侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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542 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:06:30.44 ID:Sh64zN700

 「ギシャァァァァッ…!!?」


ギャラドスの顔面を殴りつけた。


果南「ギャラドス!?」


ギャラドスの巨体が、いとも簡単に吹っ飛ばされる。


果南「っ……!」


果南がすぐ様、次のボールに手を伸ばした瞬間──果南の周囲に、大量のサイコキューブが出現する。


果南「……!?」

愛「“サイコショック”」
 「リシャンッ」

果南「ダイヤッ!!!」


果南は咄嗟にダイヤを庇うようにして、その場に伏せって覆いかぶさる。

直後、サイコキューブが弾丸のように、果南の背中に降り注ぎ──


鞠莉「果南っ!!?」

果南「……ぁ……ぐ……っ……。……く、そ…………ッ……」


果南はその場に崩れ落ちた。


愛「よし、いっちょあがり」

鞠莉「うそ……」


果南とダイヤが負けた……?

元チャンピオンと四天王よ……?


愛「さーて……あと一人」

鞠莉「……っ」


愛がこちらに視線を向けてくる。

どうする……。

わたしもバトルが苦手なわけじゃないけど、さすがに果南やダイヤほどの実力はない。

その二人をここまで圧倒した相手に、わたし一人で勝つのは難しい──いや、ほぼ無理だ。


鞠莉「……ロトム」
 「ロ、ロト…」

鞠莉「わたしの図鑑に」
 「──マ、マリー…」


ボールから出したロトムをわたしの図鑑に入れさせる。


鞠莉「わかるわね」
 「ロト…!!!」


ロトムはわたしの言葉に頷くと──ゲートの中に入っていった。

それを確認して、わたしは愛に向き直る。
543 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:07:02.43 ID:Sh64zN700

鞠莉「……あなたの目的は何? ゲートの破壊?」

愛「まあ、それも悪くないんだけどね。アタシの目的は──その子たちだよ」


そう言って指差したのは──ゲートの前にいるディアルガたち。


愛「大人しく渡してくれれば、アタシも手荒なことしなくて済むんだけどな」

鞠莉「……」


さっき善子から聞いたゲートの通過時間を考えれば……そろそろ、ロトムはゲートの向こうに抜けたはず……。


鞠莉「……ディアルガ!! パルキア!!」
 「ディアガァァァァッ!!!」「バアァァァァルッ!!!!!」


“こんごうだま”と“しらたま”を使って、ディアルガとパルキアに“テレパシー”を飛ばし、ゲートを閉じさせる。


愛「……はぁ、やるってことね」


どこまで出来るかはわからない……。だけどこのまま、はいわかりましたと、ディアルガやパルキアを渡すわけにはいかない。

わたしが戦闘態勢に入ると同時に──


 「──ギシャラァァァァァッ!!!!!!」


ギラティナが“シャドーダイブ”で愛に向かって突っ込んでいく。


愛「……ま、いいや」
 「リシャンッ!!」


愛がそう言いながら手に持ったリーシャンをギラティナに突き付けると、


 「ギシャラァァァァ…!!!!」


ギラティナもリーシャンの作り出したサイコパワーの力場で、押し返される。


愛「3匹まとめて相手してあげるよ」

鞠莉「行くわよ!! ディアルガ!! パルキア!! ギラティナ!!」
 「ディァガァァァァァ!!!!!!」「バァァァァァァルッ!!!!!!」「ギシャラァァァァァァァッ!!!!!」


3匹の伝説のポケモンの鳴き声が、やぶれた世界に轟いた。


………………
…………
……


544 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:16:45.81 ID:Sh64zN700

■Chapter067 『果林』 【SIDE Emma】





姫乃ちゃんとの戦いを終えて……。


彼方「いったたたたっ!!」

遥「うーん……肋骨……かなり折れてるね……。よくこれで肺に刺さらなかったね……」

彼方「お、お姉ちゃん……運、いいからね〜……」

遥「でもあんまり激しく動いちゃダメだよ? これから刺さるかもしれないし……」

彼方「善処しま〜す……」


今は戦闘後の治療の真っ最中。

そんな中わたしは、どうしても彼方ちゃんに聞きたいことがあった。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん」

彼方「ん〜? な〜に〜?」

エマ「……彼方ちゃんって、果林ちゃんと一緒の孤児院で育ったって……さっき言ってたよね……?」

彼方「ああうん。……そうだね……」

エマ「……あのね、わたし姫乃ちゃんに言われてハッとしたの……。……わたし、果林ちゃんのこと……本当は何も知らないんじゃないかって……それで、説得しに来たなんて言っても……お前に何がわかるんだ〜って言われちゃって当然なのかなって……」


わたしが勝手に、果林ちゃんのことをわかった気になっていただけな気がしてならない。

もちろん、だからといって今の果林ちゃんを放っておけないという気持ちは本当だけど……。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん……果林ちゃんが自分の住んでた世界にいたとき……どんな子だったか……教えてくれないかな……?」

彼方「…………結構辛い話になると思うけど、それでもいい?」


彼方ちゃんがそう確認を取ってくる。


エマ「うん……。むしろ、果林ちゃんの辛い気持ちに寄り添ってあげたいから……教えて」


わたしの言葉を聞くと、彼方ちゃんは頷いた。


彼方「……わかった。…………そうだなぁ……あれは……果林ちゃんが“虹の家”に来たときだから……もう、7年も前になるのかな……」


彼方ちゃんはそう前置いて、話し始めた。





    👠    👠    👠





──崖下で陽炎に揺れ燃える大地の中で、侑と歩夢が私と戦うために身構えていた。

しずくちゃんには……まんまとやられてしまった。まさかあんな形で裏切られるなんて……噫、私はいつもこうだ。

璃奈ちゃんも彼方も……みんな……私の傍から離れて行ってしまう。

愛も……本当に仲間と呼べた頃が、もう記憶の遥か遠くで……。今は何をしたいのかがよくわからない。

きっと……私の味方は……本当は最初から誰もいなかった……。全てがめちゃくちゃになった……あの、厄災の夜から──

545 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:17:17.49 ID:Sh64zN700

────────
──────
────
──


 「──大丈夫……!? しっかりして……!?」

果林「ん……ぅ……」


大きな声で呼びかけられ、目を開けると──見知らぬ女の人が居た。救助隊の格好をしているから……救助隊なのだろう。


女の人「……! 息がある……! 人工呼吸器回して!!」


人工呼吸器を口に当てられる。


女の人「あなただけでも……助かってよかった……」

果林「…………」


私が揺れる船の窓から、外に目を向けると──真っ暗な夜の闇の中……私の故郷の島が……今まさに……海に飲み込まれているところだった……。





    👠    👠    👠





あの夜──所謂“闇の落日”と呼ばれるあの日のことは、今でも忘れられない。

本当にそれは唐突で……急に大きな地震が起こったかと思ったら、大地が裂け、家が崩れて飲み込まれた。

命からがら脱出し、家族と逃げ惑う中、崩れた大地からは瘴気が噴き出し、それを吸い込んだご近所さんが喀血して、倒れた。

私たちは必死に逃げた。道中で、大地の崩落に友達が巻き込まれるのを見た。

「助けないと」と泣き叫ぶ私を、両親が無理やり引き摺るようにして、島の高台へと逃げ──その道中、砕ける岩の崩落にお父さんが巻き込まれて、瓦礫と共に消えていった。

島の高台にたどり着けたのは……私とお母さんと──


 「コーン…」


小さい頃から大切にしていた、ロコンしかいなかった。

高台に逃げても……どんどん水位が上がってきて……瘴気の影響もあって、私の意識は朦朧としていた。

そんなとき──救いの手とも言える、ヘリのライトが私たちを照らした。

朦朧とする意識の中──「果林! しっかりして!!」──母が私を押し上げ、ヘリの救助隊の人がやっとの思いで私をヘリに引っ張りこんだ直後──

お母さんとロコンは──高台ごと……海に飲み込まれた。一瞬だった。

私の意識は、そこで途絶え──次に目を覚ましたときには……船の上から……遠方で大きな渦潮に飲み込まれるように、私が生まれ育った故郷が沈む姿を眺めていたのだった。





    👠    👠    👠





院長「──今日からここが貴方のお家よ」

果林「…………ありがとう、ございます……」
546 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:17:48.58 ID:Sh64zN700

保護された私は、あの“闇の落日”の中でも残った大きな都市国家の一つである──プリズムステイツの郊外にある“虹の家”という孤児院に送られた。

当時15歳。

もう分別のわかる歳だった。だから……どうしようもないことが起こったんだと理解出来た。だけど……だからこそ、辛かった。

何もわからないくらい……小さな子供だったらよかったのにと、何度も思った。


院長「果林ちゃん15歳よね? 実はわたしの上の娘も同い年なのよ。かなちゃーん?」

 「なーにー?」


気の抜けるような声で返事をしながら、院長先生とよく似た髪色の女の子がとてとてと歩いてきた。


院長「この子、果林ちゃん。今日から、一緒に住むことになる子よ」

彼方「あーうん、言ってた子だよね〜。彼方ちゃんはね〜彼方って言うの〜。よろしくね〜」

果林「……よろしく」


これが──私と彼方の初めての出会いだった。





    👠    👠    👠





“虹の家”には私を含め、10人の子供と……院長先生の娘である彼方と遥ちゃんの計13人が一緒に暮らしていた。

大きな孤児院ではなかったけど、院長先生は率先して“闇の落日”で身寄りを失った子供を受け入れていたそうだ──もちろん、それでも孤児の数が多すぎるため、こうして受け入れてもらえただけでも、運がよかったと言える。

ここにはおおよそ10歳くらいの子が多く、私と彼方はその中でも最年長だったけど……私はあまり年下の子と上手に接する自信がなかったため、一人で過ごしていることが多かった。

もちろん、邪険に扱っていたわけではないから、嫌われたり、怖がられていたということはなかったけど……。

一方で彼方は……なんだか掴みどころのない子だった。

孤児院内で率先して家事を手伝っていたり、他の子たちの御守りも率先してやっていたとかと思えば……暇が出来ると、


彼方「…………むにゃむにゃ……」
 「……メェ……zzz」


ウールーと一緒に日の高いうちからお昼寝していたり……忙しないのか、のんびりしているのか、よくわからない子だった。

わかりやすいことと言えば……とにかく妹の遥ちゃんが大好きだということだろうか。

そして、一番わからなかったのは──


果林「……」


“虹の家”の近くの岬に……簡易的に建立された──沈んだ私の故郷の慰霊碑があった。

慰霊碑と言っても……本当に簡易的なもので、見た目はただの大きめの石。……これが慰霊碑であると言われなければ誰にもわからない。そんな代物だった。

私はこの慰霊碑に手を合わせるのが日課だった。

そして両手を合わせて目を開けると、決まって──


彼方「……」
 「メェ〜〜」


いつの間にか隣で、彼方も両手を合わせていた。仲良しのウールーと一緒に。


果林「……」
547 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:18:26.53 ID:Sh64zN700

私が無言で慰霊碑を後にすると──彼方も特に何も言わずに、孤児院へと戻っていった。それが毎日。

私は特別進んで彼方とコミュニケーションを取っていたわけではなかったけど……この時間は何故か、彼方と二人で過ごす時間だった。

私が慰霊碑を訪ねると、本当に毎日、律義なことに……気付けば彼方が隣に居る。さすがに気になって、ある日──


果林「…………ねぇ、彼方」


私は彼方に声を掛けてみた。


彼方「ん〜?」
 「メェ〜〜」

果林「院長先生に何か聞いたの?」


さすがに院長先生は、私の島のことは知っているけど……何も知らない彼方が、こうして手を合わせてくれる理由がよくわからなかった。

だから私は、てっきり院長先生が何かを言ったのかと思っていたんだけど……。


彼方「うぅん、特に何か聞いたわけじゃないよ〜? まあ……毎日手を合わせてるのを見たら……なんとなく、わかるし……」
 「メェ〜〜」

果林「……まあ、言われてみればそれもそうね……」


孤児院に居る人間が毎日欠かさず手を合わせている石を見たら……なんとなく、わかるか。


果林「……見ず知らずの人たちの慰霊碑に、毎日手を合わせに来るのは、大変じゃない?」

彼方「うーん……それは特に考えたことなかったな〜。もしかして、迷惑だった?」
 「メェ〜〜」

果林「迷惑なんてことはないけど……不思議だと思ったから」

彼方「彼方ちゃんは関係ない人なのに、どうしてこんなことしてるんだろうってこと?」

果林「まあ……そんな感じ」

彼方「う〜ん……それは……果林ちゃんがいっつも一人で行動したがるからかな」

果林「……どういうこと?」

彼方「果林ちゃんが……新しい場所でずっと一人だったら……心配しちゃうかなって思って……」


そう言いながら、彼方は慰霊碑を見つめる。


果林「彼方……」

彼方「あ、もちろんみんなで行動しろって意味じゃないよ〜? 一人が好きな人もいるからね〜。だから、こうしてご家族に報告するときだけでも……彼方ちゃんが隣にいるのを見れば、安心してくれるかなって……」


それは彼方なりの優しさだった。……見ず知らずの私の家族が、今の私を見て心配しないようにと……。


果林「……ありがとう……。……私の家族もきっと……安心してると思うわ……」

彼方「ならよかった〜。じゃ、戻ろっか〜」


私がお礼を言うと、彼方はニコっと笑う。優しい笑顔だった。


果林「…………聞かないの?」

彼方「ん〜果林ちゃんが言いたいなら」


彼方は不思議な子だった。

寄り添っているように見えて、自分からは踏み込んでこない。

それは彼女が人を優しく慮っているからこそ出来ることで……見ず知らずの私を家族として扱ってくれているからに他ならなかった。

だからだろうか……私を家族と思ってくれる人にくらいは……言ってもいいのかな、と……。
548 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:19:07.49 ID:Sh64zN700

果林「…………平和な島だった。あの日まで……」

彼方「うん」

果林「…………もちろん世界がどうなってるかは知ってるし……いつか起こるかもしれないとは、みんな思っていたけど……急だった。つい数時間前まで話してた島の人たちが、友達が……家族が、ポケモンが……みんな……私の目の前で、死んでいった……」

彼方「……うん」

果林「……全部……飲み込まれて……なくなっちゃった……。……もう、私の住んでた故郷は……影も形も……残ってないんだって……。残ってるのは……たまたまポケットに紛れ込んでた、この小石くらいかな……」


そう言って……彼方に小石を見せる。

逃げ惑っている際に紛れ込んでしまっただけだろうけど……今となっては、これ以外にあの島にあったものは何も残っていなかった。


彼方「……」
 「メェ〜〜」


そんな私を見て……彼方は無言で私を抱き寄せ──頭を撫でてくれた。


果林「大切な人が……場所が……なくなるのは……悲しい……。…………もう誰にも……こんな想い……して欲しくない……」

彼方「……うん」


もし、こんなどうしようもない世界を救う方法があるのだとしたら……私は迷わずにそれを選ぶのに。

あまりに無力な自分が……虚しくて……悲しかった。





    👠    👠    👠





孤児院に来て数ヶ月経った頃、私はプリズムステイツにある、警備隊へと入隊することを決めた。

プリズムステイツはいろんな場所から、いろんな種類の人間が故郷を追われ生活している場所だから……なんというか、あまり治安がいい場所ではなかった。

それ故に、警備隊での仕事は決して安全なものではないし……だからこそ、稼ぎも相応によかった。

それに孤児院経営も決して裕福な環境で行っているわけではないのは、近くで見ていればわかったし……少しでも、私を拾ってくれた院長先生への恩を返したい気持ちもあった。

そして、何より──


彼方「それじゃ〜、今日も頑張ろうね〜」


彼方が私と同じような考えで、この警備隊へ入ろうとしていることを聞いたから、一緒に入隊した。

──入隊すると、戦闘用のポケモンが支給された。そのときに彼方はネッコアラを貰い……なんの因果か、私に支給されたポケモンは、


 「コーーン」


故郷で失った家族と同じ種類のポケモン──ロコンだった。

自分で言うのもなんだけど、ありがたいことに私にはポケモンで戦うセンスがあった。

そしてそれは彼方も……。

私たちはあっという間に、警備隊の中でもトップクラスの強さへと伸し上がり──ものの半年で私は率先して前に出る攻撃部隊の隊長に、彼方は救護や防衛を主とする防御部隊の隊長になっていた。

ただ……それは決して、楽でもなければ、楽しいものでもなかった。
549 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:27:10.65 ID:Sh64zN700

果林「キュウコン、“ひのこ”!!」
 「コーーーンッ!!!」

男「あ、あちぃっ……!?」

果林「さぁ……盗ったもの……返しなさい。返さないなら……痛い目に合わさないといけないの……だから……」

男「か、勘弁してくれ……家族を食わせるためなんだ……」

果林「…………キュウコン、やりなさい」
 「コーンッ」


──窃盗は特に多かった。

土地が減れば、資源も食糧も乏しくなる。いつも誰かが誰かの住処と食糧と──命を奪い合っているような世界。

そして……私も、その一部だ……。


果林「…………」

彼方「……あの人……しばらく投獄されるって。常習犯だったから……お手柄だって、上の人が言ってたよ……」

果林「…………」

彼方「……果林ちゃん……」

果林「…………あの人の家族は……きっと、飢えて死ぬ……。……私が……殺したようなものだわ……」


私は寮のベッドの中で横になり、丸くなって、頭を抱える。

そんな私を見て──彼方はベッドに腰かけ、私の頭を撫でる。


彼方「果林ちゃん……果林ちゃんが辛いなら、彼方ちゃんと同じ防御部隊に回してもらうようにお願いしない……? 彼方ちゃんもお願いするから……」

果林「…………いい。……今は……一人にして……」

彼方「果林ちゃん……。……わかった。……あとでご飯持ってくるから、一緒に食べようね」


──きっとこれは私の役割だ。そう思っていた。

だから、上の人間には、彼方は防御部隊の隊長が適任であると、何度も伝えていた。

そして……私が攻撃部隊として……全てを排除すれば、彼女が辛い戦いをすることも減る……そう考えて、戦い続けた。

彼方には……誰かから奪うなんて似合わないから。





    👠    👠    👠





──警備隊に入って1年ほど経ったある日、


果林「政府主導の研究機関に統合される……?」

彼方「うん、そうらしいよ〜」


二人で食事をしているときに、彼方からそんな話を聞かされた。
550 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:27:45.33 ID:Sh64zN700

彼方「まだ、噂話を聞いただけだから……実際どういう感じになるのかはわからないけど〜……」
 「メェ〜〜」

彼方「はいはい、ご飯ね〜」
 「メェ〜」

果林「研究……聞いただけで、鳥肌立ちそう……」

彼方「あはは〜、果林ちゃんお勉強は苦手だもんね〜」

果林「……別にいいでしょ。……それにしても、なんでまた……」

彼方「なんでも、すご〜い研究者の人が、すご〜い発見をしたらしくってね〜」

果林「ふーん……そのすご〜い研究者のすご〜い発見ってなんなの……?」


私は話半分に聞いていたけど──


彼方「……世界を救う方法が、見つかるかもしれないんだって〜」

果林「え……?」


私は彼方の言葉を聞いて、目を見開いた。


果林「ホントなの……?」

彼方「なんかね、どうして世界がこんなになっちゃったのか……突き止められたかもしれないって〜。それをすご〜い研究者の人たちが見つけたみたいなの」

果林「も、もっと詳しく……!!」

彼方「あわわ……急に食いつきよくなった……。……でも、彼方ちゃんが知ってるのはここまで〜……噂話だから、どこまで本当なのかはよくわからないし……」

果林「なんだ……」

彼方「結局は実際に統合されてからじゃないとだね〜……。あ、ただ……」

果林「ただ……?」

彼方「噂によると……そのすご〜い研究者さんたちは15歳と14歳の女の子二人組らしいよ〜」

果林「……15歳と14歳って……」


どっちも私たちより年下じゃない……。





    👠    👠    👠





──実際に噂どおり、私たちプリズムステイツ警備隊は、政府主導でプリズムステイツの研究機関の実行部隊へと組み込まれることになった。

そして私と彼方は……警備隊での実績もあったため、その実行部隊の隊長、副隊長へと任命された。


彼方「か、かかか、果林ちゃん……!! この契約書見て……! お給料……すごいよ……!!」

果林「さすが政府の抱える実行部隊の隊長ね……」


──ここに来るまでに、なんとなくの説明は受けた。

確かに彼方の言うとおり、今この世界がどうしてこんなことになってしまったのか……それを突き止めた天才科学者が居たらしく、プリズムステイツでもトップクラスの戦闘能力を持つ私たちには、何かと発生する荒事を任せたいとのことだった。

その際、今この世界に何が起こっているのかも簡単に聞いたけど……正直何を言っているのかちんぷんかんぷんだった。エネルギーが世界から流出するのがどうたらとか……。

まあ、わかっていなかったのは私だけじゃなくて、彼方も同じような感じだったので、私の理解力が特別低いわけではない。……はず。

そして今日は、実際にその天才科学者二人と顔合わせするということで、早めに着いた私たちは研究所の応接室に通され待っているところだ。

今後は私たちとその二人の科学者さん、合わせて4人で連携を取っていくことになる。
551 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:30:40.44 ID:Sh64zN700

彼方「研究者さん、どんな子たちなんだろーねー?」
 「メェ〜」

果林「正直……気が進まないわ……」

彼方「そうなの〜?」
 「メェ〜」


彼方が膝の上のウールーを撫でながら、のんきな声で訊ねてくる。


果林「科学者って、きっと眼鏡掛けて白衣を着たお堅い形の子たちってことでしょ……? いかにも勉強の話ばっかりしてる感じの……」

彼方「偏見すごいね〜……。失礼だから、本人たちにそんなこと言っちゃダメだよ〜?」
 「メェ〜」

果林「言わないわよ……」


とはいえ、うまくやっていける気がしない……。

もちろん、世界を救うためと言うなら協力するのは吝かではない。むしろ望むところだ。

ただ……理論の話とかは聞きたくない。絶対にその日一日、頭痛に悩まされるハメになること請け合いだ。


彼方「まあ、嫌だったら果林ちゃんは横でおすまし顔しててくれればいいから〜。果林ちゃん綺麗だから、座ってるだけでも絵になるし〜」

果林「……場合によってはそうするかも……」

彼方「まあ、気楽に行こ〜。そろそろ時間かな〜?」


彼方の言うとおり、応接室内の壁掛け時計を見ると、そろそろ時間になろうとしていた。

そして──扉が開いた。


研究者1「お、もう着いてたんだね。待たせちゃったみたいで、ごめんね!」

研究者2「は、初めまして……」


そう言いながら応接室内に女の子が二人入ってくる。

私はその容姿で、すでに面食らってしまった。

一人は明るめの金髪をポニーテールに縛っている活発そうな女の子だった。

もう一人は外巻きカールのセミロングヘアをした小動物のような印象を受ける女の子。

この子たちが……噂の天才科学者たちなの……? イメージどおりなのは、白衣を着ていることくらいだった。

私と彼方は席から立ち上がる。


果林「この度、プリズムステイツ警備隊から統合される形で配属されました、アサカ・果林です」

彼方「同じく、コノエ・彼方です〜」

研究者1「あ、いいっていいって、これから一緒にやってく仲間なんだし、そういう堅苦しいのは無しで! 歳も近いらしいしさ! もっとフランクな感じでいーよ!」

果林「は、はぁ……」

愛「あっと……名乗ってなかったね。アタシはミヤシタ・愛! んで、この子はりなりー!」

璃奈「えっと……て、テンノウジ・璃奈です……」
 「ニャァ〜」

璃奈「この子は……お友達のニャスパー……です……」


璃奈ちゃんは腕に小さな猫ポケモンのニャスパーを抱いていて、その子も一緒に紹介してくれる。
552 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:31:12.72 ID:Sh64zN700

果林「……えっと……それじゃ、ミヤシタさんとテンノウジさん……」

愛「愛でいーよ! りなりーもファーストネームでいいよね?」

璃奈「うん。ファミリーネームは長いし……ややこしいから、璃奈でいい」

果林「……わかったわ。愛と……璃奈ちゃん」

 「ニャー」

果林「それと……ニャスパーね」


なんというか、愛は呼び捨てにしていい気がしたけど……璃奈ちゃんはなんというか……璃奈ちゃんという感じだった。


果林「それなら、私たちのことも下の名前で呼んで頂戴。良いわよね、彼方」

彼方「うん〜、もちろん〜。よろしくね〜、愛ちゃん、璃奈ちゃん〜。あ〜あと、この子は彼方ちゃんの親友のウールーだよ〜」
 「メェ〜〜」

愛「うん、よろー! カリン! カナちゃん! ウールーも!」

璃奈「よろしく、お願いします……果林さん……彼方さん……ウールー……」


挨拶をしながら、璃奈ちゃんは愛の後ろに隠れてしまう。


彼方「果林ちゃん、璃奈ちゃんが怖がっちゃってるかも……」
 「メェ〜〜」

果林「……彼方、それはどういう意味か説明してくれる?」

彼方「冗談だってば〜。璃奈ちゃん、もしかして緊張してるのかな〜?」

愛「あはは……りなりー緊張しいなんだよね。やっぱり、ボードあった方がいいんじゃない?」

璃奈「……初対面だから……素顔の方がいいと思ったけど……。……そうする」


璃奈ちゃんはそう言いながら──上着の中から、1冊のノートを取り出した。


璃奈「あ、あのね……私……人の顔を見て喋るの……緊張しちゃって苦手で……だけど、怒ってないし、怖がってないよ……」 || ╹ ◡ ╹ ||


そう言いながら、表情が描かれたページを開いて顔の前に掲げる。

少し変わっているけど……どうやらこれが、彼女なりの感情表現ということらしい。


彼方「あはは〜よかったね果林ちゃん、怖がられてないって〜」

果林「彼方……」

彼方「だから、冗談だって〜」

果林「はぁ……全く……。……これから一緒に頑張りましょう。私たちも早く貴方たちを理解できるように努力するわ」

璃奈「果林さんも彼方さんも優しそうな人でよかった。私もこれから一緒に頑張りたい。璃奈ちゃんボード「やったるでー!」」 || > ◡ < ||
 「ニャー」

愛「じゃ、これから、今後の活躍を祈って、もんじゃパーティーでもしますか〜!」

彼方「え、もんじゃってあのもんじゃ〜!? 今どき作れる人がいるなんて珍しい〜! 彼方ちゃんにも作り方教えて教えて〜」

愛「あははっ♪ 愛さん、もんじゃを作る腕には自信あるからね! 何を聞かれても、もんじゃいない! なんつって!」

璃奈「愛さん、今日もキレキレ!」 ||,,> ◡ <,,||

愛「どんなもんじゃいっ! あははは〜!!」


なんだか、思ったより変な人たち──主に愛が──だけど……。

想像していたよりは、意外と楽しくやっていけそうかも。私はそんな風に思うのだった。



553 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:31:44.45 ID:Sh64zN700

    👠    👠    👠





──結論から言うと、この二人……特に愛とはとても気が合った。


愛「あー!! また負けたぁー!!」

果林「はぁ……はぁ……。これで……私の10勝9敗7引き分けね……」

愛「カリンもっかい! 次勝って、10勝10敗にする!」

果林「あ、明日ね……今日はさすがにしんどいし、私はこの後取材があるし……愛にも研究があるでしょ……?」

愛「うー……わかった。でも、約束だからね!」


愛は研究者でありながら、とにかく戦闘でも腕が立つ子だった。

戦績としては拮抗しているように見えるけど……彼女の使うポケモンは全て小柄で進化前しかいない。

これで私と実力が拮抗しているのだから、末恐ろしい戦闘センスと言わざるを得なかった。


果林「……ねぇ、愛」

愛「ん?」


私は訓練場から、研究棟に戻る最中、愛に訊ねてみる。


果林「どうして、ベイビーポケモンばかり使うの? 貴方だったら、ポケモンを選べば実行部隊に居たとしても、遜色ないのに……」

愛「んー……リーシャンはもともと友達だったからだけど……りなりーが可愛いポケモンが好きって言うからさ」

果林「……それだけ……?」

愛「え? うん。それにりなりーったら、可愛いポケモンで敵をばっさばっさなぎ倒すところがかっこいいって褒めてくれてさ〜♪」

果林「……そう」


彼女と私とでは、戦いに対する価値観が違いすぎる……。

そこに関しては研究者らしい変わり者というか……だからこそ、戦闘員ではなく研究員なのかもしれない。


愛「──たっだいま〜♪」


愛が元気よく、中央研究室のドアを押し開くと、それに気付いた璃奈ちゃんと彼方が寄ってくる。


璃奈「愛さん、果林さん、おかえりなさい」
 「ニャァ〜」

彼方「二人ともおかえり〜」
 「メ〜」

果林「ただいま。彼方、今日は防衛演習があるんじゃないの? まだここに居て大丈夫?」

彼方「もう〜今日は夜間演習だって言ったよ〜? だから、今のうちにすやぴしておこうと思って〜」
 「メェ〜〜」

果林「……そうだったかしら……」


彼方は私と違って防衛隊の隊長だから、私とは訓練の運用スケジュールが全然違って覚えられる気がしない……。
554 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:34:49.89 ID:Sh64zN700

璃奈「愛さん。ボール収納時に発生する質量欠損と空間歪曲率の統計データ、ほぼ完成した」

愛「マジで!? まだだいぶ時間掛かる予定だったはずなのに……!?」

璃奈「予算がたくさん貰えたから、それで自動化ロボットを作る余裕が出来た。すごくありがたい」

愛「いや〜やっぱり、これもカリンとカナちゃんが来てくれたからだね〜♪ 統合サマサマだ〜♪」

彼方「あはは〜、やっぱりお金は大事だもんね〜」

果林「お陰で、“虹の家”の抜けた床と雨漏りが直ったって言ってたものね……」


政府主導の統合によって予算が増えたのは警備隊側だけではなかったらしく、研究所も正式な政府機関として、多額の予算が下りているというのは噂で聞いている。

それだけ、この機関には多くの期待が寄せられていた。

私は彼女たちの話を傍で聞きながら、トレーニングウェアを脱ぎ捨て、シャワーを浴びに行く。


彼方「あ〜も〜、また服脱ぎっぱなしにする〜……」
 「メェ〜」

果林「別にいいでしょ。急いでるのよ」

彼方「摸擬戦から帰ってきたばっかりなのに、もう出るの〜?」
 「メェ〜?」

璃奈「果林さん……今日はメディアからの取材がある」

果林「そういうこと」


私は手早くシャワーで汗を流して、表向きの格好に着替える。


彼方「あんまり忙しいなら……彼方ちゃんが代わるよ〜?」

果林「夜から演習なんでしょ。彼方は早く寝なさい」


私はそう残して、中央研究室を後にした。



555 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:35:22.67 ID:Sh64zN700

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私たちのやっていることは……簡潔に言ってしまえば、この世界を救うための最先端活動だ。

璃奈ちゃんと愛が、ウルトラスペースと言われる異次元空間の存在を発見したことを端に、プリズムステイツ政府はそれに世界の命運を懸けて、多額の予算と──そして、警備隊から多くの戦力を実行部隊として送り込んだ。

最初は研究機関が戦力を求める理由がよくわからなかったけど……どうやら、ウルトラスペースという空間には、ウルトラビーストと呼ばれる危険な生物がいるらしく、私たちはその生物たちとの戦闘を想定して、ここに呼ばれたらしい。

特に私と彼方は、特別優秀な戦力として数えられているらしく、私は攻めの対ウルトラビースト戦略、彼方は守りの対ウルトラビースト戦略を任されている。

今回のこの研究の注目度はかなりのもので……物資や土地の奪い合いで睨み合っていた他国も、プリズムステイツ政府に多額の資金援助や物資援助を申し出ているほど……つまり、全世界が私たちの動向に注目している。

私と彼方は孤児院の経営のために、稼ぎの良い仕事していただけのはずなのにね……──璃奈ちゃんや愛が常軌を逸した天才で、世界が注目するのはわかるけど……。

ただ、その理由は実際にここに来て、すぐにわかった。世界が注目している研究ということは──世界中からメディアも押し寄せてくるからだ。

国家間での電信通信なんてものが失われて久しいこの世界において、各国のメディアは何がなんでも自国に情報を持ち帰りたがる。有り体に言えば……少し強引なこともしてくる。

故に──前に立たせる人間が欲しかったということだ。

そして、私はそれに選ばれた。理由は……俗的な話だけど、要約すると顔とスタイルがよかったかららしい。

若くて、麗しい少女たちが前線に立ち戦う姿は、人々から支持を得やすいという目論見が上にはあるらしかった。

まあ……俗的だとは思うけど、容姿を褒められて悪い気はしないし、私はそこまで嫌だとは思わなかった。

何より、人前に出るのが極端に苦手な璃奈ちゃんを守る盾は必要だったわけだし、理由にも納得出来た。

……目立ちたがり屋の愛は、たまに勝手に付いてきて一緒に取材を受けていることもあったけど……。

──気付けば私たち4人は……世界中の期待を背負って、世界の命運を託されていたのだった。





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璃奈「空間歪曲率上昇。ウルトラホール、展開」


璃奈ちゃんが機器を操作する中、ガラス張りの向こうにある実験室で──空間に穴があく。


愛「おっけー、ホール安定。このまま、維持するよ。ベベノム、苦しくない?」

 『ベベノ〜』『ベベノ〜』


愛が端末越しに2匹のベベノムに話しかけると、ベベノムたちは元気に返事をする。


果林「それにしても……ベベノムがウルトラビースト……ねぇ……」

彼方「ベベノムって、街外れの丘にたくさんいるからね〜……。“虹の家”の外でもたまに見かけてたよね」


ウルトラビーストは大きなエネルギーを体に持っていて──それによって空間を歪めて、ウルトラホールをあけることが出来る……璃奈ちゃんたちが突き止めた大発見はこれによって始まったらしい。

実際に目の前で奇怪な空間の穴を何度も見せられているので、それが嘘ではないということは理解出来ているけど……ちょっと街の外れにいくと生息しているポピュラーなポケモンが、危険と称されるウルトラビーストの仲間だったと言われてもなかなかピンとこない。


彼方「……すやぁ……」

果林「彼方、寝ないの」

彼方「えぇ〜……だってぇ〜……毎回、こうやってホールを見てるだけなんだもん〜……」

果林「私たちは万が一に備えてここに居るのよ」

彼方「わかってるけど〜……」
556 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:35:59.74 ID:Sh64zN700

確かに、ただホールがあいて、それが消えるのを見るだけなのが退屈なのはわかる。

私も気を抜くと、欠伸の一つでもしていまいそうだと思いながら、見ていると──その万が一が発生した。


璃奈「……! ホールにエネルギー反応!」

愛「この数値……!? ヤバイ!! りなりー、ホール閉じて!!」

璃奈「もう、やってる……! けど……ホールが外側からこじ開けられてる……!」

果林「な、なに……!?」


直後──研究室内のホールがカッと光り、


果林「……っ……!?」


眩い光の中に──


 「──フェロ…」


真っ白な上半身と、黒い下半身をした──細身のポケモンが立っていた。


果林「綺麗……」


思わず目を引かれてしまうような──そんな、美しいポケモンだった。


璃奈「ウルトラビースト……フェローチェ……!」

愛「カリン!! 直視しちゃダメ!! ウルトラビーストには人を操る力を持った奴がいるから!!」

果林「え……?」


直後──


 「フェロッ!!!」


ガシャァンッ!! と音を立てながら、ウルトラビーストがガラス張りの壁を蹴り破り──私に向かって突っ込んできた。


彼方「ネッコアラっ!! “ウッドハンマー”!!」
 「コァッ!!!」

 「フェロッ…!!」


振り下ろされるウルトラビーストの脚に対し、彼方のネッコアラが割って入るように丸太を振りかざして、弾き飛ばす。


彼方「果林ちゃん、平気!?」

果林「あ、ありがとう、彼方……!」


私は頭を振る。なんだか、頭がボーっとしていた。

愛の言っていたように、人を操る力とやらにやられかけていたらしい。


愛「私も戦う……! りなりー! 下がってて!」

璃奈「う、うん……ニャスパー、隠れるよ」
 「ニャァ」


璃奈ちゃんが机の影に隠れ、愛がウルトラビーストの前に出てくる。
557 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:36:29.40 ID:Sh64zN700

 「…フェロッ」

果林「いいわ、暴れるって言うなら……貴方が私を魅了するよりも早く……倒してあげるから……!」





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果林「……はぁっ…………はぁっ…………」

愛「し……死ぬかと思ったぁ……」

彼方「……かなたちゃん……もう……うごけないぃ…………」


私たちは、3人の力を合わせて、どうにかウルトラビーストを倒し……捕獲することに成功した。

戦闘後の研究室内は……ボロボロだった。


果林「……どうりで……戦力を欲しがるわけね……」


こんなのを愛一人で対応し続けるのは、確かに無理がある……。


璃奈「みんな……大丈夫……!?」
 「ウニャァ〜」


戦闘が終わって、物陰に隠れていた璃奈ちゃんが心配そうに飛び出してくる。


彼方「ど、どうにか〜……」

愛「平気だよ……カリンとカナちゃんがいなかったら、さすがにやばかったけどね……」

璃奈「今、医療班を呼んでくるから……!」


部屋を飛び出そうとした璃奈ちゃんが、


璃奈「あれ……?」


何か気付く。


愛「りなりー?」

璃奈「……ウルトラホールがあった場所に……まだ、何か……いる……?」

果林「……!?」


私は、その言葉を聞いて身構えた──けど、そこにいたのは……。


 「ピュィ…」


小さな小さな……紫色の雲のようなポケモンだった。



558 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:37:12.36 ID:Sh64zN700

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──そこで捕まえた雲のようなウルトラビーストは……コスモッグというらしく、大量のエネルギーを内包するポケモンであることがわかった。

結論から言うと、このコスモッグを捕獲したことによって、璃奈ちゃんと愛の研究は飛躍的に進むこととなった。

このポケモンが持っているエネルギーを利用すれば──理論上ウルトラスペースの中を航行しうるエネルギーになるということがわかったからだ。

政府は、急ピッチでウルトラスペースを航行するための船──ウルトラスペースシップの開発に着手し、半年という驚くべきスピードでウルトラスペースシップを完成させるに至った。

これにより、ウルトラスペース内の探索が可能になり、研究は次の段階へ……世間からも大きな賞賛を浴び、世界を救うという途方もない話がだんだん現実味を帯びてきていた。

戦闘によって捕まえたウルトラビースト──フェローチェは私が手持ちとして従えることとなり……いろいろなものが順調に進んでいく中──


──“虹の家”の院長先生が……彼方のお母さんが……亡くなった。





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遥「おかあさん……っ……おかあ、さん……っ……」

彼方「……遥ちゃん……」


遥ちゃんが棺桶にすがるように泣きじゃくり、彼方がそんな遥ちゃんを抱きしめている。


果林「…………院長先生……」


数ヶ月前に過労で倒れたというのは聞いていたけど……ウルトラビーストとの邂逅もあり、私はなかなか時間が取れず──いや、正確には彼方を無理にでもお見舞いにいかせるために、仕事を強引に肩代わりしていたためだけど──まさか、こんなすぐに亡くなってしまうとは……思っていなかった。

“闇の落日”の時に吸った瘴気が……ずっと院長先生の身体を蝕んでいたらしい。


果林「…………」


短い間ではあったけど……私にとっては、もう一人のお母さんのようなものだったから……やるせなかった。





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──葬儀も全て終わり……明日にはまた研究所に戻る。……そんな夜のことだった。

私と彼方は、すごく久しぶりに“虹の家”で過ごしていた。

ただ……どうしても寝付けなくて、水でも飲もうかと思いリビングに行くと──


彼方「…………」


彼方が遺影の前で、正座していた。


彼方「…………“虹の家”……立派になったね」


遺影に……院長先生に……母親に、話しかけていた。

私は親子の会話を邪魔したくなかったので、音を立てないように、物影に隠れる。
559 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:37:58.45 ID:Sh64zN700

彼方「…………あんなに軋んでた床も、音鳴らなくなったね。雨漏りもしなくなったし……立て付けの悪かったドアもちゃんと開くようになったね。職員の人も何人も雇っててびっくりしちゃった。孤児院としては、もう安泰だね」

果林「…………」

彼方「果林ちゃんと一緒に……頑張ってきてよかったって……思ったよ……」

果林「…………彼方……」

彼方「……わたしたち……これからも頑張るね……世界中の人……救って見せるから。……この世界を、果林ちゃんたちと一緒に……救って見せるから」

果林「…………」

彼方「………………でも…………でも、ね……っ……」


彼方の声が、震えていた。


彼方「…………ほんとうは……おかあさんに……っ……すくわれた世界を……みせて、あげたかった……よぉ……っ……」


彼方は……肩を震わせて泣いていた。

……私はこのとき初めて、彼方の泣いている姿を見た。

葬式の間、泣きじゃくる遥ちゃんや、この家の小さな子たちの前では、絶対に見せなかったのに……彼方が、声を震わせて、泣いていた。


彼方「…………おかぁ……さん……っ…………ぐす……っ……ひっく……っ……」

果林「………………」


──この世界は理不尽だ。

理不尽に奪われて、泣く人ばかりの世界で……そんな中でも、誰かに与えて手を差し伸べてくれる人が……命を落とす。

私はギュッと……拳を握りしめた。


果林「…………こんな世界……間違ってる…………」


こんな、誰かが泣かなくちゃいけない世界のままで……いいはずがない。


果林「…………私が……変えるんだ…………」


こんな奪われるだけの世界を……私が、変えなくちゃ……いけないんだ。





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──ウルトラスペースシップによる本格的なウルトラスペースの調査が開始された。

調査メンバーはもちろん、私、彼方、愛、璃奈ちゃんの4人だ。

その中で……私たちは、ウルトラスペースの中に、いろいろな世界があることを知った。

荒廃しきった世界や、巨大な電気を帯びた樹木が張り巡らされた世界、一面に広がる砂漠の世界、宝石のような輝く鉱物があちこちに生えた洞窟の世界……。

本当にいろいろな世界があって……そこにはいろいろな種類のウルトラビーストが生息していた。

時に捕まえ、時に撃退し、時に逃げ……私たちは少しずつウルトラスペースとウルトラビーストという存在を理解していった。

その中で、テッカグヤ、デンジュモク、カミツルギ、ズガドーン……そして、2匹目のコスモッグを捕まえることに成功した。

それと同時に……並行して行っていた、ウルトラスペースシップの2台目を完成させたり……とにかく調査は順調に進んでいた。

ただ……そんな調査の中でも……私たちが見つけた世界の中に、文明がある世界は一つしか見つけることが出来なかった。

それも、遠く……自由に行き来するとなると、コスモッグの持っている途方のないエネルギーをもってしても、少し不自由があるというくらいには遠くにだ。

そんなある日のことだった。
560 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:38:47.16 ID:Sh64zN700

璃奈「……!」


研究室にいるとき、璃奈ちゃんが急に椅子を跳ねのけるようにして、立ち上がった。


愛「り、りなりー? どうしたの? 何かひらめいたん?」

璃奈「………………わかった」

彼方「わかったって……何がわかったの〜……?」

璃奈「世界を………………救えるかも……しれない……」

果林「ホントに……!?」


私は、思わず璃奈ちゃんの両肩を掴んで、


果林「一体どういう方法なの……!? 璃奈ちゃん……!!」


思わず彼女に詰め寄るように訊ねてしまう。


愛「ちょ、カリン……!」

璃奈「……か、果林さん……い、痛い……」

果林「あ……ご、ごめんなさい……」

愛「……カリンが人一倍気持ちが強いのは知ってるけど……そんな風に詰め寄ったら、りなりーが困っちゃうからさ……」

果林「そう、よね……ごめんなさい……」

璃奈「うぅん……大丈夫」

彼方「それで……どういう方法なの……?」


彼方が訊ねるけど、


璃奈「……それは……」


璃奈ちゃんは、何故か酷く歯切れが悪かった。


璃奈「…………言っていいのか……わからない」

果林「言っていいのか……? わからない……?」


私は思わず眉を顰める。
561 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:39:20.03 ID:Sh64zN700

果林「世界を救う方法があるんでしょ……? それを言っていいのかわからないって、どういうこと……?」

璃奈「そ、それは……。……でも、今この場では……教えていいことか……私だけじゃ判断しかねる……」

果林「なによそれ……。……ねぇ、璃奈ちゃん……貴方も世界を救いたいんじゃないの……?」

彼方「か、果林ちゃん、落ち着いて……」

愛「…………何か思うことがあるってことだよね」

璃奈「……うん」

愛「わかった。……ただ、私たちは政府から託されて研究してるから……」

璃奈「……わかってる。……報告しないわけにはいかない……」

果林「なら、ここで言ってもいいんじゃないの?」

璃奈「……ご、ごめんなさい……」

愛「カリン、やめて。りなりーが困ってる」

果林「私たちは仲良しごっこしてるんじゃないのよ? 世界の命運を懸けて戦ってるの」

愛「……」

果林「……」

彼方「ふ、二人とも落ち着いて! 果林ちゃん、焦って聞いても彼方ちゃんたちにはよくわからないだろうし、ちゃんと報告した後にわかりやすく纏めてもらった話を聞こう? ね?」

果林「…………わかった」


私は璃奈ちゃんに背を向けて、近くの椅子に腰を下ろした。


璃奈「……ほっ」

愛「りなりー、大丈夫?」

璃奈「……うん」

彼方「ごめんね……果林ちゃんも悪気があって言ってるわけじゃなくて……最近、調査進捗とかメディアから詰め寄られることが多くって……だから、ちょっと焦っちゃってるだけで……」

璃奈「うん、理解してる。果林さん、ごめんね、すぐに言えなくて……」

果林「……私こそ……ごめんなさい……。……ちょっと、頭を冷やすわ……」

愛「……それじゃ、アタシとりなりーで一旦理論を纏めてくるから……」

果林「ええ……お願いね」


愛と璃奈ちゃんが部屋を後にする。

私は思わず両手で顔を覆って俯く。

璃奈ちゃんにやつあたりするなんて……何やってるの、私……。


彼方「……果林ちゃん、疲れてるんだよ……今日はお仕事やっておくから、休んで?」

果林「彼方……」

彼方「いっつも、前に立たせちゃって……ごめんね……。……果林ちゃんが一番しんどい位置にいることは……わたしも、璃奈ちゃんも、愛ちゃんもわかってるから……」

果林「……ありがとう……彼方……」





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ここからしばらく、愛と璃奈ちゃんが理論を纏めるのに難航することとなる。

……どうやら、璃奈ちゃんの思いついた理論が……大きなリスクを孕んでいるものだからという噂は耳に入ってきた。
562 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:39:52.44 ID:Sh64zN700

 「──だからそれじゃ、根本的な解決にならないって言ってんでしょ!?」


応接室から、愛が荒げた声を聞く機会もだんだんと増えていった。恐らく、政府の役人と今後の方針で揉めているのだろう。

その間は調査が滞り、私たちは訓練と演習くらいしかすることがない中──ある辞令が下った。


果林「──……“SUN”と“MOON”……?」

彼方「うん。上からの辞令で……組織内でポケモンでの戦闘が強い二人に権限を渡すって話みたい」

果林「権限って……なんの?」

彼方「コスモッグを自由に扱う権利みたいだね……2匹のコスモッグがそれぞれ“SUN”と“MOON”に1匹ずつ渡されるみたい」


彼方が辞令に目を通しながら言う。


果林「それってつまり……」

彼方「……ある程度、自由にウルトラスペースを調査する権限みたいだね」

果林「……そう」

彼方「嬉しくないの? 果林ちゃん、“MOON”に任命されたってことは……出世みたいなものだよ?」

果林「そうね……」


私は思わず眉を八の字にしてしまう。

──組織内で戦闘が強い二人──

この指定の仕方は……恐らくだけど……私には愛が政府の役人に反発し続けた結果のように思えた。

反発をする愛に対し、上の人間は愛に自由を与えないために、作戦そのものの実行能力を持った人間に権限を与えようとしたけど……愛は彼方より強い。下手したら私よりも……。

研究者でありながら、作戦の実行能力も高い彼女から、全ての権限を奪いきれなかった結果、こんな不自然な辞令が下ったんじゃないかしら……。

もちろん、想像の域は出ないけど……。


彼方「……どうする?」

果林「……まあ、コスモッグを受け取るのは構わないけど……」


コスモッグはウルトラビーストではあるものの、戦闘能力が皆無なウルトラビーストだ。

故に持っていようが持っていまいが、そこまで大きな問題はないと思う。……ただ、エネルギーを放出させすぎると休眠状態になると予想はされているから、そこは考えないといけないけど……。

ちなみに他のウルトラビーストは、結局うまく扱える人がいなくて、持て余しているのが現状だ。

一度、彼方がテッカグヤを扱おうとしたものの……結局強すぎる力に振り回されてしまい断念。

私も何匹か使ってみたものの……フェローチェほど、しっくりくるものがなく、現状の手持ちの方が有効に戦えそうだったために、受け取りはしなかった。

閑話休題。

コスモッグを受け取るのはいいとしよう。ただ──


果林「だからって、私だけで調査に行くことってないと思うんだけど……」

彼方「……それはそうかも」


ウルトラスペースシップの操縦はほとんどプログラミングされた自動操縦らしいし、簡単な使い方くらいは聞いているから、動かすことは出来ると思うけど……。

それ以外のことは、完全に愛と璃奈ちゃん任せだから、私たちに持たされても使い道があまり思いつかない。

……他国のスパイとかに奪われる可能性が減るくらいかしら……?


果林「それにしても……なんで“SUN”と“MOON”……太陽と月なのかしら……?」

愛「──文献を見つけたからだよ」


そう言いながら、愛と璃奈ちゃんが部屋に入ってくる。
563 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:42:33.94 ID:Sh64zN700

果林「愛……」

彼方「文献って?」

璃奈「2匹目のコスモッグを見つけた世界で、石板があったの覚えてる?」

果林「あったような……なかったような……」

愛「まあ、あったんだけどさ。その石板にあった碑文をりなりーが言語解析プログラムにずっと掛けてたんだけど……それの結果が出たらしくってね」

果林「それが太陽と月だったの?」

愛「コスモッグは成長すると、太陽の化身もしくは月の化身へと姿を変えるんだってさ」

璃奈「日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、太陽の化身もしくは月の化身に姿を変えるって記されてた」

彼方「あーだからか〜……太陽と月をそれぞれ授けるぞ〜ってことだね〜」

璃奈「そんな感じ。強いトレーナーの傍に居れば、いつか覚醒して私たちの力になってくれるだろうって考えてるみたい」


まあ……自分で言っておいてなんだけど……正直命名の理由には言うほど興味はない。興味があるのは……──私が任命された“MOON”じゃない方。


果林「……“SUN”は貴方よね、愛」

愛「……まーね」

果林「上の人と揉めてるの……?」

愛「……」


愛は気まずそうに頭を掻く。

……恐らく、私の予想はそこまで大きく外していないのだろう。


愛「……大丈夫、ちゃんとチャンスは貰ったから」

果林「チャンス……?」

愛「世界……ちゃんと救える理論、見つけてみせるからさ」

璃奈「……私たち頑張る! 璃奈ちゃんボード「ファイト、オー!」」 || > ◡ < ||


愛は“SUN”の称号を得て、璃奈ちゃんと何かをしようとしていることはわかった。

ただ──これが……最悪の結果を招くことになる……。





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果林「──愛……!!」

愛「ん? カリン、どしたん?」

果林「どしたんじゃないわよ!! 璃奈ちゃんと二人でウルトラスペースの調査に行くってどういうこと!?」

愛「うぇー……情報筒抜けじゃん。独立した権限があるなんて嘘っぱちだねぇ……」

果林「行くなら私たちも連れていって……!」


ウルトラスペースは危険な場所だ。

いくら愛の腕が立つと言っても、たった二人で行くのは危険すぎる。
564 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:43:18.50 ID:Sh64zN700

愛「んっとね……最初はアタシもそうお願いしたんだけど、拒否されちゃってさ」

果林「拒否……? どうして……?」

愛「お前たちのわがままのために、貴重な戦力を危険な目に合わせるわけにいかないって」

果林「……危険な場所に行くの……?」

愛「まーね……。……だから、二人でしか行けないなら、アタシも断念しようとしたんだけど……りなりーがね。……行かないわけにいかないって」

果林「璃奈ちゃんが……」


あの気弱な璃奈ちゃんが……政府の役人に対して、そんなことを言ったなんて、想像出来ないけど……。

それでも、勇気を振り絞って言ったということだろう……。


愛「りなりーが行くって言うんだったら、愛さんが行かないわけにいかないっしょ!」

果林「愛……。……ちゃんと、帰って来るんでしょうね……?」

愛「もちのろん! ちゃんと成果持ち帰ってくるために行くんだから! 任せろって!」

果林「わかった。じゃあ、もう何も言わない」

愛「あんがとっ! ま、カナちゃんと一緒にお昼寝でもして待っててくれりゃいーからさっ!」

果林「ふふ、じゃあ……そうさせてもらおうかしらね」


──数日後、愛は璃奈ちゃんと一緒にウルトラスペースの調査へ出た。

結果────璃奈ちゃんが……死亡した。





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──ウルトラスペースシップが帰ってきた時点で、異変があった。

ウルトラスペースシップの形状が──変わっていた。シップの倉庫部となるはずの部分が消失していた。


果林「な、なにが……あったの……?」

彼方「わ、わかんない……」


船が戻ってくる報告を聞いて、離発着ドックに来た私たちは、酷く動揺していた。

そして、ボロボロのウルトラスペースシップの中から、


愛「…………」


愛が出てくる。


果林「愛……! よかった……!」


私たちは愛に駆け寄る。

よく見ると愛は随分とやせ細っていて──どこを見ているのかわからないような、そんな虚ろな目をしていた。


彼方「あ、愛ちゃん……?」


嫌な予感がした。


果林「……愛……? ……璃奈ちゃんは……?」

愛「──………………ちゃった……」
565 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:44:48.06 ID:Sh64zN700

愛は消え入るような声で、


愛「……りなりー…………いなく……なっちゃった…………」


そう、言ったのだった。





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彼方「…………どうして……」

果林「…………」

彼方「…………どうして……璃奈ちゃんが……」


愛が帰ってきて、半日ほどが経過した。

愛があまりに憔悴しきっていて、とてもじゃないけど話が聞けない状態だったため、詳しいことはまだわかっていないけど……調査中に事故でウルトラスペースシップが半壊し、その際に璃奈ちゃんが亡くなったという見方が強かった。


果林「…………まだ…………奪うの…………?」


私は唇を噛んだ。

そのときだった──急に研究所内にアラートが鳴りだした。


彼方「な、なに……!?」


──『離発着ドックにて緊急事態発生。緊急事態発生。』──


果林「彼方……! 行くわよ……!」

彼方「う、うん……!」


私たちはとにかく、離発着ドックへ走る。





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──たどり着いた離発着ドックでは、


愛「──あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!!!」


愛が、ドックを破壊していた。


彼方「あ、愛ちゃん……!?」

果林「愛っ!? 何やってるの!?」

愛「りなりーを……っ!!! りなりーを返せぇぇぇぇぇっ!!!!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」


愛が大暴れしていて、他の職員はとてもじゃないけど、近付けない。

でも、このまま放っておいたら離発着ドックが使い物にならなくなる……!
566 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:46:31.68 ID:Sh64zN700

果林「彼方!! ドックを守って!! 消火も!!」

彼方「わ、わかった!! バイウールー! パールル!」
 「──メェ〜〜〜〜」「──パルル」


バイウールーがリーシャンの音攻撃を体毛で吸収し、施設の被害を抑えながら、パールルが“みずでっぽう”で壊れた機器から出火した炎を消火する。

その間に私は、


果林「キュウコン、“かなしばり”!!」
 「──コーーンッ!!!」

 「リシャンッ…!!?」


リーシャンの動きを止めて、


果林「愛っ!! やめなさいっ!!」


後ろから愛を羽交い絞めにする。


愛「りなりーをぉっ、かえせぇぇぇぇぇっっ!!!!!! かえせぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

果林「っ……!」


愛は錯乱しながら、叫び続ける。

とてもじゃないけど、呼び掛けで止めるのは不可能だと判断し、


果林「……フェローチェ……!」
 「──フェロッ」

果林「“みねうち”……!」
 「フェロ」

愛「がっ……!?」


愛のお腹に、手加減した打撃を叩きこんだ。


愛「……りな……りー……」


愛は気絶して……大人しくなった。璃奈ちゃんの名前を……呼びながら……。





    👠    👠    👠





──愛は、施設を破壊した責任を問われ……ひとまず拘束されることになった。今はポケモンを没収の上、自室で軟禁状態らしい。

加えて、このチームからも除名されるらしい。


彼方「…………果林ちゃん……“SUN”になるんだってね……。……彼方ちゃんが……“MOON”だって……」

果林「…………みたいね……」

彼方「…………研究班が足りなくなっちゃうから……。……人が補充されるみたい」

果林「……聞いた。……姫乃って子と……遥ちゃんよね……」

彼方「……うん」

果林「…………あの4人じゃなきゃ……ダメなのに……」

彼方「果林ちゃん……」

果林「なんで……なんで、こうなっちゃうのよ…………」
567 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:47:07.78 ID:Sh64zN700

私たちは……力を合わせて世界のために戦っていたはずなのに……。

気付いたら……愛も……璃奈ちゃんも……いなくなってしまった。





    👠    👠    👠





──そして、私たちはやっと、愛と璃奈ちゃんが……どうして、世界を救う方法とやらを教えてくれなかったのかを理解した。


果林「…………」

彼方「…………」


先ほど司令から……璃奈ちゃんが気付いた、世界を救う方法をざっくりと聞かされた。

それは──


果林「…………私たちの世界を救うには…………他の世界を……滅ぼすしか……ない……って……」

彼方「………………」


詳しい理屈はわからないけど、そうらしい。他の世界を滅ぼすことによって……私たちの世界の崩壊を、食い止めることが出来る。それが、璃奈ちゃんが突き止めた世界を救う方法だった。

それに加えて──もし、それをしなければ……私たちの世界は今後もどんどん、確実に、滅亡へと進んでいく……とも。

彼方は……珍しく私に背を向けていた。どんな顔をすればいいのかわからないからなのか……それとも……。


果林「…………ねぇ……彼方……」

彼方「…………なぁに……?」

果林「…………………………怒らないで、聞いて……」

彼方「…………うん」

果林「………………私は……何をしてでも……この世界を、守りたい……」

彼方「…………果林ちゃん」

果林「………………こんな酷い世界だけど……大切な人がたくさんいるの……思い出の場所が……大切な場所が……たくさん、あるの……もう……この世界から、誰かが、何かが失われるのなんて……耐えられない……」

彼方「…………」

果林「…………彼方……」


私は無言の彼方の背中にすがるように、おでこを押し付ける。


果林「…………貴方は……私の前から……いなく、ならないで……。……お願いだから……」

彼方「……………………」

果林「…………壊すのは……全部、私がやる……奪うのも……罪も、業も、憎しみも、恨みも……全部私が背負う……だから……彼方だけは……私の傍に居て…………お願い…………」

彼方「………………」

果林「………………彼方……」


でも、彼方は──


彼方「……………………ごめん、果林ちゃん……少し……考えさせて……」

果林「………………」
568 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:52:18.19 ID:Sh64zN700

私を置いて……行ってしまったのだった……。





    👠    👠    👠





──なんとなく、わかっていた。彼方は誰かから奪うようなやり方に賛同なんてしないって。

案の定というか、数日もしないうちに彼方が司令に反対の意思を伝えたという話が耳に聞こえてきた。

彼方と……施設内ですれ違っても──


彼方「あ……」

果林「あ……か、彼方……!」

彼方「ご、ごめん……今、急いでるから……」

果林「……彼方……」


すっかり、避けられてしまっている。

ただ……上の人間たちは、完全に──他世界への侵略の方向で進めようとしている。

……このまま、彼方が反対し続けたら、何が起こるだろうか……?

彼方は事実上の組織の幹部……もし、組織の意向に沿えなかったからと言って……ただ、辞めることで解決できないところまで事情を知ってしまっている。そうなったら彼方は……。

だから私は──


果林「……」


──コンコン。だから私は、戸を叩く。中に入ると、政府の役人たちが会議をしていた。

内容は──彼方をどうするかについて話しているところだった。

だから、私は、こう言った。


果林「彼方は……私が説得します……」


彼方を守るには……もう、これしかないから。





    👠    👠    👠





果林「………………」


深夜──私は計画書を見て、眉を顰める。

内容は……まさに他世界への侵略だった。

彼方もすでに、この計画書は受け取っているはずだ。この内容を踏まえた上で……私は彼方を説得しないといけない。

でも、やらなくちゃいけない。

私が……彼方を──家族を……守らないといけないんだ……。


果林「………………早く行かないと」
569 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:53:01.28 ID:Sh64zN700

躊躇している暇はない。

そう思ったけど──


果林「…………今更……何にびびってるんだか……」


私の手は……震えていた。


果林「…………そりゃ……出来るなら……奪いたくなんて……ないわよ……」


誰も悲しまない世界があるなら、その方がいい。そんなの当たり前だ。そうに決まってる。


果林「…………でも…………選ばなくちゃいけないなら…………選ぶしか、ないじゃない…………っ」


黙って滅びを待つなんて……出来ない。

だから、せめて……私が背負うから……私以外のみんなを守るために……私が背負って……地獄に落ちるから……。


果林「…………」


私は覚悟を決めて、彼方の部屋へと向かう。





    👠    👠    👠





──コンコン


果林「彼方、今いい?」


返事がない。


果林「……入るわよ」


でも、話すしかないから。

私が部屋の中へ入ると──そこは本当に誰もいなかった。

今は深夜だ。外出しているとは考えにくいのだけど……。


果林「どこに行ったのかしら……?」


そんな風に言葉を漏らした、まさにそのときだった──

──『緊急事態発生。緊急事態発生。』──

施設内にアラートが鳴りだした。


果林「な、なに……!?」


──『何者かが、ウルトラスペースシップを占拠し、発進しようとしています』


果林「……!」


今この場でそんなことをする理由がある人間なんて、数えるほどしかいない。

加えて、もぬけの殻になった彼方の自室……そんなのもう……!
570 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:54:09.62 ID:Sh64zN700

果林「彼方……!!」


私は離発着ドックへと走り出した。





    👠    👠    👠





離発着ドックに着くと、職員が数人倒れていた。

ほとんど気絶していたけど、


職員「ぅ……」


まだ、意識のある職員がいた。


果林「何があったか教えて……!!」

職員「コノエ姉妹が……シップに乗り込んで……」

果林「遥ちゃんも……!?」


そんなことを言っている間に、目の前で一隻のウルトラスペースシップが──発進した。


果林「彼方……待って……!! ……くっ……!」


私は、もう一隻の方──愛が乗っていた半壊のウルトラスペースシップに乗り込む。

愛はちゃんと帰ってきたし、メインエンジンが壊れていたらしいけど、そこはすでに新しい物に換装されている。万全の機体ではないが、これでも追いかけることは出来るはず……!


果林「た、確か……ここにエネルギーを充填して……オートパイロット……行き先は……」


もし、この状況で向かうとしたら──もうここに戻ってくるのは想定していないはず。その上で、何もない世界に行っても、生きていくことなんて不可能。

なら──行き先は一つ。……私たちが滅ぼそうとしている……たった一つだけ見つけることが出来た、文明のある世界。

私はそこにオートパイロットを合わせる。

発進シークエンスに入ると同時に、通信が入る。


果林「今、忙しいの!! 後にして!!」

 『──果林か』

果林「……!」


通信相手は実行部隊の司令。私が彼方を説得すると、そう宣言した相手だった。


司令『彼方のやっていることが、どういうことか……わかるな?』

果林「……それは理解してます……でも、私が必ず説得します。説得して連れ帰ります……だから……!」

司令『わかった。連れ帰れたときは……君に免じて今回は不問にしても構わない。……だが、もし連れ帰れないときはどうする?』

果林「…………」


彼方たちがやっていることは──恐らく亡命だ。

亡命先で私たちの世界がやろうとしていることを知らされる。そんなことになったら、私たちの世界は……。

そういう意味での問い。もうこの時点で裏切り者の烙印を押されてもおかしくない中で、最後の最後の譲歩をされている。

だから、もしそれが出来なかったときは──
571 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:54:46.12 ID:Sh64zN700

果林「……私が……撃墜します……」


……私が、手を……下すしか……ない。





    👠    👠    👠





果林「…………なんで…………なんでよ……。……彼方……」


なんで、そんな道を選ぶのよ……。

なんで……。


果林「私を……置いていくの……」


ウルトラスペースシップは……倉庫部がない分、軽いからかむしろ通常よりもスピードが出ていた。

航行を続けていると──前方に彼方たちの乗っているシップが見えてきた。

私は通信を飛ばす。


果林「彼方っ!! 聞こえる!?」


私が問いかけると、


彼方『か、果林ちゃん……』

遥『果林さん……』

果林「止まって、二人とも!! お願いだから……!! もしここで止まってくれたら不問にするって、約束もしてもらった、だから、お願い……!!」

彼方『……でも、不問にして……計画に加担しろって、ことだよね……?』

果林「……彼方っ!! お願い、言うことを聞いて……!! 貴方を……失いたくないの……!!」

彼方『…………果林ちゃん』

果林「……知らない誰かの命よりも──私は貴方が大事なの……!! だから……っ!!」


私の言葉に対して──


彼方『…………わたしね、果林ちゃんに初めて会ったとき──ちょっと怖い子だなって思ったんだ……』

果林「……え……?」


彼方は突然、そんなことを言いだした。


彼方『……それは……果林ちゃんがそのときのわたしにとって……“知らない誰か”だったからなんだと思う……』

果林「…………」

彼方『でも……でもね……。……あのとき、果林ちゃんに会えて……よかったって、思うの……。……“知らない誰か”が、“大切な人”になったから、そう思うの……』

果林「かな……た……っ……」

彼方『……だから……“知らない誰か”が……いつかの自分にとって“大切な人”かもしれないって……思っちゃうんだ……。……だから、わたしは……戻れない……』

果林「…………っ……かなた……っ」

彼方『──……ごめんね、果林ちゃん』


その謝罪は──決別の言葉だった。
572 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:55:33.67 ID:Sh64zN700

果林「…………っ…………ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! フェローチェッ!!!」

 『──フェロッ!!!!』


ウルトラビーストは、ウルトラスペース内でも活動出来る。

シップのボール射出機能で外に出したフェローチェが、彼方たちのシップに取り付く。


果林「“むしのさざめき”ッ!!!」

 「──フェロォォォォォッ!!!!!!」

彼方『っ゛ぅ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?』

遥『ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!?』


もし、ここで彼方たちを逃がしたら──だから、私はもう選ぶしかなかった。


果林「フェローチェ……ッ!! やりなさい……ッ!!」

 『…フェロッ!!!』


音を遥かに凌駕するスピードで振り下ろされるフェローチェの脚が、彼方たちの乗っているウルトラスペースシップを……真っ二つに、両断した。

シップはそのまま……バラバラになって、ウルトラスペース内に消えていった。

私は……両手で顔を押さえる。


果林「なんで…………なんで…………こう、なっちゃうの…………なんで…………っ」


私は……どうして、大切な人を……自分の手で……。

なんで、どうして……どう……して……。





    👠    👠    👠





──私は……本当はどうすればよかったんだろう。

わからない。……わからない。

だけど、一つわかることがある。

……起こってしまったことは、もう戻らない。……だから私は……もう、戻れない。

私は──


果林「私は……私の世界を救うんだ……」


もう、進むしかない。





    👠    👠    👠





果林「……愛、入るわよ」


軟禁中の愛の部屋に押し入る。
573 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:56:15.60 ID:Sh64zN700

愛「……や、カリン。来ると思ってたよ」


愛は随分と余裕そうな表情をしていた。


果林「もっと落ち込んでると思ってたわ……」

愛「アタシもカリンはもっと落ち込んでると思ってた。……聞いたよ、カナちゃんの乗ったシップ……カリンが撃墜したんだってね」

果林「…………」


私は愛の首にチョーカーを着ける。


果林「……愛……私に協力しなさい……」

愛「…………ああ、これが首輪ってわけか。逆らったときは電撃? それとも、首でも飛ぶ?」

果林「電撃よ……。死なれたら困るわ……貴方には、やってもらわないといけないことがたくさんあるからね……」

愛「アタシがこんなおもちゃで言うこと聞くと思ってんの?」


私は、手に持ったリモコンのスイッチを入れる。


愛「っ゛、ぁ゛!!?」


愛に着けた首輪に電流が流れ、愛を痺れさせる。


果林「……もう一度言うわ、愛。私に協力しなさい……」

愛「……っ゛……。……まあまあ、カリン……そう、焦んないでよ……」

果林「…………」

愛「……言うこと聞くつもりはないんだけどさ……協力はしてやってもいいよ……」

果林「……は?」

愛「……その代わり……カリンもアタシに協力してよ……」

果林「……この状況で交渉しようって言うの?」

愛「どっちにしろ、アタシの頭が必要なんでしょ? いーよ、アタシの頭脳でよければ貸してあげるよ。ただ──アタシにもやりたいことが出来たから、それはやらせてもらう」

果林「…………」

愛「どーせこのおもちゃに発信機も付いてんでしょ? カリンの監視範囲内でアタシはアタシのやりたいことをやる。アタシはカリンの求める知恵と技術を提供する。それでお互いWin-Winっしょ?」

果林「……わかったわ」

愛「交渉成立だね〜♪ これからはカリンの駒として、せっせと働いてあげるよ」

果林「……信用してるわ、愛」

愛「へいへい、任せろ〜」


愛は何やら企んでいるようだけど……私の目的を邪魔するつもりがないならいい。

私は愛と協定を結んだ。





    👠    👠    👠





──私たちのチームは、璃奈ちゃんと彼方がいなくなり、愛が事実上の除名。副隊長候補だった遥ちゃんも居なくなったため……新しく入る姫乃という女の子を“MOON”に据え、二人──プラス愛──で動かすことになった。
574 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:56:55.61 ID:Sh64zN700

姫乃「──よ、よろしくお願いします!」

果林「よろしく、姫乃」

姫乃「あ、あの……」

果林「何かしら?」

姫乃「私、果林さんにずっと憧れていたんです……それで、組織に入っていつか一緒に働ければと思っていて……」

果林「そうだったの……ありがとう」

姫乃「果林さんも……“闇の落日”でご家族を失ったと聞きました……。……実は私も……それで孤児になって……」

果林「……大変な思いをしたのね……」

姫乃「いえ……それでも果林さんは世界を救うために、戦っていると聞いて……私も果林さんのお力になりたいと……ずっと思っていました……」

果林「……そう思ってくれて、嬉しいわ……」


この子はきっと──愛や璃奈ちゃんや彼方とは違う……。

大切な何かを選ぶためなら……優先順位の低い物を切り捨てられる子……直感で、そんな気がした。

きっと──この子は使える。信頼を得ておいた方がいい。

信頼を得るには……自己開示かしらね。


果林「……姫乃」

姫乃「な、なんでしょうか」

果林「これから一緒に戦う仲間だから……貴方には、私が……あの夜に見たものを、先に……話しておこうと思って……」

姫乃「か、果林さん……は、はい……」


私はもう……日和らない……。

世界を……私の守るべき世界を……救う。

そのために手段なんか……選ばない……。





    👠    👠    👠





──姫乃は優秀だった。

研究班として入ってきたが、もともと戦闘の腕もそこそこ立つ子だったし、二人体制になったことを知った瞬間、すぐに戦闘訓練に熱心に取り組み始め、あっという間に実行部隊のトップ2になった。

私たちはすぐにでも計画を実行したかったけど──問題があった。

それは、あの時点で“MOON”であった彼方が、コスモッグを持ち逃げしていたことだった。シップを撃墜した際に、落ちてしまったコスモッグを回収しないと、エンジンエネルギーの充填の問題でウルトラスペース内を自由に行き来しづらくなる。

そこで愛がコスモッグの持つエネルギーを探知する装置を作り出し──コスモッグを探すことになり、この作戦は星の子に準えて、コードネーム“STAR”と名付けられた。

そして、肝心の“STAR”の行き先は──


愛「……ああ、これ……アタシたちが滅ぼそうとしてる世界だね」


とのことだった。


果林「なら丁度いいわね……。確か、世界そのものに穴をあけるためには、ウルトラビーストをその世界に呼び込んで、大量のウルトラホールをあければいい……って話だったわよね?」

愛「そうそう。ただ、そのためにあっちこっちの世界からウルトラビーストを探すための航行エネルギーが必要だかんね。コスモッグは2匹欲しいってわけ」
575 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:57:43.90 ID:Sh64zN700

「別に地道に待っても3〜4年くらい待てば不自由ないくらい集まる気はするけどね〜」と付け加えながら。

──しかし、とある問題が起こった。

それは──


愛「……んー……“STAR”の反応……消えたね……」


目的の世界に来たときには、“STAR”の反応が消えてしまっていたということだ。

──痕跡はあったから、間違いなくこの世界にはいるはず……とのことだったけど……。

こっちの世界に来てからすぐに、フェローチェの毒を使い、モデル事務所をコントロールして資金を集めながら……私たちは“STAR”を探していた。

……そんなあるとき──偶然訪れた、コメコシティでのことだった。


果林「……のどかな町ね……」


右を見ても、左を見ても、大きな建物がないけど……とにかく牧場が広い。

このゆったりした空気は、私の故郷に似ている気がして、居心地がいい気がした。

そのとき、ふと──


果林「……え……?」


視界の先に、彼女は、居た。

オレンジブラウンのロングヘアーに、トロンと垂れた眠そうな瞳。見間違えるはずがない。

私が苦楽を共にした家族……。


果林「……彼方……」


彼方が前方から歩いてきていた。


果林「彼方……っ……!」


あのとき、私が手に掛けてしまったと思っていたけど……生きていたんだ。

私は感情が抑えきれず、彼方に向かって駆けだしていた。


彼方「……あ!」


彼方も私に気付いたように、駆けてくる。

どんどん近付き、私は彼方を抱きしめようとした──のに、


彼方「花陽ちゃーん! 今日もしかして、新米入ったの〜?」

花陽「あ、彼方さん! はい、今日は新米が入りました! やっぱり、お米は新米だよね!」


彼方は──私に気付かず、私の横を……すり抜けていった。

──彼方は、私を……覚えていなかった。


果林「………………」
576 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:58:48.24 ID:Sh64zN700

──そっか……。……シップごと……墜落したんだもの。

記憶がなくなっているくらいのことはあっても、なんらおかしくない。

だけど……。

このとき私は、思ってしまった。

──噫、私は……彼方にとって、忘れられる存在だったんだ、と。

忘れても……大丈夫な存在だったんだと……。

思ってしまった。


果林「……ふふ。……そっか」


そのとき──私の心の中で、大切にしまっていた何かが……壊れてしまった気がした。

このときを最後に、私はもう……本当に自分で自分を止めることが……出来なくなってしまった気がした。


──
────
──────
────────



私には……もう味方なんて、いらない……。

私はただ……自分の大切なものを守るために……選ぶだけ。

ただ、そのために……戦うことを選んだから。


果林「全部……壊してあげる……」


私は眼下の侑と歩夢を、自分の邪魔をする全てのものを……排除する。



577 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 13:00:32.66 ID:Sh64zN700

    🍞    🍞    🍞





彼方「……彼方ちゃんが覚えてるのは……シップが撃墜された、その瞬間まで……。……その後、コメコに“Fall”として落ちてきて……エマちゃんに助けてもらった後はエマちゃんも知ってるとおりかな」

エマ「……そっか」

彼方「聞いてみて……どう……思った? ……きっとね……果林ちゃんをあそこまで極端にさせちゃった原因は……わたしにあると思うんだ」

遥「お姉ちゃん……」


彼方ちゃんはそう言って声を沈ませるけど……。


エマ「……違うよ」


わたしはそうは思わなかった。


エマ「彼方ちゃんの優しさも……果林ちゃんの優しさも……どっちも間違ってなんかないよ。お互いの優しさが……ボタンの掛け違いみたいになっちゃっただけ……」

彼方「エマちゃん……」

エマ「今でもきっと……果林ちゃんの心のどこかに、彼方ちゃんと仲直りしたいって気持ち……きっとあると思う。前みたいに、家族に戻りたいって気持ち、あると思う」

彼方「……うん」

エマ「優しさがすれ違ったままなんて……悲しすぎるよ……。でも……果林ちゃんはもう自分の力じゃ止まれない……だから、誰かが止めてあげないと……」


大切な家族同士が……こんな形で争うなんて、悲しすぎるから。


エマ「だから、行こう……! 果林ちゃんを止めに……!」



578 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 13:01:01.92 ID:Sh64zN700

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 エマ
 手持ち ゴーゴート♂ Lv.40 特性:くさのけがわ 性格:むじゃき 個性:ねばりづよい
      パルスワン♂ Lv.43 特性:がんじょうあご 性格:ゆうかん 個性:かけっこがすき
      ガルーラ♀ Lv.44 特性:きもったま 性格:おっとり 個性:のんびりするのがすき
      ミルタンク♀ Lv.41 特性:そうしょく 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      ママンボウ♀ Lv.40 特性:いやしのこころ 性格:ひかえめ 個性:とてもきちょうめん
      エルフーン♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 1個 図鑑 未所持

 主人公 彼方
 手持ち バイウールー♂ Lv.79 特性:ぼうだん 性格:のんてんき 個性:ひるねをよくする
      ネッコアラ♂ Lv.77 特性:ぜったいねむり 性格:ゆうかん 個性:ひるねをよくする
      ムシャーナ♀ Lv.78 特性:テレパシー 性格:おだやか 個性:ひるねをよくする
      パールル♀ Lv.76 特性:シェルアーマー 性格:おとなしい 個性:ひるねをよくする
      カビゴン♀ Lv.80 特性:あついしぼう 性格:わんぱく 個性:ひるねをよくする
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 エマと 彼方は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



579 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:05:50.39 ID:2N444K9g0

■Chapter068 『決戦! DiverDiva・果林!』 【SIDE Ayumu】





果林「──キュウコン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!!」


またしても、崖の上からこちらに向かって火炎が降ってくる。


歩夢「エースバーン! “かえんボール”!!」
 「──バーースッ!!!」


ボールから出したエースバーンが真上に向かって、火の玉を蹴り出し、キュウコンの炎と相殺させる中、


侑「フィオネ! “みずあそび”!」
 「フィオ〜♪」


フィオネが周囲に大量の水をばら撒き、私たちを包囲していた“ほのおのうず”を消火する。


侑「歩夢!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんが私の手を取り、走り出す。


果林「待ちなさい……!! “かなしばり”!!」
 「コーーンッ!!!」


果林さんは逃げ出す私たちの動きを止めようと、“かなしばり”を放ってくるけど、


侑「ニャスパー!! “マジックコート”!!」
 「──ニャーーッ!!!」

果林「ぐっ……!?」
 「コーーンッ…!!?」


侑ちゃんとニャスパーがそれを反射して、逆に果林さんたちの動きを止める。


リナ『侑さんナイス判断!』 || > ◡ < ||

侑「今のうちに一旦距離を取ろう……!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんに手を引かれながら、必死に足を動かしていると──


果林「ぐ……っ……ファイ、アロー……!! “ブレイブバード”……!!」

 「キィーーーーッ!!!!!!」


上空からファイアローが猛スピードで急襲してくる。


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」

 「キ、キィーーーッ!!!」


そのファイアローをウツロイドが相性的にかなり有効な、いわタイプの技で牽制する。

ファイアローは目にも止まらぬスピードで身を翻しながら、“パワージェム”を回避するけど、なかなか近寄れず空中を旋回し始める。


侑「そういえば、歩夢……そのポケモン……ウルトラビーストだよね……?」
580 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:06:30.08 ID:2N444K9g0

二人で逃げる中、侑ちゃんがウツロイドを見ながら、そう訊ねてきた。


歩夢「あ、うん、ウツロイドって言うんだよ」
 「──ジェルルップ」

リナ『ウツロイド きせいポケモン 高さ:1.2m 重さ:55.5kg
   謎に 包まれた UBの 一種。 ポケモンや 人間に 寄生し
   寄生された 生物が 暴れだす 姿が 目撃されている。 意思が
   あるかは 不明だが 時折 少女の ような 仕草を みせる。』

リナ『きせいポケモンって言われてるみたいだけど……平気なの……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「…………」


侑ちゃんとリナちゃんが少し不安げな表情をするけど──


歩夢「この子はそんな怖い子じゃないよ。ね、ウツロイド」
 「──ジェルルップ」


ウツロイドは私の言葉に答えるように、触手を持ち上げて返事をする。


歩夢「ウツロイドたちは怖いポケモンなんかじゃなくて……ちょっぴり“おくびょう”なだけなの……」
 「──ジェルルップ」


私は──しずくちゃんに崖から突き落とされたときのことを思い出しながら、侑ちゃんたちに説明を始めた。



──────
────
──


歩夢「──しずくちゃん……!! 絶対、絶対、侑ちゃんたちが助けに来てくれるから……!! だから──んぅっ、」


全身をウツロイドの触手に絡め取られ──私は一瞬で引き摺り込まれ、口元も視界も覆われて──目の前が真っ暗になった。

──このまま、毒を注入されちゃうのかな……そう思ったとき。


 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「…………?」


ウツロイドの触手は、私の身体をまさぐっているけど……なかなか毒を注入するような気配がない。

──もしかして……? 私がなんなのかを……確認してる……?


歩夢「…………」


全身をまさぐる触手が、私の手の平に触れたとき──思い切って、優しく握ってみると……。


 「──ジェルルップ」


ウツロイドは鳴き声をあげながら、私の手に触手を巻き付けてくる。

反応してる……──返事……してる……?

しずくちゃんはウツロイドには強力な神経毒があって危険と言っていたけど……ウツロイドは崖上から私たちが見ていても、近寄ってきて攻撃するようなことはなかった。


歩夢「………………」


もしかして──この子たちが危険なウルトラビーストだって言うのは……毒にやられた人間が勝手に言っているだけなんじゃないか。

調査と称して、自分たちに突然近付いてきた人間に驚いて……毒で自分たちを守っているだけなんじゃ……。


歩夢「…………ん、むぅ……」
581 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:07:08.76 ID:2N444K9g0

刺激しすぎないように、僅かに口をもごもごと動かすと──


 「──ジェルップ…」


口を塞いでいた触手が少しだけ浮く。


歩夢「…………そっか……君たちは……本当は、怖かっただけなんだね……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「……ごめんね。……急に人が落ちてきたら……びっくりしちゃうよね。……攻撃されたのかなって思っちゃうよね……ごめんね……」
 「──ジェルル…」「──ベノメ…」「──ジェルルップル…」

歩夢「……大丈夫だよ。……私は君たちに怖いこと、したりしないから……」


ウツロイドの触手を優しく握って、頬に寄せる。


 「──ジェルルップ…」

歩夢「……ちょっとひんやりしてる……」
 「──ジェルル…」

歩夢「……うん。……大丈夫だよ、怖くない……私は君たちの味方だよ……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルルル…」


──
────


結局ウツロイドは、私に何もしなかった。

そのままゆっくりと洞窟の地面に、私を降ろしてくれた。


歩夢「ありがとう、ウツロイド」
 「──ジェルルップ…」


私は地面に横たわり、未だ視界を埋め尽くすウツロイドたちを見ながら考える。

……恐らくこの後、毒で動けなくなるはずの私を、しずくちゃんたちが回収しにくるはず……。

なら、そのときを見計らって脱出を──そこまで考えて、首を振る。


歩夢「……だ、ダメ……それじゃ、しずくちゃんが果林さんに何されるか……」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「あ、ご、ごめんね……ちょっと考えごとしてて……」


私が首を振る動作でウツロイドを少し驚かせてしまったようだ。

もう一度、優しくウツロイドの触手を握って頬を寄せる。


 「──ジェルル…」


すると、私が今接しているウツロイドが、私の頭にすっぽりと覆うように、頭に取り付いてくる。


歩夢「……その場所が落ち着くの?」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「ふふ、わかった」
 「──ジェルル…」


ウツロイドも落ち着いたようだから、また考え始める。

……それにしても、こんな風に頭をすっぽり覆われた状態で、横たわっていたら……見た人は絶対、私が寄生されたって勘違いするよね……。


歩夢「……あ……」
582 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:08:26.76 ID:2N444K9g0

そうだ……勘違いしてもらえばいいんだ……。

もともと、寄生されている状況を狙っているわけだし……。


歩夢「……ウツロイド、しばらくの間……私の頭にくっついたままでいてもらってもいい?」
 「──ジェルルップ…」


どちらにしろ……私はこの洞窟から逃げる術もない……。

脱出の機会を伺うために、私は一旦寄生されたフリをすることにした。


──
────


ウツロイドたちの中で、横になったままじっとしていたら……気付けば眠ってしまっていた。

これだけ密集している状態は暑そうに思えるけど……ウツロイドの体はひんやりとしていて、なんだか心地よくて……。

我ながら能天気かも……と思いながら、寝起きのぼんやりとした頭のまま、引き続きその場で倒れたフリをしていると──


しずく「──……歩夢さん……」


しずくちゃんの声が近くで聞こえてきて──直後、抱き起される。


しずく「……歩夢さん……可哀想に……」


そのまま、しずくちゃんが私に頬を寄せて抱きしめてくる。

正直、肝が冷えた。寄生されているフリをしていることがバレないようにと、必死に息を殺していた、そのときだった──


しずく「──…………そのまま、寄生されたフリを続けてください」

歩夢「……!」


私の耳元で、私にしか聞こえないような小さな囁き声で、しずくちゃんが話しかけてきた。


しずく「…………絶対に、歩夢さんが逃げるタイミングを作り出します……それまで、私が歩夢さんと歩夢さんの大切なものはお守りします……ですので、どうかそのときが来るまで……耐えてください」

歩夢「…………」


──しずくちゃんはフェローチェに操られてなんかいない。その言葉だけで十分に理解出来た。

私はしずくちゃんの言葉に無言で肯定の意を示した。


──
────
──────



歩夢「──……だから、ウツロイドは私を助けてくれたお友達なんだよ」
 「──ジェルルップ…」


私の言葉を受けて、


リナ『……確かに、ウツロイドの神経毒には、宿主にウツロイド自身を守らせように心理誘導する作用が含まれてるらしい。強力な毒はあくまで外敵から身を守る手段でしかないというのは、歩夢さんの考えてるとおりなのかも』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがそう補足してくれる。
583 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:09:03.22 ID:2N444K9g0

侑「とにかく、信用出来る歩夢の友達ってことだね!」

歩夢「うん!」

侑「歩夢がそう言うなら信じるよ! 一緒に戦って! ウツロイド!」

 「──ジェルルップ…」





    👠    👠    👠





果林「……く……! ……うご……きな、さい……!!」


全身に力を込めて、無理やり“かなしばり”を解除する。

崖の下に目を向けると──侑と歩夢から結構な距離を離されてしまっていた。

──果林、落ち着きなさい。

心の中で自分に落ち着くように促す。

あんな初歩的な反射技に引っ掛かるなんて、さすがに頭に血が上り過ぎている。

一度深く息を吸ってから──ピューイッ! と指笛を吹いて、ファイアローを呼び戻す。


 「キィーーーーッ!!!」


ファイアローがこちらに向かって切り返してきたのを確認して──私は崖から飛び降りた。


 「キィーーーーッ!!!!」


落下しながら、私を拾いに来たファイアローの脚を掴み──逃げた二人を追いかけて飛行を開始する。


果林「キュウコン、付いてきなさい!」

 「コーーーンッ!!!!」


指示を聞いて、崖を駆け下りるキュウコンと共に、私は猛スピードで追跡を始めた。





    🎹    🎹    🎹





侑「はぁ……はぁ……! ここまでくれば……!」

歩夢「はぁ……はぁ……う、うん……!」

リナ『距離は十分に取れた!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


──高所から一方的に攻撃されるのを避けるために、それなりに距離を離した。

でも、振り返ると──ファイアローに掴まった果林さんが猛スピードで追い付いてきているところだった。


リナ『もう、追い付いてきた……!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「ファイアロー!! “だいもんじ”!!」
 「キーーーーッ!!!!」


ファイアローが口から特大の炎を噴出する。
584 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:09:38.08 ID:2N444K9g0

侑「く……! フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!!」


“ハイドロポンプ”を発射し、“だいもんじ”を相殺しようとするけど──ジュウウウッと音を立てながら、水がどんどん蒸発していく。

それに加えて──


 「──コーーーンッ!!!!」


地面を駆けながら追い付いてきたキュウコンも加勢の“だいもんじ”を発射してくる。

──2匹分の“だいもんじ”を受けきるのは無理……!?

そう思った瞬間、


歩夢「トドゼルガ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「──ゼルガッ!!!」


キュウコンの火炎に対して、歩夢のトドゼルガが“ハイドロポンプ”で対抗する。

が、


歩夢「と、トドゼルガ、頑張って!」
 「ゼルガァァァァ!!!!!」


トドゼルガの水流はキュウコンの火炎に押され始める。

いや、歩夢だけじゃない。


 「フィーーーーーッ!!!!!」


私たちもファイアローの炎に負けそうになっている。


侑「く……イーブイ!! “どばどばオーラ”!!」
 「イーーブィッ!!!!」


肩の上から飛び跳ねたイーブイが周囲に相手の特殊攻撃を半減するオーラを発生させ──それでやっと拮抗し始める。


侑「これなら……!!」


──防ぎきれると思った瞬間、


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「……!?」


ファイアローが自身で出した炎を突っ切り、“ハイドロポンプ”を掠めるように躱しながら、突っ込んできた。


果林「──“フレアドライブ”!!」
 「キィーーーーッ!!!!」

侑「くっ!? “ブレイククロー”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!」


咄嗟にウォーグルへ指示。ウォーグルが大きな猛禽の爪を薙ぐが──ウォーグルの爪を掠めるように、ファイアローが宙返りで回避する。


 「ウォーグッ!!!?」


爪を空振り驚くウォーグル。しかも──その宙返りをしているファイアローの脚に、果林さんの姿がなかった。

直後──ズサァッと音を立てながら、私のすぐ横を果林さんが滑り抜けていく。


侑「な……!?」
585 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:10:32.87 ID:2N444K9g0

ファイアローが宙返りをする瞬間に手を離して、その勢いのまま私の背後に回り込みながら、


果林「“つばめがえし”!!」

 「キィーーーーーッ!!!!」

 「ウォーーーグッ…!!!?」
侑「ウォーグルっ!?」


炎を身に纏ったまま、切り返してきたファイアローがウォーグルに突撃し、さらに──


果林「バンギラス!! “じしん”!!」
 「──バンギッ!!!」


背後でボールから飛び出したバンギラスが、“じしん”によって大地を激しく揺らす。


侑「うわぁ……!?」


あまりの激しい揺れに立っていることもままならず、私は尻餅をつかされ、


歩夢「きゃぁっ……!?」


背後で歩夢も転倒し、二人で背中合わせで蹲ったまま動けなくなってしまう。

バランスを崩したのは私たちトレーナーだけでなく、


 「ゼルガァ…ッ」
歩夢「と、トドゼルガ……!!」


キュウコンと攻撃を撃ち合っていたトドゼルガも例外ではなく、大きな揺れで狙いが逸れてしまったのか、消火しきれなくなった“だいもんじ”が迫ってくる。

だけど、トドゼルガは──


 「ゼルガァッ!!!!」


むしろ自分から盾になるように“だいもんじ”突っ込んでいく。


歩夢「トドゼルガ!?」
 「ゼルガァァァ!!!!」


私たちに攻撃が届かないように、特性“あついしぼう”で炎を受け止めながら冷気を発して対抗する。

ただ、その間にも、


リナ『侑さん!! 攻撃が来るよ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……!?」


果林さんは待ってなどくれない。


果林「“ばかぢから”!!」
 「バンギィッ!!!!」


バンギラスが両腕を振り上げ、蹲る私たちに向かって──力任せに振り下ろしてくる。


侑「歩夢ッ……!!」

歩夢「きゃっ!?」


揺れる大地で満足に動けないながら、私は背後の歩夢に跳び付くようにして、その場から離脱しようとする。

どうにか振り下ろされる腕そのものは回避できたけど──バンギラスのパワーで、大地が割れ砕け、その衝撃で、
586 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:11:09.86 ID:2N444K9g0

侑「っ゛……!!」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!!」


歩夢ともども吹き飛ばされる。


歩夢「ふ、フラージェス!! “グラスフィールド”!!」
 「──ラージェス」


歩夢が咄嗟にフラージェスに“グラスフィールド”を指示し、私たちは敷き詰められた草の絨毯の上を転がる。


侑「つぅ……っ……」

歩夢「侑ちゃん、平気……!?」

侑「お、お陰様で……みんなは……?」
 「ブ、ブィ…」「ニャー…」「フィー…」

 「バース…」「──ジェルルップ…」


イーブイ、ニャスパー、フィオネ、エースバーンもどうにか無事。ウツロイドは浮遊して逃げていたらしく、歩夢のそばにふわふわと降りてくる。

ただ、


 「ウォ、ウォーグ…」


先ほどのファイアローの攻撃ですでに戦闘不能になっていたウォーグルと、


 「ゼルガァァァ…!!!」


私たちの盾になって、“あついしぼう”でどうにか炎を受けきったトドゼルガは、体力が限界だったのか、その場に崩れ落ちる。


歩夢「戻って、トドゼルガ……!」
 「ゼルガ──」

侑「戻れ、ウォーグル……!」
 「ウォーグ──」

リナ『侑さんっ!! 歩夢さんっ!! また来てる!?』 || ? ᆷ ! ||

 「キィーーーーッ!!!!!」

 「コーーーンッ!!!」

侑「っ……!?」

歩夢「……!!」


──本当に息つく暇がない……!


侑「ニャスパー!! サイコパワー全開!!」
 「ウニャーーッ!!!」

 「キィッ…!!!」


ニャスパーのサイコパワーを全開にし、発生した念動力の衝撃波をファイアローに向けて発射すると、ファイアローは押し返されるようにして、後ろに逃げていく。

そして、飛び掛かってくるキュウコンは、


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルップ」

 「コーーンッ…!!!?」


歩夢のウツロイドが迎撃して吹き飛ばす。


 「…コーーーンッ…!!!」
587 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:12:00.02 ID:2N444K9g0

それでもキュウコンは、全身の毛を逆立てながらすぐに立ち上がる。


リナ『“じしん”のダメージもあるはずなのに、すごいタフ……』 || > _ <𝅝||

侑「……歩夢、立てる……?」

歩夢「う、うん……!」


歩夢の手を取りながら、私たちは立ち上がるけど──


 「コーンッ!!!!」

 「キィーーーッ!!!!」

 「バンギィッ…!!!」


気付けば、あっという間に三方向から敵に囲まれてしまっていた。

さらに、ダメ押しとばかりに──果林さんの胸にあるネックレスが光を放つ。


果林「バンギラス、メガシンカ」
 「バンギラァァスッ!!!!!!」


バンギラスが光に包まれ──頭の角や、両肩、尻尾のトゲがより攻撃的に鋭く伸び、岩の鎧が全身を覆い、より攻守に優れた姿へとメガシンカする。

そして、それと同時に、周囲が激しい“すなあらし”に包まれる。


果林「……二人掛かりでなら勝てるとでも思ったのかしら?」

侑「く……」

果林「大人しくしていれば、痛い目に遭うこともなかったのにね……」


完全に果林さんの強さに圧倒されてしまっている。

どうにか態勢を立て直さないと……!

そのとき──歩夢がギュッと私の手を握ってくる。


侑「……!」

歩夢「侑ちゃん、落ち着いて」


そうだ……落ち着け。

焦ったまま戦っちゃダメだ……。

──果林さんのやろうとしていることを、冷静に考えてみるんだ……。

果林さんが積極的にやっていること、それは──包囲だ。

攻撃やポケモンを配置することによって、相手を包囲することを優先した戦い方をしている気がする。

理由は恐らく──歩夢だ。

果林さんにとって今一番困るのは、私が歩夢を連れて逃げ去ること。

果林さんの計画のために、現状最も重要なピースになっているのが歩夢だからだ。

なら今すべきことは包囲網を崩すこと──


侑「歩夢……バンギラス相手に時間、稼げる?」

歩夢「ちょっとなら……!」

侑「わかった、任せる……!」

歩夢「うん!」
588 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:12:42.87 ID:2N444K9g0

私は──キュウコンに向かって走り出す。

今包囲網を抜ける方法があるとしたら──狙うべきは手負いのキュウコンから……!!


果林「バンギラス!!」
 「バァンギッ!!!!」


もちろん、果林さんも簡単にそれをさせないように動くはず。


歩夢「ウツロイド!! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」


動き出そうとするメガバンギラスに向かって、ウツロイドが攻撃を放つけど──宝石のエネルギー弾は、“すなあらし”に阻まれてほとんどが掻き消えてしまう。


果林「効かないわよ、そんな攻撃じゃ……!」
 「バァンギッ!!!」


そこに向かって──歩夢が他の手持ちのボールを放つ。


果林「“ストーンエッジ”!!」
 「バァンギッ!!!!」


歩夢のポケモンがボールから飛び出すと同時に、そこに鋭い岩が突き出てくるけど──岩が貫いた場所からは、ベシャッと粘性の高い音が鳴る。


果林「……!?」

歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイップッ!!!」


“とける”で攻撃を防いだマホイップが相性の良いフェアリー技を激しく閃光させる。


 「バァンギッ…!?」
果林「く……!?」

歩夢「フラージェス! “ムーンフォース”!!」
 「ラージェス!!!」

 「バンギッ…!!」


フェアリー技で畳みかけ、


歩夢「エースバーン!! “とびひざげり”!!」
 「バーーーースッ!!!!」

 「バンギッ…!!?」


エースバーンが怯んだメガバンギラスの頭部を蹴り飛ばす。

効果抜群の相性で有利な展開を取ったように見えたが、


 「バンギッ!!!!」


バンギラスは根性で仰け反った体を戻しながら、エースバーンに“ずつき”をかまして反撃する。


 「バーーースッ…!!!?」


反動の乗った反撃にエースバーンの体が宙を舞う。


歩夢「え、エースバーン!? 戻って!!」


歩夢がエースバーンをボールに戻す。無傷とはいかなかったけど──隙は十分作ってくれた……!!
589 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:13:13.02 ID:2N444K9g0

侑「フィオネ、“みずあそび”! イーブイ、“いきいきバブル”!」
 「フィーーーッ」「ブーーイィッ!!!」


フィオネが周囲に水をまき散らし、イーブイが周囲に泡を展開させる。


 「コーーーンッ!!!!」


それによって、キュウコンの“だいもんじ”の威力を軽減しつつ──


侑「ドラパルト!! “ドラゴンアロー”!!」
 「──パルトッ!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」「メシヤーーーッ!!!!!」


ドラパルトをボールから繰り出すと共に、音速で発射されたドラメシヤたちが、威力の下がった“だいもんじ”を突っ切り──


 「コーーンッ…!!!?」


火炎の向こうであがるキュウコンの鳴き声が、“ドラゴンアロー”の直撃を知らせてくれる。

よし……!

そして、


 「キィーーーッ!!!!」

侑「ニャスパー! パワー全開!! “サイコキネシス”!!」
 「ウニャーーーッ!!!」


横から迫ってくるファイアローをサイコパワーで牽制する。


 「キ、キィーーーッ!!!!」


またしても、ファイアローはサイコパワーの風を前にすると、後ろに退避していく。

やっぱりそうだ……! ファイアローはさっきから、攻撃を避けることを優先していた。

最初からファイアローは包囲網の維持を優先するように指示を受けているということだ。

メガバンギラスとファイアローを牽制し、キュウコンを撃退した。


侑「ドラパルト! “ハイドロポンプ”!!」
 「パルトォーーーッ!!!!」


私は威力の弱まった“だいもんじ”にダメ押しの水流をぶつけて消火し、道を作りながら、


侑「歩夢!! こっち!!」


歩夢を呼び寄せる。


歩夢「うん!」


歩夢は頷きながら踵を返して、私の方へと走り出す。

が、それと同時に、


果林「バンギラス!! “いわなだれ”!!」
 「バンギィッ!!!」


態勢を立て直したメガバンギラスが“いわなだれ”を発生させ、それが歩夢に迫る。


侑「ニャスパーッ!! “テレキネシス”!!」
 「ウニャ---ッ!!!」
590 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:13:54.01 ID:2N444K9g0

すぐさま、ニャスパーでサポートするけど──岩の量が多すぎて、全ての岩を浮遊させきれない。


侑「ドラパルト!! “りゅうのいぶき”!!」
 「パルトォーーーーッ!!!」


ドラパルトが少し上に浮遊しながら撃ち下ろす形で、歩夢の背後の岩をピンポイントで吹き飛ばし──私は歩夢に向かって両手を広げる。


侑「歩夢!! 跳んで!!」

歩夢「侑ちゃん……!!」


歩夢が岩に巻き込まれる寸前で踏み切って、私の胸に飛び込んでくる。

歩夢を抱き留めた瞬間──地面から巨大な樹が生えてきて、“いわなだれ”を塞き止めた。


侑「はぁ……せ、セーフ……」
 「イッブィ!!」

歩夢「この樹……“すくすくボンバー”……?」

侑「うん、そうだよ」


間一髪、仕込んでおいた“すくすくボンバー”で“いわなだれ”を凌ぎきったけど、またすぐに追撃が来るはずだ。


侑「歩夢、行こう!」

歩夢「うん!」


歩夢の手を引きながら再び走り出した瞬間──


リナ『侑さん! 上!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「上!?」

果林「──サザンドラ!! “りゅうせいぐん”!!」
 「サザンドーーーーラッ!!!!!」


サザンドラの背に乗った果林さんが指示を出すと──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いでくる。


歩夢「侑ちゃん! 下がって!!」


歩夢が一歩前に出て、


歩夢「マホイップ! “ミストフィールド”! フラージェス! “ムーンフォース”!」
 「マホイ〜〜」「ラージェスッ!!!」


マホイップがドラゴンタイプの攻撃を半減するフィールドを展開し、フラージェスが月のパワーを放出し、落ちてくる流星に向かって発射する。

“ムーンフォース”が直撃すると、流星はエネルギーを失い、バラバラの塵になって消滅する。

そもそも、フェアリータイプにはドラゴンタイプの攻撃は効果がないから、マホイップやフラージェスのパワーでも十分対抗出来ている。

なら私は──


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「後ろだ……!! “ドラゴンアロー”!!」
 「パルトッ!!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」

 「キィーーーーッ…!!!!?」

果林「……!」


後ろから急襲してきたファイアローを一点読みで撃ち落とし──
591 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:15:05.87 ID:2N444K9g0

 「メシヤーーーーッ!!!!」


もう1匹のドラメシヤはグンと軌道を変え、サザンドラに向かって突っ込んでいく。

が、


果林「“りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」

 「メ、メシヤーーーーッ!!!!!?」


そちらは攻撃失敗。迎撃されて、吹っ飛んできたドラメシヤをボールに戻し、他のドラメシヤをボールから出してドラパルトに装填する。


果林「……読まれた……?」


果林さんは戦闘不能になったファイアローに向かってボールを投げ、控えに戻しながら、怪訝な顔をする。

──包囲を優先する動きからして、サザンドラを見た瞬間、ファイアローは背後に回してくると思った。


果林「……ふふ、そういうこと……」


果林さんが含むように笑う。


果林「侑、貴方──ずっと、私の出方を伺ってたのね……」

侑「…………」

果林「考えてみれば当然よね……。意識を失った歩夢を助け出したとしても……フェローチェの速度からは逃げられないものね」


そう、そもそもフェローチェの速度からは、まともに逃げる術がない。

だからこの戦いは元から、最低限フェローチェは倒さないといけない戦いだった。


果林「わざわざこの決戦の地まで来たのに……弱すぎると思ったのよ」

侑「果林さんが戦闘中に意識してることは──包囲、行動阻害、死角からの攻撃ですよね」


そして、果林さんもフェローチェが居れば、最悪歩夢を奪われても打開出来ると考えていたということ。

私たちにとって、今一番まずいシチュエーションは──フェローチェに追跡されながら、他の手持ちに包囲され、一網打尽にされることだった。

だから、とにかくフェローチェを出してくるタイミングに注意しながら、果林さんが戦闘をどう組み立てるのかを伺っていたというわけだ。


果林「観察タイプのトレーナー……嫌な相手ね。なら、ここからは──観察させずに倒さないとね」


──腹を決める。

ここからが本番だ。


侑「ライボルト!! メガシンカ!!」
 「──ライボッ!!!」


ボールから出したライボルトが光に包まれると同時に──


果林「“とびひざげり”!!」
 「──フェロ…ッ!!!!」


一瞬で目の前に現れたフェローチェの膝を、


侑「ライボルト!!」
 「ライボォッ!!!!」


ライボルトの目の前に黒い壁のようなものが飛び出して、攻撃を防いだ。
592 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:16:01.33 ID:2N444K9g0

果林「……!」


さあ、必殺技の解禁だ……!



──────
────
──


侑「──私の長所……ですか……?」

彼方「うん〜。わたしも果南ちゃんも、侑ちゃんの短所にばっかり言及しちゃってたからね〜。でも、短所に関しては、ここまでで十分補強できたから、ここからは長所をちゃんと理解してもらいたいなって思って」

侑「なるほど……。……それで、私の長所って……?」

彼方「前にも果南ちゃんがちょっと言ってたけど〜……侑ちゃんが得意なのは戦局の見極めだね〜。特にトレーナーが何をしようとしているのかを、見抜く力がある」

侑「確かに……前にダイヤさんからも似たようなことを言われました。トレーナーをよく見てるって……。……でも、それって結構基本的なことなんじゃ……」

彼方「確かに相手のやりたいことを考えて動くのは戦闘の基本だね〜。でも、それが出来るトレーナーって意外と少ないんだよ〜?」

侑「そう……なんですか……?」

彼方「バトル中って考えることがたくさんあるからね〜。果南ちゃんやかすみちゃんはあんまりそういう組み立て方はしてないだろうし〜……」


言われてみれば、あの二人は組み立てる戦いというよりも……自分たちの出来ることを無理やりにでも通すって戦い方かもしれない……。


彼方「そういう彼方ちゃんもそっちタイプではないし……千歌ちゃんとか穂乃果ちゃんも違うからな〜……。……強いていうなら、せつ菜ちゃんが一番侑ちゃんに近いかも」

侑「え……!?」


思わぬところで、憧れのトレーナーの名前が出てきて驚く。


侑「せ、せつ菜ちゃん……?」

彼方「せつ菜ちゃんは純粋に頭が良い子みたいだから、たくさんの戦術を知ってるし……相手のポケモンやトレーナーの癖を考えながら、バトルを組み立てるタイプ。理論派って言うのかな? もちろん、ポケモンの鍛え方もトップクラスだから、彼方ちゃんも相手にするのは気が重いんだけどね〜……」

侑「じ、じゃあ……私も長所を伸ばしていけば、せつ菜ちゃんみたいに……!」

彼方「ふふ、そうだね〜。でも、この考え方を実行するには、出来なくちゃいけないことがあるのです!」

侑「出来なくちゃいけないこと……?」

彼方「それは、いなしと防御だよ〜」

侑「いなしと……防御……?」

彼方「相手を観察する戦い方って、もともと戦ってる姿を見たことがある相手には最初から使えるけど……初めて戦う相手の場合、まず相手を観察しなくちゃいけないでしょ?」

侑「は、はい……それは確かに」

彼方「でも、戦いにおいて一番難しいのは、初めて見る攻撃を対処すること」

侑「なるほど……だから、いなしと防御が必要だと……」

彼方「そういうこと〜。ただ、侑ちゃんのポケモンは防御が得意なポケモンばっかりじゃないよね。うぅん、どっちかというと苦手な部類かな」

侑「……そうかもしれません」


私の手持ちで出来る防御手段というと、イーブイのいくつかの“相棒わざ”とニャスパーのサイコパワーくらいだ。


彼方「そこで考えるのがいなし。例えば真っすぐ飛んでくる拳は〜」


そう言いながら、彼方さんがこっちにゆっくり拳を向けてくる。
593 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:16:41.46 ID:2N444K9g0

彼方「真っすぐ拳をぶつけて相殺するより、上から叩いて攻撃を逸らす方が、少ないパワーで相手の攻撃を無力化できるよね?」

侑「はい」

彼方「じゃあ、これが炎だったらどうする〜?」

侑「えっと、水で消火するとか……?」

彼方「うんうん。他には岩で火を遮ったり、風で進路を逸らしたり。攻撃を無力化する方法って実はいろいろあるんだ。これをいかに無駄なく、瞬時に選べるか……それがいなしの技術ってわけ。それを侑ちゃんには習得して欲しいってわけだよ〜」

侑「なるほど」


どうやら私の長所は、相手の攻撃を防ぐ手段があってこそ真価を発揮するという話のようだ。

そんな中、ずっと話を黙って見ていたリナちゃんが、


リナ『でも、常に全部の攻撃をいなすのって難しくない?』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな疑問を彼方さんにぶつける。


彼方「そうだね〜。いなしが得意な人でも、全ての攻撃をいなすのは難しい。特に相手が速い場合や攻撃範囲が広い場合は、ほぼ無理かも。だから、いなしだけじゃなくて、どこかで防御も必要ってこと」

リナ『なるほど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「でも、私のポケモンじゃ、防御手段が……」

彼方「ふっふっふ……そこで彼方ちゃんの出番なわけですよ〜」

リナ『どういうこと?』 || ? ᇫ ? ||

彼方「何を隠そう、彼方ちゃんは防御戦術の達人なのだ〜。だから、これから侑ちゃんに新しい防御手段を授けよう〜」

侑「お、お願いします……!」


──
────
──────



黒い盾はフェローチェの蹴撃を弾く。


 「フェロ…!!!」


着地し、一旦距離を取ろうとするフェローチェに向かって、


侑「“でんげきは”!!」
 「ライボッ!!!」


高速で広がる電撃で攻撃する。


果林「フェローチェ!!」
 「フェロッ……!!!!」


果林さんの呼び掛けと共に──フェローチェが一瞬で、果林さんの傍まで離脱する。


リナ『本来“でんげきは”は必中クラスになるはずの高速技なのに……』 || > _ <𝅝||

侑「相手がそれだけ速いんだ……そこは割り切ろう」
 「ライボ…!!!」


それよりも──ちゃんと実戦で成功した。

この黒い盾が、彼方さんと編み出した、私の防御手段の切り札だ……!


果林「一体どうやってるのかしら──ね!!」

 「フェローーーッ!!!!!」
594 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:17:27.97 ID:2N444K9g0

今度はフェローチェが真上から“とびかかる”で降ってくるが、


 「ライボッ!!!」

 「フェロ…!!!」


黒い盾が真上に移動し、フェローチェを弾く。フェローチェはまたすぐに反撃を受けないように離脱し、


果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


サザンドラがライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を放ってくる。


歩夢「フラージェス!! “ムーンフォース”!!」
 「ラージェスッ!!!」


それを、フラージェスが“りゅうのはどう”を相殺する。

が、


 「バンギィッ!!!!」


メガバンギラスが前に飛び出し、ドラゴン技の防御に入っていたフラージェスを“アイアンヘッド”で叩き落とす。


 「ラージェスッ…!!?」
歩夢「フラージェス……!? も、戻って!!」


歩夢がフラージェスとボールに戻すのとほぼ同時に──


 「フェロッ」
歩夢「……!?」


歩夢の目の前にフェローチェが膝を引きながら、現れる。


 「ライボッ!!!」


そこに割り込むように飛び込んだライボルトが黒い盾で攻撃を防ぐ。


歩夢「ら、ライボルト……! ありがとう……!」


攻撃を防いだ瞬間、


果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


サザンドラが再びライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を発射してくる。


侑「ニャスパー!!」
 「ニャーーーッ!!」


そこにニャスパーが飛び込み、サイコパワーで“りゅうのはどう”をいなす。

が、いなした瞬間、


 「バンギィッ!!!」


またしても、メガバンギラスが防御したポケモン──今度はニャスパーを叩きに来る。
595 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:18:12.07 ID:2N444K9g0

侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーーッ!!!!」

 「バンギッ…!!!」


フィオネの“ハイドロポンプ”でメガバンギラスの腕を弾いて攻撃を中断させるが、


 「フェロッ!!!」

 「フィーーーッ!!!?」


フェローチェが標的を変え、フィオネを蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされたフィオネは、そのまま岩壁に叩きつけられる。


侑「フィオネっ!?」

 「フィ、フィー…」

侑「戻って!!」


ボールに戻す隙にも、


果林「“りゅうせいぐん”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」


次の攻撃が降ってくる。


歩夢「マホイップ! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイーーーーッ!!!」


マホイップが降ってくる流星を、フェアリータイプの“マジカルシャイン”で破壊するけど──


歩夢「きゃぁっ……!」


歩夢から少し離れた場所に消し損ねた流星が落ちてきて、その衝撃で地面が揺れ、歩夢が転倒する。

流星の数が多すぎる……!


侑「歩夢!! この数を捌ききるのは無理だ!! ニャスパー! こっち!!」
 「ウニャー」


私はニャスパーを呼び寄せながらライボルトにまたがり、稲妻のような速度で走り出しながら、歩夢に手を伸ばす。


侑「歩夢!!」

歩夢「うん……!」


すれ違いざまに歩夢の手を掴み、ライボルトの背中に引っ張り上げた。


侑「一旦退避を──」
 「フェロッ!!!」

侑「ッ!?」


走るライボルトの横にフェローチェが追い付いてきていた。

並走しながら、フェローチェの脚が迫る。


 「ライボッ!!!!」


──ゴッと音を立てながら、フェローチェの蹴りをギリギリで黒い盾がガードする。
596 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:18:59.20 ID:2N444K9g0

侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーイィッ!!!」

 「フェロッ…!!」


しかし、またしてもフェローチェはヒット&アウェイで攻撃を回避する。


侑「防げても攻撃が当てられない……っ」


純粋なスピードでは、メガライボルトよりもフェローチェの方が速いかもしれない。

どうにか防御で凌いで、攻撃をヒットさせたいんだけど……!

黒い盾を傍らに浮遊させながら、ライボルトが“りゅうせいぐん”の降りしきるフィールドを走り回る。


歩夢「……その黒い盾……もしかして、砂鉄……?」

リナ『歩夢さん、正解! よく気付いたね!』 || > ◡ < ||

歩夢「なんか、この黒い盾……近くにいると肌がピリピリするから……電磁力か何かで操ってるのかなって思って……」

侑「ほ、ホントによく気付いたね……」


そう、彼方さんと一緒に考えたこの黒い盾の正体は──砂鉄だ。

周囲のフィールドから砂鉄を集め、メガライボルトの超高出力の電磁力で制御、超圧縮し、頑強な壁を生成している。

メガバンギラスの起こす“すなあらし”のお陰で砂鉄の回収効率もかなりのものになっていて、意図せずこちらにとって好都合な環境になっている。


侑「ただ、でんきエネルギーのほとんどを防御に回しちゃうから、攻撃の出力が落ちちゃうんだ」

リナ『攻防両立とはなかなかいかない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「フェローチェは防御力が低いウルトラビーストらしいから……攻撃を当てさえすれば、ダメージにはなると思うんだけど……!」


一旦距離を取って、態勢を立て直そうとした、そのとき──急にグラグラと地面が大きく揺れ始め、


 「ライボッ…!!!?」
侑「いっ!?」

歩夢「えっ!?」

リナ『わーーーっ!?』 || ? ᆷ ! ||


これ“じならし”……!? 

メガバンギラスからの攻撃だと気付いた時には、ライボルトが転倒し、私たちの身体は宙に浮いていた。

しかもライボルトの走行速度が速度だけに、このまま地面に激突したらやばい……!?


侑「“テレキネシス”!?」
 「ニャァァッ!!!!」


すぐさま“テレキネシス”で落下による地面への激突は防ぐけど──


リナ『横の勢いが止まらない!?』 || ? ᆷ ! ||

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」


私と歩夢はそのまま、岩壁に激突しそうになった瞬間、


 「パルトッ!!!」


ジェット機のようなスピードで飛んできたドラパルトが間一髪のところで、私たちを頭で拾い上げるように乗せて救出する。

そして、ライボルトは──
597 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:19:36.76 ID:2N444K9g0

 「ライボッ!!!!」


“でんじふゆう”を壁に向かって使い激突を防ぐ。


侑「あ、ありがとう……ドラパルト……」
 「ブ、ブィ…」

歩夢「ぶ、ぶつかっちゃうところだった……」

リナ『間一髪……』 || > _ <𝅝||


ドラパルトは旋回をしながら、宙を舞うが──その進行方向に、


 「サザンッ!!!」


全身に黒いエネルギーを集束させた、サザンドラの姿。


侑「やばいっ!?」

果林「“あくのはどう”!!」
 「サザンドーーラッ!!!!」

 「パルトッ!!!?」
侑「ドラパルトッ……!?」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」


“あくのはどう”の直撃を受けて、私たちはドラパルトから振り落とされ──再び地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。


侑「ニャスパー!! もっかいっ!!」
 「ウニャーッ!!!」


今度はさっきと違って、重力による自由落下だけだから、“テレキネシス”だけで落下の衝撃を防げるけど──


 「ニャッ!!?」


そのとき突然ニャスパーがサイコパワーを全開にし──


侑「えっ!?」

歩夢「っ!!?」


周囲にいた私たちを吹っ飛ばす。

私は宙を舞いながら咄嗟に──


侑「歩夢ッ!!」


歩夢を抱き寄せ──地面の上を転がる。


侑「ぅ……ぐぅ……っ……!」

歩夢「ゆ、侑ちゃん……!」

侑「あゆ、む……無事……っ……?」

歩夢「わ、私は平気だけど……侑ちゃんが……!」

侑「へ、平気だよ……そんなに高い場所から落ちたわけじゃないから……」


全身の痛みに耐えながら立ち上がると──


 「フェロ…」
 「…ウニャ…」
598 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:20:28.46 ID:2N444K9g0

ニャスパーがフェローチェの“ふみつけ”を受けて、戦闘不能になっていた。

フェローチェの攻撃を察知して、咄嗟に私たちだけを吹き飛ばしたんだ……。

そして、目が合った瞬間、


 「フェロッ!!!!」


一瞬で肉薄してくるフェローチェ、


 「──ライボッ!!!!」


そこに割り込むように、ライボルトが防御する。


侑「“スパーク”!!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトが火花を散らせるが、


 「フェロッ」


やっぱりフェローチェには逃げられてしまう。さらにそこに──


果林「それ……物理の防御にしか使ってないわよね」

侑「!?」


上空からギクりとする言葉を掛けられる。

そう、砂鉄による防御はあくまで物理攻撃への防御手段。

特殊攻撃へは特筆出来るほどの防御にはならない。


果林「“かえんほうしゃ”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


しかも、ドラゴン技じゃないから、フェアリータイプで無効化出来ない……!?


歩夢「マホイップ!! イーブイに“デコレーション”!!」
 「マホイ〜〜!!」


そんな中、マホイップがイーブイに、クリームやリボンのあめざいくを“デコレーション”をし始める。


侑「……! イーブイ! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーィィィッ!!!!」


“デコレーション”は味方の攻撃能力を上昇させる技だ。

強化された炎を身に纏い、イーブイが真っ向から炎に突撃する。

“デコレーション”の効果もあって──こちらの炎の勢いが上回り、


 「ブーーーィィッ!!!!」


炎同士の衝突によって、“かえんほうしゃ”の方向をどうにか逸らす。

が、そこに向かって──


果林「“あくのはどう”!!」
 「サザンッ!!!!」


攻撃を受けきったばかりのイーブイに、追撃の“あくのはどう”が飛んでくる。
599 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:21:26.93 ID:2N444K9g0

侑「“どばどばオーラ”ッ!!」

 「ブーーィィィッ!!!」


咄嗟に“どばどばオーラ”を放って防御させるが、


 「ブィィィッ…!!!」


完全には防ぎきれず、イーブイが撃ち落とされる。


侑「イーブイッ!!」


私がイーブイの落下地点に走り出した瞬間、


 「フェロッ」

侑「くっ……!?」


フェローチェの蹴撃が迫る。


 「ライボッ!!!!」


俊足のライボルトが、それをすかさずガードし──私はスライディングしながら、イーブイをキャッチする。


侑「イーブイ平気!?」
 「ブ、ブィ…!!」


ダメージは少なくないけど──どうにか無事だ。

ほっと一安心した、そのとき、


歩夢「侑ちゃんッ!!!!」


歩夢が私の名前を叫んだ。

ハッとして顔を上げると──


 「──バンギッ!!!!!」
 「──フェロッ」


腕を振り下ろすメガバンギラスの姿と、脚を振り下ろすフェローチェの姿。


 「ライボッ!!!!」


またしても、フェローチェの攻撃を絶対防御する姿勢を貫いているライボルトが、フェローチェの攻撃は防いだものの──バンギラスの攻撃が私に向かって降ってきていた。


歩夢「侑ちゃん、逃げてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」


歩夢の絶叫が響く。

──無理だ、避けられない。

目の前の光景がスローモーションになる中、


 「イッブゥィッ!!!!」


腕の中のイーブイから──闇が放たれた。
600 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:22:24.82 ID:2N444K9g0

侑「……!?」


周囲が突然真っ暗になり何も見えなくなったかと思ったら、腕の中からイーブイが飛び出し──月光のような淡い光を纏いながら、


 「バンギッ!!!!」
 「ブーーーィッ!!!!」


自身の体でバンギラスの攻撃を受け止めた。


侑「……うそ!?」


まさか──


リナ『“相棒わざ”!? “わるわるゾーン”!?』 || ? ᆷ ! ||


物理攻撃のダメージを減らす“相棒わざ”……!?

私が呆気に取られていると──


歩夢「──マホイップッ!! “マジカルシャイン”ッ!!」
 「マホイーーーーッ!!!!」

 「バンギッ…!!?」


歩夢の叫ぶような技の指示と共に、メガバンギラスが足元から強烈な閃光で焼かれ、よろける。

──ハッとして、ライボルトに視線を向けると、


 「ライボッ…!!」


バチバチと“スパーク”するライボルトの傍からはすでにフェローチェの姿は消えていた。

でも、これはこのタイミングなら、むしろ好機だ……!!


侑「ライボルト!! バンギラスに“ライジングボルト”!!」
 「!! ライボォッ!!!!」

 「バンギィィッ!!!!?」


立ち上る電撃を足元から受け、立て続けの攻撃にふらつくバンギラスに向かって、


侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」


イーブイが大量のバブルでメガバンギラスの全身を埋め尽くし──


 「バ、バンギ…ッ…」


メガバンギラスの体力を吸いつくし、戦闘不能に追い込んだのだった。

あとはサザンドラと、フェローチェ……!!


果林「くっ……サザンドラ、“りゅうせい──」


果林さんが技を指示しようとした瞬間、


 「──ジェルルップ」
果林「っ!!?」


突然、果林さんの背後から、ウツロイドが飛び掛かった。

果林さんは咄嗟にサザンドラから飛び降りて、回避するが、
601 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:23:08.16 ID:2N444K9g0

 「サザンドーーーーーラッ!!!!!?」


ウツロイドは、サザンドラの頭に纏わりつき、サザンドラに神経毒を注入し始める。


果林「戻りなさいっ!! サザンドラ!!」


果林さんは落下しながら、サザンドラをボールに戻し──

着地の衝撃を受け身を取って殺しながら、すぐに立ち上がる

さすが訓練された人間だけあって、見事な動きではあるけど──


果林「……っ……」


さすがに、それなりの高さがあったこともあって、全く無傷とは行かなかったようだ。

しっかり立ってはいるものの、足に少しふらつきが見える。

加えて、毒を注入されたサザンドラは恐らくもう戦闘は出来ない……!


侑「サザンドラも倒した……! これなら……!」


が、直後──


 「フェロッ!!!」
 「──ジェルップ」


ウツロイドの真上にフェローチェが突然現れて、かかと落としの要領で叩き落した。


歩夢「ウツロイド……!!」


地面に墜落したウツロイドは──


 「──ジェルル…。…」


動かなくなってしまった。戦闘不能だ。


果林「……はぁ……はぁ……。……ずっと……背後からウツロイドを忍び寄らせてたわね……」

歩夢「あと……ちょっとだったのに……」

果林「本来は貴方が寄生されるはずだったのに……悪いこと考えるじゃない……」


フェローチェの姿が掻き消えたと思ったら──


 「フェロッ!!!!」
歩夢「……!」


次の瞬間には歩夢の顔面にフェローチェの脚が迫り、


 「ライボォッ!!!!」


ライボルトが、もう何度目かわからないディフェンスをする。


果林「はぁ……はぁ……。何よ……なんで、邪魔するのよ……ッ!」


だんだん果林さんに焦りが見えてきた。彼女は息を切らせながら、大声をあげる。

直後、


 「フェロッ!!!!」
602 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:24:02.72 ID:2N444K9g0

フェローチェが歩夢の背後に回り、後頭部を蹴ろうとし、


 「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」

 「フェロッ!!!!」


そして今度は側頭部、


 「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」

 「フェロッ!!!!」


また正面から、


 「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」


連続攻撃を、ライボルトがギリギリで防ぐ。


果林「私が負けたら……!! 私の世界の人たちはッ!! みんな死んじゃうのよッ!!」

 「フェロッ!!!!」

 「ライボッ!!!!」
歩夢「っ……!! ゆ、侑ちゃん……っ」


フェローチェが歩夢へ連続攻撃を始める。

どうにか、ライボルトが防ぐ中、


侑「ライボルト!! “でんげきは”!!」
 「ライボォッ!!!!」

 「フェロッ!!!? …ローチェッ!!!」


あまりに捨て身な連続攻撃だったため、ここで初めてこっちの攻撃がフェローチェにヒットする。

ただ、攻撃は当たったが──フェローチェの攻撃が止まらない。


侑「ライボルトッ!! 歩夢を連れて逃げて!!」

 「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」


ライボルトが歩夢の襟後を咥え、無理やり背中に乗せて走り出す。

でも──


 「フェロッ!!!」


フェローチェは執拗に歩夢を狙う。


果林「そう、歩夢がいれば、歩夢の身体があれば、世界が救える、救えるの……ッ」

侑「果林さんッ!! 歩夢が死んじゃったら、歩夢の能力も使えなくなるんじゃないのッ!!?」

果林「うるさいッ!!! 少しでも息があればいいのよ……ッ!!!」


追いつめられて、果林さんは正常な判断力を失っているのが、私の目から見てもわかった。
603 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:24:59.76 ID:2N444K9g0

侑「ライボルトッ!!! とにかく逃げてッ!!!」

 「ライボォッ!!!!」
歩夢「っ……!!」

 「フェロッ!!!!」


駆けるライボルト、追うフェローチェ。


侑「く……っ」


私は果林さんのもとへと走る。


侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーィィッ!!!」


イーブイの“びりびりエレキ”を果林さんのすぐ真横に落とす。


果林「きゃぁっ!!?」

侑「果林さんッ!! フェローチェに止まるように指示して!!」

果林「お、お断りよ……ッ!!」

侑「っ……! イーブイ!! “びりび──」


いったん気絶させようと、イーブイに指示を出そうとした、そのときだった。

度重なる防御で──ライボルトもいい加減疲労が限界だったんだろう、


 「フェロッ!!!」

 「ライボッ!!!?」
歩夢「きゃっ!!?」


フェローチェの“ローキック”がライボルトの脚に引っ掛かり──ライボルトがバランスを崩す。

それと同時に──猛スピードで走るライボルトの背に乗っていた歩夢が、放り出された。


侑「歩夢ッ!!?」


歩夢が放り出された瞬間。


 「マホイッ!!!!」


歩夢の胸元にいたマホイップが“サイコキネシス”で飛んでいく勢いを軽減するが──それでも、ニャスパーのような強力なサイコパワーですら止めきれなかった勢いは殺しきれず、


 「マホイッ…!!!」


マホイップは自身の体を下敷きにするように、“とける”で歩夢のクッションになろうとする。

──ベシャッ、ベシャッと音を立て、クリームをまき散らしながら、歩夢が地面を転がる。


侑「歩夢−−−−ッ!!!」
 「イブィーーーッ!!!!」

リナ『歩夢さんっ!!』 || > _ <𝅝||


私は歩夢のもとへと走り出す。


歩夢「……っ゛……あ、ぐ、ぅ……っ……」
 「マ、マホィ…」

歩夢「……あ、はは……クリームまみれ……だ……。……けど……お陰で、たすかった……よ……マホイ……ップ……」
 「マホ…」
604 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:25:54.25 ID:2N444K9g0

辛うじて、歩夢の意識はあった──が、


 「フェロ…」


動けなくなった歩夢の前で、フェローチェが脚を振り上げる。

ライボルトは──


 「ライ、ボッ…」


先ほどの攻撃によって、猛スピードで転んだことで、すぐに起き上がれるような状態じゃなかった。

ライボルトはもう──歩夢を守れない。

マホイップも全身のクリームが飛び散っていて、すぐに戦える状態じゃない。


 「フェロ──」

侑「歩夢ーーーーーーッ!!!! 逃げてぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」


フェローチェの脚が振り下ろされ──そうになって……フェローチェの脚が──止まった。


侑「……え……」

リナ『………………!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「……う、そ……」


フェローチェの軸足に──


 「──シャーーーボ」


歩夢の上着の袖から顔を出した──サスケが、噛み付いていた。


歩夢「……サスケ……おりこうだね……」
 「シャーーーボッ」

 「フェロ……」


ライボルトの電撃を受けていたこともあり……防御力が極端に低いフェローチェは──最後はアーボのサスケの“どく”により……力尽きて崩れ落ちた。

一瞬、呆然としてしまったけど──すぐに我に返って、また駆け出す。


侑「……歩夢っ……!!」

歩夢「……ゆう……ちゃん……」


ボロボロの歩夢を抱き起こす。


侑「歩夢、大丈夫……!?」

歩夢「……ゆう、ちゃん……わたしたちの……勝ち……だよ……」

侑「そんなことどうでもいい……!! 歩夢……!!」

歩夢「どうでも……よく、ないよ……。……ちょっと痛いけど……大丈夫……」


怪我をしているのは間違いないけど……意識もちゃんとある。


侑「……すぐに治療してあげるから……もう少しだけ我慢してね……」

歩夢「……ぅん」


歩夢を抱き上げようとした、そのとき、
605 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:26:34.98 ID:2N444K9g0

果林「──ゴロンダッ!!」
 「──ロンダ…」

侑「……!?」
 「イブィッ!!!?」

果林「“アームハンマー”!!」
 「ロンダァッ!!!!」

侑「っ……!!」


私は歩夢を抱きかかえたまま、その場から飛び退き、地面を転がる。


歩夢「ぁ゛……っ゛……」

侑「ご、ごめん、歩夢……!! 痛かったよね……」

歩夢「へい……き……だ、よ……」

侑「……っ……すぐ、終わるから……!」


私は顔を上げる──


果林「…………はぁっ…………はぁっ…………。……私は……私は…………負けちゃ……いけないの……っ……」
 「ゴロンダァ…」


まだ──ポケモンが残っていた。


リナ『こ、こわもてポケモン……ゴロンダ……』 || > _ <𝅝||

侑「く……イーブイ!!」
 「ブイッ!!!」

果林「私は…………負ける、わけに…………いかないのよ………………」


果林さんは、引き攣った顔で、そう呟く。

この満身創痍の状態……イーブイ1匹で体力満タンの果林さんのポケモンに勝てるの……!?


 「ロンダァッ…!!!」


ゴロンダが走り込んでくる。


侑「……やるしかないっ……!! イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーーーーィィィィッ!!!!!」

 「ゴ、ロンダァ…!!!!」


ゴロンダをパステル色の風が包み込み──


 「…ゴ、ロンダ…ァ…」

侑「あ、あれ……?」
 「ブイ…?」


ゴロンダは一発の攻撃で、力尽きて、倒れてしまった。


侑「強く……ない……?」

果林「あ……ぁ…………」


果林さんがそれを見て、カタカタと震えだす。
606 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:28:35.29 ID:2N444K9g0

果林「…………ダメ、ダメよ……私は……負けちゃ……ダメ、なの……」

侑「果林さん……!! もう、終わりです!! 私たちの勝ちです!!」

果林「終わり……違う……終わりじゃない……!!」


もうポケモンは残っていないはず。だけど、果林さんは私に向かって歩いてくる。

そして、懐から──サバイバルナイフを取り出した。


侑「う、嘘でしょ……?」

果林「私は…………たくさんの人の…………想いを……願いを……背負ってるのよ…………だから……だから……ッ」


果林さんが走り込んできて──ナイフを振りかざした。


侑「……ッ!!」


私をナイフで切り付けようとした、その瞬間──私を庇うように、人が飛び込んできた。

レンガレッドのおさげを揺らしながら──


エマ「……っ……!」

侑「エマ……さん……!?」

果林「!? え、エマ……!?」

エマ「…………果林、ちゃん……」


エマさんは果林さんの名前を呼びながら、その場に崩れるようにして蹲る。

その肩には──真っ赤な血の痕が服に滲んでいた。


侑「え、エマさん……!? 血が……!」

エマ「大丈夫……ちょっと掠っただけ……。……全然深くないから……」

果林「え、エマ……な、なんで……」

エマ「果林ちゃん……もう……こんなこと……終わりにしよう……? これ以上……誰かを、傷つけないで……」

果林「…………ダメよ……」

エマ「……本当はこんなこと……もう、したくないんでしょ……?」

果林「…………ち、違う……私は……私の意志で、ここに……」

エマ「……もう、大丈夫だから……一人で抱え込まないで……一人で泣かないで……いいんだよ……」


エマさんがよろよろと立ち上がる。その足には添え木とギブスがしてあった。

怪我をしている足で立ったら痛むはずなのに……エマさんは優しい表情を崩さず──果林さんを抱きしめる。


エマ「そのゴロンダちゃん……わたしが最初にあげたヤンチャムちゃんだよね……?」

果林「…………ぁ…………それ、は…………」

エマ「まだ持っててくれたんだね……。……それに……果林ちゃんがお家に残していった……他のヤンチャムちゃんたち……メール持ってたよ……?」

果林「…………」

エマ「……『この子たちのこと、よろしくね』って……これから滅ぼす世界に……そんなメール持たせたポケモン、置いてかないでしょ……?」

果林「わた……し……は……」

エマ「……あれは……わたしに宛てた……果林ちゃんからの……SOSだったんだよね……? ……『私を止めて』って……『もうこんなことしたくない』って……」

果林「…………っ」

エマ「大切な人たちを守るために……頑張って悪い人になろうとしてたんだよね……。……でも、果林ちゃんが一人で抱えなくていいんだよ……」
607 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:29:34.95 ID:2N444K9g0

カランと音を立てて、果林さんの持っていたナイフが地面に落ちる。

それと共に、果林さんが膝から崩れ落ちた。


果林「………………」

エマ「果林ちゃん……ここまでずっと……一人で頑張ったんだよね……偉いよ……」


エマさんは果林さんを抱きしめたまま、頭を撫でながら言う。

そして、そこにもう一人……。


彼方「……果林ちゃん」

果林「……彼方……」

彼方「……ずっと……ずっと……一人にして……ごめんね……。果林ちゃんと……ちゃんと向き合ってあげられなくて……ごめんね……」

果林「…………私……は……」

彼方「…………これからは一緒に考えよう……一緒に……みんなが笑顔になれる世界のこと……。……簡単じゃないのはわかってる……だけど、一緒に、ちゃんと……考えよう……わたしたちの世界のこと……」


そう言いながら、彼方さんも果林さんを抱きしめる。

すると──果林さんは、全身の力が抜けたかのように……エマさんと彼方さんにもたれかかる。


果林「…………彼方。……私……もう……疲れちゃった……」

彼方「……ごめんね……いっぱい、いっぱい……背負わせちゃって……。……でも、これからは一緒に背負うから……だから、今はもう……休んでいいよ……果林ちゃん……」

果林「…………うん……」


こうして私たちの死闘は──意外な形で……幕を閉じることとなったのだった。



608 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:30:07.38 ID:2N444K9g0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
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  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:250匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:20匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



609 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 02:29:42.07 ID:mDhGJcE10

 ■Intermission👏



 「ディァ…ガァァ…」「バァァ……ル…」「ギシャ…ラァ…」

愛「伝説のポケモンって言っても、こんなもんなんだね」


倒れた3匹のポケモンたちを見ながらぼやく。


鞠莉「……っ…………つよ……すぎる……」


強い……強いかぁ。


愛「愛さんからしたら……他の人が弱すぎるだけなんだけどね……」

鞠莉「……っ……」


昔から疑問だった。どうしてポケモントレーナーは戦いになっても、自身が前に出ないのか。

ポケモンの真価を発揮するなら──トレーナーも一緒に戦うべきだ。

ただ、どうやらポケモンバトルというものでは、そういう考え方はあまり主流ではないらしい。

ま……正直もうどうでもいいけど……。


愛「んじゃ、貰ってくよ」


そう言いながら、ディアルガにボールを投げる。


 「ディァ…ガァ…──」


ディアルガが、パシュンとボールに吸い込まれる。


鞠莉「……スナッ……チ……!?」

愛「ん、こっちではそういう言い方するんだ。……愛さんはね、ビーストボール──こっちの世界で言うモンスターボールの開発の研究をしてたんだよね」


マリーにそう説明しながら、今度はパルキアにボールを投げる。


 「バァル…──」

愛「上書き捕獲機構くらい、大して難しい技術じゃないんだけどね」

鞠莉「あなたは……っ……そのポケモンたちを、捕まえて…………なにを、するつもり…………?」

愛「んー……アタシはね……──全ての世界を一つに繋げる」

鞠莉「……? ……一つに……繋げる……?」

愛「ま……言ってもわかんないだろうね。わかんなくてもいいけど」


そう言いながら、ギラティナに向かってボールを投げた瞬間──


 「ギシャラァッ…!!」


ギラティナが影に潜って逃げ出した。


愛「……外した。ま……すぐに追いかけて捕まえるからいいけど。……あ、そうだ」


アタシはマリーに近付き、


愛「それ、貰っとくわ」
610 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 02:30:40.60 ID:mDhGJcE10

彼女が手に持っていた、“こんごうだま”と“しらたま”を奪い取る。

奪い取ると言っても、だいぶ痛めつけてあげたから、もう抵抗する力もないっぽいけどね。


鞠莉「っ……」

愛「さーてと……ギラティナ捕まえに行って、あとはおさらばかな〜。……あ、そうだ……せっかくだし、最後にいいもの見せてあげるよ」


そう言いながら、マリーの目の前に今しがた捕まえたディアルガとパルキアをボールから出す。


 「ディァガァ…」「バァル…」

鞠莉「……なにする……つもり……?」

愛「“こんごうだま”と“しらたま”……君たちはこれをディアルガとパルキアに指令を送るための“どうぐ”だと思い込んでたみたいだけど……。ホントの使い方はこうするんだよ」


アタシは“こんごうだま”をディアルガの胸の宝石に向かって、“しらたま”をパルキアの肩の宝石に向かって投げつける。

すると──


 「ディァ…ガ──」「バァル…──」


“こんごうだま”と“しらたま”はディアルガとパルキアの体にある宝石に吸い込まれていく。


鞠莉「……な……」


するとディアルガとパルキアの体の形が変化していく。

ディアルガは側頭部の甲殻が口元を覆う顎当てへと変化し、胸部の甲殻は首の中ほどに移動し、宝珠を中心に詰めた砲のような形へと変わる。前足が肥大化し、後ろ足が細くなる。そして胴には特徴的な突起のついたリングが出来ている。

パルキアは腕が四足獣のような蹄を持った前脚へと変化し、後ろ脚も前脚と同じように、蹄を持った形に。尻尾は細長い5本のものになり、こちらにも特徴的なリングが胴に現れる。


愛「……これが、このポケモンたちの“オリジンフォルム”ってやつだよ」

鞠莉「“オリジン……フォルム”……?」

愛「……ああそういや……“はっきんだま”も貰っておかないとね。……マリーは持ってなさそうだから……あの二人のどっちかか……」


アタシは気絶しているダイヤと果南の持ち物を漁ってみる。すると──すぐに見つかった。


愛「おっし……そんじゃ、あとはギラティナ捕まえに行きますか〜」


ディアルガとパルキアをボールに戻しながら、肩をぐるぐる回して気合いを入れていた──そのとき、


 「──ボルテッカー!!!」
  「ピィィーーーーカァァァーーーーッ!!!!!」

愛「! リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」


リーシャンが咄嗟に音の障壁を作り出し、突っ込んできたピカチュウを弾き返そうとするが──


 「ピィィィィカァァァァ!!!!!!」


ピカチュウは音の障壁をお構いなしにどんどんめり込んでくる。


愛「く……!? リーシャン!!」


アタシはリーシャンの体をグリップしながら身を捻る──直後、


 「ピカァァァァァッ!!!!!」
611 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 02:32:03.27 ID:mDhGJcE10

ピカチュウが音の障壁を貫き、アタシがそれをギリギリで躱すと──背後に突っ込んだピカチュウが轟音をあげながら、周囲にとんでもない規模の雷撃を散らす。

このピカチュウ、この強さ……思い当たるトレーナーは一人しかいない。


穂乃果「……駆けつけて来てみたら……大変なことになっててびっくりした」

愛「……最後に規格外なのが来たね」


恐らく……この地方で最も強いトレーナー……。元チャンピオン・穂乃果。

果南のパワーでも破られなかった音の障壁を軽々とぶっ壊してきた。


穂乃果「でも、いいリベンジマッチの機会かな。ここなら、“テレポート”で飛ばされることもないだろうし」

愛「だから、穂乃果とは……まともに戦いたくなかったんだよね」

穂乃果「まあまあ、そう言わないでよ。……愛ちゃん、強いでしょ?」


そう言いながらボールを構える。


愛「……わかった。ただ、さすがの愛さんでも、穂乃果相手に手加減は出来ないから──死んでも文句言わないでよね?」

穂乃果「安心して、私が勝つから!」


どうやらここが愛さんにとっての──ラスボス戦みたいだね。


………………
…………
……
👏

612 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:16:22.75 ID:mDhGJcE10

■Chapter069 『決戦! DiverDiva・愛!』 【SIDE Honoka】





穂乃果「ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」

 「ピーーカ、チュゥゥゥゥゥ!!!!!!」


愛ちゃんを挟んで向かい側にいるピカチュウが、電撃を放つ。

それに対し、


愛「リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!」


愛ちゃんがリーシャンの名前を呼ぶと、ピカチュウの電撃が狙っていたはずの愛ちゃんから逸れて、変なところに落ちる。

その隙に愛ちゃんはリーシャンを左手で掴み、ステップを踏みながらピカチュウから距離を取る。


穂乃果「音で作った障壁……!」


さっきピカチュウの“ボルテッカー”を避けるときにも使っていた。

リーシャンの持つ音の振動を増幅して行う攻撃とサイコパワーという二つの能力を掛け合わせ、発生させた音の衝撃をサイコパワーで自分の周囲に留め、壁として存在させている。

それの精度がものすごく緻密で高度……さらに、その間集中して動けないはずのリーシャンは、愛ちゃんが直接手に持って移動することによって、トレーナーが欠点をカバーしている。

人が手に持てるくらい小さなポケモンである、リーシャンの性質を生かした、よく考えられた戦い方だ。


穂乃果「なら……! ケンタロス!!」
 「──モォォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスがボールから飛び出すと同時に、愛ちゃんに向かって突っ込んでいく。


愛「リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!」


愛ちゃんは左手に掴んだリーシャンを前に突き出し、音の障壁を展開する。けど──


 「ブモォォォォォ!!!!!」

愛「と、止まらない……!? ルリリっ!!」
 「ルリィッ!!!」


ケンタロスは音の障壁をただの“とっしん”でぶち破る。

愛ちゃんは後ろに身を引きながら、今度は右手に持ったルリリが尻尾を振るってくる。


 「ブモッ…!!!?」


ルリリの尻尾がケンタロスの側頭部を叩き、ケンタロスが一瞬怯むけど──


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスは3本の尻尾で自分の体をピシピシと叩きながら、自身を“ふるいたてる”。


 「ブモォォォォォッ!!!!」


そして、再び愛ちゃんたちに向かって“とっしん”していく。


愛「く……しつこい……!?」
613 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:17:02.93 ID:mDhGJcE10

愛ちゃんは後ろに向かって跳躍しながら、リーシャンを真下に向け、


愛「リーシャン!!」
 「リシャァーーーンッ!!!!」


リーシャンが真下に向かって、音の障壁を発生させ、その反動で空に跳び上がる。


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


確かに空に跳ばれたらケンタロスでは手が出せない。けど──


穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァァァッ!!!!」


ピカチュウが“かみなり”を空中にいる愛ちゃんの上に発生させる。


愛「リーシャンッ!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!」


すぐにリーシャンを真上に掲げ、音の障壁を作り出す。けど、“かみなり”は愛ちゃんの真上ではなく、真横に落ち──真横から急に軌道を変えて、横から愛ちゃんたちに直撃した。


愛「がぁっ……!!?」
 「リシャンッ!!!?」「ルリィッ!!!?」


──バリバリと音を立てながら、稲妻が迸り、


愛「……ぐ……ぅ……」


愛ちゃんが、地面に落下する。


穂乃果「ふぅ……」


さすがに生身で“かみなり”を受けたら、戦闘継続は不可能かな……。

そう思ったけど、


愛「……っ……い、今……完全に空中で不自然に曲がったよね……」

穂乃果「な……」


愛ちゃんはすぐに立ち上がる。


愛「……アタシ、これでも技術担当だからね……服に耐電加工くらいしてきてるよ……」

穂乃果「……さすがに一筋縄ではいかなさそうだね……」
 「ティニ…」

愛「……! さっきの不自然な“かみなり”の挙動……ビクティニの“しょうりのほし”か……」


“しょうりのほし”。ビクティニの特性で、味方の命中率を底上げする特性だ。

ビクティニは勝利をもたらすポケモンと言われていて、ピカチュウの“かみなり”は勝利をもたらすために“偶然”軌道を変えて愛ちゃんに襲い掛かったというわけだ。


愛「あー……やっぱ、穂乃果は強すぎるわ……。……久しぶりに本気出さなきゃダメそう」

穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァッ!!!!!」


再び迸る雷撃が、また勝利に導かれ……愛ちゃんに吸い込まれるように飛んでいくけど──愛ちゃんに当たる直前で跳ね返ってくる。


穂乃果「!? ピカチュウ!! 尻尾!!」
 「ピ、ピッカァッ!!!!」
614 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:18:06.23 ID:mDhGJcE10

ピカチュウは咄嗟に尻尾を向けて、跳ね返ってきた“かみなり”を“ひらいしん”で吸収する。


 「ピ、ピカァ…ッ!!!」


それでもエネルギーが吸いきれず、周囲に稲妻が放出され、あちこちに雷撃が落ちて大地を破壊し始める。


穂乃果「っ……! 溜めちゃだめ!! “ほうでん”!!」
 「ピカァッ!!!」


ピカチュウは尻尾に落ちてきた電撃をその場で“ほうでん”して体から逃がしながら、“かみなり”を受け止める。

それによって──どうにか吸収しきれた。


穂乃果「ほ……。……今の反射、“ミラーコート”……!」

愛「そーゆーこと」
 「──ソーナノ!!」


どうやら、ソーナノに反射されたらしい。


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスが愛ちゃんに向かって、“とっしん”していくけど、


愛「“カウンター”!!」
 「ソーーナノッ!!!!」

 「ブモォォォッ!!!?」


ソーナノは物理技でも反射出来る。

ケンタロスはそのまま跳ね返されて、地面を転がる。


穂乃果「ケンタロス、大丈夫!?」

 「ブ、ブモォォォッ…!!!」


ケンタロスはすぐに体勢を立て直して起き上がる──が、起き上がったケンタロスの頭に……紫色の何かが引っ付いていた。


 「──レズン…」

穂乃果「……!? エレズン!?」


──“カウンター”で反撃する際に、一緒に張り付けられた……!?


愛「“ほっぺすりすり”」

 「レズン」

 「ブ、ブモォォッ!!!?」


エレズンが自身の頬を擦り付けると──ケンタロスが“まひ”で動きを鈍らされる。

そこに向かって──


愛「“すてみタックル”!!」

 「ルーーーリィッ!!!!!」

 「ブモォッ!!!?」


愛ちゃんの手から離れて飛んできたルリリがケンタロスの顔面にめり込んだ。


 「ルリッ」
615 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:18:41.20 ID:mDhGJcE10

ルリリは尻尾をバネにしながら、離脱し──


 「ブ、モォ……」


ケンタロスは崩れ落ちた。


穂乃果「……!」

愛「ルリリ、エレズン、戻っておいで」

 「ルリ」「レズン」


逃がしちゃダメだ……!!


穂乃果「ラプラス!! “フリーズドライ”!!」
 「──キュゥゥゥ!!!!」


繰り出したラプラスが、広がる冷気をエレズンとルリリに向かって発射する。

でも、そこに向かって──


愛「リーシャンッ!!」
 「リーシャンッ!!!」


愛ちゃんが逃げる2匹を庇うように、リーシャンを構えながら飛び込んでくる。

またしても、音の障壁を作りながら冷気を吹き飛ばそうとするけど──


 「キュゥゥゥゥ!!!!」

愛「いっ!? 冷気でも貫通してくんの!?」


ラプラスは強引に音の壁ごと凍らせ始める。さらに──


穂乃果「“ハイドロポンプ”!!」
 「キュゥゥゥゥッ!!!!!」


冷気の層に向かって、それを押し込むように、“ハイドロポンプ”を発射する。

音の壁を凍らせ始めていた“フリーズドライ”の層にぶつかった“ハイドロポンプ”は──凍り付いて杭のように、音の壁に突き刺さる。


愛「ぐっ……!?」


愛ちゃんは咄嗟の判断で身を伏せて、ギリギリ氷の杭を回避するけど──私はそこに向かって次のポケモンのボールを投げ込む。


穂乃果「ガチゴラス!!」

 「──ゴラァァァァスッ!!!!!」

愛「!?」


伏せた愛ちゃんに──ボールから飛び出したガチゴラスが大顎を開けながら、“かみくだく”!!


愛「ソーナノッ!! “カウンター”!!」
 「ソーーナノッ!!!!」


ソーナノが飛び込んできて、ガチゴラスの大顎による攻撃を反射し、無理やりこじ開けようとするけど、


穂乃果「“ばかぢから”!!」

 「ゴラァァァァァスッ!!!!!!」


押し返されそうになった、ガチゴラスはパワーでソーナノの反射を無理やり抑え込む。
616 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:19:13.15 ID:mDhGJcE10

愛「は、反射をパワーで!? む、無茶苦茶……!?」

 「ソナノッ!!!?」


ガチゴラスはパワーで無理やり圧倒したソーナノに噛みつき、そのまま頭を振るって、ブンと真上の放り投げる。


 「ソ、ソーナノーッ!!!?」

穂乃果「“もろはのずつき”!!」

 「ゴラァァァァスッ!!!!!」

 「ソーーナノッ!!!!?」


空中で抵抗できないソーナノが、破砕の一撃で、吹っ飛ばす。


愛「っ……!! リーシャン!!」
 「リシャンッ!!!」


吹っ飛ぶソーナノを、リーシャンがサイコパワーで受け止め、助けるけど──


 「ソー…ナノ…」


落下のダメージがなくても、打撃の威力だけで十分だ。

ソーナノはすでに戦闘不能になっていた。


愛「ごめん、ソーナノ……無茶させすぎた」
 「ソーナノ──」


愛ちゃんは謝りながら、ソーナノをボールに戻す。

直後──


 「ゴラァァァァスッ!!!!!」


ガチゴラスが勝手に頭を構えて走り出した。


穂乃果「え!?」


指示はまだ出してない……!?

ハッとして、フィールドを見ると──


 「レズンレズン♪」


エレズンが手を叩いていた。


穂乃果「しまった!? “アンコール”!?」


同じ技を出させる技によって、“もろはのずつき”を無理やり誘発させられ、


愛「さすがに突進系の大技は軌道が読みやすいよね……!!」


愛ちゃんはガチゴラスの下を潜るようにスライディングしながら、


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャンッ!!!!」

 「ゴラァァスッ!!!?」


真下からガチゴラスの顎を狙って、音の衝撃を直撃させ、さらに──
617 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:19:53.16 ID:mDhGJcE10

愛「“アクアジェット”!!」
 「ルリッ!!!!」

 「ゴラァスッ!!!?」


追い打ちを掛けるように、もう一発、真下から顎に向かってルリリが強烈な突撃でガチゴラスの顎を跳ね上げる。


愛「“ふぶき”!!」
 「ルーーーリィッ!!!」

 「ゴラァァァス…!!!?」


そして、トドメと言わんばかりに至近距離から、ガチゴラスが苦手とするこおりタイプの技で一気に氷漬けにする。


穂乃果「ガチゴラス……!?」


氷漬けになったガチゴラスがゆっくりと横転するのと同時に──


愛「リーシャン!!」
 「リシャンッ!!!」

 「…レズンッ!!!」


愛ちゃんの指示の声と共に、突然エレズンが猛スピードで吹っ飛んできて、


 「キュゥッ!!!?」


ラプラスの顔に張り付いた。


穂乃果「なっ……!?」

愛「“ほっぺすりすり”!」

 「レズン♪」

 「キュゥ…!!!?」


ルリリがガチゴラスを攻撃している間に、愛ちゃんはリーシャンの音の衝撃によって、エレズンをラプラスに向かって飛ばしてきた。

理解したときにはもうラプラスは“まひ”させられていて、さらに──エレズンはボールを抱えていた。そのボールから、


 「──ベベノッ」


白光の体色を持った、色違いのベベノムが飛び出してきた。


愛「ベベノム!! “ヘドロウェーブ”!!」

 「ベーーベノーーーッ!!!!」

 「キュゥゥゥゥ!!!!?」

穂乃果「ラプラス!?」


ラプラスが、至近距離から発生した、波のように押し寄せてきた毒液にまみれ、


愛「“とどめばり”!!」

 「ベベノッ!!!!」

 「キュゥッ…!!!!」


ダメ押しの一撃を食らって戦闘不能になる。


穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァァッ!!!!」
618 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:20:51.90 ID:mDhGJcE10

“かみなり”をベベノムの頭上に落とすけど、


愛「“アイアンテール”!!」

 「ベノッ!!!!」


ベベノムが“とどめばり”によって、爆発的に上昇させた攻撃力によって、尻尾を振るって強引に“かみなり”を弾き飛ばす。

さらに畳みかけるように、


 「レズンッ!!」

 「ピカッ!!?」


エレズンがピカチュウに跳び付いてくる。


穂乃果「くっ……!? ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」
 「ピィーーーカァ、チュゥゥゥゥゥッ!!!!!!!」

 「レズンッ!!!!!」


取り付いたエレズンごと電撃で攻撃する。が、その隙に、


愛「ベベノム、“いえき”!!」

 「ベベノッ!!!」

 「ティニッ!!!?」


ビクティニがベベノムから“いえき”を掛けられる。


愛「ルリリ!! 今のうちに“はらだいこ”!!」
 「ルリッ!!!」


ルリリがパワーを高め始める。

一方、


 「ピカァァァァァッ!!!!!」

 「レ、ズンッ…!!!」


ピカチュウは優勢。

でも、至近距離から電撃による反撃を食らっているエレズンが倒れそうになった瞬間、


愛「“じたばた”!!」

 「レズンッ!!!」

 「ピカッ!!!?」


エレズンがピカチュウの目の前で全身を無茶苦茶に振り回しながら暴れだし、ピカチュウを吹き飛ばす。


穂乃果「“かえんだん”!!」
 「ティニーーーッ!!!!!」


ビクティニが周囲に向かって、真っ赤な炎弾を撃ち出して、


 「レズンッ!!!?」「ベベノッ!!!!」


エレズンとベベノムを強烈な炎で攻撃し、


 「ベ、ベベノ…!!!」
619 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:22:39.12 ID:mDhGJcE10

ベベノムにはギリギリ耐えきられて、逃げられてしまうが、エレズンはどうにか戦闘不能に追い込む。

が、


愛「“たきのぼ、り”ッ!!!」

 「ルーーーリィッ!!!!!」


愛ちゃんが水のエネルギーを全身に纏ったルリリを──ビクティニに向かって、ぶん投げてきた。


 「ティニッ!!!?」
穂乃果「ビクティニ!?」

 「ティ、ティニ……」


“はらだいこ”でフルパワーになったルリリのパワーによって、ビクティニは一撃で戦闘不能に、


穂乃果「ピカチュウ!!」
 「…ピッカァァァッ!!!!!」


エレズンの“じたばた”で大きなダメージを負ったものの、どうにか耐え切ったピカチュウが、全身に電撃を纏いながら、ビクティニを倒して着地したルリリに向かって、


穂乃果「“ボルテッカー”!!」
 「ピィィィィィカァァァァァァァッ!!!!!!」

 「ルリィーーーッ!!!!?」


ルリリを撃破する。


愛「く……ルリリ、エレズン、戻れ……!」
 「ルリ…──」「レズン…──」


愛ちゃんがルリリとエレズンをボールに戻す。


穂乃果「ラプラス、ガチゴラス、ビクティニ、戻って!」
 「キュウ…──」「……──」「ティニ…──」


私も戦闘不能になったラプラスとビクティニ、氷漬けになってこれ以上の戦闘が続けられないガチゴラスをボールに戻す。


愛「いやぁ……ホント強すぎ……っ、こんな追い詰められたのいつ以来だっけ……」
 「ベベノ…」「リシャンッ」

穂乃果「それはお互い様かな……」
 「ピカッ…!!!」


愛ちゃんはベベノムとリーシャンと共に身構え、私はピカチュウと──


穂乃果「リザードン!」
 「──リザァッ!!!」


リザードンを出して──メガリングをかざす。


穂乃果「メガシンカ!!」
 「リザァァーーーッ!!!!」


リザードンが光に包まれると共に──やぶれた世界の中に、強い日差しが差し込んでくる。

それと同時に、リザードンは尻尾が長く伸び、翼も一回り大きく変化。頭には一際大きな角が頭頂から1本伸び、腕にも翼を備えた姿──メガリザードンYへとメガシンカする。


 「リザァァーーーーッ!!!!!」

穂乃果「リザードン……! “かえんほうしゃ”!!」
 「リザァーーーーーッ!!!!!」
620 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:23:32.63 ID:mDhGJcE10

リザードンが強烈な火炎を放つ。


愛「く……リーシャンッ!!」
 「リシャァーーーーンッ!!!!」


リーシャンが例によって、音の障壁を発生させるが──とてつもない火炎は、音の障壁に阻まれるどころか、一瞬で防壁を貫く。


愛「うわっちっ!!? き、距離取るよ!!」
 「リシャンッ!!!」


愛ちゃんは、リーシャンの音撃の反動で、後ろに向かって距離を取るけど、


穂乃果「ピカチュウ!!」
 「ピッカァッ!!!!」


ピカチュウが全身に電撃を纏い、“ボルテッカー”の構えを取りながら走り出す──そして、走りながらそのエネルギーを拳へと集中させ、


 「ピッカァッ!!!!」

愛「……っ!?」


稲妻のような軌道を描きながら、リザードンの吐いた炎を飛び越えて──真上から愛ちゃんたちに向かって飛び掛かる。


穂乃果「“ボルテッ拳”!!」

 「ピカァァァァッ!!!!!」

愛「リーシャンッ!! “ハイパーボイス”!!」
 「リシャァーーーーーーンッ!!!!!」


愛ちゃんが咄嗟に、真上から飛び掛かってくるピカチュウに向かって、爆音によって攻撃してくるけど──


 「ピィィィィィカァァァァァァッ!!!!! チュゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」


“ボルテッ拳”のパワーは音の衝撃のエネルギーを遥かに凌駕し──


愛「く……っ……!?」
 「リ、リシャァァァッ!!!!?」


一瞬の静寂ののち──バヂバヂバヂバヂッ!!!!! と激しい稲妻の音を空間内に轟かせながら、電撃のエネルギーを盛大に爆ぜ散らせた。

その反動で、


 「ピッカァッ!!!」


ピカチュウがくるくると回転しながら、私の隣に着地しながら戻ってくる。

そして、電撃エネルギーによって、巻き起こった爆発が晴れると、


愛「ぐ……く、そぉ……」
 「リシャンッ…」


愛ちゃんがリーシャンと共に倒れていた。


穂乃果「……これなら、どう……?」

愛「っ゛……」


さすがに愛ちゃんの表情が歪む。

耐電撃スーツでも、さすがに“ボルテッ拳”を無効化しきることは出来なかったようだ。
621 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:24:43.12 ID:mDhGJcE10

穂乃果「……もう終わりだよ」

愛「…………っ」


私はうつ伏せになって倒れている愛ちゃんへとゆっくりと近付く。


穂乃果「……さぁ、降参してくれるかな?」

愛「……。……わかった。……降参……──するもんかっ!!」
 「──ベベノッ!!!!」

穂乃果「……!?」


うつ伏せの愛ちゃんの胸の下から──ベベノムが飛び出してきて、毒液を射出する。

毒液は私の顔に真っすぐ飛んできて──


 「ピッカァッ…!!!」
穂乃果「!! ピカチュウ!!」


ピカチュウが私を庇って毒液を受ける。


穂乃果「リザードンッ!!」
 「リザァァッ!!!!」


リザードンが至近距離で“ねっぷう”を起こし、


愛「ぐぅぅっ!!?」
 「ベ、ベベノォッ!!!?」


愛ちゃんを焼き尽くす。


愛「ぐ……ぅ……」


さすがに、この攻撃で愛ちゃんも大人しくなる。


穂乃果「……ピカチュウ……ありがとう……」
 「ピカカ…」

穂乃果「うん、ボールに戻って、休んでね」
 「チャー…──」


ピカチュウをボールに戻す。


愛「………………つよ……すぎ……でしょ……」

穂乃果「……! まだ、意識があるんだね……」

愛「…………耐熱も…………してん……だよ……」

穂乃果「でも、もう動けないよね」

愛「……ぁ゛ー……動きたくは……ない、ね……」

穂乃果「……とりあえず、ディアルガとパルキア……返してもらうよ」


そう言いながら、私は屈んで愛ちゃんが腰に着けたボールに手を伸ばす。


愛「……これが……試合みたいな……ポケモンバトルじゃなくて……よかった……」

穂乃果「え?」

愛「…………やっぱ、アタシは……そういうルールに縛られた戦いよりも…………ただ、相手を倒す戦いの方が、向いてるっぽいね……」

穂乃果「何言って──」
622 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:28:17.30 ID:mDhGJcE10

──ゴッ!!! 鈍い音と共に、頭に強い衝撃を受けた。


穂乃果「ぁ゛……っ……!!」


衝撃と痛みで私はその場に倒れ込む。

倒れた私の目の前には──


 「──ウソッ」

穂乃果「ウソ……ハチ……っ゛……」


ウソハチがいた。ウソハチが──私の頭上に、落ちてきた。


 「リザァッ!!!!」


リザードンが咄嗟に、炎を吐こうとしたが、


愛「ウソハチ……“だいばくはつ”……!!」
 「ウソッ…!!!」

 「リザッ!!!?」


ウソハチがリザードンの懐に飛び込み──爆発して吹き飛ばした。


愛「…………悪いね。……真面目に戦ったら、勝てる気がしなかったから……卑怯な手、使わせてもらったよ」

穂乃果「いつ、の……間に……空に……」

愛「……“ボルテッ拳”だっけ? ……あのとんでも技が上から飛び掛かってくる使い方で……助かったよ」

穂乃果「…………あの、とき、の……“ハイパー……ボイス”……」


愛ちゃんは、ピカチュウの攻撃を相殺するように見せかけて──遥か上空に向かって、ウソハチの入ったボールを打ち上げていたんだ……。

私の視界が赤く染まっていく。私は……頭から大量の血を流していた。


愛「……もう、立つのは無理っしょ……猛スピードで落ちてきた岩が……頭に直撃したようなもんだからね。勝負ありだよ……」

穂乃果「…………っ゛……」


愛ちゃんがよろよろと立ち上がって、私に背を向ける。


愛「さーて、今度こそ……ギラティナ捕まえて、おさらばだ……」


そう言いながら立ち去ろうとする背に──


穂乃果「──……ま、って……」


立ち上がって、声を掛ける。


愛「…………冗談でしょ? あれ食らって立つの……?」

穂乃果「あなたは……野放しにしちゃ……いけない……」

愛「…………」

穂乃果「リザー……ドン……」
 「…リザァ…ッ…!!!!」


ウソハチの“だいばくはつ”で吹っ飛ばされたリザードンが、羽ばたきながら戻ってくる。
623 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:29:10.58 ID:mDhGJcE10

愛「ここまで来ると……ポケモンも……トレーナーも……化け物じゃん……」

穂乃果「あなたは……ここで……とめ、る……」


意識が朦朧とする。だけど、この人だけは……絶対にここで止めないとダメだ。

ここで逃がしたら──本当に誰にも手が付けられなくなる。

そのときだった。愛ちゃんが抱き抱えていたベベノムが──


 「ベベノ…──」


カッと眩く光り輝いた。


穂乃果「この光……しん、か……?」


この土壇場で──愛ちゃんのベベノムが進化して、アーゴヨンに──


愛「ただの、進化じゃないよ……」
 「──アーゴッ…!!!」


確かに愛ちゃんのベベノムは色違い。

進化したアーゴヨンも、本来の色とは違い、黄色と黒の警告色をしたアーゴヨンへと姿を変える。でも──それだけじゃなかった。


穂乃果「……なに……これ……?」


目の前のアーゴヨンは──翼から目が痛くなるような、激しいオレンジ──超オレンジと言っても差し支えのない、強烈な閃光を放ち、お腹の毒針からもそれがエネルギーとしてスパークしている、異様な姿だった。


愛「……悪いね……。……アタシは……止まるわけにいかないんだよ」


私とリザードンは……アーゴヨンから放たれた閃光に──飲み込まれた。





    👏    👏    👏





穂乃果「…………」
 「……リ、ザ……」

愛「…………」


今度こそ、動かなくなった穂乃果に背を向けて歩き出す。


愛「……さて、ギラティナ……出てきてくんないかな……。……逃げられないこと……わかってるっしょ……?」


虚空に向かって呼び掛けると──


 「──ギシャラァッ…」


満身創痍のギラティナが、空間を裂いて現れる。

そして、その直後──そこらへんを転がっていた、果南、ダイヤ、マリーの真下に空間の裂け目が生じ、3人を飲み込んだ。


愛「……!」


それと同時に──背後の穂乃果……さらに、彼女たちがボールに戻せていなかったポケモンたちも空間の裂け目に飲み込まれて姿を消す。
624 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:29:39.86 ID:mDhGJcE10

愛「……逃がしたってことか……」

 「ギシャラ…ッ」

愛「……自分がもう、アタシから逃げられないってわかってて……。ギラティナがいなくなったら……この空間自体、維持できないもんね……。……そんなナリで意外と義理堅いじゃん。愛さん、そういうの嫌いじゃないよ」

 「ギシャラァッ!!!!!」


ギラティナが最後の力を振り絞って飛び掛かってくる。


愛「ま……それでも、捕獲させてもらうけどね……」
 「アーゴッ!!!!」

 「ギシャラァァァァァッ!!!!!」


ギラティナの雄叫びが──やぶれた世界に、響き渡った。



625 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:30:09.97 ID:mDhGJcE10

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


 レポートに しっかり かきのこした


...To be continued.



626 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:05:43.89 ID:djK6Kzqg0

■Chapter070 『戦いを終えて』 【SIDE Yu】





侑「……歩夢、もう痛いところ……ない……?」
 「ブイ…」

歩夢「うん、大丈夫だよ。エマさんのママンボウが治療してくれたから……」
 「ママァ〜ン」

遥「やっぱり、ママンボウの治癒力はすごいですね……。……幸い骨に異常はなさそうですし……私が診た感じでも、問題ないと思います」

歩夢「遥ちゃんも……ありがとう」


あの後、エマさんのママンボウに傷を治してもらい……遥ちゃんから怪我を診てもらっていた。

ママンボウの治癒効果のお陰で、切り傷や擦り傷はすぐに治り、私も歩夢もすっかり元気になっていた。


歩夢「ただ、その……服がクリームでべとべとだから……出来れば、着替えたい……かも……」
 「マホ…」

歩夢「あ、ご、ごめんね!? マホイップを責めてるわけじゃないの! むしろ、マホイップがいなかったらもっと大怪我してたし……」
 「マホ〜…」

侑「とりあえず、あとで着替えよっか。歩夢の着替えも持ってきてるから」

歩夢「うん、ありがとう……侑ちゃん」


さて……どうにか歩夢を救出することに成功したわけだけど……。


彼方「……手錠……痛くない……?」

果林「…………ええ、大丈夫よ」


果林さんは、武装を完全に解除させられ……彼方さんが持ってきていた手錠を着けられている。


エマ「か、彼方ちゃん……やっぱり、手錠までしなくても……。果林ちゃん……もう、酷いことしないと思うから……」

果林「いいえ……今は……こうしておいて……。……もう、私が変な気を起こしても……大丈夫なように……」

エマ「果林ちゃん……」


果林さんは……先ほどまでの攻撃的な表情が嘘のように、戦意を失っていた。

そんな中、


姫乃「──あ、貴方たち!! 果林さんから、離れてくださいっ!!」


急に声が響く。

目を向けると──拘束されて、彼方さんのカビゴンに担がれている姫乃さんが、声を荒げていた。


果林「姫乃……」

彼方「姫乃ちゃん、目が覚めたんだね〜……」

姫乃「果林さん!! そんなやつらの口車に乗ってはいけませんっ!! 私たちは使命を帯びてここにいるんです……!! だから……」

果林「……もう、いいの」

姫乃「か、果林さん……」

果林「…………私たちの……負けよ……」

姫乃「…………」

果林「姫乃……今まで、一緒に戦ってくれて……ありがとう……」

姫乃「…………私は……」
627 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:06:15.90 ID:djK6Kzqg0

姫乃さんは果林さんの言葉を聞き、何か言いたそうにしていたけど……結局口を噤んだ。

果林さんが負けを認め……戦いは終わった。

そして、ちょうどそこに──


 「──侑せんぱ〜い!! 歩夢せんぱ〜い!! リナ子〜!!」


声が聞こえてくる。

この声は──


侑・歩夢「「かすみちゃん!」」
リナ『かすみちゃん!』 || > ◡ < ||

かすみ「侑先輩!! 歩夢先輩!! リナ子!!」


声の方に振り向くと同時に、かすみちゃんが抱き着いてくる。


かすみ「お二人とも、ボロボロじゃないですか……でも、無事でよかったです……」

侑「あはは……そう言うかすみちゃんも、ボロボロだよ」


まさに全員死闘を終えたという様相になっていた。


しずく「本当に……みんな無事で、よかったです……」


そして、ゆっくりと追い付いて来るしずくちゃんを見て、歩夢が、


歩夢「しずくちゃん……!」

しずく「わわっ……?」


しずくちゃんに抱き着く。


歩夢「ありがとう……しずくちゃんのお陰で……私の大切なもの……全部、全部失くさずに済んだよ……」

しずく「ふふ……お力になれたのなら……何よりです……」

侑「それにしても……あれが全部演技だったなんて……」

しずく「敵を騙すにはまず味方から……ですよ♪」

侑「あはは……ホントに騙されたよ……」

かすみ「……そういえば、それについてなんだけどさ」


私に抱き着いていたかすみちゃんが、不満そうな顔をしながら口を開く。
628 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:06:50.88 ID:djK6Kzqg0

しずく「ん?」

かすみ「しず子、戦ってる最中……かすみんのこと、勧誘してたよね? フェローチェの虜になりましょう〜とか」

しずく「あ、う、うーん……言ったかも……?」

かすみ「あそこで、かすみんがうんって言ったらどうするつもりだったの? せつ菜先輩を引っ張り込むために本気で戦うフリしてたのはわかるけど……勧誘までする必要なくない?」

しずく「それは……その……。……役に……のめり込みすぎちゃって……つい……」

かすみ「…………はぁ……。……ま、しず子らしいけど……」

しずく「で、でも! かすみさんなら、絶対にあそこで「うん」なんて言わないってわかってたし……!」

かすみ「ま……結果丸く収まったし……そういうことにしてあげなくもないかな〜……」

しずく「む……かすみさんだって、勢いに任せて……その……す、すごいこと……言ったくせに……///」

かすみ「……!?/// だ、だから、あれは……///」

リナ『二人とも顔真っ赤だよ? 大丈夫?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「なんでもないですっ!!///」
しずく「な、なんでもないよ!?///」


何やら、向こうは向こうでいろいろあったようだ……。

それは追い追い聞くとして──私はこちらに歩いてくる人影に目を向ける。

黒髪の右側を結んでいる、凜とした──私の憧れのトレーナー。


侑「……せつ菜ちゃん」

せつ菜「……侑さん」


私が立ち上がって目を合わせると──


せつ菜「侑さん……ごめんなさい」


せつ菜ちゃんは二の句を告げず、頭を下げた。


侑「せ、せつ菜ちゃん……!?」

せつ菜「あのとき……クリフの遺跡で、侑さんは私を止めようとしてくれていたのに……私が未熟だったばかりに、侑さんに酷いことを言ってしまって……八つ当たりしてしまって……」

侑「あ、頭を上げて……! 私、怒ってないから……!」

せつ菜「で、ですが……」

侑「私も……せつ菜ちゃんの気持ち……なんにもわかってないのに、勝手なこと言っちゃって……ごめん……。……せつ菜ちゃんの苦しみ……全然わかってなかった」

せつ菜「そ、そんなこと……」

侑「うぅん……。……勝手に憧れて、勝手に私の理想を押し付けてた……。……無責任なこといっぱい言っちゃって……。だから私、これからは憧れるばっかりじゃなくて……もっとちゃんと、せつ菜ちゃんのことが知りたい……」

せつ菜「侑さん……」

侑「……一人のポケモントレーナーとして……一人の……友達として……」


私はせつ菜ちゃんの手をぎゅっと握る。


せつ菜「……侑さん……っ……。……はい……っ……」


せつ菜ちゃんは目に浮かぶ涙を拭ってから、私の握手に応えるように両手で私の手をぎゅっと握りしめる。

そして、そんな私たちの頭にポンと手が置かれる。


善子「──それと……同じヨハネのもとから旅立った図鑑所有者としても……ね?」


ヨハネ博士だった。
629 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:07:40.20 ID:djK6Kzqg0

侑「ヨハネ博士……! 同じ図鑑所有者ってことは……!」

せつ菜「その……はい……。先ほど……ポケモン図鑑と……最初のポケモンを……頂きました……」


せつ菜ちゃんは少し恥ずかしそうに、目を伏せながら言う。


せつ菜「わ、私……その……侑さんに図鑑所有者でなくてもチャンピオンに、とか、なんか、いろいろ言ったから、そんな私が図鑑所有者になるのは、あれかと思うかもしれませんが、ですから、その……」

侑「よかったぁ〜〜!!」

せつ菜「わぁっ!?///」


私は思わずせつ菜ちゃんに抱き着いてしまう。


せつ菜「ゆ、侑さん……!?///」

侑「せつ菜ちゃんが……うぅん、菜々ちゃんが、やっと夢を叶えられて……よかった……」

せつ菜「侑さん……。……はい……」

侑「えへへ、これからはおんなじ図鑑仲間だ♪」
 「ブイ」


抱き着きながら、ニコニコ笑っていると、


歩夢「…………むー……」

侑「おとと……? 歩夢……?」


歩夢が、私の腕に抱き着いてくる。


侑「え、えっと……どうしたの……?」

歩夢「…………むー……」


歩夢はぷくーっと頬を膨らませたまま、不満そうにしている。

わ、私……何かしたかな……?

そんな歩夢に、


しずく「歩夢さん、言いたいことがあるなら、ちゃんと言わないと、侑先輩にはわかりませんよ? 鈍感なんですから」


しずくちゃんがそんなことを言う。


歩夢「…………知ってるけど…………。……むー……」

侑「え、えっと……?」
 「ブイ…」

侑「え、なんでイーブイ呆れてるの……?」

リナ『さすがの私もこれには、リナちゃんボード「あきれ」』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「リナちゃんまで!?」


ホントになんなの……!?

私が歩夢の反応にあたふたする中、


せつ菜「……そうだ、しずくさん」

しずく「はい?」


せつ菜ちゃんがしずくちゃんの手を取って──


せつ菜「私……結局、守ろうとした直後に敵対関係になってしまったせいで……まだしずくさんのことを、ちゃんと守れていません」
630 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:09:16.02 ID:djK6Kzqg0

せつ菜ちゃんは片膝を折って、


せつ菜「……何かあったら、1回だけ守るというのは約束したことなので……何かあったら言ってくださいね? 今度こそ、私が命を懸けてお守りします!」


まるで王子様のように、しずくちゃんに向かってそう宣言する。


しずく「へっ!?/// い、いや、ですがあれは私が騙したようなものなので、そんな律義に守らなくても……!?///」

せつ菜「いえ……私はあの一時だけでも、貴方のあの言葉に救われたんです……。ですから、守らせてください」

しずく「で、でも……/// ……じ、じゃあ……そういうときがあったら……///」

せつ菜「はい、お任せください!」

しずく「……///」


しずくちゃんが顔を真っ赤にしながら、しおらしい反応をする。


かすみ「ちょっとしず子!! 何、満更でもなさそうな顔してんの!?」

しずく「だ、だって……///」

リナ『一瞬であちこちに修羅場を作り出してる……せつ菜さん恐るべし……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

せつ菜「え? えっと……?」


私たちを見て、ヨハネ博士が、


善子「くっくっく……賑やかで何よりね。でも、仲良くしなさいよ。貴方たちはみんな、このヨハネのリトルデーモンなんだから」


そう言って笑うのだった。





    🍊    🍊    🍊





曜「一件落着……みたいだね」

花丸「千歌ちゃんが、せつ菜ちゃんとの戦いには手を出さないで欲しいって言いだしたときは、どうしようかと思ったけど……」

梨子「千歌ちゃんったら……すっかりチャンピオンになってたんだね。ちゃんと一人のトレーナーとして……せつ菜ちゃんに道を示した」

ルビィ「ルビィもジムリーダーとして、見習わなくちゃ……!」

千歌「…………」

曜「千歌ちゃん?」


曜ちゃんが、反応がない私の顔を覗き込む。

でも、もう……無理……。

──バタン。


曜「わー!? 千歌ちゃん!?」

梨子「ち、千歌ちゃん!? もしかして、バトルで怪我したんじゃ……!?」


──ぐ〜……。


曜・梨子「「…………」」

花丸「人間、空腹には勝てないずら」

ルビィ「千歌ちゃん……ここに来る前に、あんなに食べてたのに……」
631 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:09:55.75 ID:djK6Kzqg0

たくさん動きすぎて、お腹空いた……。ついでに、眠い。


千歌「…………お腹空いた……眠い……疲れた……もう、ダメ……」

梨子「帰るまで頑張りなさい……って言いたいところだけど……今回ばかりはね……」

曜「カイリキー、千歌ちゃんのこと運んであげて」
 「──リキッ」

ルビィ「あ……! ルビィ、飴さんなら、持ってるよ!」

千歌「食べさせてー……」

ルビィ「うん。はい、口開けて」

千歌「あーむ……」

花丸「棒が喉の奥に刺さらないように気を付けてね?」

千歌「ふぁ〜い……」

梨子「……棒付き飴なんだ……」

善子「うわ……!? カイリキーに抱えられてだらけた千歌の口に、ルビィが飴を押し込んでる……!? 何事……!?」

曜「おー……善子ちゃんが的確に状況を説明してる……」

善子「善子じゃなくてヨハネよ!!」


みんなが甘やかしてくれる……幸せー……。

身に沁みる飴の甘さを感じながら、私はぼんやりと──せつ菜ちゃんに目を向ける。
632 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:10:49.08 ID:djK6Kzqg0

侑「そういえばさ、そういえばさっ! せつ菜ちゃんが貰った最初のポケモンってどんな子なの!?」

せつ菜「あ、はい! 出てきて、ダクマ!」
 「──ベァーマ…」

歩夢「わ、可愛い♪」

侑「ダクマ! この子がせつ菜ちゃんの最初のポケモンなんだねっ!」

せつ菜「最初というか、最後というか……少し言い方に悩んでしまいますけどね……」
 「ベァ?」

せつ菜「あ、そうだダクマ! おやつがあるので、食べませんか? えっと……」
 「ベァーマ」

歩夢「せつ菜ちゃん、ゲンガー用にあげたやつまだ余ってる?」

せつ菜「え? あ、はい。たくさん貰ったのでまだありますけど……」

歩夢「うん♪ じゃ、桃色の“ポフィン”をあげようね♪ ダクマが好きな味だから♪」

せつ菜「え、でも……ダクマだけ、自分用のおやつがないのは可哀想です……。……ゲンガーもおやつを取られたら嫌でしょうし、私が前に作ったやつが確か……」

歩夢「私がいくらでもあげるから、ダクマには桃色の“ポフィン”をあげようね?」

せつ菜「あ、歩夢さん……? ……な、なんだか……すごく圧が強いです……。ですが、私が作った自慢のやつがあるんです! ダクマ! おやつですよ!」
 「ベ、ベァ…」

かすみ「し、しず子……あれ、炭みたいな色してない……?」

しずく「というか……炭そのもののような……」

歩夢「あーーーーーサスケーーーーー人のもの勝手に食べちゃダメだよーーーーー」
 「シャーーーボッ」

せつ菜「あーーーーーっ!? 私特製の自慢の“ポフィン”がーーーーっ!?」

リナ『歩夢さんとサスケの尊い行いによって、また1匹のポケモンの命が救われた……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「ごめんね、せつ菜ちゃん……。……お詫びに今度、私と一緒に“ポフィン”作らない?」

せつ菜「え……! い、いいんですか!?」

歩夢「うん♪ “ポフィン”はみんなで作った方がおいしくなるから、一緒に作ろう♪」

かすみ「歩夢先輩! かすみんも一緒にいいですか!? 歩夢先輩のお菓子作りの技術を盗──じゃなくて、教えてください!」

しずく「あ、それなら私もご一緒したいです」

歩夢「うん♪ みんなで作ろう♪ ──そのときに上手な作り方を徹底的に教えなくちゃ……うん」

せつ菜「? 歩夢さん、何かおっしゃいましたか?」

歩夢「うぅん♪ なんでもないよ♪」

侑「じゃあ、私はみんなが作ったのを食べるね! えへへ、楽しみ……」
 「ブイ…」

リナ『ポケモン用のお菓子なのに、自分が食べる話ししてる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||


賑やかなあの子たちを見ていると──まるで昔の私たちを見ているような気持ちになった。


千歌「せつ菜ちゃん……よかったね……」


仲間に囲まれた彼女は……きっともう大丈夫……。

私は……チャンピオンとして、一人のポケモントレーナーとして……大切なことを教えてあげられたことに安堵するのだった。



633 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:11:17.71 ID:djK6Kzqg0

    👠    👠    👠





果林「……」

彼方「……」

果林「……懐かしいな」

彼方「……そうだね」


侑たちを見ていると……昔の自分たちを思い出す。

同じ志を持った仲間たちと……過ごした日々を……。


果林「私たち……いつから……すれ違っちゃったのかしらね……」

彼方「果林ちゃん……」

果林「私はどこから……間違っちゃったのかしらね……」

彼方「…………」

果林「…………」

彼方「……やり直せばいいよ」

果林「ふふ……簡単に言うんだから……」

彼方「みんなが笑える世界を……目指そう……昔みたいに……一緒に……」


彼方が私の手を握る。


果林「……そうね。……彼方……後のことは……よろしくね……」


彼方には……この言葉で十分伝わるはずだ。彼方は……私の家族だから。


彼方「……大丈夫。私、頑張りながら……待ってるから……」

果林「……うん」

エマ「ま、待って……どういうこと……?」


そんな私たちの会話を聞いて、エマが瞳を揺らしながら訊ねてくる。


果林「どう足掻いても、私はこの後、国際警察に捕まるって話……釈放されるのに、どれくらい掛かるかしらね……」

エマ「そ、そんな……!」

果林「いいのよ、エマ。……それでいいの」

エマ「果林ちゃん……」

果林「私が出来る限りの罪を背負うから……外に出るのは、時間が掛かっちゃうかもしれないわね……」

姫乃「……! 果林さん、それって……!」

果林「……この一連の問題は全て──私が無理やり命令して従わせた。そういうことよ。姫乃も愛もね」

姫乃「ま、待ってください……! 私は……そんなことされても嬉しくありません……!」

果林「姫乃……」

姫乃「果林さんが負けを認めて、檻に入ることを選ぶなら……私もお供します……。……させてください……」

果林「……ありがとう、姫乃」


最初は利用するつもりでしかなかったのに……姫乃はいい子だった。……最後まで、私に付き従ってくれるらしい。
634 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:12:19.94 ID:djK6Kzqg0

せつ菜「──なら……私も一緒に檻に繋がれるべきです」

果林「せつ菜……」


いつから聞いていたのか、気付けばせつ菜が私たちの方へやってきて、自分にも責任があると言いだした。


果林「……ダメよ、それこそ貴方は私が利用しただけ。関係ないわ」

せつ菜「いいえ……私は自分の意志で貴方たちに付いて行きました。貴方たちが裁かれるなら、私も同じように裁かれて然るべきです」

果林「……子供がかっこつけるんじゃない」

せつ菜「な……」

果林「自分の意志でとは……よく言うわね。まんまと心の弱みに付け込まれて利用された分際で」

せつ菜「それは……」

果林「貴方は、貴方の帰るべき世界があるでしょう? ……なら、そこに帰りなさい」

せつ菜「…………」

果林「特に……親や……自分を大切にしてくれる人を悲しませちゃダメよ……」


せつ菜の後方にいる──彼女の両親や……彼女をずっと見守ってきたであろう真姫……そして、彼女たちの仲間を見ながら。


果林「なんて……私が言えた話じゃないけどね……」

せつ菜「果林さん……」


せつ菜は何か言いたげだったけど──後方の両親たちや仲間と私を何度か見比べたあと、


せつ菜「…………」


私に向かって、綺麗なお辞儀をしてから、仲間たちのもとへと──帰っていった。


果林「それと……愛もね。……愛は本当に私が無理やり従わせてただけだから……」

彼方「そういえば……愛ちゃんはどこにいるの……?」

果林「あちこち移動しているせいですぐにはわからないけど……発信機があるから、それでちゃんと見つけて……もう終わったことを伝えるわ。私たちの負けだって……」


それで全て終わり……。やっと全部……終わりなんだ……。





    🎹    🎹    🎹





リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||

侑「リナちゃん……行かなくていいの?」


果林さんたちをじっと見つめているリナちゃんに、そう訊ねる。

リナちゃんにとって……果林さんたちは、かつての仲間だ。……あの場に行きたいんじゃないかな……。


リナ『うぅん……いい。私はコピーだから……。璃奈はもう、死んだんだよ。あの輪に加わるべきなのは、私じゃない』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「リナちゃん……」

リナ『それに今の私は、侑さんのポケモン図鑑だから!』 || > ◡ < ||

侑「……わかった。リナちゃんの意思を尊重する」

リナ『ありがとう、侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||
635 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:12:50.49 ID:djK6Kzqg0

粗方の話もついて……。

あとは──


侑「あとは……帰るだけだね」
 「ブイ」

かすみ「ですね」


私たちは歩夢と、しずくちゃんと、せつ菜ちゃんを無事救出し……果林さんの野望も食い止めた。

やっと戦いが終わったんだ……。

──そう思った、そのときだった。


 「──しずくちゃーーーーんッ!!!」


空から電子音のような声が降ってきた。


しずく「この声……もしかして、ロトム……?」

 「やっと見つけたロトッ!!!」


焦った様子で、しずくちゃんの目の前にロトム図鑑が舞い降りてくる。


しずく「どうしたんですか……?」

 「た、大変ロトッ!!!」


焦った様子のロトムが口にしたことは、


 「やぶれた世界に居た、マリーたちが…愛って人にやられたロト…!!!」

しずく「え!?」


まさに青天の霹靂。私たちの知らない場所で、まだ事態が動いていたことを知らされる。


侑「ど、どういうこと!?」

 「ゲートを狙われたロト…あまりに強すぎて、果南ちゃんもダイヤちゃんも歯が立たなかったロト…」

果林「──なるほどね……愛はゲート側に行ってたのね……」


そう言いながら、彼方さんに手を引かれる形で、果林さんがこちらに歩いてくる。


果林「……今すぐ、愛を呼び戻すわ。もう戦闘が終わったことを伝える」


果林さんが愛ちゃんを止める旨を口にした瞬間──


 「──その必要はないよ」


またしても、空から声が降ってきた。

その場にいた全員が、空を見上げると、


愛「……アタシはここにいるから」
 「アーーゴ」


黄色と黒の巨大なハチのようなポケモンに掴まった──愛ちゃんがいた。
636 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:13:32.00 ID:djK6Kzqg0

侑「愛ちゃん……!」

果林「愛……もう戦いは終わったの……! 私たちの負けよ……!」

愛「……みたいだね。まんまと負けちゃったみたいでまぁ……」

果林「……ごめんなさい。でも、出来る限りの責任は私が負うから……だから──」

愛「んー……別にそれはどうでもいいや」

果林「どうでもいい……?」

愛「挨拶しにきただけだから──」
 「アーーーーゴッ!!!!!」


直後、上空から──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いできた。


侑「……!? イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーィィッ!!!!」

歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイーーーッ!!!」


咄嗟に私たちに向かってくる流星をフェアリー技で掻き消すが──大量の“りゅうせいぐん”を全ては捌ききれず、


侑「くっ……!! 歩夢、伏せて!!」

歩夢「きゃっ!!?」

せつ菜「……くっ! せ、せめて、戦えるポケモンが残っていれば……!」

かすみ「しず子……!!」

しずく「きゃっ!?」



全員でその場に伏せる。

でも──数が多すぎる。


果林「愛!! やめなさい!! ……くっ……!!」

彼方「エマちゃん!! 遥ちゃんと姫乃ちゃんと一緒に、わたしの近くで伏せてて!!」

エマ「う、うん……! 遥ちゃん! 姫乃ちゃん!」

遥「は、はい……! 姫乃さんも……!」

姫乃「あ、愛さん……一体何を……」


みんなが伏せる中、


彼方「ネッコアラ!! “ウッドハンマー”!! コスモウム!! “コスモパワー”!!」
 「コァッ!!!」「────」


彼方さんのネッコアラが流星を強引に叩き落とし、コスモウムが頑強な体で隕石を破壊する。

さらに──
637 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:14:01.99 ID:djK6Kzqg0

曜「カメックス!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメェーーーッ!!!!」

梨子「メガニウム!! “ハードプラント”!!」
 「ガニュゥーーーッ!!!!」

ルビィ「コラン!! “ひかりのかべ”!!」
 「ピピピッ」

花丸「デンリュウ!! “チャージビーム”ずら!!」
 「リューーーッ!!!」

千歌「はぇ!? なになに!? うわぁ!? でっかい隕石降ってきてる!?」

善子「あんたは寝てなさい!! アブソル!! “かまいたち”!!」
 「ソルッ!!!!」


図鑑所有者の先輩たちが、隕石を破壊していく。

少し離れたところにいた、せつ菜ちゃんのお父さんやお母さんたちは、


真姫「絶対私から離れないで!! ハッサム!! “バレットパンチ”!!」
 「ハッサムッ!!!!!!」


真姫さんのハッサムが守っている。

しばらく、流星による攻撃が続いたが──実力者たちの尽力によって、どうにか凌ぎ切る。


愛「……へー……耐えきるのか。さすがに実力者揃いだね……」

彼方「……さ、さすがに……戦闘で疲れきってるところに、この攻撃は堪えるよ〜……」

遥「それより……あのポケモン……なに……?」

しずく「ウルトラビーストじゃないんですか……? アーゴヨンってポケモンじゃ……確かに、色が違いますけど……」

善子「いや……データで見たアーゴヨンとは……姿が違う……。色違いだとしても……あんなエネルギーの塊みたいな、光る翼を持っているポケモンじゃない……」


確かに愛ちゃんのアーゴヨンは──見ているだけで目が焼かれそうなくらいの、超オレンジと言いたくなるような強烈な閃光を放っていた。

そして、お腹にある毒針らしき場所からも、バヂバヂと音を立てながら、エネルギーを爆ぜ散らしている。


愛「ああ、この子はね……。……ベベノムが……愛さんの気持ちに応えた姿だよ」

侑「気持ちに……応えた……姿……?」

善子「……まさ……か……」


その言葉を聞いて、ヨハネ博士が目を見開いた。


善子「……キズナ……現象…………」

愛「……へー……知ってる人がいるとは思わなかった。そうキズナだよ! この子はずっとアタシと共に、目的のために戦い続けてきた……!! そして、目覚めたんだよ!! キズナの力が……!!」
 「アーーーーゴッ!!!!!!」


アーゴヨンが、超オレンジの閃光翼を羽ばたかせると──周囲にとんでもない勢いの風が発生する。
638 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:14:34.71 ID:djK6Kzqg0

侑「ぐぅ……!?」

歩夢「きゃぁ……!?」

せつ菜「ふ、風圧が強すぎて……! た、立っていられない……っ……!!」

果林「愛ッ!! もうやめなさい!! これは命令よ!! もう、戦いは終わったの!!」

愛「へー……」

姫乃「愛さんっ!! 何を考えているんですかっ!? 味方まで巻き込むつもりですか……!?」

愛「……アタシは最初から……カリンも姫乃も……味方だなんて、思ってなかったけど?」

姫乃「なっ……」

果林「彼方!! さっき私から回収したリモコン貸して!!」

彼方「り、了解〜!!」


彼方さんが取り出したリモコンを、手錠をした果林さんの手に受け渡す。

恐らく──前に聞いた、愛ちゃんの首に着けられたチョーカーに電撃を流すボタンだ。


果林「愛ッ!! 止まりなさいッ!!」


果林さんがボタンをポチリと押したが──


愛「…………」


愛ちゃんはケロリとした顔をしている。


果林「な……なんで……!?」

愛「はぁ……こんなおもちゃで本当にアタシに言うこと聞かせられると思ってたんだね」


そう言いながら、愛ちゃんは──チョーカーに手を掛け、バキっと折りながら外してしまった。


果林「な……そんな外し方したら……電撃が……」

愛「こんなのね、着けられたその日にはもう外してたよ……」

果林「嘘……それじゃ、今までは……」

愛「そ、逃げられないフリして……カリンのこと利用してただけ」

果林「ど、どうして……そんな……?」

愛「このポケモンたちを手に入れるためだよ……」


愛ちゃんはそう言いながら──3つのボールを放り投げる。

そのボールから飛び出したのは──


 「──ディアガァァ…」「──バァァァル…」「──ギシャラァァァ…」


とてつもない威圧感を発する、3匹の巨大なポケモンの姿。


侑「……な、なに……あの、ポケモン……」

かすみ「い、一匹はギラティナですよね……!? で、でも、やぶれた世界以外じゃ、あの姿になれないんじゃ……」


私たちの疑問に答えるように、愛ちゃんが口を開く。
639 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:15:13.29 ID:djK6Kzqg0

愛「この子たちはね……真の姿を取り戻した、時の神、空間の神、反物質の神だよ……」

善子「まさかそれが……ディアルガ、パルキア、ギラティナの……本来の姿……ってこと……?」

愛「そーゆーこと」

彼方「そのポケモンたちを捕まえて、何するつもりなの……!?」

愛「それは簡単だよ。……これから、世界を── 一つに繋げるんだよ……」

善子「世界を一つに……繋げる……?」

愛「……もうちょっと具体的に言うとね……ウルトラスペース内の特異点を……神の力でインフレーションさせて、全宇宙のありとあらゆるエネルギーを均一化する……」

善子「なん……です……って…………?」


ヨハネ博士がその言葉に目を見開く。


善子「あんた、そんなことしたら全世界が──いや、全宇宙がどうなるかわかってんの!? それってつまり、全宇宙の熱的死が訪れるってことよ!?」

愛「もちろん。……ありとあらゆるエネルギー差異が消滅して……全てが無になる……」

善子「そんなことしたら、あんたも消えることになる!! 何考えてんの……!!?」

愛「……りなりーを迎えに行くんだよ」

果林「え……」

彼方「璃奈、ちゃん……を……?」

愛「全てが無になった──物質が消え去り……情報しかなくなった世界……つまり、全てがりなりーと同じになる……」

果林「愛……あ、貴方……何……言ってるの……?」

愛「ねぇ、カリン、カナちゃん。……りなりーが最期になんて言ってたか知ってる……?」


愛ちゃんは果林さんたちを見下ろしながら──


愛「……もし生まれ変われるなら……次は、みんなと繋がりたい……そう言ったんだ……。……だから……アタシがりなりーの夢を叶える……全宇宙を……情報レベルでバラバラになったりなりーと……一つに……繋げるんだ……」

果林「なに……言ってる……の……?」

善子「……狂ってる……」

愛「狂ってる? ……あははっ! だろうねっ! アタシはりなりーを失ったあの日から、もう狂ってるんだよ!! ……りなりーを奪った、世界のせいで……!」

果林「奪ったって……あ、あれは事故で……」

愛「あれが本当に不幸な事故だったと思ってんの?」

果林「え……」

愛「……確認したらさ……ウルトラスペースシップに細工してやがったんだよね……アイツら……。……ご丁寧にアタシたちが出発前点検を済ませた後に……」

彼方「ま、まさか……それじゃあ、あの事故は……」

愛「そうだよ。……政府方針に反対するアタシたちを消すために……仕組まれたんだよ」

果林「そん……な……」

愛「だから、こんな世界に未練なんてない。アタシはりなりーの望みを叶える。他のことなんてどうでもいい。……あはははははっ!! やっとこの時が来たんだ……!!」


愛ちゃんは高笑いを上げながら、そう宣言する。

そのとき、


リナ『──そんなこと、璃奈は望んでないッ!!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


大きな声をあげながら──私の傍から、リナちゃんが飛び出した。


侑「リナちゃん……!?」


勢いよく飛び出したリナちゃんが、愛ちゃんの目の前に相対する。
640 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:15:57.17 ID:djK6Kzqg0

愛「……何?」

リナ『璃奈はそんなこと望んでない!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

愛「……リナちゃん……だっけ? 名前が同じだけのロトム図鑑の分際で……りなりーの何がわかるの?」

彼方「愛ちゃん、その子は璃奈ちゃんなの!!」

愛「……は?」

彼方「璃奈ちゃんの記憶を持ってる子なの……!!」

愛「嘘でしょ……?」

リナ『彼方さんの言ってることは……嘘じゃない……。私はロトム図鑑じゃない。……璃奈の記憶をベースに作られた……AIだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「……ベースに……か」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………じゃあ、答えてよ……」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………君は……りなりーなの……?」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………」

リナ『…………璃奈では……ない。……私は……コピー。……璃奈は今も……情報として……どこかを……漂ってる……。……璃奈は……もう……絶対に生き返らない……』 || 𝅝• _ • ||

愛「………………。…………だよね…………知ってる。……知ってるよ。……だって──りなりーの作った理論に……そう書いてあったから……りなりーの提唱した理論には……一度情報レベルでバラバラになった人間を……完全に復元するのは絶対に不可能だって……」

リナ『…………』 || 𝅝• _ • ||

愛「何度も何度も何度も何度も何度も何度も……計算しなおした……。もしかしたら、万に一つ、億に一つ、兆に一つ……あの理論が間違ってて……りなりーを救える可能性があるかもしれないって。でも…………りなりーが作った理論が……間違ってるはず、なかった……。……ないんだ……。……だって、りなりーが作った理論だから……。……りなりー自身が……もうりなりーが帰ってこないことを……証明してたんだ……」

リナ『…………』 || > _ <𝅝||

愛「でもさ……」


愛ちゃんはギュッと拳を握りしめて──


愛「……こんなときくらい──嘘……吐いてよ……」


絞り出すような声で……そう、言った。


リナ『……愛、さん……』 ||   _   ||

愛「そうじゃなきゃ……アタシ……っ……。……もう、本当に……止まれないじゃん……っ……」


愛ちゃんは──泣いていた。

直後──アーゴヨンの背後に巨大なウルトラホールが出現し、


愛「…………もう……全部終わりだ……この世界も、この宇宙も……全部……一つになる……。……りなりーと……一つになって……繋がるから……──」

リナ『愛さんっ!!』 || > _ <𝅝||


愛ちゃんは……ホールに飲み込まれて──消えてしまったのだった。



641 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:17:41.04 ID:djK6Kzqg0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口

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