侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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1 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:29:07.12 ID:eLOLjL7n0
前スレ

侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1667055830/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1671125346
2 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:43:12.12 ID:eLOLjL7n0

■Chapter049 『雪山にて』 【SIDE Shizuku】





──事が起こったのは、かすみさんがヒナギクジム戦を終えた次の日のことだ。


かすみ「よーーっし!! それじゃ、グレイブマウンテン目指して、レッツゴ〜!!」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「その前に……ちょっと、じっとしてて」

かすみ「へ? なになに?」

しずく「これから行く場所は山だから……山は絶対に甘く見ちゃいけない場所」

かすみ「う、うん……」

しずく「だから──お守り」


私は、そう言ってかすみさんの髪の左側に──髪飾りを付けてあげる。


かすみ「これって……」


2つの三日月と星があしらわれた髪飾り。


しずく「これ、御守り。星や三日月は厄除けや幸運を呼び込む象徴として、グレイブマウンテンに登山する人が好んで身に着けるんだって♪」

かすみ「もしかして、買ってくれたの……?」

しずく「うん♪ 昨日、町を巡ってるときに見つけて……かすみさんに似合うかなって」

かすみ「……えへへ、嬉しい♪ ありがと、しず子♪ これがあれば、絶対遭難しないね!」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね♪」


──登山にかこつけてプレゼントしたけど……歩夢さんが侑先輩から贈ってもらった髪飾りを見て、私も何かかすみさんに贈りたいと思ったというのが本音だ。

かすみさんには、感謝してもしきれないことがたくさんある。

だから、万が一何かがあったとしても、この月と星が、かすみさんを守ってくれればという願いを込めて……。


しずく「それじゃ、行こっか♪」

かすみ「うん! 今度こそレッツゴ〜!!」
 「ガゥ♪」





    💧    💧    💧





グレイブマウンテン登山を始めて、数時間。


かすみ「ふぅ……もう結構登ってきた?」
 「ガゥ!!」

しずく「そうだね……一旦休憩しようか」

かすみ「うん」


雪の上に座ると濡れてしまうので、シートだけ敷いてから、二人で腰を下ろす。


かすみ「それにしても、思ったよりは登りやすいね。かすみん、もっとキツイの想像してたから、ちょっと拍子抜け〜……」

しずく「ヒナギクが面してる南側は、登山道があるからね。でも、北側から登るのはかなり過酷らしいよ」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 02:47:04.39 ID:eLOLjL7n0

尤も……私たちの目的は登頂ではないので、北側に近付くことはないんだけど……。


しずく「そろそろ、クマシュンの生息域に入ったと思うし……山登り自体はここまでかな」

かすみ「あとは見つけるだけだね!」

しずく「って言っても……ポケモン自体が少ないから、簡単には見つからないだろうけどね……」


ここまで登ってくる最中も、遭遇した野生ポケモンはバニプッチを1匹見かけた程度。

過酷な環境なこともあって、大きな山の面積に対して、ポケモンの数は圧倒的に少ない。

加えて……保護色になっているポケモンが多いため、目を凝らしていないと見落としてしまう。

生息域に入ったからと言って、そう簡単に遭遇出来るわけじゃ──


かすみ「あれ? あそこにいるのって、もしかしてクマシュンじゃない!?」

しずく「え……!?」

かすみ「ほら、あそこ」


かすみさんが指差す方向に目を凝らすと──確かに遠くの斜面に小さなシロクマのようなポケモンが歩いていた。


しずく「ホントだ……!? まさか、こんなにすぐに見つかるなんて……!」

かすみ「ふっふ〜ん、褒めてくれていいんですよ〜」

しずく「うん! すごいよ、かすみさん!」

かすみ「それで、クマシュン……捕まえるの?」


確かに、当初の目的ではクマシュンを会ってみたいと言って、グレイブマウンテンまでやってきたわけだけど……。


しずく「……うん! せっかくなら捕獲したい……!」


ここまで来て、せっかく野生のクマシュンに遭遇することが出来たわけだ。可能であれば、捕獲したい。


しずく「クマシュンは、臆病なポケモンだから……こっそり近付かないと……」

かすみ「それじゃかすみん、ここで待ってるね! 二人で動くと、見つかっちゃうかもしれないし……」

しずく「わかった、それじゃ行ってくるね」

かすみ「ここで見てるから頑張ってね、しず子!」

しずく「うん!」


かすみさんに見送られながら、雪を踏みしめて、クマシュンの方へと歩を進める。

一面が真っ白なせいで、距離感を測るのが難しいが……クマシュンのいる場所まで、恐らく十数メートルと言ったところ。

出来る限り音を立てないように努めながら、雪を踏みしめていく。


 「クマァ…」


クマシュンは私にはまったく気付いていない様子で、座り込んだまま、雪を丸めて遊んでいる。

距離は十分に詰めた……!


しずく「出てきて、サーナイト……!」
 「──サナ」

 「クマ!?」


クマシュンがこちらに気付くが、この距離ならすぐ逃げられる心配はない。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 02:49:18.02 ID:eLOLjL7n0

しずく「“サイコショック”!」
 「サナーーー」


サーナイトが前方に手をかざすと、クマシュンの周囲にサイコパワーで作り出しキューブが出現し── 一気に襲い掛かる。


 「ク、クマァ…!!!」


クマシュンが念動力の衝撃で、コロコロと雪の上を転がる。


 「ク、クマァ…」


クマシュンは戦闘慣れしていないのか、そのまま雪の上にへばってしまう。


しずく「これなら、すぐに捕獲できそう……!」


私はボールを構えて、クマシュンの方に走り出し──た瞬間、


 「クマァァァァァァ」


クマシュンが大きな“なきごえ”をあげた。……というか、


しずく「!? な、泣かせちゃった……!?」

 「クマァァァ…クマァァァァ…」


クマシュンはポロポロと大粒の涙を零しながら、泣き出してしまった。


しずく「あ、え、えっと、ご、ごめんなさい、そんな、泣かせるつもりなんかじゃなくって……」


まさか、野生のポケモンに泣かれると思っていなかったので、動揺してしまう。

動揺で次の行動に迷っていた、そのとき──


 「──ベアァァァァ!!!!!」

しずく「!?」


山側の方から、野太い鳴き声が降ってきて、視線をそっちに向けると、


 「──ベァァァァァ!!!!!」


大きなシロクマのようなポケモンが、猛スピードで斜面を駆け下ってきているではないか。


しずく「つ、ツンベアー……!? もしかして、あのクマシュンの親!?」


まさか、あの泣き声──親のツンベアーを呼ぶためのもの!?


しずく「さ、サーナイト!! “サイコキネシス”!!」
 「サナ」


迫り来るツンベアーを無理やり、“サイコキネシス”で食い止める。


 「ベ、アァァァァァ!!!!!」


強力な念動力で動きを止められたツンベアーは雄叫びをあげながら──口から強烈な冷気を吐き出してくる。


 「サ、サナ…」
しずく「これは、“こおりのいぶき”……!」
5 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:51:31.82 ID:eLOLjL7n0

冷たい吐息で、サーナイトの体が急激に霜に包まれ、パキパキと凍り始める。

それによって、集中が切れてしまったのか、


 「ベアァァァァァ!!!!」


“サイコキネシス”の制止を振り切って、ツンベアーがこちらに向かって、再び猛スピードで突っ込んでくる。


しずく「サーナイト、戻って!!」
 「サナ──」


ここは選手交代……!


しずく「バリヤード!!」
 「──バリバリ♪」


バリヤードは足から発した冷気で、氷を作り出し、それを蹴り上げて壁にする。


しずく「“てっぺき”!!」
 「バリバリ♪」

 「ベアァァァァァ!!!!!」


──ガァンッ!! と音を立てて、ツンベアーが氷の壁に衝突する。

間一髪だ……!


かすみ「しず子ー!!」


名前を呼ぶ声に気付いて振り向くと、かすみさんがこっちに向かって駆けよってきている。


しずく「かすみさん! 私は大丈夫だよ!」

かすみ「ほ、ホントにー!?」

しずく「むしろ、ツンベアーも一緒に捕まえられそうで、嬉しいくらいだよ……!」


もともとクマシュンが欲しかったのは、ハチクさんと同じツンベアーに憧れていたからだ。

なら、これはむしろ好都合……! クマシュンと一緒に捕獲してしまいたいくらいだ。


かすみ「でも、クマシュン逃げちゃいそうだよー!?」

しずく「え!?」


言われてクマシュンの方に目を向けると、


 「ク、クマァ…」


親のツンベアーが戦っている間にクマシュンがとてとてと逃げ出していた。


 「ベアァァァァァ!!!!!」


その間にも、ツンベアーは氷の壁を“ばかぢから”で殴りつけ、それによって、壁にヒビが入る。


しずく「“マジカルシャイン”!!」
 「バリバリ〜!!!」


氷の壁越しに、強烈な閃光を放ち、


 「ベアァァッ!!!!?」
6 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:52:41.05 ID:eLOLjL7n0

ツンベアーを一瞬怯ませる。その隙に、私はクマシュンの方へと駆け出す。

ここまで来て、逃げられましたなんて終わり方は、私もさすがに嫌です……!


 「ク、クマーー…」


駆け寄ってくる私に驚いたのか、クマシュンは頑張って逃げようと足を速めるが、


 「クマッ!!!?」


それが原因で、逆に足をもつれさせて、雪の上にぽてっと転ぶ。

クマシュンはもう、目と鼻の先……!! 今なら……狙える……!!


しずく「行け……!! モンスターボール!!」


私はクマシュンにモンスターボールを投擲した。

モンスターボールは真っすぐクマシュンに当た──ると思いきや、おかしな方向にすっぽ抜けていった。


しずく「あ、あれ……? も、もう一回です……!!」


私は振りかぶって、もう一度ボールを投げます……!

今度こそ、ボールはクマシュンに吸い込まれるように一直線に飛んで──行くことはなく、明後日の方向にすっ飛んでいきました。


かすみ「しず子、ノーコンすぎでしょ!?」

しずく「もう〜!? なんで!?」


自分が球技が苦手なのは知っていたけど、まさかこんな至近距離の相手にボールが当てられないなんて思わなかった。

自分のノーコンっぷりに失望しながらも、


しずく「直接ボールを押し当てるしかない……!!」


相手は転んだクマシュンだ……!! ボールを直接押し当てさえすれば、捕獲出来る……!

私が駆け出すと同時に、


 「ベァァァァァ!!!!!」

かすみ「しず子ーー!! 後ろーーー!!」


ツンベアーの雄叫びとかすみさんの声。

“マジカルシャイン”での目くらましに、もう目が慣れて追ってきたのだろう。


しずく「間に合って……!!」


クマシュンに手を伸ばそうとした、そのときだった──

突然、ゴゴゴ……と地鳴りのような音が山側から聞こえてきた。

咄嗟に音のする方に目を向けて──私は目を見開いた。


しずく「嘘……」


前兆なんて全くなかった。なのに私たちに向かって──雪崩が押し寄せてきているではないか。

今すぐ身を翻して、逃げようとしたが、


 「ク、クマァ…!!!!」
7 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:55:16.29 ID:eLOLjL7n0

クマシュンは完全に押し寄せる雪崩にビビッてしまい、動けなくなっていた。


しずく「い、いけない……!?」


私は持っていたボールを放り捨てて──クマシュンに覆いかぶさって、庇うように胸に抱きしめる。


かすみ「しず子ッ!!?」


響く、かすみさんの声。

直後──私は轟音を立てながら押し寄せる雪崩に、クマシュンもろとも飲み込まれた。

一瞬で視界が真っ白に染まり、身体が大量の雪に押し流されていく。


 「──ベアァァァァァ!!!!!!」


雪崩の轟音の中、一瞬ツンベアーの声を聞いた気がしたけど──私の意識は間もなく、真っ白な闇に呑み込まれていった──





    💧    💧    💧










    🎹    🎹    🎹





侑「──かすみちゃーん!!」

かすみ「ゆ゛う゛せ゛んぱーい……っ……」


ウォーグルの“そらをとぶ”を使って、超特急でグレイブマウンテンまでやってきた私たちは、かすみちゃんを見つけて、降り立っていく。


かすみ「……どうじよう゛、ゆ゛う゛せ゛んぱいぃぃ……っ……しず子がぁぁ……っ……」
 「ガゥゥ…」「バリバリ…」


泣きじゃくるかすみちゃん。そして、そんなかすみちゃんを心配そうに見つめるゾロアと、困り果てた様子のバリヤード。


歩夢「かすみちゃん、落ち着いて……! 大丈夫だから……!」

かすみ「ひっく……えぐ……っ……あゆ゛む゛せ゛んぱいぃ……っ……」


歩夢がかすみちゃんを抱きしめて、背中を優しく撫でて落ち着かせる。


侑「私、探してくる……!! 歩夢はかすみちゃんをお願い!」
 「ブィ!!」

歩夢「うん……! 気を付けてね……!」

侑「行くよ、ウォーグル!!」
 「ウォーーー!!!!」
8 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:57:50.30 ID:eLOLjL7n0

ウォーグルと一緒に、再び飛翔する。

──大体の事情は、通話で歩夢がどうにかこうにか、パニックを起こしているかすみちゃんから聞き出してくれた。

しずくちゃんと一緒にグレイブマウンテンまでクマシュンを捕まえに来た事。

その最中に予兆もなく発生した雪崩に襲われ、クマシュンを庇ってしずくちゃんが巻き込まれてしまったこと。

かすみちゃんもどうにか、流されたしずくちゃんを助けようとしたけど……崖下まで流されてしまって、とてもじゃないけど、救出に行けなかったこと……。


侑「リナちゃん! しずくちゃんの図鑑の位置わかる!?」

リナ『すぐサーチする!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんが、バッグから飛び出してくる。

私は右手でウォーグルの脚を掴んだまま、左手でリナちゃんを掴んで、マップ表示を確認する。


侑「そんなに遠くない……!」
 「イブィ!!」

リナ『地図だと平面的な位置しかわからない……! Y軸は私が口頭でガイドする! とりあえず、下に降りて!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「うん! ウォーグル! 行くよ!」
 「ウォーーッ!!!!」


私はウォーグルに掴まったまま、図鑑の反応を頼りに、谷へと下っていく──





    💧    💧    💧





 「──フェロ」

──ものすごく美しいポケモンが居た。

その色香は、見ているだけで私を狂わせる、最上の美……。

私はそこに向かって手を伸ばす。

噫、もっと、もっと近くで見たい……触れたい……。

──この美しさに、一生溺れていたい……。

私は手を伸ばす。

あと少しで、それに触れられそうになった──そのとき、


──『しず子っ!!!』


声が響いて、私は手を止めた。


──『あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?』


かすみさんが、私に向かって、叫んでいた。


──『毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんな変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!』


かすみさんの声が、私の中で木霊している。

私は──


しずく『……そうだ……こんなものに……こんなまやかしに……負けちゃ、ダメだ……!!』


私は、目の前の幻想を──振り払った。
9 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:02:22.71 ID:eLOLjL7n0


──
────
──────



──なんだか、おかしな夢を見た。


しずく「──……ん……」


目が覚めると──そこは薄暗い場所だった。


しずく「ここ……どこ……?」


身を起こそうとして、


しずく「痛……っ……」


身体のあちこちが痛くて声をあげる。

そうだ、私──雪崩に巻き込まれたんだ……。


しずく「そうだ、クマシュンは……!?」
 「クマ…」


クマシュンが私の胸の中で声をあげる。


しずく「よかった、無事だったんだね……」
 「クマ…」


クマシュンが無事で一安心。だけど……周囲を確認する限り、ここは谷底だろうか……?

頭上を見上げると、遥か遠くに空が見えた。かなり落ちてきたに違いない……。

確かに身体は痛むけど……骨が折れたり、打撲しているような激痛ではない。どうして、自分が助かったのが不思議でならなかったけど──その答えは、私のすぐ下にあった。


 「ベァァァ……」

しずく「え!?」


私の真下から聞こえてきた鳴き声に驚きながら、目を向けると──


 「ベァ……」


真っ白な巨体──ツンベアーの姿だった。

どうやら私は、今の今まで、ツンベアーの上で気を失っていたようだった。

お陰で骨折も打撲もせずにすんだが……。


しずく「ツンベアー……貴方が助けてくれたんですか……?」

 「ベァァ…」


ツンベアーはかなり衰弱していた。

私はすぐにツンベアーから降りて、バッグから小型のライトを出して、ツンベアーの体を確認する。

脚に触れると、


 「ベ、ベァァ…」
10 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:03:08.17 ID:eLOLjL7n0

ツンベアーが苦悶の声をあげる。

恐らく、脚の骨が折れている……。しかもこの高さ……折れているのは脚だけじゃないかもしれない。だから、ここから動けないんだ……。


しずく「どうして、私を庇ったりなんか……」

 「ベァァ…」


私の問いにツンベアーは、


 「クマ…」


首をクマシュンに向けて、答える。


しずく「私が……クマシュンを庇ったから……?」
 「ベァァ…」

しずく「……ごめんなさい。そもそも、私がクマシュンを驚かせたりしなければ良かった話なのに……」
 「ベァァ…」


ツンベアーはゆっくり首を振る。


しずく「……ありがとう。……貴方は絶対に私が助けます。だから、今だけでいいので……ボールに入ってくれますか……?」
 「ベァ…」

弱々しく頷くツンベアー。私は頷き返して、ボールを押し当てた。

──パシュンと音を立てて、ツンベアーがボールに入る。


 「クマァ…」

しずく「大丈夫。貴方もちゃんと、私がお家に返してあげますよ」
 「クマァ…」


それくらいの責任は果たさなくてはいけないだろう。

とはいえ、どうしたものか……。

私は飛行の手段を持っていない。

アオガラスでは私をぶら下げたまま、“そらをとぶ”のは無理だろうし……。


しずく「……そもそも、さっきの雪崩……」


そうだ、そもそもさっきの雪崩はなんだったのだろうか……?

前兆が全くなかったというか……目の前で急に雪が襲い掛かってくるような……妙な違和感があった。

まるで、雪崩が意思を持って、私たちを狙ってきていたような……。


しずく「……さすがに考えすぎでしょうか……?」
 「クマ…?」

しずく「……とりあえず、少し移動しましょうか……。もしかしたら、どこかから、上に登れるかもしれませんし……」
 「クマ」


歩き出そうとして──


しずく「あ、あれ……?」


脚に力が入らず膝を突いてしまう。


しずく「な、なに……?」
11 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:04:58.75 ID:eLOLjL7n0

身体が……重い……。

気付けば吐く息は真っ白で──私の肩に、膝に、腕に、霜が降りている。


しずく「や、やっぱり……なに、か……へ、ん……」
 「ク、クマ…」


──急激に気温が下がって、空気を吸い込むたびに肺が痛くて、苦しくなってくる。

熱を奪われ、身体がどんどん動かなくなっていく。


しずく「……ぐ……」


急激な寒さに、思考もどんどん重くなっていく。


しずく「だ、めだ……!!」
 「クマ…」


考えを止めちゃダメだ──これは明らかに異常だ。

寒くて、身体の動きがどんどん鈍くなっていく中──私はゆっくり首を動かしながら、周囲の様子を伺う。

すると──私の周囲に……何か、キラキラしたようなものが舞っていることに気付いた。

それは、谷底に僅かに差し込む光を反射して、ささやかにその存在を主張している。

まさか──


しずく「細氷……?」


細氷──即ち、ダイヤモンドダストと呼ばれる現象だ。

大気中の水蒸気が氷結する現象。だけど、細氷の発生条件は氷点下10℃以下でないと発生しないと言われている。

急に、ここの気温が下がった。ここは確かに寒い場所だけど、そこまで急に起こるとは考えづらい。なら──


しずく「外的要因で空気が冷却されている……!」


私は、寒くて震える腕に力を込めて──ボールベルトのボールの開閉ボタンを押し込んだ。


 「──カァァーーー!!!!!」
しずく「アオガラス……っ、“きりばらい”……っ」

 「カァァァァァ!!!!!」


アオガラスが、周囲の冷たい空気を吹き飛ばす。

すると──すぐに体感でわかるくらいに、気温が上がるのが肌で感じられた。


しずく「やっぱり……! 私たちの周辺の空気だけ、気温が下げられてた……!」
 「クマ…」


何かわからないけど──目に見えない敵がいる……!


しずく「逃げなきゃ……!!」


私が走り出そうとした瞬間、


しずく「きゃっ!?」


私は前につんのめって転んでしまう。


しずく「こ、今度は何が……!?」
12 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:22:21.00 ID:eLOLjL7n0

自分の足に目を向け、驚愕する。

私の足に氷で出来たような鎖が巻き付き──氷漬けにしているではないか。

姿の見えない敵。氷の鎖。超低温を操る能力。こんな能力を兼ね備えたポケモンは1匹しか思い当たらない……!


しずく「フリージオ……!!」

 「────」


名を呼ぶと、大きな氷の結晶のお化けのようなポケモンがパキパキと音を立て、結晶化しながら姿を現した。

フリージオが姿を現すと──より一層冷気が強くなり、私の足から足首へ、足首からふくらはぎへと氷が侵食してくる。

フリージオは氷の鎖で獲物を捕まえて連れ去る習性がある。その獲物というのは──もちろん、私だ。


しずく「まさか、さっきの雪崩は貴方が“ゆきなだれ”で起こしたもの……!?」

 「────」


上にいる時点で私は狙われていたということだ。そして、まんまと谷底に落とされ──このままでは氷漬けにされる。


しずく「う、ぁ……」


どんどん身体が凍り付いていく。

──絶体絶命なそのとき、


 「──“めらめらバーン”っ!!!」
  「イ、ブィッ!!!!!!」

 「────」


空から、炎を身に纏った、イーブイがフリージオ目掛けて、飛び込んできた。

炎の直撃を受けると、フリージオは蒸発するように掻き消える。

この技が使えるのは……!


しずく「ゆ、う、先輩……っ……!」

侑「しずくちゃん、大丈夫!? イーブイ!」
 「ブイ!!」


イーブイが私の足元に近付き、炎でゆっくりと氷を溶かしてくれる。


しずく「あ、ありがとう、ございます……」

侑「うぅん、しずくちゃんが無事でよかった……。それよりも、今のポケモンは……」

リナ『今のポケモンはフリージオだよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

リナ『フリージオ けっしょうポケモン 高さ:1.1m 重さ:148.0kg
   体温が 上がると 水蒸気に なって 姿を 消す。 体温が
   下がると 元の 氷に 戻る。 氷の 結晶で できた 鎖を
   使い 獲物を 絡め取り マイナス100度に 凍らせる。』

しずく「“とける”で姿を消しています……侑先輩、気を付けてください……」

侑「気を付けるって言っても、相手が見えないんじゃ……!」

しずく「確かに……まずはどうにかして、姿を捉えないと……!」


このままじゃ、全員じりじりと体温を奪われていって最後には氷漬けにされて連れ去られてしまう。

そのとき、


 「ブイ…!!!」
13 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:24:52.94 ID:eLOLjL7n0

イーブイがぶるぶると震えだす。


侑「イーブイ、どうしたの……?」


次の瞬間──イーブイの前方に、黒い結晶体が成長を始めた。


しずく「な、なんですか……!?」

侑「ま、まさか……!?」

リナ『新しい“相棒わざ”!! “こちこちフロスト”だよ!! イーブイがこの雪山の環境に適応したみたい!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||

 「イ、ブイッ!!!!」


その結晶体は成長しきると、バキンっと砕け散って、周囲に黒い霧状のものをまき散らす。

それと同時に、


 「────」


フリージオが突如、姿を現した。


しずく「フリージオが現れた……!?」

リナ『“こちこちフロスト”は“くろいきり”と同質の氷の結晶で相手を攻撃する技だよ!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||

侑「そうか……! それで、“とける”が解除されたんだ……!」


確かに“くろいきり”は相手の変化技を打ち消す技だ。侑先輩のイーブイが覚えた新しい技のお陰で窮地を脱したらしい。


 「────」


自分が姿を消せないことを悟ったフリージオは、すぐさまここから離脱しようと、ふわりと浮き上がって上昇していく。


しずく「逃がしません……!! アオガラス、“ドリルくちばし”!!」
 「カァーーーー!!!!!」


“ドリルくちばし”でフリージオを攻撃すると──フリージオはそれに合わせて、猛スピードで回転し始める。


リナ『“こうそくスピン”で威力を殺してる!?』 || ? ᆷ ! ||

 「────」


攻撃を最小限に抑えきったフリージオはアオガラスを弾き飛ばし──今度こそ、上昇していく。


しずく「お、追いかけなきゃ……!!」


見失うと間違いなく厄介なことになる。

あのポケモンは今倒しきるべきだ。


侑「しずくちゃん!! ウォーグルの背中に乗って!!」

しずく「は、はい! クマシュン、アオガラス、行くよ!」
 「クマ…」「カァーーー!!!!」


クマシュンを抱きかかえて、ウォーグルの背に飛び乗る。


侑「ウォーグル、飛んで!!」
 「ウォーーー!!!!!」
14 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:26:13.89 ID:eLOLjL7n0

ウォーグルの飛翔に合わせて、侑先輩がウォーグルの脚にしがみつく。

力強い羽ばたきで一気に上昇する──が、思ったようにフリージオと距離が詰められない。

それどころか──


侑「ひ、引き離されてる……!」

リナ『さ、さすがに重量オーバー!? 二人乗せたまま戦うのは無茶だよ!?』 || ? ᆷ ! ||

しずく「わ、私やっぱり降ります……!!」

侑「一人になって谷底で襲われたら、さっきみたいに逃げ場がなくなっちゃうって!!」

しずく「でも……!!」


見失ったら“とける”でまた姿を消されて、それこそ繰り返しになる。

そんな私たちの問答を打ち切ったのは──


 「カァーーー!!!!!」


アオガラスだった。アオガラスは足を開いて、私の両肩を掴む。


しずく「アオガラス……!? 貴方まさか……!?」


そして、バタバタと激しく羽ばたき始めた。

すると──


侑「う、浮いた……!? アオガラスが持ち上げて飛んでる……!!」

しずく「アオガラス、貴方……」
 「カァァーーーー!!!!!!!」


──ポケモンは時に、ライバルと言える相手を見つけると、その潜在能力が開花することがあるらしい。

奇しくも、アオガラスの進化系のアーマーガアと、ガラルの地で空の派遣を争ったと言われるポケモンは──ウォーグルだ。

自分も鳥ポケモンなのに、ご主人様がウォーグルの背に乗って飛ぶ姿が──アオガラスの闘争本能に火を点けた。


 「カァァァァァーーーー!!!!!!!!!」


そして、その闘争本能は──アオガラスに新しい姿と力を与えた。


しずく「進化の……光……!!」


──噫、やっと……やっと、貴方と飛翔べるんだ……!!


しずく「……行こう──アーマーガア!!」
 「ガァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


アーマーガアは今度こそ私の肩をガッチリと掴むと── 一気に高度を上げて飛翔する。

アオガラスのときからは想像も出来ないような、力強い飛翔能力。

これが──


しずく「ガラルの空の覇者……!!」
 「ガァァァァァ!!!!!!!!」


一気に上昇し、


 「────」
15 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:28:26.30 ID:eLOLjL7n0

谷の外に逃げたフリージオを完全に射程に捉え──


しずく「今度こそ、仕留めます……!! “はがねのつばさ”!!」
 「ガァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


鋼鉄の翼で──フリージオを切り裂いた。


 「────」


直撃を受けたフリージオの身体は、ビキリッと音を立てながら、亀裂が入り、


 「────」


戦闘不能になって、真っ逆さまに谷底に落下していったのだった。


しずく「……やったね、アーマーガア」
 「ガァァァァァ!!!!!!!!」


勝利の雄叫びをあげるアーマーガア。そこに侑先輩たちも追い付いてくる。


侑「すごいすごい!! この状況で進化して、一撃で倒しちゃうなんて……!! 私、すっごくときめいちゃった!!」

しずく「ふふ♪ アーマーガアの翼はどんなポケモンにも負けない、最強の翼ですから♪」
 「ガァァァァァァ!!!!!!!」


私が褒めてあげると、アーマーガアはもう一度、大きな勝鬨をグレイブマウンテンに響かせるのだった。





    💧    💧    💧





かすみ「しず子ぉ゛〜……っ……よか゛った゛よぉ゛〜……っ……!!」

しずく「ごめんね、かすみさん……心配掛けちゃったね……」

かすみ「馬鹿しず子……っ……!! アクセサリーくれたしず子が遭難してどうすんの……っ……馬鹿ぁ……っ……!!」

しずく「うん、ごめん……」


泣きじゃくるかすみさんを抱きしめる。本当に……心配掛けちゃったな。


歩夢「一件落着……みたいだね」

侑「うん」

リナ『一時はどうなることかと思った……。リナちゃんボード「ドキドキハラハラ」』 ||;◐ ◡ ◐ ||

しずく「侑先輩たちも……ありがとうございました。まさか、駆け付けてくれるなんて……」

侑「お礼ならかすみちゃんに言ってあげて! かすみちゃんが報せてくれたことだから!」

しずく「そっか……ありがとう、かすみさん」

かすみ「うぅ……っ……ぐす……っ……もう、無茶しちゃダメだよ……しず子……っ……」

しずく「うん、ありがとう……」


私は、もう一度かすみさんをぎゅっと抱きしめて、お礼の言葉を口にするのだった。



16 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:29:05.58 ID:eLOLjL7n0

    💧    💧    💧





さて……全員揃って、ヒナギクシティに戻ってきた私は、すぐさまツンベアーをポケモンセンターに預けた。

大怪我を負っていたツンベアーは、緊急手術になりました……。

ただ、そこはさすがポケモンセンター。一晩掛けて行われた手術は無事に成功し、ツンベアーはどうにか一命を取り留めることが出来ました。


しずく「それじゃ、クマシュン。お母さんと仲良くね」
 「クマ…」


ポケモンセンターのポケモン用の入院部屋に、クマシュンを放してあげる。

クマシュンはとてとてとお母さんのもとに駆け寄り、


 「クマァ…」
 「ベァ…」


クマシュンはお母さんに頬を摺り寄せ、ツンベアーは愛しい我が子をペロリと舐めて愛情を示す。


かすみ「しず子、いいの? クマシュン……欲しかったんでしょ?」

しずく「それはそうなんだけど……やっぱり、親子は一緒の方がいいのかなって」


ツンベアーは当分ここで病院暮らしだ。その間、一緒にクマシュンもポケモンセンターでお世話してくれるということだったし……。


しずく「私の気持ちよりも……クマシュンの気持ちを優先してあげなきゃ」


 「クマ♪」
 「ベァ…」


クマシュンはお母さんの前で嬉しそうに頷くと──とてとてと私の足元へと戻ってくる。


しずく「どうしたの? お別れの挨拶してくれるの?」
 「クマ」


そして、何故か私の脚に抱き着いてきた。


しずく「あ、あれ……?」

かすみ「しず子」

歩夢「ふふ♪ しずくちゃん。クマシュンの気持ち、優先してあげないとダメだよ?」

しずく「え、ええ!? で、でも、お母さんも心配ですよね!?」


私がツンベアーにそう訊ねると、


 「ベアァ…」


ツンベアーは優しい顔をしながら首を振った。


しずく「え、ええ……!?」

侑「……たぶんなんだけど」

しずく「?」

侑「今の自分じゃ、クマシュンを満足に育てられないから……しずくちゃんに代わりに育てて欲しいんじゃないかな」

しずく「……!」
17 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:32:10.52 ID:eLOLjL7n0

私は侑先輩の言葉でハッとする。


しずく「ツンベアー……そういうことなの?」

 「…ベァ」


ツンベアーはもう一度優しい顔をして、頷いてくれた。


しずく「…………。……わかりました」


私はクマシュンを抱き上げる。


 「クマ♪」
しずく「この子は私が立派に育ててみせます……! 立派に育てて、また貴方のもとに戻ってきますから!」

 「ベァ…」

しずく「クマシュン、これからよろしくね」
 「クマ♪」


こうして、私の6匹目の手持ち──クマシュンが仲間になったのだった。





    🎹    🎹    🎹





リナ『みんな、今後はどうする予定なの?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「もともとの話だと……ローズに戻るってことになってたけど……」

侑「ローズはもともと合流場所って話だったからなぁ……」
 「ブィ?」

かすみ「みんな、ヒナギクに集まってきちゃいましたしねぇ……」
 「ガゥ?」

しずく「う……私の不手際で……面目ないです……」


どっちにしろ、ジム戦をこなすにはローズに戻る必要があるけど……数日待てばヒナギクのジムリーダーも戻ってくるらしいし……。

そうなると、無理に急いで戻る理由も薄くなってくる。


しずく「あ、あの……それよりも……」

侑「ん?」

しずく「私たち、やっと飛行手段を手に入れたんですから──行ってみたくありませんか?」


そう言いながら、私たちの視線は自然と──南にあるオトノキ地方のカーテンへと注がれる。


かすみ「確かに……あの絶景、旅の間に見なくちゃ損ですよね!」
 「ガゥガゥ♪」

歩夢「旅に出たばっかりのときは……あそこを登るなんて想像も出来なかったけど……行ってみたい! わ、私は……乗せてもらうだけになっちゃうけど……」

侑「ふふ、いいよ! みんなで登ろうよ!」
 「イブィ♪」

しずく「ええ! 皆さん全員で、大空の旅を楽しみましょう♪」

リナ『次の行き先、決まったね!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん! 行こう──カーテンクリフへ!!」
 「イッブィ♪」



18 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:33:25.19 ID:eLOLjL7n0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ヒナギクシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  ●____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.40 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.39 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.40 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.40 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.40 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      クマシュン♂ Lv.23 特性:びびり 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:199匹 捕まえた数:15匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.53 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.48 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.46 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.47 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.47 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.46 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:190匹 捕まえた数:9匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.58 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.58 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.53 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.46 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.52 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      タマゴ  ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:196匹 捕まえた数:7匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.48 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.47 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.43 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.39 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.38 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:197匹 捕まえた数:17匹


 しずくと かすみと 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



19 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:54:58.45 ID:eLOLjL7n0

 ■Intermission🍊



──私たちは今、例の如く、ウルトラビースト出現の反応に従い、“そらをとぶ”で現場に急行している。


千歌「……この場所って、カーテンクリフの西端だよね?」


さっき送ってもらったマップデータを見ながら、後ろに乗っている遥ちゃんに訊ねる。


遥「はい……まさか、こんな場所にまで出現するなんて……」

千歌「今回こそは、空振りじゃないといいけど……」


ここ最近、誤報なのか私たちが到着する前に逃げられているのかわからないけど、現場に着いたら、もうすでにウルトラビーストがいない……なんてことが続いている。

もちろん、万が一があるし、無視するわけにはいかないけど……。


彼方「そういえばー……カーテンクリフの西端って、遺跡になってるんだっけ〜……?」

千歌「確か……なんかすごい大きな階段みたいなのがあった気がします……。私も1回くらいしか行ったことないけど……」

穂乃果「なんか大昔の人たちが作った祭壇があるんじゃないっけ? お日様とお月様にお願い事する場所だって、前に海未ちゃんが言ってた気がする」

遥「大切な文化財があるんですね……。人的被害はないかもしれませんけど……遺跡を壊される前に、追い払わないと……」

千歌「うん、急ごう!」
 「ピィィィーーー!!!!!」


私のムクホークと、穂乃果さんのリザードンは風を切りながら、現場へ急ぐ──





    🍊    🍊    🍊





──カーテンクリフ西端の遺跡。


彼方「うわ……すっごい長い階段……絶対に自分の足じゃ、登りたくないよ〜……」

遥「すごい……想像していたものよりもずっと大きな遺跡です……」

彼方「こんな標高の高いところに、こんなものどうやって作ったんだろう〜……。昔の人たちってすごかったんだね〜……」


遺跡上空を飛行しながら、彼方さんと遥ちゃんが驚きの声をあげる。


穂乃果「彼方さん、ウルトラビーストの反応は?」

彼方「うーん……頂上からずっと動いてないみたい……」

遥「そうなると……ツンデツンデかな……」

千歌「ツンデツンデなら、そこまで焦らなくてもいいのかな……?」


ツンデツンデはウルトラビーストの中でも、かなり温厚なポケモンだ。

こちらからちょっかいを掛けなければ、暴れ出すことはほぼない。


穂乃果「それを確認するためにも、急がないとね!」

千歌「ですね」


遺跡をムクホークとリザードンで一気に昇ると──開けた場所に出る。

この遺跡の祭壇だ。
20 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:55:45.07 ID:eLOLjL7n0

千歌「ツンデツンデは……」


祭壇を空から見回してみるが──


千歌「いなさそう……」

穂乃果「ツンデツンデほど大きなウルトラビーストだったら、見逃すわけないし……彼方さん、まだ反応ってある?」

彼方「んー……まだ頂上にあるよ〜……」


彼方さんが端末とにらめっこしながら、困ったような声で言う。


千歌「んー……おっかしいなぁ……」


私はもう一度目を凝らして、祭壇の上を見渡してみる。


千歌「……あれ?」


私は──祭壇上に影を見つけた。

でも、ウルトラビーストじゃない……あれは──


千歌「人……?」


そのシルエットはどう見ても人間のものだった。本来探していた対象よりも小さかったからか、すぐに気付けなかった。

このだだっ広い祭壇に……女性が一人。ちょうどこちらには背を向けているので、顔は見えないけど……青みがかったウルフカットの女性。

でも、どうしてこんな場所に……? いや、それよりも……。


千歌「とりあえず、ここは危ないってこと伝えに行かないと……!」

穂乃果「……そうだね」

彼方「んー……? あの人、どこかで見たような……?」

遥「お姉ちゃん……?」


私たちは、その女性たちのもとへと、降りていく。


千歌「すみませーん! あの、ここに今ちょっと危ないポケモンがいるんで、避難して欲しいんですけどー!!」


ムクホークをボールに戻しながら、女性たちに駆け寄る。

でも──彼女たちは全く反応がなく、振り返りもしない。


千歌「? もしもーし!!」


さらに近寄りながら、大きな声で呼びかけると──女性はやっとこちらに顔を向けてくれる。


女性「……ふふ、やっと来てくれた」

千歌「え……?」

彼方「あー!! もしかして、モデルの果林ちゃんじゃない!?」


彼方さんが、驚いたような声をあげる。

言われてみて、私も気付く。確か、モデルをやっている人だ。


果林「……モデルの人……ね」


果林さんは、彼方さんを見て──寂しそうに言葉を漏らす。
21 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:56:18.01 ID:eLOLjL7n0

果林「……貴方にとって、私はもう……ただのモデルの人なのね……」

彼方「え……?」

千歌「あ、あの! それよりも、ここは危ないので、避難を──」

果林「ふふ、それって────ここにウルトラビーストがいるからかしら?」

千歌「っ!?」


その言葉を聞いた瞬間、


穂乃果「──ピカチュウ!!」
 「──ピッカッ!!!!」


いつの間にかボールから出されていた穂乃果さんのピカチュウが、果林さんの首元に尻尾を向けていた。

一瞬で電撃による攻撃が届く間合いだ。


果林「……あら怖い」

穂乃果「あなた……何者なのかな?」

千歌「二人とも……下がって。ネッコアラ」
 「──コァ」

彼方「う、うん……」

遥「は、はい……」


私もネッコアラをボールから出しながら、彼方さんと遥ちゃんを庇うようにして、後ろに下がらせる。


果林「そんな怯えた顔しないでよ──彼方。遥ちゃんも」

遥「……!?」

彼方「え……な、なんで私たちの名前……」

果林「やっぱり……本当に忘れちゃったのね……」

彼方「え……」


果林さんはそう言いながら一瞬──酷く悲しそうな顔をした。


果林「……でも、大丈夫──きっと嫌でも思い出すから……」


果林さんが──腰に手を伸ばした。


穂乃果「“10まん──」

 「──ダメダメ、穂乃果はこっち♪」
  「リシャンッ」

穂乃果「え!?」


目の前に、急に金髪の女の子が出現し──穂乃果さんの腕を取ると、瞬く間に姿が掻き消える。

──穂乃果さんもろとも。


千歌「穂乃果さ……!?」

果林「よそ見してる場合かしら?」

千歌「っ!? “まもる”!!」

 「──フェロッ!!!!!」

 「コァァッ!!!!」
22 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:57:10.74 ID:eLOLjL7n0

咄嗟の指示で、ネッコアラが敵からの攻撃を丸太で受け止める。

い、いや、それよりも、果林さんが出してきたあのポケモン……!


千歌「ふ、フェローチェ……!?」


それはフェローチェだった。

しかも本来、全身雪のように真っ白い普通のフェローチェと違って、下半身はまるでドレスでも履いているかのように黒い──色違いのフェローチェだ。


千歌「ウルトラ、ビースト……!?」

果林「……」


なんでこの人はウルトラビーストを使っているの? なんで穂乃果さんは消えた? あの金髪の女の子は?

大量の疑問が、頭の中を埋め尽くし混乱する中、


遥「──……い、いやぁぁぁぁぁ……!!!」

千歌「!?」


急に背後で遥ちゃんの絶叫が響き、振り返ると、


遥「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!!」

彼方「──ぁ……ぐ……あ、たま……い、いたい……」


遥ちゃんはその場に蹲り、ガタガタ震えて、泣きながら謝罪の言葉を唱え始め、彼方さんに至っては頭を抱えたまま、倒れているではないか。


果林「……そうよね、フェローチェを見たら……嫌でも思い出すわよね、私のこと。いいえ──私たちのこと……」


何が起こっているのか理解できなかった。理解できなかったけど── 一つだけわかることがある。

この人は──……敵だ!


千歌「“ウッドハンマー”!!」
 「コァァッ!!!!!」


フェローチェに向かって、ネッコアラが大きな丸太を振りかぶった──瞬間、フェローチェの目の前の空間が歪んで、影が飛び出した。


 「──カミツルギ、“つじぎり”」


不意の一撃。


 「コ…ァ…」
千歌「な……」


丸太ごと斬り裂かれ、ネッコアラが崩れ落ちる。

でも、それ以上に衝撃だったのは──その攻撃の主だった。


千歌「嘘……」


黒髪のストレートロングを右側で一房、バレッタで纏めた少女。

見間違えるはずがない。──いや、見間違えであって欲しかった。


千歌「せつ菜……ちゃん……?」

せつ菜「…………」
23 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:58:02.90 ID:eLOLjL7n0

せつ菜ちゃんが──見たこともないような、冷たい目をしたせつ菜ちゃんが、そこに立っていた。





    ☀    ☀    ☀





愛「──愛さん、とうちゃ〜く♪」
 「リシャン♪」

穂乃果「……っ!」
 「ピ、ピカ…!?」


周囲を見回すと──港だった。

ここはまさか──


穂乃果「フソウ港……!?」

愛「フソウ“ポート”に“テレポート”、なんつって! そんじゃね〜♪」
 「リシャン♪」


そしてすぐに、金髪の女の子は再び“テレポート”を使って、姿を消してしまった。


穂乃果「待っ……!!」
 「ピ、ピカ…」

穂乃果「……やられた……っ!」


一瞬で地方の真逆の場所まで飛ばされた……!

全員を遠ざけるのではなく、私“だけ”を戦線から離脱させて、分断させる。この手際の良さ……これは、事前に計画されていた作戦。敵の狙いは──恐らく、


穂乃果「千歌ちゃんが危ない……っ!」





    🍊    🍊    🍊





千歌「せつ菜……ちゃん……どう、して……」

せつ菜「…………」
 「────」


せつ菜ちゃんがどうしてここにいるの……? いや、それより、せつ菜ちゃんが使っているポケモン──

シャープなフォルムの熨斗のような姿をしたあのポケモンは──カミツルギ……ウルトラビーストだ。


せつ菜「千歌さん」

千歌「……!」

せつ菜「早く、次のポケモン、出してください」

千歌「……た、戦えないよ!!」

せつ菜「……じゃあ、いいです。出さざるを得なくするだけなので──カミツルギ、“リーフブレード”」
 「────」

千歌「……!」


私は咄嗟に飛び退く。直後──直撃してないはずなのに、斬撃によって空気が斬り裂かれ衝撃波が発生し、それによって吹っ飛ばされる。
24 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:59:11.86 ID:eLOLjL7n0

千歌「ぐっ……!?」


どうにか受け身を取って衝撃を殺して、すぐに身体を起こす。


千歌「……っ……! せつ菜ちゃん、やめて……!!」

せつ菜「次は当てますよ……ポケモンを出しなさい」

千歌「っ……」


どうする……!? 私だけなら、最悪逃げるのも手だけど──


遥「……はぁ……っ……!! ……はぁ……っ……!!」

彼方「はる、か……ちゃん……っ……。おねえちゃん、が……いる、から……っ……! づ、ぅ……っ……!!」


あんな状態の彼方さんたちを放っておくわけにはいかない。

彼方さんは苦悶に顔を歪めながらも、遥ちゃんを抱きしめて、必死に後方へと下がっていく。

意識が朦朧としていながらも、遥ちゃんが巻き込まれないように、戦線から下がっているのだ。

でも遥ちゃんは未だに酷いパニック状態で、すでに過呼吸を起こしている。かなり危険な状態。

もう、もたもたしてられない……!


千歌「ルガルガンッ!!」
 「ワォンッ!!!!」

せつ菜「やっと……戦う気になりましたか……。“はっぱカッター”!」
 「────」

千歌「“ステルスロック”!!」
 「ワォンッ!!!!」


周囲に鋭い岩を発射して、“はっぱカッター”を撃ち落とす。


せつ菜「ふふ、本来攻撃技ではないはずの“ステルスロック”で“はっぱカッター”と撃ち合うとは、さすがですね。なら、こういうのは──」

千歌「せつ菜ちゃん、もうやめて!! お願いだから!!」

せつ菜「……何故?」

千歌「そのポケモンは──ウルトラビーストは危ないの!! だから──」

せつ菜「……自分は『特別』を使うのに」

千歌「……ぇ」

せつ菜「……それなのに、私が『特別』を使うことは許さないんですか!? カミツルギッ!!!」

千歌「っ……!! “ストーンエッジ”!!」
 「ワォンッ!!!!」


迫るカミツルギに“ストーンエッジ”をぶつけて牽制するが、


せつ菜「“シザークロス”ッ!!!」


カミツルギは飛び出してくる鋭い岩石を、豆腐のように切り捨てる。


せつ菜「ああ、そうだ、やっぱり私を馬鹿にしてたんだ。自分が『特別』だから、『特別』じゃない私のことを……!!」

千歌「ち、違う……! そんなこと思ってないよ……っ……! ──……あなた!! せつ菜ちゃんに何したの!?」


私はせつ菜ちゃんの背後にいる、果林さんに声を飛ばす。


果林「あら……何をしたなんて、人聞きの悪い」
25 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:00:17.78 ID:eLOLjL7n0

果林さんは興奮して「フーフー」と息を荒げるせつ菜ちゃんを後ろから抱きすくめて、


果林「私は、この子に力をあげただけ……選んだのはこの子。……そして、選ばせたのは──貴方じゃない」

千歌「……え」

果林「可哀想なせつ菜……貴方にとって、すごくすごく大切なバトルだったのに……。チャンピオンはそんなバトルをただの一撃で終わらせた。圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……」

千歌「そ、それは……」

果林「だから、あげたの──『特別』を。──ウルトラビーストを」

千歌「そん、な……」


じゃあ、せつ菜ちゃんがこうなっちゃったのは……私の、せい……?


果林「せつ菜……貴方の力を見せて? 『特別』になった貴方は──チャンピオンにも負けないわ」

せつ菜「はい……。約束は守ります。私は、チャンピオンを討ちます……!」

千歌「わ、私……」


私は、もしかして……とんでもないことをしてしまったんじゃないか? 

私がせつ菜ちゃんを傷つけてしまった。

私はチャンピオンで、みんなにバトルの楽しさを知って欲しくて、表舞台に出ていたのに──バトルで彼女を傷つけたんだ。

一番バトルの楽しさを伝えなくちゃいけない──この地方のチャンピオンなのに。


せつ菜「“れんぞくぎり”!!!」
 「────」


連続の斬撃は、衝撃波となり、石で出来た祭壇の床を豆腐のように斬り裂きながら迫る。

棒立ちの私に向かって。


 「ワォンッ!!!!」


ルガルガンは、そんな私の服にたてがみの岩を引っかけ、無理やり背中に乗せ、後方に向かって飛び出した。

直後──私の居た場所は、まるでみじん切りにでもしたかのように、石畳の表面が細切れになる。


千歌「ルガルガン……!」
 「ワォンッ!!!!」


ダメだ……!! 落ち込んでる場合じゃない……!!

彼方さんたちもあんな様子なのに、私が立ち尽くしてる場合じゃ──


せつ菜「“しんくうは”!!」
 「────」

 「ギャンッ!!!?」
千歌「っ!!?」


逃げるルガルガンを真空の刃が斬り裂き──私は放り出されて、祭壇の岩畳の上を転がる。


千歌「ぅ……ぐぅ…………っ……」


落下の衝撃で、一瞬息が出来ずに呻き声をあげる。

痛みを堪えながら、顔を上げると──


 「ワ、ワォン…」


ルガルガンが倒れていた。
26 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:01:14.17 ID:eLOLjL7n0

千歌「……っ」


床に伏せる私に向かって、


せつ菜「……早く立ってください」


せつ菜ちゃんが冷たく見下ろしながら、言葉をぶつけてくる。


千歌「せつ菜……ちゃん……」

せつ菜「ほら、出してくださいよ──バクフーンを」

千歌「……っ」


私はバクフーンのボールに手を掛ける。

だけど──手が震えていた。

──『圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……』──


千歌「……っ」


あのとき、本当はどうするべきだったのか、わからなかった。

どうすれば、せつ菜ちゃんを傷つけない──ポケモンバトルの楽しさを伝えられる、チャンピオンであれたのか。

今更考えても、後悔しても、どうにもならない。

でも、


千歌「……行けっ!! バクフーンッ!!」
 「──バクフーーー!!!!」


せつ菜ちゃんをこのままにしちゃいけない。

私がせつ菜ちゃんを止めないと……!!


せつ菜「あはは……! やっと出しましたね、貴方の『特別』……!」


また傷つけちゃうかもしれないけど、それでも──このままじゃ絶対によくないから……!


千歌「バクフーーーーンッ!!!!」


私の腕のZリングが光る。

“ホノオZ”のエネルギーをバクフーンに送ろうとした、瞬間──

私は、


果林「…………へぇ」


果林さんを見てしまった。

──『圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……』──


千歌「……っ!!」


また、彼女の言葉がフラッシュバックした瞬間──私の腕の“ホノオZ”は輝きを失っていく。

──出来なかった。今、この技を撃つことは……出来ない。


せつ菜「カミツルギ!! “ソーラーブレード”!!」

千歌「──“かえんほうしゃ”っ!!」
 「バクフーーーーーンッ!!!!!!」
27 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:01:52.48 ID:eLOLjL7n0

振り下ろされる、陽光の剣に向かって──バクフーンが口から業炎を噴き出す。

陽光のエネルギーを押し返すように、燃え盛る爆炎。

だけど、振り下ろされる剣は、炎を斬り裂きながら、迫る。


──『……自分は『特別』を使うのに……それなのに、私が『特別』を使うことは許さないんですか!?』


私──『特別』に選ばれたから、チャンピオンになれたのかな。

わかんない。……自分が『特別』だなんて、考えたこともなかった。

初めてのバトルで、梨子ちゃんに負けたあの日、『強くなろう』って、そう決めて、ただ必死に我武者羅に歩んできただけのつもりだった。

一歩一歩みんなで歩いて、新しい力を手に入れたらみんなで喜んで、終わったらまた新しい何かを掴むためにまた進んで……。

でも……違ったのかな……。私はただ、『特別』に選んでもらったから、ここにいるのかな。

わかんないよ、そんなこと……。

わかんない──……でも、それでも……。そうだとしても──


せつ菜「…………」


──あんなに悲しそうな顔でバトルをするせつ菜ちゃんを、放っておいていいはず──ない!!!


千歌「バクフーーーーンッ!!!!! いけぇぇぇぇ!!!!!!!」
 「バク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!」


私の心に呼応するように、バクフーンの背中の炎が燃え盛り──火炎の勢いが一気に増す。


せつ菜「……!」


勢いを増した炎は──陽光の剣さえも凌駕し、


千歌「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


全てを爆炎で飲み込んだ。

──お互いのエネルギーがぶつかり合い、その余波でフィールド全体に熱波が吹き荒れる。


千歌「……っ!!」


バクフーンにしがみついて、耐え……爆炎が晴れると──


 「────」


その先に、黒焦げになったカミツルギがいた。

黒焦げになったカミツルギは間もなく──石畳の上に崩れ落ちた。


せつ菜「…………」

千歌「…………はぁ……はぁ……」

せつ菜「…………」


せつ菜ちゃんをウルトラビーストから、解放した。

これで──
28 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:02:38.01 ID:eLOLjL7n0

せつ菜「出てきなさい──デンジュモク」
 「────ジジジジ」

千歌「2匹……目……?」

せつ菜「今の私は……貴方よりもたくさんの──『特別』を持ってるんです……」


私はへたり込んでしまった。

今の私の想いじゃ──せつ菜ちゃんの心に、届かない……。


せつ菜「──“でんじほう”」
 「──ジジ、ジジジジ」


巨大な電撃の砲弾に、バクフーンもろとも飲み込まれて──私の視界は、フラッシュアウトした。





    🎙    🎙    🎙





千歌「…………」


気を失った千歌さんを見下ろす。


果林「せつ菜、今の気分はどう?」

せつ菜「……あっけない。こんなものなんですね……」

果林「……そう」

せつ菜「…………」


……やっと、千歌さんに勝利したが──すがすがしい気分とは言い難かった。


せつ菜「……どうすればいいですか」

果林「ん?」

せつ菜「彼女の身柄が欲しかったんでしょう?」

果林「あら……まだ手伝ってくれるのね」

せつ菜「力をくれたんです。義理は……通します」

果林「……そう、ありがとう」

せつ菜「それに──もう、帰る場所なんて……ありませんから……」

果林「……そう」


私は千歌さんを背負い──目の前に現れたホールに向かって歩き出す。

──そのときだ。

フィールドに倒れていた、ルガルガンとバクフーンが──


 「ワ、ォォンッ!!!!」「バク、フーーー!!!!!」

せつ菜「……っ!?」


私は驚き、背負っていた千歌さんが滑り落ちる。

最後の力を振り絞って、こちらに向かって飛び掛かってきた──と、思ったら。

──パシュンと音を立てて、千歌さんの腰についたボールの中に戻っていった。
29 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:03:48.61 ID:eLOLjL7n0

せつ菜「……」

果林「主人と引き離されないように、最後の力でボールに戻ったみたいね……よく訓練されてる」

せつ菜「…………」


最後の力を振り絞ってまで、千歌さんの傍にいようとする彼らを見て……いろんな感情が湧き出てきそうになったが──無理やり心の底へと押し戻す。

私は今度こそホールに入るために、千歌さんを背負おうとしたそのとき──


 「──せつ菜ちゃん、何してるの……!?」


聞き覚えのある声がして、私は動きを止める──

振り返ると──見慣れたツインテールを揺らしながら、信じられないようなものを見る目で──


せつ菜「……侑さん」

侑「せつ菜ちゃん……何、してるの……?」


侑さんが揺れる瞳で……私のことを見つめていた。


………………
…………
……
🎙

30 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:00:14.14 ID:Lud+ZHkk0

■Chapter050 『終わりの頂』 【SIDE Yu】





──ヒナギクシティを発ち、私たちは今カーテンクリフの上空を飛んでいるところだった。


かすみ『すごいすごーい! あーんな高かった壁より高く飛んでますよー!!』
 『ガゥガゥ♪』

しずく『ただ、風が強いですね……』

侑「そうだね……。歩夢、飛ばされないようにね!」

歩夢『うん。侑ちゃんも気を付けてね』


飛行中は、歩夢とかすみちゃんがそれぞれウォーグルとアーマーガアの背中に乗って、私としずくちゃんはそれぞれのポケモンに脚で掴んでもらって空を飛んでいる。

だから、会話はポケギア越しだ。

私のバッグの中にいるリナちゃんが中継局の代わりをしてくれていて、トランシーバーのように使って会話しながら移動している。


歩夢『それにしても、本当にすごいね……まさか自分たちが、家から見てたカーテンクリフの上を飛んでるなんて……今でも実感が湧かないよ……』

侑「カーテンの頂上って、雲の上だもんね……私たち、雲の上まで来られるようになったんだね」
 「イブィ♪」「ウォーーーー!!」


自分たちの成長を実感する。成長して……今までの私たちじゃ見ることが出来なかった景色を見られるようになって……。

なんだか、嬉しいな……。


かすみ『でも、この後どうします? カーテンを越えて、ダリア側に降りますか?』

しずく『あ、それなら……西側に行くのはどうかな?』

かすみ『西側に何かあるの?』

歩夢『あ……確か、遺跡があるんだっけ……?』

しずく『はい! かなりの規模の遺跡があるそうです! せっかく、カーテンクリフを登れるようになったんですから、一度見てみたくって……!』

侑「それ私も見てみたい!」

かすみ『じゃあ、決まりですね! 西の遺跡に向かいましょう〜!』

リナ『カーテンクリフは東西に一直線に伸びてるから、尾根伝いに進んでいけば辿り着けるはずだよ!』


と、ポケギアの通信にリナちゃんの声が入る。


侑「了解! ウォーグル、真っすぐ行って!」
 「ウォーー!」

しずく『アーマーガア、侑先輩たちと同じ方向へお願い』
 「ガァーー!」


私たちはカーテンクリフを西側に進んでいく──





    🎹    🎹    🎹





尾根は長く続いていたけど──その尾根の途中に、石で出来た階段が見えてくる。


かすみ『な、なんですか、これぇ……!?』
 『ガゥゥ…!!』
31 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:00:53.15 ID:Lud+ZHkk0

かすみちゃんたちが驚くのも無理はない。

ただでさえ、標高が高いのに──その階段はさらにずっと先……遥か遠くまで伸びていたからだ。


侑「本当にすごい……! しずくちゃん、一旦降りてみよう!」

しずく『了解です、侑先輩』


ウォーグルとアーマーガアに指示を出して、私たちは階段へと下降していく。


侑「……よ、っと!」


着地出来る場所が近づいてきたところで、ウォーグルに爪を放してもらって着地する。

その後、ウォーグルもゆっくり着陸し……歩夢が降りられるように、その場に屈む。


歩夢「ありがとう、ウォーグル♪」
 「ウォー♪」


歩夢がウォーグルの頭を撫でながら、階段に降り立つ。


かすみ「実際に階段に立った状態で見ると……さらにヤバイですぅ……!」
 「ガゥ…!!」

しずく「これは……圧倒されちゃうね」


同じように降り立った二人の言葉を聞きながら、私たちも階段を見上げる。

本当に……天まで続いているんじゃないかと錯覚するような階段が、そこにはあった。

幅は3メートルくらいあって、人が数人並んで歩いても、結構余裕があるくらいの広さ。

そして高く高く続いていく階段の脇には、ちょっとした塀こそあるものの──塀の向こうにあるのは雲だけ……即ち、この階段の外側は完全に空の上ということだ。


かすみ「皆さん! せっかくここまで来たら登らない手はありませんよ! ゾロア! 頂上まで競争しよ!」
 「ガゥガゥ♪」

歩夢「あ、かすみちゃん……! 走ったら危ないよ……!」

しずく「かすみさん、落ちないでよー!? はぁ……もう……。……私たちは雲海を見ながらゆっくり行きましょう」

侑「あはは、そうだね……」

リナ『──侑さーん、行く前に出して〜』

侑「あ、ごめん……! リナちゃん、今出してあげるね!」


背中側からリナちゃんの声が聞こえてきて、慌ててバッグを開けると、リナちゃんがふよふよと外に出てくる。


リナ『ふぅ……やっと外に出られた……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ごめんね、窮屈な思いさせて……」

リナ『大丈夫。飛ばされちゃうより全然いいから』 || ╹ ◡ ╹ ||


……とはいえ、これからは飛行での移動も増えるだろうし、何か考えた方がいいかもなぁ……。

ぼんやり考えていると、


かすみ「もう〜!! 皆さんも早く来てくださーい!!」


上からかすみちゃんが急かしてくる。


歩夢「侑ちゃん、行こう♪」

侑「あ、うん」
 「イブィ」
32 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:01:24.75 ID:Lud+ZHkk0

私たちは階段を登り始める。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「──……ぜぇ……はぁ……も、もう……無理……脚、上がらない……」
 「ガゥ?」

しずく「はぁ……なんかこうなる気はしてたんだよね……。はい、お水」


しばらく登っていくと、かすみちゃんがへばっていたので、階段に腰かけて一旦休憩になった。

ゾロアはまだ物足りないみたいだけど……。


歩夢「見て、侑ちゃん……! 見渡す限り雲しか見えないよ!」

 「イブィ〜〜…!!!」
侑「うん……! 本当に雲海のド真ん中にいるみたいだ……!」


まさに見渡す限り雲の海しか見えない。


しずく「もう完全に雲の上ということですね……」

リナ『カーテンクリフの頂上が、だいたいグレイブマウンテンの頂上と同じくらいの標高って言われてる。だから、クリフの頂上から伸びてるこの先の祭壇は、オトノキ地方で一番高い場所って言われてるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「へー……でも、こんな高い場所に、こんな長い階段どうやって作ったんですかね……?」


かすみちゃんが尤もな疑問を口にする。


しずく「それは今でも謎って言われてるみたいだよ。この石段はカーテンクリフの鉱物と違うから、下から切り出した石材って言われてるけど……」

かすみ「え……? 下からここまで運んできたの?」

リナ『だから謎って言われてる。どうやってこれだけの石材を運んだのかって』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「だから、宇宙人が作った〜とか、神様が作った〜とか言われてるんだよね」

しずく「ですね」

侑「まあ、確かに……これだけのものを、この高さに作ったなんて言われても、信じられないもん……」
 「ブィィ…」


今登っている真っ最中だと言うのに、人が作ったものとは到底思えない……。あ……いや、ポケモンが作った可能性もあるのかな?


しずく「さて……そろそろ、休憩終わりにしようか」

かすみ「えー!? まだかすみんくたくただよぉ……」

しずく「でも、登っている最中に夜になっちゃったら、階段で野宿だよ?」

かすみ「そ、それは嫌かも……。わかったよぉ……登ればいいんでしょぉ……」
 「ガゥガゥ…♪」

しずく「ほら、頑張って」


しずくちゃんがかすみちゃんの背中を押しながら、登っていく。

そのとき、ふと──私の上に一瞬、影が差した。
33 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:08:39.99 ID:Lud+ZHkk0

侑「ん……?」
 「ブイ?」

歩夢「侑ちゃん? どうかしたの?」

侑「あ、いや……今何かが上を通り過ぎたような……?」

歩夢「え?」

侑「大型の鳥ポケモンかな……? まあ、いいや。行こう」

歩夢「あ、うん」





    🎹    🎹    🎹





──階段を登り続けること30分ほど。


かすみ「あー!! 見て、しず子!! 頂上!! 頂上だよ!!」

しずく「本当だ……!」


かすみちゃんが言うとおり、視界の先に階段の切れ目が見える。


歩夢「あの先が、頂上の祭壇になってるんだね……」

侑「歩夢、大丈夫?」

歩夢「ちょっと疲れたけど……あとちょっとだから平気♪」

侑「そっか、もう少し頑張ろう」

歩夢「うん♪」


最後の一息だと思って、歩き出したそのとき、


かすみ「……あれ?」


かすみちゃんが何かに気付く。


しずく「どうかしたの?」

かすみ「……あそこにいるの……人じゃない……?」

侑「え?」


言われて、私も視線を階段の上の方に上げると──確かに人影が2つ見えた。見えた、けど……。


しずく「あの人たち、倒れていませんか……!?」


遠くてわかりづらいけど、その人たちはまるで階段に倒れているように見えた。


歩夢「た、大変……!」

かすみ「登ってる最中に体調を崩しちゃったのかもしれないですよ……!」

侑「行こう!! 助けなきゃ!!」


私たちは、倒れている人たちのところへと大急ぎで駆け出し、近付いていく。

近付いて、
34 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:09:28.10 ID:Lud+ZHkk0

侑「……え?」

歩夢「あ、あの人たちって……!?」


歩夢とほぼ同時に、その人に気付いた。


しずく「ま、待ってください……あの人たちって……!!」

かすみ「──彼方先輩とはる子じゃない……!?」


しずくちゃんとかすみちゃんも、私たちと同じように驚きの声をあげる。

私たちは、階段を一段飛ばしで、彼方さんたちのもとへと駆け寄る最中──頂上からドォンッ!!! と大きな爆発音がして、階段が揺れる。


かすみ「わ、わぁぁぁ!!?」

侑「な、なに!?」


いや、爆発もだけど──まずは彼方さんたちを助けるのが先……!


遥「──いや、いやぁ……っ……!!」

彼方「──遥ちゃん……だい、じょうぶだから……っ……!」

侑「彼方さんっ!!」

彼方「ゆう……ちゃん……? みんな……? どうして、ここに……」


彼方さんは私を見て、心底驚いたように目を見開く。

ただ、彼方さんは見るからに顔色が悪く、顔面蒼白で、じっとりと掻いた脂汗が額に浮かんでいるのが、すぐにわかるほどだった。

でも──それ以上に、


遥「──……ごめんなさい……っ……ごめんなさい……っ……」


遥ちゃんの様子がおかしかった。ガタガタと震え、ぽろぽろと涙を流しながら、しきりに謝罪の言葉を呟いている。

彼方さんは、そんな遥ちゃんを抱きしめたまま、姉妹揃って階段に倒れている状態だった。


しずく「お二人とも、大丈夫ですか!?」

歩夢「どこか痛むんですか……!? 応急セットを今出すので……!」
 「シャボ」


歩夢が動くよりも早く、起き出したサスケがもうすでに、歩夢のバッグから応急セットを取り出して、歩夢の手元に運んでいた。

さすがの緊急事態にサスケも寝ている場合じゃないことに気付いたのだろう。

でも、彼方さんは、小さく首を振る。


彼方「わたし、よりも……千歌、ちゃんが……」

しずく「え……?」

侑「千歌さんが……!?」


その直後──バヂバヂバヂ!!! と強烈な稲妻が放射されて、雷轟と共に、空が白く光る。


かすみ「わひゃぁぁぁぁ!!?」

リナ『強烈なでんきタイプのエネルギーを感知!! 上で戦闘が起こってる!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


何が起きているのかわからない。だけど──上で千歌さんが何者かと戦っていることだけはすぐに理解出来た。
35 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:10:01.73 ID:Lud+ZHkk0

侑「歩夢はここで二人を診てあげて!! 行くよ、イーブイ!!」
 「ブイッ!!!」

リナ『私も行く!!』 || ˋ ᨈ ˊ ||

歩夢「え!? 侑ちゃん!? リナちゃん!?」


私はイーブイと一緒に、彼方さんの横をすり抜けて駆け出す。


かすみ「かすみんも行きます!!」

しずく「わ、私も……!」

かすみ「ダメ!! しず子はそこで待ってて!!」

しずく「で、でも……!!」

かすみ「危ないから来ちゃダメ!! 絶対だからね!! 行くよ、ゾロア!!」
 「ガゥッ!!!!」

しずく「かすみさん!!」


かすみちゃんと二人で階段を駆け上がって頂上の祭壇へと出ると──


侑「え……」


そこには千歌さんがいた。ただ──気を失い、ぐったりとした状態で……だ。

そして、そんな気を失った千歌さんを──せつ菜ちゃんが、引き摺り起こして、背負おうとしているところだった。


侑「──せつ菜ちゃん、何してるの……!?」


私は思わず、声を張り上げた。

せつ菜ちゃんは私の声に気付いて、ゆっくりとこちらを振り返る。


せつ菜「……侑さん」

侑「せつ菜ちゃん……何、してるの……?」


彼方さんは、千歌さんが危ないと言っていた。そんな千歌さんは、


リナ『お、大怪我してる……! 早く治療しないと……!?』 || ? ᆷ ! ||

かすみ「……ひ、酷い……」


かすみちゃんが口元を覆いながら、そう言葉にしてしまうくらい、ボロボロだった。身体のあちこちに切り傷があり、血が滲み、服はところどころが焼け焦げている。

そして、そんな彼女を乱暴に引き摺り起こそうとしているのは……。

信じたくない。信じたくないけど、こんなのどう見ても──


侑「せつ菜ちゃんが……やったの……?」


せつ菜ちゃんがやったとしか思えなかった。


せつ菜「…………」

侑「せつ菜ちゃん、答えて!!」


私が前に一歩踏み出した瞬間、


かすみ「侑先輩!! 危ないっ!!」

侑「っ!?」
36 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:10:41.66 ID:Lud+ZHkk0

かすみちゃんに押し倒される形で、前に倒れこむ──と同時に、私の頭の上を火の玉が通過していった。

ハッとして顔を上げると──せつ菜ちゃんの奥に、もう一人いることにやっと気付く。

モデルのような長身に、ウルフカットの青髪……確かあの人は……。


侑「果林、さん……?」

リナ『二人とも、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、うん……」

かすみ「ちょっとぉ!! 危ないじゃないですか!? どういうつもりですか!!」


果林さんの横には、キュウコンの姿。おそらく今の火の玉はあのキュウコンの攻撃だ。


果林「せつ菜、行きなさい」

せつ菜「……はい」

かすみ「無視しないでくださいよっ!!」


せつ菜ちゃんは果林さんの言葉に頷くと、今度こそ千歌さんを背負い上げ、歩き出す。

その先には──得体の知れない、空間にあいた穴のようなものがあった。


侑「待って、せつ菜ちゃん!! どこに行くの!? 千歌さんをどうする気!?」

せつ菜「…………」


実際に見ていたわけじゃない。だけど、あんな風にボロボロになっている千歌さんを見たら──全うなバトルをした結果じゃないことなんて、見ればすぐにわかった。

せつ菜ちゃんは千歌さんを誰よりも尊敬していたことを私は知っている。なのに、せつ菜ちゃんが千歌さんをあんな風に傷つけたなんて、信じられなくて、


侑「ねぇ、なんでこんなことするの……!?」

せつ菜「…………」

侑「せつ菜ちゃん……!! 答えてよ……!!」

せつ菜「…………」

侑「……っ……──いつものせつ菜ちゃんだったら、こんなこと絶対しないじゃん……っ!!」


私は叫んでいた。

これは何かの間違いなんだって。いつもみたいに無邪気な笑顔で周りも元気にしてくれて……それでいて誰よりも頼りになる、私の憧れのせつ菜ちゃんに戻って欲しくて。

──叫んだ。

だけど、せつ菜ちゃんは──私を氷のような瞳で一瞥したあと、


せつ菜「貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……」


そう吐き捨て──空間の穴の中へと消えていった。


侑「せつ菜……ちゃん……」
 「ブィ…」

果林「ふふ、残念。貴方の声、届かなかったわね」

侑「……っ!」


私は果林さんを睨みつける。


果林「あら、怖い……招かれざる客なのに。……いいえ、この場合──開いた口へ牡丹餅……かしら?」


果林さんがそう言うのとほぼ同時に、
37 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:11:19.50 ID:Lud+ZHkk0

歩夢「侑ちゃん……!!」

侑「歩夢!?」


歩夢が階段を駆け上がってくる。


侑「下で待っててって……!!」

歩夢「火の玉が飛んでくるのが見えて、心配で…………え?」


歩夢もそこでやっと、果林さんがいることに気付く。


歩夢「なんで、こんなところに果林さんが……?」


歩夢はぽかんとする。──が、


かすみ「“ナイトバースト”!!」
 「ガゥゥゥ!!!!」


ゾロアがキュウコンに向かって攻撃を放つ。


果林「あら……“あくのはどう”で打ち消しなさい」
 「コーーーンッ!!!」


キュウコンはそれを難なく相殺してみせる。


歩夢「か、かすみちゃん……!?」

かすみ「歩夢先輩!! あの人は敵です!!」

果林「あら、酷いじゃない……前に助けてあげたのに」

かすみ「先に攻撃してきたのは、そっちじゃないですか!!」

果林「全く……こっちはやることが出来ちゃったんだから、邪魔しないで──」


そう言って、果林さんがすっと手を真上に伸ばすと、


かすみ「……んぎっ!?」
 「──ガゥ!!?」

歩夢「……えっ!?」
 「シャボ…!!」

侑「……か、身体が……!?」
 「イブィッ!?」

リナ『みんな!?』 || ? ᆷ ! ||


私たち3人とそれぞれの手持ちたちは、一斉に身体が動かせなくなる。


侑「“かな、しばり”……!?」
 「ブ、ブィ…!!!」

果林「ふふ、正解」


一気に3人同時に“かなしばり”状態にされ、動けなくなる。


リナ『侑さんたちを放して……!!』 || ˋ ᨈ ˊ ||

果林「貴方……さっきから、うるさいわね。少し黙ってて」
 「コーンッ!!!」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||


キュウコンが吐き出した“ひのこ”がリナちゃんに直撃し、吹っ飛ばされる。
38 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:11:56.43 ID:Lud+ZHkk0

侑「リナちゃん!?」

リナ『ボディ損傷──ボディ損傷──ストレージ保護のため、緊急休止モードに移行します』 || ERROR ||


リナちゃんは、地面を転がったのち、エラーメッセージを吐いて、動かなくなってしまった。


果林「とりあえず……これで、うるさいのはいなくなったわね」

歩夢「ひ、酷い……」

侑「……っ」

果林「それで……確か、あの子でいいのよね──」


果林さんがそう言いながら振り返ると──

果林さんの背後に、


 「──うん、そっちのお団子の子ね」
  「リシャン♪」


ワープでもしてきたかのように、女の子が突然現れた。


歩夢「え……」

侑「うそ……」

かすみ「今度は、誰ですか……!?」


明るい金髪をポニーテールに結った──見覚えのある女の子。


侑「愛……ちゃん……?」

愛「やっほーゆうゆ、歩夢ー♪ 久しぶりー♪」


愛ちゃんは楽しそうに笑いながら、手を振ってくる。


果林「……愛」

愛「おっと、馴れ合い禁止ってやつ? 怖い怖い」


果林さんは、愛ちゃんを一瞥して、小さく溜め息を吐いたあと、こちらにゆっくり歩いてくる。


かすみ「こ、こっちきたぁ……!」
 「ガ、ガゥゥ…!!!」

侑「ぐ、ぅ……! うご、け……!」
 「ブ、イィ…!!!」


身体を必死に動かそうとするけど、全く自由が効かない。

果林さんは、そんな私たちの目の前までやってきて──素通りした。


侑「……!?」

かすみ「え?」


私たちを無視して、果林さんは──


果林「貴方が……歩夢ね」


そう言いながら、歩夢の頬に手を添える。


歩夢「え、えぇ!?」
39 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:13:23.38 ID:Lud+ZHkk0

突然のことに歩夢が酷く動揺した声をあげる。しかも、あろうことか──


果林「すんすん……」


果林さんは、歩夢の首筋に顔を近付けて、匂いを嗅ぎ始めた。


歩夢「な、ななな、なにしてるんですかっ!?///」
 「シャーーーーッ!!!!」

果林「……よくわからないわね」

愛「あはは♪ 人間の鼻じゃ、わかんないよ」

果林「そういうものなの?」

愛「そういうもんだよ」


──二人は何の話をしてるの……?

果林さんはサスケに威嚇されているのに、無視し、


果林「まあ、いいわ。ねぇ、歩夢」


再び歩夢の頬に手を添え、顔を覗き込みながら、


果林「──私たちの仲間になってくれない?」


そんなことを言い出した。


歩夢「え……?」

侑「は……?」

かすみ「はい?」


果林さんの言葉に3人揃って固まる。……いや、もう既に固まって動けないんだけど……。


歩夢「な、なに……言ってるんですか……?」

果林「私たち、貴方の力に興味があるのよ」

歩夢「私の力……? 何の話ですか……?」

果林「貴方には──ポケモンを手懐ける特別な力があるの。それを私たちのために使ってくれないかしら?」

歩夢「え……!?」

侑「な……」

歩夢「わ、私にそんな力ありません……! だから、放してください……!」


果林さんの言葉を否定し、もがく歩夢。

だけど、


愛「いーや、あるよ」


今度は逆に、愛ちゃんが歩夢の言葉を否定する。


歩夢「あ、愛ちゃん……?」

愛「アタシたちね、さっきカリンが言った──ポケモンを手懐ける才能を持った子をずっと探してたんだよ」

歩夢「な、なに……言って……」

愛「まあ、もともとはカリンが他の人を捕まえるつもりだったんだけど……倒すならともかく、捕まえるにはあまりに強すぎてね。んで、その間アタシは地道に探してたわけ」
40 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:13:58.56 ID:Lud+ZHkk0

地道に……?


侑「……まさ、か……」

愛「そう、そのまさか。愛さん、ドッグランで張って、立ち寄るトレーナーを観察してたんだよ。んで、見つけた」

歩夢「う、そ……」

侑「それ、じゃ……あのとき、育て屋にいたのは……」

愛「ああ、いやいや、タマゴからエレズンが孵って、ラクライたちに狙われてたのはホントだよ? ちょっと、帰るのめんどいなーって」

歩夢「めんどいって……」

愛「ただね、あそこで地道に張ってた甲斐あったよね……本当にお目当ての力を持った子が現れたんだもん」

歩夢「じゃあ……私たちを……騙したの……? あのとき、言ってくれたことも……嘘、だったの……?」

愛「嘘なんかじゃないよ。だって歩夢──ちゃんと強くなってるじゃん。愛さんの見立てどおりに、ちゃんと強くなってくれた。きっとあのときよりも、ポケモンを手懐ける力も強くなってるよ♪」

歩夢「そん……な……」


歩夢が言葉を失う。

そんな歩夢に、


果林「それで、どうするの? 仲間になってくれるのかしら?」


果林さんがそう詰め寄る。


歩夢「ぜ、絶対に……なりません……」

果林「へぇ……」


果林さんは歩夢の頬から手を離しながら、冷たい目を向け──


果林「“ほのおのうず”」
 「コーーンッ!!」

歩夢「……っ!? 熱……っ!!」
 「シャーーーボッ!!!」


歩夢に向かって、“ほのおのうず”を放つ。


侑「歩夢っ!?」

かすみ「歩夢先輩!!」

果林「ほら、早くうんって言った方がいいわよ? 熱いの嫌でしょ?」

歩夢「っ゛……い、いや、です……」

果林「……」

侑「……歩夢を、放せぇぇ……!!」
 「ブ、ィィ!!!!」


動けない中……イーブイの尻尾から、タネが1個ポロリと床に落ち──直後、メキメキと音を立てながら、一気に樹に成長していく。


果林「!? 何……!?」

侑「“すくすくボンバー”ッ!!」
 「ブゥィィ!!!!」


成長しきった樹から巨大なタネを、キュウコンに向かって降らせる。


果林「ちっ……“ひのこ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」
41 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:14:29.68 ID:Lud+ZHkk0

キュウコンの尻尾にポポポッと九つ火が灯り、それがタネに向かって的確に発射される。

タネは着弾することなく、空中で焼き尽くされるが、


かすみ「と、わたた……!? あれ、動ける!?」
 「ガゥッ!!!」

侑「解除された……!!」
 「イブイッ!!!」


“かなしばり”が解除される。


愛「ありゃりゃ、技を使う拍子にキュウコンの集中が切れちゃったか」


侑「歩夢を、放せぇぇ……!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブ、イィッ!!!!!」


イーブイから放たれる電撃。


果林「“じんつうりき”」
 「コーンッ!!!」


それを念動力によって、地面に叩き落とす。


かすみ「ゾロア!! “スピードスター”!!」

果林「“かえんほうしゃ”」
 「コーーーンッ!!!!」


かすみちゃんの援護射撃も、なんなく焼き尽くし相殺する。


かすみ「侑先輩!! 二人で協力して、あの人倒しますよ!!」

侑「わかってる!!」


歩夢を目の前で傷つけられて、私は完全にトサカに来ていた。

絶対に許さない……!!


果林「はぁ……これだけ力を見せてあげても、二人なら勝てる、なんて思っちゃうのね。“れんごく”!」
 「コーーンッ!!!!」


──キュウコンから放たれた、紫色の炎が、


 「ガゥァッ!!!?」


ゾロアに直撃し、一撃で戦闘不能に追い込まれる。


かすみ「つ、つよっ!?」

侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
 「ブイィィッ!!!!」


その隙に、イーブイが泡を飛ばして攻撃する。……が、


果林「“ねっぷう”!」
 「コーーーンッ!!!!」


強烈な“ねっぷう”が吹き荒び、


 「ブィィッ!!!!?」
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