお送り致す! これは若君の命令だ!」

騎士団長と思しき人にそう言われ、ざわめく民衆から僕らを守るように、騎士団は国境までの道のりを警護してくれた。もしかすると悪役貴族は事前に、僕が代わりにこの国境の町にやってくる可能性について手紙にでも書いて送り、根回ししていたのかも知れない。

「この先は、私の仕事だ」
「うん。お願い、委員長」

国境を守る帝国兵に、委員長は極秘任務だと告げたが確認に手間取った。さすがにヘルメットは脱ぐ必要があると思ったのだが、最終的に半ば強行突破のような形で押し切った。

「問題になったら委員長はどうなるの?」
「なに、許嫁殿と彼に養ってもらうさ!」

あっさりと委員長は、僕らに人生を捧げた。
211 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:34:07.84 ID:cKxG2gpcO
「さあ、許嫁殿。ようこそ帝国へ!」
「はえー……これが帝国の都市かぁ」

立ち並ぶ摩天楼は、どれも僕の国のお城より大きかった。舗装された道路を行き交う、沢山の車やバイク。トランシーバーよりも高性能な通信機器を片手に道ゆく人々。まるで異世界に迷い込んだような気分に陥る。高い建物ばかりだからか、上ばっかり見てしまう。

「ちょうど真正面。目の前に聳える、インペリアル・タワーが兄上の披露宴の会場だ!」
「ちなみに披露宴の開催は明日? 明後日?」
「本日だ! なんならもう始まってるぞ!」
「うぇえ!? 僕ら遅刻してんじゃん!?」
「安全な出国のための通達と、根回しに手間取ってな。ギリギリになってしまったのだ」

それはわかるけど。こっちにだって準備が。

「よーし到着だ! それでは行こうか!」
「ちょっと待って! こんな格好で!?」
「生憎着替えなど持ち合わせていない! ここまで来たのだ! あとは当たって砕けろ……」

猪突猛進な委員長が扉に手をかけたその時。

「ちょっと待ちな」
「は、母上……?」

委員長によく似た美人が忽然と現れた。母上って、どうみてもお姉さんにしか見えない。
これが東の帝国に住むという美魔女なのか。
212 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:40:17.30 ID:cKxG2gpcO
「てめーが帰国したって連絡が、あたしに来ないわけねーだろ。んで? そのツレは?」
「いや、その……この男の子は私の友達で」
「このっ、バカむすめ! 吐くならもっとマシな嘘をつけ! この子は男の子じゃないし、ただの友達でもないだろーが! 正直に言え!」
「うう……彼女は、とある貴族の許嫁で……」
「ま、言われなくても全部お見通しだがな」
「なら何も聞かずに通してくれたって……」
「黙れ。母親に帰国の挨拶もなしは許さん」

叱責したお母様は嘘のように鎮まって一礼。

「失礼しました。お初にお目にかかります」
「委員長のお母様ですか? お姉様ではなく? どう見てもお姉様にしか見えないのですが」
「……めっちゃいい子だ。脳汁が出まくる」
「へ? あ、あの……脳汁ってなんですか?」
「いえ……どうかお気にならさずに。道中、お疲れでしょう。どうぞこちらの部屋へ。着替えもご用意しております」

先導するお母様に委員長が待ったをかける。

「待ってくれ母上! 我々には目的が……!」
「その目的とやらを達成するために必要なことをこの子はちゃんとわかってる。それをわかってねぇのはてめーだけだ。バカむすめ」

さすがに言い過ぎだと思って、口を挟んだ。

「委員長は僕にとって大切な存在です」
「私の娘は恋敵には役不足でしたか?」
「いいえ。恋敵より、もっと素敵な関係になれました。今ではかけがえのない存在です」

見透かす瞳のお母様の眉尻が優しく垂れた。
213 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:42:38.53 ID:cKxG2gpcO
「なんだ、上手くやれたみてーだな?」
「そんな、私は別に、上手くなんて……」
「さっすが、あたしの娘だな! 偉い偉い」

わしゃわしゃと委員長の頭を撫でるお母様。

「とにかく時間がねえ。着替えて、会場の連中の度肝を抜くぞ! 勝機はそれしかねえ!」

僕も全く同じ考えだった。委員長のお母様はまるで全てを見透かしているかのように、今の僕に必要なものを用意していた。それは、昔の僕が持っていたもの。長い髪のウィッグと豪奢なドレス。ティアラを頭に乗せれば、そこには『僕』ではなく、学園に潜入する前の『私』が居た。僕ではなく私なら、帝国の披露宴会場でもきっと成果を残せるだろう。

「さあ、行って存分に暴れてきな」
「はい。無論、是非もありません」

会場の扉が開かれる。今宵、私が臨席する。
214 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:45:35.08 ID:cKxG2gpcO
「失礼。お初にお目にかかります」
「うん? なんだい、君は……?」

まっすぐ新郎の席へと向かい、優雅に一礼。
見た目は美しい女性だけど新郎の服を着てるから新郎だろう。今はひとまず気にしない。
ガタンッと誰かが立ち上がる音。見ると、僕の国の宰相が真っ青な顔で口をパクパクしていた。人差し指を口に立てて、静かにするようにジェスチャーすると、広い額にびっしり汗を浮かべながら、コクコク頷き沈黙した。
改めて、新郎に向き直る。真っ直ぐに目を見て堂々としていれば多少の無礼は問題ない。
僕は帝国語で、今の自分の立場を説明した。

「訳あって名乗れませんが……私は今宵、ある貴族の妻になる者として、ここに居ます」

明言は避けたものの、僕の正体に気づいた帝国貴族たちがどよめいた。怪訝な顔をする者や、困惑する者。仕舞いには、拝む者まで。

「どういうことだ? あれは隣国の……」
「ご病気で静養中ではなかったのか?」
「よもやこの場に"お出まし"するとは……」
「まさかこの目で拝む日が来るとは……」
「なんたる僥倖……ありがたやありがたや」

そんな中、新郎だけは悠然と頬杖をついて。

「へえ……面白い余興だ。君の話を聞こう」

その一切動じぬ姿はまさしく次代の皇帝たる者に相応しく、隣に座る、彼の奥さんと思しき背の低い女性もまた、恐らくは僕と同じくらいの年齢だとは思うが、落ち着いていた。
いや、よく見ると僕のほうを見ずに、新郎のみに熱い視線を注いでる。きっと結婚相手にうっとりしているだけだろう。幸せそうだ。
215 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:48:12.37 ID:cKxG2gpcO
「まずはこの度のご結婚、おめでとうございます。帝国の弥栄はこれにて安泰であるとお察しします。しかし、帝国の隣の国の未来はどうでしょうか? なんら発展の兆しもなく、古い価値観に縛られた我が国の在り方を、必死に変えようと私の夫はあがいております」
「ふうん、なるほど。それは大変そうだね」

手応えは皆無だ。新郎は興味がなさそうだ。

「それを言うために、君はここに来たの?」
「……夫の名代として駆けつけた私に話せるのはここまででごさいます。あとは、私たちの結婚式の際に、夫から直接、お話を聞いてくださるよう……よろしくお願い致します」

話題を変えて、ダメ元でそうお誘いすると。

「難しい話かと思ったら結婚式のお誘い?」
「はい。今宵はただそれだけでございます」
「それなら、断る理由はないね。喜んで出席させて貰おう。わざわざご足労、感謝する」
「ありがとうございます。では失礼します」

首の皮一枚繋がった。一礼し立ち去る間際。

「君はとある貴族の妻だと名乗ったね。なら奥さんとしての君もそんな感じなのかい?」
「それは、ううん……僕はいつもお転婆さ」
「ふ……ふふふふ! 面白い! 気に入ったよ」

いつもの口調でペロリと舌を出してみせると新郎は目を丸くして、そして大笑いをした。
何が彼のツボだったかは定かではないけど、お腹を抱えて笑ってる。まあ、とりあえず。

「君たちの結婚式を楽しみにしてる」
「うん。御臨席を心待ちにしてるよ」

なんとかなった。やはり正直が1番らしい。
216 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:51:00.84 ID:cKxG2gpcO
「よし、任務完了。帰ろう、委員長」
「しかし、記者たちに囲まれて……」

バシャバシャと目が眩むような閃光が走る。

「スクープだ!」
「号外を出せ!」
「歴史が動くぞ!」

なんだかすごく騒いでいる。囲まれてる。

「ど、どうしよう、委員長」
「大丈夫。私から離れるな。合図で走れ」

何故か、目を閉じてる委員長。次の瞬間。

「スマートにってのは、こうやるんだよ」

会場の照明が消えた。暗闇の中、走り出す。

「行くぞ、許嫁殿!」
「わ、わかった!」

なんとか入り口に辿り着き。別れのご挨拶。

「それでは、ご機嫌よう。帝国の紳士淑女の皆さま。次は、私の国でお会いしましょう」

呆然としている宰相にひらひら手を振り、あとを任せて、僕は会場をあとにした。悪役貴族のお母様に鍛えられた彼なら、大丈夫さ。
217 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:53:54.49 ID:cKxG2gpcO
「ふぅーやれやれ。なんとかなったな」
「たく。あたしの娘のくせに無様だな」
「先程は助かった。さすがは母上だな」
「ていうかてめー、そのかわいくない口調で話すのやめろって何度も言ってんだろーが。髪もずいぶん短くしやがって。そんなんじゃ嫁の貰い手が見つかんねーぞ。せめてその口調だけでもあたしが教えたギャル語で話せ」
「余計なお世話だ! 私は母上と同じく妾になると決めたのだ! 他に選択肢もないしな!」
「あたしは妾じゃなくて愛人だっつーの!」

控室に戻り着替える。委員長とのやり取りで頭痛を堪えるかのように額の古傷をゴシゴシと擦っているお母様に、改めてお礼をした。

「ありがとうございました。いろいろと」

すると、委員長のお母様は口調が変わった。

「こちらこそ、色々とありがとうございました。娘は貴女様と出会えてようやく自らの在り方を理解したようです。心からの感謝を」

いやいやそんな顔を上げてと僕が言う前に。

「僕からも感謝するよ。ありがとう」

綺麗な人がそこにいた。にっこりと微笑み。

「どうか僕の娘を幸せにしてあげてね」
「はい! 必ずや、僕が幸せにします!」

反射的に身請けすると、委員長は首を振り。

「やれやれ。こうなっては是非もない、か」

満更でもない委員長の頭をその人は撫でて。

「いいかい? 「ありがとう」と「ごめんなさい」さえ素直に言えれば、ずっと仲良しで居られるよ。それを忘れず、幸せになってね」

僕はきっと生涯その金言を忘れないだろう。
218 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:55:43.07 ID:cKxG2gpcO
「せっかくだし観光でもしていくか?」
「でも悪役貴族が心配してるだろうし……」
「ああ、確かに。噂をすればなんとやらだ」
「ん? どうしたの委員長……って、げ!」

街中の大きな動く絵画に映る、国境の映像。
そこには精強な騎士団が並んでいて、その1番先頭に完全武装の悪役貴族が佇んでいた。
今にも攻め込んで来そうな臨戦態勢である。

「な、なにやってんだよ……あいつ」
「早く止めなければ戦争になるぞ!」
「あのバカたれ! 行こう、委員長!」

すぐに国境に戻って、悪役貴族と対峙した。
219 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:57:42.62 ID:cKxG2gpcO
「あーこちら僕、こちら僕。聞こえてる?」
《ようやく来やがったか。無事なのかァ?》
「もちろん無事だよ。全部、上手くいった」
《そうかァ。それはなによりだ……本当に》

トランシーバーで報告すると、いきなり悪役貴族が膝から崩れ落ちた。ギョッとして固まる僕に無線での通信が届く。泣き声だった。

《俺ァ……心配で……気が狂いそうだった》
「な、泣かないでよ……委員長、どうしよ」
「行け、許嫁殿。一刻も早く、彼のもとへ」

駆け出す。悪役貴族のもとに。一刻も早く。

「泣くほど、僕に会いたかったの……?」
「あァ……会いたかった。死ぬほどになァ」

バカたれという台詞の代わりに抱きしめた。

「それは、僕のことが好きだから……?」
「そうだ。好きで好きでたまらねェからだ」

今なら。今なら僕は言える。勇気を出そう。

「僕も、悪役貴族のこと……好きだよ」

ようやく言えた。堰を切ったように溢れた。

「好き好き大好き。愛してる。僕はずっと、これからも、悪役貴族に恋して、愛するよ」

そんな僕の告白を悪役貴族は鼻水を垂らして聞き終えて、嬉しそうに、噛み締めるようにニヤリと邪悪に嘲笑して、吠え散らかした。
220 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/26(火) 22:59:19.25 ID:cKxG2gpcO
「ハッハァー! ようやく洗いざらい吐きやがったなァ! 死ぬ気で馬を走らせた甲斐があったぜェ!よォし、てめェら! 凱旋だァ!!」
「もぉ。僕に勝って凱旋すんな、バカたれ」

勝ち鬨をあげる悪役貴族に僕は負けたけど。
そんな鼻水垂らして喜ばれても愛しいだけ。
負けても全然悔しくない。そんなことより。

「悪役貴族、勝手なことしてごめんね。結婚前の最後の冒険だと思って許して欲しい。それと僕を迎えに来てくれて……ありがとう」

ありがとうとごめんなさいは素直に言う。これからそう心がけよう。そうすればきっと未来永劫この幸せが崩れることはないだろう。

「てめェ……また良い女になったようだな」
「許嫁殿の武勇伝は、この私が聞かせよう」
「優等生ェ、てめェもたまに役に立つなァ」
「い、委員長! 恥ずかしいからやめてよ!」
「あっはっは! 今更何を恥ずかしがるのだ」

余談だけど、この僕らの恥ずかしい会話は帝国で生中継されていたらしく、大層盛り上がったようでドラマ化や映画化されたらしい。
しばらく帝国旅行は恥ずかしくて行けない。


【僕はようやく、悪役貴族に愛を告げた】


FIN
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/26(火) 23:15:40.78 ID:JWoLJrd20
今まで散々ルール無視してスカトロ荒らししてたカスが
今さら酉つけて駄文書いた所でなぁ
普通ならここでは「恥ずかしくて書けない。」だろうけどそこが恥知らずの恐ろしさ
222 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/27(水) 03:25:02.55 ID:3em8Nq1hO
《奥様、奥様! 大変です!》
「んー? どうしたの?」
《坊っちゃまとお嬢様が喧嘩してます!》

あれからしばらくの時が流れた。約束通り結婚式に臨席してくれた帝国青年に晴れ姿を見せつけ、正式に帝国との国交を樹立した僕と悪役貴族は、双子の兄妹を授かった。僕は身体が小さいせいか、難産で、結構やばかったけれど、委員長のお母様が大勢の医者と共に産婆として駆けつけてくれて、おかげでなんとか無事に元気な赤ちゃんを産んだ。そんな双子たちはスクスク育ち、基本的には仲が良いけど、たまにこうして喧嘩したりもする。
メイドちゃんたちにトランシーバーで呼ばれて駆けつけると、悪役貴族に似た息子と、僕に似た娘が取っ組み合いの喧嘩をしていた。

「こらこら。喧嘩はダメ。仲良くしなさい」
「こいつがおれのメイドを取った!」
「お兄ちゃんには僕がいるでしょ!?」

どうやら、喧嘩の原因は双子メイドらしい。
見目麗しく大人の女性へと成長を遂げた彼女たちは、数え切れぬほどの求婚を拒み続け、頑なに未婚を貫いており、今も忠実なメイドとしてこの家で暮らし、働いてくれている。

「お手数をおかけして申し訳ありません」
「平等にお世話をしているのですが……」
「いやいや、気にしなくていいよ。いつも面倒を見てくれてありがとね。助かってるよ」

誰に似たのか、息子のほうは独占欲が強く、同じく誰に似たのか、娘のほうは癇癪持ちなので、僕みたいにキレてしまったのだろう。
223 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/27(水) 03:26:27.02 ID:3em8Nq1hO
「こんな時は君の出番だね。ちび委員長」
「うむ! まかされよう! いってくりゅ!」

喧嘩の仲裁に小さな委員長を差し向ける。美しい黒髪の幼女は、ぴょんと第二夫人の膝から降りて、僕の子供たちにお説教を始めた。
ちなみに委員長は安産で、すぽんと産んだ。

「お兄ちゃんなら妹にやさしくするのだ!」
「けっ……なんでおれがこいつなんかに……」
「うう〜ひどい! お兄ちゃんのばかたれ!」
「こらこら。妹ちゃんもお兄ちゃんのことをもっとそんけーしたまえ。きみはいつもおいしいお菓子をわけてもらっているだろう?」

客観的かつ中立に、双子たちを諌めている。

「さすが委員長の娘……しっかりしてるね」
「そんなことはないさ。私たちの夜の営みをこっそり覗いている、マセたエロむすめだ」

それはいけない。まだ早い。気をつけよう。
224 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/27(水) 03:28:32.11 ID:3em8Nq1hO
「お菓子はいいけど、双子メイドはやらん」
「そんなうつわがちいさい男は、双子メイドちゃんたち両方と結婚なんてできないぞ?」
「お兄ちゃんと結婚するのは僕だもん!!」

僕の娘はお兄ちゃんが大好きだ。実の兄を見つめるその瞳には僕が悪役貴族を見つめるような熱っぽさが見て取れる。将来が心配だ。
良いタイミングで悪役貴族みたいな男の子と出会えればいいけど、あんなにかっこよくて優しい男性が今後、現れるかはわからない。
あとこれは余談だけど、帝国青年の花嫁は、もともと彼の世話係だった使用人らしい。40歳を超えていると聞いて驚いた。委員長のお母様も然り、帝国は美魔女だらけの魔境だ。
何が言いたいかというと、それと同じように未婚の双子メイドちゃんを僕の息子が娶る可能性もある。というか、そうなって欲しい。

「やれやれ。喧嘩するほど仲が良い、か」
「僕の娘……どうしてこうなったのやら」
「そっくりではないか。実に微笑ましいぞ」
「でも、さすがに血の繋がった兄妹は……」
《おォい……そろそろ帰るぞォ》
「あ、はーい! そろそろパパが帰って来るってさ! 喧嘩はおしまい! 皆、迎えに行って」
「「「はあい!」」」

解放奴隷たちが組み立てたトランシーバーで帰宅を告げる悪役貴族。僕が促すと子供たちは喧嘩をやめて手を取り合い、駆け出した。
225 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/27(水) 03:30:03.89 ID:3em8Nq1hO
「お兄ちゃん、早くパパをお迎えにいこ!」
「あ、まてよ! はしるな! ころぶぞ!」
「父上ー! 本日もおつとめ、ご苦労様!」

玄関の扉が開いて、悪役貴族が姿を見せた。

「よォ……チビども。いい子にしてたかァ」
「「「いい子にしてたー!」」」
「ハッ! てめェらはホントかわいいなァ」

悪役貴族は夢を実現するために日々邁進している。豊富な食料や鉱物資源を輸出して外貨を稼ぎ、帝国から農業機械を輸入することで人手を減らし、農作業から解放された農奴たちは工場で働かせて養い、彼らの暮らしはどんどん豊かになっている。帝国の医療技術も積極的に取り入れ、金銭的に余裕が出来た元奴隷たちの烙印は最新の形成外科治療により綺麗に取り除かれ、徐々にではあるが彼らはもう身も心も奴隷ではなくなってきている。
226 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/27(水) 03:32:02.38 ID:3em8Nq1hO
「おかえりなさい。今日もお疲れ様」
「あァ……今日もくたびれたぜェ」
「子供たちは今日も元気一杯だぞ!」
「ハッハァー! そいつは何よりだなァ!」
「パパ! 抱っこ!」
「おれも! おれもー!」
「わたしはかたぐるまをしてほしい!」
「なら全員まとめてかかってこォい!」
「「「わあい!」」」

今日も仕事で疲れたのだろう。改革を進める僕の旦那は既得権益を貪る連中から、この国の資源を帝国に売り払い、奴隷に施しを与え、伝統を軽んじる売国悪役貴族だと、忌み嫌われて蔑まれている。そういう視野が狭くて自分が正義だと信じて疑わないバカたれ共にとってはたしかに大悪党かもしれないけれど、僕らにとっては優しくてかっこいい素敵な旦那様であり、そんな悪役貴族のことが大好きで、愛してる。毎日くたくたになって帰ってくる悪役貴族は、委員長の娘を肩車して、双子を両腕に抱きかかえながら、僕らにむけて幸せそうに微笑み、こう問いかける。
227 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/27(水) 03:35:48.46 ID:3em8Nq1hO
「俺ァ幸せだ。てめェらも今、幸せかァ?」

幸せそうな旦那を見ると僕らも幸せになる。
誰になんと言われようとも悪役貴族がやっていることは間違ってないし、どんなに辛い思いをして帰ってきても家には僕らがいて、全面的に味方になってあげる。それが家族だ。

「幸せだよ……そんなの当たり前じゃんか」
「うむ! きっと子供が増えれば、もっと幸せになれるだろう! だから、今宵も頼むぞ!」
「ハッハァー! 言われなくても孕ませてやンよ! てめェらに手を出さねェ夜はねェ!」
「子供の前で何言ってんのさ……バカたれ」

そんな文句を鼻で笑い悪役貴族は約束した。

「もっともっと幸せにしてやるからなァ!」

この先もっともっと幸せになることを僕らは信じて疑わない。そして僕らも、この素敵な悪役貴族のことを支えて、もっともっと幸せにする。時にぶつかり合い、何度喧嘩したって、ずっとずっと未来永劫、幸せに暮らす。


【僕は未来永劫、悪役貴族と幸せに暮らす】


FIN
228 : ◆dudxOFJ8aA [saga]:2023/12/27(水) 03:36:34.46 ID:3em8Nq1hO
前作

クラスの変わり者が揉め事を起こして始まる一次創作

https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1699519196/
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/12/27(水) 07:42:16.16 ID:qPev8HlV0
その前のうんこまみれもちゃんと載せろよな
まあHTML化依頼スレで「終わりました」って書いてる奴全部こいつだけど
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/27(水) 08:52:19.48 ID:/fUBqYdq0
道のど真ん中にぶちまけられたゲロみたいな作品
作品とも呼びたくないけどな
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/30(土) 09:43:37.96 ID:E4C3iFtC0
現実と空想の区別が付いてないバカが異世界モノ書こうとすると
恐ろしいものが出来上がる良い例よな
今からでも子ども向けの漫画版読むだけでも良いから日本や世界の歴史勉強しろ
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/30(土) 22:39:08.44 ID:tV9hR0nl0
最後まで世界観の見えてこない粗末な怪文書だったな
よく一次創作なんてほざけたもんだ。零次創作だよ
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