侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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42 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:15:03.22 ID:Lud+ZHkk0

“いきいきバブル”を蒸発させながら、イーブイごと焼き尽くす。

しかも、その技の範囲が尋常ではなく、


かすみ「あち、あちちちっ!?」

侑「ぐ、ぅぅぅぅっ!!?」


私たちトレーナーの方まで熱波が襲ってくる。

咄嗟に顔を庇うが──熱だけでなく、強烈な風によって、


かすみ「ぴ、ぴゃぁぁぁぁ!?」

侑「ぐぅ……!!」


立っていることもままならず、かすみちゃんもろとも吹き飛ばされて、地面を転がる。

転がりながらも、


侑「っ……! い、イーブイは……!」


どうにか顔を上げると、


 「ブ、ブィィィ!!!?」

 「コーン!!!!」


イーブイはすでにキュウコンに前足で押さえつけられていて、


果林「“かえんほうしゃ”!!」
 「コーーンッ!!!!」

 「イブィィィィッ!!!!!!」
侑「イーブイ!?」


至近距離から強烈な火炎によって焼き尽くされた。


 「イ…ブ、ィ…」
侑「イーブイ……っ……!」

果林「これでわかったでしょう? 力の差は歴然──」

侑「ライボルト!! ウォーグル!!」
 「ライボッ!!!」「ウォーーーッ!!!」

かすみ「ジュカイン!! テブリム!!」
 「カインッ!!!」「テブテブッ!!!」

果林「……愛、手伝ってくれない?」

愛「アタシはパ〜ス♪ エンジニアだし〜♪」

果林「都合のいいときだけ、エンジニア気取りするんだから……。はぁ……わかったわよ」


果林さんは溜め息を吐いて、


果林「本当の絶望を──見せてあげるわ」


そう言って、パチンと指を鳴らした、瞬間──


 「ウォーーッ!!!?」


ウォーグルが何かの攻撃を受けて後方に吹っ飛んだ。


侑「え……?」
43 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:15:39.00 ID:Lud+ZHkk0

何が起きたのか、理解する間もなく。


 「カインッ!!!?」


今度はかすみちゃんのジュカインが上から攻撃を叩きつけられて、足元の石畳にめり込む。


かすみ「ジュカイン!?」

侑「敵の動きが、見えない……!? ……っ、“ほうでん”!!」
 「ライボッ!!!」


私は咄嗟に範囲攻撃で対応する。

いくら速くても、周囲に展開される、電撃なら……!


果林「範囲攻撃なら……当たる、とでも?」

侑「……!?」


直後、


 「ライ、ボッ!!!!」


ライボルトの懐に潜り込み、顎下から蹴り上げるポケモンの姿が見えた。

真っ白な上半身と、真っ黒下半身をした──細身のポケモン。見たことのないポケモンだった。


侑「ライボルト……!?」


ライボルトは真上に向かって数メートルは吹っ飛ばされ──しばらく空中を舞ったあと、強く地面に叩きつけられた。


侑「っ……ドロンチ!!」
 「ロンチッ!!!!」


私が次のポケモンを繰り出した直後、


かすみ「……フェロー……チェ……?」


かすみちゃんが声を震わせながら、そう言葉にした。


侑「フェローチェ……? かすみちゃん、何か知ってるの……!?」

かすみ「なんで……なんで、そんなの……──ウルトラビーストを使ってるんですか!?」


ウルトラ……ビースト……?


果林「なんでって──ウルトラビーストをこの世界に呼んだのは、私たちだもの」

かすみ「!! じゃあ、お前のせいで、しず子が……!!」

果林「はぁ……もう、そういう熱血展開飽きちゃったわ、フェローチェ」
 「フェロ」


果林さんが溜め息を吐きながら、言った瞬間、


 「テブッ!!?」


目にも止まらぬスピードで、テブリムが蹴とばされる。蹴とばされたテブリムは剛速球のように──ヒュンと風を切りながら、


かすみ「ぐぇっ……!?」
44 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:16:12.29 ID:Lud+ZHkk0

かすみちゃんのお腹に直撃し、ポケモンだけでなくトレーナーごと吹っ飛ばした。


侑「かすみちゃんっ!?」


テブリムと一緒に数メートル吹っ飛んで、石畳の上を転がり──かすみちゃんは……くたりとして動かなくなった。


歩夢「いやぁぁぁぁぁッ!!!!?」


それを見て、歩夢が絶叫する。

そして、次の瞬間には、


果林「“じごくづき”」
 「フェロ」

 「ロンチ!!?」


ドロンチが攻撃を受けて、私の真横スレスレを猛スピードで吹き飛んでいった。


侑「…………う……そ……」


私は、ペタンと尻餅をついた。

ダメだ……勝てない……。

相手が……強すぎる……。


果林「……おイタが過ぎたわね」
 「フェロ」


フェローチェが私の目の前で足を振り上げた。


歩夢「逃げてええええぇぇぇぇっ!!!!」


響く歩夢の絶叫。

尻餅をついた私に振り下ろされる、フェローチェの脚、スローモーションになる景色。

そのとき──私の目の前に影が割って入った。


彼方「“コスモパワー”!!」
 「────」


──ガキィンッ!! と音を立てて、フェローチェの攻撃が弾かれる。


果林「……! 彼方……」

侑「か、彼方、さん……」

彼方「侑ちゃん……へい、き……っ゛……?」


私そう訊ねながらも、彼方さん相変わらず酷い顔色のままで、足元が覚束ない。


果林「ふふ……随分、体調が悪そうじゃない」

彼方「……果林、ちゃん……狙いは……私とこの子、でしょ……! 関係ない子たちに……手を、出さないで……!」
 「────」


この子──彼方さんのすぐ傍にいるポケモン……金色のフレームのようなものの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている姿をしたポケモン……。

あれ、どこかで……。


侑「……そうだ、ロッジの天井にあったオブジェ……」
45 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:17:25.76 ID:Lud+ZHkk0

そのポケモンはコメコの森のロッジに泊まったとき、天井に釣り下がっていたオブジェと同じ姿をしていた。


果林「……どこに隠したのかと思ったら──コスモウムに進化していたのね。……それじゃ、もうエネルギーにならないじゃない」

愛「どーりでいくら“STAR”を探しても、センサーすら反応しないわけだ……」

彼方「いい、から……! ……歩夢ちゃんを……放して……!」

果林「断るわ。この子は私たちのこれからの計画に必要なの」

彼方「い、一体……なにする、つもりなの……!?」

果林「もう利用価値のない人間に、教えることはないわ──“むしのさざめき”!!」
 「フェローーーー!!!!」


──目の前フェローチェから、とてつもない高周波が、発せられ、


 「────」


振動の衝撃で、彼方さんのコスモウムと呼ばれていたポケモンを吹き飛ばす。

しかも、フェローチェの“むしのさざめき”はそれだけに留まらず、


侑「ぃ゛、ぁ゛……ッ!!!」


余波だけで近くにいた、私たちトレーナーも巻き込み始める。

直撃しているわけじゃないはずなのに、頭が割れそうになるような、とつてもない高周波。

だけど、私なんかとは比べ物にならないくらいに、


彼方「──あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁッ!!!?」


彼方さんが苦しみ始めた。


侑「かな゛、た゛、さん……ッ……!?」

彼方「う゛、ぁ゛、う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁッ!!!!」


彼方さんは、瞳孔が開ききり、頭を押さえて、のたうち回っている。


果林「ふふ……ただの攻撃だったら耐えられたかもしれないけど──貴方たち姉妹の記憶には、この音に対する恐怖が刻みつけられているものね……」

彼方「あ゛、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!!」

侑「ぐ、ぅぅぅぅ……ッ……!!!!」


私も、もう限界だった。意識が飛びそうになった、そのとき──目の前に紺色の袋のようなものが飛び込んできた。


かすみ「──“じばく”……ッ!!」
 「ブクロォォォ!!!!」

 「フェロッ!!?」
果林「!?」


それはヤブクロンだった。かすみちゃんのヤブクロンが飛び込んできて──フェローチェの目の前で、“じばく”した。


侑「っ゛!?」


至近距離で起こった爆発によって、身体が宙を浮いた瞬間、


 「──ニャァッ!!!」


ピンチを察したのかニャスパーが勝手にボールから飛び出し、“テレキネシス”で私と彼方さんの身体を浮かせて落下の衝撃を防いでくれる。
46 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:18:07.17 ID:Lud+ZHkk0

侑「はぁ……っ……はぁ……っ……あ、ありがとう……ニャスパー……」
 「ニャァ」

彼方「ぅ……ぐ、ぅ……」

かすみ「侑、先輩……っ……! かな、た先輩……っ……!」


かすみちゃんが、よろけながら、私たちのもとへと歩いてくる。


かすみ「だいじょうぶ……ですか……」

侑「……か、かすみちゃん……身体は……」

かすみ「かす、みん……これくらい……へい、き……です……」


かすみちゃんはそう言うけど、見るからに満身創痍。もう限界だ。


彼方「かす、み……ちゃん……たた、か……っちゃ……ダメ……ゆうちゃん、と……逃げ、て……──」

侑「彼方さん……っ!!」


彼方さんは最後にそう言い残すと──意識を失ってしまった。


かすみ「歩夢、先輩……取り、戻したら……そっこーで、逃げ、ますよ……」

侑「……かすみ、ちゃん……」


あくまで強がるかすみちゃんを見て、果林さんは感心した風に口を開く。


果林「……さすがに驚いたわ。咄嗟に身を引かなかったら、やられてたかもね」
 「フェロ…」

かすみ「どんな、もんですか……! ヤブクロン、が……一発、かまして、やりましたよ……!」

果林「はぁ……弱いネズミでも、追い詰められると噛み付いてくるものね。……いいわ、ちゃんと──殺してあげる」


果林さんの目に──明確な殺意が宿った。


歩夢「侑ちゃんっ!! かすみちゃんっ!! 逃げてぇぇぇっ!!」

果林「フェローチェ」
 「フェロ」


またしても、フェローチェの姿が掻き消える、そして次の瞬間には──かすみちゃんの目の前で脚を振り上げたフェローチェの姿。

でももうかすみちゃんには、どう考えても避ける体力すら残ってない。


侑「──かすみちゃん……っ!!」

かすみ「ゆ、ぅ……せんぱ……」


私はかすみちゃんを庇うように、飛び付く。

でも──振り下ろされる脚を避け切るのは不可能……もう、間に合わない。

ぎゅっと目を瞑って──死を覚悟した、そのとき、


歩夢「──もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!!」


歩夢の叫びが一帯に響き渡った。

──フェローチェの脚は、私の脳天を掠るか掠らないかの場所で、ピタリと止まっていた。
47 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:18:45.17 ID:Lud+ZHkk0

果林「……」

歩夢「もう……もう、やめてください……っ……!! これ以上、侑ちゃんたちに、酷いことしないで……っ……!! か、果林さんに……付いていきます……だから、もう、酷いこと……しないで……っ……」

侑「あゆ、む……?」

果林「貴方たち、歩夢のお陰で命拾いしたわね」


そう言うと、歩夢の周囲にあった“ほのおのうず”が掻き消える。


果林「さぁ、行きましょう。歩夢」

歩夢「……はい……っ……」
 「シャーーーーッ!!!!!」

歩夢「サスケ……大人しくしてて……」
 「シャ、シャボ…」

愛「ん、話付いたみたいだね」


直後、愛ちゃんの背後に──さっきせつ菜ちゃんが消えていった空間の穴のようなものが出現する。

歩夢は果林さんと一緒にそこに向かって歩いていく。

ダメだ──


侑「歩夢……行っちゃ……ダメだ……!」


私は、力を振り絞って、立ち上がった、けど、


歩夢「侑ちゃん……来ないで……」

侑「……!!」


歩夢の言葉に私の身体が固まる。


歩夢「ごめんね……」

侑「あゆ……む……」


私は、へなへなとその場にへたり込む。


果林「さぁ、歩夢この穴に──」

 「──待ってください!!」


突然、通る声が響く。それは、


しずく「…………」


しずくちゃんだった。下で待っていたはずのしずくちゃんが、ここまで登って来ていた。


かすみ「しず……子……?」


しずくちゃんは、ツカツカと果林さんたちの方へ歩いていき、


しずく「…………私も、連れて行ってくださいませんか……♡」


信じられないことを口にした。


かすみ「しず……子……!?」

侑「え……」
48 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:19:18.88 ID:Lud+ZHkk0

しずくちゃんの様子がおかしい。

まるで熱にでも浮かされているような、トロンとした瞳で──フェローチェを見つめている。


しずく「フェローチェ……! 私はそのポケモンにまた会いたいとずっと思っていたんです……♡」

果林「ふふ……やっぱり来たわね、しずくちゃん」

しずく「はい……♡」

かすみ「しず子、ダメ……! そっちに行っちゃ……!」

果林「いいわ。私の言うことを聞けるって約束してくれたら……たくさんフェローチェを──魅せてあげる」

しずく「本当ですか……♡」


しずくちゃんの表情がぱぁぁっと明るくなる。


かすみ「……っ……!! サニーゴ……! “パワージェム”……!」
 「……サ」


かすみちゃんが、サニーゴをボールから出し──直後、ヒュンヒュンと光がフェローチェの方に向かって飛んでいく。

が、フェローチェはそれを軽々と脚で切り払うようにしてかき消す。


果林「まだ、立つ力が残ってるのね……」

かすみ「しず子は……行かせない……ぜ、ったいに……」

果林「……しずくちゃん、連れて行くには条件があるわ」

しずく「なんでしょうか……♡」

果林「あのうるさいのを──黙らせなさい。貴方の手で」

しずく「……はい、わかりました♡」

かすみ「え……」

しずく「インテレオン」
 「──インテ」


ボールから出てきたインテレオンが──かすみちゃんに向かって指を向ける。


かすみ「うそ……だよね……? しず子……?」

しずく「……」

かすみ「負けないでって……言ったじゃん……! あんなのより、かすみんを見てって……言ったじゃん……!」

しずく「私の邪魔、しないで……──“ねらいうち”」
 「インテ」


インテレオンの指から、音よりも速い水の弾丸が飛び出し──かすみちゃんの頭の左側に直撃する。


かすみ「っ゛……ぁ……」

侑「かすみちゃん!?」


着弾の衝撃で、かすみちゃんが石畳の上を転がる。

一拍置いて──カツーンと髪飾りが床に落下し、音を立てた。
49 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:20:08.69 ID:Lud+ZHkk0

かすみ「しず……子……」

しずく「次は髪飾りじゃなくて……眉間に当てるよ」

かすみ「しず……子……っ……」

しずく「……これで、よろしいですか♡」

果林「ええ、上出来だわ。……いらっしゃい、しずくちゃん」

しずく「はい♡」


しずくちゃんが、軽い足取りで果林さんのもとへと駆けていく。


愛「……あーあ、酷いことするね、カリン」


愛ちゃんが穴に吸い込まれるようにして消え、


果林「さぁ、しずくちゃん、この先に行くのよ」

しずく「はい♡ 仰せのままに……♡」


しずくちゃんが消え、


果林「次は貴方の番よ」

歩夢「……はい」


歩夢が、穴へと、歩き出す。


侑「歩夢……い、行かないで……」


歩夢「…………」


私の声を聞いて、歩夢の足が止まる。
50 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:20:49.29 ID:Lud+ZHkk0

果林「歩夢」

歩夢「…………っ」


侑「やだ……行かないでよ……歩夢……!!」


歩夢「侑ちゃん……」


歩夢が半身だけ振り向き、私を見て、言った。


歩夢「私はいつでも……侑ちゃんのこと、大切に想ってる……っ……。……どんなに離れていても……想いは同じだよ……っ……」


いつか、言ってくれた、伝えてくれた、言葉を。


侑「待って……待ってよ……歩夢……!!」


歩夢「……ちょっと……行ってくるね……っ……」


ポロポロと涙を零しながら、にこっと笑って──


果林「行くわよ」

歩夢「……はい」


侑「歩夢……っ!!!」


歩夢は、果林さんに背中を押され──空間の穴に消えていった。


侑「歩夢うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!!!」


私の叫びは……この地方の一番高い場所で──空に溶けて、消えていった……。



51 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:21:23.68 ID:Lud+ZHkk0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【黄昏の階】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.●⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.59 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.59 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.55 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.47 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.54 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      タマゴ  ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
 バッジ 6個 図鑑 未所持

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.54 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.51 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.49 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.49 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.49 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.48 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:191匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/17(土) 21:54:06.73 ID:QM1x0j150
頭の中のアニメの動きと台詞全部書き連ねましたみたいな冗長さ 
くどくても読ませる文章ならいいけどこのレベルでは……
ポケライブSS好きだけど流石にギブ、すまんな
53 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:11:43.19 ID:X9ltvPdj0

■Chapter051 『──かすみの願い』 【SIDE Yu】





──あの戦いのあと、私たちがどうなったのかはよく覚えていない。

気付いたら病院で治療を受けていて、気付いたら病院のベッドで寝ていた。

幸い、私の傷はそこまで酷くなかったが、ポケモンたちは酷く傷ついていたため、治療室で過ごしているそうだ。

かすみちゃんは……どうしているだろう。壊れてしまったリナちゃんは……彼方さんや遥ちゃんは無事だろうか……。

みんなの顔を見に行った方がいいのはわかっているけど──今は何もする気が起きなかった。

ただ、日がな一日、ベッドの上でただ窓の外をボーっと眺めながら過ごして……。

日に三度、規則正しく出てくる食事は……取ったところでほとんど吐いてしまうため、1口2口食べて後は全部残す。

でも……不思議と空腹は感じなかった。まるで、空腹というものを心が忘れてしまったかのようだった。

入院してすぐにお父さんとお母さんが持ってきてくれた果物も……食欲がなくて、全く手を付けていない。

看護師さんにはすごく心配されるけど、言っていることがあまり頭に入ってこず、全てが右から左へ通り抜けていく。

夜は消灯時間を過ぎても全然眠くならなかった。

ただ、ベッドで身を起こしたまま──真っ暗な病室でただ窓の外の月を眺めていた。

たまに意識が遠のいて──気絶したように眠り、起きたらただボーっとベッドの上で過ごす。それの繰り返し。

そんな風に過ごして──もう5日が経とうとしていた。


……そういえば、3日目くらいに、ポケモンリーグの理事長──すなわち、元四天王の海未さんが私の病室を訪れた。

事情を訊きたいとのことで。

私は訊かれた質問に対してただ淡々と答えた。

カーテンクリフに行ったこと。

せつ菜ちゃんが、ボロボロになった千歌さんを連れ去ったこと。

果林さんと愛ちゃんが悪い人だったこと。

しずくちゃんが付いて行ってしまったこと。

──歩夢が、行ってしまったこと……。

普段の私だったら、あの海未さんが目の前にいるとなれば、大はしゃぎだったと思う。

だけど……何も感じなかった。なんの感情も、湧いてこなかった。


──自分の中で大切な何かが壊れてしまったんだと、どこか俯瞰気味に自分を見つめている私がいた。





    🎹    🎹    🎹





──コンコン。病室がノックされる。


侑「…………」

善子『──侑……私、善子だけど……入るわよ』


今日も変わらずぼんやりと窓の外を眺めていると、病室にヨハネ博士が顔を出す。
54 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:12:32.44 ID:X9ltvPdj0

善子「侑……大丈夫──……なわけないわよね……。ごめんなさい……」

侑「…………」

善子「ご飯食べてる……? 親御さんが心配してたわよ……」

侑「…………」

善子「……侑……」

侑「…………出てこないんです」

善子「え……?」

侑「すごく……悲しいはずなのに……。……涙が、出てこないんです」

善子「…………」

侑「私……おかしくなっちゃったのかな……」

善子「……侑……っ……」


ヨハネ博士が、私の手をぎゅっと握る。


善子「……ごめんなさい……」

侑「……謝らないでください……博士……。……ヨハネ博士は、何も悪くないんですから」

善子「…………っ……」


きっと、ヨハネ博士も辛いよね。自分が旅に送り出した子たちが……こんなことになって。

ヨハネ博士は言葉を探していたけど──結局見つからなかったのか唇を結ぶ。


善子「……そうだ」


ヨハネ博士は自分のカバンからボールを6つ出して、ベッドの上に並べる。


善子「…………侑、貴方の手持ちとタマゴよ。みんな元気になったって」

侑「……そっか……よかった」

善子「……あと……かすみが貴方に会いたがってたわ」

侑「……かすみちゃん……元気になったんですね」

善子「えぇ……まだ頭に包帯巻いてるけどね。……無理にとは言わないけど、今病院の中庭にいると思うから……侑が嫌じゃなかったら、会いに行ってあげて」

侑「……はい」

善子「……それじゃあ、お大事にね」


ヨハネ博士はそう残して、病室から静かに立ち去った。


侑「…………」


私は少し悩んだけど……別に他にやることがあるわけでもないし、と思い……ベッドから出て上着を羽織る。

ボールベルトを巻こうと手に持とうとすると──手が震えて、うまく持てなかった。


侑「…………あはは……ダメだ……」


私はベルトを着けるのを諦め、手持ちのボールをバッグに詰め──片側だけ肩に掛けるようにして、自分の病室を後にした。



55 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:13:05.54 ID:X9ltvPdj0

    🎹    🎹    🎹





──中庭に行くと、かすみちゃんはすぐに見つかった。


かすみ「さぁ、みんな! あと10周いくよー!」
 「ガゥ!!」「クマァ」「カイン」「ヤブク〜」「テブ!!」

 「…サ…コ」

かすみ「サニーゴは……まあ、いいや……。速く動けないし……」

侑「……何、してるの?」

かすみ「え?」


声に振り返ったかすみちゃんは──私の顔を見て目を丸くした。

そして、すぐにぱぁぁっと花が咲いたように笑顔になる。


かすみ「侑先輩!! もう、いいんですか!?」

侑「あ、うん……かすみちゃんこそ、平気……?」

かすみ「はい! もう完全回復です! だから今、特訓中なんです!」


そう言いながらも──二の腕や手、太ももや足首と、あちこちに包帯が巻かれているし、何より……頭部に巻かれている包帯が痛々しい。

そんな私の視線に気付いたのか、


かすみ「あ、これですか……? ホントはちょっと擦りむいただけなんですけど……大袈裟ですよね! まー痕とか残っちゃったらイヤなんで、治療はちゃんと受けますけど……。あ、でもでも、かすみんあの戦いの中でも、顔だけは絶対死守したんですよ〜! 偉いと思いませんか、侑先輩♪」

侑「……」


私はかすみちゃんの腕をぐっと掴む。


かすみ「いたっ……!!」

侑「やっぱり……治ってない……。大人しくしてないと……」

かすみ「も、もう侑先輩ったら、急に掴んだら痛いじゃないですかぁ〜! いくら侑先輩でも、そういうことされたら、かすみんぷんぷんしちゃいますよ〜!」

侑「かすみちゃんっ!!」

かすみ「……!!」


私が大きな声を出すと、かすみちゃんはビクリとする。


侑「病室に戻りなよ……看護師さん、心配してるでしょ……?」

かすみ「……侑先輩のお願いでも、それは聞けません」


かすみちゃんは私からぷいっと顔を背ける。
56 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:13:40.00 ID:X9ltvPdj0

かすみ「かすみん……もっともっと、強くならないといけないんです……! だから、寝てる場合じゃないんです!」

侑「……強く、なる……」

かすみ「はい! 強くなって、しず子たちを助けに行くんです! だから、侑先輩も、一緒に特訓しましょう!」

侑「……私は……いい……」

かすみ「……やっぱり、まだ調子悪いんですかね……? 大丈夫です! かすみん、侑先輩が元気になるまでちゃんと待ってます! あ、でもでも……あんまりのんびりしてると、かすみんどんどん強くなって置いてっちゃいますよ〜?♪」

侑「……もう……やめようよ……かすみちゃん」

かすみ「……え?」

侑「こんなことしても……意味ないよ……」

かすみ「……ち、ちょっと、侑先輩〜、どうしたんですかぁ〜?」

侑「……私たちが頑張ったところで……勝負にならないよ……」

かすみ「侑……先輩……?」

侑「……きっと今、もっと強い人たちがどうするか考えてくれてる……」


海未さんが私のもとを訪れたのはそういうことだろう。

何せ、ポケモンリーグのシンボルたるチャンピオンが連れ去られたんだ。

リーグ側が何もしないなんて、それこそありえない。


侑「ジムリーダーとか、四天王とか……そういう人たちに任せた方がいいよ……。……私たちじゃ、足手まといになるだけだよ……」

かすみ「……侑先輩、それ……本気で言ってるんですか……?」

侑「……だって、果林さんの強さ……身を持って思い知ったじゃん……」


──本当に圧倒的な力の差だった。今五体満足で生きていることが、奇跡なんじゃないかというくらいに……。


侑「……私たちがちょっとやそっと頑張ったって……勝てないよ」

かすみ「…………」

侑「だから……もう、やめよう……。きっと、歩夢たちのことも強い人たちがどうにかしてくれる……。だって、この地方には強いトレーナーがたくさんいるから……だからさ──」


そのとき──


かすみ「……サニーゴ」
 「──サ」


かすみちゃんが名前を呼ぶと同時に、サニーゴが私の顔に向かって──水を噴き出してきた。


侑「わ……!?」


私は驚いて、尻餅をつく。その拍子に、バッグが中庭の地面に放り出される。


侑「……かすみ、ちゃん……?」

かすみ「…………ジュカイン……! “このは”!!」
 「カインッ!!」

侑「う、うわぁ!?」


今度は“このは”が襲い掛かってきて、腕で顔を覆う。

幸い、“このは”は強い技じゃないから、“このは”がべしべし当たって、ちょっと痛いくらいだけど──


侑「なにするの……!?」


思わず声を荒げる。
57 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:14:15.69 ID:X9ltvPdj0

かすみ「……侑先輩が、そんなこと言う腰抜けさんだったなんて……知りませんでした……!!」

侑「……腰抜けって……」

かすみ「その根性──かすみんが叩き直してやります……!! ゾロア!! “あくのはどう”!!」
 「ガーーーーゥゥ!!!!!」

侑「うわぁっ!!?」


私は咄嗟に身を屈めて避ける。


侑「や、やめてよっ!! かすみちゃん!!」

かすみ「やめて欲しかったら、力尽くで止めればいいじゃないですか!! ジグザグマ!! “ミサイルばり”!!」
 「ザグマァッ!!!」

侑「……っ」


私に向かって──“ミサイルばり”が当たりそうになった瞬間、


 「──イブィッ!!!!」


イーブイがバッグの中に入れたボールから勝手に飛び出し──バキンッ! と音を立てながら、黒い氷塊を作り出して、“ミサイルばり”を弾き飛ばした。


侑「イーブイ……!?」


それを皮切りに──


 「ライボッ!!!」「ウォーーー!!!!」「ロンチィ…!!!」「ニャー」


私の手持ちが次々と、勝手に飛び出してくる。


侑「み、みんな……!? ダメ、ボールに戻って!!」

かすみ「侑先輩と違って、ポケモンたちはやる気みたいですね……!! テブリム!! “サイコショック”!! ヤブクロン!! “ヘドロばくだん”!!」
 「テブリッ!!!」「ヤーブゥ!!!!」


かすみちゃんは、飛び出してきた私の手持ちを見て、ますます激しく攻撃をしかけてくる。


侑「あーもうっ!!! ニャスパー、“サイコキネシス”!! ドロンチ、“りゅうのはどう”!!」
 「ニャー」「ロン、チィィィ!!!!」


ニャスパーが“サイコショック”を“サイコキネシス”で静止させ、ドロンチが“りゅうのはどう”で“ヘドロばくだん”を撃ち落とす。


かすみ「やっとやる気出しましたね……っ!! じゃあ、これならどうですか!!」


そう言いながら、かすみちゃんはテブリムを持ち上げ──ニャスパーに向かってぶん投げてくる。


 「テブッ!!!」

 「ニャッ!?」


テブリムが拳を構えて迫ってくるが、


侑「ウォーグル!!」
 「ウォーーーーッ!!!!!」

 「テブッ!!!?」


ウォーグルが上から爪で叩き落とす。

が、
58 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:14:51.77 ID:X9ltvPdj0

 「ウォッ!!?」


テブリムを抑えつけたはずのウォーグルの動きが急に止まり、


侑「な……!?」

 「テブッ!!!」

 「ウォーー!!!?」


足元のテブリムが、拳を振りかぶって、ウォーグルを殴り飛ばした。


 「サ……」

侑「サニーゴの“かなしばり”……!」


どうやら、サニーゴによるサポートで動きを止められたところをやられたらしい。


かすみ「さぁ、ガンガン行きますよ!! ジュカインッ!!」
 「カインッ!!!!」

かすみ「“リーフブレード”!!」


ジュカインが、地面を蹴って飛び出してくる。

標的は──


 「ブイッ…!!」


イーブイだ……!

肉薄してきた、刃が振り下ろされようとした瞬間、


 「ロンチッ!!!」

かすみ「うわ!? なんか出てきた!?」


ドロンチが地面から現れ、イーブイが掬い上げるようにして頭に乗せて、ジュカインの攻撃を肩代わりする。

それと、同時にイーブイの体が燃え上がり──


侑「“めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイィッ!!!!」

 「カインッ!!!?」


ドロンチの頭を踏み切って、ジュカインに至近距離から炎の突進を食らわせる。

効果は抜群だ……! 燃えながら、吹っ飛ぶジュカイン。


かすみ「ジュカインッ!?」


そして畳みかけるように、


侑「ライボルト、“かみなり”!!」
 「ライボォッ!!!!!」


“かみなり”をサニーゴの頭上に落とす──が、


かすみ「“ミラーコート”!!」


“かみなり”は反射され──
59 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:15:35.94 ID:X9ltvPdj0

 「ライボッ!!!?」
侑「ライボルト!?」


ライボルトに返ってくる。


かすみ「へっへーん!! 強力な技でも跳ね返しちゃえばいいんですよー! さぁ、サニーゴ続けて行きますよ!!」
 「……サ」


調子付くサニーゴ──その背後に、ユラリと、


 「ロンチィ…」

かすみ「へっ……!?」


影が現れた。


侑「“ゴーストダイブ”!!」
 「ロンチッ!!!」

 「サ……コ……」


ドロンチに尻尾を叩きつけられ、サニーゴが吹っ飛ばされて地面を転がる。


かすみ「サニーゴ……!? ぐぬぬ……ジグザグマ──」


飛び出そうとするジグザグマを──


侑「“フリーフォール”!!」
 「ウォーーー!!!!」

 「クマァッ!!!?」


ウォーグルが強襲して、上空に連れ去る。


かすみ「ちょ……!? 連れてかないでくださいよっ!?」


ジグザグマを戦線離脱させ、


 「テブッ!!?」

 「ニャー」

かすみ「テブリム……!?」


気付けば、ニャスパーがテブリムを上からサイコパワーで押さえつけている。


かすみ「ぞ、ゾロア……!!」


かすみちゃんはゾロアへ指示を出そうとするけど──


かすみ「って、へ!?」
 「ガ、ガゥゥ…」


ゾロアの周囲は泡に囲まれていた。


 「ブィ」


もちろん泡の出どころは“いきいきバブル”。イーブイがこっそり、フィールド内に展開させていたものだ。
60 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:16:12.68 ID:X9ltvPdj0

侑「ジュカイン、サニーゴ戦闘不能……! ジグザグマは運び出して、テブリムはサイコパワーで押さえつけてる……! ゾロアの動きも封じた……! もう、十分でしょ!?」

かすみ「まだヤブクロンがいます!! “ダストシュート”!!」
 「ヤーーーブゥッ!!!!」

侑「……っ……ニャスパー!!」
 「ニャァーー!!!」

 「テブッ!!!?」


ニャスパーは、サイコパワーで押さえつけていたテブリムを──“ダストシュート”に向かって吹っ飛ばす。


かすみ「え、ちょ!?」

 「テブッ!!!?」


テブリムが“ダストシュート”をぶつけられて、落っこち、


かすみ「て、テブリム!?」


そして、動揺した隙を突いて──


侑「“かみなり”!!」
 「ライボォッ!!!!」

 「ヤブクゥゥゥーーー!!!?」


今度こそ、“かみなり”を直撃させる。


かすみ「や、ヤブクロン……!!」

侑「もう、これで終わりでいいでしょ……!!」

かすみ「……っ……まだです!! ジュカイン、“ソーラーブレード”!!」
 「──カインッ」

侑「なっ……!?」


──戦闘不能になったはずのジュカインが、いつの間にか起き上がり、


 「ウォーーーッ!!!?」


上空のウォーグルの翼を、陽光の剣が貫く。そして、その拍子に自由になったジグザグマが、


かすみ「“ミサイルばり”!!」
 「クーーマァッ!!!」

 「ウ、ウォーーッ…!!!!」


空中で体を回転させて、全身の針を飛ばしながら、ウォーグルを牽制する。


侑「な、なんでジュカインが……!?」


戦闘不能にし損ねてた……!? そんなはず……!?

──動揺して判断が遅れた瞬間、


 「ロンチィ…!!?」


ドロンチが飛んできた“シャドーボール”に吹っ飛ばされる。


侑「ドロンチ!?」


──ハッとして、攻撃の出所に目を向けると、
61 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:16:44.89 ID:X9ltvPdj0

 「サコ…」


気付けば、サニーゴまで復活している。


侑「な、なんで……!!」


確かに戦闘不能にしたはずなのに……!!

何かからくりがあると思って、フィールドに視線を彷徨わせると──


 「ヤ、ヤブ…ク…」


ヤブクロンが最後の力でフィールドを這いながら──かすみちゃんのバッグに顔を突っ込む。


侑「……!?」


直後、


 「ヤブクゥッ…!!!」


元気になって復活する。

かすみちゃんのバッグに入ってるものって──


侑「“げんきのかけら”……!? そんなのズルじゃん!?」

かすみ「これは、かすみんのジグザグマが拾ってきたアイテムだもんっ!! ズルじゃないもんっ!!」

侑「ただの屁理屈じゃん!!」

かすみ「屁理屈でもなんでもいいですっ!! ジュカイン!! “リーフブレード”!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが剣を構えて飛び出して来る──が、


 「ウォーーーッ!!!!」


上空から強襲するウォーグルが、その刃を受け止める。

2匹が鍔迫り合いを始めると──その最中にイーブイの目の前の地面から、


 「──ガゥッ!!!!」


ゾロアが“あなをほる”で飛び出してきて、イーブイに飛び付いてくる。


 「ブ、ブイィッ!!!!」

 「ガゥ、ガゥゥ!!!!」


2匹は取っ組み合いを始め──フィールド上では、さっき倒れたテブリムのもとへ、


 「クマァ」

 「テブ…」


ジグザグマが“げんきのかけら”を運んで復活させる。
62 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:17:20.60 ID:X9ltvPdj0

かすみ「“げんきのかけら”、まだまだありますよっ!!」

侑「……っ……!! もう!! いい加減にしてよっ!! いつまでやるつもりなのっ!!?」

かすみ「侑先輩の根性が直るまでですっ!!!」

侑「余計なお世話だよっ!!! 私はもう戦いたくないんだよっ!!!」

かすみ「それが甘ったれてるって言ってるんですっ!!!!」

侑「私が戦いたくないって言ってるのに、なんの権利があって、戦うことを強制するのっ!!!?」


気付けば子供の喧嘩のような口論になっていた。

でも、もううんざりなんだ、


侑「ここまで旅して、頑張ってきて、少しは強くなったって思ってたけど──本当に強い人の、足元にも及んでなかった……っ!!! そのせいで、ポケモンたちをたくさん傷つけてっ!!!!」


私のポケモンたちは可哀想になるくらいボロボロにされて、


侑「リナちゃんが壊されて……っ……!! せつ菜ちゃんもおかしくなっちゃって……っ……!!! 千歌さんも攫われて……っ……!!! しずくちゃんもいなくなっちゃった……っ……!!!」


そして、私の脳裏に浮かんだのは、歩夢の言葉。

──『もう……もう、やめてください……っ……!! これ以上、侑ちゃんたちに、酷いことしないで……っ……!! か、果林さんに……ついていきます……だから、もう、酷いこと……しないで……っ……』──

そして、ポロポロと涙を零しながら、私たちのために、いなくなった……歩夢の姿。


侑「私が弱いせいで──歩夢にあんなこと言わせたんだ……っ……!!!! 私のせいで……っ……!!!! 歩夢もいなくなっちゃったんだ……っ……!!!!」


──もう、私には、


侑「私には……っ……!!!! もう、なんにも残ってないんだよっ!!!!!!!」


かすみ「──まだっ!!!!!! かすみんがいますっ!!!!!!!!!!!!!」


侑「……っ!?」


かすみ「まだ、かすみんが残ってますっ!!!!! だから……っ!!!! だからぁ……っ……! そんな、悲しいこと……っ……言わないでよぉ……っ……」


侑「かすみ……ちゃん……」


気付けば、かすみちゃんは大粒の涙をぽろぽろ零しながら──泣いていた。

私は……急に脚の力が抜けて、へなへなとその場にへたり込む。

──考えてみれば、当たり前だった。かすみちゃんだって、不安なんだ。

でも、その不安に必死に立ち向かおうと、前を向こうとしていたんだ。

それなのに、私は……一人で勝手に落ち込んで、かすみちゃんに八つ当たりして……。

俯く私に向かって、かすみちゃんはしゃくりをあげながら──


かすみ「ぅぐ……ひっく……っ……それに……っ……侑先輩の冒険の旅は……っ……ぐす……っ……歩夢先輩がいなくなっちゃったら……全部、無くなっちゃうものだったんですか……っ……?」

侑「え……?」


そう、訊ねてきた。

……私がこの旅で、見つけたモノは──何もかもなくなってしまったのか、と。


 「ウォー…」「ライボ」「ロンチ」「ニャー」


私の旅は──歩夢がいなくなったら、全部無くなっちゃう?
63 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:17:57.08 ID:X9ltvPdj0

侑「……違う」

 「…イブィ」


──ああ、どうして……どうして、こんな当たり前のことに……気が付かなかったんだ……。


侑「……まだ……、みんながいる……っ……」


やっと気付いて──


侑「……ポケモンたちが……っ……ずっと、支えて来てくれた……っ……みんなが、いる……っ……」
 「ウォーグ」「ライボッ」「ロンチ♪」「ニャァ」

 「…イブィ♪」


こんな当たり前のことも忘れていた、馬鹿な私なのに……それでも傍で支えてくれるポケモンのことを考えたら──涙が溢れてきた。


侑「ウォーグル……っ、ライボルト……っ、ドロンチ……っ、ニャスパー……っ、──……イーブイ……っ……」
 「ウォグ♪」「…ライボ」「ロンロン♪」「ウニャァ」「…ブイ♪」


そして──私は……この子たちにも聞かなくちゃいけなかった。


侑「みんな……っ……歩夢を、助けたい……っ……?」
 「イッブィ!!!!」「ウォーグ!!!」「ライボッ!!!!」「ロンチッ!!!」「ニャー、ニャー」


私の問いに、ポケモンたちは力強く頷いた──歩夢を、助けたい、と。


侑「そうだよね……っ……、そうだった……っ……、みんな、歩夢のこと……大好きだもんね……っ……」
 「ブイブイ♪」「ウォーグ」「…ライ」「ロン♪」「ニャァ」

かすみ「侑先輩……っ」

侑「かすみ、ちゃん……」

かすみ「出来るか、出来ないかは二の次です……っ……、侑先輩は──歩夢先輩たちを助けたいですか……?」


改めての問い──そんなの、


侑「助けたいに決まってる……っ!!」


今すぐにでも、歩夢の傍に行きたい。歩夢の手を取って、抱きしめて、助けに来たよ、もう大丈夫だよって言ってあげたい。そう言って、安心させてあげたい。

それに──歩夢と約束したじゃないか。

──『私は歩夢を守れるようにもっともっと強くなる』──

きっと、歩夢は私の言葉を信じて待っているはずだ。だから……!


侑「……私が──歩夢を……みんなを、助けに行かなきゃダメなんだ……っ……!!」

かすみ「……っ……はいっ!! 一緒にしず子たちを救いに行きましょう……っ!!」

侑「……うんっ……!!」


私は力強く頷いて──かすみちゃんを抱きしめた。


侑「かすみちゃん……っ……ごめんね……っ……。私が馬鹿だった……甘ったれだった……っ……」

かすみ「ぅ……ぐす……っ……えへへ……っ……かすみん、侑先輩だったら……わかってくれるって、信じてましたから……っ……♪」

侑「ありがとう……っ……お陰で、目が覚めたよ……っ……。私には……頼もしい仲間がいるんだって……思い出せた」
 「イブィ♪」「ウォーグ♪」「…ライ」「ロンチ」「ニャァ」


イーブイ、ウォーグル、ライボルト、ドロンチ、ニャスパー。順番に顔を見て、頷き合う。

そこで、
64 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:18:29.34 ID:X9ltvPdj0

 「…ロン」


ドロンチが、地面に落ちたままだった、バッグをひっくり返し──出てきたボールの開閉スイッチを押す。


侑「……ふふ、そうだね。その子も、一緒に旅してきたもんね」
 「ロンチ♪」


ドロンチが──頭にタマゴを乗せて、嬉しそうに鳴いた……まさに、そのときだった。

──ピシッ。


侑「え……」


タマゴにヒビが入った。

──ピシ、ピシピシ……ッ!

タマゴのヒビは音を立てながらどんどん広がっていき──

──パキャッ……! と音を立てて──


 「──フィォ〜」
侑「うま……れた……」


ポケモンが──タマゴから、孵った。

透き通る水のような体をした、小さなポケモンだった。


 「フィォ?」
侑「……見たことない、ポケモンだ……」

かすみ「かすみんも……見たことないです……」


私は突然タマゴから孵ったポケモンを見て、唖然としてしまう。

生まれる前兆なんて、全然なかったのに……どうして急に……?


かすみ「そ、そうだ……図鑑で、名前を……」


今手元に図鑑がない私の代わりにかすみちゃんが、ポケットから図鑑を出そうとした、そのとき、


 「──そのポケモンの名前は、フィオネだよ」


背後から聞き覚えのある女性の声。

かすみちゃんと二人で振り返るとそこには──紺碧のポニーテールを揺らして、


果南「──や、二人とも、久しぶり!」

侑「果南さん……!?」
かすみ「果南先輩……!?」


果南さんが立っていた。


果南「実はさっきの二人のバトル……見てたんだよね」

侑「え……」

かすみ「み、見てたんですか……!?」


ってことは……さっきの子供の喧嘩みたいなのも……。


侑「わ、忘れてください……///」
65 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:19:02.23 ID:X9ltvPdj0

急に恥ずかしくなってくる。


果南「ふふ♪ いいじゃん、若者っぽくて」


果南さんは嬉しそうに笑いながら、


かすみ「わっ!?」


かすみちゃんの頭を撫でる。


かすみ「え、な、なんでかすみん、頭撫でられてるんですか……?」

果南「かすみちゃんのガッツが私の心に響いたからかな♪」

かすみ「は、はぁ……まあ、それはなによりですけど……」


果南さんはよっぽどかすみちゃんが気に入ったのか、しばらく撫でくりまわす。


かすみ「うぅ〜……もうやめてください〜……髪崩れちゃいます〜……」

果南「おっと、ごめんごめん」


果南さんは、苦笑しながらかすみちゃんを解放する。


果南「さて、それじゃ……侑ちゃん、かすみちゃん。行こうか」

侑「え?」

かすみ「行くって……どこにですか?」


二人で首を傾げていると、


果南「──歩夢ちゃんとしずくちゃんを助ける準備をしに……かな♪」


果南さんはニッコリ笑って、そう答えたのだった。



66 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:19:38.27 ID:X9ltvPdj0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.62 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.63 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.59 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.53 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.56 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.1 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 6個 図鑑 未所持

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.63 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.56 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.54 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.56 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.55 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.56 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/18(日) 22:48:47.63 ID:MWhQJduUo
『MG総会アフタートーク』
(22:09〜放送開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
68 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:37:21.46 ID:c3b0uZJF0

 ■Intermission🎀



──私が果林さんに付いていった直後のこと……。


果林「──さぁ、こっちよ歩夢」

歩夢「……」


空間にあいた穴を潜ると──通路のような場所に出る。


果林「あと、そのアーボ。ボールに戻してくれるかしら? 敵意むき出しで怖いわ」

 「シャーー…!!!」

歩夢「……ごめんね、サスケ。ボールに入ってて」
 「シャーボ──」


私はサスケをボールに戻す。……果林さんだったら私に抵抗されたところで、どうにでも出来る気がするけど……。


果林「良い子ね。それじゃ、行きましょう」

歩夢「……はい」


果林さんの後ろに付いて歩き、突き当りに着くと──目の前の壁がプシューと音を立てながら、自動でスライドする。

どうやら、ドアだったようだ。……まるで、SFの世界で見るような自動ドア。


果林「入って」

歩夢「……」


促されるまま、部屋に入ると──


歩夢「何……ここ……?」


大きな椅子が3つ、その前にはそれぞれキーボード……のような入力装置が並んでいる。

そして、何より……前面に大きな窓があって──その先には、宇宙空間のようなものが広がっていた。

まるで……宇宙船の船内のような場所だ。

そして、そこには、


愛「姫乃っち、留守番ありがとね! 代わるよ」

姫乃「留守を守るのは不本意でしたが……愛さんのリーシャンの方が“テレポート”の精度が高いので……」


愛ちゃんと……初めて見る黒髪の女の子。


しずく「あの、果林さん……♡ 早く、フェローチェを……♡」

果林「ふふ、後でね」

しずく「はい……♡」


相変わらず、様子のおかしいしずくちゃん。

そして、


千歌「…………」

せつ菜「…………」
69 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:37:54.13 ID:c3b0uZJF0

気を失ったまま、床に寝かされている千歌さんと……その横で不機嫌そうな顔をして腕を組んでいる、せつ菜ちゃんの姿。

今入ってきた私と果林さんを含めて、7人いる。

あとは……。


 「ベベノー♪」

愛「おっとと……あはは♪ ただいま、ベベノム♪」
 「ベベノー♪」


黄色と白色をした小さなポケモン──ベベノムと呼ばれたポケモンが愛ちゃんに飛び付く。

愛ちゃんはその子を大切そうに抱きしめているし、ベベノムも愛ちゃんに頬ずりをしている。

それだけで、両者の関係がわかるくらいによく懐いているのがわかった。

ただ、


歩夢「見たことない……ポケモン……」


まるで、見たことがないポケモンだった。

そんな私の視線に気付いたのか、


愛「歩夢はウルトラビースト見るのは初めてっぽいもんね」


と、そう声を掛けてくる。


歩夢「ウルトラ……ビースト……?」


そういえば、さっきも戦いの合間にそんな話をしていた気がする。


果林「ウルトラビーストは……ここ、ウルトラスペースからやってきた、あの世界にはいないポケモンのことよ」

歩夢「あの、世界……?」

果林「まあ、話は追い追いしてあげるわ」

歩夢「……」


わからないことだらけで困惑していた、そのとき──


 「ピューーーイッ!!!!!」


──私の胸に何かが飛び込んできた。


歩夢「きゃぁっ!? え、な、なに!?」
 「ピュィ…」


それは、小さな小さな……紫色をした雲のようなポケモンだった。


愛「ありゃ、また逃げ出したんだ」

姫乃「みたいですね……」

歩夢「逃げ出した……?」
 「ピュィ…」


その小さなポケモンは何故か、私に身を摺り寄せている。


果林「でも、早速歩夢の能力が見られたみたいね」


──能力。……さっき、果林さんや愛ちゃんが言っていたこと……だと思う。
70 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:38:44.35 ID:c3b0uZJF0

歩夢「あ、あの……私に、ポケモンを手懐ける力なんてありません……」

愛「ま、自覚はないだろうね。でもね、歩夢にはポケモンを落ち着かせる特殊な雰囲気があるんだよ」

歩夢「雰……囲気……?」

愛「詳しい理由はわからないんだけど、極稀にそういう子供が生まれてくることがあるらしいんだよね。……ポケモンだけが持ってる特殊な電磁波を感知出来る第六感があるとか、特殊なフェロモンを持ってるとか、いろいろ説はあるんだけど……とにかく、ポケモンから好かれる特殊体質が歩夢にはあるってこと」

歩夢「……」


なんだか、突飛なことを言われて面食らってしまうけど……旅の中でも、似たようなことを人から指摘されたことが何度かあった。

エマさんや、ダイヤさんだ。私にはポケモンを想い、ポケモンに想われる力があるって……。


果林「ただ……匂いに関してはよくわからなかったわ」

姫乃「っ!? 果林さん、あの子の匂いを嗅いだんですかっ!?」

愛「人間にはわからないって、前にも言ったのにね」

姫乃「わ、私だって、そんなことしてもらったことないのに……!!」


姫乃と呼ばれていた子から、すごく睨みつけられてる……。

私のことを睨まれても困る……。


 「ピュイ…」


それに……この子、どうすれば……。


果林「とりあえず、“STAR”──コスモッグは歩夢に預けておきましょうか」

歩夢「え?」

愛「いいん?」

果林「もうエネルギーは十分集めたからね。無理にエネルギーを吸ったら、彼方のコスモッグみたいに休眠して、コスモウムになっちゃいかねないし。歩夢の傍にいるとリラックス出来るなら、ガスの充填も早くなるだろうしね」

愛「ま、それもそっか」

歩夢「え、えっと……」
 「ピュィ…」


何故か、私はこの子を預けられてしまった……。


愛「それはそーと、この後どうするん?」

果林「ウルトラディープシーに向かって頂戴」

愛「ん、りょーかい!」


愛ちゃんが頷きながら、キーボードをカタカタと操作すると──ゴウンゴウンと音を立てながら、動き出す。

宇宙船のようなもの……というか、宇宙船……なのかもしれない。


歩夢「じゃあ、ここは……宇宙……?」

愛「ちょっと違うかな。ここは──ウルトラスペースだよ」


私の疑問に愛ちゃんが答えてくれる。


歩夢「ウルトラスペース……?」

愛「そ。……まーひらたく言えば異世界ってところかな」

歩夢「い、異世界……?」
71 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:39:26.94 ID:c3b0uZJF0

あまりに突飛な話が次々飛び出すせいで、そろそろ頭がパンクしそうだった。

そんな中、口を開いたのは、


せつ菜「あの……ちょっといいですか」


せつ菜ちゃんだ。


せつ菜「この人……いつまでこうしておくんですか」

千歌「…………」


そう言いながら、目で示すのは──足元にいる千歌さんだ。


せつ菜「せめて、ベッドに寝かせるくらいは……」

果林「あら、あれだけ酷いことしたのに……随分優しいのね?」

せつ菜「…………」

果林「まあ、抵抗されても困るから、手持ちのボールを回収して開閉スイッチを壊して……本人をベッドに縛り付けておくくらいはした方がいいかしらね……」


そう言いながら、果林さんが千歌さんに近付き──千歌さんの腰に手を伸ばす。


果林「貴方に恨みはないんだけれどね……貴方の強さは、私たちの計画を実行するに当たって邪魔なの。ごめんなさいね」


そして、彼女のボールベルトから、ボールを外そうとして──


果林「……あら?」


ボールを掴んで、引っ張るが──ボールはベルトから外れるどころか、びくともしない。


果林「外れない……?」

姫乃「どうかされましたか……?」

果林「ベルトからボールが──」

千歌「──……このベルトについてるボールは、私にしか外せないよ」

果林・せつ菜「「……!?」」


急に発せられた、千歌さんの声に、果林さんとせつ菜ちゃんが驚いて飛び退く。


歩夢「ち、千歌さん……!?」

千歌「……いたた……死ぬかと思った……」

果林「貴方……いつから、意識が……」

千歌「今さっき……。……ここ……ウルトラスペースかな……? 来たのは初めてだけど、こんな感じなんだ……」

愛「……へー……。そこまで知ってるんだ」

千歌「私たちもずっと調べてたからね……」


千歌さんは喋りながら、ゆっくりと身を起こしながら、腰に手を伸ばす。


果林「……それ以上、動かないで」
 「──コーンッ!!!」


気付けば、果林さんのキュウコンがボールから飛び出し、尻尾の先に炎を灯しながら、千歌さんに突き付けていた。
72 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:39:58.43 ID:c3b0uZJF0

千歌「……」

果林「……この人数相手に戦うなんて言わないでしょ?」

千歌「……確かに、今この人数相手はちょっと無理かも……あはは」


そう言いながら、千歌さんはチラりとせつ菜ちゃんに視線を送る。


せつ菜「……!!」


せつ菜ちゃんは千歌さんからの視線を受けると、さらに距離を取って、ボールに手を掛ける。


千歌「…………」


千歌さんはその姿を見て、少し悲しそうな顔をしたあと、


千歌「フローゼル!!」
 「──ゼルルッ!!!」

果林・せつ菜・姫乃「「「!!?」」」

千歌「“ハイドロポンプ”!!」
 「ゼルルルルルッ!!!!!!」


フローゼルをボールから出すのと同時に──攻撃を繰り出した。

でも、果林さんやせつ菜ちゃんに向かってじゃない──背後にある壁に向かってだ。


果林「な……!?」


野太い水流がいくつも壁を貫き──その穴の向こうに……ウルトラスペースが見えた。

千歌さんはその穴に向かって──


千歌「……行くよ、フローゼル!!」
 「ゼルルッ!!!」


自ら、飛び込んでいった。


果林「ま、待ちなさい!? キュウコン!! “マジカルフレイム”!!」
 「コーーンッ!!!!」

千歌「“みずのはどう”!!」
 「ゼーールゥッ!!!!」


飛んでくる“マジカルフレイム”を“みずのはどう”によって、一瞬で消火しながら、


千歌「待てと言われて待つ奴なんていないって!」


果林さんの制止を意にも介せず、千歌さんは──ウルトラスペースに吸い込まれていった。


果林「……っ」

愛「あー、やられたねー。とりあえず、穴塞がないとだね。ルリリ、“あわ”」
 「──ルーリ!!」


愛ちゃんがボールから出したルリリが、“あわ”で空けられた穴を塞ぐ。
73 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:40:32.07 ID:c3b0uZJF0

愛「とりあえず応急処置っと……」

姫乃「あの人……生身でウルトラスペースに飛び込むなんて……」

せつ菜「…………千歌、さん……」

愛「生存して、どっかの世界に落ちる人もいるからねー。運が良ければ生きてる可能性はあるかな。とりあえず、今から壁直してくるから、操縦席に誰か居てもらっていい? あ、操縦自体は自動だから、触んなくていいけど」

果林「え、ええ……わかったわ」


愛ちゃんがパタパタと部屋から出ていき、果林さんは動揺した様子を見せながら、さっきまで愛ちゃんが座っていた場所に腰を下ろす。


しずく「果林さん、私はどうすればいいですか?♡」

果林「そうね……姫乃」

姫乃「はい」

果林「歩夢としずくちゃんを部屋に案内してあげて……」

姫乃「わかりました。皆さん、付いてきてください」

しずく「……」

果林「しずくちゃん、その子……姫乃に案内してもらって」

しずく「はい♡ わかりました♡」

歩夢「……」


たぶん……今逆らっても、仕方ない……かな。私も大人しく、姫乃さんの後に続く。


果林「せつ菜も……休みなさい。貴方はあのチャンピオンを倒したんだから、疲れてるでしょう?」

せつ菜「…………わかりました」


結局、姫乃さんに連れられて、私としずくちゃんとせつ菜ちゃんは部屋を後にした。





    🎀    🎀    🎀





せつ菜「──私は……少し休ませてもらいます……失礼します」

姫乃「はい、ごゆっくりお休みください」


せつ菜ちゃんは気分が悪いのか……頭に手を当てながら、部屋へと戻っていく。


姫乃「そして、こちらが歩夢さん。こちらがしずくさんのお部屋です」

歩夢「は、はい……」

しずく「はい、ありがとうございます」

姫乃「ただ、歩夢さんとしずくさんのお部屋には外からロックを掛けさせていただきます。くれぐれもおかしなことはしないように」

歩夢「……」

しずく「これも、果林さんからの指示なんですよね? でしたら、私は従うだけです♡」


しずくちゃんはそれだけ言うと、何も疑わずに部屋へと入って行ってしまった。
74 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:41:06.51 ID:c3b0uZJF0

姫乃「尤も……千歌さんのようなトレーナーでも無い限り、壊して脱出するなんて出来ないでしょうけど……。さぁ、歩夢さんも」

 「ピュィ…」
歩夢「……この子は一緒でいいんですか……?」

姫乃「ええ、そのポケモンは“はねる”か“テレポート”しか出来ませんから。それに愛さん曰く、“テレポート”はこの宇宙船内では無効化されるそうですし、どこかに行ってもすぐに追いかけて捕まえられますから」

歩夢「そ、そうですか……」

姫乃「それでは、ごゆっくり」

歩夢「……はい」


私も大人しく部屋へと入る。

中はベッドが置いてあるだけの簡素な部屋だった。

……奥にあるのはたぶん、お手洗いかな。本当に最低限という感じ……。

とりあえず、出来ることもないので、私はベッドに腰掛ける。


 「ピュィ…」
歩夢「これから、どうしよう……」


今後どうなってしまうのか……不安に駆られながらも、今の私には天井を仰ぐくらいのことしか出来なかったのだった……。


………………
…………
……
🎀

75 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:52:49.44 ID:c3b0uZJF0

■Chapter052 『作戦会議』 【SIDE Yu】





侑「あの……果南さん……」

果南「ん?」


私は前をぐんぐん進んでいく果南さんに訊ねる。


侑「一体……どこに向かってるんですか……?」
 「ブイ」

かすみ「それはかすみんも気になります!」


イーブイを抱きかかえながら歩いているここは──ローズシティの中央区。

中央区だから、出来ればボールに入れたかったけど……絶対に入る気がなさそうだったので、上着の前を締め、絶対に飛び出さないように、その中に入れて抱きしめているような状態だ。

……もふもふだから、ちょっと気持ちいい。


果南「あそこ」


そう言いながら、果南さんが指差すのは──ローズシティの中央に聳える大きなタワー。

あれって確か……。


侑「セントラルタワー……?」

果南「そうだよ。あそこの会議棟に向かってる」

かすみ「? そこで何かあるんですか?」

果南「うん。これから、あそこでね──」


果南さんが説明を始めたちょうどそのとき、


 「かなーんっ!! やっと、見つけた!!」


前方から、見慣れた金髪の女性がこちらに向かって駆けてくる。

あの人って……。


侑・かすみ「「鞠莉博士!?」」

鞠莉「え? 侑に……かすみ……?」


私たちを見て、きょとんとする鞠莉博士。

そして、そんな鞠莉博士が持っていたカバンから──


リナ『侑さーん!!』 || 𝅝• _ • ||

侑「リナちゃん!?」


リナちゃんが飛び出してきた。


リナ『侑さん!! 侑さん……!! 無事でよかった……』 || > _ <𝅝||

侑「リナちゃんも、無事だったんだね……! よかった……」


私はリナちゃんを抱きしめる。
76 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:54:02.36 ID:c3b0uZJF0

リナ『博士が直してくれたんだよ!』 || > ◡ < ||

鞠莉「あなたたちを病院に搬送した際に、一緒にローズに届いていたらしいんだけど……話を聞いた善子がすぐにわたしの研究所に送るように手配してくれたの。それに、緊急停止モードが功をなしたみたいで、ストレージには一切問題がなかったわ」

リナ『だから、元通り!』 || > ◡ < ||

侑「そっか……よかった……」


それを聞いて、私はホッとする。

リナちゃんに関しては事件後、どこに行ったのかもよくわかっていなかったから……こうして元気な姿を見ることが出来て、心底安心している自分がいた。


リナ『あと、歩夢さんたちのことも聞いた……力になれなくてごめんなさい……』 || 𝅝• _ • ||

侑「うぅん……こうしてリナちゃんが戻ってきてくれただけで、嬉しいよ……」

リナ『侑さん……うん』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「リナ子だけでも無事でよかった……」

リナ『かすみちゃんも無事でよかった』 || 𝅝• _ • ||


お互いの無事を喜んでいると、


果南「それはそうと鞠莉……私のこと探してたの?」


果南さんは鞠莉博士に向かってそう訊ねる。

感動の再会で忘れかけていたけど……言われてみれば鞠莉博士、結構焦っていたような……。


鞠莉「あ、そうだった……! この忙しいときに、どこほっつき歩いてたの!?」

果南「ちょっと病院まで……。街を歩いてたら、バトルの音が聞こえてきたからさ」

鞠莉「病院でバトル……? ……会議に遅れたりしたら、また海未さんに怒られるわよ?」

侑「会議……? そういえば、さっき会議棟に向かってるって……」
 「ブイ?」

果南「うん。今からあそこで、今回起きたチャンピオン連れ去り事件について、対策会議をすることになってる」

侑「え……?」

鞠莉「ち、ちょっと果南!? 会議内容については内密にって……!」

果南「大丈夫。この子たちはその会議に参加してもらうから」

侑・かすみ「「え?」」
 「ブイ??」


あまりに唐突な話だったため、かすみちゃんと二人でポカンとしてしまう。


鞠莉「...What?」


いや、私たちだけじゃなくて、鞠莉さんもポカンとしていた。
77 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:54:33.94 ID:c3b0uZJF0

果南「ほら、時間ないんでしょ? さっさと行かないと」

鞠莉「ち、ちょっと待って……! 海未さんに許可は貰ったの!?」

果南「これからもらう」

鞠莉「あ、あのねぇ……! 部外者連れ込みなんて、許してもらえるわけ……!」

果南「この子たちは部外者じゃない。鞠莉も概要は確認したでしょ?」

鞠莉「……そ、それは……」

果南「それに、参考人は一人でも多い方がいい」

鞠莉「…………はぁ……わかった。……どうせ、わたしが何言っても聞かないんでしょ……? 海未さんに怒られても知らないからね……」

果南「大丈夫。私、海未より強いから」

鞠莉「そういうことじゃ……まあ、いいわ……」

果南「それじゃ、行こう」

鞠莉「はいはい……」


果南さんがセントラルタワーに向かって歩き出すと、鞠莉さんも呆れ気味にその隣に並ぶ。


果南「ほら、侑ちゃんとかすみちゃんも早くー!」

かすみ「……侑先輩、かすみん……一体なにがなにやら……」

侑「私もわかんないけど……とりあえず、付いていこう」
 「ブイ」

リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > ◡ < ||


完全に話に付いていけていないけど……果南さんは、歩夢たちを助けるための準備をしに行くと言っていた。

現状、私たちはどうやって歩夢たちを助けに行くか、思いついているわけでもないし……もし、その対策会議とやらに参加させてもらえるなら、またとないチャンスだ。

私たちは、果南さんと鞠莉さんの後を追って、セントラルタワーへと向かいます。





    🏹    🏹    🏹





──セントラルタワー。会議棟。

私、ポケモンリーグ理事こと──海未は、四天王のことり、希、ダイヤを引き連れ、ここローズシティのセントラルタワーを訪れていた。

ツバサにはこういう会議の場に欠席しがちな英玲奈を、何がなんでも連れてくるようにと頼んでクロユリに送り出した──少し間の悪いトラブルもあったようですが……。

なにはともあれ、ツバサは英玲奈と一緒にここに来ているはずだ。


ダイヤ「…………」

ことり「ダイヤちゃん、大丈夫……? 体調悪いなら無理しない方が……」

ダイヤ「いえ……お気になさらず……」

希「きつかったら、遠慮せずにちゃんと言うんよ……?」

ダイヤ「はい……お気遣い感謝しますわ……」
78 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:55:31.98 ID:c3b0uZJF0

ダイヤは千歌が攫われた報せを受けてから、ずっと顔色が悪い。

無理もないでしょう。元とは言え……教え子が連れ去られたのですから。

そして、それは私にとっても同様の話……。

正直、今でも千歌が戦いに敗れて攫われたというのは信じ難かった。

ですが、私はこの地方のポケモンリーグの長として……落ち込んでいるわけにはいかない。

──会議室へ向かう道すがら、


穂乃果「彼方さん……体調が悪かったら、無理しないでね?」

彼方「うぅん……大丈夫だよ〜……。……それに、今彼方ちゃんがお休みしてる場合じゃないから……」


穂乃果がオレンジブラウンの髪色をした女性──名前は確か彼方だったと思います──と話しているところに出くわす。


ことり「穂乃果ちゃん……!」

穂乃果「! ことりちゃん! ……それに、海未ちゃん」

海未「……穂乃果」


私は穂乃果にツカツカと歩み寄る。


海未「……穂乃果、貴方ずっと千歌と一緒に行動していたそうですね……。貴方が付いていながら、どうしてこんなことになるのですか……?」

穂乃果「……ごめん」

ことり「う、海未ちゃん……!」

彼方「ほ、穂乃果ちゃんを責めないであげて……!」


私の言葉を受けて、ことりと彼方が穂乃果を庇うように言う。


穂乃果「うぅん……海未ちゃんの言うとおりだよ。私は千歌ちゃんとお互いをフォローし合うためにいたはずなのに……まんまと相手の策に引っ掛かって……」

彼方「穂乃果ちゃん……」

ことり「穂乃果ちゃん、そんなに自分を責めないで……? 海未ちゃんも千歌ちゃんが攫われたって聞いて……気が立ってるだけなの……」

海未「ことり……! 余計なことを言わないでください……! 私は理事長として──」

希「ストーーップ! それは、今ここでする話じゃないんやない?」


再び言い合いになりそうなところに、希が仲裁に入る。


希「それに、ダイヤちゃんもいるんよ?」

ダイヤ「わ、わたくしは……大丈夫ですけれど……」


確かに希の言うとおりだ。……今ここで口論をしている場合ではなかった。


海未「……すみません、言い過ぎました……」

穂乃果「うぅん、大丈夫だよ」

希「とりあえず……会議室へ向かおう? そろそろ、他のみんなも集まってる時間だし」


希に促されて私たちは、会議室の方へと向かう。



79 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:56:25.30 ID:c3b0uZJF0

    🏹    🏹    🏹





──会議室内では、すでに招集した人間がほとんど揃っていた。

ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイ、ローズ、ヒナギク、クロユリのジムリーダーたち。

ちょうどローズを訪れていた理亞には、そのままローズに残ってもらっていた。

そして、ツバサを派遣した甲斐もあって、英玲奈もちゃんと出席している。

加えて──


善子「ずら丸……あんた、どういう肩書でここにいるの……?」

花丸「人間、人には言えないこともあるんだよ、善子ちゃん」

善子「善子じゃなくてヨハネよ!!」


事態が事態なだけに、ダリアジムからは、にこだけでなく、花丸にも出席してもらっている。

なので、ジムリーダーは9人。四天王4人に、地方の博士である善子と鞠莉。加えて歴代チャンピオンの穂乃果と果南。参考人として彼方に同席してもらうことになっている。

即ち、ポケモンリーグ理事長である私を含めて──19人という大所帯だ。


海未「……果南と鞠莉はまだ来ていないみたいですが……」


どうやら、彼女たちの到着が最後になりそうだ。

席に着いて、彼女たちの到着を待とうとした矢先、


花陽「海未ちゃん……!!」


花陽が駆け寄ってくる。


海未「花陽? どうかしましたか?」

花陽「わ、わたし……っ……果林さんがずっとコメコに住んでること、知ってたのに……なんにも気付かなくて……っ……」

海未「……花陽。その話は、会議が始まってから──」

花陽「でも……っ……! 私がもっと早く気付いていれば、千歌ちゃんだって……っ……!」

ことり「落ち着いて、花陽ちゃん……。……花陽ちゃんのせいじゃないよ」

花陽「でも……!」


花陽は人一倍責任感が強い。故に自分の町に今回の事件の主犯格が潜んでいて、それに気付けなかった自分に負い目を感じているのだろう。

そんな彼女をことりが宥める中、


英玲奈「──花陽、ジムリーダーがそのように取り乱すのはみっともないぞ」


英玲奈が花陽に向かって厳しい言葉を飛ばす。

もちろん、そんなことをしたら黙っていない人物がいる。


凛「ちょっと!! かよちん落ち込んでるんだよ!? そんな言い方しないでよ!!」


凛だ。
80 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:56:57.45 ID:c3b0uZJF0

英玲奈「私たちは町のリーダーだ。そんな泣き言を言うためにここに来たのか?」

ツバサ「英玲奈、やめなさい」

英玲奈「私は有意義な話し合いをすると聞いてここに来たのだが……。その気がないのなら、クロユリに戻ってもいいか? 私はこんなところにいる場合じゃないんだ」

凛「何、その言い方!!」

希「凛ちゃん、やめとき」

ツバサ「英玲奈も、言葉を選びなさい」

英玲奈「……」

海未「英玲奈……クロユリが大変な時なのは理解しています。ですが、私の顔に免じて……一旦矛を収めてもらえませんか」


私は頭を下げる。

クロユリが大変な時──クロユリシティは……数日前、謎の大型ポケモンの襲撃を受けた。

英玲奈が撃退をしたそうだが……未だにそのポケモンの正体はわかっていない。

空間の穴から突然現れて、倒したら再び穴の中へと逃げ帰っていったとのことだ。

英玲奈はそんな中で、緊迫したクロユリの地を空けて、わざわざローズまで来ているのだ。苛立ちや焦りがあっても仕方ない。


英玲奈「頭を下げないでくれ……。……すまない、私も口が過ぎた……謝罪する」

花陽「い、いえ……わたしも……ごめんなさい……」

凛「り、凛は謝らないよ!」

希「こら、凛ちゃん。そういうこと言わない」

凛「にゃ……ご、ごめんなさい……」


英玲奈も花陽も凛も、動揺が見て取れる。

いや、彼女たちだけじゃない。


ルビィ「お姉ちゃん……大丈夫……?」

ダイヤ「ルビィ……えぇ、わたくしは大丈夫ですわ……」


相変わらず真っ青な顔色のダイヤ。それを心配するルビィ。


にこ「真姫……あんた大丈夫? 目の下酷い隈よ……?」

真姫「ごめん……ちょっと……あんまり、眠れてなくて……」


真姫もあまり体調が芳しくないらしい。


理亞「…………」


理亞はそんな中なせいか、とにかく居心地が悪そうな顔をして座っている。

地方を取りまとめる存在であるはずのジムリーダーたちが、揃いも揃って酷く動揺しているのが目に見えて明らかだった。

それもそのはずだ。……チャンピオン──即ち、この地方最強のトレーナーが敵の手に落ちるとはそういうことなのだ。

……会議室内の空気が酷く重い。

こんな雰囲気で会議を始めていいのだろうか……そう思っていた、そのとき、


 「──あの、皆さんっ!!」


一人のジムリーダーが、立ち上がりながら、大きな声をあげた。

全員の視線がその声の方に向く。

声の主は──
81 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:57:45.75 ID:c3b0uZJF0

曜「一度、落ち着いてください!」


──曜だった。


曜「千歌ちゃんが攫われて……みんなショックを受けてるのはわかります。でも、今やるべきことはショックを受けて足を止めることじゃないはずです!」

ことり「曜ちゃん……」

曜「それに……千歌ちゃんはきっと大丈夫です!! あの千歌ちゃんがこのくらいのことで、どうにかなったりするわけありません!」

ダイヤ「曜さん……」

曜「むしろ、今頃敵の隙を突いて、脱出してるくらいだと思います! 皆さんも千歌ちゃんなら、それくらいやりそうって思いませんか?」

善子「ふふ……全くね」

曜「だから、今は落ち着いて、今後どうするかを考えた方がいいと思います!」


曜の言葉で一瞬、室内が静寂に包まれたが、


ツバサ「……曜さんの言うとおりよ。私たちが動揺している場合じゃないわ」

ことり「うん! 私たちジムリーダーや四天王が落ち込んでたら、街の人たちも不安になっちゃう! 私たちはちゃんと前を向いてないと!」

ダイヤ「……教え子に諭されていてはいけませんね。自分を律して、今出来ることを為さなくては……」

希「こんなときこそ、平常心やんね。みんな一旦深呼吸しよか」


四天王たちがそれに同調すると、場の空気が一段階軽くなったような気がした。

それは、曜も肌で感じ取れるものだったのか、


曜「……はぁ……よかった」


彼女は安堵の息を漏らす。

そんな彼女の背中を隣に座っていた善子が──バシンッ! と勢いよく叩く。


曜「いったぁ!? ち、ちょっと、何すんの善子ちゃん……!?」

善子「あんたの成長を目の当たりにして、嬉しかっただけよ。あと、ヨハネよ」

曜「そういうことは口で言いなよ……」

善子「千歌が海に放り出されたとき、わんわん泣いてたあの曜がねー……」

曜「ちょ!?/// 今、それ言う!?///」


二人のやり取りに、くすくすと笑い声さえ聞こえてくる。

お陰で暗い空気が随分払拭された。

そして、ちょうどそのとき、


果南「──なんか、思ったより盛り上がってるじゃん」

鞠莉「I'm sorry. ごめんなさい、遅くなったわ……」


果南と鞠莉が遅れてやってきた。これで面子は全員揃った。


海未「果南たちも来ましたね、それでは会議を始め──……ん?」


そのとき、ふと──果南と鞠莉の後ろに少女が二人いることに気付く。


侑「え……な、なんか、すごい人たちばっかいるよ……!?」
 「ブィィ…」

かすみ「か、かすみんたち……もしかして、場違いってやつですか……?」
82 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:59:10.72 ID:c3b0uZJF0

──確かあの子たちは……。数日前に事情聴取をした、事件に巻き込まれた少女たち。……確か、侑とかすみと言っただろうか。


彼方「侑ちゃん……!? かすみちゃん……!?」

侑「! 彼方さん……!」

かすみ「彼方先輩!? 身体の方はもう大丈夫なんですか!?」

彼方「うん……とりあえずは……。二人も大丈夫そうだね……」

侑「はい!」

かすみ「えっへん! かすみんこれで結構丈夫ですから!」


彼女たちは、一緒に巻き込まれた彼方とお互いの安否確認を始めているが……。


海未「果南……どういうことですか」


私は果南を睨みつける。


果南「この子たちも、会議に参加してもらおうと思って」

海未「自分が何を言っているのか理解してますか?」

果南「参考人は多い方がいいでしょ?」

海未「……貴方、何か企んでいますね?」

果南「いいから始めようよ。時間もったいないでしょ?」

海未「こちらは貴方たちが来るのを待っていたんですが……」

果南「侑ちゃん、かすみちゃん、ここに座って!」


そう言いながら果南は、壁側に立てかけてあった椅子を持ってきて、勝手に席を作り出す。


侑「え、えっと……いいのかな……?」
 「イブィ…?」

かすみ「果南先輩がいいって言ってるんだから、お言葉に甘えちゃいましょう!」

侑「え、えぇ……?」

リナ『かすみちゃん、さすがの図太さ……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


何やら、ロトム図鑑らしきものもいますし……。侑に至ってはポケモンを同席させている。


果南「さ、始めて始めて!」

海未「……言いたいことは山ほどありますが、貴方の強引さに付き合うとロクなことになりませんからね……。お小言は後にしてあげましょう」

果南「海未が相変わらず、話のわかる人で嬉しいよ」

海未「あとで……問題にしますからね」

果南「へいへい」


果南の突拍子もない行動に一つずつ言及していたら、それだけで日が暮れてしまう。

この頑固者は、一度決めたら私に何を言われようが絶対に意見を曲げないんです。

バタバタしましたが──対策会議はこの21人と1台の図鑑によって始まることとなった。



83 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:59:54.08 ID:c3b0uZJF0

    🎹    🎹    🎹





──なんだか、とんでもないところに来てしまった……。

とりあえず、それが私の感想だった。

地方中のジムリーダーに四天王たちが一堂に会している光景は、ポケモンリーグのエキジビションくらいでしか見たことがない。


海未「なるべく多くの情報をまとめるために……長い会議になるとは思いますが、お付き合いいただけると助かります」


海未さんはそう前置いて、会議を切り出し始めた。


海未「──まず軽く事件の概要に触れましょう。もうすでに、全員ご存知かと思いますが──チャンピオンである千歌が拐かされました。他にも一般人が2名。ウエハラ・歩夢さん。オウサカ・しずくさんも連れ去られたと報告を受けています。そして、この事件の犯人ですが……アサカ・果林、ミヤシタ・愛、ユウキ・せつ菜の3名が関与していると見られています」

真姫「…………」


海未さんの説明と共に、会議室内のスクリーンに果林さん、愛ちゃん、せつ菜ちゃんの写真が映し出される。

ただ、愛ちゃんの写真だけは何故かスーツを着ていて……遠くから撮った、監視カメラからの写真のようなものだった。


海未「後ほど詳しく彼女たちについて話したいのですが、その前に前提の話として……穂乃果と彼方──貴方たちは長い間、千歌と行動を共にしていたそうですね」

穂乃果「うん、ここ1年半くらいは千歌ちゃんや彼方ちゃんたちと一緒に行動してたかな」

海未「その話を詳しく聞かせてもらってもいいでしょうか?」

彼方「あ、あのー……」

海未「なんでしょうか?」

彼方「詳しくって言うのは……どこまで……」

海未「可能な限り多くの情報を喋っていただけるとありがたいのですが……」

彼方「で、ですよねー……」

海未「何か言えないことでも……?」

彼方「えーっと……」


海未さんの視線に、困惑した表情をする彼方さん。

彼方さんが助けを求めるように穂乃果さんに視線を送ると、


穂乃果「隠さなくていいよ彼方さん。こういう事態になっちゃった以上……無理に隠す方が却って混乱を招くからって、相談役から言われてるんだ。向こうとは相談役が話を付けるから、気にしなくていいって」

彼方「そ、そっか……そういうことなら……」

ことり「相談役って……リーグの相談役……?」

穂乃果「うん、ことりちゃんのお母さんだよ」

海未「……言われてみれば、千歌も相談役と何かと話をしていることが多かった気がしますね。……穂乃果、貴方たちは一体何をしていたんですか?」

穂乃果「うーんとね、私たちはポケモンリーグ経由で──国際警察からの仕事を請け負ってたんだ」

海未「……は?」


海未さんが素の反応を示した。


海未「ち、ちょっと待ってください……国際警察……? いつからですか……?」

穂乃果「私がチャンピオンになって1年くらい経ったときからだから……えっと……」

海未「ま、待ってください! それって10年以上前ではありませんか!?」

穂乃果「うんとね、この地方でチャンピオンになったときに、ことりちゃんのお母さんからお願いできないかって話があって……。歴代チャンピオンは、みんなお願いされてたみたいだよ」
84 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:00:38.15 ID:c3b0uZJF0

それを聞いて、海未さんが果南さんの方に視線を向ける。


海未「果南、本当ですか?」

果南「あー……? そういえば、なんかそんな感じのこと言われたかも……国際組織から私宛てにお願いがあるんだけど、聞いたら受けてもらわないといけないから、聞くか聞かないか選んで欲しい、みたいな……私は断ったんだけど……」

海未「……なるほど。……侑? どうかしましたか?」


海未さんが急に私に声を掛けてくる。

何故なら──私が相当驚いた顔していたからだろう。


侑「──か、果南さんって……チャンピオンだったんですか……?」

果南「うん、そうだよ。千歌の前のチャンピオン」

かすみ「えぇ!? うそ!?」

海未「果南はかなりクローズドでチャンピオンをしていましたからね……知らないのも無理はありません」


確かに千歌さんの前にもチャンピオンはいたはずだけど……本当に全く知らなかった……。


海未「それでは、千歌もそれを受けることを選んだということでいいんですか?」

穂乃果「うん。だから、それ以来千歌ちゃんとはツーマンセルで彼方さんと、妹さんの遥ちゃんの護衛任務をしてたんだ」

ツバサ「護衛……? 守ってたってこと? 何から?」

彼方「えっと……そのためには、わたしが何者なのかから、話さないといけないんだけど……。……実はわたしと妹の遥ちゃんは……もともとこの世界の人間じゃないんだ」


会議室内が静まり返る。


侑「この世界の……人間じゃない……?」

にこ「まるで、この世界以外の世界があるみたいな言い方ね……」


にこさんが疑いの眼差しを向けながら言う。

でもそれに対して、


鞠莉「……もしかして、ウルトラホール……?」


鞠莉博士には心当たりがあったらしい。


穂乃果「え!? 鞠莉さん、もしかして知ってるの!?」

鞠莉「知ってるというか……そういう文献を読んだことがあるというか……。善子、あなたにも見せたことあるわよね?」

善子「善子言うな。……えっと、確か私たちの住んでいる時空よりも、さらに高次元に存在する空間みたいなものだった気がするわ。……アローラの方で研究してる財団があったような」

彼方「うん。ウルトラホールの先には、ウルトラスペースっていう空間が存在してて……いろんな世界と世界を繋いでるんだ。わたしたち姉妹は、そのウルトラスペースを通って、こっちの世界に落ちてきたの……」

穂乃果「稀にそういうことがあるらしくって、ウルトラスペースを通ってこっちの世界に落ちてきちゃった人のことを国際警察では“Fall”って呼んでるんだ。……そして、国際警察は“Fall”の人たちを保護してる」

海未「……突拍子もなさすぎて、理解が追い付かないのですが……」


海未さんはそう言いながら、眉を顰めている。


希「保護してるんはええんやけど……なんで、護衛する必要があるん?」

彼方「それを説明するには……先にウルトラビーストについて説明しないといけないかな……」

ことり「ウルトラビースト……?」

かすみ「かすみん、ウルトラビーストなら知ってますよ! 異世界から来た、超強いポケモンのことで──もがもがっ!!」

侑「す、すみません、続けてください」


自信満々にかすみちゃんが解説しようと口を挟むけど、たぶん話がややこしくなりそうだから、口を押さえる。
85 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:01:37.17 ID:c3b0uZJF0

彼方「ウルトラビーストって言うのは、ウルトラスペースに住んでるって言われる特殊なポケモンのことだよ。ウルトラスペースは特殊なエネルギーに満ちてるらしくって……それを浴び続けた結果、ウルトラビーストたちは普通のポケモンとは一線を画した強さを持ってるんだ……」

穂乃果「それと……“Fall”もウルトラスペースを通ってきてるから……身体にそのエネルギー浴びちゃってて、それに惹かれてウルトラビーストが寄ってきちゃうんだって」

ダイヤ「では……穂乃果さんと千歌さんは、“Fall”故に寄ってきてしまうウルトラビーストから、彼方さんや妹さんを護衛していたということですね」

穂乃果「うん、そういうこと」


穂乃果さんはダイヤさんの言葉に頷く。


凛「ねぇねぇ、聞きたいんだけど……」

彼方「んー、何かな?」

凛「ウルトラスペースってところを通ってきたってことは……彼方さんにはもともと住んでた世界があったってことでしょ? そこには帰ったりしないの?」

彼方「あー、んー……えーっと……」

穂乃果「えっとね、“Fall”の人はほとんどが記憶を失ってるんだ。……彼方さんや遥ちゃんも例外じゃなくって……だから、元居た世界の記憶が──」

彼方「あのー……それについてなんだけど……」

穂乃果「ん?」

彼方「実は彼方ちゃん……記憶、戻ったみたいなんだよね……」


彼方さんの言葉に穂乃果さんは一瞬フリーズする。


穂乃果「……ええぇぇぇ!!? わ、私聞いてないよ!?」

彼方「退院出来たのが昨日だし……話すタイミングがなくって……」

穂乃果「でも、なんで急に……!?」

彼方「……きっかけは──果林ちゃんの持ってた色違いのフェローチェ。……わたしと遥ちゃんは……ウルトラスペースを航行中に、果林ちゃんのウルトラビースト──フェローチェに襲われて、この世界に墜落したんだ……」

穂乃果「え……?」

海未「ちょっと待ってください……果林はそのウルトラビーストとやらを持っていたということですか……?」

彼方「えっと……果林ちゃんと愛ちゃんは、わたしと同じ世界の出身……というか、もともと同じ組織の仲間だったんだ」


──場が再び静まり返る。


ルビィ「えっと……果林さんと愛さんが彼方さんと同じ世界の人で、仲間なんだけど……果林さんが彼方さんを襲って……? あれ、なんかこんがらがってきた……」

理亞「……仲間割れってこと?」

花丸「うーん……この場合、組織にとって大切な機密や物を盗んで、彼方さんが逃げちゃったって言う方がしっくりくるかな?」

ルビィ「は、花丸ちゃん! そういうこと言ったら失礼だよ!」

花丸「あ、ごめんなさい……物語だとそういうパターンの方がわかりやすいかなって思って……」

彼方「うぅん、花丸ちゃんの言ってることであってるよ」

ルビィ「えぇ!?」

海未「つまり……現在は彼女たちの味方ではないと考えていいんですね」

彼方「うん。……わたしと遥ちゃんは、組織のやり方に賛同できなくて……コスモッグっていうポケモンを連れて、自分たちの世界を脱出したの……。ただ、ウルトラスペースはウルトラスペースシップって専用の船で航行するんだけど……すぐに気付かれて、果林ちゃんのフェローチェに撃墜されちゃったんだ……」

海未「その組織というのは……具体的に何をしようとしていたんですか?」

彼方「……私たちの住む世界を蘇らせるための活動……かな」

曜「蘇らせる……?」

彼方「あのね、想像が難しいかもしれないんだけど……わたしたちの世界は全部合わせても……この地方くらいの土地しか残ってなかったんだ……」

かすみ「オトノキ地方くらいの土地しかない……世界……? どゆこと……?」

彼方「正確には、それくらいしか住める場所が残ってなかったんだ……大半の陸が崩落して海に沈んで……多くの海や大気が有毒な物質で汚染されて、人もポケモンも生きていけない……だから、わたしたちの世界の人とポケモンたちはその少ない土地の中で暮らしていた……。その中でもわたしたちは……プリズムステイツって場所で暮らしてたんだ」

善子「じゃあ、貴方はそこから妹と一緒に亡命でもしようとしてたってこと?」

彼方「亡命……うん、そうかも」
86 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:02:29.18 ID:c3b0uZJF0

彼方さんは、ヨハネ博士の言葉に頷く。


かすみ「あ、あの侑先輩……」

侑「……なにかな」

かすみ「かすみん、彼方先輩が何言ってるのか全然理解出来ないんですけど……」

侑「大丈夫、私も全然頭が追い付いてないから……」


あまりに突拍子もない話が多すぎて、脳がうまく情報を処理しきれていない。

とりあえず、一個ずつまとめていこう……。

……彼方さんや果林さん、愛ちゃんはもともと異世界に住んでいて、その世界を救うための組織にいた。

だけど、考え方の違いから、彼方さんは遥ちゃんと一緒に、組織の大事なものを盗んで他の世界に逃げだしたけど……その最中──果林さんに襲われて、この世界に落ち……記憶を失って、この世界で生活していた……って感じかな。


海未「その亡命の理由とやらは……聞いてもいいですか?」

彼方「……プリズムステイツに存在する政府組織は……世界再興のために──他の世界を滅ぼすことを計画したんだ」

海未「……なんですって?」


世界を滅ぼす──物騒な言葉に海未さんが顔を顰める。


鞠莉「Hmm... あなたたちの住んでいる世界が破滅の危機に瀕していて、それを救おうとしていることはわかったわ。だけど、それと他の世界を滅ぼそうとすることに何の因果関係があるの?」

彼方「あの……ここまで言っておいて、あれなんだけど……実は彼方ちゃんは基本的には実行部隊みたいな立ち位置だったから、具体的にどうしてそうすると世界が救われるのかはよくわかってなかったんだ……。ただ、エネルギーの流れを変えるとか……そんな感じのことは言ってたけど……」

にこ「わかんないのに、そんな組織に身を置いてたの……!?」

真姫「……逆でしょ」

にこ「……逆?」

真姫「理屈もわからないのに、他の世界を滅ぼすことが自分たちの世界を救う方法だ、なんて言われたから……逃げることにしたんでしょ」

にこ「あ、なるほど……」

海未「どういう組織だったのか……もう少し具体的に教えてもらってもいいですか?」

彼方「えっと……もともとはプリズムステイツの研究機関が基になってて……そこにいた二人の天才科学者が、ウルトラスペースを発見したことから始まった組織なんだー……。ただ、実際にウルトラスペースは危険を伴う場所だったし、ウルトラビーストと戦闘になることもある……だから、実行部隊っていう戦う専門の部隊が出来たんだ。その組織をプリズムステイツの偉い人たちが管理してたって感じかな……」

穂乃果「彼方さんは、その実行部隊にいたんだね」

彼方「うん……それで、その組織の中で戦闘の実力がトップの二人には……それぞれ“SUN”と“MOON”って称号階級と一緒にポケモンが渡されてたの……」


そう言いながら、彼方さんは腰からボールを外して──ポケモンを出す。


 「────」
彼方「それが……この子」

侑「遺跡で戦ってるときに私を助けてくれたポケモン……」


あの、金色のフレームの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている姿をしたポケモンだ。
87 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:03:05.67 ID:c3b0uZJF0

ツバサ「……その称号と一緒に渡されるポケモンを持っているってことは、貴方はその称号を持った幹部だったってこと?」

彼方「えっと……確かに彼方ちゃんは実行部隊で2番目に強いトレーナーだったから、副リーダーみたいな扱いで……一瞬だけ称号階級を持ってたタイミングはあったんだけど……もともとは違う人が持ってたんだ……」

英玲奈「……もともとは違う? 君は実行部隊で2番目に強いトレーナーだったのだろう? それだったら、最初からその階級称号を持っていたんじゃないのか?」

彼方「階級称号は実行部隊のトップ2に贈られるものじゃなくて……組織全体で見て戦闘の実力がトップの二人に贈られるものなの」

ルビィ「えっと……どういうこと……? 実行部隊のトップ2はバトルのトップ2じゃないの……?」

花丸「……そっか、研究者の中に実行部隊よりもバトルが強い人がいたんだ」

彼方「うん、そういうこと」

曜「あーなるほど……」

彼方「……果林ちゃんは“MOON”の称号を持ってた実行部隊のトップの人で、“SUN”は……科学者でありながら、戦闘で果林ちゃんに匹敵する実力を持ってた愛ちゃんだったんだ。それでこの子は、もともと愛ちゃんが持ってたコスモッグなんだけど……理由があって愛ちゃんの手を離れたときに、わたしが組織から持ち出したポケモンなんだ。……この子を持ち出せば、一時的にでも計画を止めることが出来るから」

花陽「一時的に計画を止める……?」

彼方「このポケモン──コスモウムは……もともとはコスモッグっていうポケモンが休眠状態になった姿なの。コスモッグは大量のエネルギーを体に蓄えていて……そのエネルギーはウルトラスペースを自由に航行出来るほどだった。……だけど逆に言うなら、コスモッグがいなくなってウルトラスペースを自由に行き来出来なくなったら、計画は頓挫する。だから、彼方ちゃんは遥ちゃんと一緒に、コスモッグを連れ出して、組織から逃げて来たの」

穂乃果「あれ……? でも、コスモッグは“SUN”と“MOON”に渡されてたんだよね……? なら、2匹いたんじゃ……」

彼方「うん。彼方ちゃんたちも最初は2匹とも連れ出せればとは思ったんだけど……1匹は果林ちゃんが普段から持ち歩いてたから、連れ出すのはとてもじゃないけど、無理だった」

にこ「そういうのって片方残ってたら意味ないんじゃないの……?」

彼方「コスモッグは一度にエネルギーを吸いつくしちゃうと、休眠して二度とエネルギーを出せなくなっちゃうから……2匹のコスモッグから交互にエネルギーを貰ってたの。だから、1匹減るだけで計画の効率はすごく下がるんだ」

海未「果林のコスモッグは無理だったのに、愛のコスモッグは連れ出せたということですか? 愛も貴方より強かったのでは……?」

彼方「彼方ちゃんたちが脱出するとき……愛ちゃんは“SUN”の称号階級を剥奪されてて、繰り上がりで私が貰うことになってたんだ……だから、わたしがコスモッグを連れ出せたんだよ」

海未「階級の……剥奪……? 何故……?」

彼方「あるとき、愛ちゃんが……組織の施設を破壊して回ったから……」

かすみ「……?? なんか、全然意味わかんないんですけど……」


確かに随分唐突な話な気がする。


花丸「もしかして……愛さんも、彼方さんみたいに組織のやり方に反対してたってこと?」

彼方「愛ちゃんがどうしてそんなことしたのか、詳しい理由はわからないんだけど……組織のやり方に反対してたって噂はずっとあったんだ。それに……」

鞠莉「それに?」

彼方「愛ちゃんが、施設を破壊する直前……大きな事故があったんだ」

ことり「事故……?」

彼方「さっきも言ったけど……この組織は二人の天才科学者を端にして作られたんだけど……一人はもちろん愛ちゃんのこと、そして──もう一人は愛ちゃんの一番大切な人だった」

海未「……まさか、その事故というのは」

彼方「……うん。そのもう一人の研究者が……ウルトラスペース調査中に……亡くなったんだ。その子の名前は──」


彼方さんは急に、私の方──いや、私の傍に居るリナちゃんに視線を向ける。


彼方「──テンノウジ・璃奈」

リナ『……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「え……!?」


私は驚いて思わず声をあげる。


彼方「……記憶が戻ってから、ずっと気になってたんだ……。リナちゃんは……わたしの知ってる璃奈ちゃんなの……? 名前もだけど……喋り方とか……そっくりなんだ……」

リナ『…………』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「リナちゃん……そうなの……?」

リナ『……ごめんなさい、わからない……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「わからない……?」
88 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:03:58.87 ID:c3b0uZJF0

自分のことなのに、肯定でも否定でもなく、わからないって……?

そんな疑問に答えたのは、


鞠莉「リナにも……記憶がないのよ」


リナちゃんの生みの親である、鞠莉さんだった。


侑「リナちゃんにも記憶がない……?」

鞠莉「ただ、これは彼方たち“Fall”の記憶喪失とは違う。根本的に記憶がないの」

海未「……待ってください、そもそもそのリナというポケモン図鑑は何者なんですか? 私はてっきりロトム図鑑のようなものかと思っていたのですが……」

鞠莉「リナは……やぶれた世界で見つかった──情報生命体を使って作ったポケモン図鑑よ」


──会議室内が、またしても沈黙した。


凛「うぅ……凛、そろそろ頭が痛くなってきたにゃ……」

にこ「さ、さすがのにこにーも脳みそが破裂寸前にこ……」

かすみ「……じょーほーせーめーたい……? つまり、どーゆーこと……?」

花丸「まるでSF小説を無理やり頭に詰め込まれてる気分ずらね!」

ルビィ「花丸ちゃん……なんか、楽しそうだね……」



何人かはそろそろ理解が追い付かず悲鳴をあげ始める。

正直、私もそろそろ脳が理解を拒み始めているけど……でも、リナちゃんのことと言われたら聞かないわけにはいかない。


鞠莉「以前、果南がやぶれた世界に行ったときがあったでしょ?」

海未「グレイブ団事変のときですね……」

理亞「……」

果南「なんかそのときに私の図鑑に入り込んだらしいんだよね。そんでそれを鞠莉が発見して、リナちゃんを作ったんだよ」

ダイヤ「すみません果南さん。今貴方の大雑把な解釈を聞かされると、却ってわけがわからなくなるので、少し静かにしていただけると……」

海未「右に同じです」

果南「え、酷くない……?」


果南さんがあからさまに不満そうな顔をする。


鞠莉「まず最初に気付いたきっかけは──この子」


そう言って鞠莉さんがボールからポケモンを出す。


 「──ポリ」

ダイヤ「ポリゴンZですか……?」

鞠莉「真姫さん。この会議棟に給湯室ってあるかしら?」

真姫「あるけど……。この部屋を右に出て突き当りにある部屋よ」

鞠莉「Thank you. ポリゴン、いつものお願い」
 「──ポリ」


鞠莉さんに言われて、ポリゴンZがドアを“サイコキネシス”で開けて、外に出て行く。
89 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:04:38.21 ID:c3b0uZJF0

ダイヤ「あの……一体何を……」

鞠莉「まあ、ちょっと待ってて」

海未「……中央区の施設でポケモンを自由に動き回らせて大丈夫ですか?」

真姫「まあ……今はこの会議棟自体貸し切りにしてるから、大丈夫よ」


鞠莉さんに言われたとおり──待つこと数分。


 「──ポリ」


──ポリゴンZが部屋に戻ってきて、一人一人の前に、カップを置いていく。


海未「……なんですか、これは」

鞠莉「ロズレイティーよ」


そう言いながら、鞠莉さんはロズレイティーを飲み始める。


鞠莉「ん〜おいしい♪ 今日も最高の入れ具合よ♪」
 「ポリ」

海未「……鞠莉、貴方ふざけているのですか?」

ダイヤ「まさか……紅茶が飲みたかっただけとか……?」

真姫「……おいしい」

海未「真姫、貴方まで……」

真姫「……ありえない」

海未「……はい?」

真姫「ポリゴンZにこんな繊細に、紅茶を入れられるはずない。ポリゴンZは進化して力を手に入れた代わりに、致命的なバグ挙動を起こすようになったポケモンよ。こんな複雑で繊細なことを、自己判断だけでするのは不可能なはず……」

海未「確かに……言われてみれば……」

真姫「これじゃまるで──ポリゴン2よ」

鞠莉「そう、この子はポリゴンZの見た目をしているけど……ポリゴンZの姿のまま、バグが取り除かれて正常化された──いわばポリゴン3と言っても過言ではないポケモンよ」
 「ポリ」

侑「ポリゴン……3……?」


私も思わず首を傾げる。そんなポケモン見たことも聞いたこともない……。


果南「つまり、図鑑に入り込んだリナちゃんがポリゴンZの中身をポリゴン2にしたってことだよ!」

鞠莉「まあ……果南ってこんな感じに説明とか大雑把じゃない? だから、ポケモン図鑑みたいな精密機械をよく壊すのよ……」

果南「……なんか、私の扱い全体的に酷くない?」

鞠莉「ポリゴンが自身をデジタルデータ化することによって、電脳空間に入ることが出来るのは、知ってるわよね?」

海未「ええ、まあ……リーグ本部でもデジタルセキュリティにポリゴンを使っていますので……」

鞠莉「だからわたしは定期的に、調子の悪くなった果南の図鑑にポリゴンZを入れて、エラー部分を排除させてたの」

ルビィ「あ、あの……ルビィ詳しくないからよくわかんないけど……ポリゴンZさんには繊細なエラー修正は出来ないんじゃ……」

善子「……そんなことしてるから、調子悪くなるんじゃないのかしらね」


……鞠莉さんも大概大雑把なんじゃないだろうか。
90 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:05:29.53 ID:c3b0uZJF0

鞠莉「いつものように、修復作業をやってたんだけど……図鑑から出てきたポリゴンZからは、ポリゴンZというポケモンが持っている異常行動がほぼ解消されていて……何故かポリゴン2のような挙動になっていた。わたしはそれに気付いて、図鑑のプログラムを自分で直接解析してみたんだけど……」

ルビィ「あ、あの……自分で出来るなら、最初からそうした方が……」

善子「ルビ助……これ以上、突っ込まないであげて。そういう人なの……」

鞠莉「そこには、コンピューターウイルスのような謎のプログラムが存在していた。その最上部に9文字の信号あったんだけど……『・・・−−−・・・』と記されていたわ」

海未「……とんとんとんつーつーつーとんとんとん……? あの……もう少しわかりやすく言っていただけると……」

曜「……もしかして……SOS?」

海未「SOS……どういうことですか……?」

曜「『・・・−−−・・・』ってモールス信号でSOSって意味なんです」

海未「……モールス信号……! なるほど……」

鞠莉「そう、これを見た瞬間、わたしに対して助けを求めてるんだって理解した。だから、わたしはこのプログラムを少しずつ展開して、解析していった結果──かなり高度な人工知能のプログラムに近いものになっていることがわかった。それも今の人間には到底作れないレベルのもの。ただ、そんなものは移植するのも簡単に出来るわけじゃない、だから……」

リナ『鞠莉博士はそのプログラム──つまり私に開発環境へのアクセスを許可してくれた。そこから、私は言語情報を介して、人とコンタクトを取れる形に自身のプログラムを書き換えた』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「それが自己進化型AIリナの正体よ」

侑「そう、だったんだ……」


ただの図鑑じゃないことはわかっていたけど……リナちゃんが生まれた理由は私の想像の何倍も上を行っていた。

いや……ここにいる誰もが、想像しえなかったことじゃないだろうか。


ダイヤ「そんなことが……ありえるのですか……?」

鞠莉「まあ、実際にリナは、こうしてここにいるわけだしね」

花丸「事実は小説よりも奇なりとはこのことずら……」

リナ『ただ……私は自分の名前がRinaだってことと、誰かと繋がりたい、お話ししたいって気持ちがあることしか覚えてなかった』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「だから、図鑑に組み込んで……いろんなデータを参照できるようにしてあげたの」

リナ『お陰ですごい物知りになった』 || > ◡ < ||

鞠莉「肝心の記憶が蘇ることはなかったけどね……」

海未「……リナがそういう存在であることは理解しました。……では、やぶれた世界から来たという根拠は?」

鞠莉「……まあ、正直これに関しては消去法ね。リナを発見したときのメンテナンスの直前に果南はやぶれた世界に行っていた。あそこなら何かおかしなことがあっても不思議じゃないし……そこに当たりを付けたの。それに……」

海未「それに……?」

鞠莉「果南は……やれぶた世界で不思議なものを見てる」

海未「不思議なもの……ですか……?」

果南「やぶれた世界で、私はギラティナを止めるために……かなり下層まで潜ったんだけど……。そこで見つけたんだよね」

理亞「見つけたって……何を……?」

果南「……とんでもない大きさのピンクダイヤモンドを」

ルビィ「え……ま、まさかそれって……!」

理亞「ディアンシーの……ダイヤモンド……!?」


ルビィさんと理亞さんは心底驚いたような反応を示す。


ダイヤ「……そういえば鞠莉さん、それくらいの時期に、宝石に意思は宿るか……なんてことを、わたくしに訊ねてきたことありましたわね」

鞠莉「そのときダイヤは、宝石には持ち主の意思や魂が宿ると昔から考えられているって答えたのよね。それを聞いて……そのピンクダイヤモンドに、リナの素になった存在の“魂”みたいなものが宿っていたんじゃないかと仮説を立てた」

果南「もしリナちゃんの“魂”の本体が、今もあのピンクダイヤモンドに閉じ込められてるなら、もう一度あそこに行く必要がある。でも……やぶれた世界へのゲートはグレイブ団事変のあと、なくなっちゃったんだよね……」

鞠莉「だから、確認は出来ていない。お陰で仮説の域を出ていないのだけど──彼方の話を聞いて、この仮説はわたしの中で確信に変わりつつある」


鞠莉さんは、彼方さんの方に向き直る。
91 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:06:39.78 ID:c3b0uZJF0

鞠莉「彼方、あなた……リナがそのテンノウジ・璃奈さんとそっくりだって言ったわよね?」

彼方「うん。喋り方も、考えた方も……雰囲気とかもそっくりだなって……。あと、リナちゃんボードって口癖……璃奈ちゃんも同じことをよく言ってたんだ」

リナ『そうなの……?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「……うん。璃奈ちゃん、感情表現が苦手で無表情なのが悩みだったみたいなんだけど……愛ちゃんが、それを補うためのボードを作ってあげて……それに『璃奈ちゃんボード』って、名前が付いてたんだ……」

鞠莉「……こんな偶然、ありえるかしら? これってつまり──璃奈さんの“魂”がなんらかの理由でやぶれた世界に流れ着いて……わたしたちと、どうにかコンタクトを取ろうとした結果──リナというプログラムを作って、果南の図鑑に忍ばせた」

海未「……随分突飛な話ではありますが……一応、筋は通っていますね……」


海未さんは腕を組んで唸りだす。

確かに一個一個は突飛なことのはずなのに……何故かそれが繋がって行っている気がする……。


海未「リナのことは、ひとまずわかりました。ただ、少し話が戻るのですが……解せないことがあります」

穂乃果「解せないこと……?」

海未「愛は璃奈を失ったことで組織へ不満を持ち、それがきっかけで破壊活動を行い……結果、幹部称号を剥奪されたんですよね?」

彼方「う、うん……そうだけど……」

海未「なら何故、愛は未だにその組織に協力しているのですか?」

ことり「あ、確かに……」


海未さんの言うとおり、施設を破壊するくらい組織に反対していたなら、今協力しているのは少し違和感がある。

でも、その疑問に答えたのは、


リナ『それに関しては……愛さんは従わされてる可能性がある』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんだった。


海未「従わされている……? どういうことですか?」

リナ『愛さんは前に会ったとき、首にチョーカーをしてた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「あ……確かに……」


なんか、癖みたいに首のチョーカーを指でいじっていた気がする。

言われて、海未さんが改めて表示されている画像を確認すると、


海未「……確かに着けていますね」


粗い画像ながらも、確かに首にチョーカーを着けているのがわかる。


リナ『あのチョーカーは発信機になってる。たぶん居場所を知らせるためのもの』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……え?」

リナ『しかも……チョーカーの裏側はスタンガンみたいに、信号を送ると電撃が走るようになってた。近くで確認したから間違いない』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そ、それじゃ……」

彼方「愛ちゃんは組織のために、首輪を着けられてるってこと……?」

リナ『その可能性は高い』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「……なるほど」


海未さんはリナちゃんの言葉に頷く。

……だけど、


穂乃果「……私はそうは思わないかな」
92 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:07:22.77 ID:c3b0uZJF0

穂乃果さんが異を唱えた。


海未「何故ですか?」

穂乃果「……従わされているって言うには、少しふざけてるというか……追い詰められてるような雰囲気を感じなかったんだよね」

侑「確かに……愛ちゃんはなんというか……終始ふざけているような感じだった気がします」

穂乃果「うん。協力的ではないけど……消極的でもなかったというか……」

かすみ「確かに、ずっと周りを小馬鹿にしたような喋り方する人でしたね! かすみん、ちょっとイライラでした!」

海未「ふむ……」


海未さんは口元に手を当てる。


海未「……どちらにしろ、彼女に関しては情報が少なすぎて、ここで結論を出すのは難しそうですね……。リナの言うとおり、発信機とスタン機能の付いている首輪の存在は気になりますが……」


海未さんは愛ちゃんに関しては、ひとまずそうまとめて、


海未「わかる方の情報を整理しましょう」


次の話へと移る。


海未「情報がほとんどない愛に対して──果林は情報が多いです。彼女は言わずと知れた有名なモデルで、メディアにも多く露出していました。この場にいる人も、彼女を知っている方は多いんじゃないでしょうか」

ことり「うん……コーディネーターとしても有名だから、ことりは何度かお話ししたこともあるよ」

曜「私も、何回かコンテスト会場で会ったことがあるかな。……いっつもファンに囲まれてて、本当にカリスマファッションモデルって感じだった……」

海未「彼女のモデルとしての実力は本物なのでしょう……ですが、冷静に見てみると、おかしな点がいくつかあります」

ことり「おかしな点……?」

海未「彼女は──4年程前から、唐突に芸能界に現れているんです」

曜「そうなんですか……?」

海未「はい。経歴を洗い出してみたら……本当にある日突然、大企業のファッションモデルとして抜擢されているんです」

ことり「言われてみれば……確かにそうだったかも」

海未「いくら実力があっても……唐突に大企業からのバックを得るのはさすがにおかしいと思いませんか?」

曜「確かに……協賛契約を結ぶのって大変なんだよね……」

海未「それが気になったので……先日彼女に急に大きな仕事を依頼したいくつかの企業の取締役に、精神鑑定を受けてもらったんですが……。……漏れなく、催眠暗示のようなものを受けているということがわかりました」

彼方「……! まさか、フェローチェの毒……」

海未「……やはり、何か心当たりがあるんですね?」

彼方「果林ちゃんの持ってるフェローチェってウルトラビーストは……人を魅了して操る力があるんだ……」

海未「やはりですか……直近で彼女に仕事を依頼したローズのビジネスショウの責任者にも、同様の精神鑑定を受けてもらったら、同じ結果が出ましたし……」

真姫「……え?」


海未さんの言葉を聞いて、真姫さんが驚いたように目を見開いた。


海未「そういえば真姫は……つい数日前に、彼女と仕事の打ち合わせをしたそうですね」

真姫「え、ええ……」

海未「しかも、その日、その会議を行ったビルにて……ポケモンによるテロが起こった。……これは偶然ではなく、恐らくあのテロも一連の計画の中で仕組まれたものだったと考えた方が自然です」

真姫「……! まさ、か……」

海未「ただ、解せないのは……何故彼女がそんなことをしたのか、ですね……。目的が千歌であるなら……わざわざこんな目立つことをする意味がない……となると、他に何か目的が──」

真姫「……っ!!」


真姫さんは──ダン!! と机を叩きながら立ち上がった。
93 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:08:07.10 ID:c3b0uZJF0

にこ「ま、真姫……?」

花陽「ま、真姫ちゃん、どうしたの……?」

真姫「……っ……あのテロは最初から……せつ菜を唆すために起こしたものだったのね……っ!!」


真姫さんはクールで冷静沈着なジムリーダーだと言うのが有名な人なのに──今は私が見ても一目でわかるくらいに怒りを剥き出しにしていた。


海未「真姫……それはどういうことですか?」

真姫「……あの子の父親は……反ポケモン派で有名な人なの……! あの子の父親もあの打ち合わせに居て、あの子が父親の前でポケモンを使うように仕向けられたのよ……!! 目の前で、人がポケモンに襲われていたら、あの子はなりふり構わず、絶対助けるに決まってる……!! だから……!!」

にこ「ま、真姫!! あんた、ちょっと落ち着きなさい!!」

真姫「…………」

海未「真姫、にこの言うとおりです。あの現場でポケモンを無力化したのは一般のトレーナーで、名前は──」

真姫「……菜々でしょ」

善子「……え?」


ヨハネ博士が真姫さんの言葉に反応した。

私もその名前には聞き覚えがあった。菜々って……まさか……。


真姫「ナカガワ・菜々……」

海未「え、ええ……確かに、ナカガワ・菜々さんですが……」

真姫「私の秘書で……──普段は、ユウキ・せつ菜と名乗っているポケモントレーナーよ……」


真姫さんが言うのと同時に──ガタンッ! と大きな音を立て、椅子をひっくり返しながら立ち上がった人がいた。


善子「……どういう……ことよ……」


ヨハネ博士だった。


真姫「善子……」

善子「菜々は…………せつ菜だって言うの……?」

真姫「…………」

善子「まさか……あんた、全部知ってて……」

真姫「…………」

善子「……菜々が……千歌を……攫ったってこと……?」

真姫「…………」

善子「…………ちょっと……どうして、そんなことになるの……? 菜々は誰よりも優しい子なのよ……? その菜々が……なんで、そんなことするようになっちゃうの……?」

真姫「…………ごめんなさい……」

善子「……っ……!! ごめんなさいじゃないでしょ!? あんた、一体菜々に何を教えて──」

鞠莉「Be quiet.」

善子「……!」

鞠莉「善子……座りなさい。ここはケンカをする場じゃないでしょう」

善子「でも……!」

鞠莉「Sit down. 座りなさい」

善子「……っ」


ヨハネ博士は、下唇を噛みながら立ち尽くす。
94 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:08:50.34 ID:c3b0uZJF0

曜「善子ちゃん、座ろう……?」

善子「……」


隣に座っていた曜さんが、倒れた椅子を直しながら、ヨハネ博士をゆっくりと座らせる。


海未「……何か、いろいろと私の知らない事情があるようですね……。……とりあえず真姫、説明をしてもらえますか? あのテロがせつ菜を唆すためのものだったと言っていましたが……」

真姫「……果林たちは、なんらかの方法でせつ菜の正体が菜々であることを掴んで……あの子と父親が同じ場に居合わせるような場を仕組んだ……。菜々がポケモンを使って戦う姿を目の当たりにしたら……あの子の父親は菜々からポケモンを取り上げようとする……。……そうしたら、菜々は……どうにか説得をしようとするはずよ」

海未「……説得というと……」

真姫「……あの子、父親と話をしたあと……チャンピオンになるって飛び出して行ったから……。……父親とそういう約束をしたんだと思う……」

ダイヤ「……確かに……ローズでテロがあった日の夜、ウテナにせつ菜さんが来られました。……千歌さんを探していましたわ」

真姫「その次の日に……千歌から、せつ菜とのバトルを急用で中断することになったと聞かされたわ……。恐らく果林は……その直後に、あの子に接触して……唆した」

穂乃果「……! そっか、あのときの不自然なウルトラビーストの誤報は……!」

彼方「せつ菜ちゃんと千歌ちゃんが戦う機会を設けてから……千歌ちゃんが、無理やり戦闘を中断しなくちゃいけない状況を作るため……。フソウとダリアに愛ちゃんがそれぞれウルトラビーストを放ってたか……それか、まだ他に協力者がいるのかはわからないけど……」

真姫「それも全部……せつ菜を唆して、千歌とぶつけるため……」

海未「……確かに、彼女は今最も千歌に迫る実力を持っているトレーナーと言っても過言ではない……。もし、千歌を無力化させるなら、彼女をぶつけるのが最も効率がいい……」

彼方「それに……せつ菜ちゃんはウルトラビーストを使ってた……。果林ちゃんが、千歌ちゃんを倒させるために、渡したんだと思う……」

海未「少しずつ……全体像が見え始めましたね……。……彼方の言うとおりならば、彼女らの目的はこの世界を滅ぼすこと……なのかもしれませんが、具体的に何をするつもりなのかがわからないと対策の打ちようがない……」


海未さんはまた腕を組んで唸り始める。

確かに具体的に何をしようとしているのかが、よくわからないのは確かだ……。

そこで、私はふと──果林さんたちが戦っている最中に言っていたことを思い出す。


侑「……あの」

海未「侑? どうかしましたか?」

侑「……果林さん、歩夢が自分たちのこれからの計画に必要だって……そう言ってました。もしかしたら……歩夢を利用して、何かをしようとしてるんじゃないかなって……」

海未「歩夢……? 連れ去られた、ウエハラ・歩夢さんのことですか?」

侑「はい」

海未「……必要とはどういうことですか……? 歩夢さんとしずくさんは、人質として連れ去られたのでは……」

かすみ「そういえば……歩夢先輩にポケモンを手懐ける力があるーとかなんとか言ってましたね……」

海未「ポケモンを手懐ける力……?」

侑「その……なんというか、歩夢はポケモンからすごく好かれる体質で……そういうのを言ってるんだと思います……。それがどう必要なのかは……よくわからないんですけど……」

海未「…………」


海未さんは口に手を当てて考え始める。


海未「一つ確認したいことが出来ました。穂乃果」

穂乃果「ん、何?」

海未「ウルトラビーストとやらの姿を確認出来るものは持っていたりしますか?」

穂乃果「あ、うん! 私のポケモン図鑑なら、ウルトラビーストのデータも入ってるから見られるよ!」

海未「わかりました。パソコンに繋げてプロジェクターで映すので、少し貸してもらってもいいですか?」

穂乃果「うん」

海未「鞠莉、少し手伝ってもらえますか? 図鑑の操作なら、貴方が一番だと思うので……」

鞠莉「OK.」
95 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:09:24.37 ID:c3b0uZJF0

海未さんは穂乃果さんから、ポケモン図鑑を受け取り、鞠莉さんと一緒にセッティングをしていく。

程なくしてセッティングが終わり──プロジェクターに図鑑の画面が映し出される。


海未「穂乃果、彼方、侑、かすみ。貴方たちに……果林の使っているウルトラビーストの──フェローチェのことについて、お聞きしたいのですが」

侑「フェローチェのこと……?」

穂乃果「えっとね、フェローチェはこのポケモンだよ」


そう言いながら、穂乃果さんがフェローチェの画面を表示する。

──スラリとした体躯の真っ白なポケモンが表示される。


海未「このポケモンで間違いありませんか?」

かすみ「はい! こいつがフェローチェです! こいつが……しず子を……」

侑「……?」


ただ、私は首を傾げる。


侑「色が……違う……?」

彼方「あ、そっか……侑ちゃんは色違いのフェローチェしか見たことないもんね……」

海未「……それは、どんな色ですか?」

侑「えっと……上半身はこのままなんですけど……下半身が黒くて……」

リナ『博士、私をパソコンに繋いでもらえないかな?』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「いいけど、何するの?」

リナ『画像に直接色を塗って、色違いを再現する』 || ╹ ◡ ╹ ||

鞠莉「なるほど……。OK. わかったわ」


鞠莉さんは手際よくリナちゃんをパソコンに繋ぎ──


リナ『画像を直接いじって、色違いを再現するね。侑さん指示して』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「わかった。えっと、この部分が黒で……」


私はプロジェクターに映った画像を指差しながら、リナちゃんに少しずつ色を付けてもらう。


侑「そうそう……こんな感じだった」


だんだん、完成形が近づいてきたそのとき、


ことり「……あれ……?」


ことりさんが、声をあげた。


曜「ことりさん?」

ことり「……これ、どこかで見覚えが……あ」


ことりさんは立ち上がり、


ことり「あ、あの……リナちゃん! この画面、速く動かしたりって出来る?」


そうリナちゃんに注文を出す。
96 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:10:04.42 ID:c3b0uZJF0

リナ『画面ごと動かせばいいの?』 || ╹ᇫ╹ ||

ことり「うん! ものすっごく速く行ったり来たりさせてみて!」

リナ『わかった! 動かすね!』 || > ◡ < ||


リナちゃんはことりさんの注文どおり、ものすごいスピードで画面を動かし始める。


花陽「……えっと、ことりちゃんは何を……」

かすみ「う、うぇぇ……これ、ちょっと酔うかもぉ……」


確かに、画面の上を何かが高速で横切っているのが何度も何度も繰り返されている映像は、少し酔いそうになる。

何が映っているかわからないし……見えるのはせいぜい白と黒の残像くらいで……。


ことり「……このポケモンだ」

侑「え?」

ことり「前、ことりを襲ってきたの……このポケモンだよ! この残像、見覚えがあるもん!」

にこ「残像に見覚えがあるって……すごいこと言うわね、ことり……」

海未「やはりそうでしたか……」

ことり「え?」

海未「ことり、以前に言っていたではありませんか、あのとき自分を襲ったポケモンは──人間くらいの大きさで、色は白かったような、黒かったような……と」

ことり「あ……!」

海未「それにポケモンを手懐ける能力……という言い方はあまり好きませんが、ことりはポケモンから好かれやすいというのは私も認めるところです。歩夢さんもそのような人なんだとしたら……」

希「……そっか、もともとはことりちゃんを狙ってたけど……強すぎて捕まえることが出来なかった。でも、同じような体質の歩夢ちゃんなら連れていけるって判断したんやね」

海未「そういうことです。即ち──彼女たちはポケモンを手懐けて何かをしようとしている……」

ツバサ「ポケモンを手懐けて出来ることと言ったら……」

英玲奈「大量のポケモンを捕獲し……それを使った無差別攻撃とかだろうか」

海未「他世界を滅ぼすというのが、どのレベルのものを指しているのかはわかりませんが……純粋に攻撃などをして、機能を低下させることを指しているのだとしたら、ありえない話ではないですね……」

ダイヤ「なら……各町の警備レベルを上げておいた方がいいかもしれませんわ。向こうが襲ってきてからでは、対応も遅れてしまうでしょうし……」

海未「そうですね……出来る限り各町にジムリーダークラスの実力者を常駐させる必要があるかもしれません」

リナ『そろそろ、画面の方はいい?』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「あ、はい。ありがとうございます。侑も、お陰で新しいヒントが得られました。感謝します」

侑「い、いえ! 恐縮です!」


リナちゃんがパソコンから離れて、私のもとへと戻ってくる。

すると画面は再び、果林さん、愛ちゃん、せつ菜ちゃんを映した画面に戻る。
97 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:11:00.43 ID:c3b0uZJF0

理亞「…………」

ルビィ「理亞ちゃん……? どうしたの、画面をじーっと見て……」

理亞「……やっぱ、この人……見たことある」

ルビィ「え?」

にこ「あのねぇ……果林はかなり有名なモデルなのよ? 確かにあんたはテレビとか興味なさそうだけど、見たことくらいは……」

理亞「いや、そっちじゃない。もう一人の方」

にこ「え?」

海未「理亞……愛に見覚えがあるのですか?」

理亞「うん。……前、グレイブマウンテンの北側の基地で飛空艇を開発してるとき……この人が居たと思う」

海未「……なんですって? それは本当ですか?」

理亞「というか、こっちの青髪の方の人も、実際に見た覚えがある……」

海未「グレイブ団とも繋がりが……? 他には何か覚えていませんか?」

理亞「……やり取りは全部ねえさまがしてたから……それ以上のことは……」

海未「そうですか……」

理亞「せめて……ねえさまが喋れる状態なら……」

海未「……そう、ですね」


海未さんはまた口元に手を当てて思案を始める、が、


かすみ「あのー……ちょっといいですかー?」


かすみちゃんが手を上げて、それを中断させる。


海未「なんですか?」

かすみ「ずっと聞いてて思ったんですけど……皆さん難しく考えすぎじゃないですか……?」

侑「かすみちゃん……? どういうこと……?」

かすみ「この会議って千歌先輩を助けるための会議なんですよね? 向こうの目的とか、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないですか?」

海未「……ふむ?」

かすみ「果林先輩たちは、千歌先輩がいると困るから、千歌先輩を捕まえに来たんですよね? なら千歌先輩さえ取り戻しちゃえば、また相手は困った状態に戻ると思うんですよぉ……だったら、かすみんたちは千歌先輩たちを取り戻すことを一番優先して考えるべきだと思うんです」

海未「……なるほど」

鞠莉「果林たちの計画に千歌の排除が含まれているなら……千歌を奪還しちゃえば、向こうはまたそのプロセスをもう一度踏まないといけなくなる……そういうことが言いたいのかしら?」

かすみ「そうですそうです!」


確かに随分周到な準備をして千歌さんを攫っているあたり、千歌さんの強さというのがよほど障害になると考えていた可能性は高い。

実際、千歌さんが味方にいるのといないのとでは、心強さが全然違うし……。


侑「でも、そのためには千歌さんたちの居場所がわからないといけないし……そもそも、私たちはウルトラスペースに行く方法もないわけだし……」


むしろ、そこが問題なんだ。だけど、かすみちゃんはきょとんとして、


かすみ「え、でも……さっきの話聞いてると、そのウルトラスペースってやつを渡る方法も、全部リナ子の元になった人? が考えたんですよね? じゃあ、リナ子が完全復活しちゃえば、渡る方法も教えてもらえるんじゃないですか?」


そう答える。
98 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:11:44.99 ID:c3b0uZJF0

ダイヤ「仮にそうだとしても……問題はそんな簡単に行くかという話で……」

かすみ「だって、リナ子の居場所は見当がついてる〜みたいに言ってたじゃないですか。やぶれた世界……でしたっけ?」

ダイヤ「ですが、宝石に意思が宿るという話も言い伝えレベルのものですわ……。言ったのはわたくしですが、鞠莉さんがそういう意味で聞いているとは思わなかったので……。正直、まだ仮説の域で……」

かすみ「仮説でもなんでも、可能性があるならまずそれをやるべきですよ! 鞠莉博士の言うとおり、本当にそこにリナ子がいたら、全部解決するんですから!」


かすみちゃんが自信満々に言うと、


果南「あはは、全く持ってそのとおりだ♪」


果南さんが、かすみちゃんの頭をわしゃわしゃと撫で始める。


かすみ「わわっ、や、やめてください〜! 髪崩れちゃいます〜!」

果南「鞠莉、確かにいろんな情報が出てきて混乱するけどさ、私たちは最初からやろうとしていたことをやるべきだと思うよ」

鞠莉「果南……」

海未「最初からやろうとしていたこと?」

鞠莉「わたしたちは……ずっとリナの記憶を元に戻す方法をずっと考えていたの。……そもそも今のリナは少し不自然な状態なのよ」

侑「不自然……?」

リナ『私の記憶領域は飛び飛びになってる。領域が存在してるのはわかるのに、間が抜けててアクセス出来ないところがたくさんある』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「えっと……? ……地続きなら読めるんだけど、歯抜けになってるせいで、読み込めない部分があるってこと?」

リナ『そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||

鞠莉「リナは明らかに自分の意志でわたしたちにコンタクトを取って来たわ。なのに、あえて歯抜けになってる自分を作り出すのっておかしくないかしら? 普通に考えたら、より多くの情報が伝えられるように、出来るだけ多くの記憶にアクセス出来るように自分を作るはずよ。でもそうしなかった。そう出来なかっただけという可能性もあるけど……わたしには、自分にまだ足りない記憶や情報があることを伝えるためにやっているように思えるわ」

海未「つまり……最初から、残りの自分の因子を探させるために、不完全な自分を果南の図鑑に忍ばせた……ということですか」

果南「だから、私たちは目的を2つに絞ってずっと行動してた。1つはもう一度やぶれた世界に行く方法。もう1つはピンクダイヤにたどり着いた時に、そこからリナちゃんの“魂”を回収する方法」

侑「“魂”の回収方法……」


確かに、仮にピンクダイヤモンドとやらに、リナちゃんの“魂”があるんだとしても、それを回収する方法がなければ結局意味のない話だ。

だけど……そんな方法あるのかな。


果南「それでね……実は後者の方はもう当てが付いてるんだ」

侑「え……?」

果南「その鍵は……侑ちゃんがすでに持ってる」

侑「え……!?」


私は驚いて声をあげる。鍵って……!? 私、そんな重要なモノに覚えがないんだけど……。


果南「私はずっと、マナフィってポケモンを探してたんだ」

侑「マナフィ……?」

果南「マナフィにはね、心を移し替える“ハートスワップ”って技が使えるんだ」

かすみ「心を移し替えるってことはもしかして……」

果南「そう、この技があれば、ピンクダイヤモンドに宿った“魂”だけをリナちゃんに移動できるんじゃないかってこと」


マナフィにそういう能力があるのはわかったけど……。


侑「えっと……それで、私はそのマナフィへの鍵を持ってる……ってことですか……?」

果南「そういうこと」

侑「えぇ……?」
99 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:12:19.32 ID:c3b0uZJF0

全く心当たりがないんだけど……。


果南「さっき、侑ちゃんが持ってたタマゴが孵ったでしょ?」

侑「え? は、はい……フィオネですよね?」

果南「実はマナフィはね、フィオネたちの王子って言われてるポケモンなんだ」

侑「……え?」

果南「そして、フィオネにはどれだけ遠くに流されても、自分が生まれた海に戻ることが出来る帰巣本能がある」

侑「じゃあ……」

果南「フィオネに案内してもらえば、マナフィのもとにたどり着けるってこと!」

侑「……」


私はポカンとしてしまう。……まさか、さっきタマゴから生まれたポケモンがそんなに重要なポケモンだったなんて……。


果南「あとはやぶれた世界に行く方法を見つけて……リナちゃんの記憶を戻せば、歩夢ちゃんたちを助けに行く道が見えるかもしれない!」

侑「……!」

果南「ただ、フィオネの“おや”は侑ちゃんだから、無理強いは出来ないんだけどさ……手伝ってくれるかな?」


そんなの、聞かれるまでもない。


侑「はい……! 私、絶対に歩夢を助けに行きたいんです……! 協力させてください!」

果南「ふふ、よかった」

かすみ「じゃあ、かすみんはやぶれた世界に行く方法を探しちゃいます! どうすればいいんですか?」

鞠莉「やぶれた世界に行くためには、空間の裂け目を見つける必要があるわ」

かすみ「空間の裂け目……? それってどんなのですか?」

鞠莉「まあ、一言で言うなら空間にあいた穴ね」

かすみ「空間にあいた……穴……?」


かすみちゃんが自分の頭に人差し指を当てながら考え始めたとき、


海未「ちょっと待ってください」


海未さんが待ったを掛ける。


果南「ん、なに?」

海未「さっきから話を聞いていて思ったのですが……まさか果南……侑とかすみを奪還作戦に連れて行くつもりではないですよね?」

果南「ダメなの?」

海未「ダメに決まっているではないですか!? 危険すぎます!! 何を考えているんですか!?」

侑「え……」


最初は強い人に任せようなんて言っていた手前……自分勝手かもしれないけど、私は海未さんの言葉にショックを受ける。


侑「わ、私……歩夢を助けに行っちゃいけないんですか……?」

海未「貴方たちの身の安全を考えたら、当然の判断です」

侑「そんな……」


せっかく、歩夢を助けに行く決心が付いたのに……。

そのとき、
100 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:12:58.04 ID:c3b0uZJF0

かすみ「あーーーーっ!!!!」

海未「!?」

侑「!?」


かすみちゃんが急に大声をあげた。


海未「な、なんですか、急に……?」

かすみ「かすみん……空間の裂け目、見たことあります……!」

鞠莉「……え!?」

海未「なんですって!?」

果南「かすみちゃん、それ本当?」

かすみ「は、はい! 間違いありません! 空間に浮いてる穴みたいなやつですよね! えっと、場所は……」


場所を言いかけて──かすみちゃんは急に黙り込む。


海未「……? どうしたんですか、早く場所を……」

かすみ「……かすみん、しず子を助けに行く作戦には連れてってもらえないんですよね?」

海未「何度も言わせないでください。そのつもりです」

かすみ「……なら、交換条件です!! かすみんが空間の裂け目の場所を皆さんにお教えする代わりに、かすみんと侑先輩を作戦に連れて行ってください!!」

侑「か、かすみちゃん……!?」

海未「……なんですって?」

かすみ「この条件が呑めないなら、かすみん空間の裂け目の場所は教えてあげませーん!」


ぷんと顔を背けながら言う、かすみちゃんに対して、


海未「……いいから、教えなさい」


海未さんがドスの効いた声で返す。

……普通に迫力があって怖い。


かすみ「ぴゃぁーーー……!? そ、そ、そんな風にすごまれても、交換条件が呑めないなら、教えられませんもんっ!!」


かすみちゃんは涙目になって、果南さんの背後に隠れながら言う。


果南「あはは! 一本取られたね、海未」

海未「笑いごとではありません! 一歩間違えれば、命に関わる……そういう相手なんですよ? 貴方たち、それをわかっていますか?」

かすみ「そ、それくらい、知ってますもん……べー!」

侑「……自分なりに覚悟はしているつもりです。私も……私のポケモンたちも」
 「ブイ」


少なくとも……私たちは、前回の戦闘で殺されかけている。

歩夢のお陰で命は助かったけど……相手が情け容赦を掛けてくれるような相手ではないというのは、理解しているつもりだ。

……もちろん、今の私たちが実力不足で、だから作戦への参加を拒否されていることも。

ただ、そんな私たちに助け船を出してくれたのは、


希「……ま、ええんやない? 本人たちも覚悟してるんなら」

海未「希……!?」


希さんだった。てっきり四天王だから、海未さん側なのかと思っていたんだけど……。
101 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:13:36.59 ID:c3b0uZJF0

希「3年くらい前にも似たようなことがあったような気がするんよ〜……。そのとき、誰かさんは人の反対も聞かずに、自分の弟子を作戦に参加させようとしてへんかったっけ?」

海未「……そ、それは……」

希「まさか……自分の弟子はいいのに、そうじゃない子はダメなんて、言わんよね〜?」

海未「そ、その言い方は卑怯ですよ、希!」

希「ちなみにことりちゃんと真姫ちゃんは、ウチに賛成してくれると思うんやけど、どうかな〜?」

真姫「……こっちに話振らないでよ……」

ことり「……え、えっと……こ、ことりからは何も言えませーん……!」

曜「あはは……」


希さんの視線から逃げるように目を逸らす、ことりさんと真姫さん。そんな二人を見て、苦笑する曜さん。

なんかわからないけど……賛成してくれる人もいるようだ。これなら……説得出来るかも……!


侑「あの、海未さん……!」

海未「……なんですか」

侑「歩夢は、私にとって……すごくすごく大切な幼馴染なんです。……確かに今の私は弱くて、足手まといかもしれません……でも、それでも、歩夢が怖い思いをしているときに、指を咥えて見てるだけなんて出来ません……!」

海未「…………」

かすみ「それはかすみんも同じです!! しず子は、かすみんが頬っぺた引っ叩いてでも、連れ戻すんですっ!!」

侑「私……歩夢と約束したんです。歩夢に怖い思いさせないために……強くなるって。強くなって、歩夢を守るって……」


……あのとき、歩夢が自分を犠牲にしてでも、果林さんを止めてくれなかったら……私は今ここにいないと思う。


侑「私は歩夢に守ってもらった……。……だから、今度は私が歩夢を助ける番なんです……!!」
 「イブィ!!」

海未「……はぁ……ポケモントレーナーというのは、どうしてこう……強情な人が多いのでしょうか……」


海未さんは額に手を当てながら、溜め息を吐く。


海未「……侑、かすみ、貴方たちの気持ちは理解しました」

かすみ「ホントですか!?」

侑「それじゃあ……!」

海未「ですが……ポケモンリーグの理事長として、実力のないトレーナーを危険な地に送り出すことは出来ません」

かすみ「り、理解してないじゃないですかっ!?」

海未「……ですので、条件を出します」

侑「条件……?」

海未「貴方たち、ジムバッジは今いくつ持っていますか?」

侑「えっと……6つです」

かすみ「かすみんも6つです」

海未「残りのジムは?」

侑「ダリアとヒナギクです」

かすみ「かすみんはダリアとクロユリです!」

海未「なるほど」


海未さんは頷くと、


海未「……果南、鞠莉」


果南さんと鞠莉さんの方に目を向ける。
102 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:14:38.80 ID:c3b0uZJF0

果南「ん?」

鞠莉「なにかしら」

海未「マナフィ捜索ややぶれた世界へ向かうための準備は、どれくらいで出来そうですか?」

鞠莉「えっと……ディアルガとパルキアの調整がいるから……。さすがに1日2日だと難しいかな……」

果南「あと、マナフィ探索用の機器の用意もしてもらわないと」

鞠莉「……それもわたしがするのよね……。……ってことで、そうね……5日は欲しいわ」

海未「わかりました」


果南さんと鞠莉さんの話を聞いた上で、海未さんは私たちに向き直る。


海未「侑、かすみ。貴方たちがこれから戦う相手は──チャンピオンを攫うような輩です。……貴方たちにチャンピオンほどの力を持てとは言いませんが、それ相応の力がないと、ただ無駄にやられるだけ……だからと言って貴方たちが強くなるまでゆっくり待っていられるほど時間もありません」

侑・かすみ「「……」」

海未「ですので、貴方たちには──残り5日であと2つのジムバッジを集めてもらいます」


そう、条件を出してきた。


かすみ「……ふっふっふ、なーんだ、そんなことですか……! かすみん、ここまでジム戦は全部ストレートで勝ってきてるんです!! それくらい、朝飯前ですよ!」

海未「ただし……今後、行ってもらうのは、普通のジム戦ではありません」

かすみ「はぇ……?」

侑「普通のジム戦じゃない……?」

海未「真姫、理亞、英玲奈。この二人とジム戦を行う際は──本気の手持ちを使ったフリールールでお願いします」

侑「え……!?」


──ジムリーダーは本来、トレーナーの段階的な育成を目的とした施設だ。

だから、ジムバッジの数を基準に、挑戦者のレベルに合わせたポケモンを使うんだけど……本気の手持ちというのは、まさに文字通り、ジムリーダーたちが本気で戦うときに使うポケモンたち。


かすみ「あ、あのぉ……フリールールってなんですか……?」

果南「フリールールって言うのは、文字通りなんでもありってことだね。実戦形式って言った方がわかりやすいかな……? バトルフィールドも自由、交換も自由、ポケモンを同時に出すのもOKなルールってこと」

海未「場所と詳細な勝敗条件はジムリーダー側が決めてください」

かすみ「え、えぇ!? それ、かすみんたち不利すぎませんか!?」

海未「実戦の相手は、当然自分たちに有利な環境で戦おうとします。これで勝てないだなんて言っている人を作戦に参加させることは出来ません」

かすみ「ぐ……!? そ、それは……確かにですけどぉ……」


つまり……これが私たちが今後の戦いに参加するための、最低条件ということだ。


侑「やろう、かすみちゃん。もとより、歩夢たちを助けるためには……私たちは強くなるしかないんだ」

かすみ「侑先輩……。……わかりました! 本気だろうがなんだろうが、やってやりますよ!」

理亞「……私はいいけど……相手になるの……?」

英玲奈「久しぶりにジム戦で本気を出していいのか……楽しみだな」


理亞さんが私に、英玲奈さんがかすみちゃんに目を向けながら言う。

そして、


真姫「そういうことなら……出来るだけ早く済ませちゃった方がいいわよね」


真姫さんがそう言いながら、こちらに視線を向けてくる。
103 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:15:15.30 ID:c3b0uZJF0

真姫「今すぐに……って言いたいところだけど、準備もあると思うから。ローズジム戦は明日行いましょう」

かすみ「侑先輩……どっちが先にやります……?」

侑「えっと……」

真姫「順番なんて決めなくていい。二人同時に相手してあげるわ」

かすみ「え、でも……」

真姫「本気の手持ちを使えばルールはこっちで決めていいんでしょ、海未?」

海未「それで実力を測れると思うのでしたら、構いません」

真姫「なら、てっとり早く──二人まとめて捌いてあげるから」

侑「よ、よろしくお願いします……!」

かすみ「ふふん♪ そんなルール許可しちゃったこと、後悔しないでくださいね〜?」


かすみちゃんは得意げに鼻を鳴らす。

私は自分から2対1を提案してくるあたり、相当自信があるんじゃないかなって思えて、ちょっと不安なんだけど……。


海未「それでは……理亞と英玲奈も近日中にジム戦をする準備をお願いします」

理亞「わかった」

英玲奈「承知した」


まあ……条件付きとは言え、どうにかこうにか、作戦への同行の道は繋がって一安心かな……。


穂乃果「とりあえず……次の方針は決まったってことでいいのかな?」

海未「そうですね……ひとまずは果南主導でマナフィの捜索と……やぶれた世界の方に関しては鞠莉にお任せします」

果南「了解」

鞠莉「わかったわ」

海未「あと、かすみ」

かすみ「!? な、なんですか……? いくら怖い顔したってかすみん、無条件で空間の裂け目の場所を教えたりしませんよ!?」

海未「それはいいです。……ただ、もし5日以内にバッジ8つが達成できなかった場合には、大人しく教えてもらいます。そうでなければ、こちらも条件を提示する意味がありませんから」

かすみ「わ、わかりました……。さすがにかすみんもそこまで卑怯なことするつもりありませんし……」

海未「よろしい」


空間の裂け目についての交渉も、両者納得したみたいだ。


ダイヤ「あとは……人の配置でしょうか」

海未「そうですね……。今後、地方内に攻撃をされる可能性がありますので、全ての町にジムリーダー、もしくは四天王を配置するようにします」

ツバサ「フソウはどうするの?」

希「アローラにいるえりちに、一旦戻ってきてくれるように連絡してみるよ。えりちならフソウの土地勘もあるだろうし」

海未「では、ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイ、ローズ、ヒナギク、クロユリはそれぞれのジムリーダーに警固をお願いします。フソウは希の言うとおり、絵里に頼むとして……ウラノホシ、サニー、アキハラは四天王側でどうにかカバーしましょう。ウテナには私が常駐します」

ツバサ「そうなると一人余るから……私が地方全体を遊撃するわ」

海未「いつもすみませんツバサ……よろしくお願いします」

ツバサ「大丈夫よ。ドラゴンたちは速いし、飛び続ける体力もある。私が適任だもの」

海未「ありがとうございます。……穂乃果はこの後はどう動くつもりですか? 出来れば穂乃果にも地方警固をお願いしたいのですが……」

穂乃果「ごめん……私はやることがあるから……。でも、ピンチなところがあったら、出来る限り全速力で駆け付けるよ!」

海未「わかりました、ではそのようにお願いします。……あとは、引き続きになりますが……出来る範囲で敵についての情報を探りましょう。全てをリナに賭けるわけにもいきませんからね」
104 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:15:52.78 ID:c3b0uZJF0

確かに方針はリナちゃんの記憶を取り戻す方向に進んでいるけど……もしかしたら、空振りになる可能性もあるんだ。

敵の情報は少しでも多い方がいいし……探れるなら探っておくに越したことはないよね。


彼方「あ、それなら……果林ちゃんと仲の良かった子を知ってるよ。その子なら、何か知ってるかも……」

かすみ「もしかして、エマ先輩ですか?」

彼方「うん。かすみちゃんも知り合いだったんだね」

海未「では、そちらの方にも話を伺ってみましょう。彼方、仲介をお願いしてもよろしいですか?」

彼方「うん、任せて〜!」

海未「さて……とりあえず、話は纏まりましたね……。随分長い会議になってしまいましたが……他に意見がなければ、本日はここでお開きとさせていただきます」


海未さんの言葉と共に──長い会議はやっとお開きとなったのだった。





    ⚓    ⚓    ⚓





──会議が終わると同時に、


善子「…………」

曜「あ、ちょっと、善子ちゃん……!」


善子ちゃんは無言で会議室を出て行ってしまった。


ルビィ「善子ちゃん……結局あの後、一言も喋らなかったね……」

花丸「うん……」

曜「私、ちょっと追いかける……!!」


私も善子ちゃんを追いかけて、会議室を飛び出す。

会議室を出ると──善子ちゃんはとぼとぼと歩いていたので、すぐに追いつくことが出来た。


曜「……善子ちゃん」

善子「…………」

曜「……大丈夫?」

善子「…………」


声を掛けると善子ちゃんは足を止め……しばらく何も言わず立ち尽くしていたけど──


善子「…………菜々が……トレーナーになってたって聞いて……嬉しいって思ってる私と……菜々が……人を傷つけたって聞いて……悲しいって思ってる私がいるの……」


ぽつりぽつりと喋り始める。
105 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:16:27.33 ID:c3b0uZJF0

曜「善子ちゃん……」

善子「……なんで、あの子が苦しんでるときに……私はいつも……傍に居てあげられないのかな……」

曜「…………善子ちゃんにとって……菜々ちゃんは特別だもんね」

善子「…………」

曜「……後悔してるんだね。あのとき、強引にでも手を取ってあげられなかったこと……」

善子「…………」

曜「なら、出来ることは一つだよ」

善子「…………え……?」


善子ちゃんは振り返りながら、声をあげる。


曜「もう、後悔しないように……次はちゃんと菜々ちゃんの手を取ってあげないと。善子ちゃんが」

善子「…………曜」

曜「だから、今は下向いてる場合じゃないよ! 私たちに出来ることをしよう!」

善子「…………」


善子ちゃんは少しの間、無言で私の顔を見つめていたけど、


善子「……はぁ……これだから、陽キャは……落ち込ませてもくれないんだから……」


溜め息交じりに肩を竦めながら、そう言う。


曜「だって、落ち込んでる善子ちゃんなんて、見たくないもん」

善子「わかった。……出来ることをしましょう。……菜々に胸を張れる大人であるために」

曜「うん♪ それでこそ、善子ちゃんだよ♪」

善子「……ありがと、曜。……あと、善子言うな」





    🍅    🍅    🍅





真姫「……」


出て行ってしまった善子を見て、罪悪感があった。

菜々が図鑑と最初のポケモンを貰う約束をしていたのが善子だったというのは、もちろん知っていた。

だけど……せつ菜はトレーナーになってからも、善子に自分の正体を明かさなかった。

理由はなんとなく見当がついている。……きっと、ばつが悪かったのだろう。

その意思を汲んで私も何も言わなかったけど……。

今こんな事態になってしまってから、一言私の口から伝えておくくらいはしておいてよかったんじゃないかと……そんな風にも思っていた。
106 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:16:57.78 ID:c3b0uZJF0

海未「真姫」

真姫「海未……」

海未「……情報提供感謝します。……実はせつ菜の素性は、調べてもなかなか出てこなくて……困っていたんです」

真姫「……私はせつ菜の保護者のようなものだからね、当然よ……。……だから、今回のことは……私にも責任がある」

海未「真姫……」

真姫「私が育てたトレーナーが起こした問題だから……この騒動が解決したら……私は責任を取るつもり」

海未「…………」

真姫「だけど……今は先にやることがある。……だから、全部終わってから」

海未「……わかりました」

真姫「ひとまず……菜々のご両親に、起こっていることを説明しに行くわ」

海未「私もご一緒します。ポケモンリーグの理事長として……説明することもありますから」

真姫「うん……お願いね」





    ☀    ☀    ☀





穂乃果「鞠莉ちゃん、ちょっといいかな?」

鞠莉「穂乃果さん……?」

穂乃果「これ……渡しておこうと思って」


私はそう言って、鞠莉さんにフラッシュメモリーを手渡す。


鞠莉「これは……?」

穂乃果「ウルトラビーストのデータだよ。これで、みんなのポケモン図鑑でもウルトラビーストを認識出来るようにしてあげて」

鞠莉「なるほど……助かるわ」


データは戦闘の上では重要な武器になる。鞠莉さんに渡せば、みんなの図鑑をアップグレードしてくれるはずだ。


穂乃果「それじゃ、よろしくね」

鞠莉「ええ、任せて」


鞠莉さんにデータを託し──私はセントラルタワーを出て、中央区の外へ向かう。

中央区だとリザードンを出しづらいからね……。

私は歩きながらポケギアを取り出し、電話を掛ける。


相談役『──もしもし、穂乃果さん?』

穂乃果「これから、音ノ木に向かいます」

相談役『……わかったわ。彼方さんは?』

穂乃果「一旦、果南ちゃんに近くにいてもらうようにお願いしました。……果南ちゃんなら、ウルトラビーストが現れたとしても、まず負けないと思うし」

相談役『わかりました。……もし、音ノ木に異変があったら、すぐに連絡してください』

穂乃果「了解です」


私は通話を終了し──外周区に到着すると共に、リザードンに乗ってローズシティを飛び立ったのだった。



107 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:17:43.56 ID:c3b0uZJF0

    🎹    🎹    🎹





侑「……はぁ……つ、疲れた……」

かすみ「かすみんも……お話ししてただけなのに……くたくたですぅ……」


かすみちゃんと二人で机に突っ伏してしまう。


彼方「あはは……ちょっと、難しいお話しだったもんね」

侑「……でも、ここで彼方さんと会えてよかったです……」

彼方「ふふ、彼方ちゃんも二人と会えてちょっとホッとしたよ〜。わたしもまだ、本調子ってわけじゃないけどね〜……。……あと、かすみちゃん」

かすみ「? なんですか?」

彼方「しずくちゃんのこと……ごめんなさい……」


彼方さんはそう言いながら、かすみちゃんに向かって頭を下げる。


かすみ「え、ええ!? き、急にどうしたんですか!? 頭上げてください!?」

彼方「……果林ちゃんがフェローチェを使うことはわかってたんだから……あの時点でしずくちゃんだけでも、避難させるべきだったんだ……そうすれば、しずくちゃんが付いていっちゃうことはなかったのに……」

かすみ「彼方先輩……。……でも、階段にははる子が倒れてたんですよね? だったら、何言ってもしず子は一人で避難なんてしなかったと思います。だから、これは事故です。彼方先輩が気にすることじゃないですよ」

彼方「かすみちゃん……」

かすみ「それに、しず子はかすみんが引っ叩いてでも連れ戻すって決めてますから! 心配しないでください!」

彼方「……ふふ、ありがとう、かすみちゃん」

リナ『そういえば……遥ちゃんは……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「遥ちゃんは、国際警察の医療施設に運ばれて……まだ眠ってるよ。いつから、お姉ちゃんよりお寝坊さんになっちゃったんだろうね……」


そう言いながら、彼方さんは力なく笑う。


彼方「でも、大丈夫だよ。命に別状はないって、お医者さんが言ってたから。……ただ、ちょっとショックを受けすぎちゃって、眠ってるだけ……」

侑「そう……ですか……」

彼方「それよりも侑ちゃんとかすみちゃんは、明日にはジム戦があるんでしょ? 疲れてるんだったら、今日は早く休んだ方がいいよ」

かすみ「それもそうですねぇ……侑先輩、行きましょうか」

侑「……そうだね」


椅子から立ち上がると──


侑「あ、あれ……?」


私の視界がふわぁっと暗くなる。


果南「──おっと……大丈夫?」

侑「え……?」


近くにいた果南さんに抱き留められ、そこでやっと、自分が倒れそうになっていたことに気付く。


かすみ「ゆ、侑先輩……!? もしかして、まだどこか痛むんですか!? ご、ごめんなさい、それなのにかすみん、侑先輩に無茶させて……」

リナ『侑さん、大丈夫……?』 || 𝅝• _ • ||

 「ブイ…」
108 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:18:14.76 ID:c3b0uZJF0

かすみちゃんやリナちゃん……そしてイーブイが心配して、私の周りに寄ってくる。


侑「あ、あれ……おかしいな……」


別に痛いところとかはないはずなのに、身体に力が入らなかった。

なんでだろうと思っていたそのとき──

──ぐぅぅぅぅぅ……。……と、大きな音を立てながら、お腹が主張を始めた。


侑「…………」
 「ブイ……」

かすみ「…………」

リナ『…………』 || ╹ᇫ╹ ||


そういえば私……ここ数日、まともにご飯食べてなかったんだった……。


侑「お腹……空いた……」

果南「ふふ、お腹が減るのは元気な証拠だよ♪ ひとまず、みんなでご飯にしようか」

彼方「それじゃ、彼方ちゃんが何か作るよ〜」

かすみ「やったー! ご馳走です〜♪」

リナ『それじゃ外周区の食材売り場と、レンタルキッチンを探すね』 ||,,> ◡ <,,||

果南「侑ちゃん、おんぶしてあげるから、乗って」

侑「す、すみません……」


あまりの空腹で足元が覚束ないので、果南さんにおんぶしてもらう。


かすみ「彼方先輩の料理は絶品ですから、楽しみにしておいてくださいよ〜!」

彼方「おう、任せとけ〜!」

リナ『なんで、かすみちゃんが自慢気なんだろう』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


みんなの楽しそうな会話を聞いていて、ふと思う──歩夢もここに居たら……もっと楽しかったのにって……。


侑「歩夢……今、どうしてるかな……」
 「ブイ……」


ちゃんと……ご飯食べてるかな……。


侑「……歩夢……」

果南「歩夢ちゃんを助けるためにも、今はしっかり食べて体力つけないとだね」

侑「……はい」


歩夢……絶対助けに行くから、待っててね……。

私は胸中で一人、そう誓うのだった。



109 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:18:47.26 ID:c3b0uZJF0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.63 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.63 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.59 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.53 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.56 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.1 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:200匹 捕まえた数:8匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.63 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.56 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.54 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.56 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.55 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.56 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/12/19(月) 18:18:44.75 ID:CXrIr5dv0
あげ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/12/19(月) 18:24:16.88 ID:sOGR6cy00
はい
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/12/19(月) 20:17:49.77 ID:thzP3vp90
頑張れ
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/12/20(火) 00:02:50.75 ID:6Afa9EdC0
あげ
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/12/20(火) 00:04:28.98 ID:6Afa9EdC0
あげ
115 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 00:32:32.82 ID:B+X5AS2s0

 ■Intermission👠



愛「航路安定、あと数日もしたらウルトラディープシーに到着すると思うよ」

果林「ありがとう、愛。姫乃、歩夢やしずくちゃんはどんな様子かしら?」

姫乃「特におかしな様子は見られませんね。歩夢さんは最初は脱出しようと、ポケモンを使っていろいろ試していましたが……壊すのは無理だと悟ったようで、今は大人しくしています。しずくさんは……まるで糸の切れた人形のようですね……。ずっと、ベッドに横たわったまま、ほとんど動きません……」


姫乃は監視カメラの映像を見ながら、二人の様子を教えてくれる。


姫乃「あれも禁断症状の一種でしょうか……」

果林「そうね……あとで少しフェローチェを魅せに行くわ」


しずくちゃんはフェローチェを使えば、私に従順に動いてくれる。

歩夢やせつ菜のような使い道はないけど……駒としての利用価値は十分にある。


愛「……ねぇ、果林。ウルトラディープシーに向かってるってことは、ウツロイドを使うの?」

果林「ええ。このままだと、歩夢は言うことを聞いてくれないでしょうからね」

愛「……たぶん、ウツロイドを使っても、歩夢は私たちに従うようにはならないよ? ウツロイドの神経毒は理性を麻痺させるだけだから、やりたくないことはさせられない……というか、むしろやりたくないことは絶対にやらなくなっちゃうし」

果林「別に私は歩夢をコントロールをしたいわけじゃないのよ」

愛「どゆこと?」

果林「ウツロイドの毒は、回り切れば人格そのものを破壊する。目的は歩夢のフェロモンなんだから、生きたまま物言わぬお人形さんにさえなってくれればいいのよ」

愛「……相変わらず、おっかないねぇ……悪人の鑑だ……。歩夢のエースバーンを怒らせて、燃やされないようにね」

果林「……? どういう意味……?」

愛「果林は“オッカない”からね。なんつって」
 「ベベ、ベベノ♪」

果林「……」


“オッカのみ”はほのおタイプの攻撃を弱める“きのみ”だ。

わざわざそれを言うための振りをしなくてもいいのに……。


姫乃「……くだらないこと言ってないで、操縦に集中してください」

愛「“おぉっと”、残念!! “オート”操縦だ!」
 「ベベ、ベベベノ♪」

愛「いやー、ベベノムはこんなに大爆笑してくれてるのにな〜」

姫乃「はぁ……どうして、上はこの人をいつまでも重用するんでしょうか……」

果林「……利用価値があるからよ。こんなでも、愛の頭脳は本物よ」


愛の科学力は研究班の中では頭一つ抜けている。いや……頭一つどころか、二つ三つは飛びぬけている。

結局、彼女がいなければ、ウルトラスペースを行き来する方法もここまで発展しえなかったのだ。

──尤も……あの事故さえなければ、今頃技術はもっと発達していたのだろうけど……。

そう言われるくらいには、あの子──璃奈ちゃんは、愛すらも凌ぐ本当に優秀な科学者だった。


愛「そういやさ」

果林「何?」

愛「せっつーあのまんまでいいの? しずくみたいに、マインドコントロールとかしてないんでしょ?」


確かに、せつ菜にはウルトラビーストを与えただけで、実は彼女自身には特別な細工をしていない。
116 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 00:33:28.01 ID:B+X5AS2s0

愛「せっつー頭良いしさ……あのテロを起こしたのも果林のバンギラスだったって、すぐに気付くよ?」

果林「たぶん、せつ菜は私に利用されてることには、薄々気付いてるわよ」

愛「……マジ? 反逆されたりしない?」

果林「大丈夫よ。あの子は……自分の言葉を曲げられない──いえ、自分の言葉に縛られると言った方がいいかもしれないわね。そんな不器用な子なのよ」


せつ菜は、良く言えば素直だけど……悪く言えば愚直だ。

天真爛漫で無邪気さがあり、自分のやりたいことへはひたむきだが──裏を返せば、自信家でプライドが高く、思い込みも激しい。

チャンピオンになると宣言してしまえば、それ以外の方法を選べなくなってしまうし──自分で力を求めて、その力で誰かを傷つけてしまったら……もうそこから逃げられなくなる。

きっと今彼女の中では、自分は蛮行を行い……もう、戻れないところに来てしまったと、そう感じているのだろう。

その証拠に彼女は──『もう、帰る場所なんて……ありませんから……』──と口にしていた。


果林「彼女は自分で、自身が悪に染まる道を選んでしまった。その自覚があの子の中にあり続ける以上、簡単に裏切ったりはしない……出来ないわ」

愛「なんか、せっつーについて随分知った風じゃん?」

果林「どこかの誰かさんと似てるのよ。……自信家でプライドが高いところとか……特にね」


せつ菜を見ていると……時折、鏡を見ているような気分になることがある。

だからこそ……あの子が追い詰められたとき、どんな行動をするかが手に取るようにわかったし……彼女を唆すための作戦が、あまりにうまく行きすぎて……自分が少し怖くなったくらいだ。


果林「だから、せつ菜は裏切らないわ」

愛「ふーん……。ま、果林がそう言うならいいけどさ」


せつ菜は絶対に裏切れない。自分が一度ついてしまった陣営も──自分自身の言葉にも。

そして……『もう戻れない』と言うせつ菜と同じで、私も──


果林「──……そう……もう……今更、戻れないのよ……」


愛たちに聞こえないくらいの小さな声で、そう呟くのだった。


………………
…………
……
👠

117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/12/20(火) 07:26:38.63 ID:6Afa9EdC0
あげ
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/12/20(火) 09:54:32.99 ID:XENnri720
ファイト
119 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:28:58.06 ID:B+X5AS2s0

■Chapter053 『決戦! ローズジム!』 【SIDE Yu】





──ホテルを出ると、外はこれでもかというくらいの快晴だった。


リナ『いいお天気!』 || > ◡ < ||

かすみ「ジム戦日和ですね!」

侑「…………」
 「ブィィ…?」

果南「侑ちゃん、緊張してる?」


口数の少ない私を見て、果南さんが声を掛けてくる。


侑「は、はい……」

果南「確かに真姫さんは強いからね。……でも、自分と自分のポケモンを信じて戦えばきっと大丈夫だよ」

彼方「そうそう! コメコで会ったときからは考えられないくらい、侑ちゃんも侑ちゃんのポケモンたちも逞しくなってるよ! 自信持って!」

侑「果南さん……彼方さん……」

かすみ「彼方先輩! かすみんは!? かすみんはどうですか!?」

彼方「ふふ♪ もちろん、かすみちゃんたちも逞しくなってるよ〜♪」

かすみ「えへへ〜……そんなことありますよ〜♪」


そうだ……私たちは旅の中で強くなってきたんだ……。

そして、もっともっと強くなるためにも……今日、絶対に真姫さんに勝たないといけない。

不安になっている場合じゃないんだ……!


侑「ありがとうございます! ……勝ってきます!」

果南「うんうん、その意気だ♪」

彼方「勝利祝いのおいしいご飯を作って待ってるから、頑張ってね♪」

かすみ「おいしいご飯……!」

彼方「もちろん、勝利祝いだから、負けちゃったときは果南ちゃんと二人で食べちゃうからね〜?」

かすみ「ぜ、絶対に勝たないと……!」

侑「あはは……」


食べ物に釣られるかすみちゃんには、ちょっと笑っちゃうけど……でも、


侑「かすみちゃん」

かすみ「なんですか、侑先輩!」

侑「絶対に勝つよ……! 私たち二人で!」

かすみ「はい! もちろんです!」


想いは一緒だ。

私たちはジム戦のために──真姫さんから指定のあった場所へと向かいます。



120 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:30:31.10 ID:B+X5AS2s0

    🎹    🎹    🎹





真姫さんから指定のあった場所──そこはローズシティの西端部、外周区のさらに外……。


かすみ「ここも一応、ローズシティ……なんですよね? ……随分、雰囲気が違くないですか……?」

侑「うん……」


かすみちゃんの言うとおり、ここは……廃屋がいくつもあるような場所だ。ローズシティの雰囲気とは正反対というか……。


侑「リナちゃん、ここ……ローズシティだよね……?」

リナ『うん。滅多に人は近付かないけどね』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「なんで、こんな場所があるんですか? ローズシティって、超都会! 最先端! ってイメージなのに……」


かすみちゃんがそんな疑問を口にすると──


 「──ここは廃工場地帯よ」


空から声が降ってきた。

かすみちゃんと二人でその声の方に目を向けると──


真姫「……二人とも、ちゃんと時間通りに来たわね」


真姫さんがメタングに腰掛けながら、私たちの上を浮遊していた。


侑「真姫さん!」


真姫さんは、メタングから飛び降り、私たちの前に降り立つ。


かすみ「廃工場って……今は使ってないってことですか?」

真姫「ええ。工場は中央区が出来たときに、全部そっちに移転して……ここには廃棄された工場だけ残ったってこと」

かすみ「解体とかしなかったんですか?」

真姫「この場所って、カーテンクリフが近いでしょ? そこから、たまに野生ポケモンが来るの。ローズの人って、ポケモンが苦手な人が多いから、ほとんどが中央区に移り住んで、ここは場所自体が放棄されたってわけ」

リナ『ローズでは野生のポケモンが近くに出るってだけで、人が寄り付かなくなるからね』 || ╹ᇫ╹ ||

真姫「だから、ローズシティの敷地内だけど、ここに来る人はほとんどいないし、いるとしても野生のポケモンくらいってわけ。二人とも、付いてきなさい」

侑「は、はい」
 「ブイ」


真姫さんの後を追ってたどり着いた場所は──


かすみ「うわ……でっか……」


一際大きな廃工場だった。驚いて建物を見上げる私たちを後目に、真姫さんは工場の中へと入っていく。

倣うように屋内へ足を踏み入れると──中も広々とした工場だった。

あちこちにベルトコンベアがあり、見上げると2階くらいの高さに、工場内の点検や作業用のキャットウォークが設置されている。


真姫「ここはモンスターボール工場だった場所よ」

かすみ「モンスターボールって……あのモンスターボールですか?」

真姫「ええ。ローズシティは昔から、この地方のほぼ全てのモンスターボールを生産しているの。今は中央区の方に工場が移ったから……こんな大規模な工場だけがここに残されてるってわけ」
121 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:31:48.85 ID:B+X5AS2s0

そう言いながら、真姫さんは私たちを置いて──キャットウォークの方へと階段を上って行く。


真姫「……そして、この廃工場が、今日のバトルフィールドよ」

侑「……! ここが……」

かすみ「場所はジムリーダーが決めるって言ってましたもんね……」

真姫「ルールは事前に言ってあるようにフリールール。交換も同時にポケモンを出すことにも、一切制限がないわ。使用ポケモンの数にも制限は設けない」

かすみ「え? それじゃ、こっちは侑先輩とかすみんの手持ち合わせると……」

真姫「ええ。それぞれのトレーナーが6匹ずつ。つまり、そっちは二人合わせて12匹のポケモンをフルで使って大丈夫よ」

かすみ「……ちょっとちょっと侑先輩! これ、もしかして楽勝で勝てちゃうんじゃないすか!?」

侑「……」


確かに一見私たちに有利な条件にも見えるけど……真姫さんの毅然とした態度。

やはり本気の手持ちを使うのもあってか、よほど自信があるのかもしれない。


侑「私たちは、真姫さんの手持ち6匹を全部倒せばいいってことですか?」

真姫「それでもいいけど……勝敗の条件は──これよ」


そう言いながら、真姫さんは上着をめくって内側を見せる。

そこには──ジムバッジが2つ輝いていた。


侑「“クラウンバッジ”……」


ローズジムを攻略した証として貰える、“クラウンバッジ”だ。


真姫「貴方たちの勝利条件は──私を戦闘不能に追い込むか、この“クラウンバッジ”を奪うことよ。逆に……貴方たちの敗北条件は、貴方たちが戦闘不能もしくは行動不能になること」


今回のフリールールは実戦形式と言っていた。実戦を模した戦いということはつまり──仮にポケモンが残っていても、私たちトレーナーが戦闘を継続できなくなった時点で勝敗が付くということだ。


真姫「もちろん、大怪我をさせるつもりはない。ただ、これは実戦形式……ちょっとした怪我くらいは覚悟して貰うわよ」

かすみ「の、望むところです!」

真姫「ま……仮に怪我したとしても、私が診てあげるから安心なさい。私はジムリーダーであると同時に、医者でもあるから」

侑「け、怪我せずに勝てるように頑張ります!」

真姫「ええ、頑張って頂戴」


真姫さんは2階から私たちを見下ろしながら、腰のボールを外す。


真姫「本来なら……私は貴方たちの、友達を助けたいという意志を応援していたと思うわ。だけど……今回は菜々も関わってる。……だから、貴方たちが生半可なトレーナーであるなら、ここで足切りさせて貰うわ」


──真姫さんにも、全力を出す理由があるということだ。


侑「かすみちゃん……! やるよ!」
 「ブイブイッ!!!」

かすみ「もちろんです!! 二人であっと言わしてやりましょう!!」

リナ『二人とも、頑張って! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> ◡ <,,||


私たちもボールを構えた。


真姫「ローズジム・ジムリーダー『鋼鉄の紅き薔薇』 真姫。本気の私に勝てるか、やってみなさい……!!」


工場内でボールが放たれた──バトル、開始……!!

122 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:32:21.84 ID:B+X5AS2s0



    🎹    🎹    🎹





かすみ「行くよ、サニーゴ!!」
 「──……サ」

侑「出てきて、ウォーグル!」
 「──ウォーーーッ!!!!」


サニーゴとウォーグルがフィールドに飛び出す。


真姫「メタグロス!! ニャイキング!!」
 「──メッタァーー!!!!」「──ニ゙ャア゙ァァァーーーッ!!!!」


一方、真姫さんが出してきたのは、メタグロスとニャイキングだ。


リナ『メタグロス てつあしポケモン 高さ:1.6m 重さ:550.0kg
   2匹の メタングが 合体した 姿。 4つの 脳みそは
   スーパーコンピュータよりも 速く 難しい 計算の
   答えを 出す。 4本足を 折りたたみ 空中に 浮かぶ。』

リナ『ニャイキング バイキングポケモン 高さ:0.8m 重さ:28.0kg
   頭の 体毛が 硬質化して 鉄の ヘルメットのように なった。
   ガラル地方の ニャースが 戦いに 明け暮れて 進化した
   結果 伸ばすと 短剣に 変わる 物騒な ツメを 手に入れた。』


真姫「メタグロス!!」
 「メッタァッ!!!!」


メタグロスは足を折りたたみ、2階から私たちのいる場所向かって飛び出してくる。


かすみ「しょっぱなから、突っ込んできますか!! サニーゴ、“てっぺき”!!」
 「……サ」

侑「かすみちゃん!? 真っ向から攻撃を受けちゃダメ!?」

かすみ「へっ!?」


サニーゴは体を硬質化させ、防御の姿勢を取るけど──


真姫「“コメットパンチ”!!」
 「メタァァーーー!!!!!!!!!!」


“コメットパンチ”が直撃すると──ヒュンッと風を切りながら、かすみちゃんの横スレスレを吹っ飛んでいく。


かすみ「ひ……!?」


しかも、それだけに留まらず──サニーゴは壁に向かって跳ね返り床に──床に当たるとまた跳ね上がり──まるでピンボールの球のように、フィールド内を跳ね回り始める。


かすみ「ぎ、ぎゃわああああ!?」


──ガンッガンッ!! と激しく音を立てながら、壁や床をバウンドするサニーゴ。

サニーゴはしばらくフィールド内を跳ね回ったあと──ボゴッ! と音を立てて、近くにあった空のドラム缶を凹ませながらめり込んだ。


かすみ「さ、サニーゴ……っ!!」


かすみちゃんはやっと止まったサニーゴのめり込んでいるドラム缶へと駆け出すが、
123 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:33:07.67 ID:B+X5AS2s0

真姫「ニャイキング!! “メタルクロー”!!」
 「ニ゙ャア゙ァァァァァ!!!!!!!!!」

かすみ「うぇ!?」


かすみちゃんに向かって、ニャイキングが爪を構えて、死角から飛び掛かって来ていた。


真姫「周りを見てなさすぎよ」

かすみ「や、やば……っ!!」


爪がかすみちゃんを捉えようとした、その瞬間、


侑「ウォーグル!!」

 「ウォーーーーー!!!!!!」
かすみ「わぁ!!?」
 「サ……」


ウォーグルが、かすみちゃんとサニーゴをそれぞれの足爪で掴んで、一気に飛翔する。

──直後、ザンッ!! と音を立てながら、ドラム缶が切り裂かれ真っ二つになる。


かすみ「──ゆ、ゆうせんぱーい……ありがとうございますぅ〜……!」

侑「か、間一髪……!」


でも、ホッと息を吐く間もなく、


真姫「仲間を助けてる場合かしら? “サイコキネシス”!!」
 「メタァァァーー!!!!!」

侑「!?」
 「ブ、ブィ!!?」


メタグロスの“サイコキネシス”で、肩に乗っていたイーブイごと、私の身体が浮き上がり──そのまま、背後の壁まで吹っ飛ばされる。

──ドンッと背中から壁に叩きつけられて、


侑「……かはっ……!」


一瞬息が詰まる。


かすみ「侑先輩!?」

侑「……ぐ……うっ……!」


すぐに目を開けて、前方を見ると──


 「メタァァァ!!!!」


メタグロスがこちらに向かって“こうそくいどう”で接近してくる。

でも、私たちは“サイコキネシス”で壁に押し付けられているせいで、このままじゃ回避が出来ない。


侑「イーブイ……! “いきいきバブル”……!!」
 「ブ、ィィィ…!!!」


壁に押し付けられながらも、イーブイの体毛から──ぷくぷくと大量の泡が発生して、飛んでいく。

だが、


真姫「そんな攻撃で止まると思ってるのかしら?」

 「メッタァァァァ!!!!!」
124 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:38:48.77 ID:B+X5AS2s0

真姫さんの言うとおり、メタグロスは“いきいきバブル”の中をお構いなしに突っ込んでくる。


侑「ぐ……っ……」


絶体絶命の瞬間に、


 「──ニャーー」


ボールから勝手に飛び出すニャスパーの姿。

私は咄嗟に指示を出す。


侑「ニャスパー……!! パワー全開で“サイコキネシス”!!」
 「ニャーーーー!!!!」


ニャスパーが閉じている耳を完全に立てながら──“サイコキネシス”をメタグロスに向かって放つと、


 「メ、タァァァ…!!!!」


メタグロスが空中で静止する。

そのタイミングで──壁に押し付けられていた私とイーブイの身体は解放される。


侑「はぁ……はぁ……っ……」
 「ウゥゥニャァァァァ」


どうにか、メタグロスは止めた──でも、


 「メッタァァァ…!!!!」


メタグロスはじりじりとこっちに向かって、迫ってきている。

ニャスパーのリミッターを完全解除しているのに……押し返しきれていない。

息を切らして、休んでる場合じゃない……! 次の作戦を……!

そう思って、立ち上がった瞬間──メタグロスの頭上に白い何かが縦回転しながら、降ってきた。


かすみ「テブリム!! “ぶんまわす”っ!!」
 「テーーーーブゥッ!!!!!!!!!!」


──かすみちゃんのテブリムだ……!!

テブリムは縦回転しながら、自分の頭の房を乱暴に振り回し、上空から“アームハンマー”顔負けの拳を叩きつけ──そのまま反動で跳ねながら離脱する。


 「メッタァッ…!!!?」


上空からの奇襲に、一瞬メタグロスの体が沈み込むが──すぐに持ち直し、浮き上がる。

まだ、威力が足りてない……!


かすみ「侑先輩!!」


かすみちゃんが、ウォーグルの足からサニーゴを抱えて飛び降りながら、声をあげる。


侑「ウォーグル!! “ばかぢから”!!」

かすみ「“シャドーボール!!”」

 「ウォーーーーッ!!!!!」
 「サ、コ」
125 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:39:39.07 ID:B+X5AS2s0

落下しながら、放たれるサニーゴの“シャドーボール”と、ウォーグルの爪による急襲でメタグロスを上から押さえつける。

それと同時に、ウォーグルを巻き込まないために、


侑「ニャスパー!! サイコパワー解除!!」
 「ニャ」


ニャスパーがぱたっと耳を閉じる。

それによって、さっきまでサイコパワーで浮かされていたメタグロスは急に浮力を失うのと同時に、ウォーグルの“ばかぢから”とサニーゴの“シャドーボール”を受け──轟音を立てながら、地面に叩きつけられる。

550kgの巨体に耐えられなかったのか、そのまま床が砕け──メタグロスは床下に沈み込んだ。


かすみ「よっしゃぁ!! やってやりましたよ!!」
 「サ…」「テブッ!!」


かすみちゃんは頭にテブリムを、小脇にサニーゴを抱えながら、小さくガッツポーズをするけど、


 「メッタァァァ!!!!!!」


メタグロスは床にめり込みながらも、激しく4つの足を乱暴に振り回しながら、暴れている。


かすみ「うそっ!? まだ、倒れないの!? ……ゆ、侑先輩!!」


かすみちゃんはメタグロスを後目に、私の方へ駆けてくる。一旦合流するつもりだろうけど──私の視点からは、かすみちゃんの背後に迫っている影が見えていた。


侑「かすみちゃん、伏せて!!」

かすみ「えっ!? はいぃっ!!」


私に言われたとおり、かすみちゃんが咄嗟に身を屈めると──


 「ニ゙ャア゙ァァァァァ!!!!!!」


かすみちゃんの頭の上を“メタルクロー”が薙ぐ。


かすみ「ひぃぃぃっ!!? テブリム、“サイケこうせん”!?」
 「テーーブーーーッ!!!!」


テブリムがかすみちゃんの頭の上に乗ったまま、ニャイキングを“サイケこうせん”で攻撃するものの、


 「ニ゙ャ…ア゙ア゙ァァァァァ!!!!!」


ニャイキングは一瞬怯んだだけで、すぐにかすみちゃんに向かって、爪を構えて飛び掛かってくる。


かすみ「わぁぁぁぁ!!?」

侑「っ……!! ウォーグル!!」


そのニャイキングを真横から、


 「ウォーーーーーッ!!!!!!!」

 「ニ゙ャア゙!!?」


ウォーグルが足爪で、蹴り飛ばしながら、壁に叩きつけた。


かすみ「た、助かったぁ……!!」

侑「……!」
126 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:40:26.75 ID:B+X5AS2s0

今度は私が、かすみちゃんの方へと走り出す。

このまま、こんな開けた場所に居ちゃダメだ……!!

私は転んでいるかすみちゃんの手首を掴んで、


侑「かすみちゃん!!」

かすみ「わわっ!?」


半ば無理やりに引き起こす。急に引っ張ったら痛いかもしれないけど……!


 「ニ゙ャア゙ァァァァ!!!!!」「メッタァァァァァ!!!!!!」


──それどころじゃない!

ニャイキングとメタグロスが雄叫びをあげながらこっちを睨んでいる。


 「ウォーーー!!!!」


ウォーグルはすぐに私の意図に気付いてくれたのか、ニャイキングを壁に押し付けるのをやめ、私のもとへと飛んでくる。

私はそのウォーグルの脚に掴まり──かすみちゃんの手首を掴んだまま、低空飛行で、ニャイキングとメタグロスの近くから離脱する。


かすみ「わ、わわぁっ!!?」

侑「く……」


どこに逃げる……!? 工場内に視線を泳がせ、隠れられそうな場所を探す。が、


真姫「“はかいこうせん”!!」

 「メッタァァァ!!!!!」

侑「!?」


背後から、飛んできた“はかいこうせん”が、


 「ウォーーーッ!!!!?」


ウォーグルの翼を掠め、バランスを崩して、空中で回転を始める。


かすみ「ぎゃわぁぁぁぁ!!?」

侑「っ……!!」


回転する中──私の視界に飛び込んできたのは、ボール運搬用のベルトコンベア。


侑「かすみちゃん、ごめんっ!!」

かすみ「へっ!!?」


腕の反動を使い──ベルトコンベアの方に向かって、かすみちゃんを放り投げる。


かすみ「ぎゃわぁぁぁぁ!!?」


かすみちゃんが悲鳴をあげながら、ベルトコンベアの上を転がり──隣の部屋に続く穴へと滑り込んでいく。

私もベルトコンベアの上に着地しながら、その穴へと走る。


侑「リナちゃん!! ベルトコンベア操作出来たりする!?」

リナ『動力があれば!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
127 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:42:08.73 ID:B+X5AS2s0

胸に張り付いていたリナちゃんが近くのコントローラパネルに向かって飛んでいく。


侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブイッ!!!」


イーブイがベルトコンベアの下に垂れていた、コンセントに向かって放電するのと同時に──ゴォンゴォンと音を立てながら、猛スピードでベルトコンベアが稼働する。


侑「ウォーグル!! 翼畳んで、先に行って!」
 「ウ、ウォーー!!!」

真姫「逃がさないわ……!! ニャイキング!!」

 「ニ゙ャア゙ア゙ア゙アァァァァァァ!!!!!」


真姫さんに指示で、飛び掛かってくるニャイキング。


侑「ニャスパー!! “サイコショック”!!」
 「ウニャー」


空中に“サイコショック”のエネルギーキューブを作り出し、ニャイキングを牽制しながら、私はニャスパーを小脇に抱えて、穴に向かって滑り込む。


侑「リナちゃん!!」

リナ『うん!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんに声を掛けると、リナちゃんもすぐに私のもとへ飛んできて──全員穴に逃げ込んだことを確認すると同時に、


侑「イーブイ!! “すくすくボンバー”!」
 「ブイッ!!!」


イーブイが穴の両脇に“すくすくボンバー”を植え付けた。


 「ニ゙゙ャア゙ァァァァ!!!!!」


ニャイキングは爪を構えて突っ込んでくるが、


真姫「……! ニャイキング! 深追いしないで!」
 「ニ゙ャア゙ァ…」


真姫さんはニャイキングを制止する。

それと同時に、樹は一気に成長し──ベルトコンベアを破壊しながらも、私たちが逃げ込んだ穴の口を塞いでくれた。


侑「はぁ……はぁ……」


相手の攻撃が強大とはいえ……あの野太い樹を切るのは一瞬では出来ないはずだ……。

しかも、“すくすくボンバー”は“やどりぎのタネ”……おいそれと手を出せば、体力を吸収されることになる。

恐らく真姫さんは“すくすくボンバー”の効果を知っていて、ニャイキングを止めたんだと思うけど……これで、時間は稼げるはずだ……。

中腰になりながら、穴を奥へ進んでいくと、視界が開け、


かすみ「──侑先輩ぃ……酷いですぅ……」
 「テブ」


隣の部屋で、かすみちゃんがひっくり返った状態で不満を漏らしていた。

ちなみにテブリムは、ひっくり返ったかすみちゃんのお腹の上でふんぞり返っている。
128 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:42:53.06 ID:B+X5AS2s0

侑「ごめんね、かすみちゃん……でも、ああするしかなくてさ……」

かすみ「うぅ……もちろん、かすみん許しますけどぉ……」
 「テブリ」

 「ウォー…」「……サ」「ブイ」

 「ニャー」
侑「とりあえず、全員無事だね……」

リナ『うん、大丈夫』 || ╹ ◡ ╹ ||


ウォーグルもサニーゴも無事。

小脇に抱えたニャスパーも元気そうだし……殿のイーブイも問題なさそうだ。

でも……ここに留まっているのは危険かな……。


侑「ウォーグル……もうひと頑張りお願いできる?」
 「ウォーー」


飛んでくるウォーグルの脚を掴み、


侑「かすみちゃんも」

かすみ「は、はい」


かすみちゃんもウォーグルの脚に掴まって、工場内を飛行しながら、ゆっくりと移動を開始する。


かすみ「……あの……真姫先輩のポケモンたち、強すぎませんか……? あの攻撃力とか、もはや意味わかんないですよ……?」

侑「レベルが違うっていうのはあるけど……一番大きいのはニャイキングがいるからだろうね」

かすみ「はぇ……? どういうことですか……?」

リナ『ニャイキングの特性は“はがねのせいしん”。自分と味方のはがねタイプの攻撃力を上げる特性だよ』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「えぇ!? そんなの聞いてないですぅ……」

侑「とはいえ、逃げてばっかりじゃ、どうやっても勝てない……」

かすみ「いっそ、奇襲して真姫先輩からバッジを奪っちゃいますか?」

リナ『それもありだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに、レベル差を埋めるには、真っ向から戦わないというのも一つの手ではある。

ただ……。


侑「それをするにも、問題はあるよね……」

かすみ「問題……ですか?」

侑「たぶん……真姫さんの方がこの工場には詳しいから、常に奇襲を受けにくい場所を選ぶと思うんだ」


今考えてみれば、真姫さんが試合開始直前に2階に上がったのも、有利な位置を取るためだろう。

改めて……相手が有利な戦場で戦うことの難しさを実感する。


かすみ「となると……真姫先輩、もう最初の場所から移動しちゃってますかね……」

侑「たぶんね……。この広いバトルフィールドの中で、あの場に留まり続ける理由もないだろうし……」


ウォーグルで飛行しながら、改めてこの廃工場を見渡してみる。

屋内は天井が高く、ウォーグルが自由に飛びまわってもほとんど問題ないくらいには高さが確保されている。

あちこちにベルトコンベアが走っており、ボロボロのものも多いけど……さっきみたいに通電すれば無理やり動かすことが出来るものもある。

真姫さんが上がっていた場所のように、点検用のキャットウォークもあちこちに張り巡らせており、この戦場はほぼ全域に渡って二層構造になっていると言ってもいい。

部屋はいくつかに分かれているけど……各部屋を繋ぐドアの前には瓦礫が崩れて通れなくなっていたりする場所もあり、どちらかといえばさっき私たちが逃げてきたような、ベルトコンベアの運搬路の方が無事な場所が多い。
129 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:43:49.03 ID:B+X5AS2s0

リナ『セオリーで言うなら、高所を取った方がいいけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「じゃあ、2階で戦います……?」


確かに高所からの方が一方的な攻撃をしやすいけど……それは相手が下にいる場合の話だ。


侑「むしろ……2階だと遮蔽物が少ない分、逃げるのが難しいかもしれない……」

かすみ「むむ……確かにそれはそうですね……。……とにもかくにも……一度腰を落ち着けて作戦を考えたいですぅ……」

侑「あ……。あそことか、いいんじゃないかな」


私は大きな工場の端の方にコンテナを見つけて、そこに降り立ってみることにした。

床に無造作に置かれたコンテナは、扉が外れていて、簡単に中に入ることが出来そうだった。


かすみ「……うわー……おっきなコンテナですねぇ……」

リナ『これでモンスターボールを大量に運搬してたんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「だね……一旦ここで作戦を考えよう」


真姫さんがどれくらいこの工場を把握しているかはわからないけど……見晴らしのいい場所よりは、死角の少ない場所の方がいい。

もちろん、追い詰められたら逆に逃げ場がない場所だから、ずっと留まるつもりはないけど……。


かすみ「あのー……やっぱりかすみん、この試合はバッジを奪って勝つ方がいいと思うんですよ〜……」

リナ『確かに……真っ向から戦うには、パワーに差がありすぎる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


リナちゃんの言うとおり、どう考えても相手が格上だ。真っ向から戦うのは無謀というのは間違いない。

だけど……。


侑「たぶん……やめた方がいいと思う」

かすみ「どうしてですか? バッジさえ手に入れちゃえば、こっちの勝ちじゃないですか! 真姫先輩がどうしてあんなにあまあまな人なのか知りませんけど……あえて、簡単に勝てる条件を付けてくれたんだから、それは利用するべきですよ!」

侑「うぅん、そうじゃなくてね。……なんで、そんな条件を出したのかってことを考えないといけないんじゃないかなって」

かすみ「……? どういうことですか?」


これは、私たちの実力を試すための戦いだ。

それなのに、何故わざわざそれを緩くする条件を付けるのだろうか?

私はそれが疑問だったけど……。


侑「私はジムバッジを奪わせるように誘導してるように感じる」

かすみ「誘導……?」

侑「実力差を見せつけられたときに、もし真っ向から戦わずに勝てる方法があったら……誰もがそっちに行っちゃうと思うんだ」

かすみ「……それはそうですね。かすみんもそう思っちゃいましたし」

侑「でもそれって逆に、真姫さんの視点からしたら、相手の目的を簡単に絞れるってことにもならない?」

かすみ「言われてみれば……」

侑「実力差がある中で、真っ向から倒すのが難しいのは確かにそうだけど……実力差がある相手が防御に集中したら、倒すよりも奪う方が難しいんじゃないかな……」


真姫さんはこの地方のジムリーダーの中でも、特に攻守速のバランスがよく、補助技の使い方もうまい。

戦い方は打算的で合理的で論理的だ。試合運びが上手で、セオリーを軸に将棋を指すような先読みで相手を制すタイプ。

なら、いかにも追い詰められた私たちがしそうな行動は特に読まれやすい。避けるべきだ。

むしろ……バッジを奪うことを勝利条件にしてきたこと自体が向こうの狙いに思えてくる……。
130 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:44:39.45 ID:B+X5AS2s0

侑「奪えるなら奪ってもいいと思う。だけど、積極的に奪うことを考えて戦うのは……たぶん、通用しない」

かすみ「……じゃあ、どうします……? 奪わないにしても、真っ向から出て行って戦うわけにもいかないですし……」

侑「……うーん……」


それは確かにそうだ。

完全にパワーで負けている以上、大なり小なり奇襲を織り交ぜる必要はある。


かすみ「せめて、真姫先輩の居場所がわかればいいんですけど……」

侑「居場所……」


そこでふと、あることを思いつく。


侑「ねぇ、リナちゃん」

リナ『何?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「真姫さんの居場所を探せるレーダーとかってあったりしない? 相手の所がわかれば、少しは有利に立ち回れると思うんだ」

リナ『……さすがにレーダーはない。けど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「けど?」

リナ『音さえあれば、エコーロケーションで、おおよその場所を探ることは出来るかも』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

かすみ「えこー……? なにそれ……?」

侑「音の響きで相手の位置を計算する方法……だよね?」

リナ『うん。反響定位ってやつ』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「リナ子ってそんなことも出来んの!? さすが高性能AI……」

侑「リナちゃん、お願いしてもいい? 出てきて、フィオネ」
 「フィオ〜」


フィオネはまだ生まれたばかりでレベルも低いから……今回バトルで使うことはないと思ってたけど、


侑「フィオネ、“ちょうおんぱ”!」
 「フィオ〜〜」


音を出すことなら、この子にも出来る。


リナ『エコーロケーション開始!』 || > ◡ < ||





    🍅    🍅    🍅





真姫「……さて、どこに隠れたのかしらね」


キャットウォークの上を歩きながら、隠れられそうな場所をチェックする。

もちろん、その際は奇襲出来る死角を作らないように、ポケモンと一緒に視界をカバーし合う。

──予定では……もう少し早くバッジを奪いに現れると思ったんだけど……。


真姫「……気付いたのかしらね」
131 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:45:56.75 ID:B+X5AS2s0

もちろん、こんなものは相手を引き摺り出すための餌だ。

格上の攻撃を掻い潜りながら、トレーナーの懐に潜り込んで、バッジを奪うなんて現実的じゃない。

そのとき、ふと──耳に違和感を覚える。何か……高周波のような……。


真姫「……なるほど。そういうこと」


なかなか、面白い作戦で来るみたいね。


真姫「いいわ、相手してあげる──」





    🎹    🎹    🎹





リナ『──測定中、ちょっと待ってね』 || > ◡ < ||


リナちゃんがエコーロケーションを行っているのを見守る中、私たちは次の動きの準備をする。


侑「場所がわかり次第動くよ、かすみちゃん」

かすみ「はい!」


いつでも飛び出せる準備をして、待っていたそのとき──キィィィィィィィ!!!!! と、金属をひっかくような不快音が、遠くから響いてくる。


侑「っ!!?」

かすみ「な、なんですか、この“いやなおと”……っ……!」

リナ『これは、まさに“いやなおと”と“きんぞくおん”……! こ、これじゃ、エコーロケーションが出来ない……!』 || × ᇫ × ||


まさか──


侑「こっちの作戦がバレた……!?」


私は一旦フィオネをボールに戻す。


侑「相手が動いてきた……! 一旦、隠れる場所を変えよう……!」

かすみ「は、はい」


が──直後、ゴゴゴゴッと地鳴りのような音が聞こえてくる。


かすみ「え!? な、何の音ですか!?」

侑「……!! 早く出よう!!」


何かヤバイと思い、かすみちゃんの手を取って走り出した直後──コンテナの出口から見える景色が回転を始めた。


侑「っ!?」

かすみ「わひゃぁっ!?」


いや、違う──回ってるのは……コンテナの方だ……!?


かすみ「じ、ジュカイン!! “グラスフィールド”っ!!」
 「──カインッ!!!!」
132 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:46:34.04 ID:B+X5AS2s0

かすみちゃんは咄嗟にジュカインを出しながら“グラスフィールド”を指示し、一瞬でコンテナ内部に草が敷き詰められる。

──程なくして、回転は収まった。


かすみ「ゆ、侑先輩……! 無事ですか!?」
 「テ、テブゥ…」「……サ」

侑「な、なんとか……」
 「ブ、ブィィ…」「ウォーグ…」「ニャー」

リナ『リナちゃんボード「おめめ、ぐるぐる……」』 || @ ᇫ @ ||


コンテナが大回転していたせいで、あちこちに身体を打ち付けたけど、“グラスフィールド”のお陰でダメージには至らなかった。

急いで、コンテナから逃げ出そうとするが──ザンッ!! と音を立てながら、コンテナの壁が切り裂かれ、外の光が差し込んでくる。

その隙間から覗く赤い鎧──


 「──キザン」

侑「キリキザン……!!」


恐らく、さっきの“きんぞくおん”はこのキリキザンの、“いやなおと”はニャイキングのものだ。

そして、キリキザンの後ろには、メタグロスの姿も見える。

──恐らくコンテナを吹っ飛ばしたのはメタグロスだろう。


侑「ウォーグル!!」
 「ウォーーッ!!!」


こんな袋小路で戦うのは絶対に避けないといけない……!!

ウォーグルに指示を出し、かすみちゃんの腕を掴みながら、コンテナの外まで飛翔する──が、


 「──デマルッ!!!」

侑「……!?」


コンテナから飛び出したウォーグルの上に──小さな何かが降ってきた。


真姫「──トゲデマル! “ほっぺすりすり”!」

 「ゲデマー♪」


落ちてきたトゲデマルがウォーグルに頬ずりをすると──バチバチと、静電気のような音が鳴り、


 「ウ、ウォォーー…ッ」
侑「うわぁ!?」

かすみ「え、ちょっ……!?」


飛翔しかけのウォーグルは一気に失速し──墜落した。


侑「つぅ……っ……!」
 「ウ、ウォー…」

かすみ「こ、今度はなんですかぁ……!!」


急いで身を起こすと──ウォーグルが“まひ”して動けなくなっていた。


侑「一旦戻って、“ウォーグル”……!!」
 「ウォー…──」

真姫「“びりびりちく──」

侑「ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」
133 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:47:07.68 ID:B+X5AS2s0

すぐさまライボルトをボールから出すと──


 「ゲデマーー!!!?」


針をバチバチと鳴らしながら、トゲデマルがライボルトに引き寄せられてきた。


侑「“ほのおのキバ”!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトがキバに炎を滾らせながら、噛み付くが、


真姫「“ニードルガード”!!」
 「ゲデマー!!!」

 「ライボッ!!!?」


噛み付かれた瞬間、全身のトゲを伸ばしての反撃。

驚いたライボルトはトゲデマルを口から放してしまう。


 「ラ、ライボ…」
侑「大丈夫だよ、ライボルト……!」


仕留めきることは出来なかったけど──ライボルトは、今フィールドに居ることに意味がある。


真姫「キリキザン、“メタルクロー”!!」

かすみ「ジュカイン、“リーフブレード”!!」

 「キザンッ!!!!」
 「カインッ!!!!」


斬りかかってくるキリキザンをジュカインが迎撃する。

2匹の刃がギィンッ!!と音を立てながら鍔迫り合う。


真姫「“ひらいしん”ね……。ライボルトが居る限り、トゲデマルのでんき技は使えない。……尤も、それはそっちも同じだけど」

リナ『侑さん、トゲデマルの特性も“ひらいしん”だよ……!』 ||;◐ ◡ ◐ ||


お互いのでんき技は“ひらいしん”のポケモンが居る限り引き寄せられてしまう。

いや、それはいいんだ……。


かすみ「ぎ、逆に見つかっちゃいましたよ、侑先輩……!」


見つかったというより──真姫さんはすでに私たちがいることがわかっていた。

メタグロスがコンテナを攻撃したことも、トゲデマルが降ってきたことも、真姫さんがすでに私たちがここにいると確信していたことを物語っている。

私たちのエコーロケーションを打ち消しながら、どうやって自分たちだけ──そこまで考えてハッとする。


侑「エコー……ロケーションだ……」

かすみ「え? そ、それはさっき失敗して……」

侑「違う……さっきの“いやなおと”と“きんぞくおん”で……真姫さんもエコーロケーションをしてたんだ……」

かすみ「えぇ……!?」


かすみちゃんの驚きの声と同時に──


 「キザンッ!!!!」

 「カインッ…ッ!!!」
134 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:48:05.76 ID:B+X5AS2s0

ジュカインがキリキザンとの鍔迫り合いに力負けして、後退る。


かすみ「ジュカイン!? 大丈夫!?」
 「カインッ…!!」


致命傷にこそなっていないみたいだけど……。


 「メタァ…!!!!」「キザン…!!!」「ニ゙ャァ゙ァ゙ァ」


メタグロス、キリキザン、ニャイキングに囲まれた……!

しかも、その3匹の背後には、


 「ゲデマッ」


トゲデマルが構えている……。ライボルトがやられると、めでたく電撃による遠距離攻撃まで解禁されることになる。

ライボルトは死守しないと……。


真姫「エコーロケーション……なかなか面白いことするじゃない」


そんな中、真姫さんが話しかけてくる。


真姫「でもね、エコーロケーションが出来るのは自分たちだけだって思うのは……少し考えが甘かったわね」

かすみ「え……で、でも真姫先輩にはリナ子みたいなAIとかいないでしょ……!?」

侑「メタグロスだ……」

かすみ「え?」

侑「メタグロスは4つの脳でスーパーコンピューター並の計算が出来る……エコーロケーションで場所を探るなんて、わけない……」

真姫「正解。しかも、メタグロスは“クリアボディ”で“いやなおと”や“きんぞくおん”による能力低下もない。貴方たち以上に適性があるのはこっちだったみたいね」


完全に相手が上手だ……。

囲まれているし、気付けば後ろは壁だ……。


真姫「さぁ、どうする?」


ジリジリと間合いを詰めてくる真姫さん。

……こうなってしまったら、もうやるしかない……!


侑「ドロンチ!!」
 「──ロンチ!!」


ドロンチはボールから飛び出すと同時に前方に飛び出し、


侑「“ワイドブレイカー”!!」
 「ロンチッ!!!!」


大きく尻尾を振るって、


 「キザンッ!!!」「ニ゙ャア゙ァッ!!?」「メタ…」


3匹のポケモンを薙ぎ払う。

“ワイドブレイカー”は強靭な尻尾で相手を振り払い、攻撃の手を止めさせる技だ。

しかも不意の攻撃だったため、キリキザンとニャイキングは、怯ませられたが、


 「メタァッ…!!!!」
135 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:49:14.00 ID:B+X5AS2s0

この効果も“クリアボディ”のメタグロスには効かない。

──メタグロスが腕を振り上げた、その瞬間、


 「……メタッ!!!?」


──メタグロスの足の一本が、床に沈み込んだ。


侑「え!?」

真姫「な……!?」


さすがに、これは真姫さんも予想外だったらしく、当惑の声をあげる。

かくいう私も驚いてしまったけど……。

今落ちたメタグロスの足元から──


 「クマァ♪」


ジグザグマが顔を出し、やっと意味がわかった。


かすみ「よくやりましたよ!! ジグザグマ!!」

 「クマァ〜♪」


かすみちゃんはいつの間にかジグザグマに“あなをほる”を指示して床下に忍ばせ──メタグロスの足元を掘らせていたんだ……!


かすみ「そのでかい図体じゃ、足元をちょっと掘りぬけば、自分の重さで落っこちるに決まってます!!」


相手の包囲網に──穴が出来た……!

逃げるなら今しかない……!!


侑「ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトが、私の合図で走り出す。私はその背に飛び乗る。

──直後、爆発的なスピードでライボルトが猛ダッシュし、身動きの取れないメタグロスの真横をすり抜ける。


かすみ「ジュカイン!! 逃げますよ!!」
 「カインッ!!」


かすみちゃんも、ジュカインに抱きかかえられる形で──包囲網の穴を飛び出して行く。

が、


真姫「“じしん”!!」
 「メッタァァ!!!!!!」


──床にはまった腕でメタグロスが、“じしん”を起こしてきた。

その大揺れによって、猛スピードで走っていたライボルトは、


 「ライボッ!!!?」
侑「うわぁっ!!?」


バランスを崩してしまい、その拍子に私も放り出され、床を転がる。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

かすみ「侑先輩!?」
136 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:49:49.33 ID:B+X5AS2s0

リナちゃんとかすみちゃんが、私に近寄ってくる。


侑「だ、大丈夫……ちょっと擦りむいたくらいだから……!」

リナ『ほ……っ』 || >ᆷ< ||

かすみ「ちょっとぉ!! 味方巻き込んでまで、逃がさないために“じしん”とかしますか!?」


──かすみちゃんの言うとおり、“じしん”は味方も巻き込む技だ。

その証拠に、


 「ニ゙ャア゙ァ…!!」
 「キザンッ…!!!」


ニャイキングとキリキザンは、バランスを崩して手をついていた。

もちろん、すぐに立ち上がったけど──きっとあの至近距離だ。“じしん”によるダメージは少なからずあったはずだ。

ちなみにトゲデマルは“ニードルガード”で丸まって防いでいる。


真姫「逃がすくらいなら、ここで味方を巻き込んででも止めた方が早いと思っただけよ」

かすみ「ぐぬぬ……」


かすみちゃんは不満そうな目で睨みつけているけど……真姫さんの判断は間違っていない。


 「…ライボ」


お陰でじめんタイプが弱点のライボルトは満身創痍。


侑「ライボルト、ボールに戻って……!」
 「ライボ──」


戦闘不能はギリギリ免れたけど……この状態で私を乗せて走り回るのは恐らく無理……。

つまり、逃げるための足を失ってしまった状態だ。


真姫「これで……チェックかしらね」

かすみ「ジュカイン……!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが刃を構えながら、身を屈める。そのとき、ふと──上の方の窓から、僅かに光が差していることに気付く。


真姫「最後の一撃かしら?」

かすみ「……」


かすみちゃんは恐らく──“ソーラーブレード”の太陽エネルギーを集めている。

真姫さんは……まだ、気付いてない……。

なら、気付かれないように、私が時間を稼ぐ……!!


侑「ドロンチ!! “りゅうのはどう”!!」
 「ローーンチッ!!!!!!」


ドロンチが“りゅうのはどう”をキリキザンに放つ。

キリキザンは──


 「キザンッ!!!!」
137 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:51:11.62 ID:B+X5AS2s0

真っ向から刃で“りゅうのはどう”を斬り伏せる。

キリキザンが受け止めている中、


 「ニ゙ャア゙゙ア゙ァァァァ!!!!」


ニャイキングがこちらに向かって飛び出してくる。


侑「ニャスパー!! パワー最大!! “サイコキネシス”!!」
 「ウーーーニャァァァァ」


耳を真っすぐ立てて──ニャスパーがサイコパワーを前方に向かって放つと、


 「ニ゙ャア゙゙ア゙ァァァ…!!!!」


ニャイキングがそのエネルギーに押されて吹っ飛びそうになる──が、ニャイキングは自分の爪を床に突き刺して耐える。

耐えられてしまっているだけど──これくらい時間を稼げば十分だ……!


かすみ「……ジュカインっ!!」
 「──カインッ!!!!」


ジュカインの腕が光り輝く。

──“ソーラーブレード”のチャージが完了した。

反撃の狼煙を上げるために、ジュカインが腕を振り上げようとした瞬間、


真姫「──“ソーラーブレード”のチャージをしてること……私が気付いてないと思ったの?」


物陰から、ジュカインに向かって一直線に──青白いビームが飛んできた。


かすみ「!?」


そのビームが直撃した、ジュカインは──“ソーラーブレード”を構えたまま……凍り付いていた。


かすみ「う、うそ……」

侑「“れいとう……ビーム”……?」

真姫「……ええ、そのとおりよ」


真姫さんの言葉と共に──工場内の機械の物陰から、


 「エンペ…」


エンペルトが顔を出した。


真姫「……チェックメイトよ」

かすみ「…………」


かすみちゃんがぺたんと……その場にへたり込む。

かすみちゃんの絶対的エースの必殺技を──封殺された。


真姫「それが最後の望みだったんでしょ? それが不発に終わった今……貴方たちはもう終わりよ。降参しなさい」
138 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:51:59.69 ID:B+X5AS2s0

相手は……私たちの心を折りに来ていた。

考えてみればこのバトル──私たちの敗北条件は私たちトレーナーが戦闘続行が出来なくなることだ。

でもそれは裏を返せば、1匹でもポケモンを残して諦めずに逃げ回れば、いつまで経っても戦闘は終わらないという意味でもある。

だから、真姫さんは……最初から心を折ることで、諦めさせることで勝利しようとしていた。

いや、バトルの中だけの話じゃない──そうしないと、私たちは歩夢たちを助けることを諦めたりしないってわかってるから。


侑「…………」


ダメ……なのかな……。……私たちじゃ……やっぱり、届かない……。

そう思い、諦めかけた、そのとき──


かすみ「──ヤブクロン」
 「ブクロン」


かすみちゃんがヤブクロンをボールから出した。


かすみ「“どくガス”!!」
 「ブクローー!!!!」


ヤブクロンは一気に“どくガス”を吐き出し── 一気に周囲に充満していく。


真姫「“どくガス”……? はがねタイプには効かないわよ」

かすみ「ありったけの“どくガス”吐き出して……!! げほっ……!! 今体内にある毒全部使っていいから……!! げほっ、ごほっ……!!」


かすみちゃんはヤブクロンに指示を出しながら、口元にハンカチを当て、咳き込んでいる。


侑「かすみちゃん……!? 何を……ごほっ、げほっ!!」

かすみ「侑先輩……げほっ、げほっ……!! あんま、喋っちゃ、げほっ! ダメです……! “どくガス”、吸い込んじゃいます……げほっ……!!」

真姫「まさか……捨て身の“どくガス”でトレーナーを気絶させるつもり……!?」


真姫さんもハンカチを取り出して、口元を覆う。


かすみ「さぁ……根比べですよ……!! げほっ、げほっ……!!」

真姫「……ここまで、馬鹿な子だと思わなかった……!! キリキザン!! ニャイキング!!」
 「キザンッ!!!」「ニ゙ャァ゙ァ!!!」


キリキザンとニャイキングがヤブクロンを止めようと飛び出してくる。


かすみ「サニーゴ!! キリキザンに“かなしばり”!! げほっ……! テブ、リムッ!! ニャイキングに“サイコショック”……!! ごほっごほっ!!」
 「サ……」「テブ…ッ!!!」

 「キザンッ!!!?」「ニ゙ャァ゙ァ…!!?」


キリキザンをその場で縛り付け、ニャイキングを牽制する。


かすみ「どう、したんです、か……げほっげほっ……指示が雑に、なってます、よ……!! げほっごほっ!!」

真姫「っ……こんな馬鹿なこと、げほっ……! 今すぐ、やめなさい……っ!! こんなことしても、貴方たちは、勝てない……げほっ……!」

かすみ「いーや……!! これは、げほっげほっ……! 勝ちへの、一歩です……っ……げほっ……!」


気付けば周囲には完全に“どくガス”が充満しきり、あまりの濃度のせいか、霧がかって見えるほどだ。


かすみ「げほっ、げほげほっごほっ……!!」

侑「かすみちゃん……っ……!! もう、やめよう……!! このままじゃ、かすみちゃんが……っ……げほっげほっ……」
139 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:52:49.19 ID:B+X5AS2s0

私がかすみちゃんの肩を掴みながら制止すると──


かすみ「──侑先輩、かすみんが合図したら、ニャスパー抱えて、後ろに猛ダッシュしてください」


かすみちゃんは私にだけ聞こえる声量で、そう伝えてきた。


侑「……!」


かすみちゃんの横顔から見た瞳は──まだ死んでいなかった。

かすみちゃんには──何か策があるんだ。


リナ『ゆ、侑さん……侑さんのポケモンも、かすみちゃんのポケモンも、みんな“どく”状態になっちゃった……侑さんたちも、このままじゃ……』 || 𝅝• _ • ||

侑「大丈夫……」

リナ『侑さん……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「私は……かすみちゃんを……信じる……っ……ニャスパー、おいで……!」
 「ニャァ…」


私は言われたとおり、ニャスパーをすぐに抱えられる位置まで呼び戻す。


かすみ「さっすが……かすみんの大好きな侑先輩、です……っ……!」


かすみちゃんはそう言うと同時に──口元からハンカチを外して、


かすみ「テブリムッ!! サニーゴに向かって、“ぶんまわす”!!」


そう指示を出した。


真姫「はぁ!?」


 「テーーブッ!!!!」
 「……サ」


テブリムが頭の房をぶん回して──サニーゴを敵の方に向かって、殴り飛ばした。

そして、それと同時に──


 「ヤブッ!!!!」


ヤブクロンも敵陣に向かって走り出す。


かすみ「侑先輩!! 今です!!」

侑「う、うん!! イーブイ!! 私から離れないでね!!」
 「ブイィ…」

侑「行くよ、ニャスパー!!」
 「ニャァ…」


私はニャスパーを抱きかかえて、後ろに向かって走り出す。


真姫「な、なに!?」

かすみ「“どくガス”で根比べ? そんなことしませんよ……!! 今からするのは──ドッキリ爆発大脱出です……!」

真姫「……!? ま、まさか……!?」

かすみ「テブリム!!! 着火ぁっ!!!」
 「テーーーブッ!!!!!」


テブリムが“マジカルフレイム”を飛ばすのと同時に──敵陣のど真ん中に飛び込んだ、サニーゴとヤブクロンがカッと光る。
140 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:53:23.11 ID:B+X5AS2s0

かすみ「“じばく”!!」

真姫「……!!」


テブリムの出した炎が大量の“どくガス”に引火し、さらに2匹の“じばく”を合わせ──とんでもない威力の大爆発へと昇華する。

至近距離で起こった爆発の衝撃波が、爆音と一緒に屋内を劈きながら周囲の工場機械を吹っ飛ばし、爆炎をまき散らして、膨れ上がっていく。


侑「わぁっ!!?」
 「イブイッ…!!!」

リナ『わあぁぁぁぁ!!?』 || ? ᆷ ! ||


私もその爆風で身体が浮き上がり、吹っ飛んでいく。

そんな中で、


かすみ「ゆうせんぱあぁぁぁぁぁいっ!!!!」


かすみちゃんも爆風によって、吹き飛んでくる。


かすみ「フィオネとぉーー!!!! ニャスパーーーー!!!!」

侑「!!」


私は空中でフィオネのボールの開閉ボタンを押し込む。


 「フィオーー!!」


侑「フィオネ!! “みずでっぽう”!!」
 「フィオーー」


フィオネが口から水を噴き出し、


侑「ニャスパー!! “テレキネシス”!!」
 「ニャァーー!!!」


ニャスパーが私たちと──フィオネの出した水を浮き上がらせる。


かすみ「テブリムっ!! “サイコキネシス”!!」
 「テブッ!!!」


そして、かすみちゃんと一緒に飛んできたテブリムが──浮かせた水の塊を球状に整形していく。


侑「かすみちゃん……!!」

かすみ「侑先輩……!!」


私は空中でかすみちゃんに手を伸ばして──掴んだ。

そのまま、どうにか手繰り寄せて── 一緒に水球の中に、ザブンと飛び込んだ。

──程なくして、私たちは爆風に煽られながら──水球と共に落下していった。



141 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:53:56.96 ID:B+X5AS2s0

    🍅    🍅    🍅





真姫「──……はぁ……はぁ……!」
 「エンペ…!!」

真姫「ありがとう……エンペルト……」
 「エンペ…」


あのとんでもない爆炎の中、エンペルトの“みずのはどう”と、メタグロスが最後の力を振り絞って、盾になってくれた。


真姫「“どくガス”をめいっぱい充満させて……ほのお技で着火……。その炎を2匹の“じばく”でさらに大規模な爆発に……意味わかんない……あの、かすみって子……おかしいんじゃないの……」


お陰で建物は半壊し、壁や天井は吹き飛んで、太陽の光が降り注いでいる。

至近距離で爆炎を食らった、ニャイキング、キリキザン、トゲデマルも戦闘不能だ。

皮肉なことに……氷漬けにしたジュカインは凍ったまま、そこらへんに転がっていた。あの爆炎の中、溶けもしないなんて、私の最初のパートナーの技がいかに強力なのかを実感するばかりだ。

そしてそんなエンペルトが自己判断で、瞬時に消火を行ってくれたからよかったけど……強力なみずポケモンがいなかったら、危うく大惨事になるところだった。


真姫「……ジム戦なのに、死人が出てもおかしくないわよ……?」


──いや……。

あの子たちは……友達を助けるために、命を懸けている……そういう意志の表れなのかもしれない。


真姫「……いいわ……やってやろうじゃない……」


私は6匹目のボールを放る。


 「──ハッサムッ!!!」

真姫「ハッサム……メガシンカよ!」
 「ハッサムッ!!!」


ハッサムが眩い光に包まれ──丸みを帯びていた体のパーツが直線的になり、両腕のハサミは複数のトゲを持つ巨大なものになる。


真姫「ハッサム、エンペルト……あの子たちに、見せてやるわよ……ジムリーダーの本気を……!!」
 「ハッサムッ!!!」「エンペ!!!」





    🎹    🎹    🎹





侑「はぁ……はぁ……」

かすみ「はぁ……はぁ……し……死ぬかと……思いました……げほっげほっ……」

侑「ホント……無茶、するよ……ごほっ……」

リナ『二人とも……毒が……』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「大丈夫です……そんなに吸い込んでない、つもりです……ごほっごほっ……」


確かに咳き込みはするけど、とりあえず今のところ、意識には問題がない。


かすみ「まだ……戦えます……!」

侑「うん……! けほっけほっ……」

リナ『でも、二人の手持ち……状態異常だらけ……』 || 𝅝• _ • ||
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