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僕は今宵、悪役貴族に恋をする
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183 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/24(日) 06:33:09.61 ID:7mgzoxbVO
「しかし、やはりというか、君と婚約者の絆には敵わないと痛感するな。よくもまあ、言葉も交わさずに、意思疎通が出来るものだ」
「僕と悪役貴族は喋ると喧嘩しちゃうから」
「だから互いに目で語り合う術を身につけたというのなら、私としては羨ましい限りだ」
ここまで洗脳するのに僕はかなり頑張った。
「僕と委員長の間にだって絆はあるよ。チョーカーとピンキーリングもお揃いだしさ。髪型も一緒で、同じ奴のことが好きじゃんか」
「私はバイク事件の際に、許嫁殿には生涯忘れぬ恩が出来たからな。それも絆と言える」
「そんな昔のこと……もう忘れちゃったよ」
過去を水に流すも、委員長は首を振りつつ。
「どうか忘れてくれるな。あの一件があったからこそ、今の私はここに在るのだからな」
そう頑なに言われてしまっては仕方ないな。
あの件で僕が委員長を責めたのは、在り方についてであって、それはたしかに、忘れるべきではないのだろう。僕も含めてだけどさ。
184 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/24(日) 06:35:08.93 ID:7mgzoxbVO
「もしも帝国に帰っても絶対連れ戻すから」
「あっはっはっは! 国際問題に発展するぞ」
構わない。きっと、宰相がなんとかするさ。
基本的に権力を使わない僕だけど、いざという時には思う存分使う。だって家族だから。
そのために僕が出来ることはなんでもする。
「今のところ帰国命令は出ていない。それに私には私の意思がある。心配せずともいい」
「さっきからすごく良い台詞なんだけどさ」
「ん? なんだ? どうかしたのか、許嫁殿?」
「目隠しされて縛られたままだと台無しなんだよね。最近どんどん過激になってない?」
「あっはっは! 許嫁殿には出来ないプレイをこなすのが第二夫人としての役目なのだ!」
目隠し緊縛委員長が、全裸で高笑いをする。
ガッカリだ。悪役貴族だってそんなにキツく縛ってないんだから自分でほどけるのにさ。
まあ、そんなところも委員長の良さだけど。
「ほんとに委員長が第二夫人で助かったよ」
「今度、許嫁殿も一緒に縛られてみたまえ」
「バカたれ。僕は普通に愛されたいんだよ」
このプレイをあの夜されていたら今はない。
【僕は時折、悪役貴族と視線で誘い合う】
FIN
185 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/24(日) 20:01:33.01 ID:faZCfFGaO
「てめェは俺に何も訊いてこねェよなァ?」
「はあ? そんな薮から棒に、なんのこと?」
「双子メイド共のことだ。気になンだろ?」
とある深夜。皆が寝静まったあとに、いつも通り悪役貴族と反省会をして、僕がパジャマの前のボタンを留め直していると、ふいにそんなことを悪役貴族が口にした。身構える。
「突然なに? この子たちがどうかしたの?」
「こいつらの過去や経緯に興味ねェのか?」
「この子たちは大好きだけど、過去や経緯については、詮索したくないと思っているよ」
「ケッ。てめェはホント、良い女だよなァ」
この子たちが昔、奴隷市場で悪役貴族に買われたらしいということは1番最初に聞いた。
訳ありだということは、なんとなくわかる。
ただ根掘り葉掘り訊く気にはなれない。きっとそれはこの双子にとって辛い記憶だから。
「俺の視点からすると、単純な話だァ。ただ泣き喚いてる双子の奴隷を両方まとめて買い取った。ただそれだけのシンプルな話だァ」
「ふうん。きっとその双子たちが泣き喚いていた理由は、それぞれ別の客に買われそうになってお互いに離れ離れになりたくなかったからみたいな、そんなところじゃないの?」
「まるであの場を見てたかのようだなァ?」
見なくてもわかる。双子をまとめて買うような金持ちは悪役貴族しかいなかったのだ。この子たちが今こうして、同じところで働いているのは、彼女たちの願いだったのだろう。
186 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/24(日) 20:04:07.85 ID:jIXHELGZO
「この国には奴隷が欠かせねェ。てめェなら当然、それがどうしてか知ってるよなァ?」
「誰に訊いてるのさ。僕の国の産業は農業が主体だからね。奴隷を働かせないと大陸の食糧庫としての生産力は確保出来ない。とはいえ一概に、必ずしも、この子たちがそんな農奴になっていたとは限らないけれどさ……」
なにせこの可愛らしさだ。農奴ではなく、愛玩用として買われていたかも知れない。もちろんそんなことは違法だが、可能性は高い。
努めて冷静に話したつもりだけど悪役貴族は見抜く。上機嫌でこちらの胸中を理解した。
「ハッハァー! やっぱりてめェも、そんなこの国のやり方が気に食わねェようだなァ?」
「当たり前じゃん……何が言いたいのさ?」
「俺ァいつか、この国の奴隷共を解放する」
それは悪役貴族の夢で絶対に叶えるという意思を感じた。この夜僕は、これまでのように委員長を通して断片的な情報を得るのではなく悪役貴族に直接、願望を打ち明けられた。
「じゃあ、僕は何をすればいいかを教えて」
「ハッ! てめェは何もすンな。俺の隣で見てろォ。てめェの国が変わっていく様をよォ」
思わず勇み足になった自分を恥じ入る。なんてはしたない。夫の前を先導しようとするなんて。悪役貴族に呆れられてしまったかも。
187 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/24(日) 20:05:58.24 ID:eWMJuH9dO
「ごめんなさい……余計なこと言って」
「あァン? 俺に遠慮すンじゃねェよ」
妻になる者として、行き過ぎた発言に関してはいかに僕であろうと素直に謝った。反省して、落ち込んでいる僕を悪役貴族は抱き寄せて、気にするなと頭を撫でながらこう諭す。
「てめェは立場上、直接あれこれ国政に口出し出来ねェだろォからなァ。てめェがやりたくても出来ねェことは俺がやってやる。てめェが叶えたくても叶えられねェ願いは、全部俺が叶えてやる。だから、よォく見てろォ」
「うん……わかった。この目に焼き付ける」
立場上、僕が奴隷制度に口を挟むと、国政が乱れてしまう。僕の望みを叶えるために、僕に気に入られたい連中が手段を問わずに、めちゃくちゃなことをやり始めるだろう。その結果、国民が飢えて、飢饉が発生する未来は想像に難くなかった。悪役貴族なら安心だ。
「悪役貴族なら何も心配ない。信用してる」
「ハッ! 俺がめちゃくちゃなやり方で、この国を大混乱に陥れるとは思わねェのかァ?」
「思わない。だって悪役貴族はこの子たちに一度も手を出してない。悪役貴族はこの子たちに奴隷の烙印を押していない。そんな悪役貴族なら、きっと、より良い未来を作れる」
この子たちの身体は清くて、生まれたままだった。焼きゴテや刺青で奴隷の烙印を押されていない。メイドとして、保護されている。
そんな優しい婚約者を僕は信じて疑わない。
188 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/24(日) 20:07:20.25 ID:QrvQlpyhO
「僕こそ、知らず知らずのうちにこの子たちを愛玩用にしてしまっていないか、不安になるよ。その時は悪役貴族に注意して欲しい」
思い当たる節は多い。僕なりに愛情をこめて可愛がってるつもりだけど、捉えようによってはセクハラかもしれない。もしそうなら僕のほうがよっぽど悪役貴族になってしまう。
「余計な心配してンじゃねェよ。俺ァこいつらを買った時に、てめェらは将来、俺の妻に仕えることになると言った。そン時は俺よりも妻のことを優先しろってなァ。だが、メイドの仕事を辞めたけりゃいつでも辞めていいとも言っている。離れ離れにすることなく、別な仕事を斡旋してやるとも言った。それでもこいつらは今、ここに居て、てめェに仕えている。それはこいつらの意思だから、邪推すンな。てめェに侮辱されたら悲しむぞォ」
僕が直接根掘り葉掘り訊かなくて良かった。
そうしていたらきっと、彼女たちの意思を侮辱してしまっていただろう。ただ優しいだけではダメなのだ。彼女たちにとって、尊敬されるような奥様にならないと。燃えてきた。
「僕はこの子たちや悪役貴族に相応しい妻になりたい。いや、絶対になってみせるから」
「俺もてめェに相応しい旦那になるぜ」
「ふん。格好良すぎだよ……バカたれ」
今宵は僕から悪役貴族に誓いのキスをする。
【僕は夜半、悪役貴族に誓いのキスをする】
FIN
189 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 06:34:52.60 ID:kEo40iKLO
「何か僕に直して欲しいところはある?」
「奥様……? 突然なにを仰るんですか?」
「私たちは奥様に不満なんてありません」
その日の朝。朝食を食べ終えてからのこと。
単刀直入に僕は双子メイドたちに問いかけてみた。本当は自分でダメなところに気づいて直すべきなんだろうけど、あらかた自分でもダメなところはわかっているのに直せないのが僕なので、双子たちにビシッと言って貰えれば変われるんじゃないかと期待していた。
しかし、困惑する双子から、僕への不満を引き出すのはなかなかに骨が折れそうだった。
「些細なことでもいいんだ。僕はもっともっと、君たちに相応しい奥様になりたいんだ」
「そんな……奥様は素晴らしいお方ですし」
「むしろ変わって欲しくなんてありません」
ちょっと堅苦しいな。砕けた調子でいこう。
「えーでも僕、最近君たちにセクハラしすぎじゃない? すこし控えたほうがいいかな?」
「いいえ。そんなことは断じてありません」
「奥様に毎晩愛でられるために我々は日々、仕事に励んでいるのです。お忘れなきよう」
どうも美化されすぎてる。現実の僕は違う。
190 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 06:36:01.27 ID:kEo40iKLO
「でも僕も人間だからね。自分自身でさえ、嫌なことを数えたらキリがないくらいだよ」
「全てを含めて私たちはお慕いしています」
「奥様のメイドとして日々尊敬しています」
うーむ。押してダメなら、引いてみようか。
「僕に尊敬できるようなところあるかな?」
「もちろんです。まずそのお美しさだけで、恥ずかしながら我々はひと目惚れしました」
「奥様の作るお料理は味もさることながら、愛情がこもっていてとっても美味しいです」
「奥様は若様の妻としての在り方を、私どもに示してくださいました。あの日のことを思い出すと我々は日々やる気が漲ってきます」
「奥様は奴隷だった私たちを、憐れんだり」
「変に気を遣うことなく、接してくれます」
「そんな奥様のお優しさに我々は尊敬して」
「その振る舞いに我々は憧れを抱いてます」
となると、これまでの僕の立ち居振る舞いや双子たちへの接し方は完璧だったということになる。そんなことありえるのか? 僕は自分に対して、自信を持てない。理由は明白だ。
191 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 06:37:33.56 ID:OfPwuVEcO
「いや、僕なんて全然だよ。1番直したいのは素直になれないところなんだけど、悪役貴族はそのままでいいって言うんだ。君たちはその点についてどう思う? 意見を聞かせて」
「若様がそうお望みなら、焦ることはないかと存じます。きっと一緒に過ごせば、無理なく素直になれる瞬間が訪れることでしょう」
「無理してご自分を変えてしまえば若様はきっとお悲しみになります。ご自愛ください」
この子たちもありのままの僕でいろと言う。
悪役貴族を悲しませるのは、たしかに嫌だ。
当初の目的とは違い恋愛相談になってきた。
「君たちには常に素直でいられるんだけど、なかなか難しいね。僕は恋をするのが初めてだから、感情が上手く制御出来ないんだよ」
「そうしたところも、奥様の魅力なのです」
「若様もきっとそこがお気に入りな筈です」
鵜呑みにするのは危うい。何せ悪役貴族だ。
「そうかなぁ。あいつはちょっと趣味が変わってるから単に面白がってるだけかもよ?」
「よろしいではありませんか。若様の変わったご趣味に合う女性は奥様と、あとは恐らく、第二夫人様以外存在しないでしょうし」
「そのほうが余計な虫がつかずに済みます」
なるほど。考えかた次第かもね。納得した。
192 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 06:38:42.46 ID:ib/AtpApO
「ありがとう。君たちと話すと元気が出る」
「勿体なきお言葉。感謝感激、感無量です」
「もしよろしければご褒美をくださいませ」
「ちょっと! 対価を望むなんてやめなさい」
「お姉ちゃんは真面目すぎ。きっと大丈夫」
喧嘩を始めた双子たちを宥めて望みを訊く。
「もちろんいいとも。何が望みなんだい?」
「やったー! じゃあじゃあ、いま履いてる靴下とそれからお使いの歯ブラシを……むぐ」
「こら! お黙り! 奥様、大変失礼しました」
「むー! むー!」
靴下と歯ブラシは、中毒性があるので却下。
あと単に恥ずかしいし。妹メイドちゃんがこれ以上、道を踏み外さないようにしてあげるのも奥様の勤めだ。僕は委員長に目配せをして、もともと用意していた贈り物を手渡す。
「じゃあ僕らから君たちに、これを贈ろう」
「奥様、これは……?」
「いったい、なんですか……?」
双子の手のひら乗る機械。不思議な形状だ。
知識のない僕では説明の出来ない魔法の品なので、あとは委員長に詳しく解説して貰う。
193 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 06:40:41.32 ID:u+YLF5ezO
「これは許嫁殿に頼まれて、帝国から取り寄せた"トランシーバー"だ。太陽光で発電出来る充電器もセットで用意した。この国では携帯電話は使えないが、トランシーバーならば問題なく使える。無論、電波が届く距離には限りはあるがこの寮周辺くらいならば何かあった時にすぐさま連絡を取り合えるだろう」
「はえ? とらん、しーばー……?」
「これで、奥様方とご連絡を……?」
「論より証拠だ。許嫁殿、話しかけてみろ」
促されて、僕は教わった手順で通話をする。
《あー、あー、どう? 聞こえるかな?》
「ふあっ!? す、すごいです、これ!」
「奥様のお声が手元で……興奮します!」
お姉ちゃんメイドまで飛び上がって驚くとは思わなかったけど、妹メイドちゃんは相変わらずだな。反応が良くてとても嬉しくなる。
194 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 06:43:30.95 ID:u+YLF5ezO
「これからこれを使って言いたいことや、報告したいことがあったらいつでも言ってね」
「りょ、了解しました! あ、それなら……」
「早速ですが、お耳に入れたいことが……」
「この距離で? なんだい? 言ってごらん?」
なんだろうと機械に耳を傾けると囁かれた。
《《これからもずっとお慕いしています》》
それは、どんな贈り物よりも嬉しい真心で。
思わず泣きそうになった。なんて良い子たちなんだろう。僕には勿体ないくらい、素晴らしいメイドたちだ。溢れ落ちそうになる涙を堪えて、僕は毅然と、奥様として振る舞う。
感謝を労いに変え、より尊敬されるように。
「了解。これからも慕われるように頑張る」
《どうぞ、ありのままで魅了してください》
《第二夫人様にも、一層の忠誠と、尊敬を》
「うむ! 大義である! これからも頼むぞ!」
「僕より奥様らしいじゃんか……バカたれ」
やたら偉そうな委員長に破顔して、憧れた。
【僕は朝食後、改めて双子たちに感謝する】
FIN
195 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 23:10:02.74 ID:A/fXjWa9O
「こちら僕、こちら僕。そろそろ帰るよー」
《かしこまりました。お待ちしております》
この"トランシーバー"はとても便利だ。寮に着く前に事前に帰宅を知らせられるので僕が帰ると紅茶やお菓子が既に用意されている。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、奥様」
「妹ちゃんは?」
《はいはーい、奥様。お風呂掃除中でーす》
「お疲れ様。いつもありがとね」
《いえいえー! ちゃちゃっと終わらせます》
身につけたトランシーバーから伸びるイヤホンによって直接耳に音声が伝わり、袖口に仕込んだマイクのおかげで仕事や作業に支障することなく意思疎通や確認が可能となった。
「すみません、奥様。妹がご無礼を……」
「いーよいーよ。なんかこの機械を使うと話しやすい気がするし。僕としても気楽だし」
メイドたちは僕の前だとやや緊張するのか、どうもかしこまってしまう。機械を通しての声だけのやり取りは僕としても楽しかった。
196 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 23:11:31.86 ID:A/fXjWa9O
「お姉ちゃんも、もう操作には慣れた?」
「はい、第二夫人様のおかげでなんとか。ですが私は奥様と直接お話しするほうが……」
「おかえりなさいませ奥様! お風呂掃除完了世界新記録です! 褒めて愛でてください!」
「あ! ちょっと!? お風呂掃除している間は、私と奥様の時間って決めたでしょ!?」
「もう終わったもんねー! 残念でしたー!」
妹ちゃんは今日も元気だな。あ、紅茶美味しい。茶葉変えたのかな。あーでも、ミルクとハチミツを垂らしたらもっと美味しいかも。
「奥様、その紅茶はお気に召しませんか?」
「ああ、いや。ミルクとハチミツをね……」
「わかりました! すぐにお持ちしますね!」
僕が自分で取って来ようかと腰を上げる前にびゅんっ!と妹ちゃんがキッチンへと向かうとすぐにトランシーバーから通信が入った。
《お姉ちゃん、ハチミツどこー?》
「この前買って戸棚に入れておいたでしょ」
《えー? 戸棚の何段目ー?》
「たしか3段目だったと思うけど……」
《あっ! あったあった! 持っていくねー》
このように仕事の面においても極めて実用的である。帝国のお屋敷の使用人や護衛官が、この機械を常用しているのも納得の性能だ。
197 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 23:13:30.75 ID:A/fXjWa9O
「まったく。この機械はとても便利ですが、どんどん妹が横着になるのではと不安です」
「便利なことはいいことだよ。わざわざ時間や手間暇をかけたい気持ちはわかるけど、君たちは忙しいし、僕との時間を作るためだと思って、お姉ちゃんにも活用して欲しいな」
「ああ、奥様……そのような隠されたご配慮にも気づかず、愚かなこの私をお赦し……」
《ちなみにお姉ちゃんは本日、紐パンです》
「よ、夜まで内緒って約束したでしょ!?」
紐パンかぁ。お姉ちゃんメイドがあれを穿いてるなんてえっちだなぁ。今度、僕も穿いてみようかな。よし、あいつに訊いてみるか。
「あーこちら僕。悪役貴族は紐パン好き?」
《帰って早々何言ってやがンだてめェ……》
「早く答えな。僕に紐パン穿いて欲しい?」
《そうだなァ……脱がせるのが楽しみだな》
「バカたれ。委員長に頼んどく。じゃあね」
メイドちゃんたちのついでに物欲しそうな顔をする悪役貴族にトランシーバーを恵んでやったら、奴は大はしゃぎで喜び、この頃は書斎にこもって予備機を分解して調べている。そんな機械オタクの悪役貴族に対しても気兼ねなく話せるのは便利だ。顔を突き合わせると喧嘩してしまう僕にとって非常に助かる。
さすが帝国の発明品だ。委員長によると、帝国ではこの機械が更に便利になったものを、国民のほとんどが日常で使ってるとのこと。
198 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 23:16:12.90 ID:A/fXjWa9O
「いやーほんと帝国ってすごいよね」
僕が帝国を誉めると委員長が得意げな顔で。
「それを言うなら"ぱない"だぞ、許嫁殿」
「へ? ぱない? なにそれ、帝国語?」
「半端ないの略だ。短縮して"ぱない"だ」
「へえー帝国は日常会話も先進的だね」
言葉すらも新しいなんて。若者である僕らの感受性とっては刺激になる。参考にしたい。
良い機会だし帝国の文化を勉強してみよう。
「他には変わった言い方みたいなのある?」
「うーん、そうだな……たとえば、エグすぎてレベルが違うことを"エグち"と言ったり、落ち着くことを"チル"と言ったり、ありがとうございますを"あざまる水産"とか言ってたりするかな。会話の中でその説があり得る場合は"説あるコアトル"で、見た目が良ければ"ビジュ完璧"とか。許嫁殿の"好きピ"などはまさにビジュ完璧なイケメンと言えるな」
なにそのワード集。めっちゃ気分アガるわ。
199 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/25(月) 23:18:16.70 ID:A/fXjWa9O
「共感した時はハイタッチでうぇーい!だ」
「う、うぇーい?」
「うむ! ほら、メイドたちも、うぇーい!」
「「うぇーいでございます」」
「ああ……尊いな! 私だけで独り占めするのは申し訳ないから、彼にも聞いて貰おう!」
「「「うぇーい!」」」
《うるッせェなァ……作業の邪魔だァ》
「この慈しみ、わかりみが深くないか?」
《わかるかァ! そンなもン!》
うは。なんか楽しい。委員長は勢いづいて。
「いいか? こうやって、Vサインを下に垂らせば、ほーら、"ギャルピース"の完成……」
《おォい、優等生ェ……地が出てンぞォ》
「君も書斎にこもってないで出てきたまえ」
《あとで行くから、ほどほどにしとけェ》
「あ、マズイそうだった。君たち、今のは忘れてくれ! 何事もやりすぎは禁物なのだ!」
「「「うぇーい!」」」
「ああ、私としたことが手遅れだった……」
帝国の先進的な日常会話は学園で流行った。
【僕は帰宅早々、ギャル語を覚えた】
FIN
200 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 03:49:15.10 ID:TH6yVTMkO
「うぇーい! 悪役貴族、チルしてる?」
「苛つくからやめろォ……その喋り方」
「じゃあ、息してる?」
「当たり前だろォがァ」
悪役貴族はこの頃、狭い書斎にこもり、予備のトランシーバーを分解しては組み直す作業を繰り返してる。何やら各部の寸法を測ったり、色んな検査記録を取ったりしていて、難しそうな作業なのに、なんだか楽しそうだ。
「それ、予備なんだから壊しちゃダメだよ」
「あァ……わかってる」
「わかりみ深い?」
「あァ……深ェ深ェ」
作業してる時は集中しているのか生返事ばありで僕はつまらない。別に相手にされないから拗ねてるわけじゃない。ただちょっとくらい構うべきだ。だって僕はこいつのお嫁さんになるんだから。別にわがままではない。僕はおもむろに背後から抱きつき耳を噛んだ。
「あむ」
「うォい!? 耳を噛むんじゃねェよ!?」
「耳も息してるかなって思って」
「てめェ……酔っ払ってンのかァ?」
「んー……ちょっとだけね」
たまには僕だってお酒を飲むさ。別に構って貰えない寂しさを紛らわせるためじゃない。ちょっとだけなら健康にも良いんだからね。
201 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 03:50:30.65 ID:TH6yVTMkO
「悪役貴族のぶんもあるよ! 飲む?」
「あァ……この作業が終わってからなァ」
「むー……僕のお酒が飲めないのかよぉ」
「チッ……わァッたよ。ほら、酒を注げ」
「ふん……素直に僕に従ってればいいのさ」
悪役貴族がお気に入りの帝国の透明なお酒を小さいカップに注いであげた。晩酌をしてあげるなんて亭主思いの奥さんだよ僕は。
「ほら! ぐっといって! ぐーっと!」
「あァ……美味ェ。次だァもっと寄越せェ」
「まったく、仕方ないなぁ……もぉ」
おかわりを注いであげて、とりあえず満足。
ようやく作業をやめた悪役貴族の膝の上に滑り込んで、バラバラになったトランシーバーの部品を手に取りながら、質問をしてみた。
「これ分解してどうすんの?」
「内部の構造を理解してンだよ」
「なんのために理解するの?」
「解放した奴隷たちが仕事に困ンねェように、工業製品の工場が沢山必要だからなァ」
「ふうん。理解できた? 趣き深い?」
「全部は無理だ。だが、一部だけなら俺でもわかる。たとえば、この音が鳴る仕組みは人体における鼓膜や声帯と同じ仕組みで……」
悪役貴族が説明を始めるが、僕にはちんぷんかんだ。ただ楽しそうに語る悪役貴族を眺めていると、僕まで楽しくなる。いつもの不機嫌そうな表情ではなく、子供みたいに機械に夢中になっている悪役貴族はかわいかった。
202 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 03:51:25.76 ID:TH6yVTMkO
「悪役貴族のその顔、嫌いじゃないよ」
「あァン? どんな顔してた?」
「まるで機械に恋してる顔」
すると悪役貴族は何故か赤面して、呟いた。
「俺が恋してンのはてめェだ、バカたれ」
「あー! 悪役貴族が僕の台詞取ったー!」
僕の決め台詞なのに。でも、こうして客観的に言われてみると、あんまり嫌じゃない。悪役貴族も同じだろうか。僕にバカたれって言われても、全然気にしてないし。変な感じ。
「悪役貴族はさ、僕がほんとは悪役貴族のことを嫌いじゃないってこと……知ってた?」
「そォなのか?」
「はあ〜……わかりみが浅すぎ。なんでわかんないかな。これだから、鈍感悪役貴族には困るんだよ。あのね、僕はほんとはね……」
今なら言える気がする。無理せず素直になれる気がする。お酒の勢いでなんて誠実ではないかもしれないけれど、それでもこの胸の高鳴りを飲み込んだままなのは、いい加減にしんどかった。僕は今宵、お酒の力を借りてでも、全て悪役貴族に言ってしまいたかった。
203 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 03:52:34.55 ID:TH6yVTMkO
「僕はほんとは、悪役貴族のこと……ぁむ」
キスされて邪魔された。僕の好きという気持ちが吸い出されて、代わりに悪役貴族の好きという気持ちが入ってきた。なにすんだとか、せっかく言えそうだったのにとか、そんな憤りが霧散していく。腕を背中に回して、足で腰を固定する。悪役貴族のいけない手が僕のパジャマのボタンを外したり、お尻や太ももをいやらしく触る。こっそり穿いてきた紐パンの紐がほどかれても気づかないふりをする。長いキスで息が苦しくなって、息継ぎをすると、悪役貴族の吐息が混ざって頭がクラクラした。そしてまたキスをされる。他にも色んなことをされている気がする。したければ好きにすればいいと思う。なんでも、好きにして欲しかった。だって大好きだから。
「んぅ……おはよ」
「ハッ! 二日酔いは平気そォだなァ?」
朝目が覚めるとベッドの上で、確かめるまでもなく僕は全裸で寝ていた。幸い、あの程度の飲酒で二日酔いにはならず、スッキリ爽快な目覚めである。昨夜のことをぼんやりと思い出すにつれ、羞恥と自分への失望に襲われた。もう少しで言えたのに、僕のバカたれ。
204 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 03:53:55.04 ID:TH6yVTMkO
「……僕に言ってよ」
「あァン? 言うって、何をだァ?」
「僕に、バカたれって……言って」
「なんだ、そのことか……お安い御用だァ」
鼻まで布団を引き上げて、赤面した顔を見られないよう隠しながら、僕がそうお願いすると、悪役貴族は何故か安心したようにほっと息を吐いてから、そんな意味深な様子に疑問を抱く間も無く、邪悪に嘲笑い、罵倒した。
「ハッハァー! なンだァ? 俺にバカたれって言われて気持ち良くなっちまったのかァ?」
「ちがっ……そんなんじゃないし……ていうかそもそも! バカたれって言うほうがバカたれだし! このっバカたれバカたれバカたれ!」
「ハッ! 支離滅裂だなァ……そろそろジョギングに行って来る。じゃあな……バカたれ」
「ふん……行ってらっしゃい。気をつけて」
やはりバカたれと言われても、嫌じゃない。
【僕はほろ酔い、悪役貴族に罵倒される】
FIN
205 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:23:41.41 ID:cKxG2gpcO
「あれ? 2人とも、なにその格好……?」
その日、いつものように僕は衣擦れの音で目をました。寝ぼけ眼を擦って、いつも通り、ジョギングに出かける悪役貴族を見送ろうとした僕の目に、見慣れたジャージ姿ではなく貴族としての正装をした婚約者と、同じく見慣れない軍服姿の委員長が飛び込んできた。
「あァ……ちょっと、出かけてくる」
「出かけるって、どこに……?」
「帝国だ」
質問に応じたのは委員長で、つまりその軍服は帝国軍のものだとわかった。どうしてそんな格好で悪役貴族と出かけるのか。何もわからない。それについて訊ねるべきかも判断出来ない。余計なことを言って、悪役貴族を困らせたくないと思う反面、何も説明せず僕を置き去りにしようとする2人に憤りを覚えてしまう。僕はどうするのが正解なのだろう。
考えてもわからない。無意識に僕は呟いた。
「……置いてかないで」
「……すぐ戻ってくる。てめェは待ってろ」
「安心してくれ。道中の安全は保証しよう」
僕を安心させるために頭に置いた悪役貴族の手が強張っているのがわかった。いつもの余裕ぶった表情もなく、緊張してる様子。帝国に行くというなら、留学生である委員長がなんとかしてくれるとは思うけど、それでも僕は心配だった。委員長を信用していないわけではなく、悪役貴族に対して不安だった。こんなに急に帝国を訪問するつもりではなかった筈だ。策を持たず、勝算もなく帝国に行って、果たして、成果を得られるのだろうか。
206 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:25:33.50 ID:cKxG2gpcO
「僕が……悪役貴族の代わりに行くよ」
「……あァン?」
部屋を出る間際、そう申し出ると、悪役貴族はゆっくりと振り返った。紫水晶の瞳に浮かぶのは、困惑と失望。奴は静かに怒ってる。
「てめェ……なァに言ってやがンだァ?」
「大事な用事なんでしょ? なら僕が行く」
「っ……出しゃばってンじゃねェッ!!」
思えば、初めて怒られたかもしれない。悲しくて、辛くて、泣きそうになった。ここで泣いたら、悪役貴族は帝国に行かないでくれるだろうか。それは否だろう。きっと嫌な思いを抱えさせたまま送り出すことになる。既に賽は投げられたのだ。真っ向から衝突した。
「メイドちゃんたちあいつを足止めして!」
「はい、奥様!」
「仰せのままに!」
「ハッ! こいつらに何が出来る? てめェらがまとめてかかって来ても、振り切って……」
ガシャンと、悪役貴族愛用の手錠とベッドの柵が繋がれた。なんて無様。こんな奴が僕の夫になるなんて。焦った様子の駄犬に囁く。
「すぐ帰って来るから良い子にしてなさい」
「てめェ! 邪魔すンな! 俺の仕事だ!!」
「ふん。そのザマで、何が出来るってのさ」
情けない。これでは帝国に行ったところで何も成せずに尻尾巻いて逃げ帰ってくるのがオチだ。パジャマを脱ぎ、メイドたちが用意したいつもの男子生徒用の学生服に袖を通す。
207 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:27:20.31 ID:cKxG2gpcO
「てなわけで、委員長、僕が一緒に行くね」
「本気なのか? きっと大問題になるぞ」
「なんとかなるよ。道中、よろしくね」
「奥様、ご武運を」
「若様のことは我々にお任せください」
「うん。任せたよ。うぇーい」
「「うぇーいでございます」」
先進的な挨拶をしてから部屋を出る間際に。
「ちょっと待てェ!! 話をさせろォ!!」
「うるさい。文句は帰ってから聞いたげる」
悪役貴族に引き留められたけどスルー。双子メイドに足止めされる男の言葉なんて聞く価値はない。というのは建前で、帝国へいく理由だの目的だの込み入った話をされたら、僕の決心が鈍るかも知れないと思ったからだ。
「それじゃあ、委員長。行こうか」
「よし。ひとまずバイクに乗ってくれ」
久しぶりに委員長のバイクの側車に乗り込んで、ヘルメットを被る。すると何やら改良されていて、中にスピーカーが仕込まれているようだ。トランシーバーを手渡されて、委員長はヘルメットから出ている線へと繋いだ。
《あーあー。聞こえるか、許嫁殿》
「うん。感度良好。どしたの、これ?」
《道中長いからな。目的と理由を説明する》
バイクが走り出して、簡単に概要だけを説明された。なんでも委員長の腹違いのお兄さんが結婚するらしく、その披露宴の会場に悪役貴族は潜り込もうとしていたらしい。つまりは密出国と密入国。どちらも大罪で、まして貴族の子息がそんなことをしたら怒られるだけでは済まないだろう。ほんと困った奴だ。
出しゃばって正解だ。悪役貴族が投獄されたら危うく幸せな生活が壊れるところだった。
208 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:29:16.16 ID:cKxG2gpcO
「彼のこと、怒っているか?」
「別に。きっとその披露宴の会場であいつは帝国のお偉いさんにこの国との国交について直談判するつもりだったんだろうってのは理解できるし、あいつなりにチャンスだと思ったんでしょ。まあ、僕とメイドちゃんに潰されるような浅はかな計画を立てたことは反省して次に活かすべきだと思うけど……ん?」
所感を述べると、学園から花火が上がった。
《よォ……聞こえてるかァ?》
「……この花火は悪役貴族の仕業?」
《そのバイクや、このトランシーバーとやらは、たしかに便利だがなァ……古くせェやり方も、なかなか捨てたもンじゃねェぞォ?》
何が言いたいのだろう。すると遥か前方で。
「あ……向こうでも花火が」
《ハッハァー! てめェらが次の町に辿り着く前にこの花火が上がったことは伝わンだよ》
なるほど。狼煙の伝達速度は僕らより速い。
「それで? 僕らを次の町で捕まえるの?」
《そうしてェのはやまやまだがなァ……ハッキリ言って、今の俺じゃ帝国に行っても無駄足だろうからなァ……今回はてめェに任す。狼煙が上がった他所の領地や町には事前に通過の許可を取ってある。捕まる心配はねェ》
任された。嬉しくなり、つい頬がゆるんだ。
209 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:30:19.68 ID:cKxG2gpcO
「ふん。僕なら悪役貴族より上手くやるし」
《あァ、てめェはこの国にとって外交上の切り札だからなァ。それでも最初からてめェを利用しようとしなかったのは、俺のつまらねェプライドと意地にすぎねェと理解しろォ》
「プライドを守って、意地を張り続けたいのなら、次からはもっと上手くやることだね」
《あァ……言われなくてもわァッてるよォ。だがなァ、これだけは言わせて貰うぜェ?》
通信限界が近づいてきた。ノイズ混じりで。
《結婚したら、そンな勝手は許さねェぞ》
「ふん……わかってるよ……僕の旦那様」
わかってる。結婚したら、僕はちゃんと家を守る。その覚悟はもう出来てる。だけど、結婚する前の今だからこそ出来ることがある。
だから悪役貴族にもわかって欲しい。待つことの辛さを。もう無謀な事をしないように。
応答の返事は返ってこない。声が聞きたい。
「引き返すか?」
「ううん。早く行こう。早く帰れるように」
「うむ! ならば安全運転でかっ飛ばそう!」
僕らはいくつもの町や領地を、何事もなく通過した。この国では珍しいバイクだけど、道中一度も止められることなく素通り出来た。どうやらこのルートの領地を治めているのは、悪役貴族が勉強を教えているチンピラ貴族の家系らしく、安全に国外に出るための算段はあいつなりに立てていたことが窺えた。
道すがら広大な畑で過酷な労働を強いられる奴隷たちをこの目で見て、必ずや成果を持ち帰ると決意し、国境に向かってひた走った。
210 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:32:12.95 ID:cKxG2gpcO
「そろそろ国境だ!」
「あ、委員長。ちょっと停まって」
国境の町までたどり着いて停車する。町の中心には悪役貴族の実家があった。立派なお屋敷の前で僕はヘルメットを脱ぎお辞儀した。
「よし、行こう」
「もういいのか?」
「事前に訪問を知らせてないからね」
きっとこの町の人たちは何も知らない。お屋敷の人たちは、狼煙によって悪役貴族が帰ってきたと思っているかもしれないけど、代わりに来たのは僕だ。一応、ヘルメットは脱いで挨拶したけど、髪の短い僕の正体に気づく者はいないだろう……などと、思っていたら。
「なんだ? 騎士たちがぞろぞろ出て来たぞ」
「へ? な、なんで……? 僕、なんかした?」
「若君の花嫁とお見受けする! 我ら騎士団が国境にお送り致す! これは若君の命令だ!」
騎士団長と思しき人にそう言われ、ざわめく民衆から僕らを守るように、騎士団は国境までの道のりを警護してくれた。もしかすると悪役貴族は事前に、僕が代わりにこの国境の町にやってくる可能性について手紙にでも書いて送り、根回ししていたのかも知れない。
「この先は、私の仕事だ」
「うん。お願い、委員長」
国境を守る帝国兵に、委員長は極秘任務だと告げたが確認に手間取った。さすがにヘルメットは脱ぐ必要があると思ったのだが、最終的に半ば強行突破のような形で押し切った。
「問題になったら委員長はどうなるの?」
「なに、許嫁殿と彼に養ってもらうさ!」
あっさりと委員長は、僕らに人生を捧げた。
211 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:34:07.84 ID:cKxG2gpcO
「さあ、許嫁殿。ようこそ帝国へ!」
「はえー……これが帝国の都市かぁ」
立ち並ぶ摩天楼は、どれも僕の国のお城より大きかった。舗装された道路を行き交う、沢山の車やバイク。トランシーバーよりも高性能な通信機器を片手に道ゆく人々。まるで異世界に迷い込んだような気分に陥る。高い建物ばかりだからか、上ばっかり見てしまう。
「ちょうど真正面。目の前に聳える、インペリアル・タワーが兄上の披露宴の会場だ!」
「ちなみに披露宴の開催は明日? 明後日?」
「本日だ! なんならもう始まってるぞ!」
「うぇえ!? 僕ら遅刻してんじゃん!?」
「安全な出国のための通達と、根回しに手間取ってな。ギリギリになってしまったのだ」
それはわかるけど。こっちにだって準備が。
「よーし到着だ! それでは行こうか!」
「ちょっと待って! こんな格好で!?」
「生憎着替えなど持ち合わせていない! ここまで来たのだ! あとは当たって砕けろ……」
猪突猛進な委員長が扉に手をかけたその時。
「ちょっと待ちな」
「は、母上……?」
委員長によく似た美人が忽然と現れた。母上って、どうみてもお姉さんにしか見えない。
これが東の帝国に住むという美魔女なのか。
212 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:40:17.30 ID:cKxG2gpcO
「てめーが帰国したって連絡が、あたしに来ないわけねーだろ。んで? そのツレは?」
「いや、その……この男の子は私の友達で」
「このっ、バカむすめ! 吐くならもっとマシな嘘をつけ! この子は男の子じゃないし、ただの友達でもないだろーが! 正直に言え!」
「うう……彼女は、とある貴族の許嫁で……」
「ま、言われなくても全部お見通しだがな」
「なら何も聞かずに通してくれたって……」
「黙れ。母親に帰国の挨拶もなしは許さん」
叱責したお母様は嘘のように鎮まって一礼。
「失礼しました。お初にお目にかかります」
「委員長のお母様ですか? お姉様ではなく? どう見てもお姉様にしか見えないのですが」
「……めっちゃいい子だ。脳汁が出まくる」
「へ? あ、あの……脳汁ってなんですか?」
「いえ……どうかお気にならさずに。道中、お疲れでしょう。どうぞこちらの部屋へ。着替えもご用意しております」
先導するお母様に委員長が待ったをかける。
「待ってくれ母上! 我々には目的が……!」
「その目的とやらを達成するために必要なことをこの子はちゃんとわかってる。それをわかってねぇのはてめーだけだ。バカむすめ」
さすがに言い過ぎだと思って、口を挟んだ。
「委員長は僕にとって大切な存在です」
「私の娘は恋敵には役不足でしたか?」
「いいえ。恋敵より、もっと素敵な関係になれました。今ではかけがえのない存在です」
見透かす瞳のお母様の眉尻が優しく垂れた。
213 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:42:38.53 ID:cKxG2gpcO
「なんだ、上手くやれたみてーだな?」
「そんな、私は別に、上手くなんて……」
「さっすが、あたしの娘だな! 偉い偉い」
わしゃわしゃと委員長の頭を撫でるお母様。
「とにかく時間がねえ。着替えて、会場の連中の度肝を抜くぞ! 勝機はそれしかねえ!」
僕も全く同じ考えだった。委員長のお母様はまるで全てを見透かしているかのように、今の僕に必要なものを用意していた。それは、昔の僕が持っていたもの。長い髪のウィッグと豪奢なドレス。ティアラを頭に乗せれば、そこには『僕』ではなく、学園に潜入する前の『私』が居た。僕ではなく私なら、帝国の披露宴会場でもきっと成果を残せるだろう。
「さあ、行って存分に暴れてきな」
「はい。無論、是非もありません」
会場の扉が開かれる。今宵、私が臨席する。
214 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:45:35.08 ID:cKxG2gpcO
「失礼。お初にお目にかかります」
「うん? なんだい、君は……?」
まっすぐ新郎の席へと向かい、優雅に一礼。
見た目は美しい女性だけど新郎の服を着てるから新郎だろう。今はひとまず気にしない。
ガタンッと誰かが立ち上がる音。見ると、僕の国の宰相が真っ青な顔で口をパクパクしていた。人差し指を口に立てて、静かにするようにジェスチャーすると、広い額にびっしり汗を浮かべながら、コクコク頷き沈黙した。
改めて、新郎に向き直る。真っ直ぐに目を見て堂々としていれば多少の無礼は問題ない。
僕は帝国語で、今の自分の立場を説明した。
「訳あって名乗れませんが……私は今宵、ある貴族の妻になる者として、ここに居ます」
明言は避けたものの、僕の正体に気づいた帝国貴族たちがどよめいた。怪訝な顔をする者や、困惑する者。仕舞いには、拝む者まで。
「どういうことだ? あれは隣国の……」
「ご病気で静養中ではなかったのか?」
「よもやこの場に"お出まし"するとは……」
「まさかこの目で拝む日が来るとは……」
「なんたる僥倖……ありがたやありがたや」
そんな中、新郎だけは悠然と頬杖をついて。
「へえ……面白い余興だ。君の話を聞こう」
その一切動じぬ姿はまさしく次代の皇帝たる者に相応しく、隣に座る、彼の奥さんと思しき背の低い女性もまた、恐らくは僕と同じくらいの年齢だとは思うが、落ち着いていた。
いや、よく見ると僕のほうを見ずに、新郎のみに熱い視線を注いでる。きっと結婚相手にうっとりしているだけだろう。幸せそうだ。
215 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:48:12.37 ID:cKxG2gpcO
「まずはこの度のご結婚、おめでとうございます。帝国の弥栄はこれにて安泰であるとお察しします。しかし、帝国の隣の国の未来はどうでしょうか? なんら発展の兆しもなく、古い価値観に縛られた我が国の在り方を、必死に変えようと私の夫はあがいております」
「ふうん、なるほど。それは大変そうだね」
手応えは皆無だ。新郎は興味がなさそうだ。
「それを言うために、君はここに来たの?」
「……夫の名代として駆けつけた私に話せるのはここまででごさいます。あとは、私たちの結婚式の際に、夫から直接、お話を聞いてくださるよう……よろしくお願い致します」
話題を変えて、ダメ元でそうお誘いすると。
「難しい話かと思ったら結婚式のお誘い?」
「はい。今宵はただそれだけでございます」
「それなら、断る理由はないね。喜んで出席させて貰おう。わざわざご足労、感謝する」
「ありがとうございます。では失礼します」
首の皮一枚繋がった。一礼し立ち去る間際。
「君はとある貴族の妻だと名乗ったね。なら奥さんとしての君もそんな感じなのかい?」
「それは、ううん……僕はいつもお転婆さ」
「ふ……ふふふふ! 面白い! 気に入ったよ」
いつもの口調でペロリと舌を出してみせると新郎は目を丸くして、そして大笑いをした。
何が彼のツボだったかは定かではないけど、お腹を抱えて笑ってる。まあ、とりあえず。
「君たちの結婚式を楽しみにしてる」
「うん。御臨席を心待ちにしてるよ」
なんとかなった。やはり正直が1番らしい。
216 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:51:00.84 ID:cKxG2gpcO
「よし、任務完了。帰ろう、委員長」
「しかし、記者たちに囲まれて……」
バシャバシャと目が眩むような閃光が走る。
「スクープだ!」
「号外を出せ!」
「歴史が動くぞ!」
なんだかすごく騒いでいる。囲まれてる。
「ど、どうしよう、委員長」
「大丈夫。私から離れるな。合図で走れ」
何故か、目を閉じてる委員長。次の瞬間。
「スマートにってのは、こうやるんだよ」
会場の照明が消えた。暗闇の中、走り出す。
「行くぞ、許嫁殿!」
「わ、わかった!」
なんとか入り口に辿り着き。別れのご挨拶。
「それでは、ご機嫌よう。帝国の紳士淑女の皆さま。次は、私の国でお会いしましょう」
呆然としている宰相にひらひら手を振り、あとを任せて、僕は会場をあとにした。悪役貴族のお母様に鍛えられた彼なら、大丈夫さ。
217 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:53:54.49 ID:cKxG2gpcO
「ふぅーやれやれ。なんとかなったな」
「たく。あたしの娘のくせに無様だな」
「先程は助かった。さすがは母上だな」
「ていうかてめー、そのかわいくない口調で話すのやめろって何度も言ってんだろーが。髪もずいぶん短くしやがって。そんなんじゃ嫁の貰い手が見つかんねーぞ。せめてその口調だけでもあたしが教えたギャル語で話せ」
「余計なお世話だ! 私は母上と同じく妾になると決めたのだ! 他に選択肢もないしな!」
「あたしは妾じゃなくて愛人だっつーの!」
控室に戻り着替える。委員長とのやり取りで頭痛を堪えるかのように額の古傷をゴシゴシと擦っているお母様に、改めてお礼をした。
「ありがとうございました。いろいろと」
すると、委員長のお母様は口調が変わった。
「こちらこそ、色々とありがとうございました。娘は貴女様と出会えてようやく自らの在り方を理解したようです。心からの感謝を」
いやいやそんな顔を上げてと僕が言う前に。
「僕からも感謝するよ。ありがとう」
綺麗な人がそこにいた。にっこりと微笑み。
「どうか僕の娘を幸せにしてあげてね」
「はい! 必ずや、僕が幸せにします!」
反射的に身請けすると、委員長は首を振り。
「やれやれ。こうなっては是非もない、か」
満更でもない委員長の頭をその人は撫でて。
「いいかい? 「ありがとう」と「ごめんなさい」さえ素直に言えれば、ずっと仲良しで居られるよ。それを忘れず、幸せになってね」
僕はきっと生涯その金言を忘れないだろう。
218 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:55:43.07 ID:cKxG2gpcO
「せっかくだし観光でもしていくか?」
「でも悪役貴族が心配してるだろうし……」
「ああ、確かに。噂をすればなんとやらだ」
「ん? どうしたの委員長……って、げ!」
街中の大きな動く絵画に映る、国境の映像。
そこには精強な騎士団が並んでいて、その1番先頭に完全武装の悪役貴族が佇んでいた。
今にも攻め込んで来そうな臨戦態勢である。
「な、なにやってんだよ……あいつ」
「早く止めなければ戦争になるぞ!」
「あのバカたれ! 行こう、委員長!」
すぐに国境に戻って、悪役貴族と対峙した。
219 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:57:42.62 ID:cKxG2gpcO
「あーこちら僕、こちら僕。聞こえてる?」
《ようやく来やがったか。無事なのかァ?》
「もちろん無事だよ。全部、上手くいった」
《そうかァ。それはなによりだ……本当に》
トランシーバーで報告すると、いきなり悪役貴族が膝から崩れ落ちた。ギョッとして固まる僕に無線での通信が届く。泣き声だった。
《俺ァ……心配で……気が狂いそうだった》
「な、泣かないでよ……委員長、どうしよ」
「行け、許嫁殿。一刻も早く、彼のもとへ」
駆け出す。悪役貴族のもとに。一刻も早く。
「泣くほど、僕に会いたかったの……?」
「あァ……会いたかった。死ぬほどになァ」
バカたれという台詞の代わりに抱きしめた。
「それは、僕のことが好きだから……?」
「そうだ。好きで好きでたまらねェからだ」
今なら。今なら僕は言える。勇気を出そう。
「僕も、悪役貴族のこと……好きだよ」
ようやく言えた。堰を切ったように溢れた。
「好き好き大好き。愛してる。僕はずっと、これからも、悪役貴族に恋して、愛するよ」
そんな僕の告白を悪役貴族は鼻水を垂らして聞き終えて、嬉しそうに、噛み締めるようにニヤリと邪悪に嘲笑して、吠え散らかした。
220 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/26(火) 22:59:19.25 ID:cKxG2gpcO
「ハッハァー! ようやく洗いざらい吐きやがったなァ! 死ぬ気で馬を走らせた甲斐があったぜェ!よォし、てめェら! 凱旋だァ!!」
「もぉ。僕に勝って凱旋すんな、バカたれ」
勝ち鬨をあげる悪役貴族に僕は負けたけど。
そんな鼻水垂らして喜ばれても愛しいだけ。
負けても全然悔しくない。そんなことより。
「悪役貴族、勝手なことしてごめんね。結婚前の最後の冒険だと思って許して欲しい。それと僕を迎えに来てくれて……ありがとう」
ありがとうとごめんなさいは素直に言う。これからそう心がけよう。そうすればきっと未来永劫この幸せが崩れることはないだろう。
「てめェ……また良い女になったようだな」
「許嫁殿の武勇伝は、この私が聞かせよう」
「優等生ェ、てめェもたまに役に立つなァ」
「い、委員長! 恥ずかしいからやめてよ!」
「あっはっは! 今更何を恥ずかしがるのだ」
余談だけど、この僕らの恥ずかしい会話は帝国で生中継されていたらしく、大層盛り上がったようでドラマ化や映画化されたらしい。
しばらく帝国旅行は恥ずかしくて行けない。
【僕はようやく、悪役貴族に愛を告げた】
FIN
221 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/26(火) 23:15:40.78 ID:JWoLJrd20
今まで散々ルール無視してスカトロ荒らししてたカスが
今さら酉つけて駄文書いた所でなぁ
普通ならここでは「恥ずかしくて書けない。」だろうけどそこが恥知らずの恐ろしさ
222 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/27(水) 03:25:02.55 ID:3em8Nq1hO
《奥様、奥様! 大変です!》
「んー? どうしたの?」
《坊っちゃまとお嬢様が喧嘩してます!》
あれからしばらくの時が流れた。約束通り結婚式に臨席してくれた帝国青年に晴れ姿を見せつけ、正式に帝国との国交を樹立した僕と悪役貴族は、双子の兄妹を授かった。僕は身体が小さいせいか、難産で、結構やばかったけれど、委員長のお母様が大勢の医者と共に産婆として駆けつけてくれて、おかげでなんとか無事に元気な赤ちゃんを産んだ。そんな双子たちはスクスク育ち、基本的には仲が良いけど、たまにこうして喧嘩したりもする。
メイドちゃんたちにトランシーバーで呼ばれて駆けつけると、悪役貴族に似た息子と、僕に似た娘が取っ組み合いの喧嘩をしていた。
「こらこら。喧嘩はダメ。仲良くしなさい」
「こいつがおれのメイドを取った!」
「お兄ちゃんには僕がいるでしょ!?」
どうやら、喧嘩の原因は双子メイドらしい。
見目麗しく大人の女性へと成長を遂げた彼女たちは、数え切れぬほどの求婚を拒み続け、頑なに未婚を貫いており、今も忠実なメイドとしてこの家で暮らし、働いてくれている。
「お手数をおかけして申し訳ありません」
「平等にお世話をしているのですが……」
「いやいや、気にしなくていいよ。いつも面倒を見てくれてありがとね。助かってるよ」
誰に似たのか、息子のほうは独占欲が強く、同じく誰に似たのか、娘のほうは癇癪持ちなので、僕みたいにキレてしまったのだろう。
223 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/27(水) 03:26:27.02 ID:3em8Nq1hO
「こんな時は君の出番だね。ちび委員長」
「うむ! まかされよう! いってくりゅ!」
喧嘩の仲裁に小さな委員長を差し向ける。美しい黒髪の幼女は、ぴょんと第二夫人の膝から降りて、僕の子供たちにお説教を始めた。
ちなみに委員長は安産で、すぽんと産んだ。
「お兄ちゃんなら妹にやさしくするのだ!」
「けっ……なんでおれがこいつなんかに……」
「うう〜ひどい! お兄ちゃんのばかたれ!」
「こらこら。妹ちゃんもお兄ちゃんのことをもっとそんけーしたまえ。きみはいつもおいしいお菓子をわけてもらっているだろう?」
客観的かつ中立に、双子たちを諌めている。
「さすが委員長の娘……しっかりしてるね」
「そんなことはないさ。私たちの夜の営みをこっそり覗いている、マセたエロむすめだ」
それはいけない。まだ早い。気をつけよう。
224 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/27(水) 03:28:32.11 ID:3em8Nq1hO
「お菓子はいいけど、双子メイドはやらん」
「そんなうつわがちいさい男は、双子メイドちゃんたち両方と結婚なんてできないぞ?」
「お兄ちゃんと結婚するのは僕だもん!!」
僕の娘はお兄ちゃんが大好きだ。実の兄を見つめるその瞳には僕が悪役貴族を見つめるような熱っぽさが見て取れる。将来が心配だ。
良いタイミングで悪役貴族みたいな男の子と出会えればいいけど、あんなにかっこよくて優しい男性が今後、現れるかはわからない。
あとこれは余談だけど、帝国青年の花嫁は、もともと彼の世話係だった使用人らしい。40歳を超えていると聞いて驚いた。委員長のお母様も然り、帝国は美魔女だらけの魔境だ。
何が言いたいかというと、それと同じように未婚の双子メイドちゃんを僕の息子が娶る可能性もある。というか、そうなって欲しい。
「やれやれ。喧嘩するほど仲が良い、か」
「僕の娘……どうしてこうなったのやら」
「そっくりではないか。実に微笑ましいぞ」
「でも、さすがに血の繋がった兄妹は……」
《おォい……そろそろ帰るぞォ》
「あ、はーい! そろそろパパが帰って来るってさ! 喧嘩はおしまい! 皆、迎えに行って」
「「「はあい!」」」
解放奴隷たちが組み立てたトランシーバーで帰宅を告げる悪役貴族。僕が促すと子供たちは喧嘩をやめて手を取り合い、駆け出した。
225 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/27(水) 03:30:03.89 ID:3em8Nq1hO
「お兄ちゃん、早くパパをお迎えにいこ!」
「あ、まてよ! はしるな! ころぶぞ!」
「父上ー! 本日もおつとめ、ご苦労様!」
玄関の扉が開いて、悪役貴族が姿を見せた。
「よォ……チビども。いい子にしてたかァ」
「「「いい子にしてたー!」」」
「ハッ! てめェらはホントかわいいなァ」
悪役貴族は夢を実現するために日々邁進している。豊富な食料や鉱物資源を輸出して外貨を稼ぎ、帝国から農業機械を輸入することで人手を減らし、農作業から解放された農奴たちは工場で働かせて養い、彼らの暮らしはどんどん豊かになっている。帝国の医療技術も積極的に取り入れ、金銭的に余裕が出来た元奴隷たちの烙印は最新の形成外科治療により綺麗に取り除かれ、徐々にではあるが彼らはもう身も心も奴隷ではなくなってきている。
226 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/27(水) 03:32:02.38 ID:3em8Nq1hO
「おかえりなさい。今日もお疲れ様」
「あァ……今日もくたびれたぜェ」
「子供たちは今日も元気一杯だぞ!」
「ハッハァー! そいつは何よりだなァ!」
「パパ! 抱っこ!」
「おれも! おれもー!」
「わたしはかたぐるまをしてほしい!」
「なら全員まとめてかかってこォい!」
「「「わあい!」」」
今日も仕事で疲れたのだろう。改革を進める僕の旦那は既得権益を貪る連中から、この国の資源を帝国に売り払い、奴隷に施しを与え、伝統を軽んじる売国悪役貴族だと、忌み嫌われて蔑まれている。そういう視野が狭くて自分が正義だと信じて疑わないバカたれ共にとってはたしかに大悪党かもしれないけれど、僕らにとっては優しくてかっこいい素敵な旦那様であり、そんな悪役貴族のことが大好きで、愛してる。毎日くたくたになって帰ってくる悪役貴族は、委員長の娘を肩車して、双子を両腕に抱きかかえながら、僕らにむけて幸せそうに微笑み、こう問いかける。
227 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/27(水) 03:35:48.46 ID:3em8Nq1hO
「俺ァ幸せだ。てめェらも今、幸せかァ?」
幸せそうな旦那を見ると僕らも幸せになる。
誰になんと言われようとも悪役貴族がやっていることは間違ってないし、どんなに辛い思いをして帰ってきても家には僕らがいて、全面的に味方になってあげる。それが家族だ。
「幸せだよ……そんなの当たり前じゃんか」
「うむ! きっと子供が増えれば、もっと幸せになれるだろう! だから、今宵も頼むぞ!」
「ハッハァー! 言われなくても孕ませてやンよ! てめェらに手を出さねェ夜はねェ!」
「子供の前で何言ってんのさ……バカたれ」
そんな文句を鼻で笑い悪役貴族は約束した。
「もっともっと幸せにしてやるからなァ!」
この先もっともっと幸せになることを僕らは信じて疑わない。そして僕らも、この素敵な悪役貴族のことを支えて、もっともっと幸せにする。時にぶつかり合い、何度喧嘩したって、ずっとずっと未来永劫、幸せに暮らす。
【僕は未来永劫、悪役貴族と幸せに暮らす】
FIN
228 :
◆dudxOFJ8aA
[saga]:2023/12/27(水) 03:36:34.46 ID:3em8Nq1hO
前作
クラスの変わり者が揉め事を起こして始まる一次創作
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1699519196/
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2023/12/27(水) 07:42:16.16 ID:qPev8HlV0
その前のうんこまみれもちゃんと載せろよな
まあHTML化依頼スレで「終わりました」って書いてる奴全部こいつだけど
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/27(水) 08:52:19.48 ID:/fUBqYdq0
道のど真ん中にぶちまけられたゲロみたいな作品
作品とも呼びたくないけどな
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/30(土) 09:43:37.96 ID:E4C3iFtC0
現実と空想の区別が付いてないバカが異世界モノ書こうとすると
恐ろしいものが出来上がる良い例よな
今からでも子ども向けの漫画版読むだけでも良いから日本や世界の歴史勉強しろ
232 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/30(土) 22:39:08.44 ID:tV9hR0nl0
最後まで世界観の見えてこない粗末な怪文書だったな
よく一次創作なんてほざけたもんだ。零次創作だよ
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